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『Fairy Game第二幕「電流の鍵」』 作者: 運命浄化
犯人は、実は被害者全員が目撃している。
では何故犯人が捕まらないのか、それは簡単、見た記憶を現実に持ち帰れた者がいないからだ。
一見、顔見知りとの勝負や協力に見えて、その中に犯人は紛れている、その結果勝利に辿り着いた者は
ゲームという名前のショーに、いい役者として参加してくれたギャラ、慈悲として“拒否権”を与える。
一方犯人の妨害や味方同士の争いの末、敗北した者には罰としてさらなる刑が待っている。
時に、このショーは屈辱のみではない、純粋に肉体的なダメージを負う事もある。
もちろん夢の中で起きたそれが現実に及ぶ事は無いが、夢の中においてそのダメージは本物、
場合によっては人間が一度しか体験できない死すらも繰り返し与える事が可能。
犯人はいたずらに命を奪ったりしない、無抵抗な死は見ていてつまらないからだ。
争いの末の絶望、裏切り、屈辱、そのような物を好む、なんならその火種を自分で作り出す始末。
***
電流の鍵
***
六角形の部屋、地面や壁はお馴染み全て石畳、ここに召集されてしまった人物は嫌でもここが悪夢だと認識する。
今までと大きく異なるのは部屋の一面が出口であるという事。 しかし手放しで喜べるわけではなく、
そこは頑丈な扉で封鎖されている、しかも取っ手の無い、特殊な方法でしか開かない扉。
残りの五面には、それぞれ“首、両足首の三点を枷付きの鎖で拘束された”今回の犠牲者が居た。
「ぎぎぎ……はぁ、何だいこの鎖は、私の力でも壊れないなんてね」
「鬼の力も役に立たないね、力が通用しないここで大丈夫なの?」
「うー……」
「どどど、どうすれば逃げられるの!?扉、そこにあるじゃん!」
「辿り着けなければどうしようもないだろう、見た所鍵を刺す部分はあるようだが」
勇儀、てゐ、穣子、にとり、ナズーリン、以上五名がこの空間に監禁されている。
既に試した通り、いかに鬼の力と言えど、この空間の物質を破壊する事はならなかったようだ。
しかし一方で鋭く状況を観察し、ナズーリンは自身を拘束している枷に鍵穴がある事を発見した、
問題はそこに差し込むべき鍵が見当たらない事。
「誰か針金か何か持ってない?私、鍵なら開けられるかもよ」
「……これ、あの悪夢でしょ?博麗の巫女も犯人を見つけられないあの悪夢、そんな奴を相手に
無理矢理状況を変えようとしたり、ズルするのは危険というか―――」
「あんた神様でしょ、何びびってるのよ。 それに、ズルも何も、ルールが分かんないし。
仮にどういう方法でもいいから部屋から最初に脱出した奴が勝ちならどうすんの」
「うっ……」
そうして手掛かりがつかめないまま数秒の時が流れたその瞬間、突然部屋の中央、そこに大量の金属片と
一枚の手紙が現れた。 正確には降ってきた、天井に穴は何もないにもかかわらず。
「ひゅい!?」
「手紙……今回のルール?」
「この金属は……小さいが鍵だな、これを枷に差し込めば脱出できそうだが……何やら枷の数より多くないか?」
それぞれの枷は三点、ここに五人いる事を考えると鍵は十五ある事が自然なのだが、どう見てもそれより多い、
下手をすると倍近くの数があるだろうとナズーリンは踏んだ、はたしてその理由は。
「……後、何これ、ゴム手袋?何でこんな物も?」
「とにかく、手紙を読むか、私でいいな?」
最も近かった勇儀が手紙を取り、全員の了承を得てから封を切る。
鍵は全部で30。
それぞれ首、右足首、左足首の枷の鍵が合計で15、
どの鍵穴にも入らない偽物の鍵が10、
そして残り5つの鍵は電流を作動させる鍵。
鍵は何処に刺してもいい、もちろん全て試してもいい。
ただし自分の手番で持てる鍵は一つだけ。
電流の鍵を自分の枷に刺してしまった場合、枷から高圧電流が発生する。
プレイ続行不可能な人物の手番では、誰かが代わりに鍵を選び、鍵を差し込む。
誰か一人の枷が全て外れると、その人物は脱出できる。
そして制限時間が発生し、時間経過後に枷に繋がれている者には更なる罰を与えよう。
「……へぇ、やってくれるじゃないか」
このような状況下でも、勝負事と楽天的に捕らえる勇儀、内心精神的な攻撃より肉体的な被害のが
楽であるが故に、今回のゲームに安堵してはいる。
「何が!これってつまり、六分の一で……死んじゃうでしょ!」
「夢の中でもそんな事ごめんよ!どうにかして全員で脱出しないと……」
六分の一で枷を通し、全身に高圧電流が流れる。 ここが現実世界ではないと認識していても、
そうですかと易々受け入れられる事実ではない、なんとか回避したいのは当然だ。
「でも、じゃあどうやって脱出するのさ!結局これを外さないと扉から出れないよ!」
枷を指差しながらにとりは嘆く、鍵は刺さなければ当然枷は外れない、しかしそのたびに六分の一の危ない確率を
回避し続けなければならない。
「ゴム手袋、電気だから置いてあったのね……でも枷に差し込んだ瞬間に流れるなら、意味無いんじゃない?」
「だな。 枷から電気が発生するなら手だけ防御してもまるで意味がない……ま、放っておいていいんじゃないかな」
せめてもの良心なのか、嫌がらせの上で置かれたものなのか、電気を通さないゴム手袋を投げ捨てながら嘆く。
「け、結局安全な方法が無いじゃないか!」
「そうは言ってもやるしかないだろう、それよりも無様で屈辱的なゲームじゃなくてよかったと安心すべき場所だ、
それでも嫌ならすっぽんぽんで身体を操られる羞恥プレイに変更してくださいと頼めばいいじゃないか」
「そ、それはっ……」
もちろんナズーリンとて全て受け入れている訳ではない、こうでも割り切って自身の恐怖を抑えこまないと、
こんな空間で正気を保っていられない、彼女は勇儀ほど楽天的でも無ければ度胸も無いのだ。
「……鍵を刺すのは順番にと書かれていたな、じゃあここは手紙を読む前に鍵を既に調べてしまった私からだ」
ナズーリンは既に手元にある鍵をまず右足首に刺そうとする、しかし鍵は途中で引っかかり、それ以上は進まなかった。
「どうやらこの鍵はこの枷の鍵ではないようだが、同時に電流の鍵でもないらしい」
「えっ?それってどういう事……?」
その推理に穣子が疑問を抱くが、それに答えたのはまた別の人物、てゐだった。
「手紙の文面から予測すると、電流の鍵は刺した瞬間に効果を発揮しそうだからね。つまりその鍵は他の枷の鍵か、
もしくは誰の鍵でも無いハズレ、って事だよ」
(……気付いたのは私だけだと思ったのに、頭は切れるみたいだねあの鼠)
「へー、なるほどな。 じゃあその鍵を制限時間が無い今のうちに全員の枷に試せばいいんじゃないか?」
勇儀の案は最もだ、ハズレの鍵を除外し、誰かの枷を開ける事だけを考えるとそれはべストだ。
「まぁね、その鍵は私の枷に刺さるかどうかは別として、電流の流れない鍵ってだけでも価値があるよ」
「よし、じゃあ場所的に時計回りで次は私が刺す!ナズーリンだっけ?その鍵を渡してくれないか?」
隣のナズーリンに手を伸ばすが、まぁ待てという風にそれを制す、そして
「鍵は一つしか持てないが全て試してもいいんだろう?左足と首にも試すから待ってくれ」
一度は鍵穴に拒否された鍵だったが二度目、左足の枷に鍵を通した瞬間にガチャリを音を立てた。
「ほう、運がよかったかな私は……一発で鍵が開いた。よし、ではこの鍵を渡そう」
「あのな、もうそれはハズレの鍵と同義だろ?」
既に相性のいい鍵穴を見つけた鍵はお役御免として、ナズーリンから差し出された鍵を脇に捨て勇儀は新たな鍵を山から手に取る。
「頼むぞ……一発とまでは言わないからいきなりビリビリは勘弁してくれ……よっ!」
右足の枷に鍵を勢いよく差し込む……解錠こそされなかったものの、電流が走る事も無かったようだ。
そこから左足も首も、自身の全ての箇所を試したものの枷は外れる事は無かった。
「開かないか、じゃあこの鍵は返して、次はそこの兎さんだな」
「言われなくても分かってるよ、じゃあその鍵借りるよ」
山に返却された鍵を再びてゐは手に取り、自らの枷に全て通す、すると最後に通した首に見事一致、枷は外れた。
「あっ、この野郎」
「へへ、ありがと鬼さん、これで私はあと二つだね。 じゃあ次、えーと名前なんだっけ」
「……穣子よ」
近くにある適当な鍵を手に取り、あっさりと右足の枷にそれを通す。何事も起きないと確認し、迅速に残りの箇所にも
鍵を通すが変化は無い、どうやら穣子にとってこの鍵はハズレだったようだ。
「へぇ、案外度胸あるんだね、それとも吹っ切れただけ?」
「悩んでもしょうがないでしょ……そこの鼠の言う通りよ」
「名前はナズーリンだよ、鼠と呼ばれるのは間違っていないが気分がよくないな」
その後、同じ鍵を続いてにとり、ナズーリン、さらに勇儀、てゐと通すが解錠される事は無かった、どうやら本当に
誰の鍵でも無い、正真正銘のハズレだったようだ。
「何だ、本当にハズレ引いてやんの、つまんない」
余り物として自分の鍵だと自信を持って取った鍵がハズレだと知って落胆する、そして場は二巡目の穣子。
誰もここが悪夢だと既に認識していないのだろう、何事も無く一巡してしまったからだ。
ただゲームで遊んでいる五人、その方が現状を表すには適切だろう、しかし忘れてはいけない、
これは重大な罰が裏に控えている悪夢だという事を。
「じゃあ私の番ね、これはハズレの鍵だったから、新しい鍵を取るわ」
「またハズレを引かないようになー」
「二連続で引くなんて笑えないわよ」
ほどほどに会話も弾み、余裕の笑みも浮かぶ。これが本当に現実の戯れの一環ならどれほど楽だろうか、
そして、これはその戯れではない、故に確率という障害を乗り越えられなかった者には、等しく罰が及ぶ。
カチッ
「ぎゃあああああああ゙ア゙ア゙ア゙!!!!??」
「ひぃ!?」
「うおっ!?」
「なっ!」
「くうっ!?」
一瞬だった。 一巡目と同じく鍵を手に取り、それを右足の枷に差し込む、それまで何事も無かった。
だがそれをした瞬間、穣子の身体が跳ね上がり痙攣、衣服や肌が所々焦げ煙を上げ、白目を剥き、どさりとうつ伏せに倒れ込んだ。
一拍の間をおいて、穣子の股間からは水音が聞こえ始める、筋肉が弛緩し失禁してしまったのだ。 小水だけで済んだのは不幸中の幸いだろう。
「………ぁ、うわあああ!!?」
頭の中で整理がつき、結論が出た瞬間ににとりは悲鳴を上げる。 それも当然だろう、これから脱出するために、
自身もこうなってしまう可能性が六分の一の選択、それを最低でも二回繰り返さなくてはならないからだ。
これには他の三人も動揺が隠せない、想像を遥かに超えた惨状を目撃して冷静で居られる道理は無い。
「何が何でも脱出しないとね……私はこうなるのはごめんだよ?」
「悪夢は何だろうと悪夢か……穣子とやらには申し訳ないが、代わりに受けてくれて私としては有難い」
「た、助けて……誰か……誰かぁ……」
「ほら、助けてって言っても誰も助ける気は無さそうだよ。にとりだったかな、鍵、刺しなよ」
「嫌……嫌……」
自分の番になっても鍵を手に取ろうとせず、壁に張り付きひたすら許しを請うにとり。
少しの間それを見守り、それでも動かないにとりに対して勇儀はいきなり鍵を手に取り
「ちょっと、鍵を取るのは順番でしょ!?」
「ああ、どうだが……続行不可能な人の分を私が代わりにやる、そして“にとりが私に鍵を刺した”事にして続行する!
それなら、文句ないだ……ろ!」
「しまっ……!」
ルールの隙をついた勇儀、そしてやられたという表情のてゐとナズーリン、これで勇儀は一回リスクは多くなったが
代わりに鍵の解錠チャンスを人より一回増やす事が出来た。
そのアイデアに運の流れが付いてきたのか、首の枷を外す事に見事成功、これでにとりを除く三人の解錠数は並んだ。
「じゃあ次はナズーリンだったかな、あんただ」
残る鍵は二十五、そのうち正真正銘のハズレは四つ、決して高くは無い確率だがゼロではない。
案外あっさりと穣子と同じ運命を辿ってしまうかもしれない。
「………っ」
「ビビってる?ほらさっさと刺しちゃいなさいよネズミー」
「っ、うるさい!」
外野の野次もそこそこに聞き流し、なんとか策を考えるナズーリン。
どの鍵が正解かなんて分かるはずがない、一方で確実な保留の選択肢も存在する、それはナズーリンのアイデアだった。
しかしこれはあくまで保留、その策を重ねると百パーセント安全である反面、一歩も前進する事は出来ない。
「それは駄目……でもどうする…………ん?」
突如、脳内にアイデアが産まれる。 その偶然の思いつきをさらに吟味し、その結果勝算があると判断したナズーリンは
すぐさま必要な物を用意した、そう、最初に価値を見いだせなかったゴム手袋。
「それ、今更使ってどうすんの?しかも五つとも全部集めて、一人で全部使うつもり?」
「あの電流だぞ?手だけ覆っても無意味じゃないか」
てゐと勇儀が捲し立てるものの、ナズーリンは言葉を受け流し、両手に手袋を装着する。
残りの四つは装着する訳でも無く、ただ手元に集めただけのようだ。
「じゃあ鍵はこれで、今から刺すぞ。 ……ただし、刺す所は私の鍵穴じゃない!勇儀、あんたの右足だ!」
「は?どういう事……っう!?」
突然勇儀が壁に磔になり抵抗できない姿勢になった。恐らく悪夢の支配者がナズーリンに考慮したのだろう。
「む、一番問題だった抵抗は無いようだ、それでは刺すぞ?」
無抵抗の勇儀に鍵を差し込むが何も起きない、鍵は合わなかったようだ。
「ふむ、ハズレか」
「何のつもりだったんだ?私に刺しても得はしないだろう?」
「いやいや、そんな事は無い。現に私はこの手袋のおかげでハズレを引いても大丈夫だ、仮に引いても電撃を受けるのは
勇儀、あんただからな。 では安全を確認した所で私に刺すとしよう……む、残念、全てハズレか」
「お前……私を実験台にしたのか!?」
ナズーリンは、まず他人に鍵を刺す事で安全を確認、そこから自身の解錠を目指すつもりだ。
鍵を開ける速度で劣るなら相手を先に叩き落とせば間に合う、その考えに基づいたのだ。
「なお手袋は私が全て預かった、鎖の長さから考えてここに置けば届かないだろう、この戦法は私だけが使える」
「ぐっ……やられた!」
てゐが地面を殴りつける、ここからは策も何も無く急いで自身が危うい確率の橋を渡って行かなければならない。
ぐずぐずしているとナズーリンが電流の鍵を持ち、襲い掛かってくるかもしれない。
「次は鬼さんだね、同じ戦法使ってもいいよ?一緒に巻き込まれる覚悟があれば」
既に勝ち誇った表情のナズーリンを置いて、勇儀も急いで鍵を手に取る。 自身の枷はあと二つ、ここで一つでも外せれば
ナズーリンの戦法は使いにくくなる、そう読んでいるからだ。
「さすがに残り枷が一つの時に、偶然鍵を開ける可能性のあるその戦法は取らないだろ?一つでも開けたらこっちの勝ちだ!」
だが、そう簡単に鍵は開かない、手に取ったのは勇儀にとってハズレの鍵だった。
「くそっ!」
「私はそのハズレの鍵を貰うよ!」
てゐは勇儀が使えなかった鍵を使えばいい、比較的安全な場所に居るものの逆に言えば勇儀が一つでも開けてしまえば
標準はすぐさまてゐに向けられる、さらにその時点で勇儀に遅れている事になるので解錠の問題でも敗北は確実。
今すぐ危険ではないが安全でも無い場所で戦う事を強いられている。
勇儀から引き継いだ鍵、しかしその鍵はてゐにも合わなかった。
「何でよっ!どうして合わないの!!」
鍵を持った手で壁を殴り、その場にうなだれるてゐ。そして次は穣子の順番だがとても動ける状態ではない、意識は失われたままである。
「はぁ……はぁ……穣子の順番もさっきと同じ処理をするのね?じゃあ鍵を交換してもう一度私の順番にする……!」
鍵は返されなければ穣子の順番にならない、それ故に“鍵を返した瞬間に穣子の代理を引き受ける”行動を最速で行えるのはてゐだ。
別の鍵を素早く手に取り、震えながらも右足の枷に差し込む。
「っ!……せ、セーフ……でも開かない……!」
当然すぐ左足にも差し込むが、やはり開く事は無かった。
およそ六分の一で死ぬ綱渡りを立て続けに渡るてゐの精神は相当疲弊しているが、手を緩めるわけにもいかない、
すぐさま鍵を取り替えてにとりの分まで再び自らに鍵を差し込もうとするが
「待って……私の順番……」
「にとり?」
冷静さを取り戻し、てゐが最初に捨てた鍵を手に取り三つの枷に差し込む。残念ながら解錠される事は無かったが、
絶対に安全な鍵という事で、にとりに恐怖は無かった。
(……もしや一巡あえてパスすることで、完全に安全な鍵を増やす作戦だったのか?)
にとりは恐怖が先行している。電流の自爆被害を避けるためにこの作戦を選んだらしい。
最終的な不利には目を瞑り、目の前の安全を手に入れたのだ。それでも運さえよければ上手く脱出は可能だ。
「……また私だな、引き続き勇儀に鍵を刺す」
もはや遠慮も同情も無い一撃、ただ自分が勝つために相手を落とす行動、しかしそれはまだ実らない。
「へへ、私の運のが上みたいだな?」
「そちらも解錠出来て無いなら五分五分だ。当たりの鍵を探す速度よりもハズレの鍵を探す速度のが速い事を頭に入れておけ」
ナズーリンは一度も触られていない鍵をどんどん勇儀に差し込めばいいのだ。その反面勇儀はナズーリンが選んだ鍵すら
もう一度“刺されていないもう片方の枷の鍵”である可能性を考えて、選ばなければならない、両者の差は歴然だ。
「じゃあ私はてゐがさっき選んだ鍵を貰うよ、てゐのでもにとりのでも無いなら確率も高いだろう?」
だが悲しいかな、ネタばらしをするとその鍵は穣子の鍵であり、四人にとって新たなハズレ鍵なのだ。
純粋なハズレの他に三つのハズレが加わり、さらに解錠は困難になっている。
「まずいね、本当に開かない……どうなってんだい」
流石に焦りを覚える勇儀、一つでも開ける事が出来ればいい。しかしその一つが果てしなく遠く、それよりも速い速度でナズーリンからの攻撃が迫っているのだ。
続いててゐの順番、もちろん穣子の分まで解錠するつもりらしい、一つ目にナズーリンが選んだ鍵をそのまま使い、
開かないと知るとそのまま二つ目の鍵を手に取る。
「開け、開けっ……頼むよ……!」
カチッ
「っゔぅ!?うああ゙あ゙あ゙ア゙アア゙゙!!!?」
再び、犠牲者が現れる。
枷に差し込んだ鍵が高圧電流を放ち、てゐの全身を駆け巡る。
全身の毛が逆立ち、ショックの勢いで座った姿勢から盛大に転倒し、顔面から地面に強打する、
だがその痛みを吹き飛ばすほどの激しい電流が文字通り身体を焼いているのだ、鎖が音を立てて暴れるがその甲斐なく、
電流はてゐが気を失い、身体の反応が無くなるまで続いた。
「っ……」
焦げ付いた肉の香りに顔をしかめながらも、明日は我が身とそれを省みる事は無い。
部屋に並んだ焦げた死体、その候補となり得る残り三人。
「ひっく……嫌だ……」
てゐの悲鳴から耳を塞ぎ、目を逸らし震えていたにとりも一人安全な橋を渡り、着々と前進する。
作戦が功を奏したのか、それとも一人遅れているにとりに運が微笑んだのか、選んだ鍵は左足の枷を解錠した。
「や、やった……あと二つ……」
これで解錠された枷の数は並んだ、しかしそれぞれの立ち位置は全く異なる。
ナズーリンは勇儀を仕留める方向で動いていた、そして勇儀はそれを迎え撃つ形、ナズーリンの有利は圧倒的だった。
しかし今はにとりが戦意を取り戻し、さらに安全な鍵を幾つか知りながら進行している、
加えててゐの敗退により、勇儀は手番を三回連続で行う事が出来る。その間にナズーリンが処理し終えた安全な鍵の
点検を行う事が出来、極端な有利不利は失われた。
「まずい……早く仕留めなければ……」
時間が経てば経つほど形勢が逆転する、しかしにとりと共同戦線を張る事も出来ない。
首尾よく勇儀を仕留める事が出来れば、今度は自身がにとりに対して四連続の攻撃、これは余程運が悪くない限り勝てるだろう、
勇儀が生きている限り、にとりは自身が攻撃対象にならない事を承知だろう、だから一緒に勇儀を仕留めようなどと言っても
協力してくれる可能性はゼロ。
「仕方ない……自分の運を信じろ!」
「ここに来て急に追い込まれたかい?焦るとロクな事にならないぞ?」
「うるさい!黙って刺されろ!」
カチッ
「んなっ……!?」
「へぇ、こりゃ面白い展開だね……」
「あっ……!」
まさか、そんな馬鹿な。ナズーリンの心中はその言葉で一杯、溢れかえった。
右足に差し込んだその鍵は、勇儀の枷を解錠した。そんな信じがたい低確率を引いてしまった、最悪の裏目。
「次は私だねぇ……ここから三連続、とりあえずさっき片方だけ刺された鍵を処理しようか?」
数順前に生と死の境目をナズーリンの手によって届けられた鍵二つ、裏を返せば安全を保障された鍵を
刺されていない枷に通す、しかし都合よく開いたりはしなかった。
「で、最後だけど……もうナズーリンよ、私に鍵を刺す戦法は使えないな?また空いちゃうかも知れないからな」
「くっ……」
「刺してくれる人がいないからね、自分で刺すしかないよ。二十二分の三かな、どこかの人みたいにうっかり刺さないよう、注意しないとね。」
挑発しながら鍵を差し込む、ここで自爆してしまうと一生の恥であったが、その心配は無かった。
代わりに枷が開く事も無かったが、何事も無く通過できたのは幸いだ。
「じゃあ……私はその鍵を貰うよ」
最後に勇儀が使った鍵をそのまま受け取り、にとりは自身の枷に差し込む。足首の鍵は開かなかったが、見事首の枷の解錠に成功した。
「や、やった!」
「くうぅっ!……な、どうして一巡パスしたのに私より進んでるっ……!」
一転して最下位に転落、他人の妨害ばかりの戦法がここに来て大きな裏目、その戦法も最後まで成就しなかったとなると、
敗北は目に見えている。
「運ってのは怖いな、改めて思ったよ」
「ま、まだ……誰も刺していない鍵はもうほとんど残っていない……この中に電流の鍵が……」
「でも、その中に私の鍵もある」
「っ……」
先程のイメージが拭えない、また相手に献上してしまうのではないか。
加えて今度はうっかり開いてしまいましたでは済まない、そのまま勇儀は勝ちぬいてしまうのだ。
そう考えると、ナズーリンは手を出せなくなった。そうなると安全策、自分が勇儀に刺した鍵を今から一つ一つチェックするしかない、
勇儀は三つ、ナズーリンは一つずつ、どう考えても追い抜く事は出来ない。
当然勇儀が電流鍵を引く可能性も大いに残されているが、ナズーリンには裏目、つまり自分が不利になる出来事しか
想像する事が出来ない、泥沼。
前にも進めない、進むには道が遠すぎる。かといって相手を蹴落とすには相手が強すぎる。では撤退するか?後ろに道は無い。
「ぅ……うわあああああ!!!」
初めて、隠していた感情、恐怖が爆発した。
「ひいっ!?」
「どうする事も出来なくなってパニックか……ま、よく頑張ったよ、私も正直途中まで諦めてたし、
じゃあ続行不可能って事で、私が四連続か?」
「ひゅい!?」
「悪く思うなよ?勝たなきゃ負けるんだ、でもいいだろう?四回も私が引くんだ、自爆する可能性だってあるぞ?」
手をつけていない鍵の本数は知れている、その中で正解は一つ、ハズレが三つ、危険な橋だが勇儀は割り切る事が出来る。
それがナズーリンと勇儀の違いで、勝敗の差かもしれない。
(……勝たなきゃ、負ける?)
「さて、絶望している所悪いが私が代わりに引いてもいいか?ナズーリン、まだ諦めるなよ、私が死ぬ可能性だって―――」
「勝たなきゃ負ける……」
「お?何だ、やる気取り戻してくれたか?」
何度も復唱する、勝たなきゃ負けるという言葉。確かに引き分けが無い以上、勝利ではないイコール敗北。
だがナズーリンはその言葉に別の意味を見出したのだ、突き詰めれば同じ意味だが、捉え方が違う、発想の転換。
「負けなければ……勝てるんだよ……そうだ、ははは……」
「んー、まぁそうだけど、負けない方法なんて、それこそ今までやってたお前の戦略だろう?破綻したけどな」
勇儀は大きな誤解をしていた、ひとつはナズーリンに対しての意識。
彼女は頭が切れる、それも勇儀の想像より遥かに、だから彼女の思いついた戦略を想定する事が出来なかった。
ふたつ、このゲームのルールの曖昧さ。
勇儀自身が体現したように、ルールの設定が甘いこのゲームは相手の裏をかいた戦略が取れる、
自分の次のプレイヤーが敗北していた場合、実質二連続で手番が取れるなどだ。
使った鍵はどうしてあるか?最初に発見した完全なハズレの鍵は部屋の隅に放置、捨ててある、同じ様にハズレと思わしき物も捨てる。
次に、一度でも使った鍵は?再び山に戻し、他の誰かが使ってハズレと判明するまでそこに眠る。
では解錠に使えた鍵は?その鍵に価値は既に無い、ハズレと同義だ。
「……ははは。一巡目、穣子が最初に使った鍵をにとりはそのまま使ったよね?」
「へ?あ、うん……」
「それは何で?」
「何でって……一度穣子さんが使って安全だったから……」
「どうして同じ鍵をもう一回使って良いと思ったの?」
「だって一度使った鍵を使っちゃいけないルールなんて無いし……使っちゃ駄目なら一発勝負になるじゃん!」
ここまでのやり取りを勇儀は黙って聞いていた、なぜ今になってナズーリンはこんな質問をしてきたのか。
そして、ナズーリンは鍵を刺す意思を見せてはいるが、鍵を手に取っていない、いたずらに時間を稼いでいるように見えるのだ。
「同じ鍵は使ってもいいんだよね……ふふふ……あはは……」
ようやくナズーリンは立ち上がり、ゆっくりと歩き出す、しかし目指す方向は中央の鍵の山ではない。
「……まさか」
「気付いた?……私が使う鍵はこれ」
ゴム手袋を付けた手で拾った鍵、それは穣子の枷に刺さっていた鍵。
悪夢の犯人はこれを許可しているのだろう、鎖は通常より伸びて穣子の元へと辿り着けている。
「これ、電流の流れるハズレの鍵だけど……ハズレの鍵をもう一回使ってはいけないルールなんて、書いて無かったよな……」
「例えばこれを人に刺してもいいよな?」
「これをしても私は勝ちに近づかないよな?でも、負ける事は無いだろう?相手を全滅させるんだから」
「勝たなきゃ負ける、けど、負けなきゃ最終的に勝てるんだよな……」
逃げるべきだ、脳内では分かっている、だがここは悪夢の空間、それを許すほど甘い犯人ではない。
勇儀は壁に磔となり、迫り来るナズーリンから一歩も逃げる事は出来ない。
「やめ……離せっ!?止めてくれっ!!」
「何さ、やっぱり私と一緒で怖かったんだ……冷静なフリして、いざこうなると鬼でも弱いもんだな。
でも大丈夫、生か死かの恐怖を味わう必要は無い。私が持っているのは、死だ」
「嫌だ、止めろ、嘘だ――」
「すまない、鬼に嘘は付けないんでな」
カチッ
「ッ!?――――ぐぎゃあああぁぁあああ!!!」
「おおう」
枷に鍵を差し込んだ瞬間に勇儀の身体を電流が襲う、今までの二人と違うのは意図的に拘束されているせいで
一歩も暴れる事が出来ない、ただ不動で襲いかかる衝撃に耐えなければならない。
そしてなまじ頑丈な精神、意思のために先の二名より長く苦痛を味わう事になっている、それは紛れもない地獄。
磔のまま意識が途切れるまで電流に襲われた姿は損傷が激しく、見る影も無かった。
「ひっ……ひいいっ……」
当事者でも無いのに、それを目の前で立ち会ってしまったにとりは股間に水たまりを作りながらもなんとか意識を保っていた、
全身がガクガクと震え、腰も抜けて、なんとも無様である、しかしにとりの地獄はこれからだ。
「は、やく……逃げないと……鍵……」
「何処に行くつもりだい?……もし気づいていないなら説明しよう、さっきまではここから勇儀が三連続で自分の手番になってたが、
当の本人はこの様子でね、ということで鍵を持っている私が引き続き順番を得るという事にしよう、私が決めた」
「……はっ、え?」
その死刑宣告に、にとりは思わず反論しようとナズーリンに目を向けた、しかしそこには見た目が非常に優しい目、
しかしその裏の黒い感情を隠し切れていない表情が。
「さぁ、君にもこの鍵を刺してあげよう」
「い……嫌ぁあああああああ!!!!」
***
その空間には最初、五人の人物が居た。 だが今その空間に立っている人物は一人、ナズーリンのみだ。
残りの四人は焼け焦げた死体となり果て、ナズーリンは一人鍵を集めている。
「私の鍵はどれだ……何処にある……」
既に電流の鍵を探す方法は見つけた。死体である勇儀の枷に一度鍵を差し込み、死体が煙を上げたら電流が流れていると判断するのだ。
それを繰り返し首の鍵を発見、残る鍵は右足だった。
「これは……大丈夫、でも足には合わない。これは……煙が出ているな、ハズレの鍵だ……ふふっ」
脱出できる、それだけでこの単調な作業中でも笑みが零れる、もう残りの鍵も少ない、時間制限も無い、
なんと楽な脱出か、心の中でそう呟く。
「さて、この鍵はどうだ?……んっ?」
カチャリ、そう音を立てて勇儀の枷が外れてしまった。
「ふふふ、この鍵を引き当てていればお前の勝ちだったのにな、ああ残念だ、非常に残念だ」
勝者の余裕から、物言わぬ死体に挑発を投げかける、そして作業を再開しようと鍵に手をかけた瞬間。
ガチャリ
「む……扉が開いた?」
『脱出者が現れました、これより三分の制限時間が発生します』
勇儀の枷が外れた事により、脱出者とみなされて扉が開いたのだ。扉の先には階段、ここから夢の世界を脱出するのだろう、
しかしこのままではナズーリンは脱出できない、早急に足の枷を外さなければ。
「なんと、制限時間は三分しかなかったのか……後から追いかける戦法を取らなくて本当に良かった」
この余裕は間違いではない、何しろ制限時間短しといえど残る鍵はわずか三本、そのうち一つ電流が残っているのだが、
三分で三本を調べるのは非常に容易、事実少し前にものの数秒で大量の鍵をナズーリンは捌いていたのだから。
そう、何も障害な無いハズだった、とある事実に直面するまでは。
「……おかしい、いやあり得ない」
目の前に残る一本の鍵、それ以外は全て誰かの枷に刺さっているか、自分に合うものではないと彼女が捨てた鍵、
そして電流のスイッチとなるハズレの鍵。つまり目の前のこの鍵はナズーリンの右足に刺さるべきなのだが、どういう訳か鍵が刺さらない。
「待て、勇儀の鍵は全て外れたのに私の鍵は全て用意されていないだと?こんなもの不公平ではないか!!」
残り時間は決して長くない、急いで一度は捨てた鍵をチェックする。まずは電流の鍵、これを枷が外れてしまった勇儀の代わりに
てゐの枷に差し込む。電流の鍵は間違ってはいないようで、てゐの身体はビクビクと痙攣し、再び電流を走らせる。
続いて余った大量の鍵、これも迅速かつ正確に自身の枷に差し込む、回す、差し込む、回す。
だが、反応は無し。どれもこれも解錠には至らず、そして鍵は尽きた……
「嘘だろ、ここまで来て最初から私に選択肢は無かったとでも言うのか!?そんな差別があってたまるかッ!!」
がむしゃらに鎖を引くナズーリンだが、今更力でどうにかなる代物ではない事は重々承知、それでも引かずにはいられない、
あとわずか、十数秒で脱出への扉は閉じられてしまうのだから。
『残り……十、九、八、七、六』
「待て、待てと言っている!!まだ私は部屋を出ていない!!負けていないが、勝ってもいないんだッ!!」
『五、四、三、二、一……』
「止めろッ!閉まるな……ッ!!」
……カウントは終わった、しかし扉は閉まらない。
「な、何だ……? 助かったのか……?」
「いいや、時間切れだよ」
「っ!? 誰だ!」
否、ナズーリンの枷はまだ外れていない。ただ扉が閉まらなかっただけで、やはりタイムオーバー、時間切れだったのだ。
出口の扉から現れたのは紫色の服を着た妖精、ナズーリンには心当たりは無いが、味方ではないだろうと身構える。
「私はこの騒動の犯人、おなじみ名もなき妖精だよ」
「おなじみ?私はお前を知らないな、それに犯人なら軽々しく姿を見せない事だ。妖精は区別がつきにくいとはいえ、その顔と声、覚えたぞ」
その言葉に妖精はぷっと吹き出す、意図を読めずに疑問符を浮かべるナズーリンに対し
「あははごめんごめん、その言葉を聞いたのは何回目かなー、って思って」
「何?」
「記憶を失ってるだけで、私とあなたは何度も何度も顔を合わせている。現実じゃなくて夢の世界でだけどね、そしてあなたは私を見るたびに
その顔を覚えた、忘れないと豪語する、その結果がコレじゃあ、そりゃあ笑っちゃうよ」
「……記憶をだと?」
この空間は彼女の好き放題に出来る、それは“夢の世界に限り”ほぼ文字通りで、記憶だろうと意識だろうと、はたまた肉体だろうと精神、性格だろうと
自由に改変、改竄、変更、消去、偽装……ありとあらゆる事が可能だ。
「ゲームの度に夢で会った私の記憶を消すなんて造作も無い事だよ。さて、残念ながらゲームオーバーだねナズーリン君」
「残念ながら?ふざけるな!ことゲームに関しては貴様の反則だろう?私の鍵はどこにも無いじゃないか!!」
彼女が自身で何度も確認した鍵の山を指差し、初めから解錠の鍵が用意されていないなら脱出のしようが無いと主張する。
「ふーん……私は結構あなたの頭脳に期待してたんだけど、正解には辿り着けず、か」
「……正解だと?」
「うん、たまたま勇儀の鍵は全て解錠されたけど、今思えばそれがあなたが脱出するために必要な鍵を死角に隠してしまった原因かもね。盲点という死角」
そう説明されても、未だにナズーリンの頭は解答を導けない、むしろますます混乱するばかりだ。
勇儀の鍵を開けてしまった事が私自身を脱出不可能に追いやった?それはどういう事だ? そう脳内で反芻する。
「答えが出無さそうだね。じゃあ順にヒント、鍵は三十も存在するのに、やたら解錠のペースが速かっただろう?そこに疑問は無かった?」
そんなもの、運次第でそうなる時があるだろう、それで片してしまえばそれまでだが、改めて確認すると確かに多い。
選んだ鍵が一回で何処かに刺さる、特に鍵が多いはずの序盤でそれは多く起きた。
「で、これは既に気づいてたけど、電流の鍵だろうと何だろうともう一度同じ鍵を使い回せるって事」
同じ鍵を使い回す事には当然気付いている、それを使った戦法により、他人を全て蹴落としナズーリンは見事残る事が出来た、
勝ち残りではない、あくまで負けていない残留。
「最後……手紙の文面」
鍵は全部で30。
それぞれ首、右足首、左足首の枷の鍵が合計で15、
どの鍵穴にも入らない偽物の鍵が10、
そして残り5つの鍵は電流を作動させる鍵。
鍵は何処に刺してもいい、もちろん全て試してもいい。
ただし自分の手番で持てる鍵は一つだけ。
電流の鍵を自分の枷に刺してしまった場合、枷から高圧電流が発生する。
プレイ続行不可能な人物の手番では、誰かが代わりに鍵を選び、鍵を差し込む。
誰か一人の枷が全て外れると、その人物は脱出できる。
そして制限時間が発生し、時間経過後に枷に繋がれている者には更なる罰を与えよう。
「……曖昧な文章、ここに書かれていないルールは存在しないものと考えてもいい、だから私は鍵を他人に刺した」
「うん、それは立派な戦法だよ。実は他のグループにも同じことをやったんだけどね、仲間意識が無駄に高かったからその戦法を思いついても
だーれも実行しなくてつまらなかった所なんだよ」
「他のグループ……いや、聞かないでおこう、今は私の話だ。それで、私の鍵が無い事とこの手紙、何の関係が―――」
鍵は全部で30。
それぞれ首、右足首、左足首の枷の鍵が合計で15、
どの鍵穴にも入らない偽物の鍵が10、
そして残り5つの鍵は電流を作動させる鍵。
「……ん……?」
鍵は全部で30。
それぞれ首、右足首、左足首の枷の鍵が合計で15、
どの鍵穴にも入らない偽物の鍵が10、
そして残り5つの鍵は電流を作動させる鍵。
「鍵は……三十……枷の鍵が三か所五つ、合計十五……ハズレが十……電流が五…………」
それぞれ首、右足首、左足首の枷の鍵が合計で―――
脳内で繰り返されるこのワード、一見何の変哲もない文章だが、先のヒント“書かれていない事は存在しないものと考えてもいい”と合わせると、
書かれてあるべき単語が抜けている。 その単語が無い事により、一つの可能性が出て来てしまった。
「あ、気付いた?」
「……くっ!!」
突如立ち上がり、素早く勇儀の元へ駆けだすナズーリンだが鎖を掴んだ妖精がそれを阻む。
「駄ー目、今更気づいても遅い、タイムオーバーなんだから」
伸ばした手の先には勇儀の解錠された枷、正確には……そこに刺さった鍵。
「枷の鍵は合計で十五。 でも?合計が十五というだけで、例えば首の鍵が七、左足首の鍵が七だとしてもおかしくないんだよねぇ……
でもでも、そうするとこのナズーリンみたいな子が鍵が足りないと不平不満を言っちゃうからー、私は親切に―――」
首枷の鍵穴、右足首枷の鍵穴、左足首枷の鍵穴を共通にしました。
「右足首の枷を外す鍵は三十個の鍵のうち一つだけ……しかし一つ見つければ実は全員の右足枷を外せる……そうだろうッ!?」
「はい、よく出来ました♪でも何度も言うけどタイムオーバー、時間切れ、終了、残念」
枷の個数と鍵の個数が同じ、では一か所の枷を開けられるのは一つの鍵のみであるという先入観、そして自分達を捕らえた錠が共通であるはずが無いという固定観念から
この悲劇は生まれた。 発想の転換とひらめきがあれば、犯人に対する抵抗を被害者全員で共有し、団結し、時間を確保できれば、
答えにたどり着けたかもしれない、全員で無傷で脱出できたかもしれない。
「それをこのナズーリンはあろうことか他人を蹴落としてまで自分の脱出を望みました、これは大変悲しい事です、ぐすん。……ですから私は罰を与えます。」
抑えつけていた鎖をナズーリンごと投げ飛ばすと、そのまま壁から鎖が抜けナズーリンは自由になる。だが脱出には至らない、体制を崩している間に
妖精は扉から外に出てしまう、そして扉は元通り強固な壁へと戻る。
「おい!何をするつもりだ!?」
「すぐにその時は訪れます、身をもって体感してください♪」
その言葉を最後に扉から一切の声が消え、残されたのは枷から解き放たれてなお密室に閉じ込められたナズーリンのみだった。
「………」
ズン……
「っ!?……どこだ、誰だ!?」
六角形の壁、攻撃はどこから来る、扉付近は危険か?部屋の中央……危なそうだが全方位に対応するにはこれしかない、一瞬で脳内に思考を巡らせ部屋の中央を陣取る。
響いた重音は何らかの攻撃が仕掛けられると予想するのは至極当然、それが奴の目的であろうから。
「どこから……いったい何が……ッ!?」
前後左右、全ての方向へ注意を払っていたつもりだったが予想外の方向から攻撃は行われた。
足元、その床が勢いよく上昇を始めた。 無論、ナズーリンの身長より大きく余裕のある天井ではあるが、その距離は瞬く間に詰められ、慌てて天井に手を当て
無駄とは感じつつも力を入れて踏ん張る。
「ぐうッ!?……ぎっ……!!」
予想とは異なり、抵抗がまるで無駄というほどの力で地面がせり上がっている訳ではなかった、全力で踏ん張ればなんとか抑えられる程だ。
「く、うっ……な、何だ?!」
ナズーリンの正面の壁、そこに数字のカウントが表示される。書かれた数字は十とゼロが二つ、そしてすぐに九と五十九に変化、そこから右の数字は下がっていく。
「十分!?……くそっ……体力が持たんっ……」
気を抜けば天井と床に挟まれて圧死は免れない。体力が尽きようが、抗わなければ回避できないのだ。
三分が経過した所で、未だに部屋の状況に変化は無い、ナズーリンの体力もまだ残っていた。
「くう……」
じゃら……
「ん?」
一瞬聞こえた音は地面がせり上がる、あの重い音ではない。そう、鎖が擦れ合う時の音だ。
ナズーリンはこの場から一歩も動けない状態なので鎖が動く事も無く音もたたないはず、では誰の音なのか。
その疑問を解決するよりも早く、答えをその身で知る事になる。
「っう!?だ、誰――」
「私だよ」
「なっ、その声!?」
背後から急に右足を掴まれ、慌てて視線だけを背後に向けると、そこには地面を這ってナズーリンに接近していた、そして先のゲームで
電流に犯されリタイアしていたはずのてゐがそこにいた。
いや、てゐだけではない、いつの間にやら勇儀も、にとりも、穣子も、意識を取り戻していた。
「ど、どうして起きているんだ!?……ぐ、そんなことより天井を支えろ!このままだと潰れるぞ!」
「ちょっと勘違いしてるかな、これは“罰”の途中なんだよ」
「そう言う事。私達は本人じゃない、罰のために姿形だけ本人に似せた偽物だよ」
「だから今からやる事を本人に恨み返すのは止めた方がいいかな」
「ま、どうせ記憶は持っていけないから安心しろよ?」
天井はナズーリンの身長よりも低い所まで迫っている、背中から肩に力を込めて床を支えている状態だ。
残りの四人が立つには低すぎる高さなので、四つん這いのままじわりと、動けないナズーリンに這い寄る。
「私に何かしてみろ!支える者が居なくなったら―――」
「潰れても困るのはそっちだけだよ、私達は初戦偽物なんだから」
「な、この―――」
反論を言うよりも早く、勇儀はナズーリンの片足を引っ掛け、片膝をつかせる。
それだけに留まらず、さらに反対の足にも攻撃を加える、たまらず地面に伏せるナズーリンだが床の上昇は待ってくれない、
慌てて身体を起こすが、すでに四つん這いで天井と床を支える事しか出来ない空間の狭さになっていた。
「ぐうううう!!!」
「腕立てしてるみたいだね、腕は伸ばしっぱなしだけどさ。頑張らないと潰れちゃうよ?」
「こ、このっ……!」
ここまで追い詰められては抵抗も何も出来ない、両手両足は地面を、背中は天井を支えている。
「さて……覚悟出来た?」
「覚悟だと?」
「うん。本当は本物の私の恨みをお前にぶつけて無茶苦茶にしてあげたいんだけど、マスターは毎回罰をあっさりと終わらせるからねぇ」
マスター、どうやら例の妖精の事を言っているらしい。この空間の支配者、偽物の使役者という意味では間違ってはいない。
「手を万歳して天井を支えている時に全力で腹にパンチでもしてやりたかったよ、まあ代わりにこれで勘弁してくれ」
勇儀がナズーリンの正面から見せたもの、それは散々彼女等を振り回した鍵のうち一つ。
「……おいまさか」
「察しが早いね。あ、でもどれがどの鍵か私達は知らないから、全部順番に試すよ?」
「でも勇儀、あんたの右足の枷に刺さってた鍵は刺しちゃ駄目だよ?開いちゃうから」
「だな。じゃあそれ以外の鍵、えーっと、とりあえずここに十個以上あるな」
散らばっていた鍵を全てナズーリンの背後にいるてゐに渡す、振り返る事すらできないナズーリンは、これから起こるであろう出来事を
想像し、予測し、そして恐怖した。
「まずは一つ目!」
「っ!?」
……何も起きない。
「二つ目!」
これも何も起きない、鍵はどんどん補充され、素早くナズーリンの右足枷に差し込まれていく。
枷は壁と繋がっていない、拘束具の役割を果たしてはいないが、電流発生装置としては機能している。
今まさに、彼女は勇儀にしていた行いを自身で体験しているのだ。そして勇儀の時と異なるのは、確実にハズレを引くまで
この選択は行われるという事、偶然脱出はあり得ない。
「三つ目!!」
「っく!!……っ、はぁ……はぁ……」
最終的に辿り着く場所は同じでも、鍵を刺される度に生と死の境目を彷徨う事になる、その恐怖は尋常ではない。
「顔が青くなってるよ?身体も震えてるし、天井支えられるの?」
「うるさい……!」
「じゃあ四つ目ね」
「ひうっ!?」
鍵と鍵穴が擦れ合う音、そのたびにナズーリンは過剰に反応する。
それが面白いのか、てゐは五つ、六つと鍵を進めているように見せて、実は同じ鍵を差し込み始めた。
「十五……」
「は、はぁっ……はぁっ……!」
「十六、そろそろ当たるんじゃないか、なっ!」
「っぎっ!ぐ、うぅ……!止めろ、もう止めてくれっ……」
「何を言う、私の本物達の無念と恨みだ、サービスだから受け取ってくれ」
「謝る、謝るからぁ!もう精神も体力も持たないっ……!」
「本当に電流に恐怖するなら、力を抜いて私達ごと床と天井で潰せばいいのに」
その選択が出来る勇気は既にナズーリンから失われていた、ただこの惨状から解放されたいだけの彼女は、
これ以上一切の犠牲を払えない、払いたくない臆病な存在になっている。
「無理……無理だって……助け―――」
「はい、十七、十八、十九っと」
「っーーーーー!!!?」
じょろ……しょわわわ……
「ひゅい!?」
「あらら、てゐがあんまりいじめるもんだから、お漏らししちゃったじゃない」
「ひっく……嫌だもう……何で私が……」
それでも無抵抗を貫かなければならない、力を抜けば潰れて死ぬ。
「さて……」
てゐが持っていた鍵、それは実は確実に電流の鍵なのだ。
ナズーリンに通した鍵は残る三本の鍵以外全て、つまり残っているのは全て電流なのだ。妙な所で運があるというか、
ここまで何度も生死の境目を彷徨う事になって運が悪いというか、ともかくこれで最後なのだ。
普段の彼女なら、鍵の数を数えてこれが最後だと悟り、少なくとも覚悟は出来ただろう。
「ぁ……ぅ……」
この姿を見て、数分前の切れ者と同一人物であると想像できる人物は少ないだろう、無様に涙、汗、涎や尿までも漏らし、
「じゃあ次の鍵、ちょうど……何個目だったかな」
勿論数えているが、悟られないように配慮しているためだ。……そんな事をしなくても問題は無いだろうが。
「嫌……やめ……」
カチャリ
***
「う、うわあああ?!」
「ひゃあ!?」
ナズーリンは飛び起きた、理由は分からない、そうしなければいけないような気がしたから。
「……な、何だ?」
「それはこちらの台詞です!まったく、うなされているのでもしやと思い心配して起こそうとしたら、急にバネのように飛び起きて」
命蓮寺の自室、そうだ彼女は昨日ここで眠った、そして今日ここで起きた、何も違和感は無い。
なぜ驚きの声と共に起きなければならなかったのかは……分からない、彼女には永遠に。
「なぁご主人……疲れているのか?私は」
「さ、さぁ……とにかく、ただ暑くて眠れなかっただけのようですね、汗だくですよ?着替えてすぐに朝ごはんです、
私は先に行っておきますから」
「あ、ああ……」
星はさっさと部屋を出て行ってしまう、嫌われた訳ではない、この程度で仲を違えるほどの関係で無い事はナズーリンが
知っている、しかし何度思い返しても心当たりが無い、まだ冬は明けていないこの時期に布団が暑くて汗だく?
「………へ?」
布団は湿っている、寝巻も湿っている、だが一点に集中しすぎてはいないか?そして気付く。
「な、ななな……」
「たまーにこんな感じに現実世界へヒントをあげちゃうんだけど、誰も気づかないの、おかしいなー♪」
=END=
続けられるかどうかも分からないけどシリーズ設定してしまいました……
夢の中って言う設定便利ですよね、何でも出来ちゃう。
前回のコメントありがとうございます!
デス13……その発想は無かった。
運命浄化
作品情報
作品集:
31
投稿日時:
2013/03/15 03:10:26
更新日時:
2013/03/15 12:10:26
分類
電気責め
失禁
拷問
拘束
脱出ゲーム
何気にある失禁もええですなあ
緩々のルールがしっかり考えない読者としては予想外の展開が起こっていい
もっと評価されてもいいのになー
電流鍵引いたプレイヤーが出たら残りプレイヤーはその時だけ団結して鍵試して電流鍵排除しちゃえばいいのに、とか考える自分はチキンプレイヤー
でも右足の鍵一個という陥穽が潜んでいるから使うのは難しかったかもしれませんね