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『白痴』 作者: ごみむし
はたては薄暗い部屋の天井を焦点の定まらない目で見つめていた。
一瞬自分は何処にいるのだろうと思案したが、ふと視線を横に流すと一面が新聞で埋まられていた壁を捕らえた。
その新聞のほとんどが『文々。新聞』と大きく書かれいる。幾分か見慣れている光景に、ここが文の部屋であると気づく。
僅かばかりの意識が朦朧と揺れる、指先は酸素不足で痺れている。
身じろぎを繰り返しながら重い上体を起こし、周囲を一望した。
床に大量に転がっている半透明の琥珀や錆色の物体は酒瓶だった。
日本酒や焼酎や得体の知れない洋酒など、様々な種類の酒瓶は全て口が空けられ
無造作に投げられていてる、中には割られているものもある。
アルコールの臭いが充満した密室は鼻腔が麻痺してしまいそうな程に強烈であった。
現在の状況となけなしの記憶を照らし辿る、どうやら昨日は相当な量の酒を文と飲んでいたらしい。
はたてと文はたまに、こうして二人だけで飲む。
文とは決して仲が良いわけではなく、むしろ敵対している相手だ。
しかしそれは新聞記者としての意味であり、嫌悪を抱くのは新聞を通じての事だけで、敵は敵でも好適手という立場であった。
種族や職業が同じなのもあって、方向性の違いは多少生じるが新聞そのものへの情熱や理想は共通しており、話も合う。
だから原稿に詰まった時、上司への不満が募った時などは、どちらかの家に酒を持ち込み、愚痴やお互いの新聞の皮肉を織り
交ぜながら、他愛もない雑談を肴に杯を酌み交わすのだ。
昨日は、二人とも新聞大会の順位が最悪な結果だった事もあって、文の自宅でありったけに買い込んだアルコール類を浴びるように飲んだ。
罵詈雑言を叫びながら次々と瓶を空け続けた結果がこの様なのだろう。
今まで、酒を飲む事は日常茶飯事であっても、酒に飲まれる事など滅多に無かった。
しかし、昨日の荒れ具合やこの酒瓶の量を考えると、いくら酒豪と名高い天狗でも健康的な酔いに浸るのは難しい。
自らの羽目を外した行為に後悔が襲う。
ゆっくりと瞬きをしてみる。温い涙が頬を撫でる。
嗚呼、指先どころか、瞼も、唇も、内臓すらも痺れている。
意識が戻り、揺れていただけの焦点が一気に定まる。
分裂していた視界は一つに重なり、目の前の景色は輪郭を露わにした。
文は、座卓の上に片肘をついた体勢で、ボトルを煽っているようだ。
はたてを凝視しながら、薄い笑みを浮かべていた。
あれだけ飲んでまだ飲むつもりなのか、苦しみに悶える自分を肴にでもしているのだろう、腹が立つ。
まだはっきりしない意識と酔いを覚醒させなくては、軋む関節の痛みに耐え膝に力を込める。
「どこに行くんですか」
「……水」
愛想悪く答えてみせると文は途端に不機嫌な顔になった。
こんな事で面白いと感じてしまうのはやはり自分が文を嫌いだからなのか。
ふらつく足をひきずり洗い場へと踏み出そうとしたその時、手首を引っ張られ後ろから抱きつかれた。
文の腕は腰に絡み、動けない。
「ちょっと、何」
「行かないでください」
「水ぐらい飲ませてよ、気分が悪いの」
「喉が渇いたのですか、お酒ならありますが」
「ふざけないで。いいから離して」
「はたて」
耳元で響く文の声は普段より低く、甘さを帯びていた。大方、酔っているのだろう。
取材をしている時の文の声は歯切れ良く通って、聞き取りやすい。
その滑舌の良さは普段取材をしないはたてには無いもので、羨ましく思う。
至近距離で話していても不快では無く、むしろ耳に心地よい響きで、好きだ。
しかしその声も今はただ耳膣を粘液の様に這っているだけだった。
別に嫌ではないが妙に艶っぽい声調で、変な気分になってしまう。
拘束から逃れようと体を揺らしたり前屈してみたりするが、文はべっとりと張り付いたままだ。
後ろから、耳朶の先端を食まれる。
種族特有の尖った耳殻は、はたてだけじゃなくても敏感なのだろう。
歯で軟骨のラインをなぞられ、悪寒とも言えぬ震えが背筋を伝って駆け上がった。
洩れ出そうになった声を噛み殺し、後ろの女を睨めつける。
「しつこい」
「その割には、満更でも無さそうですけど」
「あのねぇ!いい加減に…… っ!!」
急に体を動かしたのが良くなかったのか。
全身から汗が急激に噴き出す。胃が絞めつけられる感覚、胸から喉までの範囲を何かが込み上げ、焼けるような熱さが襲う。
強烈な痛みと痺れが体内を侵していく、繋ぎとめたはずの意識がふっと遠のき、その瞬間からは白く明滅を繰り返している。
膝が震撼して倒れそうになったが、忌々しい女の支えによりそれは妨げられた。
嘔吐の兆候だ。えずくのを堪えるが、じきに限界だろう。
分かっているのかそうでないか、文の腕はまだ離れない。
「っはなして…」
「どうしてですか」
「ほん、と、まじ、洒落に、ならないから……っ」
喋る度に襲う吐き気で、喉から搾りだす言葉は途切れ途切れになる。
「吐きたいなら、ここで吐けばいいじゃないですか」
「ふざけるのも、大概にしろって、いってるのよ」
「ふざけてなんかいません、私はいつだって、大いに真面目ですよ?」
含んだ笑みでそう言ったが、どうやら本気らしい。
何て低俗な、いくら酔っているにしても、悪趣味がすぎる。
冗談じゃない、こんな場所で、ましてやこんな至近距離で嘔吐するなど。
顎を掴まれ、すらりと伸びた親指が下唇を撫でた。
抉る様に中指と人差し指で無理矢理口を抉じ開けられる。咥内に溜めていた唾液が端から溢れ、輪郭を伝う。
そのまま舌を強く摘まれた瞬間、咽喉がごぽりと水音を鳴らした。
奥に浸入する指の異物感に堪えきれず、大きく嘔吐く。
声にもならぬ声は部屋の静寂と反比例して鳴響いた。
「はたて。」
自分の名を称える文は縋る目付きをしていた。囁くその声は酷く繊細で、たおやかで、まるで懇願のようなものが感じられた。
視界が一転する。
零れ出た吐瀉物は殆ど水の状態で、ぱしゃぱしゃと床に音が弾けるだけだった。
その薄い黄色の液体と鼻腔からはアルコールと酸の饐えた臭いが突き上げ、吐気が再び助長される。
繰り返された嗚咽で酸素が著しく欠乏し、涙と唾液をだらしなく垂れ流しながら胸を上下させる。
はたてのすみれ色のブラウスは吐瀉物を吸って其の部分だけが濃い色で変色している。
文は自分の体液でぐちゃぐちゃになったはたてを、ただぼうっと眺めていた。
「ハァーッ、ハァーッ。」
思考を持たない植物の如く呼吸をしていたはたてだったが、徐々に落ち着きを取り戻したのか、拘束を続けていた文の腕を
振り解き眉間に皺を寄せながら執拗に嫌悪の表情を向ける。
しかし、涙で濡れた瞳はどこか頼りなく、いまいち迫力に欠ける。目線は爛々としているが焦点は一致していない。
随分と苛々した様子で、はたてはぞんざいな手つきでボタンを外し、纏っていた吐瀉物まみれのブラウスとサラシを床に投げ捨てた。
余すことなく晒された身体は酷く痩せ細っている。
乳房こそついてるものの、肋骨の一本一本がくっきりと縁取られており、狭い背中には骨ばった肩甲骨と脊椎のおうとつが描かれている。
文は座卓に座りなおし、再びボトルを口につけた。
「ストリップショウでも見せてくれるんですか?」
そう言って厭らしくニンマリと微笑んでみせた。はたての顔は先程よりもさらに殺気だった表情になり威圧する。
しかし、怯むどころか益々笑みを深めこちらに見とれる文に、はたては沸々と煮え滾っていた怒りが冷める。
所詮酔っ払いは酔っ払いでしかない。相手にする義務も、つける薬も、何処にも存在はしないのだ。
だけど自分だけ煮え湯を飲まされるのも癪なので、ささやかな復讐を仕掛ける事にした。
余裕しゃくしゃくに胡坐をかく文のもとへと歩み寄る。
「あんたが仕掛けた千日手だから」
襟に手を伸ばし、胸倉を掴む。力まかせに引き寄せた文の顔は一瞬目を瞠っていた様子に思えた。
ニヒルな笑みが似合う薄い唇に、日頃の怨恨を晴らすかのように、強く深く噛み付いた。
舌を捻じ込み、咥内を執拗に掻き回す。ぞくぞくと戦く背筋と触れあう舌が酩酊を孕み、身体中が熱く痺れる。
アルコールの味しかしない唾液を啜りあう、もうどちらが自分の舌なのか分からない。
理性が蕩け、ただ白痴のように舌を這わせるだけだった。
口を離し、引いた糸さえも文の唇に舌で押し付ける。
「……酸っぱい」
「まあ、ゲロだし」
「美味しくない」
「…ゲロだしね」
「もう一回」
「はぁ?」
「もう一回舐めたら美味しくなるかもしれません」
「馬鹿か、脳たりん」
そう言って文の頭を軽くはたく。まさか、本当に白痴にでもなったのだろうか。
ふと窓を見る、まだ月は薄く輝きを放っていた。多分この酔っ払いの相手は、朝が来るまでは終わる事は無いのだろう。
暗い部屋だが、文の顔は赤く染まっているのが分かる、ただはたての顔をじっと見上げている。
猛烈な頭痛はまだ収まらない、身体の痺れも止まない。
思い出した、私もこいつと同じただの酔っ払いで、同じ白痴なのだ。
二人の二度目のキスは、相変わらず白痴のようなものであった。
二人は幸せなキスをして終了 初めまして、こちらではごみむし名義でいきたいです 東方SS処女作が産廃処女作になろうとは.... ホモっぽい雰囲気が出てたらいいなぁと思います。
ごみむし
- 作品情報
- 作品集:
- 31
- 投稿日時:
- 2012/12/06 14:01:37
- 更新日時:
- 2012/12/07 13:47:34
- 分類
- あやはた
- 文
- はたて
私も産廃にSSバージンを捧げました。
酒の勢いを借りて、若干変態じみた、退廃的なシチュで結ばれた二人。
夜が明けて、白痴から復帰した二人のテレ&デレ&二日酔いが見ものでしょうね……。
そこがとてもいい。
アルコールと胃液のカクテルみたいに苦くて甘い話だった。
素敵。