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『フランちゃんが理不尽に愛される』 作者: バルゴン
紅魔館には、長い通路をずっと奥へ進んだところに地下への入り口がある。入り口の扉は重厚で、めったに入る場所ではない、と言うことを初めて館に来た人にも教えてくれていた。
その扉を開けると、ランプによって弱々しく照らされた石の階段が地中深くまで続き、最深部まで潜ったところに再び厳重に閉ざされた扉が姿を現す。地下室の扉である。
地下室の中は、紅魔館の一室にしては珍しく部屋に装飾は施されていなかったが、床や壁の所々に黒い染みが目立っている。また、壁には鎖や枷といった、おおよそ調度品には似つかわしくないものばかりが掛けられ、床に散らばっている鞭などの拷問具と共に、物々しい雰囲気を醸し出していた。
家具の類は、ベッドが一つに、小さな椅子と机があるだけで、この部屋が生活するために作られたものではないことが分かる。
「フラン、もうそろそろ白状したら? 私も疲れたんだけど」
地下室の中にいる少女が、目の前にいるもう一人の少女に話しかけた。紅い瞳と青みがかった髪を持ち、薄いピンク色の服を着ている。彼女は飽き飽きした様子で腕を組んで立っていた。
紅魔館の主、レミリアである。
目の前の少女を穏やかに見つめているが、目は悦楽に満ち、その顔には不敵な笑みが浮かんでいた。手には赤色の鞭を持っている。
一方、フランと呼ばれた少女は、レミリアと同じ紅い瞳をしていたが、髪の色は薄い茶色である。衣服は一切身に着けていない。
露出している体は、普段は綺麗な白い肌であったが、今は鋭い打撃が何度も加えられたかのように、無数の赤い痕が付いている。首には、銀色の首輪とそれに付属している銀の十字架が、まるでアクセサリーのように輝いていた。
「何か言ったらどうかしら。言わなきゃ何も分からないわよ?」
レミリアの挑発に対し、フランドールは何も言わなかった。
言おうとはした。言葉を発することができなかったのである。
口の中には大量に布が詰め込まれ、フランドールの言葉を奪っていた。また、顔の下半分にはタオルがあてがわれていて、布を吐き出そうという舌の動きを阻害している。
タオルを手で外そうにも、フランドールの両腕には手枷が嵌められ、自由に動かすことができない。さらに、手枷は天井から伸びた鎖と連結し、フランドールを天井から吊っていた。かろうじてつま先だけは地面に付いているが、猿轡を解くどころか、手を下ろすことや座ることすらできない状態だった。
それを知っていて、レミリアはフランドールをからかってみせたのである。無理に言葉を出そうとしても、レミリアを喜ばせるだけだと分かっていたので、フランドールは沈黙を守った。
「何よ、可愛くない態度ね。えいっ!」
「うごッ!?」
レミリアの手に持った鞭が、鋭く風を切りフランドールの身体を叩く。
乾いた音が辺りに響き、フランドールの右の腹部に新しく赤い痕が追加された。吸血鬼の馬鹿力で鞭を振るえばたちまち体が千切れてしまうので、一応加減はしてやる。
だがそれでも、鞭の痛みにフランドールはくぐもったうめき声を上げ、思わず体をよじる。レミリアはその反応を見て、満足げに笑った。
レミリアの鞭による虐待が続く中で、フランドールはなんとか自由になろうと手を動かしていた。しかし、鎖はガチャガチャと音を立てるだけで一向に外れる気配も、壊れる様子も無い。
「吸血鬼って本当、不便よね。銀と十字架だけで力が封じられるなんて。
自慢の破壊する能力も使えなくなってるみたいだし、パチェに無理言って、作らせた甲斐があったわ」
鞭を振る速度を落とさずに、レミリアが言う。
「あらあら、そんな顔しちゃって」
フランドールは、せめてもの抵抗として、レミリアを睨みつけていた。絶対に思い通りにはならない、という意思を表しているかのようだった。
レミリアがフランドールを打つ度に、フランドールの口から声にならない悲鳴が上がる。それでも、目ではこちらへ敵意を向けてくるフランドールの態度が、レミリアには可愛らしくて堪らなかった。
しばらくの間、レミリアはフランドールをいじめていたが、ふと手を止めると、懐から懐中時計を取りだした。
「あーあ、もう夕飯の時間になっちゃったじゃない」
時計から目を離し、チラリと前を見ると、痛みに必死に耐えるフランドールの姿があった。息は荒くなり、吸う空気の量も足りていないのか、頬が紅潮している。
しかし、レミリアを見る目はいまだ、敵対心がこもっていた。
「あなたも強情ねえ。さっさと折れれば、痛い思いもしなくて済むのに……」
レミリアは、小さくため息をついた。手に持った赤い鞭を床へ放り投げる。
「分かったわ。もう止めにしてあげる」
そう言って手枷の鍵を取りだし、フランドールの方へ歩いていった。その様子を、フランドールは最初こそ呆気に取られて見ていたが、やがてほっと息をついた。
目にはもう敵意ではなく、解放されることへの希望の光が灯っている。
レミリアが、フランドールに手を伸ばせば届く距離まで来た。
その時である。
鍵を持ったまま、レミリアは二回ほど手を叩いた。
「なーんてね。本当に許してもらえると思った?」
突然、地下室の扉が開く。中に入ってきたのは三人の妖精メイドだった。手にはそれぞれ、レミリアが先ほどまで手にしていた物と同じ、赤い鞭を握っている。
フランドールはその光景に愕然とした。驚きと怒りが入り混じった表情で、レミリアを睨みつける。その視線がまるで心地よいかのように、レミリアは邪悪に口元を歪めた。
期待を一瞬にして打ち砕かれた妹に向かって、鼻を軽く小突く。
「フランったら、おばかさんなんだから。私がこの程度で許すわけないじゃない」
その言葉には、ぞっとするような悪意が込められていた。
「それじゃ、私が戻ってくるまで、ちゃんといい子にしていなさいね」
「むうっ! んんぅ!」
猿轡を噛ませられた口で懸命に抗議し、鎖を鳴らすフランドール。レミリアは、健気に抵抗する妹を名残惜しそうに見ていたが、やがて背を向け、妖精メイドに指示した。
「少し離れるから、その間この子を任せたわよ。手加減とかは一切しなくていいから」
妖精メイド達はレミリアの言葉に頷き、それぞれ鞭を構える。
レミリアはそれを確認すると、フランドールに視線を戻した。にっこりとした笑顔で、フランドールに言葉をかける。
「ま、そういうわけだから。もう少しがんばりなさい」
フランドールの抗議と悲鳴が押しこまれたうめき声と、そんなフランドールを容赦なく打ちつける鞭の音を聞きながら、レミリアは地下室を後にした。
夕食を終えて地下室へ戻ったとき、フランドールがどうなっているかを考えると、楽しみで仕方がなかった。
咲夜は料理の完成を館の主に伝えるため、地下への扉の前に立った。ここにレミリアがいることは、事前に本人から伝えられている。もっとも、何をしているかまでは教えられなかったのだが。
その扉をノックしようとしたとき、丁度レミリアが扉を開けて出てきた。
「あ、お嬢様。夕食の準備が済みましたので、お知らせに参りました」
「ええ、そろそろだろうと思って。だから私も出てきたの」
レミリアの口調は、中で起きていることの凄惨さを、まるで感じさせないほど軽快だった。咲夜の報告に簡素に答え、ダイニングルームへ歩き出す。
咲夜がレミリアに従い、他愛もない世間話を聞きながら歩いていると、部屋へとたどり着いた。部屋のテーブルの上に置いてある食事が、食欲を刺激する匂いを漂わせる。他の同居人は、研究に忙しいだとか、仕事だとかで同席することは滅多にない。
レミリアが席につくと、咲夜はテーブルに乗った厚い肉を丁寧に切り分け、自分の主へと差し出す。レミリアはそれにフォークを突き刺して頬張った。
「ところで、お嬢様」
「ん?」
先ほどから気になっていたことが、咲夜にはあった。レミリアは口をせわしなく動かしながらも、顔を咲夜の方に向ける。
「フランお嬢様はどこにいるか、ご存知ですか? どこを探しても見つからないのですけれど」
フランドールは異変以来、館をうろつくことがあった。そのため、レミリアが自分の妹の姿を見ていてもおかしくない。そう考えて質問した咲夜にとって、レミリアの返事は甚だ予想外のものだった。
「フランは今、地下でお仕置き中よ。だから咲夜がフランのことを考える必要は無いわ」
「は、お仕置き……ですか?」
咲夜が不安そうに尋ねた。最近、紅魔館に何か被害があったかと思案したが、館の備品が壊れたことも、訪問者が負傷したという報告も無かった。
「そうよ、お仕置き。あ、咲夜そこのソース取って」
肉の味に飽きたのか、レミリアは調味料をかけて味を変える。咲夜の話には元から興味を示していないようだった。
とはいえ、その「お仕置き」の説明が無いのでは、咲夜の方もいまいち納得がつかない。レミリア自身に話を続ける気は無さそうだったので、咲夜の方から話を振ってみる。
「理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「んー、別にたいしたことじゃないわよ。ただ昨日、フランが私のプリンを食べたから。それだけ」
どうやら主の興味は、おおよそ咲夜の話よりも料理に向いているらしかった。ぶっきらぼうにそう言って、薄く切ったパンをスープに付けて口に運んでいる。
レミリアの説明を受けて、咲夜は合点がいった。普通の人間ならデザートを食べられたぐらいでそこまで怒りはしないが、我が主ならあり得そうなことである。
一度はそう思ったものの、それもよく考えてみると変だと気付いた。一つ腑に落ちないことがあったあのである。
「ちょっと待ってください、昨日寝る前に棚を見たとき、プリンは無かったような……」
スープの味付けが好みであったのか、レミリアは機嫌よくパンをスープですくって食べていた。しかし、咲夜の言葉を聞くと途端に手を止め、眉を吊りあげる。
「あら、咲夜。私に口答えするつもりなの?」
「あ、いえ。そういったつもりで言ったわけでは」
咲夜はレミリアの誤解を解こうと、慌てて手を振って否定した。必要のないことに首を突っ込んで主の怒りを買うほど、このメイドは愚かではない。
「昨日の晩、棚に私のプリンはあったし、それをフランは食べたの。
私がそう言ってるのよ。分かる?」
「はい。その通りです」
レミリアが右と言えば右、左と言えば左。紅魔館ではそれがルールだった。うかつに反論すれば、主の機嫌を損ねる。
レミリアが話を強引に終わらせたので、咲夜もレミリアに習い食事を始めた。すると今度は、レミリアの方から話題を振ってくる。
「ねえ、咲夜。私はフランと仲が良いように見える? それとも悪いように見える?」
「え、えっと……」
唐突な質問だった。加えて重大な質問でもある。普段なら軽い冗談を言って、その場を適当に誤魔化しただろう。しかし、今はそんな雰囲気でもないことを咲夜は感じていた。
「悪い、というわけではないと思っています」
「どうして?」
「お嬢様が、嫌っている人物を500年近く生かしておくはずがありませんから」
この主相手には、思った通りのことを言った方が主が喜ぶことを咲夜は知っていた。過激な言い回しではあったが、レミリアはその言葉を聞いて、人の悪い笑みを浮かべる。
「確かにそうね。全くその通りよ」
さすがは私に長年仕えているだけあるわ、と続けてレミリアはテーブルに置いてあるワインを飲んだ。
一呼吸置いて、レミリアが聞く。
「じゃあ、なんで好きだとは言わないのかしら?」
「不仲とまでは言いませんが、お嬢様方の間柄は仲が良い、というのは少し違うのではないかと思いまして」
姉妹で演奏をしている騒霊の姉妹や、かなり仲が良いと噂を聞く地底の姉妹の例を挙げて、咲夜は補足した。
「仲が良い姉妹というのは、このような姉妹でしょう。その点では、お嬢様とフランお嬢様は……」
咲夜は言葉を切った。さすがに、これ以上言うのは従者の身には憚られる。
「仲は良くないと?」
「……はい」
レミリアが先を言ったので、咲夜は渋々それに頷く。しかし、そのことについて、レミリアが怒った様子は無かった。代わりに、手に持ったワインをテーブルに置いて、短いため息をつく。
「咲夜からそう見えるってことは、他からはもっと、そう見えてるんでしょうね」
「おそらくは」
咲夜が短く返答すると、レミリアは声のトーンを落として、まぁしょうがないわね、と呟いた。その言葉が自分に対して発せられたのか、それともただの独り言か、咲夜が判断に迷っているうちに、レミリアが急に話題を変えた。
「ところで、暴力による愛って成立すると思うかしら?」
「は……?」
咲夜は思わず瞬きをした。レミリアの話にあまりの突拍子が無さすぎて、咲夜はややついていきかねていた。この主は何が言いたいのだろうか。
「聞こえなかったのかしら」
「いえ、聞こえてます」
咲夜は、言葉を繰り返そうとする主を制し、先ほどよりもいっそう丁寧に答えた。
「そもそも愛の形というのは、人によって異なるものです。そのため、一概に否定することは出来ないでしょう。
両者の合意の上というのなら、成立するするかもしれません。しかし、片方の一方的な愛では、その限りでは無いと思います」
「ふむ……」
咲夜の回答を聞けて満足だったのか、質問の主は頷いてから席を立つ。料理が多少残っているのはいつものことである。ただ、レミリアの手に何故かワインボトルとグラスが握られていたのが、咲夜には気になった。
「あの、そのワインはどうされるのですか?」
「部屋で飲むのよ。たまにはこういうのもいいでしょ」
レミリアは咲夜に背を向け、ドアの方へ歩きながら、背中越しにワインボトルを振ってみせる。咲夜は主の珍しい行動を疑問には思ったが、口には出さない。
その小さな後ろ姿にうやうやしく礼をして、部屋から出ていく主を見送った。
レミリアは地下室の扉を開けた。眼前には、レミリアが地下室を出るときと同じように鞭を振るっている加虐者と、変わらない体勢で受け続けている被虐者。
フランドールはぐったりとした様子で、「お仕置き」を受け続けている。直立していることすら辛いのか、体は時折よろめき、立っているというよりは天井に括りつけられた鎖によって立たされている、という感じであった。
肌は先ほどよりもさらに赤く腫れあがり、いっそう痛々しい。鞭が体に浴びせられる度に、体は痙攣し、猿轡の中で悲痛な叫び声を上げていた。
フランドールは、レミリアが地下室に戻ってきたことに気付くと、睨みつけることはせず、涙目でレミリアのことを見つめた。一人ならまだしも、三人から手加減なく責め苦を受け続けたことに耐えられなかったのか、フランドールからはもう抵抗の意思は感じられない。
レミリアはワインを机の上に置いて、フランドールに近寄った。
「あら、もう怖い顔をするのはやめたの?」
意地悪く、問いかける。
「自分の立場は分かったかしら?」
フランドールが鞭を受けながらも、必死に首を縦に振るのを見ると、レミリアは嘲笑うような口調で言葉を続ける。
「もう痛いのは嫌だ? おしまいにしてほしい?」
再びフランドールが頷くと、レミリアはメイド達に鞭打ちを止めるよう指示を出した。
そして、今度は諭すように穏やかな口調に切り替え、優しくフランドールに話しかける。
「それじゃ、謝ったら許してあげるわ。悪いことをしたんだから当然よね。
ごめんなさい、って言えたらもう解放してあげるわよ」
フランドールは少し戸惑うような表情を浮かべたが、それも束の間のことだった。やっと、この忌々しい「お仕置き」が終わると考えたのだろう。すぐに謝罪の言葉を口にした。
「ほ、ほへんはひゃい……」
猿轡をされたままのフランドールが、言葉を上手く発音できないのは当然のことである。レミリアは、彼女なりに謝罪した妹に向かって満面の笑みを浮かべ、軽く髪をなでてやった。
フランドールも姉の態度から、「お仕置き」が終わることを確信したのか、頭を姉に預けながら、顔をほころばせた。
レミリアが急に手を止め、宣言する。
「誠意がこもってないわね。はい、再開」
フランドールは最初、何を言われたのか分からないようだった。しかし、体に鞭が炸裂すると、痛みに悶え、自分の身に起こったことを理解した。終わると思った鞭打ちが再び行われた絶望からか、顔は青ざめている。全身の力が抜けたかのように足がもつれたが、鎖はフランドールが倒れ込むのを許してはくれない。
「本当にいい顔するわね、フランは」
レミリアはうっとりとフランドールを見つめる。
「ほら、ちゃんと言わないと、いつまで経っても終わらないわよ。
それとも、実はフランったらこういうの好きだったりするの?」
「ほ、ほへんひゃ、あぐっ! ほひぇんな……ぅうっ!」
鞭に打たれながらも、自由に動かせない口で必死に許しを請うフランドール。しかし、それをレミリアが聞き入れる気配は全くなかった。次第に、フランドールの目からは大量の涙が溢れ、ついには苦痛に喘ぐ声に嗚咽が混じり出す。
「あーあ、泣くなんて情けない。いつからそんな泣き虫になったのかしらね。」
レミリアは楽しそうに哄笑すると、椅子に座りワインを開けた。フランドールを虐待していたメイドの内の一人を呼び寄せ、グラスにワインを注がせる。
「おねぇひゃまぁ……」
「ん、何かしら?」
悲痛な呼びかけに対し、ワイングラスを傾けながら、のんびりと答える。
「も、もうゆるひてぇ……むぐっ!」
「ふふっ、ダーメ」
フランドールの無慈悲に要求を断った後、グラスの中のワインを飲み干す。もう今のフランドールは痛みから解放されたいばかりで、何に謝っているのかも理解していない状態だろう。レミリアは、そんな状態のフランドールが愛しくて仕方がなかった。
メイドの一人が給仕に回ったため、フランドールを責める鞭の数は減っていたが、フランドールはもはやそれどころではなかった。
幼さの残った可憐な顔を苦痛に歪ませ、綺麗な紅い瞳からは大粒の雫が滴り落ちる。レミリアのことを信じて謝罪の言葉を叫び続けるが、それは猿轡と痛みによる悲鳴で阻まれ、上手く口にすることもできない。結果、その行為はレミリアを喜ばせるだけであった。
華奢な体は、鞭がしなる度に激しく悶えながら弧を描く。無理な体勢で長時間拘束され、手足の疲労はただでさえ限界に来ていた。しかし、鞭から逃れる術はなく、疲れ切った体で責めを受け続けるしかない。何度もぶたれたことにより、肌は痛々しく裂かれ、血が出ている箇所もある。
その光景は、言うまでもなく背徳的で、レミリアの心を打ち震わせた。
(実の妹に言いがかりを付けて拘束し、従者に鞭で殴らせる。自分はそれを見ながらワインを楽しむなんて、我ながらとんでもないことをするわね)
何も知らぬ人がこの部屋に入れば、自分は鬼や悪魔と非難されるだろう。そう考えると、眼前の妹のありさまと喉を通りぬけるワインはさらに甘美なものに感じられた。
「ふーっ、ふーっ」
フランドールは、息も絶え絶えといった様子だった。すがるような目でレミリアを見る。
「ちゃんと『ご・め・ん・な・さ・い』よ。滑舌よくね」
「ほめんなひゃい……」
「はい、残念」
「ひ、いやぁっ、もう、いひゃいのやぁ……ぐうぅッ!」
思わず頬が緩む。もう止めてほしいと懇願する妹の姿が、なんともいじらしい。何故この子はこんなにも可愛いのだろう。
フランドールが生まれてから、紅魔館の外に出さなくてよかった。こんなにも可愛らしいこの子を他の所にやれるものか。
レミリアがフランドールの声と様子を楽しんでいると、突然、フランドールに急激な変化が訪れた。体が痙攣したかと思えば、そのまま首が前に傾く。鞭で打っても、体はピクリとも動かず、声も出さない。
レミリアは一旦、メイドに「お仕置き」の停止を指示した後、反応がなくなった妹の身体を見た。頬を両手で持ち上げ、顔を覗く。フランドールは、失神していた。
「あれ、ちょっとやりすぎたかしら」
苦笑するレミリア。痛みを与えながらも気を失わないように注意して、長時間「お仕置き」するつもりであったのだが、気絶してしまっては何をしても無反応でつまらない。
「吸血鬼の耐久力なら、大丈夫だと思ったんだけど」
呟きながら、銀の首輪を見る。幻想郷でも有数の魔女に作らせたそれは、予想以上の効果を持っているようだった。
とにかく、妹を起こさなければならない。レミリアが辺りを見回すと、自分の先ほどまで口にしていたワインが目に付いた。
「まだお仕置きは終わってないわよ、っと」
レミリアは、テーブルに置きっぱなしだったワインボトルをメイドに運ばせた。メイドの手にあるボトルの中には、まだ半分ほど量が残っている。
それを確認すると、レミリアはフランドールの顔に巻かれているタオルを外した。塞がれていた小さな口が露わになる。その中には、大きな布が敷き詰められていた。
「よいしょ」
妹の口の中に手を突っ込み、それを引き出す。引き出すと同時に、フランドールの口から布にかけて、銀色の糸が引かれた。取り出した布は、涎で塗れている。
「こんなにしちゃって」
フランドールがどんな状況にあり、そこに追いやったのは自分であるということを改めて認識して、レミリアは体を快感で震わせた。
「さて……」
役立たずになった布を床へ放り捨てる。
メイドの手からワインボトルを受け取ると、そのメイドにフランドールの頭を上に向けさせた。さらに、顔をその向きで固定するように指示する。
「気絶したら、終わりだと思ったかしら、フラン?」
意識を失っている妹に話しかけながら、ボトルを咥えさせる。妹の反応が今から楽しみで、例えようの無い高揚感に襲われる。
「それっ」
ボトルを大きく傾ける。中身が斜面に向かってなだれ、フランドールの口に勢いよく浸入していった。
「……ふッ、がふっ!?」
ワインが流し込まれたことで、フランドールは驚いて目を覚ました。思わず吐き出そうとして喉を動かすと、逆にワインが入り込む。大きく開いた喉から口の奥に押し寄せたワインは、散々にフランドールを蹂躙していった。
「ぐぷっ! ひっ!」
なだれこんだワインは喉でひとしきり暴れると、次に気管へ突入した。気管に入った異物を取り除くため、体は咳込もうとするが、外から押し寄せるワインの波と口の中で絡まり、逆に体の持ち主を苦しめた。
「ッうゥ!」
まるで溺れたかのような恐怖と息苦しさが痛みとなって、フランドールに襲いかかった。目は赤く充血し、鼻からは流し込まれたはずのワインが逆流してくる。もうどうすることもできず、痛みに耐えながら、ワインが体を通り過ぎるのを待つしかなかった。
「うっ! はぁ、はぁ……」
ようやくワインを全て飲み込み、吐き出したフランドール。アルコールを一度に大量に摂取したことも手伝って、辛そうな表情で呼吸をしていた。ぜえぜえと喘ぎながら、肩を大きく上下させる。
そんな妹に、レミリアはにっこりと笑いかけた。
「おはよう、フラン」
「ひっ、お姉さま……!?」
フランドールは、事態が何一つ変わっていないことに気付いたようだった。相変わらず体は不格好に吊られたままであったし、体の疲労も痛みも引いていない。自分をいたぶっていた姉もメイドもそのままである。
「お願い、もう許して……」
怯えきった様子で、泣きながら哀願する妹を見て、レミリアは優しく諭した。
「許しを請うのもいいけど、そんなことより、私に言いたかったことがあるんじゃない?」
レミリアの言葉で、フランドールは姉が何を言っていたか思い出した。
「え、あ……ごめんなさい……」
「はい、よく言えました」
懐から鍵を取り出し、手枷を外してやる。鎖という支えを失ったフランドールは、力なく前に倒れ込んだ。当然ながらレミリアが抱きとめる形になる。
今のフランドールには、嫌がる気力も、抗う体力も残っていないようだった。そのまま姉の身体に寄りかかり、動こうともしない。浅い呼吸を繰り返すだけである。
「全く、世話の焼ける妹ね」
レミリアは、そんな妹の二の腕と膝の裏から手を回し、優しく抱きかかえる。メイドを下げさせた後、そのまま部屋の隅にあるベッドまで運んだ。
「……お姉さまは」
「ん?」
ベッドでぐったりと横になっていたフランドールが、消え入りそうな声で姉に話しかけた。声色には、涙が混じっている。
「お姉さまは、私が嫌いなのよね。だから、外にも出してくれないし、さっきみたいなことするんだよね……」
「何言ってんのよ」
レミリアは、卑屈な考えをする妹の頭を軽くなでた。
「こんなにも愛してるのに、それに気付かないなんて、あんたも鈍感な妹ね」
「え、本当に?」
フランドールは目を丸くした。そんな妹にレミリアは頷いて見せる。
「本当よ」
「えへへ……」
愛していると言われて、フランドールは弱々しく微笑む。体が衰弱し、思考力も回復していなかったからか、折檻を行った当の本人から愛情の告白をされるおかしさには気付けなかった。
「今日はもう寝なさい、疲れたでしょう?」
レミリアの声は、赤子を寝かしつける母親のように穏やかである。先ほど、虐待していたときの様相は微塵も無かった。聞いている者を落ち着かせる雰囲気を放っている。
「うん……」
フランドールも、それに安心したようだった。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
挨拶を交わすと、フランドールは目を瞑ると同時に眠っていた。その早さに、レミリアはやや驚く。
「相当疲れてたのね、無理もないか」
すでに夢の世界に入った妹に、布団をかけてやる。すやすやと寝息を立てている姿は、まるで天使のようであった。その無防備な体に思わず、ゾクッとする。
隙だらけの唇を人差し指で触れると、指先にふんわりとした感触が広がっていった。そのまま指をなぞらせていたら、吸血鬼特有の八重歯が顔を出す。
「精々、休めるうちに休んでおきなさい」
不意にレミリアの唇がひらめいた。フランドールを愛撫していた動きが止まる。その呟きは、自分以外の誰かの耳に入る前に、空気に混じって掻き消えていった。
「明日もあるんだから」
フランドールの首には、まだ銀色の首輪が輝いている。
パチュリー「レミィ」
レミリア「何かしら?」
パチュリー「あなた、期待させてからその期待裏切るの好きね。
なんで二回も同じようなことやってるのよ」
レミリア「だってそっちの方が見てて楽しいじゃない。
ちょっと希望を与えてから絶望の淵に追いやったときの表情が、一番興奮するのよ」
パチュリー「鬼畜ね」
レミリア「あと、そうすると相手の感情を支配してるみたいで、
相手を征服した気分になれるの」
パチュリー「鬼畜な上に外道ね」
バルゴン
作品情報
作品集:
31
投稿日時:
2012/09/27 03:22:16
更新日時:
2012/09/27 12:22:16
分類
フランドール
レミリア
でも、愛は与えるだけじゃなく、与えられもするという事をお忘れか。
いつか、『枷』が外れた時、利子を付けられた愛を見ることでしょう。
サドレミィの愉悦の終わりはそう遠くはない
パンとスープが逆ですかね。