働くってのはだるいよね。でも義務だもんね。仕方ないね

「あぁ……なんて心地のいい時間だろう……」

毎日毎日厳しい訓練の日

前より火器の分結が増え、また覚えなきゃいけない

定期的に行われる試験と検定

それに合格するために必死に教本を読み、内容を頭に叩き込む

落ちないために馬鹿みたいに体力練成をする

「ずっとこの空間にいたい……」

休日には必ず外出し、こうしてネットカフェでパソコンの画面をぼんやりと見つめている

そして、この狭苦しい個室がとても安らぐ

金を払えば本もパソコン、設備も使いたい放題だ

リクライニングチェアに体を預け、足はだらんと足置きに乗せている

ネクタイは緩め、シャツはいくつかボタンを外している

上着は床に放っぽり置いている

傍から見れば私はだらしない格好をしているけど、ここは私だけの空間だ

出入り口のドアは鍵がかけられ、覗けるような空間がない密室だ

だらだらとマウスを動かしてはクリック

動画サイトと開いては、ぼんやりと動画や音楽を聴く

掲示板を覘いては、めぼしい掲示板にテキストを適当に打ち込んで書き込む

「………家に帰りたいなぁ」

今思えば、なんで私は軍なんか入ったんだろう？

下劣な侵略者を祖国＜月＞から守るため？

国家の防人という名誉ある職だから？

入隊した時はぴょんぴょんと跳ねて喜んだけどね

でも、そんな崇高な気持ちは、もう薄れてなくなっているわ

まさかこんな所＜月面軍＞がこんなキツイ所だったなんてね

重い装備して行軍したり、銃を持った姿勢で走ったり

火器の部品と分解結合の動作を丸暗記

依姫様による訓話の座学……

あれ、長いうえ面倒くさいのよねぇ

訓話を聞くたびに所見文を一生懸命考えて書かなきゃいけないのも

あ、そういえば分解図を忘れた子がいたわね

あの子のせいで連帯責任で腕立てする羽目になったのよね

くそが……ッ！

「チッ、ヤなこと思い出して気分が悪くなっちゃったわ」

あー、あんまり考えないでおこう

いい時間が台無しになっちゃうし

カチャカチャ……カチャカチャ……カチカチ……

……ホントこいつらは気ままでいいわね

まったく持って羨ましいわぁ

こっちはアホみたいに毎日体力勝負をしてるっていうのに

体力と精神を同時に責められまくってんのよ

でも、こんな事をあいつらに言っても私の気持ちは分からないだろうね

「はぁ……なんで私はいったんだろ−ね……」

ギィギィ……ギィギィ……

なんとなく天井を見上げる

真っ白な天井のパネルが視界に入る

小さいテーブルに置いてあるジュースを飲みながら、しばし思考に耽る

………………辞めたい

うん、辞めよう！辞めるわ！

決めた！もうあんな所に戻って訓練なんかしたくないわ！

あーでも、退職するには依姫様に具申しないといけないわねぇ……

言っても説教させられるわね、きっと……

あー……なんだか自殺したくなってきた……

そうすれば、もうなにもしなくてもいいし、自由だもんね

でも、自殺するにも、どの道苦しんで死ななきゃならないのよね

やだやだ、苦しんで死ぬより寝るように死にたいよう

あ、死ぬ前に色々と片付けとかしなきゃ……面倒くさいわぁ……

今診断したら、私は欝の症状でてるんだろうなー

チラリと左腕につけているデジタル腕時計を見る

「あと数十時間もすれば業務なんだね」

明日も休日だけど、時間経つの早すぎるでしょ……

あーあー……基地に帰りたくないよう……

基地の門をくぐるのが物凄く嫌だ

あんな糞みたいな場所に戻るのが嫌だ

普通に企業に就職すればよかったわ

カチカチ……カチカチ……

「もうなんだか気持ちが分からなくなってきたわね……」

カチカチ、カチカチ……カチャカチャ……

暗い気持ちのまま、彼女はだらだらとパソコンの画面をぼんやりと見る

時間だけは無慈悲に進んでいった