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『小指の痛み』 作者: タキガワ

小指の痛み

作品集: 30 投稿日時: 2012/08/11 14:27:01 更新日時: 2012/08/11 23:27:01
「んぁっ・・・いたっ・・・」



霊夢は左足の小指の痛みで目を覚ました。

いつもの枕の匂い、布団の肌触り、見慣れた窓の格子。

窓から入ってくる日差しが眩しい。



「朝か」



つぶやいても返事は無い。いつもと変わらない朝の部屋。

ただ違うのはひどく寝汗をかいていること、そして足の小指の痛み。

悪夢でも見ていたのだろうか。ひどい疲労を感じて起き上がる気になれない。

なんだか熱っぽいような気もする。

もうひと眠りしようか。そう思った時、カタカタ、扉が開いた。



「あら、おはよう。起きたのね。」



そういって部屋に入ってきたアリスは口元に薄い微笑を浮かべていた。

体のひどいだるさのせいで、何故彼女がここにいるのか考えもしなかった。



「ちょっと、体がだるくて、起き上がれないの。熱もあるみたいだし・・・」



「大丈夫?朝ご飯出来たんだけど・・」



心配そうな声色だが、アリスはなんだか嬉しそうだ。



「そうだ、ここへ持ってきて私が食べさせてあげる」



そういって彼女は身を翻し、部屋を出て行った。

ズキン。また左足の小指に痛みが走る。

まるでそこに心臓があるかのように脈打ち、意識すればするほど痛みは増していく。

さすって痛みをごまかそうとしたが、寝たままでは手が届かない。

なんとか体を起こそうとしたが、そうすると痛みが強くなる。

アリスが戻ってきたら、さすってもらおう。



「あぁ…早く戻ってきて、アリス」



「あら?どうしたの?呼んだ?」



思いが届いたのか、ちょうどアリスが戻ってきた。

手に持ったお盆の上には食事がのっている。



「あの、左足の小指が痛くて」



「じゃぁご飯食べましょうか。あら、本当に熱があるみたいね」



彼女は霊夢の言葉を遮り、額を合わせてそう言った。

唇が触れ合うほどの距離、官能的な吐息、うるんだ瞳。

一直線に見つめるアリスに、霊夢はなんだか照れてしまって、思わず首を縦に振る。



「でも、ちょっと食欲がなくて…」



「食べないとだめよ。体に良くないもの。食べてお薬だって飲まないとね」



「うん、でも…」



「ほら私が食べさせてあげるから、はい、あ〜んして」



少し抵抗したが、それも意味のないことだと悟り、彼女の伸ばしてきた箸に口を開く。



「あん・・・」



口にしたそれは、大豆ほどの大きさで、煮た豆、または鶏肉に似ていたが

今までに食べたことのないものだった。



「どう、おいしい?」



「これ、何?お豆?それとも何かのお肉?」



「さ、もう一口」



アリスは質問に答えない。今度は霊夢も首を横に振る。



「そ、じゃぁもういいわね」



アリスは少し怒ったような声をしていたが、口元はやはり笑っている。

霊夢は、アリスを怒らせてしまったかと不安になったが頼んでみる。



「私、左足の小指が痛いの。さすってもらえないかしら」



「あら、もちらんいいわよ、でも」



そう言いながら彼女はゆっくり布団をめくる。



「っ・・・」



霊夢は声にならない悲鳴をあげた。

そして彼女は続ける。



「でも・・・ないじゃないの、あなたの小指。ないものはさすれない、でしょ?」



ふふふ、とアリスは笑って霊夢の左足に目をやる。

布団の赤く染まったところには、霊夢の普段より少し青白い左足があった。

でもあるはずのものが、そこにあって欲しいものがない。

わ、私の小指・・・そういったつもりが声にならなかった。

全身が小刻みに震えて、なかなか声を出せない。



「ど、どこ・・・どこに・・・わ、私の小指・・・」



やっと声になったのはその言葉だった。

アリスはその言葉を待っていたとばかりに、笑みを浮かべる。



「あなたの小指、もうないわよ。だって…」



「え・・・」



「だって食べちゃったじゃない。あなた」



その言葉を聞いたとたん目頭が熱くなり、頭の奥はズキンズキンと波打つ。

胸の奥から熱いものがこみあげてくる。



「ん・・んぐぅっ・・・・げほっげほっげほっ・・・げぼぉっ・・・」



布団の上に吐きだされた唾液、胃液、それらにまみれた肉の塊らしきもの。

霊夢にはそれが自分の小指であると分かった。



「げぇっ・・・げっぼぉっ・・・」



それ以上はいくら吐こうとしても、もう何も出てこない。



涙でぼやける視界の中に自分の左足を見つける。

小指があった場所には、赤いものが固まりかけていて、じゅくじゅくとした黄色い汁が湧き出ている。

そしてそこからまるで生まれるかのように小さな白いものが、いくつもうごめいていて、這い出てくる。





もう声も出ない、視点も定まらない。

心臓も、頭も、胸も、そして内は時の左足の小指も・・・すべてが脈打っている気がする。

遠のいていく意識の中で、霊夢はアリスの声を聞いた。



「ねぇ、次はどの指を食べたいかしら」
常日頃、小指の肉って美味しそうだなぁって思ってます。
タキガワ
作品情報
作品集:
30
投稿日時:
2012/08/11 14:27:01
更新日時:
2012/08/11 23:27:01
1. 名無し ■2012/08/12 01:05:33
ほら、小さい子って手の親指をしゃぶりますよね。

つまり次食べる指は…?
2. 名無し ■2012/08/12 02:31:35
タンスの角に指ぶつける話と同じレベルで食べさせられても困りますよ ご冗談でしょうアリスさん
3. 名無し ■2012/08/15 01:12:55
小指を喰わせる動機がまるで見えない分
よくあるヤンデレの復讐より圧倒的に怖いなこのアリスは…
4. 名無し ■2012/08/15 10:05:13
霊アリいいね
しかもアリスが加害者
5. ぽちぽちぽーち ■2012/08/19 21:56:33
足臭いから指食べる気は起きませんね、霊夢の指ならどれでも美味しく頂きましょう。
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