黒く、テレビだけでそして私だけ

ザー・・・ッ

耳障りな砂嵐の音

出力され、映し出された画面には何も映ってはない

それを私はじぃっと画面を見つめている

ポツンと置かれた一台の真空管テレビ

ガチャガチャ

チャンネルを回しても映るのは同じ画面

思い出したかの様に、また回す

この繰り返し

そういえば私はどれ位こうしているのだろうか

何もないこの世界

このテレビ以外は何も無い真っ黒の空間

まるで墨で塗り潰したかのような黒い世界

明るいのか暗闇なのか分からない

唯一の照明はこの真空管テレビ

砂嵐と煩い音だけしか発する

電源を消せばいい？

チャンネルダイヤルと音量以外のスイッチはないよ

今何時だろうかな？

時計もないから時間が分からない

ザー・・・ッ

音量を零まで回し、消音にしてみた

しんっと音の無い静寂に包まれる

私はこの静寂な世界に耐えられなくなり音量を上げる

また耳障りな音を発する

ここに居座るのは単にこれ以外この黒の世界に存在する異色はこれだけなのだ

黒以外の色

これだけで私は安心する

だけどずっとこのままだと飽きてくる

他の色が見たい

変わらぬ砂嵐の画面

なぜ私はこの異界にいるのだろうか

それは分からない

気が付けば私はこの黒の世界に居た

そして目の前には真空管テレビだけ

それ以外は黒

たったそれだけ

動かないのは単に怖いだけ

ここから離れて動けばこの場所に戻れない気がした

離れれば無の空間に取り残されてしまうかもしれない

だから私はここに居座る

今どれ位経ったのかは確認の術も無い

この世界はもしや私を映しだした世界なのか？

いや、私はこんな空っぽではない

一人ぼっちではないし、友人はそこそこいる

それとも私に何か身に起きてここに居るのか？

意識を失い、生死の世界なのか？

それともこれは夢か？

夢にしても長い夢だ

自分の手甲をつねってみたら、痛い

痛感もあるならこれは夢ではないか？

感覚のある夢もあるみたいのだが、わからない

なんで私はこんな所に居るのだろうか？

悪行なぞしてもないし、毎日平凡な暮らしをしていた

いや、正確には作業だな

朝起きて朝食を摂り、便意がきたらトイレへ

一日なにをするかはメモ板を見て行動し、夕食の時間になったら台所で調理

作った料理で食べ、喉が乾けば飲み物を飲み、夜になったら浴室に行って体を清める

そして明日には何をするのかメモを書いて就寝

スケジュール通りに動き、欲求がでれば満たす

プログラミングされ、その通りに動くだけの機械のように

私は無駄な思考しながら砂嵐を映す真空管テレビを見る

ぼーっとテレビを見ていたら突如テレビが私のすぐ目の前に迫った

突然の出来事に意識は覚醒し、私は驚いて後ろに後ずさった

しかし、テレビは動いてはいなかった

何なのだ今のは？

もしかして幻覚だったのだろうか？

そうだとしたら私の気は滅入ってきてるかもしれんな

こんな異界にずっと居たらその内私は狂ってしまうかもしれないな

随分と時間が経ったと思うが、空腹感が無い

喉の渇きも来ない

とうとう体もおかしくなってきたのか

目を閉じても眠っているのか起きているのか曖昧な感覚に囚われる

自分は起きているのか？

それとも起きているのか？

死のうにも死ねない

死にたいけど死ねない

自傷しようにも傷つかない

もう、分からない事ばかりだ

暇になっては横なっては目を閉じ、適当に寝る

寝るのに飽きては適当に起き、何も変わらない真空管テレビを見る

見るのを飽きたら寝る・・・その繰り返し

もやもや、もやもや

気が晴れない

曇りではなく

黒いペンキで塗られたようなべったりとしたもやもや

こんな所から出たいの出れない

一生こんな所に居るのか・・・

私は黒と同化したような気がした