【戦闘シミュレーションpart3】
なんかしばらくダラダラしている間に新興勢力がいくつか幻想郷に流れて来たらしい、詳しくは知らないけど聞いた話によると妖怪派とか人間派とか明確にしてる所もあってピリピリしてるとか。
嫌ねー、なんか変な事始まらなければ良いけど。
初めはただの遊びだったけどちょっと本腰入れて有事の時の事考えた方が良いかも知れない。
まあそれは置いといて、取り敢えず前回の続きから。
次は妖怪の山か。
・秋静葉&穣子
仮に戦闘になったら申し訳ないけど正直話にならないレベルで全く問題無いと思う、そういう神様じゃないし。
というか多分なんかあったらこの神様達はどっかに避難してるんじゃないかしらね、これ以上何か考える必要も無いでしょ。
あ、今度はたてかお姉さまに頼んでさつまいもの美味しい食べ方とか聞いてきて貰おう。
・鍵山雛
疫神という分類の変わった神。
こちらも先の神様達と同じように戦闘に関しては恐らく問題にならないけど、この妖怪の問題はそこではなく常に周囲に纏っている厄にある。
近づけば不幸に陥るし殺せば貯めている厄がそのまま出てきそうで怖いという歩く毒ガスタンクのような妖怪。
幸いこの神様もこちらからしかけなければ戦闘はしないと思うので近づかないようにするしかない。
日本は変わった神が多いわね、多神教って未だによく分からない文化だわ。
人の為に働き続ける善良な妖怪がその職務の為に人から避けられ続けなければならないというのは、ありがちだけどなんとも皮肉で哀れな話だと思う。
・天狗、河童、守矢神社
さて、ここからが恐らくこの企画最大の難所とも言える場所。
天狗のヒエラルキーを中心として下っ端に河童、そしてつい最近外界からやって来た神を神輿に構える一大組織だ。
天狗と河童は大量にいるから一匹一匹と戦う事を前提に考えるのはちょっと無理がある。
神社の連中だけ単独戦闘で考えても良いんだけど、やっぱり天狗の統率力を考えると誰か狙った時にサシでやり合わせてくれるとは思えなかった。
で、まあそうなるとまとめて相手するしか無いわよね、という考えにいたってその方向で考えてみた。
ここは結構縦の連帯が堅い事で有名な組織だし以前からちょくちょく考えてはいたのよ。
そして結論。
無理、ここどう考えても無理。
向こうは組織行動のスペシャリストだ、恐らく本気でぶつかり合ったら私一人はおろか、紅魔館の面子がまとめてかかっても恐らく敵わないと思う。
私の能力で破壊しようにも山は流石に色々ありすぎるし、魔法で爆撃しても結界とかで殺しきれないんじゃないかしら。
単独勢力としては恐らく比類無き強さを持っていると思う、メンバー一人一人の質と結束力が段違いだ。
現実として戦いになる可能性がゼロとは言い切れない組織の中では今の所ここが一番敵に回したくないわね。
しかし逆に言えば味方に付けられればこれほど頼りになる所も無い。
なんとかしてコネを作っておきたいけれど、今の所お姉様が射命丸文と新聞契約して、私ははたてと契約してるのみだ。
うーん、あまり深刻に考える必要もないかも知れないけど、ちょっとはたてに妖怪の山事情とか詳しく聞いてみようかな。
気になるから一旦中断してはたて呼ぼう。
通信玉ではたてに繋いだ。
『こんにちは、はたて』
『こんにちは、フランドール。なんか用?』
『はたて今暇?』
『暇って言えば暇ね』
『じゃあ私の部屋に遊びに来ない?ちょっと話したいんだけど』
『まあ良いわよ、今から?』
『うん今すぐ来て大丈夫』
『分かったー』
呼んでから10分程ではたてはやって来た。
「こんにちは、よく来てくれたわね。お茶淹れるからとりあえず上がって」
「お邪魔します、そういえばこの前は聞き逃したんだけど、あれ何…?」
「サボンドール」
「ふーん…分かんないけど良いや」
私がはたてを招き入れるとサボンドールがテーブルと椅子を引っ張り出してきた。
「前来た時も思ったんだけどあんたの部屋結構散らかってるわよね、女の子なんだからもう少し綺麗にしとけば?」
「いや私の部屋って片付けてもすぐにまた次にやる事で散らかっちゃうからいちいち片付けるのが面倒くさくて。
転移魔法でまとめて隣の部屋に押し込んだりは出来るんだけどね、今回はちょっとはたてと話したいだけだから別に良いかなーって」
「親しき仲にも礼儀ありって言うでしょ、私もあんまり友達いないけど人呼ぶ時ぐらい片付けた方が良いわよ」
「そういうものかしら」
沸かしておいたお湯で紅茶を淹れてテーブルに並べた。
はたては人間入りじゃないのだったわよね、もう一つ作るの面倒だから私のもそれで良いや。
「それで今日は何の用? またなんか変な事でもするの?」
「いや、今日は本当に口頭で済む予定。ちょっと妖怪の山について詳しく知りたいなーと思って。
ほら、妖怪の山って結構閉鎖的だからあんまり中の事分からないじゃん? だからはたてに話聞きたいのよ」
「確かに自由に出入りは出来ないけど神社が出来てからはそれほど閉鎖的でも無くなかったわよ、言えば入れて貰えるはずだし。直接見に行ってみれば?」
「いやそれは良いわ、私一応紅魔館で二番目に偉いって設定だしあんまりほいほい別の勢力行ったら駄目でしょ。それに面倒だし」
「結局面倒なだけじゃない。ま、別に良いけどあんまり機密に触れる事は答えられないわよ。まあ私下っ端だからヤバイ情報はそもそも知らないけど」
紅茶を飲みながらはたての妖怪の山講座が始まった。
「何から聞きたい?」
「まずは階級制度かな」
「一番上に天魔様、その下に大天狗様、その後は割とごちゃごちゃね。鴉天狗、鼻高天狗、白狼天狗、山伏天狗の部隊が並列して存在してる状態かな」
「大天狗が身体が大きい幹部で、鼻高天狗が事務、鴉天狗が広報、白狼天狗が警備、山伏天狗が印刷だっけ?」
「そうそう、よく知ってるじゃない」
「その辺りは結構有名だからね、各天狗の詳しい関係とか他の妖怪の山の妖怪との関係とかが分からないのよ」
「さっきも言ったように指揮系統は天魔様と大天狗様で固めていて、それ以外の天狗は役職、まあ種族ごとに固まって独立した部隊として存在しているわ。
それぞれの部隊の中はさらに細かく分かれていて、えーとそうね、フランドール寺子屋は分かる?」
「いや全然」
「そうだと思ったわ……じゃあちょっと説明し辛いけど要するにね、30〜40人ぐらいの集団に分かれていて、それぞれに担当の大天狗様が付いてるの。
同じ部隊の中でも基本的に顔を合わせる事があるのはこの集団の面子だけでなんか任務があった場合も原則この集団単位で動く事になるわ」
「あーうんうんなるほど、なんとなく分かったわ。綺麗に上から下まで縦に長く序列化されてるわけじゃないのね」
「そうそう、集団の中で働きが良かったり個人的に大天狗に近付いたりしてる奴はなんとなく発言権が強かったりとかはあるけど基本的に全員同じ地位ね。
昔はもっと縦に分かれてたんだけど最近になって地位をそこまで分ける必要が無くなったから年寄りは退役、部隊を大幅に切り崩して若い天狗を中心に横に並べる様になったのよ」
「って事は出世とか無いの?」
「無い。だって今の幻想郷平和過ぎて何も仕事無いんだもん。功績の挙げようが無いわ。
だから今の妖怪の山で一番流行ってるのが娯楽なのよ。最近流行りのスペルーカードゲームや新聞、漫画、将棋などなど。
今の天狗はそっちの方で有名になる事を目標にしてる奴が殆どね」
「へー結構楽しそうじゃない。ちょっと親近感湧いたわ」
「今の天狗の組織の内部は大体こんな感じね。何かここまでで質問は?」
「そうね…有事の際に前線に出るのは白狼天狗?」
「白狼天狗と鴉天狗ね、鼻高天狗と山伏天狗も戦える実力はあるけど前線には基本的に出ないわよ。
とは言っても今の所実戦の機会はほとんど無いから内輪でスペルカードゲームやってるぐらいなんだけど」
「なるほど。じゃあもう一つ、天魔とか大天狗ってどれぐらい強いの? 」
「それはゲームで? それとも本気で?」
「本気で」
「大天狗様はたくさんいらっしゃるし、元の種族によっても違うから一概には言えないわね。どこかしら下級の奴らよりも凄い所があるのは確かだけど」
「大天狗って固有の種族じゃないんだ?」
「ええ、大天狗様も天魔様も下級の天狗が長い年月や経験を経て高い妖力を身に付けた姿よ。
だから頑張れば一応誰でも大天狗様にも天魔様にもなれるわ、相当頑張らなきゃいけないみたいだけど。
ちなみに当代の天魔様は元は鴉天狗の方で、私は実際に見てないからあくまで噂だけど下級から中級の鬼とタメを張れる程度の実力はあるらしいわ」
「それは凄いわね」
こと戦闘に関して鬼の右に出る種族はそうそういない、もし噂が事実なら今の天魔は相当強いのね。
「分かった、もう天狗の事は良いわ。じゃあ次は天狗以外の奴についてお願い」
紅茶を飲んで一旦一息つくと、今度は天狗以外の山の住民について触れた。
「まず河童は天狗の下位組織って事になってる。私もこれ以上は知らないわ、あんまり河童とは親しくないから」
「奴隷階級なの?」
「いや、そこまで待遇は悪くないはずよ。私は最近の事は知らないけど、下位組織と言ってもたまに天狗が使う道具とかを作らせたりしてるぐらいで、あとは一緒に暮らしてる住民って感じじゃないかしら?」
「そういうのはたては詳しくは分からないのね」
「うん、そうね。私よりもまた別の詳しい奴に聞いた方が良いかも」
「私は今の所はたてしか天狗の知り合いはいないからまた考えておくわ。じゃあ次は、山にいる神様とかは?ああ、まずは新しく来たほうじゃなくて昔からいる方からお願い」
「神様に関しては山の麓から中腹をうろうろしてるのがほとんどだから種族としての関わりはほとんど無いわ。
たまーに天狗が催し物するとふらふら来たりするけど、それ以外は個人的に神様と親しい奴以外はあんまり会わないわね」
「あんまり関わりがあるわけでも無いのね」
「必要無いからね、たまに挨拶するご近所さんみたいなものよ」
「分かった、じゃあ次は山の頂上に来たっていう神社について教えて。私最近来たばかりの所は一番分かってないのよ」
「うーん、私もよく知っているわけじゃ無いんだけどね。じゃあいる奴についてざっとだけ説明するわ。
守矢神社の住民は三人、正確に言えば神様なら三柱かしら?まあどっちでも良いけど」
「そんなぞんざいな扱いで良いの?」
「いいのよ、別に私はあそこと全然関係ないし、山としては仲良くやっていきましょうって言ってるだけで私個人がどう思おうと敵対しなければ関係無いし。
話がそれたわね、とりあえず守矢神社には三柱の神がいて、うち二人は正真正銘の神霊、残り一人が肉体の損存在する現人神、実質人間ね」
「三人ね、じゃあ一人一人お願い」
「まずは守矢神社のトップの八坂神奈子様、容姿は、写真見るのが早いわね」
「どれどれ」
はたてのカメラの画面に映る写真を見せてもらう。
後ろにごてごてしたのが付いてるけど本体は人間と同じような感じだ。
青みがかった髪に胸元に鏡の付いた赤い服黒のロングスカートに何故か背中にでっかいロープを背負ってる。
後ろのロープのインパクトでか過ぎて一度見たら絶対忘れられない格好ね、ある意味神にはぴったりかも知れない。
「それでどんな奴なの?」
「性格は普通ね、ちょっと偉そうで、でも意外と親しみやすい、そんな感じ。能力は『乾を創造する程度の能力』」
「剣?武器を作れるってこと? 」
「違う違う、こっちの『乾』。乾坤一擲とかの乾よ、って言ってもフランドール外人っぽいし知らないかしら?」
はたてがメモを取り出してどんな字か書いてみせてくれた。
「うん、知らないわね。どんな意味なの?」
「地に対する天っていう意味で…実はまだ能力使ってるとこあんまり見せてないからよく分からないのよね。とりあえず天候を操ったりみたいよ」
「そりゃ私勝てないわ」
「うん、外では絶対無理ね。動いたのはこの前の地底の異変で地獄鴉に八咫烏の力与えた時ぐらいで、普段はあんまり動かないから言えるのはこれぐらいかな」
「分かった、じゃあ次お願い」
「次は洩矢諏訪子様ね、こっちは比較的あちこち遊びに行ってるイメージがあるわ、性格も明るいし神奈子様と違って能力もよく使ってるわよ」
「能力は興味あるけどとりあえず写真見せてくれる?」
「ああ、そうだったわね。ほらこれ」
今度は先程の神様に比べて結構小柄、下手をすれば外見年齢は私と同じぐらいに見える奴だった。
目玉の飾りが付いた帽子に蛙の刺繍が入った紫の服を身に纏っている。
「諏訪子様はよくあっちこっちいって遊んでるわね、神奈子様と違って妖怪の山の外にもよく出かけてるみたい。
スペルカードゲームも好きみたいだから能力も見せてくれるわ」
「こっちはどんな能力なの?」
「坤を操る能力よ、こんな字ね。作れるものは金属、岩石、土、水、植物、マグマとか。何も無い所からぽんぽん出せるみたい」
「こっちも無茶苦茶な神様ね、なんでそんな事出来るのよ」
「信仰の力らしいわね、幻想郷に引っ越してきて妖怪の山で信仰を取り戻したから色々出来るとか。
諏訪子様は神奈子様と違って土着神だからあまり動けない代わりに勢力圏内ではとてつもない力を発揮できるのよ」
「局地的な神様か、って事は自分の勢力圏離れたり出来ないの?」
「うん、出来ないわけじゃないけどあんまり離れたりはしない方が良いみたい。だから幻想郷への引越しも結構大変だったみたいね。
あと神奈子様は元になってた人間がいる神霊がいる信仰が無くなっても存在は出来るみたいなんだけど、諏訪子様は完全に信仰から生まれた存在だから」
「難儀な存在ね、地域限定の信仰って維持するの難しいでしょうにそれが生死に直結するなんて」
「そうねー、私達みたいに知名度に困ることがない妖怪には無い悩みよね」
私は強大な力と隣り合わせの死か、世の中うまい話ばかりでは無いものね。
「で、最後が東風谷早苗ね。この人は守矢神社の風祝っていう、まあ巫女みたいなものね」
「神様が顕現してるのにシャーマン必要なの?」
「そうね、巫女って言うよりは側仕えみたいな存在近いかも知れないわ。
信仰の獲得に努めたり、異変が起きた時には調査に出たり…でもそんな固い職業じゃなくて結構自由に過ごしてるわよ。あ、写真はこれね」
「へー、この子人間だっけ?」
「ええ、だから見た目通りの人間の年齢ね。大体15〜20歳ぐらいなんじゃない?」
「若い神様ね、それで能力は?」
「能力は奇跡を起こす程度の能力よ」
「何その魔法を使う程度並にアバウトな感じの能力」
「本来先のニ柱の能力を借り受けて行使する能力だったらしいんだけど、信仰が早苗本人にも集まる内に力を借り受けなくても色々出来るようになったらしいのよ。
ただ今はどこまでが力を借りていてどこまでが自分の力か分からなくなってるらしいんだけど」
「うーんまあよく分からないけど色々出来るのね、例は挙げられる?」
「ただの水を酒に変えたりとか水出したり風吹かせたり、そんな感じ。割と色々出来るけど天変地異が起きたりはしないわね」
「多芸だけど幻想郷なら常識の範囲内かしら、そりゃまだ百年も生きてないような人間に天変地異起こされたら困るけどね」
「いやでもあの娘はこれから頑張れば結構化けるんじゃないかな、色々やってるし目立てば信仰も集まるだろうし」
「その辺りはこれから次第かな。これで一通り妖怪の山に住んでる奴は挙がったかしら?」
「うん、多分」
「じゃあ守矢神社と妖怪の山の関係は今どうなってるの?」
「基本的に良好なはず、神様を信仰することで妖怪の山にもメリットがあるからお互い持ちつ持たれつっていう感じね。
いきなりよく分かんない奴が来たことを良く思ってない奴もいるかも知れないけど天魔様が神社を受け入れてるから行動に出して何か反発する奴は皆無よ」
「意外と柔軟な対応が出来る組織なのね」
「基本的に大きなこと決めてるのは天魔様だから天魔様がそうなんだと思うわ」
「天魔様すごーい」
妖怪の山に何か亀裂が入るような火種があれば内部抗争を誘う方向も少し考えていたのだが、少なくともはたての様子からはそういう事が出来そうな要素は見つからないわね、この娘が
平和ボケしてるだけって可能性もあるけど。
まあいいだろう、別に妖怪の山本気で滅ぼしたいわけじゃないし平和であるに越した事は無い。
それよりもどうやって仲良くなるかを考えよう。
「妖怪の山と仲良くするにはどうしたら良いかしらね」
「なんで?」
「いや強いとこと敵対したくないから」
「別に今の幻想郷ならどっかと敵対する事なんて無いと思うけど」
「今はね、でも世の中何があるか分からないからなんか保険が欲しいんだけど」
なんだろう、当たり障りなく仲良くなる方法仲良くなる方法……そうだ、古典的な手段があった。
「結婚とか良いかも」
「え?」
「妖怪の山の有力者と結婚、うん、これ良いわね。考えとこう…はたてどうかした?」
「はあああああ!?」
「な、何そんなに驚いてるの?」
いきなり大声を出したはたてにびっくりした。
「いやあんた結婚って何よ結婚って!何で結婚で仲良くなるのよ!?」
「結婚って仲良くなるためにするでしょ? 日本でもよくある話じゃない、名家に嫁いで家同士の繋がりを作ったりとか」
「それは昔の話! 今は普通に恋して仲良くなって結婚するのよ! あんたみたいなちっちゃい女の子が政略結婚とか考えちゃダメ!」
「私もう500越してるしちっちゃくも無いけど」
「そういう問題じゃないの! とにかく今の世の中女の子は結婚は恋愛でしなさい! 妖怪なんて基本的に何があっても生きていけるんだから!」
「うーん、分かった」
結婚に対する考え方がここだと違うのかしらねー、私一応当主の妹だから見返りがある嫁ぎ先で出来ればある程度自由にさせてくれる所が良いなぐらいにしか考えてなかったんだけど。
恋愛結婚か……考えたことも無いから全然分からないな、するなら大分先になりそう、そもそも私全然外でないからそういう相手が出来るかどうかすら怪しいけど。
でも妖怪の山にそういう考え方が無いなら今はこれ以上考えても仕方ないわね。
「じゃあどうしようかしら」
「守矢神社と仲良くなれば良いんじゃない?あそこなら妖怪の山と直接関係作るより多分簡単よ」
「あ、その手があったか!名馬が欲しければまず騎手を討ち取れみたいな感じね」
「そんな物騒なことわざ作らなくていいから」
「まあでも行くのは面倒だし守矢神社の風祝が紅魔館に遊びに来るの待つわ」
「やる気無さすぎでしょ!」
「急ぎで出す必要ないからね。でも色々分かったわ、ありがとう」
今日は取り敢えずここまでにしてまた今度ゆっくり考えよう。
こうやって内部事情聞けると結構楽しいわね。
「ところで話は代わるんだけど、はたて今度妖怪の山の結婚とか恋愛事情について実体験に即した記事書いてみてくれない?面白そうだから」
「絶対殺されるからやだ!」
【違いの分かる少女達】
「パチュリー、新しい本貸してくれるー?」
紅魔館地下一階、大図書館で私はパチュリーを探していた。
普段パチュリーとは本を貸し借りする仲で、話もそこそこする。
お姉様、美鈴に次いで三番目に私とよく話をする人物かもしれない。
普段はあまり外に出ないからよく話をするといってもあまり話すわけではないのだけど。
いつもなら図書館の中央にあるテーブルに座って本を読んでいる事が多いんだけど、今日はいないみたいね。
奥の部屋で実験でもしてるのかな?
「パチュリーいないのー?」
そのまま奥の部屋まで進んで扉を開けるとパチュリーはいた。
「あ、パチュリーいるんじゃない。返事してよー」
「あら、妹様。こっちで作業してたから気づかなかったわ」
「何してたの?」
「これ、この前買ったから使い方見てたのよ」
「これって、何?」
「コーヒーを淹れる道具よ、名前はペーパードリップって言うらしいわ」
「paper(紙)drip(したたる)、名前だけでなんとなく使い方分かるわね」
「でも淹れ方にコツがいるらしいのよ。最初は少しだけ注いで蒸らして、少し待ってから淹れるのが良いみたい」
「ふーん、そうなんだ。そもそもこの道具どうしたの?」
「この前魔理沙がキッチン壊したでしょう?あの時修復作業を香霖堂の店主と一緒にしている時、空いた時間で勧められたのよ」
「あの男意外と抜け目ないわね」
「実際飲ませて貰ってそこそこ美味しかったし、器具も安く売ってくれるって言ってたから買ってみたわ」
「いくらぐらい?」
「全部合わせてりんご3個分ぐらいじゃないかしら」
「本当にに安いわね!?それ儲け出るの?」
「豆もあの店から買って欲しいっていう条件だから」
「ああ、継続的にお金が入るから最初は安めなのか、本当にうまいやり方ね」
「本で読んだ売り方らしいわ」
「そこを言っちゃう辺りはまだまだね……」
「試しに色々な豆を買ってきてみたんだけど妹様も飲んでみる?」
「おおー良いの?じゃあいただくわ」
本を読むのは一旦中断してパチュリーからコーヒーを飲ませてもらうことにした。
「妹様コーヒーって普段飲まないわよね?」
「うん、私が普段飲むのは紅茶とかワイン、ジュースだからコーヒーは飲まないわ」
「私もこの前までは飲まなかったんだけどコーヒーも悪くはないわよ。
ただ苦味が強いから慣れなければ砂糖とミルク足したほうが良いかもしれないけど」
「飲んでみて決めるわ、紅茶と同じで豆によって色々な味があるなら最初から他のもの足して飲むのはなんか勿体無いし」
「あら、案外通なのね」
「そりゃあ仮にも貴族だからね」
「じゃあ飲んでみましょうか」
パチュリーが棚から袋を持ってくると開封した。
「あれ、豆っていうからもっとゴロゴロしたの想像してたんだけど、これ粉みたいね」
「豆って言ってもそのまま使うわけじゃないのよ、挽いて粉にしてお湯を入れてコーヒーを作るみたい」
「そうだったんだ」
パチュリーが取り出した豆はマイルドブレンドという名前のコーヒーだった。
「これはどんな豆なの」
「これは所謂コーヒー、という味のコーヒーみたいね。値段も比較的安価だしオーソドックスなコーヒーを楽しみたいならこれで事足りると思うわ。
まずは普通のコーヒーを飲んでみてこれと他の豆を飲み比べてみましょう」
「うん、分かった」
パチュリーは先程の言葉通り少しお湯を入れて蒸らしてからお湯を注ぎ、コーヒーを抽出した。
早速小さめのカップに二人分注いで二人で飲んでみる。
「うん、普通に美味しい普通のコーヒーね」
「結構苦いわね、でも濃い目のお茶とかと同じで朝飲むのに良さそうな飲み物かも」
「妹様いつも不規則な生活してるから朝飲む飲み物って言い方違和感があるんだけど」
「最近は他の妖怪とも合うようになったからそこそこ規則的な生活送るようにはなったのよ、そこそこ」
「そうなのかしら、まあいいわ。取り敢えず次飲んでみましょう」
マイルドブレンドはそれなりの苦味と独特の匂いのするコーヒーだった。
コーヒーは匂いを楽しむ飲み物でもあるというけど、確かに豆から作ってるせいか紅茶と比べても匂いが強い気がする。
これが標準的なコーヒーという事はこれから飲む豆はこれを基準に比較すれば良いのかしら。
「次はこれ、イタリアンエスプレッソ」
「エスプレッソ、なんか聞いたことある気がする」
「うん、結構名前は有名なコーヒーみたいね。
里の喫茶店でも知名度があるから初心者が頼みやすい傾向にあるコーヒーみたい」
「じゃあ飲みやすいコーヒーだったりするの?」
「取り敢えず飲んで確かめてみて」
先ほどの豆が入ったペーパードリップからフィルター(紙)を取り出して捨てると軽くすすいで水を拭いてから新しいフィルターをセットする。
イタリアンエスプレッソの粉を入れるとお湯を注いだ。
「じゃあ飲んでみましょう」
「どれどれ…苦っ!?何これ凄い苦い!」
「……話には聞いてたけどなかなか来る味ね」
「うーんダメ、苦すぎ。パチュリーお湯頂戴」
「はい」
あまりの苦さに耐えられなくなってパチュリーにお湯を貰って口の中をすすいだ。
先程のマイルドブレンドも苦かったけど比べ物にならない。
「エスプレッソってこんなに苦いものなの?」
「苦い、というか濃い事で有名なコーヒーらしいわ。
喫茶店で頼むととても少ない量で出てきてその分とても凝縮された味がするみたい」
「量が少ない上にこんなに苦いなんて初心者泣かせのコーヒーもあったものね」
「慣れてる人は一緒にお湯や氷を頼んで薄めながらじっくり味わったりもするみたいよ。
どちらにせよ最初の内はあまり手出ししない方が良いコーヒーかもしれないわね」
「次飲もう、次。これより苦いのは無いでしょ」
「多分ね」
気を取り直してパチュリーが次に取り出した豆はブラジル、と書かれた豆だった。
「ブラジル?南米産のコーヒー?」
「らしいわ、コーヒーには産地も色々あるみたいでその地域独特のブランドと味があるみたいね」
「コーヒーって一口に言っても色々あるのねー」
先程と同じ手順で注いで飲む。
「苦味は控えめだけど、なんか酸っぱい?」
「うん、ブレンドと比べると苦くはないけどあっちには無い酸味があるわね」
「苦すぎるのも困りものだけど私は酸っぱいのはあんまり好きじゃないかな」
「そう?妹様酸っぱいの苦手だったのね」
「うん、酸っぱい飲み物苦手」
ブラジルコーヒーは苦味が減ったけれどブレンドコーヒーでは感じられなかった酸味のあるコーヒーだった。
説明にはフルーティな味わい、と書いてあったからそういうのが好きなひとには良いのかもしれない。
「次は酸っぱくないのが良いかな」
「じゃあこれ飲んでみましょうか、コロンビアコーヒー」
「コロンビア、ってどこだっけ?」
「ブラジルと同じ南米で、大陸の一番上にある国よ。ブレンドともブラジルとも違う味のコーヒーらしいわ」
「じゃあ飲んでみよう」
手を動かすのが疲れたのか慣れたのかパチュリーは全部浮遊魔法で工程を飛ばした。
「そんな横着して大丈夫?」
「紅茶だっていつもこう淹れてるから大丈夫よ。慣れたら手をいちいち使うの面倒だし良いでしょ」
「まあ私も手を使うと力加減難しいから念動力使ってるけどね」
なにはともあれコロンビアコーヒーが入ったので早速飲んでみた。
「これは……なんとも言えない味ね」
「なんか随分コーヒーっぽくないコーヒーなんだけどパチュリーのせいじゃないわよね?」
「とてもユニークな味のコーヒーっていう謳い文句だったから私のせいじゃないわよ、きっと」
「なるほど、いやでも変わった味だけど、私これ嫌いじゃないかも」
「コーヒーっぽい味じゃないけどね」
コロンビアコーヒーはとてもユニークな味でなんとも形容しがたい独特の風味だった。
パチュリーの言うとおりコーヒーを飲もうと思って飲むと空振ってしまうけど、私は個人的にこの味は好きかもしれない。
「じゃあ最後につい最近入荷したっていう珍しい豆で飲んでみましょうか」
「へえ、そんなの買えたの?」
「めったに手に入らない豆もたまに入荷することがあるみたい。こういう豆は八雲紫頼みで少し値段も高めだけど美味しいらしいわ。
今回はエチオピア<モカ・イルガチェフェ>という豆が入荷していたわ」
「モカ、イルガ…何?」
「モカ・イルガチェフェ、エチオピアっていう国原産の豆らしいわ」
「それ、どこ?」
「アフリカの国らしいけど私も詳しくは知らないわ。それより早く飲んでみましょう。こういう豆は鮮度が命らしいわよ」
「それもそうね」
先ほどの言葉通り慣れてきたのか手早く淹れるパチュリー。
あっという間にイルガなんとかを二人分淹れて一緒に飲んでみた。
「あ、スッキリしてて美味しい」
「うん、高いだけあって美味しいコーヒーね、飲みやすい味だわ」
「苦味は少し薄めだけど薄味じゃなくて、すっとした飲み心地ね。美味しいコーヒーだわ。これはまた飲みたいかも」
「残念ながら高いだけじゃなくて単純にあまり採れない豆らしいからしょっちゅう買えるわけじゃないみたい。貴重な豆のようね」
「うーん残念、店にまだ残ってたら買ってきてくれる?」
「残ってたらね」
この後私と同じように部屋に入り込んできたお姉さまもコーヒーと飲みたがるのだが、彼女はブレンドでも十分苦かったようで牛乳と砂糖をたっぷり入れたカフェオレが一番気に入ったようだった。
それから私達三人はたまに集まってはパチュリーの淹れてくれるコーヒーを飲むようになった。
「お姉さまたまには何も入れずに飲んでみたら?美味しいのに」
「無理よ、あんた達よくそのままそんな苦いの飲めるわね」
「このままの方が香りも楽しめるしお得なのよ、勿論レミィが飲んでるようなカフェオレも美味しいけどね」
「ところでフランドール、何その主観の悪い柄のカップ?」
「私が普通のカップなんて掴んだら割れちゃうじゃない、だからこうしてお姉さま達とコーヒーを飲むために特性のカップを用意したのよ」
「その心意気は買うけど柄は何とかしなさい」
「せっかく頑張って塗装したんだけどなー」
楽しい午後の一時が増えて何より。
てっきり、打ち切りになったのかと思いましたよ、このシリーズ。
【戦闘シミュレーションpart3】の感想
今回は、風神録編ですか。
この作品のフランちゃんは、相変わらずスマートな思考をしますね。
妖怪の山の勢力を危険視するフランちゃん。
だけど、彼女にも一芸に秀でた友人達がいるから、有事の際にはあるいは……。
政略結婚かー。
【違いの分かる少女達】の感想
挿絵付き!! Wow!!
コーヒーの薀蓄話。ふむふむ……。
パチュリー、エスプレッソマシン使わないんだ……。
ナイスなマイカップを自作して愛用するフランちゃん。
レミリアお姉さまよりも大人なのでした。
私も最近、絵を描くようになりましたので、ソッチ方面も楽しみましょう♪
コーヒーの香り良いですね。私も好きです。
やっぱりこのロリっぽくも大人っぽくもない普通(?)の女の子なフランちゃんが最高に可愛いです。これからもいろんな表情が見てみたいですね。
これなら自滅する心配は皆無だね。紅魔館は安泰だね。
でもどこの勢力が相手でも、可愛さじゃフランちゃんが最強だからね。
しかしあんな複雑な組織構造してるところに嫁いじゃったら、何されるかわかったものじゃないから、行って欲しくないな。
それに結婚して名字が変わっちゃったらフランドール•鈴木とかフランドール•佐藤とかになるのはなんか悲しいよ。
酸っぱいコーヒー苦手なんだね。凄く共感できるよ。
豆から挽いて淹れたコーヒーが飲む姿はまさに貴族だね。
仮にこの絵に美麗な彩色がされたとしてより良い物になるかと言うと、必ずしもそうではない。
過不足無くパーツが塗り込められている。表したい物が現わされている。これが重要なのだと思います。
今回は藁半紙かノートに鉛筆書きのようですが、細目のインクペンを使うのも楽しいかも。
(ちなみに自分馴れ合いは嫌いですし世辞も言いません。純粋な感想です)