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『「産廃百物語B」 上白沢慧音の人間検定』 作者: 木質
里の路地裏を、男が血相を変えて走っている。
「どこへ逃げる。そっちは行き止まりだぞ?」
恐怖心から来る冷や汗に濡れた男の背中に、そんな声が掛かった。
「ひっ」
浴びせられた声に男は慌てて振り向いた、その行動がいけなかった。
偶然置かれていたバケツに足を引っ掛けバランスを崩し、その場で転んでしまった。
「だから言ったろう? そっちは行き止まりだと。お前の生涯にとっての」
無様に伏せる男に、女は緩やかな足取りで近づく。
「殺した妻の死体を妖怪に喰わせて、妖怪に殺されたように偽装する。子供の頃、足し算もロクに出来なかったお前にしては良く考えたじゃないか」
「ゆ、許してくれよ慧音先生!」
逃げられないと観念したのか男は膝をつき、両手を組んで自分を追いかけてきた女、上白沢慧音の方を向いた。
「魔がさしちまったんです! 博打で金をスったのをドヤされて、それでついカッとなって、自棄酒して酔ってたこともあって・・・」
「認めるんだな。妻を手にかけた事を」
懺悔する男の喉元に、白魚のような白く美しい手が触れる。
嫌な予感が脳裏を掠め、男は震え上がり、取り乱した。
「ま、まさか俺を殺すなんてことっ!?」
「私は何があっても人間を手に掛けない。そう誓った」
「ほっ」
自分を自警団に引き渡すのだとわかり、露骨に安堵の息を漏らした。
「ただ・・・」
慧音の指が男の指に食い込む。
「え? あっ?」
「お前は人間じゃない」
万力のような力で、男の喉仏を引き千切った。
「人の皮を被ったケダモノめ、死んで当然だ」
喉仏を路地裏の隅に投げ捨て、跪いたまま固まっている死体を蹴倒した。
背中から地面についた死体は、血を喉の傷穴から零し始めた。
【 上白沢慧音の人間検定 】
早朝、風に運ばれて来た鉄の香りで目を覚ます。
半人半獣故に、彼女は普通の人間よりも敏感な嗅覚を持っていた。
臭いは里の外れからだった。手早く着替えて、外へ出る。
里の外れにある、今はもう誰も住んでいない、瓦礫一歩手前のあばら家の前で足を止めた。そこが臭いの発生源だった。
あばら家の壁には落書きがされていた。真っ赤な“塗料”が壁を蹂躙していた。
壁には、人間の内臓、皮膚、手足、首が一定の間隔を空け、五寸釘によって貼り付けられていた。
きっと、パーツを上手に繋ぎ合わせれば被害者の生前の姿を復元できるだろう。
「・・・畜生」
割れんばかりの力で奥歯を噛み締め、強く握った拳から血が滴る。
被害者は慧音の寺子屋に通う女子生徒だった。
しばらくして里の自警団が集まり、現場検証が始まると、慧音はその場を離れる。
出来る事なら慧音もその場に残り検証を手伝いたかったが、彼女は自警団には所属していないため、それは憚られた。
ある理由から、自警団は慧音の介入を快く思っていなかった。
現場を離れたその足で、彼女は博麗神社へと向かう。
「いらっしゃい」
「珍しいな、巫女が掃き掃除をしているなんて」
石段を登り、飛び込んできた光景をそのまま口にした。
「それくらいやるわよ。で、何の用?」
「また私の生徒が死んだ。壁画アートの材料にされたよ。五体をバラバラにされて壁に飾られた」
「それは気の毒に」
ずいっと、箒を手にする霊夢に詰め寄る。
「いい加減動いてもらうぞ博麗の巫女よ。お前の勘が必要だ」
「残念だけど。異変でない限り、私は動けないわ」
「その言葉はもう聞き飽きた」
乱暴に霊夢の胸倉を掴み、自身の方へ引き寄せていた。
「これで四人だ。このたった半月で、二人の生徒が事故死。二人の生徒がサイコ野郎の餌食だ。これを異変と呼ばなくてなんと呼ぶ」
「幻想郷の危機に繋がるのが異変よ。ただの殺人程度じゃ動けないわ」
「なら報酬を渡す。それなら文句は無いだろ」
「私が里から請け負えるのは妖怪退治だけよ。犯人が人間か妖怪かもわからない今の状況じゃ・・・」
力任せに霊夢を突き飛ばした。霊夢は石畳の上に尻餅をつき、顔を一瞬だけしかめた。
「邪魔したな。お前と違って忙しい身なんでこれで失礼する」
「せっかく来たなら賽銭くらい入れて行きなさい」
片目を閉じ、腰を摩りながら霊夢は呟く。
「傍観者気取りの神に貢いでやるモノは生憎と、今の私のポケットには入っていない」
振り返ることなく、慧音はその場の後にした。
神社の石段を下った時だった。ソレは突然現れた。
「はぁい。御機嫌よう。里の守護者さん」
目の前の空間が裂け、そこから一人の女性が顔を覗かせた。
「さっき巫女を突き飛ばしたことへの報復か?」
「あらまぁ、霊夢に手をあげたの? 相変わらずバイオレンスね。でも今日は別の用件よ。ここ最近里で起きてる二件の事故死と二件の猟奇殺人について、貴女に言いたい事があって」
「何か情報でもくれるのか?」
「違うわ。今回の一件、深入りするのは止めなさい。そう忠告しに来たの」
それはまるで子供を諭すような口調だった。
「なんだと?」
「あまり詳しいことは教えられないけれど、この騒ぎはいわば『神の見えざる手』なの。だから犯人探しをしても無駄よ」
「面白い冗談だな。いつから妖怪の賢者様はシリアルキラーを神様と崇めるようになったんだ?」
「手を引くよう、確かに伝えたから。あんまりしつこいと身の安全は保障しかねますわよ」
徐々に隙間が縮小を始め、紫の姿を隠していく。
「この一件は貴女如きでは手に負えないわ。終わるまで大人しくしていなさい」
「待て。そっちの話は終わったかもしれないがこっちの話はまだ・・・」
そこで完全に隙間は閉じられた。
八雲紫からの忠告を受けた慧音は、向かう方向を里から迷いの竹林へと変えていた。
景色の似通った迷路のような道を迷うことなく進んでいく。
しばらく歩くと、ひと目で手作りだとわかる造りの小屋が見えてきた。
「妹紅さんいらっしゃいますか? 私です、上白沢慧音です」
「ああ、いらっしゃい。上がりなよ」
返事の後、扉代わりに垂れ下がるゴザが捲られて、そこから長い白髪の少女が顔を覗かせた。
「今日また一人、うちの寺子屋を永久に欠席する生徒が出ました」
「そう・・・・・・ごめんね。力不足で」
「妹紅さんが謝ることはありません。子供の安全を徹底できなかった、我々の落ち度です」
子供が死んだのはこれで四件目だった。
先週から寺子屋は休学となり、生徒は家族から片時も離れぬよう言いつけてあるが、やはり四六時中というのは不可能なようで、今朝のような痛ましい事件が起きてしまった。
「先ほど、巫女に調査の協力を依頼したのですが断られました」
「相変わらずのグータラね」
「そしてその帰り道に、八雲紫から釘を刺されました。調べるなと警告されました」
「私の所にも来たわ」
妹紅のもとにも、慧音がやってくる少し前に紫が訪れていたらしい。
「奴はなんと?」
「『貴女はただ静観してれば良い。これは災害のようなもの。捜査してもその努力は徒労に終わる』だって」
「ふざけている!」
声を張り上げ、床を殴った。
先ほどの紫のやりとりから我慢していたが、その言葉によって緒が切れた。
「大事な生徒が殺されて、その犯人を追うなだと!? 野放しにして、次の惨劇を待てだと!? 薬物でも摂取してるのかあの女は!!?」
「でも慧音、奴にああ言われては、こちらはもう」
「ああ知ってるさ! 人間は無力だ! あの女に逆らうことが出来ない立場という事くらいわかってる!」
この幻想郷において、人間は『文化の発展』『物品の流通』『妖怪の矜持を忘れさせぬための舞台装置』という役割を担っているため、人間の住まう里は八雲紫の手で守られている。
利用価値があるから、幻想郷というビオトープを維持するのに必要な要素だから生かされている貧弱な存在。
それが幻想郷における人間の立ち位置だった。
「だが私はそうはいかない! 必ず犯人を突き止めて報復する! 何があっても人間は守る!」
「苦しいよ慧音」
慧音はこの時ようやく、興奮した自分が妹紅の胸倉を両手で締め上げていることに気付く。
「・・・・・・すみません」
「いや。慧音の気持ちは痛いほどわかる」
胸倉から離そうとした慧音の手を妹紅は両手で包んだ。
「私だって子供があんな目に合わされて黙っていられるほど、枯れちゃいないわ。犯人探しは続ける」
「恩に着ます」
太陽が空の天辺に差し掛かる頃に、慧音は今朝死体が発見された現場に戻ってきた。
未だに漂っている血生臭い異臭に顔を顰める。
「なんだ、まだあの子をそのままにしているのか?」
女子生徒が無残な姿を晒され続けているのに小さな憤りを感じた。
我慢できず、現場を取り仕切る自警団の者に声をかける。
「まだ現場調査が続いているのか?」
「いえ、それはもう終わりました」
「じゃあ何故そうしない?」
「我々もあの子をあのままにしておくのは忍びないのですが」
団員がちらりと視線を横に向ける。その視線の先、少女の四肢が貼り付けられたままになっている壁の前に座り込む一人の女性の姿があった。
「片そうとするとアレが色々と言ってきまして、無理矢理やろうとすると妙な力を使って邪魔するんですよ」
「わかった」
慧音がその女性に近づく。
「見世物じゃないぞ。そこをどけ」
彼女の顔を何度か見たことがあった。
最近、里に頻繁に顔を出すようになり、里の者を道教に勧誘する邪仙であった。
「失せろ。お前がここにいるせいであの子を降ろしてやれない」
「もうちょっとだけ、このままじゃ駄目ですか?」
「駄目に決まっているだろ」
目尻を吊り上げ、霍青娥を睨む。
「ちょっとこの死体に違和感を感じまして。それが分かるまでこのままだと嬉しいなーなんて」
「違和感?」
「そうなんですよ。この死体、快楽殺人犯がやったにしては腑に落ちない点が多々ありまして」
「なんの根拠があってそんな事が言える?」
「私、一時期サイコパスや快楽殺人者と呼ばれる方たちの研究をしておりまして、そういった方達をキョンシーにした場合、どのような・・・」
「ん?」
青娥の話の途中、自分達の上空を何かが通過した事に慧音は気付いた。
見上げると、影が一つ、森の方へと飛び去っていった。
「貴様の妄言に付き合っている暇は無い。即刻、ここから去ね。これ以上邪魔するなら死体がもう一つ増えるぞ」
その影を追うために、慧音は青娥に背を向ける。
「あ、お待ちになってください!」
何故か青娥は慧音の後を追い、隣に並んだ。
「貴女、上白沢慧音様ですよね?」
「なんだいきなり?」
「里に半人半獣の守護者がいると聞きまして。清楚な容姿の割りになかなかワイルドな方だと。以前からお会いしたいと思っていたんですよ」
「邪魔だ、失せろ」
「まぁまぁ、そう仰らず」
ついて来る青娥を煙たがりながら、先ほどの影が降り立ったと思われる、森の中へと踏み入る。
真昼の強い日差しが、森に入った途端に緩和され、ひんやりとした風が二人の体を冷ました。
「ここに何があるのです?」
「・・・」
「もし? 慧音様?」
「・・・」
木々を掻き分けて歩いた先に、一台の屋台が佇んでいた。暖簾には『準備中』と書かれた札が吊るされていた。
屋台には料理の仕込みをする女将と、椅子に腰掛ける客の姿があった。
「ミスティアさん、何かお任せで作ってくれません?」
「また来たんですか? 何度も言うように、ウチはランチなんてやってません。今は準備中です。日が沈んでからまた来てください」
「ままっそう言わず。いつもみたいに作りおきの冷えたウナギで構いませんから。これから取材で回るんで体力つけておきたんです」
「人里のお店で食べればいいじゃないですか」
「あそこはちょっと、出来る事なら会いたくないのが居るもんで」
「誰に会いたくないんだ?」
射命丸文の背後に立った慧音は、そんな言葉を浴びせた。
「こ、これはこれは。ご無沙汰してます慧音さん。ご、ご機嫌いかがです?」
文は顔面蒼白となりながらも、頬の筋肉を無理矢理引き攣らせて笑みを作った。
明らかに彼女は慧音を恐れていた。
「最悪だよ、どっかのカラスが私の生徒の無残な姿を面白可笑しく記事に書きたてようとしてるんだからな」
「それは酷い。一体どこの・・・」
「貴様だろうが!! この前はよくも私の生徒の死体写真を幻想郷中にバラまいてくれたな!!」
文の肩を掴み、自分の前に引き倒した。
「ぐっ!」
「ここ連日、里を色々と嗅ぎ回っているらしいがどうだ? 事件解明の良いネタは手に入ったか?」
文の腹に片足を置いて、逃げられないように押さえつける。
足を置いたまま屈み、文の右手を掴んで持ち上げた。
何をされるか理解した文は、ただでさえ青い顔をさらに青くした。
「待って! 嫌です!! もう止めましょうよこの尋問は! もうすぐ新聞大会が・・・・・・アギャァ!!」
文の小指を、関節と逆方向に曲げた。
「ぎっ、あっ、ぐぅぅ」
「大人しくしてれば良いモノを。ストックを無駄使いしたな」
「勘弁してください勘弁してください勘弁してください勘弁してください・・・・ギィッ!」
今度は薬指が直角に曲がった。
「私の話を聞く気が無いようだな? もう一本折れば私のことを少しは意識してくれるか?」
「聞きます! 聞かせてください!! お、お願いします!!」
その様子に満足した慧音は、中指を握る手の力を緩めた。
目の前で起こる理不尽な暴力を前に、ミスティアは屋台の後ろに隠れて耳を塞ぎ、青娥は恍惚の表情を浮かべその様子を見守っていた。
「最初の質問だ。一人目の生徒が崖から転落死した時、お前は何をしていた?」
「些細な事故だと思い、気に留めていませんでした」
夕飯の山菜を採りに出ていた女子生徒が崖の下で発見されたのが、今回の騒動の始まりだった。
自警団は、足を滑らせたことで起きた不幸な事故として結論付け、その件はそれで解決となった。
「それから数日後たって、男子生徒が無残な姿で発見されたのは知っているな?」
「は、はい」
「何をしていた?」
「こんな面白い事は無いと思い、取材にやって来ました」
女子生徒の転落死事故の三日後。
里の外れで、腹を裂かれて内臓を取り出され、内臓の代わりに切断された手足を詰め込まれた男子生徒の死体が発見された。
「何か有力な情報は得られたか? 独自で調べていたのだろう?」
「あ、ありませんでした」
「お前の見解は? 誰が犯人だと思う?」
「死体には食べられた形跡が無いので妖怪の線は薄いかと、そしてあんな幼い子供が恨みを買うとは考えにくいので、快楽殺人の線が一番濃いと感じました」
その日から寺子屋は休校となり、犯人が見つかるまで子供は常に誰かと一緒にいるように呼びかけが行われた。
そんな里を恐怖で震撼させた猟奇事件からまたすぐ、生徒が亡くなる事件が起きた。
「その猟奇事件の二日後、生徒が川で水死した時はどうしていた?」
「立て続けに三人も死ぬのは異常だと思い、取材に行きました」
里の近くを流れる川で、男子生徒の水死体が発見された。
発見された場所と川の流れから、上流にある小さな橋から落下したことがわかった。
先日の件もあり、事故と殺人、両方の可能性が疑われていた。
「何か見つけたり、気付いた事はあったか?」
「・・・いいえ、その、特には何、ッァ!!」
文の中指の爪が、手の甲に触れた。
「学習能力の無い奴だな。私に嘘が通じると思うか? 心を篭めて話せ」
「〜ッ! 〜ツ!!!」
痛みで声無き悲鳴を上げる文を尻目に、今度は人差し指を掴んだ。
「もう一回質問するぞ? 何か見つけたか?」
「筒を・・・川底から」
「筒?」
「私の、鞄の中に」
「おい」
慧音は顎をしゃくって、青娥に彼女の鞄を見るよう指示を出す。
「これ、ですか?」
鞄の中にあった筒を慧音に見せた。筒は里で流通している貨幣と同じくらいの幅で、長さは15センチ程度だった。大きさの割りに質量があり、金属で出来ているとわかる。
「この筒がどうした?」
「拾ったんです。水死した子供が落下したと思われる橋のすぐ下で、川底に沈んでいたんです」
「あの子がこれを持っていたと?」
「確証はありませんが」
表面が目新しく腐食した様子もなく、重い鉄がそれほど移動するわけないと考えた文は「ひょっとしたら」と思い拾った。
筒の中には何も入っていなかった。
「今日の事件では何か見つけたか?」
今朝、自らが第一発見者となった女子生徒の死体が壁に貼り付けられた事案について訊いた。
一件目が女子生徒の転落死。
二件目が男子生徒の猟奇殺人。
三件目が男子生徒の水死。
四件目が女子生徒の猟奇殺人。
こうも続けば流石に、事故死と猟奇殺人に何らかの因果関係があることに誰もが気付き始めていた。
「今日はまだ写真を撮っただけです」
「そうか」
そこで慧音は文の手を開放する。
「つぅぅぅぅ」
折られた手を押さえて、文は体を丸めて悶絶する。
「良かったな。人差し指と親指が残っていて。辛うじてペンは握れる」
慧音は屋台を後にした。
「いやあ素晴らしい!! 素晴らしいですよ慧音様! 稲妻のような感動が、私の中をずっと駆け回っております!
高飛車で傲慢、弱みを見せたらすぐにつけ込んで来ることで有名な鴉天狗を、あそこまで怯えさえ、情報を引き出させるなんて信じられません!」
森を出てすぐ、興奮冷めやらぬ青娥は慧音を絶賛し、まくし立てる。
「あそこまで容赦なくやれる方は早々いませんよ。いやぁ、感服感心致しました! 是非とも私を弟子に、いえ、助手にしてください!」
「おい」
「 ? 」
肘を曲げ、青娥の首に腕を当てて、彼女の体を近くにあった木に押し付けた。
「お前の性悪さは聞いているぞ。面白いと思ったものには何でも顔を突っ込み、しっちゃかめっちゃか掻き回すらしいな?」
「誤解です。私が関わった物件はたまたまそうなっただけで・・・」
「これ以上、付きまとうようならあのカラスと同じ目にあわせる。今すぐに消えろ」
「そう仰らず、お傍に置いてくださいよ。必ずお役に立ちますから」
強く締め上げているにも関わらず、青娥は涼しげな顔でそう言った。
「どう役に立つというんだ?」
「今日とこの前の猟奇殺人の現場を見て、今回の犯人像がある程度わかりました」
「なに?」
慧音の腕の力が僅かに緩む。
「この犯人。決して快楽殺人犯やその類の異常者ではありませんね。非常に生真面目な人です。異常者のフリをしているだけです」
「なぜそう断言できる?」
「死体に“敬意”を払っているからです」
「敬意だと?」
「ああいう手合いは死体を玩具か材料としか見ていません、死体を丁寧に扱うことはあっても決して尊厳を持って接したりしません」
「あれだけバラバラにしておいて敬意もクソも無いと思うが?」
「わかる人にはわかるんですよ」
自信あり気に青娥は笑う。その笑みを慧音は少しだけ不気味に感じた。
「二件とも死体の目が閉じられている事にお気づきですか?」
「それがどうした?」
「こういう時、死体の目は開いた状態で放置されているのが殆どなんです。シリアルキラーは何故か、目が閉じている死体よりも開いている死体を好むんです」
「そういう嗜好の奴かもしれないだろう」
「かもしれません。ですが、もう一つの特徴を見て確信を持ちました」
多くの猟奇事件を調べ、時に関わってきた青娥だからこそ気付いた事柄があった。
「犯人は被害者の性器に一切の手を加えていないのですよ。ペニスにもヴァギナにも興味を示していません。これはちょっと異例です」
「そういうものなのか?」
「100件中99件は、好奇心を満たすために解剖されているか、生殖器になんらかのコンプレックスを抱いているが故にズタズタにされているか。そのどちらかです」
「子供の事故死にも、そいつが関わっていると思うか?」
「関わっているでしょうね間違いなく。恐らくは同一犯で、捜査をかく乱するためにやっていると思います」
「・・・」
慧音は青娥をゆっくりと開放した。
「私をお傍に置いてくださる気に?」
「お前の言うことは信憑性に欠ける。鵜呑みには出来ない。だが捜査に人手が足りない、猫の手も借りたいのが現状だ」
自警団と連携出来ない慧音にとって、妹紅以外の協力者が増えるというのは、本音を漏らせば有り難かった。
「ただし邪魔したり、怪しい行動を起こしてみろ。命は無いと思え」
「はい! この青娥にゃんにゃん! 誠心誠意貴女に尽くすことを誓いますわ!」
寺子屋の教師と邪仙。異色のコンビが結成された頃、里の片隅で少女が寺子屋の男子生徒に接触していた。
男子生徒は、足りなくなった薪を補充するために、家の裏手にある材木置き場に行く途中だった。
彼は慧音から、両親と共にいるよう強く言われていた。本人もそれを破る気などさらさら無かった。
だが、家のすぐ近くだから安全だろうと判断した彼は一人で外に出てしまった。
そこでその少女に偶然出会い、話しかけられた。
「僕に何か用ですか?」
男子生徒は出会った少女に対して、強い警戒心を抱いていなかった。
彼女が里に頻繁に来ているのは知っていたし、慧音と話しているのを何度も目撃したことがあるからだ。
「実は私、今日、死んでしまった子とはお友達だったんです」
少女は少年に筒を差し出す。
「その子から手紙を預かっています。あなた宛の」
「僕に?」
「彼女は、これをあなただけに読んで欲しいと言っていました。だからその筒は、誰にも見られない場所でこっそりと開けてください」
少年はコクリと頷くと、それを大事そうに懐に仕舞った。
翌日。
人里のある民家の前に慧音と青娥はいた。
「クソ! クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ!! 畜生がッ!!!」
慧音はすぐ隣にあった塀を思い切り殴りつけた。
拳は板を軽々と突き破り、塀全体に大きな亀裂を作った。
「昨日事件があったばかりだぞ!?」
自警団の面々が、冷たくなっている男子生徒の亡骸を運んでいた。
「心臓麻痺でしょうか? 眠るように静かに逝ってますね」
慧音の隣にいた青娥は背伸びをして、家の中を覗き込む。
「おや、あれは?」
自警団の一人が、見覚えの有る物を持っていた。
文が拾ったのと全く同じモノだった。
「あれって確か・・・おや、慧音先生?」
「その筒、稗田家か霧雨家に持っていって詳しく調べさせろ。何か重要な手掛かりだ」
現場に踏み込んだ慧音は自警団の団長にそう指示を出した。
「困ります慧音先生、貴女が自警団に介入しないというのは、里での取り決めでしょう。我々も全力でやっています。どうか信頼してください」
「全力? 私が抜けてから事なかれ主義を通す日和見集団が良く言う、どうせ真剣に取り組んでなど・・・」
「この事件で最初に死んだのは俺の娘です!!」
今まで務めて平静を努めていた自警団長は形相を鬼へと変えて怒鳴った。
「そう、だったな・・・すまない」
「慧音先生。貴女は里の治安の事になると人が変ったように荒々しくなる。それは非常に心強い反面、多方面から反発を買う」
それが自警団を抜けさせられた経緯だった。
「今だけ、私も復帰できないだろうか」
「それは出来ません。今回の子供殺しは、貴女に恨みを持った奴の報復だと考える者もいます」
「そうか・・・」
慧音の肩が僅かに下がる。意気消沈しているのが見て取れた。
「あの子の埋葬はいつ行う? 出席したい」
「すぐに弔ってやりたい所ですが、死因だけははっきりさせたいので。永琳女医に解剖をお願いしようと考えています。ちょうど、今日の午後にここを訪れますのでその時に依頼するつもりです」
「そうだな彼女に頼むのが一番だ。里の医者よりもずっと、綺麗な姿にして返してくれる」
自警団長の言った通り。永遠亭の薬師、八意永琳が午後に里へやって来た。
「連れて来たよ」
「ありがとうございます藤原様。永琳女医もご足労痛み入ります」
自警団の詰所に迎えられた永琳の背後には、弟子の鈴仙の姿があり、彼女はリアカーを押していた。
リアカーにはゴザが被されており、外から中が見えないようになっている。
「昨日の子のご遺体です」
八意永琳がリアカーのゴザを少しだけ捲くると、昨日の早朝、バラバラにされて壁に貼り付けられた少女の顔が見えた。
しかし今、そんな目に合わされたのが嘘のような、安らかな表情をしていた。
「切断面を縫合、補強して繋ぎ合わせました。ただ、首だけはどうしても着物で隠せなかったので包帯を巻いて縫合を隠してあります」
肌に塗られた発色のある白が、唇にうっすらと着色された紅色が、まるで彼女を生きているかのように思わせた。
「ありがとうございます。これで少しはこの子も浮かばれます」
団長は心の底から感謝し、深く頭を下げた。
「まだ、犠牲者は増えるのでしょうか?」
「そんなことは我々が許しません。今日の子で最後にして見せます」
「その突然死したという子は今霊安室ですか?」
永琳は護衛についた妹紅から、今日もまた犠牲者が出たと知らされた。
毒殺された線も考えて、自警団から彼を解剖し死因の特定を依頼されることを、事前に聞かされていた。
「見せていただいても?」
「どうぞ、こちらです」
自警団長に案内され、永琳は霊安室へと向かった。
「連日、世話になるな」
「あら慧音先生」
男子生徒の解剖を終えて、帰ろうとする永琳と鈴仙を、慧音は呼び止めた。
「昨日被害にあった女子生徒を見せてもらった、綺麗な形に戻してくれてありがとう。私からも礼を言わせて欲しい」
「今回の件はウチの姫から全面協力するように言われているわ。子供を狙うという卑劣なやり方に怒りを感じているみたいね」
「それは有り難い」
「貴女にも、情報を渡しておくわ。彼らとは別で調べているのでしょう?」
「是非頼む」
永琳は鈴仙の持っている鞄から、書類を二枚出した。
「今日亡くなった男子生徒、死因は心臓麻痺だったわ。薬物も病原菌も検出されなかったわ」
「あの歳の男の子が心臓麻痺になる可能性は高いのか?」
「非常に低いわ。無いとは言い切れないけど」
「他殺という線は?」
「目立った外傷はなく。薬物の反応も出ない。その状況だけなら心臓麻痺を起こしたとしか」
「何なんだ一体」
あまりの不可解さに腕を組み、考え込む。
「あと三件目に起きた水死した男子生徒だけど。死因は溺死ではないとわかったわ。心臓麻痺よ。心肺の機能が停止した後、川に落ちたものと思われるわ」
「それも心臓麻痺だと?」
突拍子も無い報告に思わず身を乗り出す。
「そんな事が有り得るのか?」
「自然に起こるなんて考えられないわ。それこそ天文学的な確立。奇跡でも起きない限り無理よ」
「呪術の類か?」
「生憎と、そっちになると専門外だわ」
医術とは対極の位置にある分野のため、永琳はお手上げとばかりに首を振った。
「とりあえず以上よ、他に何かわかったら知らせるわ」
「よろしく頼む」
そして永遠亭へと戻る二人を見送った。
「ちょっと良いかい慧音?」
「ただいま戻りました!」
永琳と鈴仙の姿が見えなくなったちょうどその時、背後から突然、妹紅と青娥の声が掛かった。
「さっきから姿が見えないと思っていたら、どこに行っていたんだ?」
「藤原様が里で聞き込みをされるというので随行を」
「妹紅さん、邪魔になりませんでしたかコイツ?」
「なった」
その表情から、聞き込み以外での疲労が見て取れた。
「なんとお詫びすれば良いか」
「そんなことより。裏路地やら酒場やらホームレスやらに聞いて回ったら。妙な男の話が出た」
「誰です?」
「前科持ちのゴロツキだよ。ちょうど一ヶ月前にシャバに出てきた」
まだ聞き込みを続けたい妹紅と別れた二人は、その情報を頼りに男を探す。
しばらくして路地裏を彷徨っていると、探していた男と運良く出くわす事が出来、その場で捕まえ、里の近くを流れる川まで引張った。
「やめろ! おい! 何の冗談だ!!」
男は慧音の手によって、ドラム缶の中に押し込められていた。蓋は硬く閉ざされており、男が自力で出ることは叶わない。
ドラム缶は、川に膝の高さまで浸かった状態で起立しており、表面に空けられた複数の穴から中に冷水が流れ込んでいた。
水に浸かっていない高さにある穴から、助けを求める男の目が外界を覗いていた。
その目に慧音は問いかける。
「最近、私の生徒が怪死する事件は知っているな?」
「俺を疑っているのか!? 関係無い! 本当に何も知らないんだ!! 信じてくれよ先生!」
「慧音様、この方とはお知り合いで?」
「里のゴロツキだ、盗みや傷害、婦女暴行を繰り返すな。他人を平気で傷つける自己中心的な男だ」
「俺じゃあねぇ!! 本当だ! 信じてくれ!!」
「それを決めるのは私だ!!」
側面を殴りつけ男を黙らせる。
「最近、羽振りが良いらしいな?」
「そ、そりゃぁ、今はもう心を入れ替えて汗水垂らして働いていますんで」
立場を理解し、男は卑屈な声で答えた。
「ほぅ、真面目に働いたら酒場で毎晩豪遊しても余る金が手に入れるのか。割りの良い仕事だな。是非私にも教えてくれ」
「えっと、その・・・なんと言いましょうか、その・・・実は金持ちの老人に親切にしたら貰っちゃいまして・・・」
「見え透いた嘘を吐くな! 貴様は博打か恐喝でしか金を手に入れられないクズだろうが!」
全体重を乗せた蹴りがドラム缶を捉える。ドラム缶は倒れ、徐々に中が水で満たされていく。
「待ってくれ! 嫌だ! 出してくれ!! 水が中に! 死にたくない! おい!!」
「白状しろ。あんな大金、里の人間がポンと払える額じゃないだろ。誰から貰った。事件と関係あるのか?」
「無関係だ! そもそも、餓鬼なんて手に掛けて俺に何の得がある!? あんなひでぇ事、俺達人間に・・・」
「貴様が人間を騙るな!!!」
倒れたドラム缶を起こし、中で震える男にそう怒鳴りつけた。
「最後通告だ、知っていることを正直に全部話さなきゃ、一生川底だ。10秒やる、10、9,8,7・・・」
「た、頼まれたんです! その報酬に金を貰いました。一月前の事です!」
釈放されても行くアテなど無い男は、転々と寝床を変え、気弱そうな通行人を見つけては恐喝して得た金で飯にありついていた。
「橋の下で寝てたときにソイツがやって来ました」
「依頼の内容は?」
「て、寺子屋の生徒の名前と住所と年齢を調べるように頼まれました」
「ッ!?」
慧音の表情が一気に険しくなる。
「その情報が何に使われるのか考えなかったのか!?」
「ま、前金だけでもすげぇ額だったもんで、頭が真っ白になって無我夢中で・・・」
「そいつは何者だ?」
「顔はわかりません。ローブで顔を隠していましたから。でも、声は若い女でした。あ、あとローブの隙間から白色の髪が」
「他には?」
「わ、わかりません。これで全部です」
「そうか」
勢いをつけ、ドラム缶を押し倒した。
「話が違う! 全部話せば・・・ゲホッ!」
ドラム缶の中が満水になる。
ドラム缶はゆっくりと押し流され転がりながら、徐々に川の深い方へと移動していく。
男の叫び声も、暴れる音も、全身が浸かってしまったドラム缶からはもう聞き取ることが出来ない。
「よろしいのですか? このままだと私達二人では引上げられない場所まで行っちゃいますよ?」
「あんなケダモノ、死んで当然だ」
慧音は反転し陸に上がる。
青娥は迷った、ドラム缶を一人では引上げられないが、彼女固有の能力を使えば、男をドラム缶から脱出させられることが出来る。
「・・・」
青娥は髪の蚤を掴む。
「お待ちになってください慧音様〜」
しかし次の瞬間には手を離し、慧音の後を追いかけていた。
「人に対しても容赦無いのですね」
「あれが人間に見えるのなら、一度、八意永琳に診てもらうと良い」
「生物学的に見て、人間にカテゴライズ出来ると思うのですが?」
「道徳的に見れば、アレは人間じゃない」
「随分と偏った選民思想をお持ちなのですね・・・おや?」
いつからそこに居たのか。目の前に何者かが立っていることに気付き足を止める。
「これはこれは、地獄の裁判長が何の用だ? 説教ならまた今度にして頂きたいのだが」
悔悟の棒を手に佇む四季映姫ヤマザナドゥを前に、慧音は露骨に面倒臭そうな顔を浮かべる。
「本音を言えば今すぐにでも説教をしてやりたい所ですが。本日は別件です。貴女の亡くなった生徒達についてです」
「なんだと?」
「これまで亡くなった五人の子供ですが、これから賽の河原で石を積むことになります」
親よりも先に死んだ子供は、そこで石を積んでは鬼に崩されて、いつまでも苦しみを味わい続ける。
それが彼岸の、是非曲直庁の決まりとなっていた。
「今回は事情が事情です。なるべく早く救済はするつもりです」
「そういえば、救済は閻魔の権限だったな」
賽の河原の子供を救済するのは地蔵菩薩だが、それが閻魔のもう一つの姿である。
彼女らの采配で、石を積む子供の魂は転生の準備を許される。
閻魔である映姫はその権限を持っていた。
「彼らが罰を受ける期間を短くするよう取り計らいます。だから安心して・・・」
「罰だと?」
聞き流せない単語があり、映姫に詰め寄る。
「私の生徒は全員、悪事のあの字も知らない優しい子達だ。死んだ子の中には貧しいながらも必死に寺子屋に通う子もいた。理不尽に命を奪われたその子達がなぜ罰を受ける?」
「自分を産んでくれた両親を悲しませた。これは紛れも無く黒」
「なら奪った奴を裁け! この能無しがッ!!」
「我々は、生きている者を裁くことは出来ません」
「人間にとって生きている時間こそが全てだ! 死後に裁いて何の意味がある!?」
慧音の怒声、しかしそれに怯むことも縮こまることもせず、映姫は慧音をまっすぐに見据える。
「それともう一つ」
「聞きたくなど無い! 失せろ!」
構わず映姫は話しだす。
「上白沢慧音。あなたは今回の件に深く関わるべきではない。人を愛し、守りたいというその気持ちが本物ならば」
「お前も忠告か。何か知っているようだな。話してもらうぞ」
「それは出来ません」
掴みかかろうとするが、逆にその手を取られて、気付けば背中から地面に倒されていた。
「八雲紫から聞いているでしょうが、この件は直に収束を迎えます。辛い気持ちはわかりますが、耐えてください」
「耐えろだと!? お前も私に泣き寝入りしろと!? 子供の無念から目を背けろと!?」
「無理にとは言いません。しかし、最後に辛い思いをするのはあなたの方ですよ」
言い終えると、慧音を見下していた映姫の姿は霞み、消えた。
「あの、大丈夫ですか?」
「・・・」
「どこか痛んだりは?」
「やはり閻魔となると格が違うな。挑んでも勝てる気が全然しない」
「諦めるのですか?」
「まさか。続けるさ、ここで止めたら私が私じゃなくなる」
寝転ぶ慧音の視線の先、掛けた月が浮かんでいた。
それから三日後、二人の捜査も虚しく新たな犠牲者が出た。
「今度は焼死体ですか」
正中線をなぞるように。頭の天辺を通り心臓、股座を斬られ、左右対象の真っ二つに分けられた死体は、右側は焼かれ里の西門に、左側はそのままの状態で東門に立掛けられていた。
最初に生身の左側が見つかり、右側を探す自警団だったが、まさか焼かれているとは思わなかったため、黒こげになった方が見つかったのは二時間後のことだった。
「ああなっては永琳女医でも復元は不可能だろうな」
確認を取ると予想通り、今日弔いをするらしい。
亡くなった男子生徒の家は、命蓮寺の檀家だったらしく。今夜、命蓮寺で通夜。明日、葬儀を行うということだった。
「命蓮寺か、そういえばソコはまだ調べていなかったな」
「やっぱり向かわれるんですか?」
「どうした? 今まで嬉々としてついて来たのに?」
「あのお寺とはちょっとイザコザがありまして。出来るなら避けたいなーと」
「別にお前が来る来ないなど、どうでも良い」
「お待ちになってください! 行きます! ご一緒します!」
里からそう遠くない場所に立地する命蓮寺までやってきていた。
門前で所々誤りのある経を読みながら箒を振る山彦の幽谷響子に話しかける。
「聖白蓮はいるか?」
「いえ、皆さん出かけています。最近里が物騒だということで、見回りをしているみたいです」
どうやら命蓮寺は命蓮寺で、事件解決のために独自で動いているようだった。
「そうか、丁度いい」
響子を横切り、門を潜ろうとする。
「困ります。帰ってくるまで誰も入れるなと聖様が・・・」
「邪魔だ」
「ふぎゃ!」
響子の襟を掴むと、門の壁に思い切り叩き付けた。
「やめ゛っ、なに゛を!?」
「一発じゃ足りないか?」
「ぴぎゅ!!」
今度は鼻が真正面から門にぶつかるよう、角度に気をつけながら叩き付けた。
「いくぞ、そいつは門の戸の裏側にでも隠しておけ」
傍観していた青娥に、気絶した響子を移動させるよう命令し、自分は本堂を目指した。
「チッ、鍵か」
「私に任せてください、なんせ私の特技は壁抜・・・」
青娥が蚤に手を掛けたその時、慧音は本堂の扉を蹴破っていた。
「グズグズするな。帰ってくる前に調べたい」
「調べるって何をです?」
「なんでも良い、あいつらが一枚噛んでいるかどうかを確認したい」
慧音は棚に積まれている巻物を一つ手に取り、中を開いた。
「お尋ねしてもよろしいですか?」
黒塗りのタンスを物色しながら青娥が話しかける。
「何をだ?」
「慧音様についてです」
「私の?」
一緒に行動をするようになってからしばらく経つが、慧音はあまり自分の事を話そうとはせず、だから今、青娥は訊いてみることにした。
「半人半獣とは聞いていますが、ご両親が人間と妖怪なのですか?」
「違う、私は後天性だ。人として生まれたが途中でハクタクの力を持った」
「ではご両親は人間?」
「ああ、里で昔から寺子屋を営んでいた。尊敬に足る人物だった。半獣化した私に変らず接してくれた」
今の寺子屋は両親から引き継いだものだった。
「それはさぞ立派な教師だったのでしょうね」
「わからない」
「わからないというのは?」
「私がまだ幼かった頃に妖怪に食い殺された。だからどんな授業をしていたのかは知らない」
そして両親亡き後も自分を受け入れて、育ててくれた里の人々の恩に報いるためにも、この力を里の人間を守る為に使うと決め、今日まで活動を続けてきた。
「里の人間の幸せのために、この生涯を捧げようと思っている」
「その割には、一部の人間に対して容赦が無いようですが?」
「私も昔は違ったよ。良い部分も、醜い部分もみんなひっくるめてそれが人間なんだと。そう信じていた」
悪人を捕らえても殺さず、牢屋に入れ、里の者達の裁きに委ねていた時期があった。
「もし過去に戻れるのなら、あの時の自分をぶん殴ってやりたい」
「何かあったのですか?」
「別に大した事じゃない。ただ多くの犯罪者を見続けて知っただけさ。この世にはどれだけ熱意を持って接しても害悪しかばら撒けないケダモノが。脳が、遺伝子が始めからそういう構造の奴が居るということを」
それを慧音は『人の皮を被ったケダモノ』と呼んでいる。
そう考えるようになってから慧音の行動は過激になり、徐々に自警団との軋轢が生じ、脱退に至った。
「そこで何をしている!!」
少女の怒号が部屋に響く。命蓮寺の僧侶、寅丸星の部下ナズーリンだった。
どうやら帰ってきたのは彼女だけのようで、他には誰の姿も無かった。
「表の山彦をやったのはお前か?」
「入ろうとしたら止められたのでね。何か問題でも?」
巻物に目を通しつつ答える。
「霍青娥、貴様! そいつに何を吹き込んだ!?」
「誤解です。今回は私は何も、私はただ慧音様について来たまでです」
弁明し、慧音に視線を送る。
ナズーリンも慧音の方を見た。その瞳は侮蔑に満ちていた。
「いかれた里の守護者め。噂は聞いているぞ、妖怪限定の通り魔らしいな?」
「『いかれた』か、貴様ら妖怪にそう呼ばれるとは、嬉しい限りだ」
ナズーリンのことなど眼中に無いと言わんばかりに目の前の巻物を凝視する。
内容がただの写経だとわかると、放り捨てて新しい巻物を取った。
巻物を読みつつ、口を開いた。
「葬式というのは良い小遣い稼ぎになるらしいな」
「私達を疑っているのか?」
「この寺は化物贔屓だからな。人間を弱体させるには子供を狙うのが一番手っ取り早い」
「聖白蓮が目指すのは人間と妖怪に平等な世界だ。か弱い子供を傷つける事は、その信念に反する」
「人間が猛獣と同じ檻で暮らさなければならない世界か、考えただけでゾッとする」
最後の巻物を読み終えると立ち上がった。
「いくぞ。これ以上の物色は難しそうだ」
睨むナズーリンの横をすり抜け、山彦が倒れている門を潜った。
寺を出てすぐ、青娥が語りかける。
「慧音様は、命蓮寺がお嫌いなのですか?」
「そもそも神も仏も信用していない」
「ならば聖人など如何でしょう?」
「聖人?」
「実は。古の時代、秩序なき無法地帯だった日本列島を治め国へと昇華させた偉人が、今一度この世の全ての民を救うべく蘇ろうとしています。興味はありませんか?」
「そいつは気の毒に」
「はい?」
その回答は予想していなかったのか、青娥は口を半開きにして固まる。
「きっと絶望するだろうな」
「何故、絶望するのですか?」
「時間が経つほど、人間の世界は複雑になっていく。衣食住が揃っていれば幸せなどという時代は、とうの昔に終わっている。
どれだけ力を持とうと、どれだけ賢かろうと、救いの手を差し伸べられる広さは限られている。今の世は聖人の力が通用するほどシンプルな構造をしていない。
だからきっと、自分の理想と現実のギャップに苦悩するだろうさ」
故に聖人は絶望すると、歴史を知る彼女はそう語る。
「もしその聖人が復活したら言ってやると良い『この度はご愁傷様です』と」
「そういうもんですかね?」
「詰まらない問答をしている暇は無い。次は湖だ。妖精を調べる。通夜が始まる前に終わらせたい」
結局、それらしい収穫は無く、通夜に時間がやって来た。
(命蓮寺の葬儀に初めて出るが。なかなか盛大にやるんだな)
慣れない格式の焼香に戸惑いつつ自分の席に戻る。
座り、焼香をする列を眺めると、慧音は眉根を顰めた。
ある少女が並んでいることに小さな疑問を抱いた。
「おい阿求。ちょっといいか?」
無礼な振る舞いだというのは重々承知だったが、隣に座る稗田阿求に小声で話しかける。
「お前は全ての埋葬に立ち会っていたよな?」
「ええ、そうですが」
「奴が来たのは今日だけか?」
「彼女ですか? えっと確か・・・」
一度見た事を忘れない彼女は、脳に記録されているその時の映像を思い起こす。
「いいえ、全ての埋葬にいらしてますね」
「そうか」
「彼女が何か?」
「いや、ちょっとな」
疑うには材料はあまりにも少ない。しかし、彼女なら青娥が最初に推理した犯人の人物像に最も当てはまると思った。
通夜が終わる頃には、日はもう完全に沈んでいた。
里を出ようとする少女を追いかけて、慧音は声をかけた。
「私の生徒のために、遠くから来てくれてありがとう」
「いえ、そんな。この度はお悔やみ申し上げます」
呼び止められた魂魄妖夢は、慧音に向かい深々と頭を下げた。
「せっかくだ、夕飯は里で食べていかないか? 妹紅さんも来るんだ、良い店を紹介する」
「嬉しい申し出ですが・・・」
「軽く一杯ひっかけるだけでもか? そう時間は取らせない。私の生徒をわざわざ弔いに来てくれた者に何の礼もしないで帰してしまうのは心苦しい」
「それではお言葉に甘えさせていただきます」
慧音を立てる意味で、妖夢は了承した。
「安い割りに量もあって味が良い。昔から行き着けの店なんだ」
大通りを一本外れた道を二人は歩く。
「場所を覚えたら今度は幽々子氏と一緒に来ると良い。きっと満足してくれるはずだ」
曲がり、路地裏へと入って、さらに奥へ奥へと進んでいく。
「ずいぶんと歩きますね」
「隠れ家的な店だからな、良い店なんだが知っているのはほんの僅かだ。知る人ぞ知るという奴さ」
やがて二人は行き止まりに到達した。
「あれ? 慧音さん、もしかして道を間違え・・・」
「いいや、ここが到着地点だ」
妖夢を蹴飛ばして壁にぶつけ、そのまま押さえつける。
「ぐっ!」
「今だ、やれ!」
「お任せを!」
慧音の号令に従い、隠れていた青娥が物陰から飛び出して、妖夢と密着している壁に蚤で穴を開けていく。
「早くしろ!!」
「もう少しです! 出来ました、もうしばらく押さえつけていてください!!」
「何をするんですか! 離して・・・へ?」
抵抗しようとする妖夢だが、気付けば手足が全く動かせない。
妖夢の体は、壁に埋め込まれていた。
「便利な能力だな」
「私も未熟だった頃は良く、戻り始めた穴に巻き込まれてしまったものです」
「一体何のつもりですか!? こんな事が許されるとでも!?」
「いくつか質問する。正直に答えてくれればすぐに開放し、謝る」
「わ、わかりました。それで私の潔白が証明できるなら」
妖夢の表情が冷静になったのを確認し、慧音は尋問を始めた。
「なぜ部外者のお前が五人の子供の埋葬と今日の通夜に顔を出している?」
「それは・・・」
「おかしいだろ? 一件目の子は事故死だ。お前とは面識の無い赤の他人だった。当時何の事件性も疑われて無かったのに、どうしてその頃から、普段来ないお前が顔を出す?」
「・・・実は、その子とは兼ねてより知り合いで、ぶっ!!」
手加減の一切加えられていない慧音の拳が、妖夢の頬を打ち抜いた。
「あ゛、ぐぅぉああ」
口の中を切ったのか、唇の端から血が滴る。
「嘘を吐くな」
「う゛、そじゃ・・・」
「質問に答える際、目が右側に寄った。嘘を考えるのは右脳だからな、無意識にそうなる」
右手で自分の頭を指差す慧音。
「コイツは黒だ。コイツの半霊を押さえておけ。妙な真似をさせるな」
「ご安心ください。私、霊魂の扱いには一日の長がありますので」
ガッチリと妖夢の半身を抱えている青娥を横目に、妖夢の持ち物を調べる。
巾着袋からは小銭とハンカチしか入っておらず、次は懐のポケットに手を入れた。
「ん?」
指先に硬い物が触れた。それは妖夢が犯人だと決定付ける物だった。
「おや、その筒は?」
慧音が引っ張り出した物を、青娥は何度も見ていた。
3件目の事件があった川底から、5件目の被害者の少年が所持していた鉄製の筒だった。
「何が入ってるんだ?」
「やめろ! 開けるな!!」
筒を開けようとした慧音に、妖夢は必死に訴えた。話すたびに血の珠が口から舞った。
しかしそれを無視して慧音は開いた。
中から淡い桜色に光る蝶が飛び出した。
「これは西行寺の」
慧音には見覚えがあった。この蝶は妖夢の主人である西行寺幽々子の弾幕の一つである。
蝶は羽を休める場所を探すようにゆらりゆらりと飛ぶ。
懸命に羽ばたく蝶から、得体の知れない不気味さを感じ、二人はその場から数歩退いた。
「嫌! 来るな! あっちに行け! あっちに行け!」
壁に埋め込まれる妖夢だけが動けず、懸命に身を捩る。
「助けて!! 誰か!! このチョウチョをどこかへ!!」
「この蝶はなんだ?」
「幽々子様の能力が込められた蝶です! これに触れられると死んでしまうんです!」
「生徒の直接の死因は全部こいつか?」
「そうです!」
妖夢のその言葉の後、慧音はスペルカードから出現させた剣で蝶を切り裂いた。
二つに分かれた蝶が地面に落ちる頃にはその姿を消失させていた。
「ほぅ」
「何を安心してる?」
切先を妖夢の首筋に当てる。
「洗いざらい喋ってもらうぞ」
妖夢は、ゆっくりとではあるが、犯行の手口を話し始めた。
まず幽々子が、自身の能力が篭められた蝶の入った筒を妖夢に渡し、妖夢がそれを使い寺子屋の生徒を殺害する。
そして子供の死体を回収し、事故や猟奇殺人に見せかけた。
事故と猟奇殺人を交互に行ったのは、捜査をかく乱するためであった。
子供の殺害は短期間で終わらせるつもりだったため、自警団がほんの少しでも戸惑えば、それで良かった。
三件目と五件目に筒が現場から見つかったのは、妖夢が自身のアリバイを作るために、生徒に筒を渡してその生徒が一人でいる時に開けさせるよう仕向けたからだった。
ちなみに、妖夢が猟奇殺人現場を完璧に再現できなかったのは、青娥がプロファイリングした通り、子供に対する申し訳なさと、性器に対する恥じらいが邪魔をしていたためである。
「私も幽々子様もこんな事はしたくなかった」
「黒幕は幽々子じゃないのか?」
「幽々子様がそんな無慈悲な事を進んでやるものか!」
「じゃあ誰だ?」
「わからない。幽々子様は教えてくださらなかった」
「他に何か知っていることは?」
「これで全部です」
「そうか、じゃあ死ね」
剣の柄が妖夢の顎を穿ち、彼女の意識を刈り取った。
冥界、白玉楼。
「遅いわねぇ、妖夢」
西行寺幽々子は葬儀に出席するために出掛けた妖夢の帰りを待っていた。
「それにしても、切り刻んだ子の埋葬に顔を出すなんて、真面目というかなんというか・・・あら?」
屋敷全体に漂っている霊魂の様子がおかしい事を感覚で察知した幽々子は、障子を開け放って外を見た。
「妖夢っ!?」
門の前で倒れている従者の姿を目の当たりにし、履物も忘れ、庭に飛び出して彼女の元へ駆け寄る。
抱き起こした妖夢は、露出している肌の大部分に痣を作っており、顔も目蓋や唇など見るも無残に腫れ上がっていた。
「何があったの!? 誰にやられたの!!」
「・・・ッ、ア」
妖夢の口の中に何かが入っていることに気がつき、指を突っ込んでそれを取り出す。
出てきたのはクシャクシャに丸められた紙だった。『報復』と筆で書かれていた。
「待ってて、今手当てを」
妖夢は手足を縄で縛られて身動きを封じられていた。
「・・・だめ、です。ゆ・・・コ、さま。離れ、て」
「いいからジっとしていない。もう大丈夫だから」
手の縄を解いた瞬間、妖夢の体は突如炎上した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
あたり一面が明るくなり、光源である妖夢はのた打ち回る。
妖夢の服の内側には燃料を染み込ませた布が巻かれており、妖夢の手の縄を解くとそれらが着火する仕組みになっていた。
「妖夢! 妖夢!!」
自らの帯を解き、羽織っていた着物を妖夢に被せて消火を試みる。
しかし火の勢いは止まらず、妖夢は苦痛の声をあげての転がり続ける。
結局、遠くの井戸に水を汲みに行くことで妖夢の火は消えた。
「紫! いるんでしょう紫!? 出てきて!! 出てきなさい!!」
空に向かい、幽々子はヒステリックに叫んだ。
妖夢を捨てた帰り道。
「なぜあのまま西行寺幽々子に詰め寄らなかったのですか?」
「相手は所構わず死をばら撒く悪霊だ。今挑むのは部が悪い」
彼女の天敵、不死者である妹紅を連れてから、幽々子を追い詰めようと考えていた。
しかし、里に戻ってきたその時。計画は練り直さなければならないと慧音は思った。
「どういうつもりだお前達?」
慧音を迎えたのは武装した自警団の面々だった。
「先生。貴女を拘束します。大人しくついて来てはいただけませんか?」
「どういうつもり・・・・・・そうか、西行寺幽々子は八雲紫と親しかったからな」
八雲紫に何か言われたのだと悟る。
「同行していただけますね」
「ああ」
上白沢慧音は人間を攻撃しない。だから彼らに一切の抵抗が出来ない。
こうして、あっさりと拘留所に連れて行かれた。
青娥の姿は、いつの間にかその場から消えていた。
拘留所の牢屋の中。
持ち物と服を取り上げられ、代わりに支給された作業着に身を包む慧音の姿があった。
「良いザマね」
格子の向こう。彼女を嘲笑する者が居た。仮眠を取っていた慧音はその声で目を覚ました。
「妖夢は今、全身重度の火傷で生死の境を彷徨っているわ」
「境界はお前の領分だろう。救ってやると良い」
「じゃあ貴女の皮膚を全部はがして妖夢に移植してあげようかしら?」
隙間の上に座る八雲紫は壁にもたれ愉悦の表情を浮かべる。
「せっかく『関わるな』と忠告して差し上げたのに」
「やはりお前が主犯か?」
「いいえ。私はただの傍観者。黒幕は他にいますわ」
「是非曲直庁か」
「あら、お気づきでしたか?」
「幽々子に命令できるのなんて、貴様を除いてソコくらいなもんだ」
冥界の白玉楼と彼岸の是非曲直庁。両者は死者の魂を管理を連携で行う、いわば協力関係にあった。
ただ規模は是非曲直庁が白玉楼よりも大きいため、表向きは対等な関係だが、実際の立場は是非曲直庁の方が上である。
「何故あの絶対的正義を振りかざす是非曲直庁が子供を殺すよう指示なんて出す?」
「それは教えられませんわ」
「なら。直接会って訊くとしよう」
立ち上がり、格子の前に立つ。
格子に触れると、その表面に小さな火花が散った。
どうやら結界が張られているようだった。
「悪いけど。あなたがココを出て最初に向かうのは処刑場よ。児童連続殺人犯としてね。今、貴女を犯人と断定する嘘の証拠が作られている最中よ」
「妖夢を焼いた事に対する報復か?」
「正確には幽々子を悲しませた罰よ。明日の朝までせいぜい悔いるがいいわ」
「今、何時だ?」
「そんなに気になる? 自分の余命が?」
紫は手首を返し、腕時計の時刻を読む。
「ちょうど16時ね。喜びなさい。あと半日は生きていられるわ」
「そうか16時か、なら半分とまではいかないが、ある程度はやれそうだ」
「 ? 」
首を傾げる紫を余所に、片足を上げ、体を少しだけ後方に傾ける。
「やめときなさい。生半可な力で結界に挑めば大怪我よ」
「下級妖怪用の結界にしたのは失敗だったな」
「へ? ひゃっ!?」
格子が蹴飛ばされ、紫は外れた格子と背後の壁に挟まれそうになり、咄嗟に隙間に潜り込んだ。
「私の帽子はどこだ? あった」
通路の向こうにあった机の上に、自分の服と所持品が保管されているのを見つける。
作業着を脱ぎ捨てて、普段着に袖を通す。
帽子を被ったその時だった。
「お待たせしました慧音様」
牢獄の壁に丸い穴が空き、そこからにんまりと笑う青娥が表れた。
「遅いぞ。どこで油を売っていた」
「豚箱にぶちこまれても相変わらずで安心しました」
青娥の穴から外へ出る前に一度だけ振り向く。宙を漂う隙間はどこにも無く、紫の姿も消えていた。
「なんだか里は慧音様が犯人だという噂で持ちきりですよ」
「そうか」
「ちなみに今夜、寺子屋の生徒は全員、命蓮寺の本堂に疎開するそうです」
そこの妖怪が一晩中見張り、子供を守るのだという。
慧音を除く里の面々は命蓮寺に信頼を寄せているため、反対する親はいなかった。
「昔から、何故か子供を見守る存在であるはずの地蔵が気に入らなかった。その理由がやっとわかった。奴らは見守ってるんじゃない、子供の罪をカウントするために監視しているに過ぎなかったからだ」
「何をされているのですか?」
腕を伸ばし、夕日に手をかざす慧音に問いかける。
「日没までの時間を計っている・・・・・・暗くなるまで、二時間そこらだな。いくぞ」
「えっと、どちらへ?」
「お地蔵様の所だ」
三途の川。
現世から切り離されたこの場所に朝や夜という概念はなく、決して晴れる事の無い濃霧があたり一帯にたちこめている。
浅瀬に寄せられた舟の上で寝転び、くわぁと欠伸をする小野塚小町の姿があった。
「退屈だねぇ」
「そりゃあ丁度良かった」
グラリと舟が大きく揺れる。慧音が舟に乗り込んだのだ。
「閻魔のいる是非曲直庁まで頼もうか」
「おいおい。なんだいイキナリ?」
「時間が惜しい。今すぐ出せ」
「どんな事情かはわかんないが、そんな慌てなさんな、急がば回れというだろう。一服くらいさせとくれよ」
ゆったりとした動作で、懐から煙管を取り出す。
「あんたも吸うかい?」
「いや、遠慮し・・・ッ!?」
小町は煙管を持った手を、慧音のいる方向に素早く振った。
慧音は咄嗟に顔を横に逸らす。頬を煙管が掠めた。
「行かせないよ四季様の所には」
慧音が体勢を崩している間に、小町は舟の淵に引っ掛けた鎌を取り慧音に向ける。
「大人しく帰るっていうなら、見逃してあげるけど?」
「ここまで来て何もせず帰るなら、死んだ方がマシだ」
「そうかい、じゃあお望み通り」
慧音目掛けて振り下ろす。
「ぐっ!」
しかし、振り下ろされるはずだった鎌は小町の手を離れて、あらぬ方向へと飛んで行った。
小町の手首を、たった今彼女が投げた煙管が貫通していた。
「落としましたよ、死神さん」
「・・・この邪仙め」
煙管を投擲したままの姿勢で微笑む青娥を見て、歯軋りした。
忌々しさを浮かべるその表情は、次の瞬間には、慧音の足がめり込んでいた。
倒れこんだ小町の腹に蹴りを二発入れると、反射的に体が丸めたため、青娥の方を見た。
「こいつの鎌を拾え! バラバラにしてやる!!」
「情報を引き出さないのですか!?」
「そんなのは殺した後だ!!」
「もう無茶苦茶です!」
「いいから持って来い!!」
「正当防衛とはいえ、それ以上の蛮行は過剰防衛になりますよ?」
凜としたその声に、三人の動きが止まる。
「貴女は少し見境が無さ過ぎる」
「貴様が説教できる立場かこの殺人鬼」
殺意を隠すことなく、そこに現れた映姫と対峙する。
今の慧音は怒りで爆発寸前だった。
「子供守るどころかその逆、まさか殺すように仕向けるとは、サボタージュする部下よりも悪質だな」
「すべては幻想郷のため、気の毒ではありますが、彼らには犠牲となってもらいました」
「何が幻想郷のためだ!」
慧音が腕を振うと光弾が発生し、映姫に目掛けて飛んで行く。
弾幕ごっこでは決して使用することのない、相手を殺すためのモノだった。
「外の世界から忘れられた様々な種族・存在が暮らす幻想郷はあまりにも狭く、維持するために絶妙なバランスを保っています」
事も無げに映姫はそれを回避する。
「ここ五十年で妖怪と人間の関係も徐々に穏やかなものに変ったせいで、里の人口は昔に比べ倍以上になりました。人が増えすぎて力を付ければ、妖怪は徐々に衰退します」
「それのどこが悪い! 人間が生きようと必死に努力した結果だ!」
「幻想郷は巨大なビオトープなのです。一箇所がバランスを失い、傾けば全てを巻き込みながら崩壊する」
再度放った光弾と共に急接近し、前蹴りを打ち込むが、片腕で易々と止められる。
「私が話しているんです。ご静聴いただけますか? そもそも動機を知りたくてここに来たのでしょう?」
「それは無理な相談だ。目の前に元凶がいて、静聴など出来るものか。そんなに喋りたいなら勝手に話してろ。私も勝手にやらせてもらう」
「ではそうさせて頂きます」
素早く映姫がその場を跳び退くと、たった今居た場所に剣と盾と鏡が突き刺さった。
「バランスを失った幻想郷は、必ずや厄災に見舞われ大勢の死者を出すでしょう。幻想郷に宛がわれている冥界のスペースは、他に比べてとてつもなく狭い。
大量の死者が出れば、冥界はパンクしてしまい多くの魂が輪廻を外れ、二度と戻れなくなる。魂の絶対数が減るのは幻想郷にとって大きな損失です」
「それでバランスを保つために子供を間引いたってか!? そんな有るか無いかもわからないイベントなんかの為にか!? 寝言は寝て言え!!」
「いいえ。バランスを失えばその時が必ず来ます。時に大災害という形で、時に種族間での戦争という形で」
そうなる事を危惧した是非曲直庁は、西行寺幽々子にその事を伝え、協力を要請した。
「最初は渋りましたが協力してくれました。二人には気の毒な事をしたと思っています」
「汚れ仕事は他人に押し付けて、自分は高みの見物か。良いご身分だな」
「私とて、自分で全て背負い込みたかった。しかし、西行寺幽々子の能力なら・・・・・・いえ、これ以上は止めておきましょう。ここから先の話を、貴女は信じないでしょうし、私も言い訳がましくなってしまう」
首を振り、数秒俯いてから顔を上げる。
「さて、私の話は以上です。ご自由に動かれて結構です」
「よく言う」
話している間も慧音は一方的に攻撃を続けていた。
しかし、撃った光弾は当たらず、顕現させ投げつけた暗器は弾かれ、振った手と足は悉く空を切った。
力の差は歴然だった。
「貴女がこれ以上続けるというのなら、私も応戦しなければなりません。それでも挑みますか?」
「当然だ。目の前に人間の仇敵がいて、素通り出来るほど無神経じゃない」
「ならば仕方ありません」
この直後、突風のような強い衝撃に慧音は襲われた。
体が宙に浮き、黒い雨が降ってきたと思えば、次の瞬間には体に無数の切り傷ができ、完全に視界が奪われる。
自分の意思で飛んでいるワケでもないのに中々地面には落下せず、その間も珠の様な肌はズタズタに裂かれ続けた。
背中に伝わる衝撃からようやく落下したとわかるも、体はあらゆる方向から力を受けて転がり続けた。
「手加減はしたつもりだったのですが」
映姫の前に、悲惨な姿の慧音が横たわっていた。
「ぅ・・・・・・ぁ、っく」
衣服など残ってはおらず、帽子は跡形も無い。
全身の皮膚はまるでなめされたかのように剥がされて、所々筋肉が露出し、その表面から血がじんわりとにじみ出ている。
「畜・・・生・・・」
爪のない手が地面の土を握り締めながら上体を持ち上げ、骨を覗かせる足が体の重心を制御しようともがく。
血にまみれたその姿で、慧音は立ち上がった。気迫だけで体を支えている状態だった。
「引きなさい。このままでは死にますよ?」
「断、る」
満身創痍の身を引きずるように動かし、映姫のもとへと歩み寄る。
「せめて、一発、頭突カせ、ろ」
血にまみれた慧音は、映姫の胸倉を両手で掴みあげた。
映姫はいたって冷静で、静かな瞳で慧音を見据える。
「いいでしょう。それで貴女の気が幾分か晴れるのなら。甘んじて受けましょう」
「取り、下げぅ、なヨ?」
「私は閻魔。嘘など吐きません」
「そ、うか」
体を大きく仰け反らせる。勢いをつけるためか、慧音の仰け反りは大きく、映姫から見えるのは慧音の胸だけで、その向こうにある首は隠れてしまうほどだった。
「せいぜい後悔しろ」
「 ? 」
映姫はいぶかしんだ。死にそうな人間が出す声にしては、あまりにも鮮明に聞こえすぎた。
「ここには朝昼夜の概念が無いからな。ちゃんと変身できるか不安だった」
また鮮明に聞こえた。
映姫は慧音の体を凝視する。
出血はすでに止まっており、皮膚が破れ裂けて露出した骨や筋肉の表面には薄皮が張られ始めていた。
腹に浮かんだ複数の眼球と映姫は目を合わせた。
「そうか今夜は」
「満月だッ!!!!」
避けようと思えば、妨害しようと思えば出来た。しかし閻魔の矜持がそれを拒む。
石膏が砕けるような音がした。
「たった今、あっち側で日が沈んだようだな」
逞しい二本の角に、緑色の尾。それがハクタクへと変身を遂げた慧音の姿だった。
「ぐぉぁ・・・」
ハクタクという聖獣の力を引き継いだ体での頭突きは、閻魔に激痛を与え、意識を混濁させるには十分だった。
「うぅぷっ」
映姫は跪き、その場で嘔吐する。
「死ねケダモノがッ!!」
足に吐瀉物が掛かるのも構わずにその腹を蹴飛ばした。
さらに追い討ちで拳を見舞うために振りかぶる。
「四季様!」
拳が届くよりも早く、小町が映姫を抱えて舟に着地し、姿を消した。
「逃がすか!!」
「もう手遅れです!」
追いかけようとする慧音の手を青娥が掴む。
「能力を使われたんです! 逃げられました!」
今頃、映姫たちは対岸にいるだろうと青娥は推測する。
追いかけようにも、小町が距離を操って、川の幅を無限に近い距離にしているため追いつけない。
結果だけ見れば勝利だが、二人は釈然としなかった。
ハクタク化しているせいか、慧音の体の傷はわずかな時間で殆ど治っていた。
中有の道で青娥が見つけてきた着物を着て、里に戻って来ると、夜中にも関わらず、里は騒然としていた。
「何かあったんでしょうか?」
「落雷事故よ」
青娥の疑問に、隙間から現れた紫が答えた。
「雷は命蓮寺の本堂に落ちて、そこで寝ていた子供は全員死んだわ」
「なにっ!!」
その言葉に慧音は駆け出す。辿りついた命蓮寺の庭には、ゴザが敷かれ、その上に生徒が並べられていた。
『■■■■■ー■■■ー■■ーッ!!!!』
獣のような咆哮をあげ、子供達の前で手を合わせている聖白蓮に向かい、突進した。
気がつくと慧音は里の外れにいた。
「あのままだったら、寺の住職を殺しかねないので、移動させてもらったわ」
我に返った慧音は向き直る。
「ああ、そうそう。妖夢、なんとか一命を取り留めたみたいよ。しばらくリハビリすれば復帰できるみたい」
「そんなどうでも良い! どういう事だ! 説明しろ!! 寺に落ちたという雷はなんだ!」
落雷事故が偶然でない事くらい慧音にもわかった。
「幻想郷のバランスが崩れると厄災が起きるというのは閻魔様から聞きましたわね?」
覗き見されていた事に別段腹は立たなかった、早く真実が知りたかった。
「厄災が起きないように博麗大結界には、自浄能力を持たせてあるの。バランスが崩れそうになると、幻想郷がまるで意思を持ったかのように、安定を妨げるものを排除しようとする機能が」
「それがあの落雷だというのか?」
「だって仕方ないでしょう。50匹しか収容出来ない豚小屋に80匹も入らない。増え過ぎたら減らさなきゃ。子供の数が減れば将来人口を減少させられるわ」
「ふざけるな! そんなんじゃいくら人間が努力した所で、永遠に繁栄なんて出来やしないじゃないか!!」
「逆に妖怪が増えすぎたら、妖怪が排除されるわ。その点は平等だから安心なさい」
「閻魔はあの時、この自浄作用の事を言おうとしてやめたんだな?」
「そうよ。彼女はこの仕組みを知っていた。だから、幻想郷に惨たらしく殺されるくらいなら幽々子の能力で安楽死させてあげることにしたのよ」
死体の加工は捜査をかく乱するための苦渋の決断だった。
幻想郷が間引きを行う前に、自分達の手で行う必要があった。捜査が進展し、自分達が犯人だと特定され邪魔されるのを何よりも恐れた。
「私があいつらの邪魔をしたから、子供を減らすノルマが達成できなかったから、あの落雷は起きたのか?」
「それはわかりません。そうかもしれないし、違うかもしれませんわ」
紫の前に隙間が展開される。
「今回の事件の収集は、呪いとか快楽殺人の好きな妖怪とかで、適当にお茶を濁しておくわ。それじゃあ御機嫌よう。いかれた里の守護者さん」
一瞬だけ憐れむような目をして、紫は隙間の中に消えていった。
「あ、こちらにいらしたのですね。随分と探しましたよ・・・・・・慧音様?」
青娥が見つけた慧音は、虚ろな目で、膝を抱えて俯いていた。
「これはひょっとしてチャンスというヤツですかね?」
青娥は思わず舌なめずりする。
「生徒さん達は本当に残念でした」
「・・・」
「しかし、慧音様は立派に戦いました。それだけはどうか誇ってください」
「・・・」
「どうか気を落とさないで」
反応の無い慧音の頬に青娥の手が触れる。
普通なら殴り返してくるはずだが、その様子は無い。
「貴女は、いつからこんな風に孤独と戦いながら里を守ってきたのですか?」
「・・・」
「今回の件で私、良いパートナーに巡り会えたと思うんです。貴女を真に理解できる気がするんです」
「・・・」
「幼い頃に御両親が他界されたんでしたっけ? ひょっとして、今まで誰にも甘えられずに来たのではありませんか?」
「・・・」
「私なら、全てを受け入れてあげられます」
髪を優しく掻きあげて、その顔を覗き込む。
眼球が動いていない事を確認すると、自身の髪に手を伸ばし、そこに刺さる蚤を引き抜いた。
「大丈夫です。怖くないですよ」
ゆっくりと慧音のコメカミに蚤を近づけていく。
コメカミに触れようとしたその時だった。
「らぁ!!」
「ぎゃん!」
慧音の頭突きが、青娥に炸裂した。
「今何をしようとした!!」
「もーそんなに怒らないでくださいよ。ちょっと傀儡にしようとしただけじゃないですか・・・あつつつ。これは確かに吐きそうになりますね」
慧音は立ち直ったらしく、その目に迷いは無い。
「貴様との協力関係も今日で終わりだな。金輪際私に近づくな。里で見かけても容赦しないぞ」
「これからどうされるのですか?」
「今までと変らない。里を守り続ける。人間に仇なす妖怪を殺し、里の中に潜んでいる人間の皮を被ったケダモノを刈る。
特にケダモノは今まで以上に徹底的に駆逐する。あいつらが人間としてカウントされているせいで、私の生徒は間引かれた」
そうやって時間を稼いでいる内に、何か打つ手を模索していくつもりだった。
「困ったら私の所にいらしてください。きっとその頃には聖人も復活してるでしょうし、何か力になれるかもしれません」
「気が向いたらアテにしてやる」
慧音は身を翻して里の方を向き歩き出す。
見送る青娥の目の前で、徐々にその輪郭は暗闇の中へと溶けていった。
作品情報
作品集:
30
投稿日時:
2012/08/19 14:49:58
更新日時:
2012/08/20 20:41:40
分類
産廃百物語B
上白沢慧音
霍青娥
八雲紫
四季映姫ヤマザナドゥ
寺子屋生徒連続不審死事件
バイオレンス・ケーネ先生
話の中身も面白かったです
敵が『システム』では、ねぇ……。
『警告』も、自体をあえて撹乱するためのものだったのかも……。
典型的な、ダークヒーローの誕生でした。
この青娥にゃんと慧音先生みたいな関係に憧れるな。
もう慧音先生がいればある意味里は安泰なんじゃ……
最後には慧音先生がキョンシーにされて
里の人間を間引いたりしないだろうか。
見ている方向は違っても慧音先生に寄り添っている青娥にゃんかわいい!
俺の理想の先生でした
妖夢は事件の直接の実行犯であるのだが、本編中のあまりの仕打ちに思わず同情してしまった
いいぞ、もっとやってください
人間のためにいかなる行動もいとわない慧音先生も
いずれかは幻想郷という大いなる意志の前に敗れて
排除されるのだと思うと興奮する
その選定はランダムなんでしょうか?
紫など特権階級は、死の阿弥陀くじに参加することはないのでは・・・?
しかし『未熟な子供』を殺すことこそ、『将来の芽』を潰していくことだと理解しているのかな。
進歩の無い世界には衰退しか待っていないのに。
辺り構わず拳銃藍しゃまなキチガイと同じ狂った正義のクズけーねと、より面白そうな方についてひたすら引っ掻き回すのが大好きなカス青娥は案外似合いの二人かもしれませんね。
それぞれの善意や正義が絡み合った結果の救いの無さが、実に切なくて良かったです。
…しかし、もこもこ王国との落差がすげぇなw
慧音がニュートラルで娘々がカオスって感じだろうか。
勘定や理屈だけで動く人の方が賢いのだろうけど、あまり好きになれません。悲しくも強い信念を持った慧音先生と、優しくも哀れな魂魄ちゃんに、素敵な明日が来ますように。
でも群れるのは苦手。そんな人だと思う。
不思議な事に生徒を守る事を理由に暴力を働くロクデナシにしか感じなかった。
荀子や韓非子を愛読する私は慧音先生の検定には合格できそうもありません。
白玉さん家が小悪党で面白かったです。
システムに反逆する慧音自身が排除されるのはそう遠くないはず。あらゆるものに強硬を貫く姿勢は自警団どころかあらゆる住民にも嫌われるでしょう。破滅の道に突き進んでます。
が、そこまでして慧音を動かす慧音自身の動機がいまいち見えてこない。
その強硬な態度が、人道にかられてと思えないせいでしょうか。子供達の守護のためならあらゆる行為は許されると思っているみたいですし。むしろ慧音は子供を利用しているとさえ言えるでしょう。
慧音はただケダモノを殺したいだけで、その理由をその都度探しているだけなんじゃないですか?
…以上が正直な感想です。某零崎は読んだことないのでどの程度パロられてるのかは分からないのですけど。
あと、目についた管理者側の不備。
1.育ててから間引くから一悶着おきるのだから、赤ん坊の時に間引いておけばよかったのでは。どの程度増えるか予測できないのなら致し方なしですが。
だからといって一時期にまとめて、それも猟奇殺人に見せかけるのは関心を集めすぎで、妙手とは思えません。
2.紫も四季も思わせぶりなこと言ってないでとっとと真相言えばよかったのに。どうせ最後にはバラす程度の秘密でしかないのだから。
探偵物だと思って読んでいて、まぁ大凡はそうだったのですが、読後感としてはアンドロイドは電気羊の夢を見るか(の敵のレプリカント)、ガタカ、アイランド、タイム等のSF作品の、「統制された世界の不条理に挑む」系作品かな、なんて。
慧音先生ははたして今後どう打って出るか。
18番の方のコメにある「管理者側の不備」は、なんというかまぁ紫等が人間をなめてるから、で説明がつくように思えて私は気になりませんでした。
実際問題、慧音というイレギュラーが居なければ、なめた対応でも問題無かった訳ですし。イレギュラーが居ても結局、大勢に影響は無かった訳ですし。