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『さとこい.mp4』 作者: 通りすがり
さとりは穏やかな寝息を立てるこいしの側で輾転反側した。端正なこいしの顔を見るたびさとりの胸中には奇妙な憂鬱が渦巻いた。
偶然というものが仮にこの世にあるならば、自分がこいしの姉として、最も親しいものとして存在することは何ら重い意味を持っていないのかもしれない。
或いはまた、自分が鼻つまみ者であるさとり妖怪として生まれてきたことも、一切運命の悪意というものの関与しない(さとりは常々運命の神を恨んだ)事象であったのかもしれない。
嫌われ疎まれることに対して全くの憂戚がなかったといえば嘘になる。いったい自分は心の強くない一人の少女だったのだから。
だが慣れというのは恐ろしい物で、いつしか人妖の自分に対する心ない(頭に浮かんだこの言葉はさとりにとって全く皮肉なものだった)罵倒に何の感動も抱かなくなっていた。
さとりは今一度こいしの顔を見た。自分には全く似ていない。似ても似つかない。そんな事実がさとりの心を軽くした。固く握った手を解き放さないよう慎重にこいしに近寄った。
近くで見ると細く頬に生えた産毛や潤った唇の微かな線までもが見えて、さとりはいよいよ有頂天になった。
ああ、私はこの娘の姉だ、最も信頼され愛された者なのだ!
さとりの確信は既にさとりの原則を突き動かすほどに強く大きくなっていた。
覗きこむように顔を近づけ、柔らかな唇を触れ合わせた。こいしの小さな口に舌を侵入させ、初めは躊躇いがちにチロチロと舐めていたが、やがてそれでは飽きたらなくなり段々と大胆にねぶりはじめた。
こいしは少し眉を顰めて苦しげな吐息を漏らしたが、一向に起きる様子を見せず固くさとりの手を握ってくるだけだった。
こいしが自分から舌を絡めてきたように感じたさとりは高揚したが、その動きに何か規則的なものを感じ不意に舌を止めた。
姉への愛を囁く言葉だった。
さとりは唐突に自分の行動を恥ずかしく感じ、口を離した。こいしは相変わらず安楽な寝顔を見せていたが、さとりは涙を流していた。
こいしの温かな手を強く握り直したさとりはくすんだ天井を見ながら再び偶然について思案しはじめた。
- 作品情報
- 作品集:
- 32
- 投稿日時:
- 2014/02/08 15:23:37
- 更新日時:
- 2014/02/09 00:25:40