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『神聖モコモコ王国 〜 season2 〜 VOL.3』 作者: 木質
【登場人物】
藤原妹紅:モコモコ王国の国王。輝夜抹殺のためなら手段を選ばない。
死にすぎて頭がおかしくなり、この世界が二次元だと認識できるようになった(らしい)。
上白沢慧音:モコモコ王国国民。多くの者から慕われているが、同時に敵も多い。
満月の晩に変身するハクタクは誰も止められない。慧音とハクタクが同一人物だということはごく一部しか知らない。
霍青娥:諸悪の根源。彼女がいなければ世界の刑務所の数は今の半分だったと言われている。
キョンシーとして従えている宮古芳香は、慧音の元生徒である。慧音をどこか疎ましく思っている節がある。
上白沢宅(モコモコ王国)。
今日も今日とて藤原妹紅は憎っき蓬莱山輝夜抹殺の計画を企てる。
「進みすぎた文明はやがて破滅を迎えるモコ。永遠亭の文明はかなり高いのでそろそろ破滅すると思うモコ」
「汲み取り式の厠を使っている所をハイテクと呼べるのか?」
「大自然の恵みが奴等に鉄槌を下すモコ! ついにモコモコ王国で最も危険な奴が動くモコ!」
――――――――――――【モコモコ王国 グンマーエリア族長 ジェロニモコ】――――――――――――
密林で暮らす誇り高き狩猟民族の族長。
うざいくらいにワンパクな生粋の野生児。
木の上からワイルドに飛び降りてよく足を骨折する。
――――――――――――【モコモコ王国 グンマーエリア族長 ジェロニモコ】――――――――――――
「グンマーエリアの住民はワイルドが売りなので、基本何をやっても許されるモコ」
「無法とワイルドは別物だぞ」
「その辺はハクナ・マタタモコよ」
「張っ倒されるぞ?」
―――――――――――――――――――――――【グンマーエリア民とは】―――――――――――――――――――――――
土に根を下ろして風と共に生きるのが信条の誇り高き狩猟民族である。
文明を捨て、自然を信仰することで様々な精霊の加護を受けている。
中途半端に外の文明を取り入れている幻想郷でこの有様である。
文明を全否定したらどうなるか、想像に難くない。
■グンマーエリア民の基本スペック
1.某国のスパイ衛星を投げ槍で撃ち落とした。
2.5トンのサイを一人で仕留められるようになって初めて飲酒が認められる。
3.7歳の子供を無力化するのに、最低でも一個師団は必要。
4.シャーマンを怒らせた者は不思議な力で死ぬ。
5.10キロ先にいる仲間と読唇術で会話できる。
―――――――――――――――――――――――【グンマーエリア民とは】―――――――――――――――――――――――
「グンマー民の猛攻により崩壊する永遠亭。気を失った輝夜が目を覚ますと、頭にUSB端子が埋め込まれていることに驚愕。そこに現れたモーフィアスが一言『ようこそ。現実の世界へ』モコ」
「どんな方向に話しを持っていきたいんだ?」
「うるせえ行くぞモコ!」
「私もか?」
「当然モコ」
(まあ寺子屋に備蓄してる薬が切れ掛かってるからちょうど良いか)
妹紅と一緒なら竹林で運悪く強力な妖怪に出くわしても安心と考えた慧音。
共に永遠亭に向かうことにした。
「にしても」
「モコ?」
原住民衣装の妹紅をジッと見る。
「普段からアレなお前が野生児って、退化してないか? 失った部分の方が圧倒的に多いぞ」
「マジモコか? バン○イあたりから補強パーツとか出てねーモコかね?」
「ガンプラのポリキャップじゃあるまいし…」
永遠亭を目指し、二人は竹林を進む。
「二人だけで永遠亭の奴等にゲリラ戦を挑むというのは、いささか心もとねぇモコ。けーね。こいつを寺子屋の餓鬼どもに配れモコ。将来的に尖兵として育て上げるモコ」
「なんだその本は?」
「モコモコ王国が発行する『週刊 世界のワイルド』モコ。創刊号はなんかの骨がついて280円モコ」
「初めて見る形状の骨だな? どこで拾った?」
「隣り合う他作品の世界から」
「またそれか…」
またいつもの意味不明な話が始まると思った慧音は、会話を諦める。
(そういえば…)
ここ最近感じている違和感を思い出し、尋ねた。
「ところで妹紅」
「おうモコ?」
「私の家、お前の他に同居人がいたような気がするんだ」
「言ってる意味がわからんモコ」
「自分がおかしな事を言っているのは重々承知だ。しかし、そんな気がしてならないんだ。お前と私以外に二人、あの家にいたような気がするんだ」
「その話はするんじゃねぇモコ。せっかくのキャラリセが無駄になるモコ」
「その口ぶり、やはり何かあるのか?」
そんな時だった。
向こう側から何者かがやってきた。
「まさか迷いの竹林で鉢合わせするとは、狐につままれた気分だ」
「ん?」
「モコ? うおおお! てめぇは!?」
現れた八雲藍に対して、妹紅は臨戦態勢を取る。
「そう警戒せずとも良かろう?」
主人の使いで永遠亭に行った帰り、めんどくさい連中に遭遇したと藍は軽く肩をすくめた。
「永夜異変と肝試しの一件を、まだ根に持っているのか?」
「あたぼうモコ! 輝夜の使いっパシリどもがモコ! 返り討ちにしてやるモコ! できるだけ正面からかかって来いモコ!」
「よせ、焚きつけるな」
腕をだして妹紅の飛び出しを防ぐ。
「あれは紫様の命令に従ったまでだ。お前達に対して敵意も悪意も持ち合わせていない」
故に、争う理由は無いと主張する。
「知るかモコ! 悪意がないから宇宙船の乗り組員皆殺しにしても許されるモコか!?」
(なんで2001年宇宙の旅のHALを引合いに出す?)
「そうか…」
場の雰囲気が変わる。藍の中心に周囲の空気が震える。
「紫様からの許可がなければ誰にも挑めぬ身だが、自衛のための戦いはなんら問題無い。こちらは三人がかりで襲った身だ、遠慮なく二人で掛かってくると良い」
「よっしゃああ!! 吐いた唾飲むんじゃねぇモコ!」
「だから待て」
「もごむぐ」
飛びかかろうとした妹紅を羽交い絞めにする。
「こちらも悶着を起すつもりは無い。このまま素通りさせてもらう」
「そうしてくれるとありがたい」
「ほら行くぞ」
「納得いかねぇモコォォ!!」
慧音に連行されながら、藍に向けて中指を立てる。
「シーズン1のとき、家畜に並んで扱い辛いんじゃお前はモコ! せいぜいコッチじゃ、式が脳死させられないよう気をつけろモコ!」
「なんの話しだ?」
妹紅の言葉を訝しむ。
「紫の実験台にされた橙が脳死しても、モコモコ王国は一切関知しねぇからそのつもりでいろモコ!!」
「紫様の実験?」
「こいつの言動を真面目に取り合わないほうがいい。ほら行くぞ」
「モコォォォォ!」
二人は永遠亭の方向へと消えていき、その場に藍だけが残る。
(モコモコ王国か、なんだろう。初めて聞く名のはずなのに、ひどく懐かしい気がするのは)
永遠亭。
「失礼する。だれかいるだろうか?」
「おや慧音先生?」
玄関で慧音を応対したのは鈴仙だった。
「お一人でこちらに?」
「さっきまでもう一人いたんだが、突然叫びだしてどっかにいった」
「へ?」
「それより、寺子屋に常備している包帯と軟膏が尽きそうなんだ。売ってくれるとありがたい」
「どうぞ、診療所の方に」
今いる母屋と診療所を繋ぐ渡り廊下に通される。
「そういえば体温計も割れてしまったんだ。余分にあるだろうか?」
「ええ、予備ならいくつか」
「あら、慧音じゃない。急患でもないのに来るなんて珍しいわね」
診療所の方から輝夜がやってくる。
「輝夜か、一つ注意しておきたいことが…」
どこかに妹紅が潜んでいることを伝えようと思った矢先。
「ああぁぁぁ!あああぁぁぁああああぁあ!ああアアアアアァァアアア!!モコーー」
突如、雄叫びが木霊した。
「なに?」
雄叫びが途切れると同時に、屋根の上から一本のロープが垂れ下がった。
直後、妹紅がロープに沿いながら高速で降りてきて、輝夜の目の前、空中でピタリと停止する。
「突然だが死ねモコ!」
担いでいた竹やりを輝夜に向かい投擲する。
「ひっ!?」
寸でのところでかわした。
「今日こそてめぇをモッ殺すモコ!」
地面に降り立つと、腰に巻いた安全帯を外してロープを回収する。
「ターザンみたいな掛け声なのに、スワットみたいなスタイルで降下してくるんだな」
「輝夜! 決闘しろモコ! 竹槍を取れモコ!!」
慧音の指摘を無視して、妹紅は竹槍を輝夜に向ける。
「け、決闘?」
「ルールは簡単モコ。この竹槍で相手を『モトゥンガ』して『ジメメコパ』すれば勝ちモコ」
「何一つわからないんだけど!?」
「うっせえ! さっさと構えろモコ! 伝統的な決闘方法に水を差すんじゃねぇモコ!」
「毎度毎度。良い加減にしなさい」
鈴仙は手馴れた動きで妹紅の腕を捻り、壁に押し付ける。
こうなると大体決着である。
「くそうモコ! 捕獲されてしばらくしてリリースされるというお決まりのパターンに突入してしまったモコ!」
「姫、師匠からハルシオンを貰ってきてください」
「離せモコこの電波兎! 放送終了させられてぇのかモコ!!」
「ふんっ」
鈴仙は腰に提げたホルスターから一本の細長い長方形の棒を出した。
それを妹紅の首筋にあてる。
「モギャアアアアアアアアアア!!」
無縁塚で拾ったテレビのバッテリーを改造して作った自作のスタンガンだった。
妹紅は小刻みに痙攣してから、沈黙する。
「気がつくまでコイツの身柄はこちらで預かります。目が覚めたら野に放ちますから」
「ああ。頼む」
「では」
その場に残される慧音。
「なんというか。いつも通りだな」
どこまでも澄んだ青空に向け、そう一人ごちた。
【 act.1 学校の怪談 〜チャリで来た編〜 】
里の外れ。
妹紅と慧音は必死に走っていた。
「いたぞ! あそこだ!」
「おいけーね! あいつら30匹狩ったら輝夜抹殺を本気で付き合うモコ!?」
「ああ、約束する。だから行け!」
「うおっしゃあぁモコ!!」
山菜取りから帰ってきた里の青年は、里の手前でおかしな者と遭遇していた。
「トンカラトンと言え」
自転車に跨るずんぐりむっくりな体型の包帯男は、青年に刀を突きつけながらそう言った。
「と、とんからとん…?」
突然の事態に困惑しながらも、相手の言葉に従う。
「よし」
包帯男は満足げに頷いてから、背中の鞘に刀を納めた。
「モコォラ!!」
「ぶっ!」
包帯男に背後からラリアットをかます妹紅。
「でかした妹紅!」
僅かに遅れて到着した慧音は、包帯男が落とした刀を蹴飛ばす。
「おら! 観念しやがれモコ!」
マウントを取り。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコモコ!!」
そのままタコ殴りにした。
「それくらいにしておけ。まだ何匹もいる。体力を温存するんだ」
「モコふむ」
この日は合計8匹退治した。
「暗くなってきたし、そろそろ戻るか」
「おうモコ……おっと忘れていたモコ」
「 ? 」
「トンカラトンが何かわからん奴はここでいったん読むのをやめて、画像検索してからまた読み始めろモコ」
「どうしたんだ突然?」
翌日。
慧音は稗田家を訪れていた。
「トンカラトン…ですか? 初めて聞く名前の妖怪ですね」
今、里の周辺で起きていることを知らせた。
「外の世界から来た妖怪らしい。妖怪というよりは怪人と呼んだ方が良いかもしれない」
小学生の間で流行った都市伝説から生まれた妖怪。
しかし当時小学生だった彼らも今は成長し、空想と現実の線引きを覚えたことで、彼らによって生み出されたトンカラトンは行き場を失い、幻想郷へと流れ着いた。
「姿は?」
「日本刀を担いで自転車に乗る包帯男だ。体つきは人間のラインよりもだいぶ丸っこい」
「どんな悪さをするんですか?」
「出会った者に刀を突きつけて『トンカラトンと言え』と要求してくるそうだ。言う通りにすると去っていく。ただし奴の言葉に従わなかったり、『トンカラトンと言え』と言う前にトンカラトンと言ってしまうと斬られる」
「里の皆さんは大丈夫なんでしょうか?」
「4人、トンカラトンにされた」
「された?」
その言い回し阿求は首を傾げた。
「トンカラトンに斬られると、斬られた者までトンカラトンになってしまうらしい」
「厄介ですね」
「もっと厄介な特徴がある。あいつら、集団で現れるんだ」
「確かに数が多いのは困り物ですが、それほど厄介だとは……あー、訂正します。確かに厄介ですね」
慧音の言いたいことを理解して阿求は頷く。
「奴らは集団で現れて一斉に『トンカラトンと言え』というんだが、その中に一匹だけ言ってない奴がいるんだ」
「抵抗手段の無い人間は、出くわした時点でもう諦めるしかないですね」
「生徒が二人、それで襲われた」
「お悔やみ申し上げます」
「いや、幸い元に戻す手段は…」
「おいけーね! 狩りまくってきたぜモコ!」
妹紅が庭から二人のいる部屋にやってくる。
「7匹モコよ。おら証拠モコ」
抱えていた7本の刀を慧音の前に放る。
「さっさとこれに判子捺せモコ」
「わかってる」
妹紅が差し出した台紙にスタンプを捺していく。台紙には30の枠があり、その半分ほどが埋まっていた。
「残り15匹でノルマ達成モコ」
「今日の狩りで、自転車に乗っていないトンカラトンはいたか?」
「いねぇモコ」
「そうか。見つけたら捕獲して連れてくるんだぞ?」
「何故。退治しないのですか?」
「斬られて誕生したばかりのトンカラトンは、何も持っていない状態なんだ」
つまり、刀も自転車も無いトンカラトンは最近襲われてしまった里の人間である可能性が高い。
そういったトンカラトンは捕まえて妖怪用の牢の中に閉じ込めておくように、と退治して回っている者に周知徹底させていた。
「元に、戻せるんでしょうか?」
「姿が変わるのは呪いの類みたいで、やつらの親玉を退治すれば呪いが解けるらしい」
「とって付けた様なご都合主義展開モコ」
「ちなみにボスは一匹で十匹分だからな」
「モコほほう」
里の外れ。
「トンカラトンと言…」
「邪魔だ」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!」
トンカラトンに刀を突きつけられた藍だったが、腕を軽く振うと、トンカラトンの体はズタズタに引き裂かれた。
「初めて見る妖怪だったな」
しかしそれ以上気に留めることはなく、目的の油揚げを買うため、藍は豆腐屋への道を急いだ。
「おや」
「モコ?」
無事、油揚げを買って店から出た時だった。藍は妹紅と出くわした。
「ちょうど良かった。貴女と少し話がしたいと思ってたところだ。一緒に昼飯でもどうだ?」
「てめぇの無駄話に付き合ってる暇はねぇモコ。こっちはミシュランもどき共を狩るのに忙しいモコ」
「腹が減っては戦は出来ないと言うぞ。誘ったのは私だ、飯代くらい出す」
「ふむ。一理あるモコ」
すぐ近くの定食屋に二人は入る。
藍は店員に日替わりの定食を二人分注文すると、両手を机につき、頭を軽く下げた。
「貴女のお陰で橙が助かった。感謝する」
「モコ?」
感謝の理由をぽつぽつと語りだした。
「この前、紫様が私の式である実験をしたいと打診を受けた。普通なら二つ返事で賛成するのだが、先日貴女が言った言葉が気になって考えこんでしまった。すると紫様は『やっぱり危険かしら?』と仰ってその話しを取り下げた」
紫がやろうとしたことを、後で藍が試算した結果、それは自身の式では耐えられぬ負荷がかかる実験だとわかった。
承諾していれば、今頃は式を埋葬するはめになっていた。
「この間の忠告に対して、改めて礼を言う」
「礼がしてーなら輝夜の首を取って来いモコ」
「それは出来ない、紫様の命令が無いのでな」
「使えねぇヤローモコ」
「随分と蓬莱山輝夜が憎いのだな」
「あたぼーモコ。父上の名誉を穢した恨み、300恒河沙(ごうがしゃ)倍にして返してやるまで晴れねぇモコ」
「そうだな。家族を大事に思うのは良いことだ」
ふと、優しい目をする藍。
そんな時、ちょうど注文していた料理が運ばれて来た。
「うっし。飯食ったからここに用はねぇモコ! ひと狩り行って来るぜモコ!」
イッキ飲みして空になった湯のみを勢い良く置いた。
「そういえば里に入る前に、貴女が言う容姿の奴を何匹か見たな」
「マジかモコ!? 教えやがれモコ!」
「里の西門から出て南の方角に…」
「わかんねぇから地図書けモコ!」
「心得た」
藍が分かりやすく書いてくれた地図を受け取り立ち上がる。
「他に困ったことがあったら言うと良い。紫様のかけた制約に反しない範囲で、できる限りの力は貸そう」
「うっせえモコ!」
料理を運ぶ定員とぶつかりそうになりながら威勢よく店を飛び出した。
(まただ、彼女の口調や動作を見ると妙に懐かしい気持ちになる)
里の外れ。
「どりゃモコゥ!」
「ぐふっ!」
トンカラトンに真正面からドロップキックをかます。
「花子さんとポプラ社はてめえらを退治せずスルーしたが、妹紅はそんな甘くねぇモコ!」
自転車を奪い跨ってウィリー、前輪でトンカラトンを潰す。
「うごあ!」
「さっさと仲間の居所を吐けモコ。あと15匹狩らなきゃ目標まで届かんモコ」
「オ、ア…ア」
「いいから言えモコ! この木の実を喰わせるぞモコ!? 妹紅はこの木の実に対する知識は一切無いが、ここが産廃ワールドである以上、食ったら洒落にならない副作用が目白押しモコ!」
口をこじ開けて黒光りする実を捻じ込もうとする。
「い、言う…」
「モコほほう。殊勝な心がけモコ。で、どこモコ?」
「ア、アッチ」
「ご苦労、もう用済みモコ。燃えろモコ」
「ぐわあああああああああああああ!!」
「無駄に粘りやがってモコ」
燃えカスに唾を吐いてから、その方角を見る。
「モコ?」
黒い煙が立ち上っているのが見えた。
「ふとははははははははははは!! 燃えろ! 燃えろ! 燃えてしまうのじゃああ!!」
「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」
そこには、自転車ごと落とし穴に落ちたトンカラトンに油をかけて焼き殺してる少女の姿があった。
「オウオウオウ! なにやっとるんじゃいモコ!」
獲物を横取りする少女に向かい吼える。
「我は物部布都! 天下無敵の聖人である聖徳太子様に仕える尸解仙である! 今日はここで人に仇なすこやつ等を誅殺しておる!」
両手を広げたポーズを取りながら高らかに名乗った。
妹紅のように闇雲に動き回って見つけ次第討伐というやり方では効率が悪いと判断した布都は、
向こうからやって来るというトンカラトンの性格を利用し、晴らしの良い所を陣取り、そこに罠を仕掛けて待ち構えてる策を取っていた。
風水的にも条件が良いこの場所は、面白いほどトンカラトンが嵌った。
今燃えているのが、この区画にいる最後の一匹だった。
「しゃらくせえモコこの縄文人!! 言っておくが、そいつらを燃やしても明日の天気は占えねーぜモコ!!」
「ぬ? お主見たことあるぞ? 寺子屋の教師と一緒におる妖術使いじゃな?」
「モコモコ王国の国王じゃいモコ!」
「太子様はお主の噂を耳にして、お主のことを痛く気に入っておった。太子様の目に狂いは無い。どうじゃ? あんな半獣とは縁を切って我と手を組まぬか? さすれば太子様もお喜びになる」
「お断るモコ!」
「ほう? なぜじゃ?」
「てめぇが気に入られねえからじゃいモコ!」
「何?」
「銀髪で放火キャラで、その微妙なテンション。妹紅が四年がかりで確立したキャラをあっさり奪おうとしてんじゃねえモコ!」
早期に潰しておく必要があると妹紅は判断する。
「次に会う時を楽しみにしてやがれモコ!」
しかし、今は他に優先すべきことがあるため、布都に背を向ける。
この辺りの殆どのトンカラトンが布都によって退治されてしまっていたため他の狩場を探す必要があった。
早くしなければ他の者によってトンカラトンが狩り尽くされてしまうという焦りがあった。
「里の龍神像の目が紫色に輝く時、それがてめぇの最期モコ!」
妹紅は一生回収されないであろう伏線を張って、里へ帰っていった。
里に帰り慧音と合流し、竹林を散策する。
「やべえモコ。このままじゃノルマに届かねぇモコ」
里に住まう退魔師や、各勢力からの応援により、トンカラトンは順調にその数を減らしていると慧音から教えられた。
「ここは一発逆転を狙って、ボスを狩るモコ」
「そうだな。被害者も全員収容できたし、あとは親玉を狩れれば万々歳なんだが」
「ちなみに、ボスってどんな特徴モコ?」
「なんでも、すごく逃げ足が速いらしい」
「メタルスライムみたいな奴モコね」
何人も遭遇しているが、すべて逃げられていた。
「一体どんな姿なんだろうな」
「きっとメチャクチャ良いチャリに乗ってるモコよ。ママチャリじゃなく16段階くらいのギア、強度を保ちつつ1グラムでも軽くすること追求されたアルミフレームのマウンテンバイクモコ」
「んなわけないだろ」
「そしてサイクルジャージとレーサーパンツに、空気抵抗を抑える先端が尖ったヘルメットを被っているモコよ」
「だからそんなふざけた格好のトンカラトンなんているわけ…」
「…」
妹紅が想像するのと全く同じ格好をしたトンカラトンを見つけた。
「いたよオイ」
二人に見つかったトンカラトンの親玉は、実力の差を本能的に悟ったのか、反転し中腰になり立ち漕ぎを始めた。
里の外れを疾走する親玉。
「うおおおおアイツ速ぇぇモコォォ!! 弱虫ペダルの差し金かモコォ!!」
「とにかく追え! 絶対に見失うな!!」
かれこれ3分ほど追跡をしているが、一向に距離が縮むことは無い。
「けーねトランスフォースしろモコ! ビークルモードになって妹紅に操縦されろモコ! ハクタクになれるんだからそれくらいワケねーだろモコ!」
「出来るか!」
しかし、追いかけっこは唐突に終わりを告げた。
「ゴフッ!」
一瞬だった。
前を走っていたトンカラトンの進路に女性がふらりと現れた。
女性は持っていた傘を親玉の胸に突き立てた。
まるでモズの早贄のように宙ぶらりんになる。
乗り手を失ったマウンテンバイクは、数メートル自走した後、地面に倒れこんだ。
「ここ最近ね、私の花畑が荒らされてるのよ」
傘を持った女性、風見幽香は静かな怒りをその瞳に滾らせていた。
「荒らされた跡には、細い轍のようなものが残っているわ」
慧音と妹紅を見た。
「ドコノドイツに落とし前をつけさせればいいのかしら?」
二人は無言で傘の先に刺さっている怪人を指差した。
こうして異変は解決した。
後日。
稗田家。
「親玉を失い、幻想郷の各所に散ったトンカラトンの残党たちも、すぐに退治されたらしい」
「よくよく考えれば、飛べない彼らは妖精にすら勝てないでしょうね」
妖怪の山、紅魔館、湖、彼岸、地底、ヒマワリ畑。領地に踏み込んだトンカラトンはことごとく消されていった。
「奴等にとってこの幻想郷は行き辛い場所だったわけだ」
「外の世界で忘れられ、幻想郷にも受け入れられない存在はどこに行くのでしょうね?」
ふと寂しそうな目で阿求がそう言う。
「環境に適応できなかったから淘汰される、自然の摂理だ」
トンカラトンが乗っていた自転車は希望する家庭に配られ、貴重な足として活躍している。
親玉が乗っていたものは高性能な珍品だという事で、欲しがる者が多く、今度オークションにかけることになった。
落札した金額はすべて太陽の畑の復興費に当てられる。
「おいけーね。最後の一匹を捕獲したモコ! これでノルマ達成モコ!」
二人が話しているところに、意気揚々と乗り込んできた妹紅。
「団子屋でダンゴ食ってるのを見つけたから捕まえたモコ」
「離しなさい! だから違うと言ってるでしょう!」
妹紅がつれてきたのは、赤を基調とした民族衣装の少女だった。
ピンク色の髪を二つのシニヨンキャップで飾っている。
「こいつの右手を見ろモコ」
右腕全体に巻かれている包帯を見せる。
「幻想郷入りした妖怪は何故か女体化するから、きっとこんな姿に変わったモコ」
「だから違いますってば! 私は茨木華扇! その何とかトンとは無関係です!」
「私も無関係だと思うぞ妹紅?」
隣に座る阿求も無言で頷いた。
「ちげーモコか?」
「狩ってくれた一匹につき500円で還元してやるから諦めろ」
「むぅ、背に腹は変えられんモコ」
名残惜しそうに華扇を開放する。
「うちの者がご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「謝罪してくださるのならそれ以上は別に。しかし、まだまだ修行中の身とはいえ仙人である私を妖怪と呼ばれるのはいささか傷付きますね」
彼女の言葉に、慧音の眉がぴくりと動く。
「『仙人』か。やはりちょっと詰所の方で話をお聞きしても?」
「え? あの? ちょっと!?」
華扇が雰囲気の変った慧音に戸惑っていると、阿求がそっと耳打ちした。
(最近、霊廟の仙人さんとひと悶着あったみたいで)
(あの邪仙!)
丸一日取調べを受け、ようやく華扇は開放された。
【 act.2 竹林の中心で愛を叫んだケダモノ 】
寺子屋の授業を終えて、家に帰る途中の事だった。
(…また張られている。奴等も飽きないな)
大通りの壁に無許可で貼られた紙を見て、溜息をつく慧音。
(放っておくのが一番だ)
張り紙に背を向ける。
紙の内容は慧音に対しての誹謗中傷だった。
昔から、定期的に行われている嫌がらせで、もう慣れてしまっていた。
「ただいま」
「お、戻ったモコか」
慧音が家に帰ると、妹紅は紙飛行機を折って暇を潰していた。
「その紙…」
「おう、新聞受けんトコに入ってたモコ」
「そうか」
紙には『寺子屋の教師、半獣の上白沢慧音は夜になると醜い妖怪にその姿を変え、人を襲い喰らう。喰われた人間は奴の能力により存在そのものを無かったことにされるため、誰も気がつかない』と書かれている。
先ほど、壁に貼られていた紙と同じ内容だった。
「よくもまあこんな嘘が書ける」
「でもショタ喰いしてるって意味じゃ、あながち間違いじゃねーモコ」
「う゛っ」
あまり触れて欲しくない所を突かれて言葉が濁る。
「この紙はたまーに見かけるモコが、どこのどいつがばら撒いてるモコ?」
「秘密結社の連中だ」
取り置きしてある古い文々。新聞を棚から引張りだして妹紅に渡す。自分への取材が掲載されている記事だった。
そこで彼らについて言及されている。
「幻想郷から妖怪を追い出して人間だけの住処にしようと考える連中だ。妖怪排斥のためなら過激な事を平気でやる」
「ああ、初期段階(文花帖)で組織名だけ出て、以降はまったく露出が無いという。ラノベにありがちな設定の組織モコね」
この地に人間だけの楽園を築こうとする彼らは、半人半獣である慧音が里にいることを快く思っておらず、過去に何度も両者は衝突していた。
里のとある一角。
幻想郷に住む人間の中でも、名の有る権力者数名が秘密裏に集まっていた。
「上白沢慧音、あの女。ここ最近、でしゃばり過ぎやせんか?」
「半妖の分際で人里の内政に干渉するなどおこがましい」
「もう我慢ならん」
「しかしあれを先生と仰ぐ輩が多い、下手に手は出せん」
「あんな化物女を支持するとは嘆かわしい」
「幼い頃に半獣と関わったせいで、妖怪に対する危機感が薄れてしまっている」
慧音に対する不満を口々に言い合う。
「どうにかして奴を始末できないものか」
「私に妙案がありますわ」
「ッ!?」
知らない声、それもその場には似つかわしくない鈴を鳴らしたような美しい声に一同は震撼した。
声の発生源を一斉に向く。
「失礼、ノックしたのですが皆様議論が白熱していた御様子。勝手に入らせていただきました」
侵入者はゆったりとお辞儀をしてから部屋を見渡す。
「立派なお部屋ですね。予約も入れないでこんな所を貸切にできるなんて、さぞお顔の効くのでしょうね」
「どうやって入った」
「聞かれたとあってはタダで返さん」
部屋の隅で控えていた若い衛兵が懐に忍ばせていた小刀を抜いて侵入者との距離を一瞬で詰める。
荒事に慣れているのか、その動きには躊躇も無駄も無かった。
「まま。そう気を荒立てないでください。ね?」
矢のように鋭い刺突。
小刀がわき腹に刺さる寸前。侵入者は優雅な身のこなしで、衛兵の手首を掴むと、合気を持って彼の体を壁に叩き付けた。
「くっ」
壁に手をつきながら起き上がる。
「あ、そこの壁、まだ穴が塞がる途中ですから危ないですよ」
「なっ!?」
自身の腕が徐々に壁と一体化していくことに驚いた衛兵。
「ヒィィ!」
「歌って欲しいと頼んだ覚えはありませんが?」
衛兵の額を人差し指で触れると、彼は気を失ってそのまま壁に取り込まれた。
「さて、と」
侵入者の霍青娥は断りも入れずに空いている席に座る。
「やっとお話ができる静かさになりましたね」
「先ほど、上白沢慧音を始末する妙案があると言ったな?」
一番奥に居る初老の男が尋ねた。彼だけが、この中で唯一動じずにいた。
「ええ。事故死でもなく、暗殺でもなく、自殺でもなく、恐らく貴方がたにとって最も都合の良い死に方です。興味ありませんか?」
「聞こう」
青娥は一枚の紙をテーブルに滑らせた。
「『寺子屋の教師、半獣の上白沢慧音は夜になると醜い妖怪にその姿を変え、人を襲い喰らう。喰われた人間は奴の能力により存在そのものを無かったことにされるため、誰も気がつかない』。とまあ、詠み人知らずな事実無根の怪文書があるわけですが」
彼らが数年前から草の根活動的にばら撒いている紙である。
「この嘘を、本当にしてしまいましょう」
「どうやって?」
「一度殺して私の命令で動く人形にしてから、里のど真ん中で人を襲わせて、皆様が退治するというシナリオなんてどうです?」
「そんな事が出来るのか?」
「容易い事。しかしタダでは請負かねます」
「何が望みだ?」
「道教布教の全面的バックアップをお願いしたいのですが」
その言葉の後、幹部達は隣の者と小声でボソボソを話し始めた。
道教についての様々な意見がその場で酌み交わされる。
「我々に布教を手伝えと?」
「考えてもみてください。妖怪の溜り場である博麗神社。天狗とべったり癒着の守矢神社。妖怪寺の命蓮寺。それに比べて道教はどうでしょう? 民を救うという目標を掲げた人間のための宗派です。道教と貴方がたの思想。目指すところは同じでは?」
「…よかろう。一度そちらの首魁との面談の場を設ける。我々の意に沿うようなら支援を検討する」
「聡明なご判断。感服いたします」
「まだ支援すると決めたわけではない。支援に値しないと判断したら、今回の礼金を支払うだけに止める」
「構いません。チャンスをいただけただけで十分です」
青娥は心の中でほくそ笑む。
この時点で、結社は青娥たちの傀儡になったも同然だった。
(欲に目がくらんだ人間は、キョンシーよりずっと扱いが楽でいいわ)
増長した人間風情が豊聡耳神子の話術に太刀打ちできるものかと、内心で彼を嘲け笑っていた。
「では、上白沢慧音の件は」
「お任せください。そのかわり、そちらから人手をお借りしたいのですがよろしいですか? 5、6人ばかり。腕に覚えがあると助かります」
「それくらいならすぐに用意できる。それで、決行はいつだ?」
「今夜できたら素敵だと思いませんか?」
上白沢邸。
「おいけーね。上の行で、ジジイどもがお前の抹殺計画を企ててるモコよ」
「上? 行? なんの話だ?」
「第四の壁が破壊できぬ者にはわからないモコ」
「またそれか」
「とにかく、心綺楼で一輪が起用された一件で元人間設定のキャラが再出場する可能性が大モコ。出場枠を確保するために闇討ちされねえように注意しろモコ」
「私の身を案じてくれるのはありがたいが、はやく飯を食え。机が片付かん」
突然、家の屋根が軋んだ。
「なんだ?」
不審に思い外に出る慧音。
「芳香?」
元教え子で、今は青娥のキョンシーが屋根の上に立っていた。
「そんなところで何をやって……ッ!?」
彼女が咥えているものを見て驚愕する。
「なんだその子は!?」
誰の子供かはわからないが、芳香は気絶した男子児童の襟を咥え持ち上げていた。
「その子をどうするつもりだ!?」
「…」
慧音の言葉を無視して屋根から跳ぶ。
「待ってくれ!」
竹林の方へと向かう芳香。
「出かけてくる! 私が留守の間に、里で何か揉め事が起きた時は任せたぞ!」
「それ多分罠……おう。行っちまったモコ」
妹紅に里を任せて芳香を追った。
竹林。
(提灯でも持って来るんだった)
三日月の明かりを頼りに芳香の姿を探す。
「芳香ー! どこだー!」
早く見つけなければ、と子供の身を案じて焦る。
(できることなら戦いたくないが)
キョンシーとはいえ、元教え子である。傷つけあうようなことはしたくない。
(それに芳香は青娥の命令をただ従っているだけだ罪は無い)
そう考えていると、すぐ近くの茂みがガサガサと揺れた。
「芳香か!?」
一足飛びで駆け寄って、顔を覗かせる。
「や、やめろ! 食べないでくれ!!」
しかし、そこにいたのは尻餅をつき怯える里の男だった。
「こんなところで何をしている?」
「け、慧音先生…?」
男は安堵の表情を浮かべた。
「迷っていたのか?」
「へい。腹の足しになりそうなのを探して夕方にここに入ったのですが、途中で道がわからなくなって」
「竹林には一人で入るなと普段から注意しているじゃないか」
「面目ないです」
(どうしたものか)
芳香のことが気になるが、この男を放っておくわけにもいかない。
「先生は里がどっちの方角かわかりますか? 方向がわかれば自力で戻れると思うのですが」
「そうか」
渡りに舟だった。
「里なら…」
方角を指差すために男に背を向けた。
その瞬間に慧音は背中に熱いものを感じた。
男に刃物で斬られたと瞬時に理解した。
男の斬撃を合図に、周りに潜んでいた者達が一斉に飛び出した。
同時刻。
竹林の入り口。
「竿打(かんだ)がこのあたりで邪仙を見たと言っていたけれど…」
従えているワシから報告があった場所へやって来ていた。
(ここ最近の騒動、奴を野放しにするのはあまりにも危険すぎる……ん?)
遠くから何かが聞こえた。
「悲鳴?」
華扇は、竹林の奥に目を向けた。
(甘かった、奴等のことは警戒していたつもりだったが、まさか直接こんな手に出るなんて…)
体を引きずるように竹林の中を彷徨う。
命からがら男達から逃げ出した慧音だが、背中と腿に深い裂傷、左肩の脱臼、腕に1本の矢。半人半獣でなければ絶命していた。
(やつら追い剥ぎなんかじゃない、明らかに私を狙っていた)
襲ってきた男の中に、秘密結社に属している者の顔があった。
(芳香の主人は、あいつだ。間違いない。結社と邪仙は繋がっている)
状況を整理しているとすぐ近くから男達の声が聞こえてきた。
「いたかあの女!?」
「こっちにはいなかった」
「どこに隠れやがった」
「俺は向こうを探してくる」
茂みに身を寄せる。
(後先を考えている場合じゃないな……ぐっ)
腕に刺さった矢を掴む。
抜こうとするが、引張られる際の痛みに反応して筋肉が固くなるためなかなか上手くいかない。
「…すぅ」
覚悟を決め、奥歯を強く噛み締め、渾身の力を持って引っこ抜いた。
「っぁあ!」
激痛で、思わず声を漏らす。幸い、男達には聞かれなかった。
(頼むから誰も来ないでくれよ)
抜いた矢を、自らの手首に突き刺した。
血が勢いよく溢れ出てくる。
(早く、早くしてくれ)
「くそ! あの女どこに逃げやがった!」
遠くへ行って欲しいという願いも虚しく、男一人分の足音が徐々に近づいてくる。
(まずい、このタイミングで)
男との距離は縮まって行く。
(頼む、来るな。どこかに行、って、く、れ)
男との距離とは裏腹に、慧音の意識は遠ざかって行く。
男の足が止まる。
今まで恐る恐るだったのが、一直線にこちらに向かってきた。見つかったのだと確信する。
(ああ駄目か)
刀を鞘から抜く音が聞こえた。状況を確認しようにも目が霞み、何も見えない。
(間に合わなかった)
慧音は意識を手放した。そんな彼女に非情にも刀は振り下ろされた。
「イチニョキ!」
「なっ!?」
白刃取りされる刀。
両手で挟み込まれた衝撃で、刃がボキリと折れた。
「き、貴様は!?」
「んん〜〜よく寝た」
男は二重の意味で驚愕していた。
一つは、藪の中に隠れていたのが慧音ではなかったこと、そしてそこに隠れていたのが、結社の中で最高位危険妖怪として認定を受けていた妖怪だったことに。
「ハクタク先生の! 最近の! マイブームは! ビッチな同性愛者のA君(可愛い系)が、クラスで最も運動神経の良いB君(美形でのんけ)を、あの手この手で落とそうと奮闘する話を妄想すること!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
A[B君、どうしたの急?」
B「お、お前が悪いんだからな!?」
A「B君?」
B「男なのに女モノの着物を着て肩まで肌蹴さしたり、薄いワンピース着てクルクル回ったり、学園祭でチアガールのカッコしてヒラヒラ踊ったり…なんでその辺の女子よりも似合ってるんだよ!」
A[えへへ、僕そんなに可愛かった? 嬉しいなぁ」
B「男だってわかってるんだよ! 男だってわかってるのに! お前のこと考えると頭ん中がおかしくなるんだよ! 最近じゃ普段のカッコでも変な気分に…」
A「あ、ホントだ♪ B君のココ、固い♪」
B「ば、馬鹿触るな!」
A「舐めてあげようか?」
B「え?」
A[僕がB君のおちんちん、フェラしてあげよっか♪ 自慢じゃないけど、けっこう上手なんだよ♪ おじさん達で一杯練習してるから♪」
B「お、俺は…」
A「男の子同士でも、気持ちよくなれる方法教えてあげようか?」
B「…」
A「僕が女の子よりも可愛い顔してるところ、見たい?」
B「ゴクリ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「ああああ!! 混ざって3Pしてぇぇぇぇぇぇぇ!! 数珠プレイしてぇぇぇ!!」
「ここで会ったが百年目! 死ねケダモノ!」
予備の刀を抜き大上段で襲い掛かる。
「うるさい! 気が散る!」
ハクタクは頭をスイングすると、刀の刃は根元から切断された。角の先端が妖しく光っていた。
「私の妄想タイムを邪魔するな馬鹿! 満月の晩なんてあっという間に終わってしまうほどの短さなんだ…んーー?」
空を見上げたハクタクは首を捻った。
「妙だ、満月じゃないのに出てきてしまっているぞ?」
慧音の体は人間と妖怪の絶妙なバランスのもと成り立っている。
普段は人間部分が表に出ているが、満月の晩は内に眠る妖力が増幅するため、人間部分と妖怪部分の比率が入れ替わり、ハクタクが表に出てくる。
「あの堅物女。オートブッキング(強制変異)を使ったな」
慧音が行ったことは、わざと人間部分を弱らせて、体の主導権をハクタクに譲渡するという、半身半獣だから出来る裏技だった。
しかし非正規な方法での変身であるためその代償は大きい。
「道理で力の入りがいつもと違うわけだ。参ったな、これじゃあ普段の10分の1の実力も出せやしない」
また、体への反動が大きいため寿命を削るという副作用もあった。
「そうまでしなきゃならない程、切羽詰まっていたということか」
この方法で変身したのは片手で数えるほどである。
「おい、知ってるか? ここにいると何か危険なことが起こるらしいぞ? お前も早く逃げたほうがいい。きっと隕石落下レベルの災害だ」
変身する元凶となった男にそっと耳打ちする。
「おいどうした!」
「見つかったのか!?」
「こ、こいつは…」
騒ぎを聞きつけた他の男たちが集まってきた。
そしてハクタクの姿に驚愕する。
「どうしてあのバケモノがここに!?」
「上白沢慧音はどこに行った!?」
「に、逃げましょう!」
「う、うろたえるな! 我々にはこれがある!!」
男が取り出したのは数枚の札だった。
「どれだけ強力な妖怪であろうと、この札の前ではたちどころ…」
「ムシャ」
男が持つ札を口に含んだ。
「ムシャ、カミ、モグ」
「御札を…」
「食ってる」
「オエエエエ!!」
そして吐いた。
「マヨネーズないと食えたもんじゃないな」
唾液と胃液でクシャクシャになった御札に砂をかける。
「馬鹿なッ!? 触れただけで大火傷を負う強力な護符だぞ!」
「私の動きを止めたいなら男の子を用意するんだな。ちょうどあそこにいるような」
少し離れたところにある小屋に目を向ける。
「匂いからして。8歳6ヶ月とみた!」
小屋から流れてくる微かな香りだけでそれだけの情報を読み取った。
「こんな夜更けにあんなロッジで外泊とはいけない子だ。生徒指導室行きだな」
「させんぞ!」
涎をぬぐうハクタクの前に男達が立ちはだかる。
「あれは上白沢慧音をおびき寄せるための餌だ」
「マジで!? 私へのプレゼントって事!? いただいちゃって良いの!!」
「貴様にではない! 貴様の相手は我々だ!!」
「笑止! 貴様らのような小汚くてムサイ連中が私を満たせるものか!!」
ハクタクはその場で四つんばいになる。
「貴様ら男達は足らなさ過ぎる!」
ハクタクの姿が消えた。
「肌の張りも!」
「ぐふっ!」
刀を持っていた男の体が吹き飛ぶ。
「髪の艶やかさも!」
「ごはっ!」
槍を構えた男が地面に倒れる。
「ミルククッキーのような甘い甘い香りも!」
「い゛っ!」
鈍器を握る男が藪の中に叩きこまれる。
「瞳の透明感も!」
「ぃぎゃ!」
木の上で弓に矢を番えていた男が落下する。
「なだらかな喉のラインも!」
「おご!」
追加の札を出そうとした男が気絶する。
「足りない足りない足りない足りない!!」
叫びながら体を大きく捻るハクタク。
「お前らは乾いた雑巾だ! 絞ったって何も出てきやしない! 全員幼くなって出直して来い!!」
その言葉を聞いている者はいなかった。
「はいどーん!!」
小屋の戸を蹴破る。
「目の前の男の子が処女が非処女か一発で判断することができる幻想郷のユニコーン! ハクタク先生! 推参!」
粉砕された戸の破片が舞う部屋の隅に、目隠しをされて縛られた少年の姿があった。
「チュル」
涎をすする音がなんとも気持ち悪い。
(このまま襲ってしまうのも手だが、助けてあげたお礼にヤらせて貰うお礼ックスも悪くないな)
花を一輪手に取る。
「犯す、お礼ックス、犯す、お礼ックス、犯す、お礼ックス、犯す………お礼ックス!」
花占いの結果。少年を縛る縄と目隠しを外してやる。
「怪我は無いか? もう安心だぞ」
「あ、ありがとうお姉ちゃん」
「…」
お礼を言う少年を見て、ハクタクは眉根を寄せた。
「うぅ、怖かったよぉ」
目を充血させてハクタクに抱きつこうとする。
「お前にハグはされたくないな」
ハクタクの指が少年の額を弾いた。
倒れた子供の手には鋭利な匕首が握られていた。
「その刃の表面に塗られているのは附子(ブス)か? ハハッすごいな。その量ならインドゾウでも殺せる」
「馬鹿な、完璧な不意打ちだったはず」
年不相応に顔を醜く歪める。
「貴様が道術で若返っただけのオッサンだということは、一目でわかった。とっちゃん坊やはお呼びじゃない」
目にも止まらぬ速さの手刀で、少年に化けた男の意識を刈り取った。
「すっごーい。どうしてわかったんですかぁ?」
「男の子ソムリエ8段の私を甘くみてもらっては困る」
振り返り、小屋の入り口に立つ霍青娥を睨みつける。
「肌を見ればその子供の健康状態が、瞳を見れば内面が、乳首を見れば経験人数が、おちんちんを見れば前世がわかる。それくらいこの世の男の子を愛しているからだ」
「じゃあなんで若返った子供を拒んだんですか?」
「男の子なら誰でも良いというわけではない。いくらその容姿が美しかろうが、可愛らしかろうが、幼かろうが、心が『ピュア』でなければならない。いいか? 何よりも優先されるべきは『ピュア』である事だ。『ピュア』こそが必要最低条件。
私が求めるのは身も心も純真無垢な男の子だ。まだだれも踏み入れていないヴァージンスノウのような、微塵の穢れも無い、年相応の精神を持った、そんな男の子だ。そこに一切の妥協はない」
「下らないご高説痛み入ります。汚物にも劣る立派な精神ですこと」
「なんだ? またケチョンケチョンにして欲しいのか? とんだマゾだな」
「まあ怖い。じゃあ逃げませんと」
「待てこら!」
逃げる青娥を追い、外へ出る。
「なんだここは? 真っ暗だ」
外だと思って出たら、そこは違う場所だった。
「当然です。ここは金庫の中なのですから」
「どういうことだ?」
「小屋の出口と、私達が活動の拠点としている仙界を一時的に繋いだんです」
小屋の出口が仙界に置かれている巨大な金庫の中と繋がっていた。
今二人は金庫の中にいる。
「この前に負けて悔しかったから、色々と考えたんですよ、貴女を葬る方法を。無駄にならずに良かったです」
事前に穴を開け、塞がりかけている箇所に青娥は素早く飛び込んだ。
中にハクタクだけを閉じ込め、金庫の壁は完全に塞がってしまった。
「ドラァ!」
金庫を思い切り殴るが、その反動がすべて拳に返ってきた。
「通常時なら凹ませるくらいワケないんだが、今のままじゃ何発殴っても無駄だな」
痛む拳を摩りながら考える。
「しょうがない、あの手でいくか」
ハクタクはその場で貧乏揺すりを始めた。
金庫の外。
青娥は宿敵を討ち取った勝利の余韻に浸っていた。
「地底300mに埋め立てておけば、まあ大丈夫でしょう」
金庫に御札を貼って回る。
「封印が解ける頃には、時代が進みすぎて海の底になっているかもしれませんね。ドアを開けたらサンゴ礁。羨ましいですね」
「クマノミという魚を知っているか?」
背後から、ココにいるはずのない者の声が聞こえた。
「一定の年齢に成長するまで、性別が確定しないという変った魚だ。男の子もこの魚と同じだと私は考える。二次性徴を迎える前の彼らは男という性別にカテゴライズされているが、男でない…あれは天使だ。一時期だけ、天使は地上に降りてきているんだ」
「な、何故…どうやって…」
恐る恐る振り返る。
「男の子は良い。心を潤してくれる。リリンが生み出した性欲の極みだ」
ハクタクの姿がそこにはあった。
「まさか貴女にも壁抜けが…」
「あんな器用な真似ができるか」
拳を突き出すとそれを振動させた。
「すべての物質は分子により構成されている。故に高周波で振動することで分子と分子の間隙を透過貫通できる、と理科の授業で教わらなかったか? 体を超高速で振動させて、金庫の壁をすり抜けたのさ」
バイブを持っていない時でもバイブ責めが出来るようになりたいと考えたのが習得の始まりだった。
「そんな無茶苦茶な!」
「あと花の異変(花映塚)の異変に参加した者ならば全員できるぞ?」
ちなみに、ハクタクは参加していない。
「これは一体…」
華扇はハクタクに倒された連中を見つけた。
(状況からして、ついさっきの出来事のようね。犯人はまだ近くにいるは…)
その時だった。
「逃げるな! 待て!」
「待ちません!」
地面に落ちていた石と地面の僅かな隙間から、青娥とハクタクが飛び出してきた。
「あら、ちょうど良かった」
仙界から戻ってきてすぐに華扇の姿を見つけた青娥は薄気味悪く笑った。
「キャー助けてー華扇さん! 貴女の立てた計画をこいつが台無しにー!」
「なっ!?」
「お前がこの茶番の主犯か?」
「違います!」
「まあ酷い! 華扇さん私に全部の罪をなすりつけるつもりですね!!」
袖で口もとを隠しヨヨヨと呟く。
「じゃあ、後は任せましたわ」
肩をぽんと叩くと、青娥は駆け出した。
「いいですかハクタクさん! 全部この人が悪いんです! 私は利用されていただけですからね!」
「あ、こら! 待ちなさい!」
「その話、本当か?」
ハクタクの足が止まり、華扇と対峙する。
「お前が黒幕か茨木華扇?」
「違います。私はあの邪仙を追ってここまでやって来ただけです。そもそも貴女は何者ですか?」
「私はマサラタウンから来たハクタク。この世のすべての男の子のポケットモンスターをゲットするため、ポケモンマスターを目指して旅をしている者だ」
どんな男の子でも手篭めにできるマスターボールが量産化される日を夢見ている。
「部外者ならどうでも良い、私はあのデンプシーロールヘッドの女を追跡して始末しなければならない。疑って悪かったな」
「お待ちなさい」
包帯の腕を伸ばし、青娥を追おうとするハクタクの肩を掴む。
「あの邪仙を放ってはおけませんが。貴女自身も相当危険な存在。その歪んだ性根。叩き直す必要があるみたいですね」
華扇の性分上、ハクタクを素通りするなどできるワケがなかった。
青娥はこうなることを見越していた。
「そうか。邪魔をするのか、なら容赦はできないな」
両者にらみ合い、両者同時に動く。
「うおりゃ!」
「セイヤッ!」
交差する右手。
「ぐっ!」
殴られ、のけぞったのはハクタクの方だった。
(おかしい。私の手の方が早かったはずだ)
怯む事無く今度は左手を繰り出す。
「無駄よ」
華扇の拳がまたもハクタクの顔面を捉える。
「貴女“だから”、私に勝てない」
華扇のハイキック。ハクタクは腕を交差して防ごうとするが。
「『待て』よ」
「ッ!?」
その言葉の後、上げようとしていた腕が自分の意思とは関係なく止まった。
「くっ…」
蹴りで脳を揺すられ、膝をつく。
「一目見た時からわかりました。貴女は強い。きっと鬼四天王にも届くでしょう。しかし、相性が悪かった」
「なにが、言いたい?」
「貴女は妖怪ですが、獣の部分が色濃い様子。私の能力の影響を受けやすいようね」
華扇は手をハクタクに翳す。
「『跪き、頭を垂れなさい』」
「なぜだ。体が、勝手に」
その言葉通り、ハクタクは跪いた。
「ジャンケンで言えば貴女はグー、私はパー。勝てる道理など始めから無かった。勝負ありね」
「今なんて言った?」
「だから勝負あ…」
「その前だ、確かこう言ったな? 『頭を垂れなさい』とっ!!」
猛々しい二本の角を持つ頭を振りかぶる。
「ほらチョキだ! 勝ってみろパー子!」
地面を思い切り頭突いた。
割れる地面、崩壊する足元。
「っと」
足元が不安定になり気が反れたのか、ハクタクの体に自由が戻る。
「よくも散々とやってくれたなぁ!?」
「ヒューイ」
四つんばいの姿勢から弾丸のような速度で突撃してきたハクタクを、紙一重で回避した華扇は指笛を吹いた。
その音の後、巨大なワシが上空から滑空、その背に飛び乗る。
「貴女との話しはまた今度です」
「くそっ」
仰ぎ見ると、華扇の姿は遥か彼方にあった。
「思惑通り、彼女がアレの相手をしてくれたみたいね」
仙界の自室とは別、神子達にも教えていない隠れ家に到着する。
非人道的な研究は、主にここで行っている。
「おかえりなさいー」
「ただいま」
先に戻ってきていた芳香が出迎える。
「芳香、寝ている子(キョンシー)を全員起してきて。もしかしたら敵が来るかもしれないわ。警備の数を増やして」
「わかったー」
芳香は頷いて、後ろに控えていた者に青娥の命令を伝える。
「おい、しんいりー、てわけして、みんなをおこすぞー」
「了解したキョンシー。青娥様をぶっころすキョンシー」
芳香が話しかけたのは、顔に札を張り、両手を前に突き出したハクタクだった。
「いやあああああああああ!」
人里の一角。
秘密結社の幹部達は、慧音殺害の朗報を待ちわびていた。
「チィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィス!!」
そこへ、天井を踏み砕き、上からハクタクが現れた。
「ヘロー老害共! 四角い頭を(物理的に)丸くする特別授業の開演だ!」
椅子に座り、両足をどかりと机の上に置く。
「しっかしこりゃまた、里に影響力のある連中が雁首揃えてまぁ」
「き、貴様、なぜココに!?」
「満月でなければ現れないんじゃなかったのか!?」
「霍青娥はどうした!?」
返事の代わりにミノを机に放った。
それにより場は凍りつく。
実際のところ、奪えたのはこれだけで、持ち主には逃げられてしまっていた。
「私は男の子が大好きだ。男の子とお前が川に溺れていて、手元に浮き輪が一つしかなかったら迷わず男の子に向かって投げる、二個浮き輪を持っていたら二個とも投げる」
「何の話だ?」
「お前らに生き残るチャンスをやろう。私の言う事に従えば今夜のことは全部『何事も無かった』という歴史に書き換えてやる」
「我々に何をさせる気だ」
「はああぁぁ!! 男の子同士が気軽にアナルセックスできる法律があれば良いのに! 男の子同士が気軽にアナルセックスできる法律があれば良いのにぃぃ! 男の子同士が気軽にアナルセックスできる法律があれば良いのになぁぁぁ!」
なんの脈絡もなく叫んだ。
「ふぅ」
叫び終えると、椅子に深く体を預けリラックスした。
「里長に働きかけて、そんな法律を作れ。そうだな『10歳まで男の子は、同性としか交際してはいけない』という条例を新たに設けてもらおうか?」
「そんなこと出来るわけ…」
「はい。ここにいるポンコツ全員がスクラップになるまであと10、9、8、7」
「わ、わかった! 明日朝一番に里長の家に行く! 約束する!」
一番奥にいた男がそう返事をした。
「よしご苦労。それじゃあ今日は解散。早く寝て、明日遅れるなよ。ほら散れ」
「くそ! 覚えておけ!」
「お前こそアルツハイマー患って、その日喰った献立を忘れるなよ」
「何年かかろうと、貴様だけは消してやる」
「お前こそ来年あたりに寿命でぽっくり逝くなよ」
上白沢邸。
「うーすモコたん、久しぶり」
「うおお。ハクタクじゃねーかモコ。満月じゃねーのになんで居やがるモコ?」
「ちょっと緊急回避でなぁ。ふあぁぁ」
大きな欠伸をする。
「本来の活動時間外に動くには流石にしんどい」
体はすでに限界を迎えていた。
「マジモコか、これから永遠亭襲撃するから手伝ってくれモコ」
「ごめんなーモコたん、それまた今度だわ」
布団を敷いて、その場で丸まって眠ってしまった。
翌日。
「あ゛ああああ゛あ゛あああああああああ゛あ゛!!」
全身を襲う痛みに慧音は悶えていた。
「戻ったモコ」
「つ、た…えて来て、くれ、た、か?」
妹紅は今日寺子屋が休校になる旨を生徒に伝えるために、寺子屋に行ってきた。
「そ、れは?」
妹紅が持っていた紙の束を見る。
「餓鬼どもが渡してきたモコ。『全部燃やしてくれ』って頼まれたが、慧音の名前を輝夜に書き換えて再利用するモコ」
全て、秘密結社がばら撒いた怪文書だった。
慧音の名誉を守るために剥がして回ったのだろう。
(私は、しあわせ者だ)
目頭が熱くなるのを感じる。
心が奮えて、痛みが消えた。
「そういえば今朝、どっかのおっさんが里長にガチホモな法案を通せって詰め寄ってたモコ」
「…」
ぶり返してきた痛みで、慧音は意識を手放した。
作品情報
作品集:
31
投稿日時:
2013/03/02 06:10:24
更新日時:
2013/03/17 20:48:44
分類
モコモコ王国
藤原妹紅
上白沢慧音
霍青娥
ハクタク先生無双
トンカラトン
真面目に読むと疲れる
全3話
青娥ちゃんはそのうちハクタクがトラウマになるんじゃないのw
今回も面白かったです!!
・序章の感想
今更ですが、新シーズンに伴いキャラリセしていたんですか……。
SWATスタイルのラペなら、バッグの中にロープを入れて垂らさないようにするんだけどね。
永遠亭では、野生動物はキャッチアンドリリースですか。
【 act.1 学校の怪談 〜チャリで来た編〜 】の感想
銀髪炎キャラ……。ついでに破綻した性格もカブッてるね。
USCの一撃で事件はめでたく解決!!
今回の事件と邪仙の件でとばっちりを受ける、食いしん坊仙人(自称)であった……。
【 act.2 竹林の中心で愛を叫んだケダモノ 】の感想
汚い!! さすが邪仙は汚いね!!
息を飲む邪仙の汚い陰謀に、慧音が絶体絶命かと思ったら……!?
このシリーズの良いところは、
胸糞悪い鬱展開を、
愉快痛快爽快にぶっ潰してくれるところです。
今回もクッソ面白かった。
デッドプーr<BAN!
後、青娥はもっと酷い目に遭うべき!
あのおばさんはいじめられてこそ輝く
そっかー、奴は幻想入りしてたかー。
あとキャラリセの認識からして「シーズン1」→「ワールドエンドネクスト」→「シーズン2」の可能性が微レ存?
いやそれはない。
モコモコ王国は基本サザエさん時空でしょうけど、はたして次は何が飛び出してくるやら、楽しみにしています。
これからの展開に期待しています。
メタ発言連発の妹紅はともかくとして、慧音も藍も「前」を覚えている…? シーズン1も大好きだった私としては、今後の展開が気になります。フランちゃんも出てくるのかなうふふ!
同じことが起こるなら、もうフランちゃんは誰かの手に渡ったんかな