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『脇巫女・霊夢/前編』 作者: コメごん
「たぶん1万回やっても結果は同じだと思うけど…」
博麗神社の境内。
早苗と霊夢が戦っていた。
それを見守るのは既に敗北したと思われる魔理沙、そして高みの見物を決め込んでいるスキマ妖怪。
「それなら、1万と1回目で勝つかもしれないじゃないですか!」
どうやら早苗のほうはかなり諦めが悪いらしく、かなりの長時間、霊夢との戦いを続けていた様子。
見たところ、明らかに満身創痍の早苗とは対照的に、霊夢は呼吸も乱れず平然としている。
「もうやめとけよ、たぶん奇跡が起きても勝てないと思うぜ」
見かねた魔理沙がそう助言するが、早苗のほうはまだまだやる気のようだった。
「たぶん霊夢がその気になれば萃香や幽々子、紫にだって負けないと思うし…」
何か諦観すら感じさせる声色を放つ魔理沙。
相変わらず紫はニヤニヤしたままの表情を変えない。
「それって…どういうことなんですか?」
魔理沙の何気ない一言を受け、完全に戦意を喪失した早苗は魔理沙へと振り返った。
「どうもこうも、霊夢はこの世界の" 主人公 "様なんだぜ」
「"主人公"……?」
一体何のことなのか、ちっとも理解できていない様子の早苗に魔理沙が続ける。
「この幻想郷はな、霊夢を中心に回っているってことだよ。 霊夢が負けたいとでも思わない限り、私たちは絶対に勝てないルールになってるんだ。」
「そんな、無茶苦茶な……。」
言われてみると、大した努力もしていないのに霊夢は強いし、人間、妖怪を問わずして人気がある。
霊夢は、早苗が外の世界で見てきた漫画の"主人公"そのものであった。
いつも涼しい顔をして、大抵のことは天才肌にこなしてしまう霊夢を尊敬していた早苗。
その強さの秘密が"主人公補正"にあったことを知り、沸々と怒りがこみ上げてくる。
「ずるいですよ! 何ですか主人公って!?」
「さあ?こればっかりは生まれ付いてのものだから、くじ引きに当たったようなものね……。」
どう足掻いても越えられない現実を突きつけられた早苗は、霊夢につかみかかった。
が、あっさりと一本背負いをくらい、固い石畳に押さえつけられる。
「があああああーーーー!」
腕を完全に極められ、獣のような咆哮をあげる早苗。
対して早苗にのしかかる霊夢は、完全に見下した表情のまま押さえ込みをキープ。
「私が主人公なら…絶対に……負けないのに…!!」
「無駄よ、仮にあんたが主人公でも、選ばれし存在である博麗の巫女には勝てっこないわ。」
早苗は痛みと悔しさで顔面を真っ赤にして泣いていた。
今までは勉強でもスポーツでも、努力を重ね、ライバルと切磋琢磨し、最終的には勝利を収めていた。
その真っ当ともいえる成功プロセスが"主人公だから"というわけの分からない理由で完全に崩壊したのだ。
生まれて初めて味わう世界の不条理と、自身の弱さにただただ慙愧の涙を流し続けるしかなかった。
「そうだな、たしかに早苗が主人公なら勝てるかもしれないな」
若干挑発のニュアンスを含め、魔理沙がそうつぶやく。
「霊夢がもし主人公じゃなかったら、今頃何回か死んでいると思うわ」
今まで一言も漏らさずに傍観していた紫が口を開く。
魔理沙はともかく、紫の発言にはさすがの霊夢も反応した様子で、不服そうな表情を浮かべた。
「さっきから主人公主人公って、私はそんな補正が無くとも強いわよ。 その証拠に魔理沙も早苗も、レミリアたちだって私には勝てなかった。」
少しイラついているのか、霊夢の語気には怒りが含まれ、無意識にも早口になっていた。
「私が本気になれば紫、あんただってたぶん実力で倒せると思うわ。 月面人だって本気出せば余裕だったし、殺し合いならあんな連中ワンパンよ!」
普段は自分の強さを誇示しない霊夢ではあったが、あまりにも才能ばかり指摘されたせいか、腹いせにダウンした早苗の腹につま先をめり込ませた。
肋骨の間に深々と進入したつま先は、早苗の肺から空気を無理やり押し出す…。
「うぐっ!?」
小さくくぐもったうめき声を上げた早苗は、ダンゴムシのごとく無様に丸まり、必死に酸素を求めようと痙攣していた。
それだけでは飽き足らない様子の霊夢は、靴で早苗の頭をゴリゴリと踏みつける。
「だ、…だったら霊夢さん……。その主人公ってやつを私に譲ってくださいよ…! そんなもの無くても強いんでしょ!?」
顔面傷だらけになりながらも霊夢に必死の提案を持ちかける早苗。
痛そうだな、と思いつつも意地の悪い笑みを浮かべた二人の観客がそれに続いた。
「そうだな、早苗の言うとおりだ霊夢。お前は主人公だから強いんじゃなくて、霊夢だから強いんだよ。私もそう思う!」
「あなたが本当に強い存在だってことを自他共に証明するチャンスよ!霊夢、ちょっとだけ早苗に"主人公"を譲ってみたらどうかしら?」
二人の意見が本心から出ないことは明確に理解していた霊夢だったが、自分自身引っ込みが付かないところに追い込まれたことを感じていた。
ここで冷静になればよかったのだが、超然とした霊夢もやはりまだ子供。勢いに任せて早苗に"主人公"の立場を譲ってしまった。
(どうせ一時的なものだし、いざとなれば早苗を再起不能にしてしまえば問題ないことだわ……)
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霊夢が早苗に"主人公"を譲ったものの、霊夢も早苗もこれといった変化はなかった。
内心変化が無かったことを喜んでいた霊夢ではあったが、一ヶ月二ヶ月と日が経つにつれ、なにか違和感のようなものを感じ始めた。
「今日も…暇、ね……」
月に一度くらいは、萃香でもレミリアでも、誰かしら神社に遊びに来るものだが、それを全く見かけなかった。
気晴らしに外をぶらついてみれば、アリスや魔理沙を見かけることがあったし、行方不明になったわけでもない。
霊夢としても神事や掃除の邪魔をされるのは嫌だし、一人でいたほうが好きという性分でもあったが、さすがに少し寂しさを感じざるを得ない。
紫も仕事としてやってくることはあるが、事務的に用事を済ませたらすぐに消えてしまう。
(これが主人公でなくなったということなのかな? )
それでも自分から誰かを誘って遊びに行くというのも面倒くさい。
こっちからお願いして断られるのは癪に障るし、すごくかっこ悪いことのように思えた。
今までは完全に受身でも宴会に誘われたり、自分が幹事を押し付けられることもあったのだが、今ではそれも無い。
・・・やることもないままゴロゴロしていたが、日が沈む頃になってから気晴らしにでもと、散歩に出かけることにした霊夢。
誰かと偶然出会えることに少し期待しながら、山道をぶらぶらと歩いていく。
その途中、人形遣いのアリス・マーガトロイドの姿を見かけたので、気が付かないフリをしつつ低空飛行をしてみた。
だがアリスは霊夢の姿に気が付かず、どこかへと向かう足を止めなかった。
(おかしいな…この距離だったら絶対に気が付くと思うんだけど)
本当は声でもかけて話がしたいところだったが、なんとなくそうしたら負けのような気がしたので、霊夢はそのまま飛び去ってしまった。
アリスがどこに向かっていたのか気になったので、彼女の向かっていた方向に飛び続ける霊夢。
その進路上には射命丸やレミリア、命蓮寺の奴らもいたが、霊夢を一瞥して去るものや、形式上の挨拶だけして通り過ぎていく。
別に嫌われているとか、無視されている感じはしないものの、反応が妙にそっけない感じを受ける霊夢だった。
このままでは埒が明かないと思った霊夢は、そんな連中の中から魔理沙を見つけて呼び止めた。
「久しぶりじゃない魔理沙。みんなどこかに向かっているようだけど、なにかあったの?」
無視でもされたら嫌だなと、少し前の霊夢なら思いもしなかったような不安を抱いたまま話しかける。
「ああ、久しぶりだな霊夢。そういえばお前は来てなかったもんな」
「来ていないって何のこと?」
「何ヶ月か前からだが、たまに早苗の神社で宴会があるんだよ。お前以外はみんな来てるぞ」
早苗の守矢神社で宴会があるだなんて全く連絡を受けていない霊夢は内心かなり動揺していた。
どうして博麗の巫女である自分がその手のイベントに呼ばれないのか。
本来なら誰よりも先に招待されるべきなのに、これも早苗の嫌がらせか何かなのか…。
「ちょっと魔理沙、私そんな宴会のことしらないし、招待もされてないんだけど!」
ありえない、どうして私がこんなのけ者にされるのか理解できない様子の霊夢。
「基本的にみんな招待なんてされてないよ。萃香が人を集めたり、天狗の広報活動があったり。まあ色々あると思うが…。
それに以前お前のところでやっていた宴会だって、お前が人を招待したりなんてしてなかったろ」
魔理沙の言うとおりだった。
博麗神社で行われていた宴会は、迷惑にも萃香や紫たちが勝手に神社を会場にして集まっていたもの。
霊夢が誰かを招待したことはなく、周りの奴らが自主的に動いた結果だった。
「お前も来るか? 普通は酒とか食べ物を持ってくるのが暗黙のルールだけど、早苗も文句は言わないと思うぞ」
「けっこうよ。妖怪みたいな小汚い連中が集まる宴会なんて行きたくないし、私は独りで飲むのが好きなの!」
本音を言えばものすごく参加したかった霊夢ではあるが、ここで参加してしまったら早苗に屈したことになる。
私は招待される側の人間であって、自分から動いて参加しに行くのはちょっと違うだろうと。
はたから見れば非常に傲慢な考えだが、主人公だった霊夢にとってはそれが生まれたときからのゆるぎない常識でもあった。
「あ、そう」
それだけ言うと魔理沙は霊夢を引きとめもせず、宴会への道へ戻ろうとする。
「まあ私は忙しいし!実は明日、人里で合コンがあるのよね!あんたは呼ばれて無いだろうけど私は色々忙しいのよね〜!!」
ドヤ顔で魔理沙に聞こえるよう大声を張り上げた霊夢だが、魔理沙は振り返りもせずホウキに乗って夜空へと消えていった。
合コンに誘われているなど、もちろんその場だけの出まかせである。
(何よ…なんで、私がこんな…理不尽な扱いを受けて…!)
だが、周囲は霊夢のことを嫌ってはいないし、ただの顔見知り程度の反応に変わっただけである。
別段理不尽な扱いを受けているわけでないことは、霊夢自身が痛いほど分かっていた。
無性に腹が立った霊夢は、大きな氷を抱えた笑顔のチルノを見かけると、わざと肩をぶつけて転ばせてやった。
霊夢による突然の暴挙に抗議の声を上げたチルノであったが、霊夢の顔を見るや舌打ちして宴会へと急いだ。
「…!」
実はチルノを怒らせてやるつもりだった霊夢だが、完全に無関心を貫かれ、不愉快な顔のまま家路へ向かうほか無かった。
(そんなに宴会が、早苗が大事なの…?)
彼女にはかなりの動揺が見えるようで、ふらふらと不安定な飛び方のまま低空を飛んでいく。
その目のふちには光るものが溜まっては落ちていった。
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翌朝、霊夢は夜中のうちに起床し、なにごとか準備を始めていた。
蔵から山のような紙の束を引っ張り出し、一枚一枚丁寧な書体で手紙を書いていく。
内容は博麗神社で大規模な宴会を行うというもの。
それはガリ版などによる印刷ではなく、完全に霊夢直筆によるものだった。
一人ひとりの名前に加え、霊夢と初めて出会ったときや、二人しか知らないような特別な思い出などなど。
ラブレターとでも言い換えてしまえそうな、気持ちのこもった招待状であった。
漢字が読めそうにない者にはふりがなを振ったり、分かりやすい図画が入れてあったりもした。
相当な人数分の招待状を作成したので、結局夜中まで掛かってしまった。
だが霊夢は、宴会の大成功を想像しながら幸せな寝顔を見せている…。
その後招待状を全て送り届けた霊夢は、宴会当日に向けて様々な準備を始めた。
当日の料理はどうするか、何か参加者を楽しませることは無いものかと、宴会芸について調べる努力もした。
もともと非常に器用だったため、マジックやソロコント、幹事としてのマイクパフォーマンスは数日でモノにしてしまった霊夢。
(これでどんな大規模な宴会でも完璧に成功させられるわ!)
今回の宴会準備は、霊夢が生まれて初めて本気を出した瞬間でもあった。
準備にはかなりのお金が掛かってしまったが、元々倹約家だったし、みんなを楽しませられるならば出費は惜しくなかった。
・・・そしていよいよ霊夢が主催する宴会の当日がやってきた。
「料理は前日の夜中から仕込んできたし、リハーサルも2週間前から万全を期したスケジュールでやってきたわ!」
料理は和洋中だけではありきたりと思い、トルコやフランス、ハワイなどの料理も本を参考にして作っておいた。
宴会芸のマジックは非常に大掛かりなものも用意したし、コントもブラッシュアップを重ね、プロの芸人として通用するレベルにまで高めた。
前日からの徹夜であったため多少疲労の色が見えていたものの、霊夢のやる気がそれを跳ね返している。
もともと天才的な才覚を持っていたため、それに努力が加われば結果は圧倒的。
(みんな早く来ないかな……)
・
・・・
・・・・・しかし日が暮れてからだいぶ経つにもかかわらず、会場である博麗神社には妖精の一匹すら集まっては来なかった。
「…どうして誰も来ないのかしら?」
招待状はもちろん送ったし、恥を忍んで射命丸にも大規模な宴会を主催すると繰り返し伝えておいた。
それが一人も集まってこないというのはいくらなんでもおかしい。
仕方ないので誰かが来るまで寝ていようと思った霊夢は、賽銭箱に手紙が挟まっているのを発見する。
「手紙か……紫が置いていったものみたいね」
ずっと神社にいたのだから、直接渡してくれればいいのに。
そう思いながらも中を開封した霊夢は、その内容に両目を大きく見開いてしまった。
「霊夢へ
せっかく招待してもらったんだけど、守矢神社で宴会があるのでそっちに行きます。
早苗も霊夢に会いたがっていた様子でしたよ。
霊夢はそちらの宴会がとても忙しいとは思いますが、暇なら守矢神社に来てみたら?
ゆかりんより 」
手紙を何度も何度も読み返した霊夢は、全身を痙攣させながらヤケクソに手紙を破り捨てた。
「何で、どうして!?意味分からないし!ありえないわよ! 私はこんなに、私がこんなにっ!!」
思い切り握り締めた握りこぶしからは赤いものが滴り落ちていく。
「うあああああああああああーーー! 許さん!絶対に認めない!この!博麗!霊夢が!こんな屈辱を!」
丁寧にならべたテーブルや椅子、苦労して作った料理などを片っ端から蹴り飛ばし、叩き潰していく霊夢。
「絶対に!絶対許さん!」「早苗!殺す!東風谷早苗殺す100%殺す!死体解剖する!」
「魔理沙も殺す!紫も八つ裂きにしてやる!」「アリスも射命丸もチルノもうどんげもレミリアもパチュリーも白蓮もみんな絶対に許さない!」
「天誅!抹殺!大虐殺!ポアポアポアポアポアダあああああああああああーーーーーー!」
途中からは完全に意味不明な絶叫をあげながら丸太で関係ない鳥居や本殿まで破壊し尽くす。
・・・「これは守矢による博麗神社に対する宣戦布告ね…」
そう結論づけた霊夢は、蔵から何かを引っ張り出すや、守矢神社へと飛んでいった。
長くなってしまったので、とりあえず前編です。
やはり霊夢のような天才少女は、完璧超人ではなく歪みや弱みがあったほうがかわいいと思うなぁ。
コメごん
- 作品情報
- 作品集:
- 31
- 投稿日時:
- 2012/09/02 18:58:27
- 更新日時:
- 2012/09/03 03:58:27
- 分類
- 霊夢
- 早苗
- 暴力
後編が楽しみ!!
アリス「霊夢が宴会の招待状?こいつは傑作だよ!」
萃香「あいつ、主人公をやめてから少しおかしくなったんじゃないの」
魔理沙「弾幕一筋に生きる火の巫女、博麗霊夢、それ以外の霊夢にはまったく興味がないね、反吐が出る!」
霊夢「結局、誰も来なかったというわけか……!」
早苗「巫女は宴会はやらん!なんならどうだ、霊夢。巫女は巫女同士、私とやらんか」
ということか
はいふざけましたすみません。
魔理沙!あなたぐらいは行ってあげなさいよ!?