Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『脇巫女・霊夢/後編』 作者: コメごん
守矢神社は山の上にあるにもかかわらず、その宴会は盛大なものだった。
いつのまにか神社が増築され、立派な社務所や手水舎に神楽殿、枯山水の見事な日本庭園まで造られていた。
(いつの間にこれほど大きくしたのかしら? きっとアコギなやり方で掠め取った汚い金に決まってるわ…)
宴会には幻想郷の著名人だけでなく、月面人や魔界の住人たちまで集まっており、神楽殿ではカラオケ大会が催されていた。
博麗神社での宴会も大きなものがあったが、かつてこれほど大規模なものが行われたことは無い。
食べ物や酒の良いにおいが漂ってきて、誰もが満面の笑顔で宴会を楽しんでいる様子。
そんな彼らの中心には"主人公"になった東風谷早苗の姿があった。
レミリアや白蓮、もちろんアリスや魔理沙たちも早苗と楽しい時間を共有しあっている。
(みんなだまされているんだわ…!あのクソピーマンに!)
目を覚ませてやろうと早苗のところまでやって来る霊夢。
強引に参加者を押しのけて早苗の隣に割り込む霊夢に対しブーイングが起こるが気にしない。
「何ヶ月ぶりかしら早苗。あなたたちにも招待状を送ったのだけれど、すごく楽しそうな宴会ね?」
明らかに当て付けの意味も含んだ台詞だったが、早苗は何のことだか分からない様子だった。
「招待状が送られてきただなんて一言も聞いていないし、届いてもいませんよ」
「嘘! だって直接諏訪子に手渡したんだから届いてないはず無いじゃない!」
実は霊夢が招待状を渡そうとしたとき早苗は外出していて、代わりに諏訪子が応対してくれた。
「本当なんですか諏訪子様?」
「え?手紙って何のことだっけ…」
早苗にそう聞かれた諏訪子はしばらく考えると、突然何かを思い出したかのようにニヤニヤし始めた。
「たしかナベ敷きがなかったんで、手紙を下に敷いたらうどんの汁で汚くなって捨てたんだろ」
神奈子が横から意外な真相を明かすと、諏訪子はヘラヘラ笑いながら地面へと逃げていった。
霊夢は苦労して書いた手紙の末路を耳にすると、こめかみの痙攣が激しくなっていく…。
(諏訪子のやつは徹底的にいたぶった後で爆殺することにするわ…)
早苗が来なかった理由は別にあったようだがそんなことは関係ない。
普段から霊夢のことを気にかけてさえいれば情報は伝わってくるはずだし、今は仮にも主人公なのだからそれ位する義務がある。
かなり自分勝手な理屈で早苗への憎しみを増した霊夢は、乱暴に早苗の髪の毛をつかみ、そのまま引っ張り出す。
「いたたたたた! 痛いですよ、何するんですか霊夢さん!」
「早苗、あんたが主人公としてふさわしい存在かどうか私がこの場で確かめてやるわ!」
どうせ今の早苗人気だって主人公補正とやらによるもの。
徹底的に痛めつけてから主人公の役割を返してもらえばいい。
これだけの観客がいる前で再起不能になるまでボコボコにしてやれば、周囲も早苗に主人公の資格なしと納得せざるを得ないだろう。
そう確信めいたものがあった霊夢だったが、周囲の反応は冷たいものだった。
「霊夢さ、冷静になって周りを見てみろよ」
魔理沙が呆れた表情で霊夢に語りかける。
「どう考えてもここはケンカする場所じゃないだろ。博麗神社に戻ってシャドーボクシングでもしとけ!」
至極真っ当な魔理沙の反応に、周囲の人妖たちも同意を重ねていく。
「そうだ!帰れ帰れ!」 「邪魔するな!」 「迷惑だ、消えろ!」 「死ね乞食!」 「赤いんだよ、お前!」
今までは霊夢霊夢と慕ってくれたはずの妖怪たちが、手のひらを返したかのように霊夢を罵倒する。
その中には萃香や天人、片腕の仙人なども含まれていた。
いつもは冷静な霊夢も、この反応にはさすがに答えた様子で、少々涙目になっている。
それを挑発するように、射命丸がフラッシュをたきながらいろんな角度から写真を撮っている。
便乗してはたても懐から出した携帯カメラで写真を撮ろうとした瞬間、霊夢回し蹴りがはたてのアバラをとらえた。
数本何かが折れる音がして、ミスティアの屋台まで蹴り飛ばされたはたては顔面から焼き網に突っ込む。
「うがあああーーーー!熱いあづいあづいいいいいいーーーー!」
網がひしゃげ、はたての顔面に張り付いたままなかなか外れない。
衣服に火が燃え移ると半狂乱になり、他の宴会客の群に突っ込んでいく。
少々遅れて、蹴られた衝撃による胃液の逆流がやってくると、はたては火柱を上げながらゲロを撒き散らす。
天狗の肉がこげる匂いと、炙りゲロが蒸発していくなんとも言えない異臭が、他の参加者の吐き気を呼び起こす。
幸い参加者が多かったこともあり、すぐに火は消し止められたが、はたての顔面には一生消えない火傷のあとができてしまった。
「フン、大人しく決闘に応じればかわいそうな天狗が生まれることもなかったでしょうに…」
周りからのさらなる罵倒を無視したまま霊夢は早苗への敵意を強める。
ここまできては霊夢も後戻りができないことがわかっていた。
「死すべし、早苗!」
先手必勝とばかりにとび蹴りを放つ霊夢。
だが、紙一重のところで横に回避され、すれ違いざまのヒジ打ちがアゴにヒットする。
「うぎっ!?」
早苗は無駄の無い動きと、以前には見られなかった技のキレを持っており、これは霊夢の予想をはるかに超えていた。
「いいぞ早苗!」 「修行の成果ですね!」
萃香や美鈴など、何人かが早苗に賞賛を送る。
「ふふふ、霊夢さん。もう以前の私じゃないんですよ。連日、萃香さんや美鈴さんに稽古をつけてもらい、通信カラテも極めた私です」
そう言い放つ早苗は、歪む視界の霊夢の前でカラテや中国拳法のカッコイイポーズをいくつも決めていた。
今のやり取りだけで霊夢は理解してしまった。
早苗との実力差は運や才能だけでは到底及ばないところまできてしまったということを…。
「そう…それは………良かったわね!」
視界がもとに回復するタイミングを待ち、霊夢は目潰しに砂を投げつけた。
妖怪相手には頻繁に使う霊夢の常套戦術の一つでもあったため、早苗はあっさりと視界を奪われる。
「くっ、目潰しとは…卑怯な!」
「これは決闘!殺し合い!卑怯もクソもあるかボケ!」
渾身のヤクザキックを放つ霊夢。
かろうじて十字受けでダメージを軽減させた早苗だったが、蹴りの威力は凄まじく、背後の巨木に叩きつけられる。
「ククク…楽しみになってきたわ。どうやって料理してやろうかしら」
かつての巫女としての誇りを完全に失った霊夢は邪悪な笑みを浮かべつつ、五寸釘のような針を取り出し舌なめずりを始めた。
心臓を一突きすれば即死させられるが、それでは面白くない…
あえて急所を外し、苦痛にのた打ち回らせて命乞いさせてやる。
だがもちろんそれに対する霊夢の返答は「NO」だ。
「ヒャハ 死ねいっ!」
前歯を食いしばりつつ、早苗の右肺をめがけ針を突き出す霊夢。
「避けろ!早苗ーーー!」
応援していた早苗の仲間たちが絶叫する。
針は衣服をあっさりと通過し、柔らかい皮膚と肉を貫通…するはずだった。
だが霊夢の視界に映っていたのは、早苗の服を着た丸太。
「忍術学園に通っていたことが命拾いにつながりました…」
すんでのところで緊急回避した早苗だったが、相変わらず視界は砂で封じられたままだった。
「姑息なまねをするものね。でも苦しむ時間が延びただけ…今すぐ地獄の楽園へ招待するわ!」
亜空穴を使い、早苗の死角へと転移した霊夢は必殺の抜き手を繰り出す。
勝利を確信した霊夢だったが、突如早苗は木に向かってとび蹴りを放った。
何をアホなことを、と呆れた霊夢は追撃のモーションに入ろうとしたが、眼前に飛び込んできたのは早苗のつま先だった。
「あ、あれは…!」
そう、かの有名な極真カラテ創始者、マス・オーヤマが編み出した奥義。三角飛びである。
初見であった霊夢は得意の直感による回避もままならず、完全に油断しきっていた。
早苗に踏み込む霊夢と、それを迎撃する早苗の三角飛び蹴りが衝突。
霊夢の顔面につま先が突き刺さり、反動で頭一つ分ほど首が伸びた。
頭蓋骨が内側へと陥没し、ゆっくりと真後ろに倒れて行く霊夢。
赤い泡を噴いたまま失禁し、ビクビクと痙攣したその姿をしばしの静寂が包み込んでいく。
(大山館長、東風谷早苗は勝ちました。霊夢さんではなく弱い私自身に!)
東風谷早苗の大勝利を見た妖怪たちは、山全体が揺さぶられるほどの歓声で早苗に賞賛を送った。
「やったわね早苗!」 「あなたならやれると思っていました!」 「やっぱり主人公は早苗じゃないと!」
胴上げでもしそうな勢いで仲間たちが早苗の元へ集まっていく。
これで自分も本当の主人公として認められたのだと早苗自身うれしく思っていた。
あの八雲紫も今回の件で早苗の実力を認めたようで、皮肉を抜きにした賛辞を惜しまなかった。
だがその時である。
「…だから…主…だから……私がぁ…主人公、だからっ!」
あれだけのダメージを負った霊夢だったが、顔面を潰されてもまだ立ち上がるガッツが残っていた。
さすがは博麗の巫女とでも言ったところかと、観客からどよめきが起こる。
「霊夢、消えろ! もう二度とその面を…」
魔理沙がそう言い放ったものの、霊夢の異様な風貌を見て言葉に詰まってしまった。
霊夢の全身には筒状の物体が巻きつけられ、両手にも同じようなものが握られていた。
博麗神社の蔵から持ってきたものとは「ダイナマイト」だった。
「今見せてやるわ、神々しいまでに変貌した博麗の巫女、真の姿を……!」
門外不出とされてきた博麗の秘術。その中でも最大最強と伝えられてきたのがダイナマイトの製法であった。
鬼神の肉体ですら瞬時に爆散させる威力を持ったダイナマイトにより、代々の巫女たちは強力な妖怪を屠ってきたのだ…。
全身に爆薬を巻き付け、敵の懐に特攻。「夢想天生」により森羅万象から乖離し、起爆する。
これが、霊夢の代で完成させた新奥義「夢想七点爆天生」である。
博麗最終究極奥義とされる「夢想天生」は結局この技を成功させるためのツールでしかない。
だがタイミングが非常にシビアで、歴代の巫女たちは「夢想天生」を発動できず、普通に爆死していた。
「ウゥフヒヒヒヒ…後悔など遅いわ早苗ェ!私が!博麗霊夢こそが!幻想郷最強の存在、主人公なのよ!ヒャアアーーハーーーッ!!」
狂気の笑顔をむき出しに、一直線で早苗へと突っ込む霊夢。
逃げ惑う妖怪たちを前にして、早苗は微動だにせず向かってくる霊夢に身構えた。
眼前にまで迫ってきた霊夢は突如間接が外れ、妖怪じみた動きで早苗に打撃を加えていく。
トリッキーな動きではあるが、努力を重ね、仲間との友情を武器にした早苗は無敵だった。
鮮やかな動きで一つ一つの打撃をブロックしていく早苗。
だがこれは霊夢の想定内であり、「夢想天生」の発動条件をクリアするためのものである。
「まずい、早苗!今すぐ離れるんだ!」
神奈子が物陰に隠れながら叫ぶが、「夢想天生」が発動し始め、霊夢の体が激しく発光する。
「もう遅い!肉片になって死ねい!早苗ェーーー!」
ダイナマイトが光を放ったかと思うと、霊夢の体がぼやけ始めた。
不思議なことに爆発は完全な無音。
恐る恐る逃げ出した妖怪たちが様子を見ると、両腕が吹き飛び、ボロクズのようになった霊夢らしき物体が転がっていた。
「ど、どうしたんでしょうか?」
早苗自身、なぜ爆発が起こらなかったのか理解できないでいた。
そこへ紫がやってきて、角材で霊夢をつつきながら説明する。
「端的に言えば失敗したのよ、「夢想天生」を」
紫が言うには、「夢想天生」は天才の霊夢といえど非常に高度な技であり、万全の状態でも成功率は7割程度。
霊夢は想定どおりの「夢想天生」を発動できず、腕とダイナマイトが部分的に別次元へと転移。
おそらく別次元内で腕が爆発に巻き込まれたのだろう、とのことだった。
「早苗は主人公になったから霊夢に勝てたわけじゃない。がんばり屋さんな早苗が積み重ねてきた結果よ…」
紫は早苗の肩を抱き寄せると、優しく語りかけた。
魔理沙やアリスたちも早苗の無事を確認するや駆け寄ってくる。
「ああ、才能や血筋なんかじゃない。まして主人公だからでもない。
前向きに努力し続ける奴がいたら、誰だって応援したくなるさ。これからも早苗は一番の友達だぜ!」
「そうですね、これは私だけではない。皆さんとの友情の絆による勝利です!」
いい感じにまとめられ、その日の宴会はお開きとなった。
霊夢はしぶとく生きてはいたが、残っていた爆薬を取り上げられ、どこかへ連れられていった。
両腕を失った霊夢は博麗の巫女としては完全に廃業。
すぐに霊夢の代用品が用意されることとなった。
「夢想天生」に失敗した影響か、霊夢は存在感が急激に薄くなり、脇役以下の存在になってしまった。
その後はどこかで野たれ死んだとか、妖怪と化し、早苗と同じくらいの少女を襲っているなど。
信憑性の定かでない噂が流れたこともあったが、所詮は脇役以下となった存在。
時が経過した今では、先代の巫女がなぜ欠番になっているのか。慧音や紫ですら記憶に残ってはいない…。
後半部分です。
夕方6時くらいに書き始めたらけっこう長くなっちゃいました。
途中でやめるとモチベーション下がって完成しなくなるので、ぶっ続けでやるタイプですね。
早苗さんは特に何もしなくてもかわいいのですが、霊夢はなかなか難しい。
かわいいという要素を立てるには、脆くて弱くて守ってあげたくなるキャラ付けが必要。
強くて完成した存在であればあるほど、弱さがかわいさを引き立ててくれる。
そんな気がします。
ってか早く寝ないと明日ヤバイ
コメごん
- 作品情報
- 作品集:
- 31
- 投稿日時:
- 2012/09/02 19:16:29
- 更新日時:
- 2012/09/03 04:29:22
- 分類
- 霊夢
- 早苗
- 暴力
- アホ設定
南斗爆殺拳!? 天才の私が何故こんな目に〜!?
絵に描いて国立美術館に飾ってありそうな、堕落した自称『天才』の末路でした。
早苗と霊夢のこの手の話は、逆パターンはよく目にしますが、これは……ちょぴり胸が痛いが、まあ、しゃ〜ないね。
人と妖怪の利害関係を調整し、人から好かれる人格を体現できるものこそ主人公にふさわしい。
堕ちた霊夢では友情タッグを組んだ早苗には勝てなかったか…
他の人が地道になんとかしているものを当然のものと言い切った霊夢の傲慢っぷりを見た後だとこの結果も頷けますが、その優遇を羨む気持ちがあるせいか心が痛みます。上手くいかないものですね…
それにしても周りの掌返し様!幼い頃からこうだったらそりゃ霊夢も歪むわい。
可哀想な霊夢可愛い
頑張って手作りの招待状を書き上げる、という展開のところでもうヤバかったです。もう予想が出来てしまうのでちくちくきました。アホ設定霊夢良かったです。
霊夢の設定を見て、だいたいの人は想像しますよね。共感(もしくはリスペクト)できなさ過ぎるッと。
でも、一生懸命お手紙書いてる霊夢は可愛かった。やばい。
古式ゆかしい「あ、これ報われないな」と一発で分かる、作法を弁えた奥ゆかしい展開は「やばいやばい」と思いながらも麻薬めいて脳汁がドバドバでました。
「お前赤いんだよ!」や、早苗のピンチに物陰から安否を気遣う神奈子など、大変笑わせていただきました。次回作も期待しております。
木の棒が活躍しなかったのが残念
軽やかな展開で読んでて楽しい
引き込まれた
ダイナマイト出して来るの笑った
次も凄く楽しみ
可哀想な霊夢ちゃんペロペロ
大事なものは、いつも無くしてから気付く
それはそれとして面白い話でした。この落ちぶれた霊夢を拾って保護してやりたい。
早苗許せん。
まぁ早苗もねはいいやつだけどね