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『栗取物語』 作者: くとく
「メリー、メリー、クリトリスよ!」
耳をつんざく宇佐見蓮子の子供じみた黄色い奇声にマエリベリー・ハーンは思わず耳をふさいだ。
ついでに目もふさぎたかった。
事の発端はクリスマスの晩。
メリーはその日蓮子から一つのメールを受け取っていた。
『件名:プレゼントあるから明日でいいけど討ちに来て
<このメールに本文はありません>』
幸いこの日、赤穂浪士の出陣はなかった。
どうせ氷点下いくいかないのこのクソ寒い中全裸にリボンだけ巻いて「プレゼントは私(はぁと)」とかやるんだろあのドアホめ、と安直な邪推と共にメリーは蓮子の寮を訪れたのがその翌日、メリーが奇声に耳を塞ぐ数分前のことである。
無論、彼女を待っていたのが裸リボンではなかったことがお分かりいただけるだろう。
ペンキの剥げたドアの先、蓮子の四畳一間あるなしといった狭い部屋のいたるところに、薄いピンクのクリトリス。
壁一面にかけられた、アフリカのシャーマンが使っていそうな木彫りの面(蓮子の趣味)に混ざってクリトリス。
テレビの横においてある、アメリカンなギットギトのぶすカワ笑顔をふりまくふわふわピンクのウサちゃん人形(蓮子の趣味)の額に仏を連想させるがごとくクリトリス。
ご丁寧に秘封倶楽部結成記念旅行に行った際の記念写真にすら、三人目の秘封倶楽部ですと言わんばかりにクリトリス。
クリトリス無双、いや、クリトリスパーティーであった。
クリトリスをぶちまけたとしか形容しようがないクリトリスだった。
「ねえ、ほら、みて、クリトリス」
「だからなんだっていうの、ただのクリトリスじゃない」
メリーはニタニタ笑う蓮子を横目にブーツを脱いで部屋にあがると、コートも脱がずにつかつかと壁に歩み寄って密集したクリトリスの一つを睨みつけた。
まだ皮の向けてない初々しいクリトリスである。
「これ、ホンモノなの」
蓮子に聞こえるように吐き捨てた後、メリーは指でクリトリスを荒っぽく弾いた。
「ひゃっ」
蓮子が嬌声をあげた。
まさか、とメリーは思わず苦虫を潰した顔になる。
数々の怪異に立ち向かう(つもりだったが結局酒と珍味にしか立ち向かってない)我らが秘封倶楽部が、何の因果でこんなしょうもないエロゲーめいた現象に直面しているのか。
試しに指で擦りあげてみると、指の動きに連動して後ろから蓮子の甘ったるい鼻声が聞こえる。
壁一面のだらしねぇ陰核の群れも秋の山の装いを真似るがごとく一様に真っ赤に染まりきっている。
鼻先で物欲しげにピクピク痙攣するクリトリスはねだるようにその存在を大きく前に突き出していた。
アホくさ。
メリーは素直にそう思った。あらゆる男の下心を跳ね除けてきたマエリベリー・ハーンもそこまでガチガチのレズ思考の持ち主ではなかった。
何が楽しくて友人のクリトリスをはじかにゃいかんのだ。
ちんこをもってこいちんこを。
ちんこならまだ何か色々使えるだろう。
あーあ壁一面にちんこが生えていたら二本もぎ取って太鼓の達人しにいくのに。
ドンガドンガ。ドンガドンガ。
ケツドラムの達人。
ドンガドンガ。ドンガドンガ。
フルコンボだドン。やったドン。もう一曲遊べるドン。
ドンガドンガ。ドンガドンガ。
「ハァアアーーーーーーー!!!!!里ッォオオオオのォオオオーーーーー!!!!雪ィイイイイはぁああああーーーー!!!!」
思考放棄。
メリーはさながらクリリンを嬲り殺しにされた孫悟空であった。
「ヨメゴォオオオオオオオオオオーーーーー!!!!!!」
助走も十分に、勢いよく床を蹴る。
流矢のようにメリーの足が玄関先にいる蓮子のアヘ顔にめりこみ。
アヘ顔飛び蹴られダブルピース。
かの英雄アレクサンダーが窮地で発明したという幻のフォーメーションが完成した。
「メリーなにするの!酷いじゃないの!」
「酷いのはどっちよ!!!」
「お楽しみはこれからなのに!」
「こちとら興ざめじゃボケ!!クリオナでもしてろ!!メリークリオナス!!」
横面を張られ床に崩れ落ちた熟年妻のようなセクシー座り流しポーズをキメる蓮子に罵声を浴びせてメリーは宇佐見邸を後にした。
出て行く際、蓮子がスカートをたくしあげ股間をまさぐってたいたように見えたのは気のせいだと思いたい。
「ふう」
数十分後。メリーは自宅に帰ってきていた。
「何だったのかしらあれは。きっとクリスマスに成田離婚したカップルの怨念ね。そうだわ、そうに違いない。だって今日は26日だし。そういう時差ぐらいあるわよね、うん」
うう寒い、と一人ごちながら玄関に上がり、すぐ脇にあるトイレに入る。
スカートとストッキングをずらし、便座あたためのない陶器の冷たさに尻の肉を震わせながら、少し前かがみになって下腹部に力を入れると、少しわだかまった不快感の後、とぽとぽ音を立てて溜まった水が放出され始めた。
一通りの量を出し終え、微かなアンモニア臭を確かめた後、備え付けの紙を巻き取って後処理をしようとしたその時。
マエリベリー・ハーンは違和感に気づいた。
恐る恐る股座を覗き込む。
予感は的中した。
クリトリスがなかった。
シーズンオフになってから思いつくシーズンものの売れ残り感をもっと大切にしていきたいと思います。
くとく
- 作品情報
- 作品集:
- 29
- 投稿日時:
- 2011/12/26 12:06:43
- 更新日時:
- 2011/12/26 21:06:43
- 分類
- 秘封倶楽部
サンタさんにでもおねだりしな!!
間違っても相方には相談するなよ。
それと引き換えに、何か大事なモノを失うから。