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『パラレル★レミィたん』 作者: 夕月
今、今さらだけど何度も考える。
あの時。
あんな風に思った時。
あいつを私から切り離していれば、縁を切っていれば。
よかったかもしれない、と。
カタカタカタ、と夜のオフィスにパソコンのキーをたたく音が響く。
きちっと整頓された机、書類が散乱する机、使用済みコップが置いてある机。
電気はすでに消されており、手元の明かりとパソコンの白い光だけが暗いオフィスにぽつんとともっていた。
「おわった……。」
キーをたたいていた女、十六夜咲夜はぐたりと椅子の背もたれに倒れこむ。
残業、三日目。残業手当なんかつくはずもない。タダ働きだ。
だがあまり苦痛はなかった。それは咲夜がそこまで出来た人間だからではなく、ただ単に嫌じゃないと思えるだけだ。
カチ、カチとマウスを操作し、今しがた打ち込み終わったデータを保存、モニターに完了の文字が出ると咲夜はノートパソコンを閉じた。
ずっと座っていたせいか、体のあちこちがぎしぎしみしみしと悲鳴をあげている。くわえてここ最近ロクに寝ていない。
立ち上がり、んーっと伸びをする。そこかしこから骨が鳴る音が聞こえてきた。
「さて、行きましょうか……。」
咲夜の仕事はまだ残っている。これから会いに行かなくてはならないのだ。
すぐ帰れるようにと準備してあったバッグを持ち、手元の明かりを消す。
そして真っ暗になったオフィスを後にした。
―――――――――――――――――
咲夜は豪華な屋敷の、これまた豪華な扉の前にいた。
豪華な割には作りがやたらとレトロで、扉のベルも玩具のように可愛く古臭いものだった。
「お疲れ様、咲夜。」
「こんばんは、レミリア様。遅くなってしまい、申し訳ありません。」
扉が開き、中から一人の少女が出てきた。
中学生特有の黒いセーラー服を着ている美少女と呼べる子だ。
胸元には黒の中でもなお映える真っ赤なリボンがあしらってある可愛らしいものだ。
咲夜のもう一つの仕事、それはこの会社の社長令嬢であるレミリアの話相手だ。
誰もが聞けば知っているほど大きな会社の社長の娘なのだ。彼女も立派なお嬢様なのである。
「いいのよ、私が呼んだんだし。私こそ、疲れているときにごめんなさいね。さ、入って。」
「いいえ、私もレミリア様とお話しすることを楽しみにしていましたから。……失礼します。」
そう言うと、可愛らしいレミリアの顔がゆるみ、ありがと、と小さく礼を言う。
そんなレミリアを見ているだけでも、咲夜の疲れはすっととれた気がする。
レミリアはスリッパをぱたぱた鳴らしながら、綺麗なフローリングの廊下を歩き、奥の部屋へと咲夜を案内する。
咲夜はレミリアとの話が大好きだった。ただ、二人は対等ではない。歳は咲夜のほうが上だが、立場はレミリアのほうが上だ。
だが、レミリアはそんなことを気にせず楽しそうにしゃべってくれる。口調こそ、まぁアレだがそれは彼女の癖と考えれば気にはならない。
お嬢様の学校に通っている中学生のレミリアはまだ少女らしいあどけなさを持っていた。
「今日はテストだったわ。本当いや…。なんであんなのがあるのかしらね?」
「私が学生の時もそう思いましたよ。テストをする理屈はわかりますけど、嫌で嫌で仕方なかったですね。」
「勉強なんてしたってちっとも楽しくないし、それどころかつまらないし。お腹すくし……。」
「でもレミリア様はとても優秀でいらっしゃいますよね。」
「だってお父様がうるさいんだもん。」
ぷくっと頬を膨らませてレミリアはぼそぼそと言う。
「社長はレミリア様が可愛くてたまらないのでは?」
「うるさいくらいわかるわ。小さいころ、私が転んだだけで医者を呼ぼうとしたのよ?」
「それは……。」
新しい、”社長伝説”だ。歳はもうおじさんなのに、社内では顔が端正でとても優しいという社長は女性社員に大人気だ。
なおかつ威厳もあるので、多くの若手社員や男性社員達にも人気がある。
何年か前に伴侶に先立たれてしまい、今はレミリアとその妹と暮らしているというのだから、女性社員は玉の輿玉の輿と騒ぐ始末だ。
「フランが風邪ひいただけで何人医者を呼んでるのよ。私だけで看病できるっていうのに…。」
「フランドール様も驚いたでしょうね。」
「いいえ、すっごく喜んでたわ。可愛いわよ、あの子の笑った顔。」
ふふ、と優しい姉の顔になった。愛らしい顔に浮かぶ、温かい笑みに、咲夜もつい笑みをこぼす。
「あ…、もうそろそろ時間ね。ありがとう、咲夜。楽しかったわ。」
あっという間に過ぎ去った楽しい時間に、咲夜は少し落胆した。もう終わってしまったのか、と。
「明日も一緒に話相手になってくれる?」
「え…?」
しょぼんとした咲夜の心情を読んだように、レミリアは微笑みながらそう言った。
「明日も来てほしいの。もう面倒くさい仕事終わってるんでしょ?」
「ええ…はい。ですが、いいのでしょうか?」
「私が来てほしいのよ。」
「あ…はい!ありがとうございます!」
また明日、会って話せる。咲夜はそれだけで明日の仕事を頑張れる気がした。
―――――――――――
次の日、咲夜はいつものように出勤した。
「あ、十六夜さん!」
咲夜の上司が咲夜に声をかけてきた。
「なんですか?」
「社長が呼んでたぞ、昇格するんじゃないか?」
はっはっはと笑いながら冗談半分でそういう上司に、はぁ、とあいまいな返事をして社長室へと向かった。
――――――――――
「ああ、十六夜君。そこにかけてくれ。」
「はい。」
そこいらの女なら骨抜きになるような優しいほほ笑みを浮かべる。が、いまいち咲夜にはそれがよくわからない。
「君はいつも真面目に働いてくれており、そして君は社内屈指の社員だ。」
「ありがとうございます。」
当たり前のことだろうに、と心の中だけで突っ込む。
「そして娘も君によくなついているからね、君を僕の部下にしたいと思う。」
昇格。
働いてきた時間を考えると、ずいぶんとあっさりとした昇格だった。
――――――――――
「おめでとぉ十六夜さぁん!」
「ありがとう。」
咲夜の隣に座る女はニコニコと笑いながら酒を注いでくれた。
「でもぉどうやってやったのぉ?あたしに教えてよぉ!」
キンキンやかましい女特有の声で話すこの女は、咲夜になにかとつきまとう女だ。
周りには「親友だ」と言っているようだが、咲夜はこいつと親友になったつもりはない。
ましてや居酒屋で飲み明かす中になったつもりも。
「まじめにやっただけですよ。」
「まぁた謙遜しちゃってぇ!」
ささ、飲んで飲んで!と酒瓶を差し出す女。
「そういえば、社長のお嬢さんと仲いいってホントぉ?」
あまり触れられたくないようをさらりと言われ、ピクりと咲夜のほおがひきつる。
「ええまぁ……。」
言葉をあいまいにする。気の利いた奴や、咲夜をよく知る人物なら「これ以上聞かないでほしい」という意思表示だと分かっただろう。
だが、女は咲夜にくっつくだけくっついて咲夜自信を全く知らず、加えて気も利かない。
「やっぱりぃ?ねぇ、いつからぁ?おうちって大きいのぉ?」
「はい。それは…。」
ずけずけと遠慮を知らない女は聞いてくる。人に対してあまり悪意を抱かない咲夜は初めて、
初めて、
初めて、
この女、鬱陶しい。いや、もっとはっきり言うとうざいな。
と、思った。
基本的に咲夜は自分に合わない人間とは深くかかわらないタチだ。
嫌う人間が居ないというよりは、嫌う人間には近づかないようにしているのだ。
こいつも自分に合わない。今までも合わないと思っていたが今回ではっきりした。
無理やり断ち切ってもよかったのだが、会社内でこいつはなかなか古株のほうで敵に回すと厄介なことになるのは目に見えていたので咲夜はあえて切らずにおいた。
のちのち死ぬほど後悔することになる。
―――――――――――――
「咲夜ぁ!おめでとう!」
レミリアのところ――社長の自宅に向かうとレミリアが嬉しそうにはしゃぎながら待っていた。
「レミリア様、夜も夜中ですから。」
唇に人差し指を当て、しーっと言うとはっとレミリアは口をつぐむ。
「し、知ってたわよ。」
こほん、とレミリアは咳払いをし、にっこりと笑う。
「おめでとう、咲夜。ちょっとは私に会いに来やすくなったんじゃない?」
「ですが、用もないのに行くわけにはいかないので、残念ながら今までと変わりないかと…。」
「あら、そう。なら私が呼びつければ問題ないわね?」
いたずらを仕掛ける子供のような笑みでレミリアは言った。
「今と変わりないじゃないですか。」
「いいえ、今よりももっと回数が増えるわよ。覚悟しておいてね?」
はい、と困ったように、嬉しそうに咲夜は笑った。
――――――――――――
「十六夜さぁん!」
うるさい女が耳障りな声で話しかけてくる。
「なんですか?」
事務的に答える。拒否の意をこめたつもりだが―――。
「あなたみたいなえらぁいひとに頼むのは気が引けるんだけどぉ、この仕事やってくれない?あたしちょっと今から他のがあってぇ…。」
こいつはバカなのか?それともバカを装って押し付けたいのか?
「…わかりました。」
「きゃっ!ありがとぉ十六夜さん!」
子供のようにはしゃぐ女。レミリアぐらいの年頃ならかわいく見えるが、三十路ちかいオバサンがやっても気持ち悪いだけだ。
「……いいえ。」
胸の内のもやもやを押し殺して微笑んで見せる。女ははしゃぎながらどこかへ行ってしまった。
――――――――――――
「えー、やだなァにこれ……。」
「これ十六夜さんだよねぇ?彼女こんなことする人だったのねぇ。」
朝。
会社の掲示板に社員が集まっていた。
「おはようございま……。」
咲夜が出勤すると、掲示板の前にいた社員たちはばっと咲夜を見つめた。
その目は、決して好意的なものじゃなかった。
侮蔑、軽蔑、嘲笑、奇異の目、好奇心。
「な……なに?」
「ちょっとぉ十六夜さん!」
あの女が駆け寄ってくる。
「あなたってあんなことする人だったのぉ!?」
「あんな…?」
掲示板に張られた写真を見て、凍りつく。
そこにあったのは、えげつないアダルト写真。もちろん、咲夜のだ。
身体の隅々まで見せつけるようなポーズをとっている女、その顔は咲夜にすり替わっていた。
おそらくは、アダルト写真を加工し、顔だけ咲夜にしたのだろう。
艶めかしいポーズと咲夜のむっつりとした顔はどことなく不自然だが、それでも彼女を貶めるのには十分だった。
「これは違います!こんな事、私がするわけないでしょう!?」
「でもぉ……。」
「十六夜君。」
女の声を遮る、低い男の声が響いた。
社長だった。
「社長室に来てくれ。」
シン、と静まったオフィス。社員の視線は咲夜から社長へ、そしてまた咲夜へと戻る。
「…はい。わかりました。」
社長はいつも浮かべる笑みではなく、どこまでも深刻で真面目な顔をしていた。
あの社長も、疑っているのだろうかと考え、私はどうなるのか、とちらりと不安がよぎった。
――――――――――――
「ひどいね、これは。」
「社長、これは私ではありません。私も今日来て知ったばかりで…。」
「ああ、わかっているよ。娘から君の話をよく聞くからね。こんなことをする女性じゃない。」
社長は咲夜の写真を一瞬だけ見て、すぐに裏にして伏せる。
その顔は軽蔑や侮蔑ではなく、これを行った何ものかへの不快さをあらわにしていた。
「警察には連絡した方がいいかい?これは犯罪だ。だけどそうなると、こいつが警察関係者の目にも…。」
「私は構いません。早く犯人を突き止めて欲しいですから。」
咲夜の目に浮かぶ強い決意を見、社長は力強くうなずいた。
「わかった。じゃあ僕が後から連絡しておこう。」
「はい。」
たちあがり、失礼しました、と言って部屋を出ようとした時だった。
「十六夜君。君は、娘と仲が良いようだね。」
質問の意図が飲み込めず、思わず振り向いて社長の顔を見るとその顔は娘への愛情と、どことなく寂しそうな笑みを浮かべていた。
「君がよくウチへ来て娘の相手をしているのは知ってるよ。だが、あの子がそれを隠そうとしているから黙っているんだ。」
だけど僕は父だからね、と続けて社長はゆっくり咲夜に頭を下げた。
「あの子は…レミリアには母親がいない。あの子を産んで僕の妻はすぐに死んでしまった。だからあの子にとって、君は母親や姉のような存在なんだ。」
レミリアは下に妹を持っているから、常に自分がしっかりとしていなければならない。そして母親がいないため。年上の女性に甘えた事がないのだ。
「レミリアは君によくなついている。いつも部屋に閉じこもっているけど、フランドールもだ。どうか、あの子たちと仲良くして、あの子たちに母の温かみを教えてやってくれ。」
「しゃ、社長…。」
とまどいつつも、咲夜はしっかりと頷いた。
「…わかりました。私の出来うる範囲で、レミリア様とフランドール様に、その…母の温もりを感じさせたいと思います。」
「ああ、頼んだよ…。」
そう言って笑う社長の顔は、職場では決して見せない父親の顔になっている。
今度こそ咲夜は礼をし、部屋から出て行った。
――――――――――――――
「十六夜さぁん!どうだったぁ?」
オフィスに戻ると女が駆け寄り、上目遣いで問いかけてくる。
「…警察に連絡しました。これは立派な犯罪ですから。」
「そ、そぉ…。」
警察、犯罪という普段、テレビやドラマを通してでしか耳にしない単語をきいて女は少しおののいた。
「ごめんねぇ、あたしも信じてあげられなくて…。」
「いえ、あんなものを見れば誰もがそう思いますから。」
あなたに信じてもらわなくても結構よ、と心の中だけで咲夜は呟く。
こういう女はたいてい、自分の利益不利益しか考えない。自分にとって利益になるなら、オトモダチをも利用する。
こいつの”心配”は上辺だけの”心配”、いや、もっと言えば社交辞令と同じだ。
「あたしも犯人探しに協力するねぇ!」
どことなく興奮した様子で女は咲夜の両手を握りしめてそう言った。
―――――――――――――
咲夜への嫌がらせはあれだけではすまなかった。
警察の捜査は全く進展しない。犯人を特定するものが少なすぎる、というかないためだ。
朝、いつのまにか掲示板にはられている写真。まさか夜夜中まで誰かを残らせて見張らせるわけにもいかないので、はったのが誰だか本当にわからない。
嫌がらせは咲夜を少しずつ追い詰めていった。
根も葉もないうわさ…たとえば、咲夜が夜の店で働いているとか、アダルト雑誌のモデルをやっているとか。
夜までオフィスに突っ込まれているのにどうやって働けというの?雑誌のモデルなんかやってる暇が私にある?
考えれば考えるほど不自然な噂ばかりだ。だけど周りはなぜかそれを信じて、咲夜を遠ざける。
きっとそれはうわさがオイシイからだろうと、咲夜は考えている。
人は平凡な日常が続くことを望む半面、非日常も望んでいる。
そこにたまたま降ってきた咲夜のコレは、彼らのその欲望にうってつけだったのだろう。
人の不幸は蜜の味、とはよく言ったものだ。
「ねぇ、ほら彼女って…。」
「そうそう、夜も働いてるんでしょ?」
不思議なことに、女性ほどその噂を信じている。また、女性ほど不快に感じる。
そして女性ほど、そういう噂を持つ咲夜、早い話異物を差別したがるものだ。
咲夜にとって職場は苦痛を与える場所でしかなかった。
「なんであんな人が社長の部下をやってるのかしら…。」
「本当なんじゃない?あの噂も…。」
「あの噂って?」
「奥さんを亡くされた社長にカラダでとりいったって…。」
「だから昇格したのねぇ…。」
「そうよねぇ…。」
咲夜は家に帰っては泣いた。
だけどレミリアには決してそんな自分を見せたくはなかった。
レミリアに何もかも全てを吐いてしまえばどれほど楽か。それどころかレミリアが救ってくれるだろう。
そう考えるたびに社長の言葉が脳裏に浮かぶのだ。
母親のぬくもりを、と。
そうだ、自分が彼女たちの母となるのだ。甘えられる存在、頼ってもらえる存在になるのだ、と。
子どものいない咲夜に芽生える母性本能だった。
―――――――――――――
「ねぇ、咲夜なにか私に隠し事してないかしら?」
「…え?」
「知ってる?嘘をつく人って、いろんなタイプがあるのよ。
上手い人は全く気付けないの。だけど、ヘタクソな人はね、目が泳いだり、核心に近い部分をを突かれるとちょっと動揺するのよ。」
「…。」
ここまでくればレミリアが何を言いたいのかがわかる。
「会社で何かあったんじゃないの?会社のこと言われるたびにあなたうろたえるし、前は私に会社でのグチを話してくれたのに何も言ってくれなくなったわ。」
だけど、だけど―――――。
「なにもありませんよ、レミリア様。」
「…。」
レミリアは悲しそうな顔をした。
「私には言えないの?咲夜。」
「……。」
母親は強くあるべきだ、咲夜の母がそうだったように。
「さみしいわね。」
「…申し訳、ありません。」
「いいわ、別に。」
そう言いながら、レミリアの顔はどこか拗ねている。
「…申し訳ありません。レミリア様…。」
そんなレミリアに咲夜はひたすら謝ることしかできなかった。
―――――――――――――――――
「い、十六夜君!」
咲夜の上司だった男が咲夜を遠慮がちに呼び出した。珍しいことである。
「なんでしょうか?」
「社長が社長室で呼んでいたよ。早めに行ったほうがいいと思うぞ。」
「はい、わかりました。」
腫れ物に触るような対応でも、話しかけてくれたことが咲夜は何よりもうれしかった。
―――――――――――――――――
「社長、お呼びで――――。」
お前か―――!!
社長の隣に澄ました顔をしてたたずむあの女を見て、咲夜は瞬間的にそう思った。
「……何か、用でしょうか?」
「……。」
社長はひどくつらそうな、やりきれないといった表情をしていた。
「あなたをクビにすると社長は言いたいのよ。そうですよね?」
女はうすら笑いを浮かべながら咲夜にそう言った。
社長は女と咲夜の顔を交互に見比べながら、迷いながらそう言った。
「あ、いや…あぁ……。」
「―――――え?」
クビ?
私が?
どうして、なぜ、なぜ―――――――!?
「突っ立ってないで早く出ていきなさい。部外者なんだから。」
無になった心に、女の言葉がしみこんでいく。
それから、よく覚えていない。
夢の中にいるようでまるで現実味がなかった。
今までありがとうございました、荷物まとめて出ます、とそう言った気がする。
ふらふらとした足取りで咲夜は自分の荷物をまとめ、会社を出た。
家に帰ると同時にトイレへ駆け込み、胃袋の中を吐くだけ吐いた。
洗面台で顔を洗った時自分の顔を見たが、ゾンビよりもひどい顔色だった。
それから泣くだけ泣いた。
―――――――――――――――
「どういうことよ!?咲夜をクビにしたって!」
「仕方ないことだよ。わかってくれ、レミリア。」
「わかるわけないわ!だって、だって咲夜は…!」
「……っ!」
レミリアは口をつぐみ、キッと父を睨みつける。
「ねぇ。」
「なんだ?」
「誰かに何か言われたの?」
「…。」
図星のようだ。いつも嘘がバレると父は決まって黙って目をそらす。
「全く!信じられないわ!どうしてほかの奴の言うことを信じて咲夜を信じないの?
”ほかのお父様”は絶対こんなことしないわよ!」
「…すまない。」
気弱な顔をして頭を下げる父。
「謝るぐらいなら咲夜を今すぐもう一度部下として雇いなさいよ!」
「それは無理なんだよ。もう僕にはほかの部下が…。」
「…もしかしてそいつから?」
「…そう、だけど。」
レミリアはテーブルをこぶしでたたいた。
「そいつよ絶対!咲夜の変な噂流した奴!」
「だけどね、確証がないから僕は何も…。」
情けない顔で笑う父を、レミリアは心の底からのいらだちと怒りを込めた眼で睨みつける。
―――――――――――――――
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
咲夜はあれから出かけていない。
外へ出かける気がしなかったというのもあるが、下手に出ると会社の人間に会いそうで恐かった。
咲夜が勤めていた会社は世界規模の大きな会社だ。それもその本社となれば、社員の数も多い。
その本社の人間すべてにうわさが流れたのだ。これで平気な顔をして出かけられるだろうか。
不幸中の幸いか、広まったのは本社だけだった。
「…どちら様。」
≪私よ咲夜。レミリア。≫
「れ、レミリ…!」
≪早く開けて。≫
「は、はい。」
ガチャリと開けると、咲夜の視線の少し下に怒った顔をしたレミリアがたっていた。
咲夜はレミリアを招き入れ、お茶を一つだけ出してテーブルを境に向かい合って座った。
「どうして言ってくれなかったのよ。」
「…申し訳ありま――。」
「謝んなくていいから。理由だけ教えて。」
「……。」
なにも言わない咲夜にいら立ってレミリアはため息をついた。
「どうして、言ってくれないの……。」
「……です。」
「え?」
咲夜がうつむいたまま何かをつぶやく。
「社長に、頼まれたんです。」
「お父様に?」
「はい……。レミリア様と、フランドール様に、母のぬくもりを教えてやってほしい、と。」
「それとこれとがどう関係してるの。」
「だから、その……。」
叱られている子どものように顔をうつむかせ、握ったこぶしを膝の上に置いてぼそぼそと話す。
「母とは、本来子どもの前では弱さを見せるべきではないと思いまして…。それに、子どもを支える存在なので…。」
咲夜はそう話しながら、涙がこぼれそうになった。
子どもだが、咲夜にとってレミリアは家族のように心を許せる存在だ。
レミリアの目で見つめられ、その声を聞いているだけで咲夜は全てを吐き出してしまいたくなる。
「馬鹿ね。」
不意にレミリアが咲夜を横から抱きしめた。
レミリアの背は昨夜より頭半分くらいは小さい。その小さな腕で、小さな胸に咲夜の頭を押し付けた。
「私はあなたからずっと大切なモノをもらっていたわよ。」
咲夜の頭をレミリアは優しくなでた。
「ほんと…さみしかったの。あなたが来なくなって……すごく、フランだって……。」
抱きしめ、なでる腕が小さく震えている。その震えを、ぬくもりを感じて――――。
咲夜はこらえきれず、レミリアの胸に顔を押し付け、背中にしがみついて泣いた。
子どもの前で恥ずかしい、そんな考えは頭からふっとんだ。
ただわあわあと声をあげて泣いた。
気付けば、レミリアも泣いていた。
違うのは、お嬢様育ちのレミリアは声をあげて泣くことはなく、声をくっとこらえてぽろぽろ涙をこぼしていた。
――――――――――――――
「大丈夫よ、咲夜。わたしがなんとかするからね……。」
レミリアのそばで泣き疲れて眠る咲夜の額をなで、レミリアは涙で赤くなった目に暗い光をともし、不敵に笑った。
――――――――――――――
女は咲夜のいた席に、いた地位に居座り薄く笑った。
やっと奪い返せたの。あのオンナから。
女は、咲夜が大嫌いだった。
だって、あいつが悪いんだもん。社長にカラダでつけこんで、地位をあげたあのアバズレ。
許せない。許せなかった。あたしを愛してくれている社長を騙して、あたしの愛する社長を奪った。汚い手で。
だからあたしはあいつに制裁を加えてやることにした。
あいつの顔の写真を使ってアダルトの写真をばらまいた。怯えきったあいつを見ているといい気味だと思った。
あんたのせいなんだから。あたしの社長を騙すから。
根も葉もないうわさを流した。あたしの周りのとりまきたちに指示していろいろ流させた。
会社内で孤立して、気分はどうなの?
どうしてこのあたしが心配してあげてるのに、どうしてそんなにそっけないの。
許せない。
女は咲夜の全てが、何もかもが許せなかった。
このあたしが心配してあげてるのに、目をかけてあげてるのに、話しかけてあげてるのに嫌そうにして。
女は馬鹿ではない。咲夜が毎度迷惑そうにしているのに気づいていた。
どういうつもりよ、このあたしがアンタみたいな根暗なババアに話しかけてやってんのに。
実際、女のほうが咲夜より年上で、若い咲夜が女より格上だった。
それも気に食わない理由の一つだ。
許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない。
「社長、少しお耳に入れてほしいことが…。」
社長の大事なお嬢さんをあのオンナ、手を出そうとしてること知ってますか?
…え?女同士?そんなの好きになったら関係ないんです。そんなことより、いいんですか?
そうですよ、あんな人すぐにクビにするべきです。なにも迷わなくていいんです。だって大切なお嬢様のためなんですから。
「社長……。」
黙々と職務をこなす社長を見つめた。
あたしを愛してるくせに、がんばってそっけなくしてるのね。あたしを愛してくれてるからこそよね。
だって廊下ですれ違うたびにあいさつをしてくれるのよ。知ってるんだから。
あたしを見てる目が、女を見る目になってるって。
でも、それもこれも、身分が違うからだと女は思っていた。
もし社長という地位の人間が一社員と恋に落ちてしまったら、社長自身の地位が危険になるうえ、女にも迷惑がかかる。
あたしを愛してるからこそ、だと。
「おはよう。」
社長は今日もあたしに声をかけてくれる。
「おはようございます!」
大きな声であいさつを返した時には社長はもう通り過ぎた後だった。
恥ずかしがることなんかないのに、と女は不満に思う。だが気にしない。
だって、だって社長はあたしだけを見ていてくれるんだもの―――。
あたしも、社長だけを見続けるもの―――。
―――――――――――――――
「ねぇ、どうするつもりよ。」
暗い部屋、少女は男にきつく問いかける。
「君に任せたいんだけど、かまわないかな。」
応える男の声は情けなく、どこか疲れたような声だった。
少女はため息をついた。
「…わかったわ。じゃあ準備しておくよう言っておいて。アッチの私にね。」
――――――――――――――
「もしもし、…そう。私よ、レミリア。至急用があるらしいのよ、お父様が。来てもらえない?…うん、自宅。」
電話越し、咲夜とは違うやかましいキンキン声に眉をひそめながらレミリアは告げた。
「よろしくお願いするわ。それじゃあね。」
電話を置くと、レミリアは暗い笑みを浮かべた。
自分の手にエモノがおちた。
あっさりと。
「……馬鹿な女。」
――――――――――――――
「お、お嬢様!え、えと、社長はどちらに?」
「ごめんなさいね、お父様は急なお仕事で出かけちゃったのよ。」
「そうですか!」
「少しの間、私のお相手してもらえない?」
「はい!」
レミリアはお茶を淹れ、高級なクッキーを出す。
女は嬉しそうにそれを飲み、ほおばる。合間合間に「ありがとうございます」や「すみません」など呟いているようだ。
口に食べ物を淹れて話すなんて、とレミリアは不快感を覚えた。…咲夜なら、きっと食べ終わってから言うのに。
それを押し殺し、人懐っこそうな笑みを浮かべながらレミリアは女を見つめた。
「ねぇ、咲夜って職場じゃどんな人?私と一緒にいるときはすっごく優しいお姉さんだったの。」
「お嬢様いけませんよ、あの女はお嬢様を騙そうとしているんです。だって職場だと……。」
女がご機嫌な所でレミリアはそれとなく聞いた。
”にぃ”と笑った女はここぞとばかりに咲夜の所業を聞かせた。”にっこり”ではなく、”にぃ”と笑ったのだ。
ペラペラと話される内容は見事に嘘ばかりだ。男を身体で誘って捨てただとか、上司を身体で買収しただとか。
社長の子どものレミリアをとっとと買収しようと思ったか、それとも咲夜を二度と雇いたいと思わせないために彼女を陥れようとしているのか。
馬鹿ね、ホント。
それでもレミリアはふんふん頷き、時々「ひどいわねぇ」と相槌をいれながら話を聞いていた。
「それで、十六夜さん……は……。」
女は嬉々として話していたが突然、横に倒れこんだ。
それを見て、レミリアは初めてその女の前で心から笑った。
「やっと効いてきたわね。ったく、ペチャクチャとうるさいったらありゃしないわ。」
「…ふ…ぇ…?」
女がぼんやりした目でレミリアを見上げる。とろんとした目で見上げる女は、おそらく何が起こったか理解できていないだろう。しばらくすると女の両の目は閉じられた。
女の意識が沈みきったのを確認し、はぁ、とため息をついてレミリアは女を睨みつけた。
「さて、行こうかしらね。」
―――――――――――――――――――
「…っ、ん。」
女は妙な息苦しさを感じながら目を覚ました。
「あ…れ……確か……あたしお嬢様と……。」
意識が少しずつ覚醒していくにつれ、足元から激しい熱を感じた。
「え……あ、あ、ああああああああっつうぅぅいいいいいい!!!」
「お嬢様!罪人が目を覚ましました!」
足にバチンという音とともに火が飛び、それによって目を完全に覚ました。
叫ぶと同時に知らない声がすぐ下から聞こえた。
「あっつぅ…ううううう…な、なにぃ…!?」
火はすぐに消され、足をじわじわといたぶる熱がなくなった。
「あなた、私が誰だかわかる?」
聞きなれた声がし、女は水ぶくれのできた足から目を離し、その声の方向へと目を向けた。
その時ようやく、女は自分の置かれている状況を理解した。
まるでキリストのように十字架にくくられている。口元には布が覆われており、息がすこししにくい。
地面と体との間はぱっとみて代替一メートルはあるだろう。すぐしたに大量にくべられた薪やワラがある。
周りにいるのはコスプレ集団かと言いたくなるほどのメイド服をきた女がずらりと自分をかこっている。
ちょうどキャンプファイアーのように、円になっているのだ。
カツカツ、と先ほど自分に問いかけた少女がやってくる。
それは、
「レミリア、お嬢様――?」
「知ってるのね、まぁ当たり前かしら。」
そう、レミリアだ。だが、その姿は女の知っているものとはかけ離れていた。
中学生らしいセーラー服姿しか知らない女にはそのレミリアの姿が新鮮に見えた。
桃色のドレス、フリルやリボンが施され、胸元には真っ赤な石が輝いている。
頭にはこれまたフリルとリボンをあしらった帽子が。
そして、背にはコウモリのような黒い翼。
コレハ?
「あなたの罪は重いわよ。私の所有物を勝手に傷つけたらしいじゃない。」
そういって笑うレミリアの笑みは触れれば切れそうなほど冷たかった。
「アッチの私がそう言ってたの。どこの世界の”サクヤ”も全部私の所有物。勝手に傷つけることは許されないわ。」
レミリアが両手を拍手するように二度たたく。すると、何人かのメイドが女を十字架からおろした。
「だから、これからあなたにはその罪をたっぷり、たぁっぷり償ってもらうわ。さっきの火あぶりなんか比じゃないわよ。
あれはあなたを起こすためにやった優しいものなんだから。あ、安心して。償ったら殺して、死体は…そうねぇ、
適当にバラまいておけば野良犬とかが食べるでしょうからちゃんと処理しておくわ。」
メイド達が女の足を掴んでズルズル引きずり、背後に見える真っ赤な屋敷へと連れて行く。
「そうそう、あと最初はゆるい拷問からにするから、突然ショック死なんてできないわよー。
まぁ死んだら死んだで…ね?よろしく、パチェ。」
「ええ。わかってるわ。」
丈の長いスカート――かろうじて足のつま先がちょこんと見えるほど長いスカートを履いた少女…パチュリーがこくんとうなずく。
女は、わけがわからなかった。
わけがわからなかったが、恐ろしい目に遭うことだけはよくわかった。
――――――――――――――
連れてこられたのは地下室、全面が石でできた冷たい部屋だった。
ちなみに女はそこに連れてこられるまでずっと引きずられていた。階段でもだ。
もう歯がいくつか折れた。
メイドが石でできた椅子に足を、石でできた机に女の両腕を固定した。
レミリアとパチュリーはそばにおいてあるフカフカソファに座り、紅茶とお菓子を楽しんでいる。
「えー、まずは…なにからにするんだっけ?」
「さっき自分で決めてたでしょ、レミィ。ほら、指…。」
「あー、そうそうそれそれ。を、やってちょうだい!」
「は!」
意味のわからない指示にもメイドは忠実に従い、竹串を10本用意した。
「お、お嬢様!なにをするつもりで…。」
「説明したばっかりー。もう、自分で思い出しなさい。はいはい、さっさとやっちゃっていいわよー。」
「は!」
メイドは女にわざと鋭くとがった竹串を見せた。
「何をするか、わかりますか。」
「わ、わかんない…です!だけどやめ――。」
ぶじゅっ。ぶじゅぶじゅじゅじゅじゅ。
人差し指を横から、竹串が貫いた。
「は、ぇ?」
串の先がちょこんと出ると、そこから赤い血と肉の破片がぽとぽとと垂れる。
「い――ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
女は生まれてから一度も経験したことのない痛みを味わい、喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
「だあああああああああいいいいいいいいいいうわぁぁぁぁああぁぁぁ!!!」
「次、行きます!」
ぶじゅっ。
「ぎゃああああああああああああああああああや、ぇぇぇぇぇ!!」
「薬指!」
ぶじゅっ。
「ぐぎゃあああああああああゆびがあああああああ!!!」
「小指!」
じゅぶっ。
「ああああああああああああああああああああああ!!!」
「あれ?申し訳ありませんお嬢様!一発で貫けませんでした!」
「あーはいはい、どんどんやって。」
じゅぶ。ずぶずぶじゅぶっ。…ずぶっ
「行けました!」
「が…ァァァァァァ…いだぁ…うぁゎっぁ……。」
人の言葉ではない声をもらしながら女はあまりの激痛に気絶してしまった。
「…くっさ。やだこの女、失禁してるじゃないの。」
石は生ぬるい液体でびっしょりとぬれていた。
「起こして。」
「は!」
メイドが今度は指に刺さった串を一気に引き抜く。
ぱっ、ぱっと赤い血と肉がそのたびにまき散らされる。
「がああああああああああああああ!!!」
バッと女は顔をあげ、よだれを垂らしながら叫ぶ。
「誰がおねんねしていいって言ったの?そら、次はもう片方の指。」
――――――――――――――――
「ん、…あら?」
「死んだんじゃない?」
指詰め、親指つぶし、三角木馬、水責めが終わった時だった。
女の悲鳴が小さくなり、ついには聞こえなくなったのだ。
椅子から転げ落ち、床にあおむけになる。舌をだらりと垂れ流し、目からは涙と分泌液があふれていた。
「どうなの?生きてる?」
「はい!息をしております!」
「かろうじてってことね。パチェ。」
「わかった。」
パチュリーは胸元から注射器を取り出し、女に近づいた。
「これはレミィ達吸血鬼の血液を元にして作った特別な薬よ。身体に打てば一時的に吸血鬼並みに再生能力の身を得るわ。薬液の濃度を濃くすれば、死にたての死体なら蘇ることも可能でしょうね。」
ぷすり。女の首に注射器を刺し、薬液を注入する。
「………っ、ハーッ。」
「わ、すごい!蘇ったわ!」
「死んでなかったわよ。かろうじて生きてたの。」
「そうなの?」
「ええ。だから濃度が一番薄いのでも大丈夫だったわ。」
女は大きく息を吸っては吐くを繰り返し、目の焦点をゆっくりレミリアに合わせていった。
「あ、あぁぁぁぁぁ……。」
途端にその顔が恐怖にひきつる。行われた拷問を思い出したのだろう。
「い、いやぁぁぁごめんなさい!あた、あたしもう十六夜さんを傷つけません絶対!約束しますから!!」
「だぁめよ。あっちの私から頼まれたのよ。あなたを懲らしめてって。」
「あ、あっち?」
「あぁ、どうせ言ってもわかんないでしょうからいいわよ。どうでもいいから、はい次!」
「は!」
「やめてくださいいいいいお願いしますううううう!!!」
涙と鼻水で顔をめちゃくちゃにして女は懇願したが、レミリアは聞き入れなかった。
そして新たな拷問が始まった。
―――――――――――――――
石打ち、海老責め、塩責め、虫責めが終わったころだった。
なんども死に、死んでは薬で強制的に蘇らせられ、女の精神はすでに壊れかけていた。
「ぃ…します……あだじが…わるがっだからぁ……も…ゆるじで…ごろじて……。」
「へぇ?」
レミリアが飲んでいた紅茶を置き、興味深そうにその言葉を聞いた。
「おねがい゛じまず……もう゛ごろじでぐだざ………。」
ふっとレミリアは笑い、うなずいた。
「いいわよ。じゃあ、あなたに最後を飾るために……。入ってきて!」
ガチャリ、と重々しい扉が開き、そこからある二人が入ってきた。
「旦那様。こちらです。」
「うん。」
あのオンナと、心から愛してるあの人だった。
「あ――。」
しゃちょう、と女が呼びかけると綺麗な顔をしたその男は笑った。
「醜い声で話すんじゃないよ、このアバズレ。」
どうし、て。
女はもうそういう力すらなかった。
あなたはあたしを愛してたんじゃないの?愛してくれてたんじゃないの?あたしを、あた、あたしを――――。
どうして、どうし、
「もういいかな、レミリア。」
「お願いします、お父様。」
「うん。咲夜、君がとどめを刺してくれ。」
「はい。」
咲夜は女の頭に足を乗せた。
そしてぐっと踏まれる。
あし、あたま、ふまれ、やめ、いたい、いたいいたいいたいいいいいいい
徐々に力を込めていく。
グシャッ。
女の目が脳が髪の毛が舌が欠けた歯があたり一面に飛び散った。
――――――――――――――
レミリアは咲夜を自室に招き、二人で紅茶を飲んでいた。
「…終わったのよ、咲夜。向こうの私が片付けてくれたの。
あなたは安心して、またお父様の元で働けるわ。」
「むこ…?どういう、事ですかレミリア様…?」
「いいえ、なんでもないわ。なんでも…。」
レミリアは、セーラー服を着たレミリアは実に満足そうに笑った。
――――――――――――――
「おわったわ、お父様。向こうの私も喜んでるみたい。」
「そうか。しかし、向こうの僕も厄介なのに好かれてしまったものだ。」
「片付けたからもういいじゃない。」
レミリアの胸にある赤い石がきらりと光った。
―――――――――――――
「おわったわ、お父様。向こうの私が片付けてくれたのよ。」
「そうか。しかし、僕も厄介なのに好かれてしまったよ。」
「片付けたからもういいじゃない。」
レミリアの胸にある赤いリボンが風でふわりと揺れた。
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お久しぶりです。今回は初めての社会人咲夜さんです。
フランちゃんがびっくりするほど空気でごめんなさい。
とりあえずうざい女って書いててもイライラしますね。
夕月
- 作品情報
- 作品集:
- 31
- 投稿日時:
- 2012/11/19 14:42:13
- 更新日時:
- 2012/11/19 23:42:13
- 分類
- レミリア
- 咲夜
- オリキャラ
おぜうさまの『所有物』に手ぇ出したアバズレが懲らしめられる、愉快痛快なお話でした。
この『お父様』ってレミリアとどういう関係だろう……。世間体を考えてのダミー?
どのセカイでも、この主従は永遠ですね。
そういう運命だから。
ありがとうございます。
名前の通り、本当に父親なんだろうか・・?
まさに二人は永久の主従ですね。