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『アリスの黄金体験〜鎮魂曲〜』 作者: パワフル裸ロボ
アリスが目を覚ますと、そこは自宅ではなかった。見渡す限りの砂漠であり、砂漠らしく太陽光が尋常ではないほど熱く照らしつけてくる。あまりの光景に、一瞬夢がまだ続いているのだと思ったが、尋常ではない暑さに目が覚めると、これが現実であると気付く。
「なによこれ、どういうこと?」
アリスは目覚めたばかりの頭で必死に現状分析を始める。アリスは、昨日は魔理沙と一緒に図書館に行き、パチュリーを交えて魔法の研究の意見交換会をした。案の定魔理沙が途中でついてこられなくなり、図書を漁りに席を立ち、残った二人で日が暮れるまでやりとりをした後、魔理沙と共に図書館から出た。そして魔理沙の自宅前で彼女と別れた後、自分は帰宅し、風呂に浸かって身を清めた後に就寝した。そのはずだ。
昨日の記憶を思い返しても、現状に繋がる情報が一つも上がらない。
「……なんなのよ、もう」
妖精か、魔理沙のいたずらか。とりあえずそう断定してアリスは立ち上がった。周りを見渡すが、地平線の彼方まで黄色い大地が広がるのみである。次に自身を確認するが、いつも傍らに控えている上海人形すら見当たらず、寝間着に着替えていたはずなのにいつもの服装に変わっていた。
また手の込んだいたずらを。そう思ってため息を吐いたとき、ある異変に気が付いた。足首まで何かの感触がある。ふと足元を見ると、足が砂に埋もれていた。
頭に咄嗟に流砂という言葉が浮かび、あわてて飛び上がろうとした。が、魔力の流れを感じられず、飛び立つことができなかった。
「な、なんでっ!?」
体はかなりの速度で砂に沈んでいく。アリスは次に魔力の糸を生成しようとしたが、やはり魔力の流れがなく、指先には何も生まれない。魔法が使えない。そう気付いた瞬間、アリスは一気にパニックに陥った。
「い、嫌ぁ! 誰か、誰か助けて! 魔理沙ぁ!」
砂を掻いて這い出ようとするが、それがかえって体を砂中に沈めていく。かといって動きを止めても、速度こそ落ちるが止まる気配はない。
いよいよ砂が胸元まで迫ってきた。太陽に当てられて熱せられた砂に火傷に近い痛みを覚えるが、そんなことに構っていられるほどアリスの心に余裕はなかった。
「嫌、嫌ぁ、なんでよ、どうしてよ……。誰か助けてよぉ」
身動きも取れず、ただただ砂に沈んでいく体。一センチごとにアリスの心は絶望に塗り潰されていき、恥も外聞もなく泣き始める。
やがて砂が胸まで飲み込んだ時、アリスはとうとう子供のように声を張り上げて泣きだした。泣き声の合間に、親しい友人や魔界の家族達に助けを求める言葉を吐くが、その声が誰かに届くことはなかった。
「ひっ、嫌だ、やだ、やだ、やぁぁ……っ!」
いよいよ、砂が口までおおい隠す。生存本能によりアリスは息を止めるが、頭ではもう助からないと他人事のように理解していた。砂が鼻まで飲み込んだ時、アリスは目も固く閉じた。
暗闇の中、体が沈む感覚がいやにはっきりと伝わってくる。目も砂に沈んだようで、火傷しそうなほど瞼が熱せられている。息を止めてからそれほど経ってはいなかったが、呼吸の限界を感じていた。泣き喚いていたために、想像以上に酸素が不足していた。
やがて頭の頂点まで埋まった頃、アリスの呼吸が限界に達する。空気を求めて開いた口にはしかし、砂が舞い込んでくる。すぐにむせ返り吐き出そうとするが、砂は際限なく潜り込んでくる。
死に物狂いで肺を働かせるが、取り込むのは砂ばかりで一向に空気は入って来ず、やがて激しく体を痙攣させると、アリスの意識は急激に薄れていく。アリスはここで死を認識する。
ああ、死ぬんだ。まるで他人事のようにそう考えると、薄れゆく意識に身を任せた。
アリスが目を覚ますと、そこはいつもの自室ではなかった。
「はぁ、はぁ……夢?」
アリスは自身の身に起きたことが夢であったのかと思った。が、あの死に向かう窒息の苦しさ、入り込んでくる砂のざらつきや味がどうにも夢とは思えなかった。まだ体内に砂があるような気がして、アリスは思わず咳き込み嘔吐した。が、その中には砂の一粒も見当たらない、ただの胃液のみである。
何が起きているのかわからなかったが、アリスはとりあえず現状を確認しようとする。今現在、自分が腰を下ろしているのは、どこまでも続く二本の鉄の線の下に、木の板が無数に延々と張りつけられているものの上であった。
アリスはこの人工物を、知識として知っていた。幻想郷の外で人々が移動手段に用いている電車というものの通り道だ。ならばここにいるのは不味いのではないか、と考えに至った。
そこで、足元から微かに振動が伝わってくるのを感じた。耳を澄ませば、ゴォーっという重たいものを転がす音にタタンタタン、と軽快なリズムが混ざって聞こえてくる。おそらくそれが電車で、かなりのスピードでこちらに向かって来てるのがわかる。
「ま、まずいわ、避けなきゃ!」
そう思い立ち上がろうとしたが、服が何かに引っかかる感じがした。はっとして下を見ると、どういうわけかスカートの裾が線路の下に潜り込んでいる。
「う、うそでしょ!?」
慌てて外しにかかろうとするが、ふと見ると電車が視界に入り、みるみる大きさを増していく。外すのでは時間がないと悟ったアリスは、引きちぎりにかかったが、魔法由来の素材でできた服は丈夫さが売りなのである。今日、アリスは初めて丈夫な服を心から恨んだ。そして、耳をつんざくほどに。電車の走行音が聞こえる。
「い、いやぁぁぁじゅっ」
それに負けじと張り上げられた悲鳴は、無慈悲な鋼鉄の鉄槌に遮られる。
グチャリと自分が潰れる音が、彼女の最期に聞いた音だった。
「っああぁぁぁ!」
アリスが目を覚ますと、そこはいつもの自室ではなかった。
「はぁっ! はぁっ!」
アリスは必死に自身を抱きしめた。体に痛みはなかったが、自身がひき肉になる感覚が、痛みがあったことが頭に残っている。吐き気が彼女を襲い、嘔吐した。
「き、きたねぇな! この、この!」
突然声が聞こえ、慌ててそちらをみると、非常に汚らしい恰好をした男がいた。普段なら見向きもしたくないものだったが、今現状、初めて出会った人物だ。もしかしたら自分の身に降りかかっているこの現象についてなにか知っているかもしれない。そう思い、希望を持ってアリスは立ち上がった。
「あの……?」
そこで、腹部に強い衝撃を感じた。いやな予感がし、ゆっくりと、現実を否定するように下を見た。大きな刃物が、自分の腹に刺さっている。それを握るのは、目の前の男。
「べ、べっぴんさんだと思ってみりゃあいきなり吐きやがる! 病気持ちかクソ! 俺に近づいてくんじゃねぇ!」
そういって、男は刃物を横一文字に引いた。途端に、まるでスープスパゲティの皿をひっくり返したかのようにアリスの内容物があふれ出した。
「う、うあぁぁぁぁ」
激痛に、叫びたかった。しかし、腹部を襲う痛みは声に張りを失くし、絞り出すような小さなものになっていた。やがて胃を駆け上ってくる熱いものに気が付くと、止める間もなくあふれ出した。それは紅い色をしたもので、アリスは遠い目でそれを見ていた。ゆっくりと横向きに、自らの血だまりに倒れこむ。いまだ激痛は止まないが、感じる器官が思考と分断されたのか、壁ひとつ隔てた向こう側で激痛に七転八倒する自分がいるような感覚に見舞われる。徐々に失われていく血と熱に、アリスは自分が死ぬのだと知覚し、意識が闇に沈むまで、激痛に騒ぎ立てる理性を対岸の火事のように感じていた。
「……なん、なのよ……」
アリスが目を覚ますと、そこはいつもの自室ではなかった。
「何なの、一体何なのよぉ」
アリスは様々な歯車やゼンマイが回る機械室のような部屋で、膝を抱えてうずくまった。先程から体験している自分の死に、アリスの心は折れかけていた。当然だ。すべての生物が本能で恐れる死の痛み、苦しみを何度も体験したのだ。通常なら発狂してもおかしくはなかった。
「どうしてこんなことに、一体だれがこんな……」
考える、考えるが、まるで思いつかない。夢と思いたかったが、痛みや苦しみの感覚は本物であり、それに夢ならとっくに覚めているはずだ。
「なんでもいい、いたずらならもうやめて、夢なら覚めてよぉ……」
いたずらなら、やめてくれるなら犯人に感謝してもいい。そう考えるほどにアリスはまいっていた。と、ちょうどそんな時、ボォーン、と腹に響く大きな音が響き、アリスは思わず飛び上がった。見上げると、頭上には時計の文字盤らしきものが見えたので、アリスは現在いる場所の検討を付けることができた。これは、魔界でもみたことがある場所だった。
「時計塔……」
そこでアリスは違和感を感じた。砂漠に電車に時計塔。どれも幻想郷には存在し得ないものだ。これが夢ではないと仮定されるならば、ここは。
「外の世界……?」
そこで、何かに裾を引かれるのを感じ、アリスは後ろを振り返った。瞬間、背筋が凍りつく。それほどまでに必要なのかと思えるほどの数の歯車が、横一列に並びスカートにかみついていた。歯車はゆっくり回転している。
そこでアリスの脳裏に、今までの最期の瞬間が浮かび、ああ次はこれか、と、歯車に咀嚼される無残な姿の自分が笑った。
「いやああああぁぁぁぁぁぁ!! やだああああぁぁぁぁぁ!!」
半狂乱に、死に物狂いでスカートを引く。手に生地が食い込み負荷がかかった爪がはがれるが、そんなアリスをあざ笑うかのようにスカートは歯車に飲み込まれていく。
「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!!」
通常の人間ではありえない妖怪の力で引く。するとどうだろう、そんなアリスにようやく根負けしたのか、スカートは悲痛な悲鳴を上げ、アリスと歯車を遠ざけた。
「あ……」
アリスは、いまのこの幸福感に、思わす笑みを浮かべ、
ガコン。グシャリ。
そのままの表情で固まった。スカートの避けるに任せて下がったアリスは、そのままの勢いで反対側に待ち受けていた、これまた必要性を疑うほどに幅広い歯車の中に片足を突っ込んでいた。アリスは一瞬自らの身に降りかかった不幸を認識できず、泣き笑いの顔で振り返る。
ガコン。グシャリ。
「いっぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
歯車は秒針とかかわりがあるのか、一秒ごとに歯を進める。
「あぎぃぃ、いぎっ、あぎゃ!」
一秒ごとに襲いくる咀嚼の痛みに、断続的に悲鳴を上げる。ふと前方を見てみれば、名残惜しげにスカートの切れ端を噛む歯車の列が、自分の不幸をあざ笑っているかのように見えた。
「おねが、いぎ! 助け、ぎっ! もうゆる、うぎゃ! 許してぇぇえぎぃ!」
必死に抜け出そうと床を掻くが、強靭な力と歯でアリスの咀嚼は進んでいく。恥骨が粉砕された時、まるで獣のような絶叫を上げ、腹部の浸食が始まると歯磨き粉のチューブのように血を口からあふれ出させる。人なら、あるいはショック死できていたかもしれない激痛に、妖怪であるアリスは生まれの不幸を、生まれて初めて呪った。肋骨が飲まれ、心臓や肺が咀嚼された時、行き場を失った血が、顔のありとあらゆる穴から吹きだす。アリスが最後に見たものは、充血と出血で真っ赤に染まった景色だった。
アリスが目を覚ますと、そこはいつもの自室ではなかった。
「……嫌」
あれからさらに数度、死を経験した。胴裂き、焼死、激痛によるショック死、窒息死は二度。
今度はアリスは建設中の、高層ビル頂上の鉄骨の上にいた。
「もうやだぁ……」
なんとなくだが、自分の身に降りかかっている事象を理解した。終わりのない、逃れられぬ死。これがいっそ一度で終わるものならどれだけ幸せなのだろうか、とアリスは思った。ふと、幻想郷にいる、知り合い程度の認識だった不死達を思い出し、彼女らを心から尊敬した。どうしたら、そんなにも平気でいられるのか、と。
ふと、足元を見た。遥か眼下に地面が見える。この高さであれば、妖怪といえども即死は免れない。どうせ死ぬのであれば、逃れられないのであれば。
アリスの出した結論は、即死。痛みも苦しみも、短いほうがいい。
「あ、あは、あははははは……」
力なく笑うと、アリスは頭から落下を始めた。グングン迫る地面に、思わず笑みがこぼれる。
そして、突如吹いた突風が、アリスの体を突き立った細い鉄骨のほうへ運び、何本もの鉄骨に体が突き刺さったことが緩衝材となり、“運悪く”即死を免れた。
「がふ、がぁぁ、なんでよおぉぉぉぉぉ!!」
血の涙を流し、獣の雄たけびを上げる。ならばせめて死期を早めようと動くが、無数の鉄骨に縫い付けられた体はそんなあがきを許さない。
「死なせて! せめて楽に死なせてぇぇぇぇ!」
体から致死量の血が抜け落ちるまで、アリスは懇願し続けた。
アリスが目をさますと
「嫌だ、死なせて、もう死なせて!」
そこはいつもの自室ではなかった。
目の前にはテーブル。上には拳銃。アリスの表情は暗い喜びに満ち溢れた。すぐさますがるように拳銃を手にし、頭に突き付けて撃った。
はたして、拳銃はアリスの望み通り、彼女の脳髄をぶちまけた。ただ、彼女の一番の望みであった安息の時をすぐには与えてはくれなかった。まさに頭が割れる激痛の中、物理的に足りない頭で、何故、と考え続けた。
アリスが目を覚ますと
「……」
そこは
「……は、は」
いつもの
「はははは」
自室ではなかった。
「はーっはははははははははは!!」
さあみなさんご一緒に。せーの
アリス「私のそばに近寄るなああーーッ!」
全然産廃っぽくないのばっかりしか投下していないので、たまには産廃っぽいのを。私的に産廃っぽいものの印象は「理不尽、理由なし、問答無用」が一番に浮かびます。しかし書いてて思うのは、みなさんの頭ン中ぶっ飛びすぎててついていけない(褒め言葉)ってことですね。どうしたらあんなぶっ飛んだ作品をかけるんでしょうみなさん…。
パワフル裸ロボ
作品情報
作品集:
31
投稿日時:
2013/08/04 14:39:06
更新日時:
2013/08/04 23:39:06
このような状況に数回置かれた人は、大抵生きようと努力する。
このような状況に数十回置かれた人は、大抵自分の不幸を嘆く。
このような状況に数百回置かれた人は、すぐに楽になる手段を取る。
このような状況に毎回置かれた人は……、何も考えなくなる。