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『フランドールの華麗なる日常9』 作者: 機玉
【姉妹の日常会話】
「最近どう?」
「特に何も、幻想郷に来てから色々やってきたからそろそろ休んでも良いかなと思って。霊夢も忙しいみたいだしね」
「ああ、新しい奴ら最近ぼこぼこ湧いてるんでしょ?
なんか宗教戦争まがいの事も起きてるみたいだし最近幻想郷も物騒になってきたわよね」
「悪魔としては混沌と無秩序の世になることに不満は無いけど天狗の新聞と漫画が読めなくなるのは多大な損失ね。
行き過ぎそうなようなら口出ししないといけないかも」
「大丈夫でしょ、幻想郷は八雲紫の箱庭なんだから行き過ぎるようなら彼女が許さないわよ」
「まあね、この前紫が久しぶりに少し遊びに来たから聞いてみたけど面白そうだから今は黙って見てるんだって。
うまくいけば新興勢力同士で牽制しあってくれるし別に良いらしいわ」
「八雲紫らしいわね。何事も無く平和なのが一番よ」
「もっぱら紅魔館の平和を乱してるのは貴方じゃない」
「大丈夫よ、行き過ぎないようにはしてるから」
「本当かしら……」
ここは紅魔館の中でも最も重要な部屋、つまりお姉様の部屋だ。
私とお姉さまは咲夜ちゃんが作ってくれたトロピカルフルーツジュースを飲みながら話をしていた。
最近色々起きているので現状を確認する意味と、単純に定期的な顔合わせの意味で私はお姉様と話をしに来ていた。
お姉様は最近マンガの読書にご執心のようで天狗が描いたものや香霖堂が外界から仕入れたものを読んでいる。
仕事はこなしてるから良いんだけど幻想郷に越して来たばかりの頃のやんちゃなお姉様を思うと少し不安になる。
「お姉様最近あまり動かなくなったわよね」
「んーそうね、さっきも言ったように霊夢忙しいみたいだし」
「いや博麗神社に遊びに行かなくなったのは確かにそうだけど昔は霊夢関係なしにあっちこっち遊びに行ってたじゃない?」
「そうかしら?まあ確かに永遠亭の異変解決や飲み会には行ったりしてたわね」
「そうよ、それが最近は中に篭って読書してばかりで……まるで私じゃない!」
「それは遠回しな自虐なのか皮肉なのか判断しかねるわね」
「いやいや純粋に心配してるのよ?」
「大丈夫よ、ちょっと最近張り切って遊ぶより中で本読んでる方が楽しいだけだから」
「それ大丈夫じゃないから」
「良いのよ、最近出てくる奴らどっかと睨み合ってるから私達出る幕無いんだもん。
そのうち混ざれる異変あったら混ざるわよ」
「本当かしらねえ」
紅魔館の影が幻想郷内で薄くなるのは私にとっても不都合なので今後のお姉様の活躍に期待したい。
無理かもしれないけど。
「それより、あんた最近友達増えてきたみたいじゃない」
「ん、あーまあね。物好きな子が地下まで来たり鳥肉捕まえようとしたら地獄の烏だったり色々あったから」
「大切にしなさいよ。あなた友達少なかったんだから」
「そうする」
トロピカルジュースが空になったら次の瞬間にはまた一杯になっていた。
咲夜ちゃんが気を利かせて次を注いでくれたみたいね。
「ありがとう咲夜ちゃん」
返事は無いけど聞こえてると思う。
「そういえば最近メイド妖精ともよく遊んでるわよね」
「それはお姉様もでしょ」
「気軽に遊べるからね」
「私も、万が一殺しても大丈夫だし。この前実験にも付き合ってもらったし」
「あんたがこの前メイド妖精達に字を教えてくれたからだいぶ話しやすくなったのよね」
「そうだったんだ」
「ええ、結構あれ助かったわよ。字を覚えるとやっぱり違うみたいね」
「私もメイドと仲良くなれて楽しかったし珍しく良い事づくめだったわね」
配置整理もしてもらったし仕事の効率も上がったみたい。
素晴らしいわね、自分の才能が恐ろしくなるわ。頑張ったのは咲夜ちゃんだけど。
「メイドで思い出したけど、そういえばこの前名前つけてたサボテンどうなったの?」
「元気よ。吸血鬼にしたばかりの頃と比べると器用になって色々出来るようになったし役にも立ってるわ」
「ふーん、植物が眷属になるものなのね。私も何か育ててみようかな」
「いいんじゃない?ある程度丈夫な植物なら顎の力加減して吸えば眷属に出来ると思うわよ。お姉様なら力加減するのも簡単でしょ」
「そうね、庭にある木とかで試してみようかしら」
「……お姉様、植物でも体液飲み干さないといけないのは同じなのよ。分かってる?」
「え、そうだったの!?じゃあ無理じゃない」
「だから私は少し丈夫で体も小さいサボテンにしたんだってば。眷属にしたらなんか大きくなったけど」
「うーんしょうがないわね、私も美鈴に聞いて選んでもらおうかな」
こうしてまた美鈴はは植木を一つ生贄に捧げる運命となったのであった。ごめんね美鈴。
「さてそろそろ私は戻ろうかな。あ、何か漫画貸してくれる?私も何か読んでみたくなったから」
「良いわよ。でもあんたも天狗の友達いたわよね。頼めば妖怪の山にある漫画持ってきて貰えるんじゃない?」
「そうねー、今度聞いてみるわ。じゃあまたねーお姉様」
「はいはい、またね」
少し暑くなり始めた日の昼下がりの会話。
【宵闇の来訪者】
今日は星が綺麗だったのでメイド妖精を誘って屋上に夜空を見に来た。
周りは酒やら食べ物やらを広げて花より団子を絵に描いたような様相だけど、賑やかなのも楽しいから良いと思う。
「フランドール様ー、空にここに描いてある絵が見えないんですけど?」
「それは星を繋いだらそう見えるんじゃないかなーって昔の人間が考えただけで空にその絵があるわけじゃないのよ。
ほらこことこことここの星の形あの辺りに見えるでしょ?」
「んー……あー見えますね。でもなんでこれがあの絵に見えるんですか?」
「昔の人間はおもちゃも遊び道具もなんにも無かったからそれぐらいしか遊びが無かったのよ」
「人間って可哀想だったんですね」
「そう、可哀想だったの……ってその言い方だと屋上に星見に来た私まで可哀想な奴みたいじゃない!訂正しなさい!」
「きゃー許してー!」
「なになに鬼ごっこですかー?」
「私も混ぜてー」
私も貰った酒が回ってきて妖精達とじゃれあい始めた時、何匹かの妖精が動きを止めた。
「あれ、なんか近づいてるよ?」
「何あれ?」
「フランドール様何かこっちに近づいてますよー」
「え?何も見えないけど?」
「フランドール様そっち反対です」
「どんどん近づいてるよー」
「ちょっとフランドール様逃げてー!」
呑気に構えてると突然視界が暗転した。
なんか生温かいものがぶつかった感触がしてそれから声が上がる、妖怪かしら?
「痛っ!」
「うわっ何も見えない。ちょっと皆私どうなってる?」
「フランドール様が食べられちゃったー!」
「こらーお前フランドール様離せー!」
「フランドール様死んじゃやだー!」
「ちょっとあんた達そんな殺到しないで! 動けないから!逆に危ないから!」
謎の物体に続いて次々と別のものがぶつかってきてもみくちゃの状態になっている。
あとからぶつかってきたのは声からしてメイド妖精だと分かるけどこのまま動いたら彼女達の方が無事では済まない。
「ええーい離れなさい!」
結局弱めの念動力で全員まとめて吹っ飛ばした。
多分痛いけど私が直接引き剥がすより被害は少ないはずだから仕方ない。
「いたた」
「うーフランドール様酷いですよー」
「あのままじゃ私押しつぶされたままだからしょうが無いでしょ。それで、あれ何かしら?」
私達が目を向けた先にはメイド妖精達と一緒に吹き飛ばされた件の謎の物体があった。
それの特徴を一言で言うなら謎の黒い球体で、正直なんなのか全く分からない、さっき声が上がった気がするから生きてはいるのかも知れないけど。
「なんか怖いですよ……」
「まあ得体は知れないけどそこまで強力な妖力は感じないしどうという事は…あ、なんか出てきた」
先程の黒い球体が霧散し、中から頭をさすりながら座り込んでいる金髪の少女が出てきた。
「なるほど、さっきぶつかったのは中にいたあの娘だったのかしらね」
「あれ、もしかしてルーミアちゃん?」
「あ、ルーミアちゃんだー」
「知り合い?」
「森にいる女の子ですよ」
「たまにこっちの方にも遊びに来ます」
「ふーん、さっきの能力興味あるからちょっと捕まえてみようかしら」
座り込んでいるルーミアとやらを念動力で持ち上げるとそのままこっちに引き寄せた。
「わわわ、何?」
「はいじゃあ今日はかいさーん、私はこれからこの娘と話するからあとは各自自由にしてちょうだい」
「「「はーい」」」
「ちょっと助けてー!」
「ルーミアちゃん大丈夫だよフランドール様怖くないから」
「また明日会おうねー」
私のラボに一名様ご招待。
「はいどうもこんばんは。私はフランドール・スカーレット、よろしくねルーミア」
「いきなり連れて来られても困るんだけど……いつ帰してくれるの?」
「あなたお腹すいてない?料理かお菓子なら奢るわよ」
「今日は泊まってっても良いかな!」
「私貴方みたいな素直な子好きよ」
少なくとも食べ物であっさり釣られる程度には単純な妖怪っぽい。
有名な妖怪の名前はある程度把握してるつもりだから野良妖怪かな?
でも妖精の例もあるし調べてみれば何か面白い事があるかも知れない。
「人間食べる?」
「んー…いい、最近全然食べてないから人間食べなくなっちゃった。何でも良いから美味しそうなのちょうだい」
「分かった」
そうか、スペルカードルールが出来てから私みたいにある程度大きさのある勢力には人間が供給されてるけど野良妖怪は食べれなくなっちゃったのかな。
でも人間食べれないなら普段どうしてるんだろう、人間食べてた妖怪がそんな簡単に変わるもんなのかしら?
とりあえず今日の夕飯の残りでも出しながら話聞いてみよう、今夜はシチューだったから一度冷めてるけど温めれば問題なく美味しいはずだ。
サボンドールにキッチンでシチューを温めてから持ってきて貰い、ルーミアに出した。
サボンドール最近は少し複雑な作業も出来るようになってきたので結構助かっている。
「おー美味しい!」
「それは何より、うちのメイドに感謝してあげてちょうだい」
「こんな美味しいもの食べてるなんて羨ましいわ。私なんか外にあるもの食べて生きてるから普段料理なんて食べれない」
「料理覚えれば良いじゃない」
「家がないから面倒なのよね、美味しい料理は好きだけど別に無くても普通に生きていけるし」
「面倒臭がってたら何も出来ないわよ?」
「今何もしなくても大丈夫だからねー、友達さえいれば楽しいからそんな頑張らなくても良いの」
「うーん……まあ言ってることは分からないでも無いわね。そういう考え方もあるのかな」
「たまにあんたみたいにご馳走してくれるのもいるしね、ご馳走様」
「食べるの早いわねー、おかわりいる?」
「くれるならちょうだい!」
「はいはい」
シチューを追加して今度はさっきの黒い球体(?)について聞く事にした。
「そういえばさっき出してた黒くて丸いのはなんだったの」
「あーあれ?夜なのにこの辺りなんか眩しいから暗くしてたのよ。おかげであんたにぶつかっちゃったけど」
「暗くしてたって……あれ何?」
「闇よ、私の闇。あれが無いと私昼間明るすぎて外に出られないわ」
闇、というと周囲を暗くすることが出来る能力、なのかしら?
「ちょっと見せてくれる?」
「良いよー、はい」
私がルーミアに頼んでみると特に何をするでもなく、ルーミアの周囲が黒く染まった。
あまりにも真っ黒なのでそこに何か黒い球体が物理的に出現したようにすら見える。
しかし試しに触ってみても何も無い、本当にただの暗闇のようだ。
「入ってみれば?」
「良いの?」
「そんなふちでうろうろしてても仕方ないでしょ、もう少し大きくしてあげるから」
ルーミアの周囲の闇がさらに広がり私をすっぽり包み込む。
「わー凄い、何も見えないわ」
「そう? これでも加減してるんだけどね、何も見えなくちゃシチュー食べられないし」
「吸血鬼の眼って明かり一つない真っ暗闇の中でも1km先で亀がブレイクダンスを踊ってる様子を観察できるはずなのに何も見えない」
「なんでそんなもの見たの」
「多分あなたの闇はただ光を遮断してるだけじゃなくて相手の視界に干渉するタイプの妖術入ってるのね。こんな事出来る妖怪いたんだ。
他になにか特技あるの?」
「無い。これさえあれば私生きていけるわ。明かりも防げるし人間も驚くし闇だけで大丈夫よ」
「ふーん、さっきも不思議だったんだけど、人間食べなくて大丈夫になるものなの?昔は食べてたんでしょ?」
「うん、食べなくても大丈夫。食べちゃダメだから人間脅かしておしまいにしてたらなんか脅かすだけでこう、食べたみたいになるようになった」
「脅かすだけで満たされる?」
そんな事があるのかしら……いや、確か西洋のサキュバスもそんな感じだった気がする。あちらは他人の夢に入り込んで悪夢を見せて恐怖を食ったり淫夢を見せて好意を食ったりする妖怪だけど、心を喰う妖怪は確かにいる。
ルーミアが人を喰う妖怪から心を喰う妖怪に変化しているのならそういう事もあるのかも知れないわね。
「周囲の環境の変化に合わせて妖怪もそれに適応出来るという事かしら。
いや、或いは妖怪を作り出すのは人間だから人間の妖怪に対する見方が何か変わっている可能性もあるわね。何れにせよ妖怪の生態は変わる可能性がある、か」
「フランドールフランドール、おかわり」
「はいはい、あんたよく食べるわねー」
ルーミアにおかわりを出してやりながらルーミアの変化を確かめる方法を考えた。
妖怪は妖獣等以外は基本的に概念的な存在なので中身を開いて見てもこういうのは分からない、まあ分かるとしてもメイドと仲の良いルーミアにそんな酷い事するわけにもいかないけど。
となると、妖怪が餌を食べた時に体に現れる何か具体的な変化を定義付けてそれがルーミアに出るかどうかを見るのが良いかな。
「うーん妖怪が餌を食べた時に起きる身体の変化……いやあんたは悪いけど参考にならないと思うわ」
目の前でサボンドールが自己主張を始めたけど流石にコイツはルーミアと違いすぎる。
「美鈴かな、うん、美鈴に聞いてみよう。多分あの娘ならこういうの分かるでしょ。ちょっと呼んでこよう。
ルーミア、食べてていいからここで大人しくしててくれる?」
「ふぃふぃふぁほー(いいわよー)」
「行儀悪いからそういう時は飲み込んでから話しなさい」
この時間なら多分美鈴起きてるわよね。
美鈴は中庭で運動していた。
多分花の世話をした後そのままついでに運動することにしたとかそんな感じね。
「美鈴ー、今手空いてる?」
「妹様ですか、ええ別に構いませんよ。なんですか?」
「ちょっと手伝って欲しい事があるから私の部屋まで来て欲しいんだけど」
「分かりました、ちょっと顔洗ってから行きますね」
「お願いね」
私が部屋に戻ってから5分ほどでタオルで頭を拭きながら美鈴が現れた。
「お待たせしました、それでどのような御用でしょうか……って妹様その娘ルーミアちゃんじゃないですか!?メイド達が悲しむから変な事しないで下さいよ!!」
「大丈夫よ、変な事はしないから」
美鈴はルーミアを目にした瞬間凄い速度で私と彼女の間に割り込んだ。
やっぱりメイド達と結構仲良いんだ。まあそれは置いておいて本題入ろう。
「美鈴、人間を喰う妖怪が人間を食べる時って何か変化ある?」
「妖怪が人間を食べる時、ですか?それは妹様御自身も人間を食べますし御存知なのでは?」
「うーん、私が食べてるのは加工済だし自分だとそういう変化とか分からないから美鈴に聞いてみたんだけど、分からないかしら?」
「いえ、私が知る限りで良ければ一応変化はありますよ。昔は他の妖怪と一緒に人間食べてましたからね。
まず黒目が猫みたいに大きく開いて周りがよく見えるようになります。
あと妖力が貯められてすぐ動ける状態になって感覚が鋭敏になって周囲の様子が分かりやすくなりますね。分かりやすい変化はこれぐらいかしら」
「ふーん、つまり警戒する状態になるのかしら」
「ええ、食べてる人間から反撃を食らうかも知れませんし別の人間から襲われる可能性もありますからね。食事中は特に油断出来ないんです」
「なるほど、そういう事ね」
ましてや脅かして心を食うなら余計に油断出来なさそうね。でもこれだと本当に食べてるかどうかは分かりづらそうな気がする。もっと明らかな変化は無いのかしら。
「美鈴それだと周り警戒してるだけでも似たような変化出そうだけど何か別の変化は無いのかしら?」
「うーん難しいですね、そもそもどういった理由でその変化を知りたいのでしょうか?」
「いや、ルーミアが人間食べなくなって最近は脅かせばお腹が膨れるようになったって言うから、人間食べた時との様子を比較して心食べた時どんな感じなのか見てみたいと思ったんだけど」
「そういう事ですか、流石にそこまで厳密な違いとなると私も分からないですね」
「そうよね、そんな違い分かっても役に立ちそうにないものね」
「人間なら命の危険があるかどうか分かって便利かも知れないけどね」
まだシチューをもぐもぐ食べているルーミアを尻目に美鈴と二人で悩む。
人間、心を喰われても死にはしない、か。
「実際に見るのが一番かも知れないわね」
「襲わせる、という事ですか?」
「うん、心を喰うだけなら命の危険は無いはずだから襲わせても問題無いんじゃないかな。
ルーミア貴方人間脅かすだけで本当に食べなくてもお腹膨れるのよね?」
「うん、そうよ。食べちゃいけないし」
「ほら、大丈夫」
「それなら良いかもしれませんけど、誰を」
「近くにいる人間となると限られてくるわよね」
翌日、私達は紅魔館の廊下の一角に身を潜めていた。
本来紅魔館の廊下は弾幕戦を気兼ねなく出来るようにとても広くしてあるので身を隠す場所など無いのだけど、今は私が錬金術で壁にくぼみを作ったので普通に隠れることが出来ている。
そして私達の視線の先には紅魔館のメイドがいた。あのメイドは先日大量に雇われたメイド人間のうちの1人だ。
「(フランドール様やっぱりマズイですよ!紅魔館の同胞を意図的に襲わせるなんて!)」
「(大丈夫よ昨日も言ったように直接害は無いんだから。
それに仮にも紅魔館に就職するような人間なんだからこれぐらいは大丈夫でしょ)」
「(そういう問題ではなくてフランドール様が部下を襲っているという事が問題なのです!我々はフランドール様の事を存じておりますが新しく入った者達は殆ど知らないのですから仮にバレたらフランドール様の紅魔館内での立場が危うくなります!最悪内部での対立を誘発しかねません!)」
「(バレなければオッケー!)」
「(フランドール様ではバレる可能性があるから止めてるんです!!)」
「(しーっ!なら後で私が襲われた娘に心のケアをする為の休暇とボーナス出るように手を回しとくから。咲夜ちゃん名義で)」
「(何の解決にもなってませんよ!それならフランドール様の事がバレたらマズイままです!)」
「(じゃあ私から金一封出すわよ。これなら『あ、誰か知らないけど偉そうな人がお金くれた!この前は襲われたりしたけど私の人生捨てた物じゃないわね、この人良い人!』ってなるでしょ?)」
「(なりません!!フランドール様そもそも金一封と称して金塊ポストに放り込むじゃないですか!怪しまれるだけでなお悪いですよ!!!)」
「(しーっ!!分かった分かった後でちゃんとアフターケアは考えるから!ほら今は目の前の事に集中する!)」
「(あーもー!)」
美鈴はまだ何か言いたそうだったがなんとか抑えてメイドに目を移した。
広い廊下を巨大なモップで掃除しているところみたいね。
「よし、ルーミア行ってきて。怪我はさせないようにね」
「分かった」
今回の実験はシンプル、ルーミアがメイド人間を襲って変化を見るというものだ。これで何か分かりやすい変化が無かったら一旦諦めるしか無いわね。
そして私の指示を受けて闇を纏ったルーミアがふわふわ飛んでメイドの前に降り立つ。
「ばあー!!」
「あ、ルーミアちゃんこんにちは。どうしたの?昼間から遊びに来るなんて珍しいわね」
「ちょっと捕まってたの」
「?そう。あ、朝ごはん残ってるんだけど良かったら食べる?」
「今はお腹いっぱいだから良いわ。じゃあね」
「またねー」
「(……)」「(……)」
微妙な顔でこちらを見てくる美鈴と思わず顔を見合わせてしまった。
「ダメだったわね」
「ルーミアちゃん想像以上にメイドと仲良くなってるみたいですね、驚きました」
あの後も何人かのメイドをルーミアに脅かさせたが全員ルーミアを知っていたようで誰も驚かなかった。
これはちょっと想定外ね、作戦を考え直さないといけない。
「フランドール様もう諦めましょう、やっぱり良く無いですよ。この館の住民はルーミアちゃんじゃ驚かないんだからしょうがないじゃないですか」
「悪いけど美鈴、私一度気になった事は確かめる手段がある限り諦めないの。ルーミアが自力で脅かせないなら手伝ってあげれば良いのよ」
多少強引になるけどこの際仕方ない、TAKE2いってみよう。
「(よしルーミア、今度はこれを着て脅かしなさい)」
「(何これ?)」
「(名付けて巨大毛虫妖怪スーツ!微細な毛が隙間なく大量に生えた真っ黒な着ぐるみ、これを着てのしのしのたうてば大抵の女の子はあまりの気味悪さに脱兎のごとく逃げ出すはずよ!)」
「(おー!)」
「(フランドール様なんでこんな物用意してあるんですか……)」
「(いや本当は正体がバレないようにハロウィンパーティに参加する為に作ったんだけどお姉様が全力で止めるからお蔵入りしてたのよ。やっぱり私力の加減出来ないから危ないわよね、仕方ないわね)」
「(危険なのはフランドール様の発想の方ですよ!!)」
「(まあその辺りは今は置いておきましょう。ルーミアちゃんと着れた?)」
「(入ったわ)」
「(うっわ、これ酷……)」
その見た目は肝が座っている美鈴でも顔を引き攣らせて身を引く程だったみたい。
これならいける、絶対いける。
「(よしルーミアGO!)」
「(行ってきます)」
昨日とは別の場所からメイドを狙って襲撃させた。
今日は何人かのメイドがまとまって廊下の掃除をしているところみたいだ。
そこに着ぐるみを着たルーミアが這いよった瞬間、凄まじい悲鳴が上がった。
「きゃぁぁあああああああ!!何アレ!?」
「えっ?いやああああああああああ!!」
「こっち来ないでええええええええ!!」
すごい反応である。
さらに悲鳴を聞きつけた別のメイドまで集まってきて悲鳴を上げるというループに陥り始めていたので流石に止めないと不味くなってきた。
「(あーちょっとこれヤバイわね、美鈴悪いけどこの場を収めに…美鈴?)」
「(…フランドール様、ルーミアちゃんの様子がおかしいです)」
「(なんですって?)」
美鈴に言われてルーミアの方を見ると着ぐるみを着たルーミアから闇が漏れだしていた。
闇を発生させると毛虫スーツが見えなくなる、というかルーミアだとバレるので出さないように言っておいたんだけど……美鈴の言った通り様子がおかしい、闇の出し方がそもそも今まで見たものとは違う。
今までは球形に闇を展開していたのに対して煙のように闇が立ち昇るように発生している、その闇が廊下に広がっているのでこれは何かヤバイかもしれない。
「美鈴ちょっとあそこで動けなくなってる娘達動かして、急いだ方が良いかも」
「了解しました」
私と美鈴が示し合わせて影から飛び出した瞬間、闇がメイド達に向かって急速に速度を上げて伸び始めた。
私が慌てて先回りして杖を使って闇を薙ぎ払うと一旦霧散するが、また新たに湧き出し始める。
「美鈴急いで離れて!」
「こっちは大丈夫です!」
「流石!」
近くに誰もメイド達が離れたのを確認して結界で廊下に壁を作る。
これであの子達は大丈夫なはず。
次々に伸びてくる闇を杖で払うけどこれではキリがない。
私は試しに分身を作ってルーミア本体に接触させてみた。
すると最初は闇ともみ合っていたけれども徐々に分身の魔力が吸収されて消滅してしまった。
これは骨が折れそうね、どうしようかしら。
とりあえずルーミアの状態を確認しないことにはどうしようもない。
廊下に横たわって動いてないみたいだし少し強引だけど起こしてみよう。
香霖堂特性アーマースーツを身に纏ってルーミアに素早く近づいた私は少し加減してルーミアを杖で突き回した。
普通の人間なら多少身体に欠損を負う勢いだけど妖怪なら大丈夫、なはず。
すごい勢いでルーミアのきぐるみがボロ布になっていくけど気にしていられない。
「ルーミアーお願い目覚してー!この闇止めてー!」
謎の闇がしきりに私の身体に纏わりついて来るが高いお金を払っただけあって全く身体には影響なかった。
あの店主良い仕事してくれたわね。
「ルーミアー!」
「……んん?」
「起きてー!!」
「……んー」
私の声が通じたのか、ルーミアが少し声を上げ始めた。
そして次の瞬間、ルーミアの頭部が一瞬光ったかと思うと一気に闇が収束し、少し身体が大きくなったルーミアが目を擦りながら起き上がった。
短かった金髪がロングヘアーになり、人間で言うなら10歳前後っぽかった外見が15歳ぐらいまで上がったように見えるが、それは後に置いておこう
「うーん……フランドール?なんかちっちゃくなった?」
「あなたが大きくなったのよ、何事も無さそうで何よりだわ」
美鈴の方を見てみるとちやんと全員を気功で眠らせた所だった、本当に優秀な門番ね。
結界を解除すると美鈴はこちらに歩いてきた。
「なんとか収まったみたいですね」
「ええ、ちょっと騒ぎになっちゃったし私はルーミア連れて部屋に戻ってるわ。美鈴あの娘達の事頼んで良い?」
「多少骨が折れそうですがしょうが無いですね…分かりました」
「ありがとう」
「じゃあ行きましょうルーミア」
「分かった、美鈴またね」
「ルーミアちゃんお疲れ様でした」
さて、誰かに見つかる前に引き上げよう。
ルーミアについて色々考えるのはそれからね。
「ルーミア、身体に何かおかしなところは無い」
「まず髪が伸びてて、あとお腹がタポタポする。食べ過ぎた時みたいに」
「食べ過ぎ、あの時短時間に色んな人間脅かし過ぎたせいで一気にお腹が満たされすぎたのかも知れないわね。
髪が伸びたり体が大きくなったのもそのせいかも」
「ふーん」
となるとあの闇も急成長が原因で少し妖力が暴走したのが原因なのかしら?
「ルーミアあの闇が暴走してた時意識あった?」
「いや、少し意識飛んでた。最初はお腹が苦しくて倒れたんだけどそのまま眠っちゃって。
次に目を覚ましたら少し楽になってたから」
「じゃあその間何があったのかは分からないのね?」
「うん、何かあったの?」
「いや、気にしないで」
「?」
あの間ルーミアの意識が無かったっていう事はあの闇はルーミアの意思とは関係なく動いてたっていう事かしら。
つまりあの闇は独立した意思を持っているのか、或いはルーミア自身が意識を失っていても本能で動くことが出来るのか……
どちらでも不思議じゃないわね、前者には冥界の庭師魂魄妖夢の半霊みたいな例があるし、後者に関しても妖獣等は危機的状況下で理性よりも本能で周囲に襲いかかる例がある。
この辺りは分からないけどとにかく闇があの時ルーミアの制御下を離れていたのは確かのようね。
だからルーミアが意識を取り戻した時に、闇はまたルーミアの制御下に戻って霧散した、って感じかな?
あの闇に関して分かるのは今の所これぐらいかな。
さて、次に気になるのはあの光か。
「これかな…?」
「私の頭がどうかした?」
「このリボンがさっき光った気がしたのよね」
「リボン?御札の事?」
「御札?…あ、これ本当だ!よく見ると御札!すごーい、こんな髪飾りあるんだ。これどうしたの?」
「誰かに貰った気がするけど、だいぶ前だから覚えてない。この御札ビリビリして私触れないし」
「そっかー、残念ね」
なるほど、御札か。
ルーミアが覚えてないから詳しくは分からないけど何か術式が施してあるのかもしれない。
というか施してあるからルーミアは触れないんでしょうね。
「ちょっと見せて」
「良いよ」
ルーミアの許可を得て座ったルーミアの頭の御札を手にとって見てみる。
とりあえ私が触る分には問題ないようだ。
ざっと見ただけでもかなり細かく字が書き込まれている、しかも昔の日本の字っぽくて私にはちんぷんかんぷんだ。
うーん、これじゃあどんな御札なのかは分かりそうにないわね。
これは他に分かりそうな者に協力してもらうしか無いかもしれない。
「こういう時はやっぱり霊夢かなあ」
「霊夢がどうかした?」
「うん、ちょっとルーミアこのままだと何かあったら危険かもしれないから、霊夢呼んで詳しく調べてもらった方が良いかもしれない」
「霊夢呼んだりしたら退治されるんじゃない?」
「多分こういう時は大丈夫よ、一応友達だし」
御札の内容や大きくなった体も気になるけどあの様子だと偶然ルーミアが色んな人間をおどかしてしまって今日よりさらに危険な事態になるという事もあるかもしれない。
何か対策があれば講じておいたほうが良いかも、ここまで関わったら放置するのも気が引ける。
「取り敢えず今日はもう寝ましょう、私ちょっと疲れちゃった」
「私もー」
その日は取り敢えずシャワーを浴びて二人で寝た。明日にでも霊夢を呼んで話を聞いてみよう。
ルーミアは体丈夫そうだったので一緒のベッドで寝たけど逆に私が大きくなったルーミアにぐいぐい抱き寄せられて寝苦しかった。
面倒臭がらずに別のベッド用意した方が良かったかも知れない……
どうも皆さんこんにちは。
今回はレミリアとフランドールの何気ない会話とルーミアとフランドールの話の二本立てでお送りしました。
2つ目の話は次の話に続く予定です。二次創作でよくネタにされる御札リボンの秘密について触れます。
まあこの話ではあまり大した秘密にはならないかも知れませんが、期待せずにお待ちいただければ幸いです。
それでは皆さん今回も読んでいただきありがとうございました。次回もよろしくお願いします。
6月1日
皆さん感想ありがとうございました
>>NutsIn先任曹長さん
レミリアは果たしてどんなペットを手に入れるのか、そもそも本当にペットを作るのか…そこも含めて未定ですがどうなるのかお待ちください。
ルーミアについても詳細は次回という事になりますが、あまりシリアスな感じにはならないかも知れません。
今回も詳しく読み込んでいただきありがとうございました。
>>2
ありがとうございます、霊夢はそういえば初めて出しますね。
普段あまり書かないキャラですが頑張ろうと思います。
妖怪の生態についてはまさに小傘の例から思いついたネタですね。
この件についても今後設定が発展するかも知れません。
>>木質さん
今回は過去の設定をたくさん拾ってみました。
忘れずに覚えていただいてありがたいです、今後共よろしくお願いします。
機玉
http://beakerinsect.blog136.fc2.com/
作品情報
作品集:
31
投稿日時:
2013/05/19 07:25:37
更新日時:
2013/07/15 02:30:54
分類
フランドール・スカーレット
レミリア・スカーレット
ルーミア
メイド妖精
紅美鈴
短編連作
6月1日コメント返信
【姉妹の日常会話】の感想
最近はケツで椅子を磨くのに忙しいレミリアであった。
レミリアも植物の超獣、もとい眷族を作るフラグが立ちましたか……。
【宵闇の来訪者】の感想
紅魔館の人気者、ルーミアの話ですか。
急激な『栄養』吸収によりExの片鱗を見せたルーミア。
完全武装のフランちゃんだから何とか止められたけど……。
次回、彼女の封印についての薀蓄が聞けるのかな?
では、次回――続編を楽しみにしています。
幻想郷のルール的に妖怪の生存方法が変化していても不思議では無いですね。ルーミアちゃんしかり、小傘ちゃんはその先駆けだったんや…。
このシリーズで霊夢ちゃんが出てくるのは初めてなので次回作が楽しみですね。応援してます。
過去のキャラ、アイテムが活躍するのを見るとワクワクが止まりません。
今後のフランちゃんの動向が気になりまくりです。