Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『はつこい』 作者: 夕月
むかし、むかしあるところに、てんしのおとこのことオニのおんなのこがいました。
オニのおんなのこは、とってもかわいらしいこで、てんしのおとこのこはひとめぼれしました。
そして、てんしのおとこのこもまた、とってもかわいらしいこで、オニのおんなのこもひとめぼれしました。
――――――――――
ある小さな集落にて。
紅い翼をもつ鬼が襲来したと村中に広まった。
村はたちまち混乱に陥ったが、襲ってきた鬼どもを見た瞬間、村人はあぁなんだ、と笑った。
齢6歳ほどの小さな少女がただてくてくと歩いてきただけだ。鬼といっても大人じゃない。怖がる程じゃない。
村人たちは、愚かにもそう思ったのだった。
屈強な若者が一人、紅い翼の少女の前に立ちふさがった。
『――鬼のガキ、こちとら何匹も鬼や化け物を殺してんだ。痛い目見たくなかったらとっとと失せな』
少女は何も言わない。ただ、下からじぃっと若者の目を見据えていた。
ちろりと小さな舌が口の周りを舐める。
『――聞こえねぇのか、ガキ。とっととかえ――』
ろ、と言えただろうか。彼の言葉は途中で途切れ、彼の首は地面にごろんと転がった。
村人が一瞬遅れてどよめき、なにごとだとあたりを見回す――までもなく、すぐに何が起こったのか理解した。
少女の傍らに控えていたメイドが一人、血まみれのナイフを握っている。
メイドは少女に一礼をすると、すっと後ろに下がった。
首をなくしたマヌケな男は、バランスを崩して少女に倒れこむ。
その身体を抱きかかえ、少女は嬉々としてその傷の断面に牙を突きたてた。
じゅじゅっと吸い上げ、すぐに嫌そうな顔をして吐きだす。お気に召さなかったらしい。
少女の身体の何倍もある巨体を細腕で軽々と後ろへ投げ飛ばし、地面に吸った血液を吐き出す。
口元をぬぐうと少女は人垣をつくっている村人を見つめた。
真っ白になった村人の顔を見ながら、少女は村人たちを指さし、
『とってきて』
――――と。
少女のその号令でメイドの軍勢は村人たちへ向かい、村人ははじかれたように逃げ始めた。
叫び声や怒号や泣き声が響き渡る村。だがそれもほんの数秒のことで、あっという間にその場は静かになった。
メイドたちが村人を一人残らず捕まえたのである。
舌をかみちぎって死ぬ者もいるため、死なないようその口に布もつっこんでおく。少女は生きた血が大好きなのである(さっき若者を殺したのは若者が少女を馬鹿にしたからだ)
少女は地面にキスをしている村人を順繰り見回し、目についた女や子供、男の首筋に噛みついた。味見をしているのだ。
そうして一番味が良かったものだけを持ちかえり、他の者は皆殺しにする。殺すときは全身の血が絞りとれるようにと、足を木の枝にひっかけて逆さづりにし、首の頸動脈をかっさばくのだ。
しぼりとった血はメイドたちの手によって保存食となったり、はたまた少女のディナー・・特に少女の好物の血のソーセージなどにする。
少女はときたま適当な集落を訪れ、食べ物の採集をする。メイドたちに全て任してもいいのだが、そうすると好みの味の血が飲めなかったりソーセージが食べられないので毎回同行するのだ。
少女は、一番豪勢な・・少女にしてみればオンボロだが、そこで一人ごちそうを食べていた。
一番若く、処女の女性の血だ。少女は至福の表情で女性の首に食らいつき、血を啜っていた。
食事の時は一番油断するときだ。だからこそ警戒すべきである。それは野生動物の基本である。
だが、元来強い力と貴族の家に生まれた少女は、少々野性味に欠けていた。
だからだろう。
『………なにしているの?』
彼がそばに居るのに、気付けなかった。それは少女の一生の悔いとなる。
『…え』
『きみにいってるんだよ』
驚いて、少女は首から顔を離して振り返った。
そこには、少女とは色も形も異なった翼をもつ、綺麗な少年がいた。
真っ赤な服と真っ赤な翼、真っ白な服と真っ白な翼、一目見てお互い立場がわかった。
――――一目見てお互いの大切なものを奪った。
―――――
おんなのことおとこのこはとてもなかよくなりました。
ほんとうはいけないことだとしっていたけど、どうしてか、いっしょにいたくてたまりませんでした。
―――――
『あなた、また来たの?』
『きみこそ、来てるじゃない』
二人、もしくは一人と一匹は、廃村と化したあの村でいつも待ち合わせしていた。
お互い明日も来ようと言っているわけではない。ただ、なんとなく行きたくなるのだ。
行って、顔を見て、話して、帰る。
少女は貴族の跡取り娘だ、多少の自由はできるが、少年は違う。
見習いとして勉強している、いわば学徒の少年は、本来なら地上にやってくることもいいこととは言えない。
『だいじょうぶなの?』
『え?なにが?』
『その、おうちのこと、とか・・がっこー?だっけ?それとか・・・』
少年からきいた、少年のいる世界のお話。がっこーやらなんやら。
かじっただけだが、それでも自分とここでこんなことをしていてはいけないことはわかる。
少女は、がっこーは知らないがかていきょーしの先生なら知っている。その先生も、レッスンの途中にいなくなったり、どこかへ行くのをひどくしかっていたのだ。
他の誰かを心配する、なんてことをしたことのない少女は、なんともいえない居心地の悪さを覚えながら問いかけた。
『しんぱいしてくれてるの?』
『ち、ちがうわ!気になっただけだもの!』
少年はなんでもないようなフリをする少女を見て、いたずらっ子のように笑う。
少女には冷静さを気取っているが、少年の内心は大分混乱していた。
心臓がどきどきばくばく暴れていて、ほっぺたが熱くなりそうでしかたない。少女のほうはもうとっくに真っ赤っかだが。
そんな心中が悟られないよう、少年は少女をからかっている。からかうこと自体は楽しくて仕方ない。
からかわれた少女は気付くどころじゃないだろう。
『ぼくならだいじょうぶだよ。きみこそ、だいじょうぶなの?』
『わたし?わたしなら平気よ。お父さまもお母さまも、わたしなんかどうでもいいんだもん』
どこかさみしそうな声で少女は言った。
少女の家は代々続く名門貴族だ。何十代?それとも何百、までいっているのかもしれない。そこまではわからないが。
少女の苗字は下界の事に疎い少年ですら、「あぁあの」と思えたほどだ。なんせしょっちゅう本に出てくる。
そんな家の跡取り娘であるこの少女がこんなところにいてもいいのだろうか。
『どうでもいいって?』
『お父さまもお母さまも、わたしのことあととりだとしか思ってないのよ。いつもいつも……』
大きな、続く家に多々あることだ。オトナたちの”次期当主はこうあるべき”という目。
その条件に満たされていないと、その子供は厳しすぎるほどのしつけを受け、オトナたちの期待通りの次期当主とならざるを得ない。そうして当主となった子供が産む子もまた、同じ教育を受け、同じ道を歩む。
少女は真逆だった。彼女は、次期当主としての条件を兼ねそろえていた。
そろえすぎていたのかもわからない。とにかく、父も母も彼女に「次期として問題ない」という判断を下してほとんどメイドや執事たちに任せっぱなしだ。
少女いわく、最後に両親に会ったのは数年前、レッスンの様子を見に来たときらしい。
それも、ちらりと見ただけで一言もかわすことなく両親は去って行った。
両親の愛情を最も求める時期に愛を受けず、今もまた愛を受けなかった少女はそれに餓えていた。
『さみしいの。お屋敷ではいっつもひとりぼっち。』
たくさんのメイドがいた。執事がいた。美味しいお菓子やご飯に囲まれ、温かいベッドがあった。
欲しいものはなんでもそろった。ぬいぐるみでもおもちゃでも。
「あれがほしい」といえば、彼らは何が何でもそれを持ってきてくれた。
それでも何かが無い。それがなんなのか全く分からない。
欲しいものがわからない。それでは欲しがることもできない。
『ぼくもひとり』
不意に少年がぽつりといった。
『ぼくは、上の兄ちゃんと姉ちゃんよりばかだから、父さんと母さんは兄ちゃん達しかいらないんだ』
少年もまた、少女と同じで愛に飢えていた。
だけど、彼は少女と違って他の愛をもらっていたのだ。
『でも、ぼくにはともだちがいたんだよ。学校のともだちが、いつも一緒だったよ』
友愛、親愛。親から与えられないかわりのように、友人たちはいつも溢れんばかりの愛を彼に注いでいた。それは、彼が友人を愛し、大切にしていたからなのだろう。
『ともだち・・・』
『きみも、ともだち』
『・・・え?』
うらやましげにつぶやいた少女に、少年はにっこり笑った。
『ひとりぼっちがふたりいれば、ふたりはもうひとりぼっちじゃない。さみしくない』
ね?とほほ笑みながら言う少年に、少女は満面の笑みを浮かべた。
『うん!』
―――――――――
オニのおんなのことてんしのおとこのこは、そっくりさんでした。
ぱぱとままがいないひとりぼっち、というところがそっくりだったのです。
てんしのおとこのこはいいました。
≪でもぼく、だいすきなおともだちがいっしょだからさみしくないよ≫
≪ひとりぼっちがふたりいると、もうひとりぼっちじゃないんだよ≫
≪きみも、ぼくのおともだちだよ≫
と。
こうして、ふたりはとってもなかのいいおともだちになったのです。
オニのおんなのこはしあわせでした。
たいせつな、はじめてのおともだちができたからです。
てんしのおとこのこはしあわせでした。
たいせつな、だいすきなおんなのこといっしょにいられるからです。
でも、おとこのこはちょっぴりかなしくおもっていました。
だって、まだなまえをおしえてもらっていないのです――――。
――――――――――
『・・・・でね、わたしね、おじさまとダンスしたの。たのしかったわ』
『ぼくしたことないよー・・。なにをしてもへたっぴだから・・・』
『こんどわたしとやりましょうよ。足ふんづけちゃってもわたしならへいきだもの!』
それからも、二人の交流は続きました。
時間も、日にちも、場所も何も言っていないのに、どちらからかともなくあの場所へ向かうのです。
いつも決まった時間、決まった日、決まった場所。
三時のおやつの時間、月が見える日、あの廃村。
そして、昨日はこんなことしたよ、こないだこんなことしたよ、とお互いの楽しい話を交換していました。
『ぼくこないだ、えらい人が学校にきてたのにいねむりしちゃった』
『わたしもしちゃう。だってお話ながくてつまんないんだもん』
ねー、と顔を寄せ合ってくすくすと笑う。
頭をくっつけて、同じ話で笑いあってるだけなのに、どうしようもなく楽しくなる。
なんでもないことで笑いに笑って笑い転げて、些細なことが面白く楽しく。
(ほかの子とも話したけど、こんなにたのしくはなかった・・・)
(メイドとも話したけど、こんなにたのしくはなかったわ・・・)
どうしてだろう?と少女はこっそり首をかしげながらも、その気持ちに整理がつかないまま楽しい時間を満喫する。ほんの数時間の逢瀬が、日々の鬱憤を晴らしているような気すらした。
少年は、少年だけは、その気持ちに整理がついていた。
楽しい時間ほど早く過ぎるとはよく言ったものだ。数時間が数分に感じてしまうほど、二人の逢瀬はあっという間だった。
『ぼく、もういかなきゃ・・』
『わたしも。ピアノのレッスンがあるの』
腰かけていたイスから立ち上がる。
名残惜しそうにお互いを見つめるが、そうもしていられない。少年はふわりと舞いあがり、空へと飛び立つ。少女はそれをさみしそうに下から見上げた。
腕をぶんぶんとふり、少年が見えなくなるまで空を見ていた。
『それじゃあね!!』
―――――――――――――
オニのおんなのこも、てんしのおとこのこも、わかっていました。
ずっといっしょにはいられない、と。じぶんたちはちがうと。
そして、ふたりはかんがえました。
≪どうすればいっしょにいられるかしら≫
≪どうすればいっしょにいられるかなあ≫
――――――――――――――
わかっている。わかっているのだ。これでも少女も少年も教育を受けている身だ。
相手が”天使/悪魔”であるということは、相手は自分の天敵である。
倒すべき、憎き相手なのであると。
(いやよ。いっしょにいたいわ)
(いやだ。いっしょにいたいよ)
その気持ちだけではどうにもならない。一緒に居たいから一緒に居させて、なんて言葉が通るわけがない。それならばどうするか?
お互いの立場がいけない。立場のせいで一緒に居られない。
それならばどうするか?
―――――――――――――――
(いいことおもいついたわ!あの子を、わたしのなかまにしちゃえばいいんだわ!)
(いいことおもいついた!あの子を、ぼくのなかまにしちゃえばいいんだ!)
ふたりは、おなじことをおもいつきました。
オニのおんなのこは、てんしのおとこのこをオニにしようと。
てんしのおとこのこは、オニのおんなのことてんしにしようと。
―――――――――――――――
単純明快。仲間にしてしまえばいい。
少女は純血の吸血鬼であるがゆえにある能力を持っていた。
「彼女の血を取り込んだ者を、彼女の眷族にする」という。
ただ、これには問題があった。これは、相手の力が無くなった時にしなくては意味がないのだ。
つまりは身体を傷つけ、身体を弱らせたところに血を取り込ませれば、その身体は吸血鬼と化す。
そうすれば、ずっと一緒に居られる。
―――あぁ、すごい!一緒に、いつも一緒に居られるなんて!!―――
少年もまた、一つの考えに行き当たった。
悪魔とは、元来天使が悪くなった存在だと言う。
「天使がやってはいけないことをしてしまった時、天使は黒く、悪魔になってしまう」と。
このことを、カミサマや学校の教員は「堕天」だの「堕天使」だのと言っていた。(だてんって、ヤキューのあれ?)
そして、その逆もまたあると。
「悪魔を浄化することで、悪魔は再び天使に戻ることができる」と。
難しいことは少年にはわからない。だが、自分が少女を浄化してやれば、いつまでもいっしょにいられる事だけはわかった。
ただ、これには問題があった。浄化できても、カミサマがそれを天使だと認めなくては意味がないのだ。
つまり、カミサマが少年と会えるような日、下界に降りてくれるような日に行い、少女を認めてもらわないといけないのだ。
そんなのらくしょーだよ。
それで、それがおわったら、いつも、いつまでも一緒に居られる。
―――うれしいな、うれしいなあ!大好きなあの子といっしょにいられるって!!―――
―――――――――――――
オニのおんなのこは、だいすきなあのひにだいすきなてんしのおとこのこをなかまにしようとかんがえました。
てんしのおとこのこも、だいすきなあのひにだいすきなオニのおんなのこをなかまにしようとかんがえました。
―――――――クリスマス。
じんぐるべーる、じんぐるべーる、のおんがくがきこえてくるあのひ。
オニのおんなのこは、そのひがだい、だい、だいすきでした。
いろいろなひとがあつまって、いっしょにけーきをたべたり、あそんだりできるからです。
てんしのおとこのこは、そのひがだい、だい、だいすきでした。
みんなでいっしょにニンゲンのいるせかいへいって、じゆうにあそべるからです。
そこには、おとこのこがそんけいする、かみさまもいっしょにきてくれます。
てんしのおとこのこはかんがえました。
(だいすきなクリスマスに、あのこにだいすき!っていおう!)
と。
――――――――――――――――――――
りんりん、しゃんしゃん、たんたんたん♪
『まちにまったクリスマスパーティだわ・・!』
ピアノやら鈴やらタンバリンやら、賑やかな音楽があちこちから聞こえてくる。
少女は自身の屋敷のなかを嬉しそうに一周した。
いつもはそっけない廊下も窓も綺麗な飾りで華やかになっている。
それぞれの部屋からは賑やかな音楽や、おいしそうなごちそうの香り、甘いデザートの香りが漂っていた。
――ちょっとなら食べても、良い、よね―――?
少女が一つの部屋に忍び込み、皿にどっさりと盛られた肉の一切れをつまもうとした時。
『―――お客様がいらっしゃいましたっ!おもてなしをいたします!!』
メイド長の威勢のいい掛け声とそれに応対するメイドたちの返事が聞こえた。
料理を作るメイド、運ぶメイド、盛るメイド、並べるメイド。
食器を磨くメイド、食器をセッティングするメイド。
様々な仕事をしていたメイド達が一斉に玄関へ集合する。
『きたぁ・・・・・・!』
少女も嬉しそうな顔でその後に続く。
『スカーレット家へようこそいらっしゃいましたっ!!お客人様、今宵は我々のお持て成しを存分にご賞味くだされ!!』
メイド長がしとやか、というかいっそ男らしい動きでお辞儀をする。バサッとエプロンやドレスが音を立てた。
他のメイド達もその動きに従い、ようこそ!と言いながら一斉にお辞儀をした。
彼女らの目の前にいるのは、各国の吸血鬼や、鬼の種族だ。
スカーレットの分家の者がほとんどだが、各地を治める者たちも多々いる。
全員が深紅のマントをはおっており、屋敷の紅に見事に溶け込んでいた。
紅い集団が玄関を過ぎ、奥へ入って行くとメイドの半分がそれの後に続く。
少女は紅い集団なぞには目もくれない。彼女が待ちわびているのはその後だ。
『スカーレット家へようこそいらっしゃいましたっ!!大天使、天使学徒の方々!!
今宵は親愛の意としての我々のおもてなしを存分にご賞味下され!!』
あとに続いたのは、純白の集団だった。
そう、これはただのクリスマスパーティではない。天界と魔界の親睦会としての意味も持つ。
毎年恒例のこの行事、名門貴族のスカーレットの家に天使達がやってくるのだ。
彼らは天使らしく純白のマントをはおっており、屋敷の紅と相反した色合いだった。
白い集団が玄関を過ぎ、奥へ入って行くと残りのメイドたちがみんなそれに続く。
少女は白い集団をじっと見つめた。
ちがう、ちがう、あれも、これも、どこだろ、どこ――――?
『・・・きみ!』
集団の中で、一人の少年が少女を呼んだ。
少女が声の出所を目で探していると、突然目の前が真っ白になった。
『ここがきみのおうち?大きいね、ぼくのおうちよりずっと大きい!』
少年が少女に抱きついたのだ。
あまりのことに思わずあっけにとられていると、メイドたちが目の色を変えて駆け寄ってきた。
それに気づき、やめて、という意味で手を突き出した。
メイドたちの動きが一瞬で止まる。引きはがすべきか命令に従うべきかと迷っている気配が体越しに伝わってくる。
まずははなれようと少女が少年を離そうとした時、
『このっ―――クソ餓鬼!!』
一人の天使が少年の髪を掴んで引き上げた。自重がすべて髪にいき、少年の顔が苦痛にゆがむ。
天使とは思えぬ汚い口調、行動にメイドたちが目を見張る。
『ご、ごめ、なさ―――』
『いつも、いつもそうだろうがお前はっ!!』
少年の父親とおぼしき男は、少年の身体を廊下へ叩きつけた。
思わず少女は少年に駆け寄った。
『だい、じょうぶ?』
『あ、ぅう・・・・っ、うん、いつも、ぼくがへまだっていったよね?いつものことだから』
いつも、こんなふうになってるの?
喉元まで出かかった声をとめたのは少年を投げた男だった。
『お嬢様、申し訳ありません。この餓鬼は立場もわきまえないであなた様のお召しものをしわだらけに。
あとできつく、きつく叱ってやりますで。なにとぞご容赦を・・・・・・』
男の顔は先程のいらだった顔から一転、少女に媚を売る下卑た顔になっていた。
きつく叱る。その言葉に少年が一瞬びくりと震える。少女はそれを見逃さなかった。
お互いの心音が分かるほど傍にいるのだ。わからないわけがない。
『・・・いいのよ。わたしも、いつもおしょくじの時におようふくよごすから。
だからこの子はしからないで。わたしがゆるすから』
はいっと男は威勢のいい返事をすると、少年に目だけで行くぞ、と指示した。
『・・・ごめんね、ぼくもういくよ』
『うん・・・』
『おようふく、ごめんね。またあとでね』
『うん・・・』
少年はたちあがり、少女に手を振るとそのまま天使の集団の中にまぎれて行った。
友人らしき同年代の子供と談笑しながら、彼らの姿は大広間へと消えた。
――――――――――――――
オニのおんなのこはまよっていました。ほんとうに、あのこをなかまにしてもいいのかしら、と。
なぜなら、オニのおんなのこはみてしまったのです。
てんしのおとこのこのともだちを。そして、そのこたちとたのしそうにおしゃべりをするおとこのこを。
『もし、わたしのなかまにしちゃったらもうおしゃべりできなくなっちゃうかも・・』
『そんなの、わたしだったらいや・・・。いやだもん』
『おともだちとおしゃべりできないなんて・・・・・・』
それに、おんなのこはちょっぴりくるしいことがありました。
こんなにいっしょにいるのに、まだなまえをおしえてもらっていません―――――
――――――――――――――――
宴もたけなわ、大人達が飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎになって来た頃、少年はこっそりと大広間から抜け出した。
ポケットにあるのは少年のお守りの十字架だ。彼だけでなく、天使は誰もが十字架を持っている。
『十字架を対象物に押し当て、自分の力を流し込む。そうすれば、対象物は浄化される』
教科書にはそう書いてあった。
(これは、あの子にくっつけて、ぼくのちからをこめて・・それから、おわったあとにあの子をかみさまに見せて、みとめてくださいってお願いすれば・・・)
(それから、そのあとに、だいすきっていうんだ・・・)
少年の心に、迷いはなかった。
――――――――――――――――
てんしのおとこのこは、オニのおんなのことちがってまよっていませんでした。
がっこうのせんせいや、ほんにかいてあったから、せいこうするにきまってます。
『こうすれば、だいすきなあのことずっといっしょ』
『いつでもおしゃべりできる』
『あのこもひとりぼっちじゃないもんね』
―――――――――――――――――
『ねぇ、きみ!』
少年は、バルコニーでデザートを食べていた少女を見つけた。
可愛らしいテーブル越しに少女が目を輝かせる。
声をかけようとし、口にものが入っている事に気づき、慌ててその口を手で押さえた。
もぐもぐとケーキを頬張っている口元が緩む。にこーっと笑って手を振った。
少女は口の中のものをのみ込むと、控えていたメイドに何か言った。
メイドははい、と返事をし、会釈をしてその場から去っていく。
『ケーキ、おいしそうだね』
『・・・ごめんね、わたしがほとんどたべちゃった』
『いいの!ぼくもさっきたべたばっかり』
へへっといたずらっ子のように笑い、少年は少女の隣によりそう。
『いす、もってこよっか?』
『だいじょうぶ。いまきみたべてるでしょ。つかれたらぼくじぶんでもってくるから』
そう、と少女は微笑んだ。にっこりと笑った満面の笑みも可愛らしいが、こうした微笑もたまらなく可愛かった。
『きみは、ぼくといっしょにいたい?』
『・・?どうして、そんなこというの?』
『ううん。ぼくね、きょうともだちにいわれたんだ。ずっとともだちでいてくれる?って。すごくうれしかった
だから、おすそー・・わけ?』
『おすそわけ!』
くすくすと少女が笑う。
『あたりまえでしょ!わたしもずっといっしょにいたいわ!』
少年は嬉しそうに笑って、
『ありがと』
といった。
―――――――――――
てんしのおとこのこはオニのおんなのこにいいました。
『きみはぼくといっしょにいたい?』
オニの女の子の答えはすぐでした。
『もちろん!!』
――――――――――――
『・・・ねぇ、きょうはどうしたの?すごくうれしそう』
『えへへ、だいすきなともだちにうれしいこといわれたんだもん!』
―――――――――――――
てんしのおとこのこは、うれしそうに、ポッケからおまもりのじゅうじかをとりだしました。
『なぁに、それ』
ちっちゃなちっちゃなそれは、てんしのおとこのこのてにおさまってしまい、おんなのこにはみえませんでした。
『これね、ぼくのだーいじなおまもり!!』
てんしのおとこのこは、そのじゅうじかをおんなのこのむねにおしつけました。
てんしのしるしのじゅうじかのまーくが、おようふくにあれば、そのひとはてんしとよんでもらえるのです。
――――――――――――――
少年はおもむろにポケットのなかをまさぐり、何かを取り出した。
『・・?それ、なぁに?』
子供の手に収まるほどの大きさのソレは、少女からは見えなかったようだ。
少年の手の中にあるソレはひんやりと冷たい。
『ぼくの、おまもりだよ』
少年はソレを迷うことなく少女の胸元に押し付けた。
――――――――――――――――
『なんだかあついようなきがするよ』
『きのせいだよ』
『ねぇ、どうしてあなたのおまもりがわたしのおようふくにくっついてるの?』
じゅうじかはおんなのこのおようふくにぴったりくっついていました。
『ぼくがてでおしてるからだよ』
『あついよう、それ、はずしてよぉ』
『ごめんね。もうちょびっとだけ』
オニのおんなのこにとって、じゅうじかはだいっきらいなものです。
そんなものがおようふくにくっついてるなんて・・・たいへんなことです。
『こらーっ!いやがることしちゃだめでしょー!』
オニのおんなのこのおてつだいさんが、おこったかおでやってきました。
―――――――――――――――――
『いっ・・・ぅ、ぅあああああああぅうう・・・・・っ!!』
洋服越しに押し当てられた十字架は、少女の身体をじわじわとむしばんでいく。
雪のような肌がまたたくまに青白くなり、額に脂汗が浮かぶ
あまりの激痛に少女は指一本動かす事が出来ず、ひたすら痛みに身もだえた。
『いたいよ、いたいっ・・・!』
『もうちょっとだから・・・。ごめんね、ごめんね、ごめんね・・・・』
少年は少女の苦痛に満ちた表情を見て、自らも痛みを受けているかのような顔をした。
でも、こうしなければいっしょにはいられない。
あともう少し、と、少年が力を込めた瞬間、少女の喉から悲鳴が零れ、
『貴様なにをしている!!!』
なかった。
――――――――――――――――
『ひっく、ひっく・・・。ごめんなさい、もうわるいことしません』
『ほんとうですね』
『ほんと、だから。ゆるしてください』
『おじょうさまがゆるしてるから、わたしはもうおこりません。もうしちゃいけませんよ』
おとこのこは、おてつだいさんにいっぱいしかられました。
いっぱいいっぱいしかられて、おとこのこはいっぱいいっぱいなきました。
『だいじょうぶ?』
オニのおんなのこが、まっかなじゅーすがはいったこっぷをもってきました。
それはおんなのこがつくったとまとじゅーすです。
『おいしいから、のんで。げんきだして』
『ありがとう・・・ひどいことして、ごめんね』
ごくごく、とてんしのおとこのこはじゅーすをのみました。
そのじゅーすこそ、オニのおんなのこのヒミツのおくすりいりのじゅーすなのでした。
『・・うっ』
――――――――――――――――
『待って!!やめて!!』
激痛から解放された少女は怒り狂っているメイド長を止めようと手を伸ばした。
『お下がりくださいお嬢様!!この子供はお嬢様を殺そうとしたのですよ!!』
メイド長は即座にテーブルを叩き折った。上に乗っていた紅茶やらケーキやらが地面に叩きつけられる。
折られたテーブルの脚を掴み、それを横薙ぎにふるって少年の顔を殴り飛ばした。
『うう゛ぁっ・・・!!』
『やめてぇぇぇ!!』
ほっぺたが赤く腫れ上がり、少年の口から血とともに数本の折れた歯が飛びちる。
地面を転がった少年はほっぺたを押さえながら、怯えたようにメイド長を見上げた。
『この・・・天使がっ・・・!お嬢様をよくも・・・っ!』
『だいじょうぶ!わたしだいじょうぶなのよ!!なんともないからおねがいやめて!!』
『大丈夫なわけがないでしょう!!十字架なんておぞましいものを押し付けられて・・!』
メイド長は足を振り上げ少年を蹴りあげた。軽い子供の身体は宙に舞い上がる。
すさまじい勢いで地面にたたきつけられた少年は体を庇う事も出来ないまま、痛みに身悶えた。
『―――死ねぇッ!!』
メイド長は地面に転がった少年の胸に先がいびつに尖ったテーブルの脚を突き刺した。
『やめてええええええ!!!』
――――――――――――――――――――
『わたしのなかまになって・・・。なかまになって・・・』
オニのおんなのこはおとこのこのまえでそういいつづけました。
『きみのなかまにぼく・・・なれない・・・。なれない・・・』
おとこのこは、かなしそうにおんなのこのみつめていました。
『どうしてだめなの・・・・わたしのこときらいなの・・・?』
『きらいじゃないよ・・・でも・・・ぼくみんなとはなればなれはいやなんだ・・・』
おとこのこがばたんとたおれました。おんなのこはあわてておとこのこのそばにいきました。
おんなのこがおもってたとおり。おとこのこにとって、あのおともだちとおしゃべりできないのはいやなのです。
『どうして・・・わたしじゃあだめなの・・・・・・』
『だって、きみぼくになまえおしえてくれていないよ・・・』
びっくりしました。
おんなのこは、おとこのこがおしえてくれないからおしえていなかったのですから。
おなまえは、ほんとうにだいすきでなかよくなったこにしちゃおしえちゃいけませんと、おんなのこはおしえてもらっていました。
おんなのこは、おとこのこがなまえをおしえてくれないのはだいすきじゃないからだとおもっていたのです。
(わたしのこと、きらいなら、わたしもおなまえおしえちゃだめだよ・・
だって、そんなことしたらもっともっときらわれちゃう)
『おしえるよ、おしえるよ!わたし、なまえはね・・・・・・』
――――――――――――――――――――
少年の口から真っ赤な血の塊が吐き出された。ごぼっと彼の口から汚い音が聞こえた。
メイド長は怒りの目で少年を見つめていた。
『この・・・・・・くずめ・・・』
メイド長がさらに罵詈雑言を吐こうとした時。
『どいてえぇぇっ!!』
少女が渾身の力でメイド長を突き飛ばした。
ただの少女の力ならともかく、少女は純潔の吸血鬼だ。
メイド長の身体は真横にふっとばされ、バルコニーのさくを突き破って庭へと落ちて行った。
『おねがい・・・おねがい、しなないで・・・ッ!』
少女は迷わず自身の手首をかみちぎった。思った以上に柔いそこはあっさり破れ、紅い血が溢れだす。
自分の血が流れ出ていくと同時に急速に体が冷えていく。血液は吸血鬼にとって動く動力であり、生命そのものだ。
再生しかけている傷を指で押さえる。
ぶるぶると震える手首を少年の口に近づけ、流れる血を垂らしていく。
ぽた、ぽたと少年の空いた口に流れ込むソレは、少年の唾液や吐いた血と混ざって喉へと消えて行った。
しばらくそうしていると、メイド長が数人のメイドを引き連れてやってきた。
『お、お嬢様!?いけません、こいつはお嬢様を殺そうとした天使で・・・!』
『だまりなさい!!・・・・だまって、きずをなおしてあげて・・』
メイドたちはそれ以上反論できず、しぶしぶと治療道具を取り出した。
胸に刺さったテーブルの足は抜かず、傷の周辺にガーゼを何枚も押し当てていく。
・・・・・・おかしい。おかしいよ。どうしてきずがふさがらないの。
力を失った状態で吸血鬼の血を一滴でも口にすれば、その体は鬼と化すはずだ。
そして鬼となった者は普通のけがなら即座に治る。少年のような大けがも、時間はかかるが治るはずだ。―――鬼になっていれば。
『どうして・・・どうしてっ!?どうして、なおらないの・・・』
大量の血が少年へと注がれている。喉へと消えている、飲んでいる、取り込んでいる。なのになぜ、彼の身体はいまだ天使のままなのか。
『・・・ね、・・・・・きみ・・・・・・』
半開きのままだった少年の口がわずかに動き、かすれた声が聞こえた。
はっとして少年の顔を見ると、その眼はうつろで、もう目の前に少女がいるのを見えているかもあやしい。顔色も、普段よりもっと青白かった。
『なぁに!?どうしたの、なんでもいって!!』
血を注ぐのをやめ、少女は少年の片手を両手で握りしめた。
いつもはぽかぽかと温かかった手は、今は死人のように冷たい。
『ごめ・・・ね・・・・・・』
少年は悲しそうな顔をして、少女の手を軽く握り返した。
『どうして・・・あなたがあやまるの!あやまるのはわたしのほうよ、わたしのメイドがあなたをいっぱいきずつけた・・・!』
握り返した手をより強く、きつく握る。
どこにも行かせやしないと、ずっとここに繋ぎとめるという思いを込めて。
『ぼく・・・・ね・・・きみ、と・・いっしょ・・・いたい・・・て、ね・・・
きみ・・きずつけて・・・らんぼー・・・して・・・いっしょに・・・・』
『わたしも、わたしもいっしょにいたいよ・・・!らんぼうにされてもいいから、いっしょにいたいよぉ!』
少女は手を握ったままぽろぽろ泣き始める。少年のその生を確かめるかのように握った手をほっぺたにくっつけた。
『・・・きみの・・こ、と・・・だいすき・・・だから・・・・・・
なのに・・・・・・いじわる、して・・・・・・』
少女はいやいやをするようにぶんぶんと頭を振った。何を否定したかったのだろう。少年がいなくなるということを否定したのか、いじわる、という言葉を否定したのか。
『わたしも・・・わたしもだいすき!わたしもだいすきだから!!おねがい、いかないで!』
――――――――
オニのおんなのこはようやくきづきました。
おとこのこといっしょにいたり、おとこのこのことをかんがえたりしてるときのあのむずかしいきもち。
はずかしいような、てれくさいような、うれしいような、なんともいえないふしぎなきもち。
『わたし、あなたのことだいすき!!』
――――――――
だから
『ひとりぼっちにしないで・・・!』
怖かった。
初めて味わう恐怖だった。
大切なものをなくす恐怖。再び一人になる恐怖。
甘酸っぱい果物のようなあの日々を、とりあげられてしまう恐怖。
『ひとり・・・じゃないよ・・・・』
少年は青い唇を綻ばせ、小さく微笑んだ。
『おもいで・・・まえ、せんせ・・がいってた・・・
おもい、で・・が・・あれば・・・・・・さみしくないっ・・・て・・・』
思い出があればさみしくない。
思い出があるから一人じゃない。
『・・・でも、もうおしゃべりできないじゃない・・・。もう、あえないじゃない・・・!』
涙声でそう訴えると、少年はちがうよ、と言った。
『せんせぇ・・・こころは、・・・なくならない・・っ・・て・・・
・・・・いっしょ・・・・いる・・・・・・よ・・・』
言葉はもう途切れかけている。声もかすれて聞こえにくい。
『ね・・・・・・きみ・・・おなまえ・・きいてない・・・』
『・・・おなまえ・・?』
≪本当に大切な相手、大好きな友達にだけ、教えなさい≫
少女の、ココロのレッスンをしてくれた先生の言葉が思い浮かぶ。
『・・・れみりあ。・・れみりあ、っていうの・・・・・・』
声は、届いただろうか。
涙でくぐもった声で、そのうえ少年の意識はもうなくなりかけていた。
聞こえてなくてもおかしくない。
『・・・・・・れみりあ』
聞こえてなくてもおかしくない。なら聞こえていてもおかしくない。
―――――届いた。
少女が・・・レミリアが、うなずくのを見届けた少年は、にっこりと嬉しそうに笑った。
それきり。
少年の目は空を見つめたままとまった。
まばたきもしない。
レミリアは声をあげて泣きながら、少年に抱きついた。
冷たいほっぺたに自分のほっぺたをくっつけ、首にすがりつくように泣いた。
幻聴だろうか。幻覚だろうか。
自分の泣き声と、メイドたちや天使たちの声にまじって何かが聞こえた。
≪――だいすき、れみりあ≫
―――――――――――――――――
ふたりはいけないことをしちゃいました。
らんぼうに、あいてをおもいどおりにしたり、ほしいものをとっちゃだめなんです。
ふたりは、そのやくそくをやぶってしまいました。
だから、ばつがくだったのです。
じゅーすをのんだおとこのこは、じゅーすをのみおわるとばたんとたおれて、そのままねむったままのねむりのおうじさまになってしまいました。
おんなのこは、ねむりのおうじさまになったおとこのこのそばにずっといました。
けっきょく、おうじさまはおきませんでしたとさ。
おしまい♪
―――――――――――――――――
ぱたん。
パチュリーは絵本を閉じた。
表紙には、クレヨンでかかれた青い髪、ピンクのドレス、赤い翼の女の子と、
白い服、白い翼の男の子が描かれていた。
「どうだった?」
テーブルの向かいに座る、パチュリーの親友であり屋敷の主である、レミリアは興味津津、と言った顔で問いかけてきた。
「面白かったわよ」
よかった、と笑うレミリアの顔をパチュリーはじっと見つめました。
「ねぇ、レミィ」
「なぁにパチェ」
「あなた、たしか初恋は天使の子どもだったわよね?」
「・・・」
「眷族にしようとして、失敗したのよね?」
「・・・」
「眷族化に失敗した天使は・・・・・・」
「あなたが今思った通りよ、パチェ」
パチュリーは、再び表紙に目を落としました。
タイトルは黒く塗りつぶされて見えない絵本。
突然レミリアが読んでみて、と言ってきた絵本だ。
目の前で薄く笑んでいるレミリアを見て、パチュリーはため息をついた。
「――――――これ、どこまでが本当なのかしらね」
「どこまでだと思う?」
お久しぶりです、夕月です。またもレミリアの作品です。
恋愛モノなんてかいたことないので汚いのはご了承ください。
てんしさまがおんなのこのなかまにならなかったのは・・。
夕月
- 作品情報
- 作品集:
- 31
- 投稿日時:
- 2013/07/31 12:34:52
- 更新日時:
- 2013/08/01 08:46:57
- 分類
- レミリア
- オリキャラ
- パチュリー
それはそれは陳腐なお涙頂戴の悲恋のお話。
二人は真剣に愛し合い、外法を以って恋を成就せんとし――。
その結果、お互いの術が中途半端に打ち消しあって、弱いほうがくたばった、と?
いや――、
オニの血が入った天使の器は、
二人の恋の如く、存在そのものがタブーとなった、
とんでもない化け物になっちまったか――?
オニの血を飲んだ天使はあの後、生きているのか死んでいるのか、はたまた天使のままか、化け物か・・
なんにせよ、幸せな末路は望めそうにありませんね・・