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『ファラリスの雄牛』 作者: 夕月
「なんなのこれ!!レミリア!!」
牛の中から霊夢の叫びが聞こえる。
牛のどてっ腹から複雑な形をした管を通って聞こえる声はどこかくぐもって聞こえた。
「どういう事って……。」
「何よ!!さっきまで一緒にお茶飲んでたじゃない!」
「あ、そうだったわね。」
ぎゃんぎゃんと騒がしい小娘の声が牛から聞こえてくる。
ふふ、でももうじき、この耳障りな声も素敵な悲鳴へと変わるわ。
霊夢のあげる盛大な悲鳴を思い浮かべ、レミリアはふるると身体を震わせた。
「ねぇ、霊夢。あなたが今入っているソレ、なんだかわかるかしら?」
「しっ、知らないわよ!!」
「それね、腹の中に居るあなたにはわからないでしょうけど、雄牛の形をしているの。
”ファラリスの雄牛”よ。うふふ、特注品なの。居心地はどう?」
「出して!!出しなさいよ!!」
まともな返答が何一つ帰ってこない事に苛立ち、
「――――霊夢。」
がぎぃぃいぃいん
立てかけてあった鉄の棒でファラリスの雄牛の横っ腹を殴った。
「―――――っ、ぅ…あ……!!」
鉄と鉄をぶつける時に響く不快な音、鉄に囲まれている霊夢にはかなりきついはずだ。
「ねぇ、ねぇねぇ霊夢。私の声が聞こえてる?」
「あ゛――――う…ぅぅ……。」
まだ中で何か呻いている。
「霊夢……れーいむ!」
がぎぃぃいいいぃぃいいぃいいん
今度はさっきよりも力を込めて殴ってみた。
全力は決して出さない。そうすると鉄棒が折れるか、雄牛の方がダメになってしまうからだ。
「う――、―――ぃ――ぅぁぁぁ、……ああう……。ぎ……こ、…えでぇ…、……る…。」
鉄の音にまじってかすかに聞こえる霊夢のうめき声と言葉。
「そ。よかったわ。」
がぎぃぃぃぃいいぃいぃいん!!!
「あっ、―――ぃ――あぁぁ――、ぅ。」
「……あっ、しまった。」
鉄棒が曲がっている。少し力を込めすぎただろうか。
「ま、いっか。もういらないもの。」
鉄棒を床に投げ捨て、咲夜に合図を送る。
「……ねぇ、霊夢。どうして自分がこうなってるか分かる?」
「……わかるわけないでしょ。」
「―――。………そう、よね。」
こつん。雄牛に小さなこぶしを当てる。
「全部、全部全部あなたが悪いの。あなたが、あなたが私以外を見るから……私を、裏切るから……。」
こん。こつんこつん。こん。こんこんこんこんこん。ごん。ごつんごつんごつん。
「どうして………いつも私を通り越した誰かを見るの。……どうして、どうして……。」
ごんごんごんごんごんごんごんごんごんごんごんごんごんごん。
「なに………なんでよ、なんなの……。」
「れっ……みぃあ……、やめ…っ…!」
ごん!ごんごんごんごん!!!ごん!!
「なんなのよ……なんなのよ一体!!」
がごん!!!
「お嬢様。」
雄牛を殴りつけた時、タイミング良く咲夜がやってきた。
そして、深々と礼をする。
「お嬢様、火の用意ができましたわ。いつでもできます。」
「わかったわ。今やって頂戴。」
「畏まりました。」
咲夜は雄牛に近づき、ちょうど牛の乳を搾るように牛の腹を覗き込んだ。
牛のぽってりとした腹までもが緻密に再現されている。
膨らんだ牛の腹の下に薪をくべた。
「霊夢。その中は寒い?暑い?」
「………暑いわ。とっても。」
「そう。」
それを聞き、レミリアの顔が狂喜に歪む。
「今からもっともっと熱くしてあげる。愉しんでね。」
火を放つ。
ぱちぱちぱちと火が爆ぜながら少しづつ広がり、大きくなる。
「………え、……は、…え?」
火が爆ぜる音が聞こえたのだろう、霊夢のとぼけた声が聞こえてきた。
真っ暗な牛の腹の中で霊夢が目を白黒させる様子が浮かぶ。
そんな事をしていられるのも今のうちよ。
「あ―――――。あ、あ、あ、あ、あ、あああああああああああっ!!!!」
ほら、きた。
普通の人間ならば聞き取れない叫びも、吸血鬼の鋭敏な聴覚によって聞こえてくる。
美しく、愛らしい霊夢の、ひどく汚く醜い叫び―――――。
「熱いぃぃいいいぃいいいい!!熱いよぉおぉおお!!!うぁぁああぁぁぁぁあ!!」
中で暴れているのか、がたんばたんと音がする。
「出して出して出して出して出じでえぇぇぇぇ!!!熱い!!熱いよぉおっぉお!!
い゛やあっぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁああ………げふっ、ごほっ!!」
悲鳴は途中で途切れ、代わりに激しくせき込む乾いた音がした。
「オッ、ェがっ、は……はぐっ、げほごほごほっ!!」
熱風が気管を焼いているのだろう。
「ぐ……っ、…あ、づ……ぃ…ぎぃあがあががあぁっぁぁ……っ、げはぁぁぁ!!」
こひゅー、ふひゅーと牛の口から空気の漏れ出る音がする。
複雑な形の管はこのためでもある。呼吸を、空気を確保するため。
もう一つは―――――。
ヴォオオオォオオオオオォオオオォオォオォォォォォォォォオォオン
「……素敵。素敵よ…霊夢……。」
霊夢の壮絶な悲鳴は、雄牛が上げる雄叫びのようになっていた。
そう、この雄牛は処刑器具でもあり、人々を悦ばせる楽器でもあるのだ。
中であげる悲鳴は真鍮でできた複雑な管を通り、反響によって雄牛の上げる美しい叫びへと変わる。
それを奏でているのが愛しい霊夢となれば―――、なんて素敵なの!!
「あはははははっ、霊夢!!霊夢!!いいわ、すっごくいいわよ!!素敵!!
あっははははははははっ!!!」
「うあぁぁああがぁぁあぁあがっ!!ゲホォッ!!オ゛、ぁぁえっぇぇえぇぇ!!」
ヴォォォォォォオオオオオオォォオオ………。
肉の焦げる香りと、鉄の焼ける香りがただよってきた。
「え゛……な゛に、ごれぇぇぇ!!!」
霊夢はそんな声とともにより一層中で暴れた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!わ゛だじのぐち゛がぁぁぁぁぁぁああぁぁ!!」
「あら。もしかしてあなた、真鍮で出来た管にずっと口をつけていた?」
熱によって溶けた真鍮が霊夢の口にべっとりとくっついたのだ。
想像を絶する痛みだろう。
「ぎぃぃいいいぃううぃうぅぅぅぅうぅぅいううぅうぅぅう!!!」
ヴォオオオォオオオオオオオォオオオォオオオオオン
ぶるぶると鼓膜を震わせる雄牛の叫び。吸血鬼の聴覚でもっても聞きとりにくくなった霊夢の悲鳴。
愛しい愛しい霊夢の悲鳴。
「はぁっ………霊夢…!れいむ……!」
レミリアは自分の身体が興奮するのがわかった。
頬が火照り、息が荒くなる。
自らの身体を抱きしめ、レミリアはその場にしゃがみこんだ。
全身を駆け巡る快感を味わっているうちに、いつの間にか火は消え、叫びも悲鳴も聞こえなくなっていた。
―――――――――――――――――――――――――
「………綺麗よ、霊夢。」
雄牛の背を開け、中をのぞくと真っ黒な何かが牛の腹にこびりつき、その間にちらちらと白い何かが光っていた。
霊夢の骨だ。
「……愛してるわ……霊夢……。」
骨の一つ一つを丁寧に拾い上げ、愛おしそうに胸へと押し付けた。
「咲夜。”この霊夢”を私のネックレスにして。」
「御意。」
傍に控えていた咲夜は、その言葉に頭を下げ、霊夢の骨を受け取って去っていった。
「霊夢ぅ………これからはずっといっしょよ………。」
―――――――――――――――――――――――――
からからと乾いた音を立てる霊夢の骨は、レミリアの首元で揺れている。
時折骨をつぅとなぞり、満足げな笑みをこぼす。
「失礼します、お嬢様。」
咲夜が入ってきた。
ことりといい香りの紅茶を置く。
「ありがとう、咲夜。」
いつもならばそこで、礼をして去っていくはずの咲夜が今日はじっと立っていた。
不思議に思いつつも紅茶を一口すする。
「美味しいわ。……おい、しい。」
猛烈な眠気。
「……さく、…や…?」
眠気に支配されつつある意識の中で、ようやく紅茶に何か入れられた事に気づく。
咲夜の顔が上半分、身体が下半分見えない。
その口元が優しく微笑んでいた。
「おやすみなさいませ、お嬢様。」
ばたり。
―――――――――――――――
咲夜は、笑みを浮かべながら雄牛の前でじっと立っていた。
お嬢様。愛してやまない、尊敬してやまないレミリアお嬢様。
もうじき目を覚ますのでしょう。
そして私の耳に素晴らしい演奏を聞かせてくれるのでしょう。
お嬢様の悲鳴による、雄牛の雄叫びを。
「……お嬢様、愛していますわ。」
私はこんなにもお嬢様を愛しているのに、どうしてお嬢様は私ではなく霊夢などに目を向けたのでしょうか。
私の方がずっとながくお嬢様のおそばにいたのに、どうしてひょこりと出てきたあんな女へ恋焦がれたのでしょう。
お嬢様。愛してやまない、憎くて堪らないお嬢様。
ゆっくりと雄牛へ近づき、深々と礼をする。
「火の用意ができましたわ。いつでもやれます。」
お久しぶりです、夕月です。
久しぶりにかいたんでキャラが崩壊してるかもしれないです。
誤字脱字あるかもしれません。
こんな感じの道具が昔ありましたよっていう動画見つけたので。
次回は未定です。
夕月
作品情報
作品集:
30
投稿日時:
2012/07/09 13:34:06
更新日時:
2012/07/09 22:34:06
分類
咲夜
レミリア
霊夢
グロ
こういう拷問道具ありましたね。
愛ゆえのシンプルな拷問。否、処刑。
そして、その呪いは連鎖する……。
咲夜さん、毒でもって毒を制してますねえ……うんうんナイス主従。
次、誰に連鎖するのかは想像にお任せします。
常軌を逸した愛情の恐ろしさを表現できていればと思います。
>2さん
気取らぬ本能のままの姿ほど綺麗なものはないんでしょうね。
>3さん
その毒の根源が両方とも愛情なんですよね。
ありがとうございます。
>4さん
いえ、牛の中での悲鳴が反響して聞こえるものです。
パイプはそれを外に伝える役と、空気を吸う役を兼ねているそうです。
わかりにくくてすみません!
案外咲夜だったり
もしも霊夢が見ていたのが咲夜さんだとしたら複雑な流れですね