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『死霊蝶』 作者: 左都
「ねえゆかり、わたしあなたのことが好きよ」
紫が幽々子と一緒にいると、決まっていつもこの会話が始まる。
そして紫は決まっていつもと同じ答えを絞りだす。
「人間は愛せないわ」
「わたしは人じゃないわ。だって死んでるもの」
人、ひと、ヒト。人とはなんだ。
いま私の目の前で艶やかに笑っている女は確かに生きていた。だけど死んだはずだ。私が、私がこの手で殺したのだ。
儚く脆い、人間の象徴のように柔な喉に指をかけて絞め殺した。そうだ私が殺したはずだった。
今でもそのときの指の感触の一つひとつまで鮮明に思い出せる。
指の一本一本に力をこめると、人特有の柔らかさゆえに指が微かに皮膚へ沈みこんだ。きつくつよく絞めれば絞めるほど指先には筋があたる。親指で喉仏を押しこみ、すべての力を指に集めてこの細い指を絞めることに没頭した。こわばっていた筋が弛緩したかと思うと、ふいに強ばりが消えた。ぐにゃりとしただたの肉の塊が私の目の前に出来上がっていた。
そうして西行寺幽々子は死んだ。
「あなたがわたしを殺したのよ。ゆかり」
紡がれる言の葉はそのふっくらと瑞々しい唇から紡がれるにはいささか不釣り合いなように思えた。
幽々子の表情は始終穏やかだった。そもそも幽々子の感情が振れることはほとんどないのだ。そう、死ぬその瞬間まで。私はそれを誰よりも、幽々子本人よりも知っている。
「そうよ。私が殺したわ」
「ほら、わたしはいま人ではない、死人よ。それはまぎれもなくあなたがやったこと。あなただってそれをわかっているはずなのになぜわたしを拒絶するの?」
そうだ、幽々子はもう人ではない。
その身に死の匂いを纏わりつかせ、生きていた時と同じように笑う死人。
幽々子の周りにいる蝶はその匂いの具現化であり、幽々子そのものだ。
幽々子は死んでいて、そして“死”そのものだった。私はそれを誰よりも理解していて、誰よりも理解できていない。いや、理解したくなかったのだ。
死の中に私が求めた幽々子はおらず、そして人であった幽々子も私の求める幽々子ではなかった。
私の求めた幽々子はヒトであった。だから殺した。だってヒトは愛せなかったから。
だけど私の求めた幽々子はヒトの中にあった。だけど殺してしまったので幽々子はどこにもいなかった。
だから、だからこ私はまた、こうして幽々子の首に両指を回して、私の求める幽々子を探しにいくのだ。
自分に嘘をつきつつ、指に力をこめた。
哀れな私を、幽々子は何度目の死に際でも哀れな者を見るような、慈しむような目で見つめながら何回だって息絶えて逝く。
紫が幽々子と一緒にいると、いつも決まった会話が始まる。
そして紫は決まって自らの手で、いつもと同じ結末を生み出すのだ。
とある方の首絞めゆかゆゆ本を読んでから、ゆかゆゆはこういう関係だったらいいなあと思うようになりました。
左都
- 作品情報
- 作品集:
- 31
- 投稿日時:
- 2013/01/14 14:51:04
- 更新日時:
- 2013/01/14 23:51:04
- 分類
- 紫
- 幽々子
ヒトでなければ愛せぬ。
ヒトでないから愛せる。
何度繰り返しても、死は同じ問いしか出さない。死からは何も解答は得られなかった。