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『ルーミアが人間に殺される話』 作者: はなかん
それは黄色く燃える太陽が西の空へ沈み始めた頃のこと。
夕闇迫る森の中を、一人の黄色い髪をした妖怪が駆けていた。
妖怪の姿はひどく不格好だ。幼い顔立ちのくせに足は老婆のように重たく、息は苦しげに上がっている。
顔は苦痛に歪んでおり、美しい白い肌には脂汗がにじんでいる。
そして何より彼女は、全体的に細い体つきの中で胸と腹だけがぽっこりと飛び出ていた。
だらしなく垂れた乳房に張り出たお腹。
彼女は走るたびに揺れる腹部のふくらみを苦しげに抑えながら、あちこちに灯るランプの明かりから遠ざかるように逃げていた。
人食い妖怪・ルーミアはその能天気な性格とは到底かけ離れた必死の形相で、重いお腹を抱えて走っていた。
人里の追っ手は二人一組、力ない妖怪の上に身重のこの身では流石に強行突破とはいかない。
ただ人間は暗い所では目が見えない。夕闇迫る今となっては明かりを提げずにはいられないのが幸いした。光を目印に逃げることが出来る。
汗をうざったそうに拭いながら、ルーミアは思わず吐き捨てた。
やはり、あんな事をするんじゃなかったと。
■◆■
事の始まりは満月を六度遡る。その日もルーミアは、夜に出歩く獲物を求めて森をうろうろとしていた。
今のようなまだ仄かに明るい夕刻の頃である。彼女は森を歩く、一人の少年に出会った。
端正な顔をした人間の子供だった。八雲紫が言う「外の人間」かどうかなど、ルーミアにはよく分からない。
ただその子供が人間で、夜の森を出歩いている事だけは理解できた。
故に襲おうとした。首筋に噛り付き、血飛沫を浴びながら肉を削ぎ取り、骨髄を割って啜ろうとした。
しかし彼女は、それより少し前にどこぞの兎の妖怪からとある話を聞いていた。
人間の男を楽に食える、ルーミアら少女の妖怪にだけ許されたたった一つの美味しいやり方を。
彼女はその日、いつも通りのやり方で狩りを行わなかった。
後ろからそっと近づき首筋を食いちぎるのではなく、あえて正面から姿を晒したのである。
少年がなぜ森の中をこんな時間に歩いていたか、今となっては知る由もない。
ただ実際彼はその日その場所を歩いており、そして心に不安を抱えていた。
彼が抱えた夕暮れの森を一人歩くという不安は、幼さゆえの未熟もあいまりルーミアが垂らした餌にいとも容易く食いついた。
少年は森の中、自分と同じところから来たという少女「るみ」と出会う。
不安を分け合うように手を取り合って歩くその時間は、実に半刻となかった。
精通を迎えてなくとも雄は雄。
逢魔が時は人の心を狂わせる。
「るみ」は里から未だ遠く離れた森の木陰で、少年の雄を挑発する。
少年が抱えていた不安は獣性に転じ、少女は容易く服を剥かれた。
食いちぎられそうなほどに激しく乳房を吸われながら、「るみ」は少年の雄に股ぐらを破られる。
家畜のそれと大差ない早さで少年は精を解き放ち、女の中を白く染めた。
あらゆる心の膿みを掃出し、ばたりと少年は倒れ込む。
熱量を身体から出し切ったその姿を見て「るみ」は思う。
なるほど兎の言うとおり、実に柔らかい肉質をしていると。
ルーミアはただの一時も緊張を与えぬよう、一口で首を食いちぎる。
その味は一切の文句のつけようがない素晴らしいものだったが、ただ一つ、入れっぱなしの棒を自身から抜くのに少し難儀した。
■◆■
あの日からというものの、どうにも体の調子が悪い。
吐き気やめまいが頻繁に起こりろくに外も出歩けず、おまけにお腹は見ての通り、日に日に丸みを帯びていく。
成長の兆しもなかった胸は淫らな形に膨らみ始め、文字通り体中が重たく飛ぶことすらすでにままならない。
そして今日の襲撃である。
少年を食らいその味に満たされてからというものの、彼女はあまり人里近辺には近寄らなかった。
なまじいいものを食ってしまったので、しばらく肉の味では満ち足りるまいと考えたのである。
体調の不調も相まって、ここ最近の彼女はずっと山中の洞穴で魚と野草を食べて食いつないでいた。
少年がこと切れる今際の表情さえおぼろげになり始めたころ、そろそろ肉が食いたくなったルーミアは洞穴を出て森に出た。
人里に近づいたという意識はない。日が中天から傾き始めたくらいの時に、あの日の少年と似た服を着た若い男に偶然出会ったのだ。
出会った男はルーミアの姿を──その膨らんだお腹を見ると、腰を抜かしたようにひっくり返りつつも這いずるように逃げ出した。
身体が身体ゆえに、ルーミアはその背を追いかけなかった。
ただ食事の機会を逃したことを残念だったと悔しがり、次に出会った時は後ろから襲おうとぼんやり思ったのみである。
自身の討伐隊が出されたのが、それから一刻もしてからだった。
森を抜けて人里に出そうになり慌てて身をひるがえしたルーミアは、そこで珍しく武器と明かりを手に取って高らかに鬨の声を上げる男たちの姿を捉えた。
その姿は、彼女の古い記憶に覚えがあった。あれは本当に有害な妖怪を、人間が本気を出して始末するときの姿だと。
闇の人食いを殺せ。
その言葉を聞いたとき、ルーミアはさぁーっと顔を青くして慌てて里に背を向けた。
茂みにスカートの裾が引っ掛かりがさりと音が経った。
耳ざとい人間が、それを聞き逃さなかった。
そしてルーミアは重たいお腹を両手で抱え、足場の悪い山道を転がるように逃げ出しのたである。
自身が人間によほど恨まれているという事はなんとなく勘付いた。だが、何故こんなにも恨まれているのかはルーミアにはまるで分からなかった。
人間など、自分はいつも食べている。妖怪は人を食うのが仕事ではなかったのか。夜に出歩いた人間は食ってもいいのではなかったのか。
彼女は知らなかった。
あの夜ルーミアを押し倒し、猿のように乳をしゃぶり腰を振っていた少年は、村で神童と称され将来を期待された誰からも愛される子供であったことを。
少年が自分より小さな身体の少女を組み伏し肉棒の快感に心を蕩かしていた時間が、夕方という人にとっては夜とも昼ともとれる時間であったことを。
雌に種をつけ我が子を孕ませるため野良犬のようにしがみついて女体を離さなかったあの少年が、里の知識人上白沢慧音のために花を摘んだ帰りであったことを。
彼女は無知であった。ゆえに、知る由もなかった。
自身が行った行為の品のなさを。
それゆえに妖怪の賢者・八雲紫、博麗の巫女・博麗霊夢の二人が、この妖怪狩りを肯定していることを。
既に幻想郷に、彼女の居場所はないのだということを。
それを知らないルーミアはただ必死に走り続ける。
行先など決まっていない。ただどこかへ逃げれば、きっと今晩ゆっくり眠れる寝床にたどり着くだろうと信じて。
ほおずきみたいな赤い明かりを避けながら、彼女はやがて森を抜ける。
その先は谷。切り立った崖の下に濁流が流れており、橋のようなものはどこにもない。
人の身であれば絶望もしただろう。が、この身は妖怪。ルーミアは汗を今一度拭いながら、にんまりと目元を歪めた。
妖怪は空を飛べるのである。重たい身体では早く飛ぶことはできないが、崖を渡ることくらいならわけない。
そう思い彼女は両手を広げる。向こう岸に渡ったらどうしようか、そんな事を考えながら両足を地から離そうとした。
彼女は気づくのが少しだけ遅かった。その背後に、あかりも持たず病的に白い肌のやせぎすの女が立っていたことに。
ルーミアが喰らった少年には一人の母がいた。
夫に先立たれ、生活に苦労しながらも、働き者の少年に支えられどうにか日々を立ち行かせてきた母が。
少年の食い散らかされた姿を見て心を喪い、以来妖怪への復讐だけを望んでただ刃を研いできた母が。
今回の討伐隊が出るのと同時に監視の目を抜けて里を脱走し、茂みに身をかくし、闇に息をひそめ、
ただ瞳だけを狂気に爛々と輝かせながらルーミアの姿を捜す幽鬼のような女がいることを、ルーミアは少しも知らなかった。
背骨を裂けた左胸に、銀色の刃が突き通る。
女の刃は違わずルーミアの心の蔵を貫いていた。
「ぅ、あっ……!?」
口から血液が逆流し、ルーミアはむせび倒れ込む。
包丁を引き抜くように引きずり倒された彼女の目に、人とも妖怪ともとれぬ恐ろしい形相の女が映った。
女は奇声を上げながらルーミアの胸を包丁で突く。
豊かな乳房には何度も穴が開き、その度にルーミアは背骨を地面が叩く衝撃に壊れた玩具のような呻きをあげた。
「ぅあっ、やぁっ、ごはっ!」
女は続けざまに、甲高い悲鳴をあげながらルーミアの膨らんだお腹に包丁を突き当てる。
魚の身を三枚に下ろすように肋骨の中心に包丁を突き立てると、がりがりと骨を引っ掻きながら拡張された子宮を縦に裂いた。
「あっがっ!! がはっ、うあ、やめっ……あああああ!!」
鳴き声ともつかぬ声をあげながらルーミアは両目に涙を浮かべて身をよじる。
身をよじればよじるだけ、均等でなくなった乳房から風が沁みて激痛が走る。
悲鳴をあげれば引っ掻かれた肺がこひゅ、こひゅと間抜けな音を立てる。
もはやいかなる行為もルーミアには許されず、ただ彼女は大きく口を開いて犬歯を輝かせながら声にならない悲鳴を上げていた。
女は狂ったように吼えながらその姿を嘲けて嗤う。続けざまに包丁を持ちかえ、今度は愛する息子をたぶらかしたルーミアの顔を削ぎ取ろうとした。
しかし包丁がルーミアの柔肌に触れた瞬間、女の動きがぴたりと止まった。
「……ぅえ、がほっ……?」
痛みに耐えかね言葉にならない声を紡ぎながら、ルーミアは全身のどこを動かしても痛くなる筋肉を働かせてほんの少しだけ女の方を見た。
女は額に脂汗を浮かべ、じっとルーミアのお腹を見ている。
何かを目にしてしまったようだ。女はしばらくの間全身から鏡でも見たようにだらだらと汗を流し、そして顔を苦痛にゆがませた。
ひときわ甲高い声で女は叫ぶ。
それは、今までの狂気から来る叫び声ではない。ルーミアはこれを、恐怖を感じた時の悲鳴なのだと薄ぼんやりする思考のなか考えた。
女は両手を覆うと、包丁を投げ出してルーミアに背を向ける。
一刻も早くこの場を逃げ出したい思いで走り去る。そして絶壁に飛び込み、そのまま声は遠くなってやがて消えた。
一秒の静寂が訪れる。
ルーミアは痛いと形容する事さえ馬鹿らしくなるほどの激痛に身をよじりながら、暗くなる空を見つめていた。
自分は死ぬのだな、とそう思った。
死は怖くなかった。闇の妖怪にとって、永劫の闇は愛すべき友でもある。
心残りもない。というよりも、心残りが出来るような立派な生活などしていない。
生まれて、食べて、そして死んだ。
痛い死に方だったのは残念だが、なってしまったものは仕方がない。
内臓に風がしみてさっきから激痛が走っているが、それも自分が死ぬまでのことである。
ルーミアは痛みによる反射で涙を流しながら、それでも死ぬことを受け入れて目を閉じ眠りについた。
…
……
………
ああ、と声がした。
ルーミアのものともあの女のものとも違う、痛みを感じさせない声だった。
ルーミアはその耳障りな声に目を覚ます。血が抜けきっている倦怠感や神経を引っ掻かれている激痛に苛まれながら、止まりかけの脳みそで音の出どこをを探った。
音は自分のすぐそばからした。
そして眼球をちょっとだけ動かし、自分の横から聞こえるその声の主を見る。
胎児がいた。
あの女に縦に裂かれた腹から出てきた、まだ人の形になっていない未熟な胎児。
目を開ける事すらかなわず、頭ばかりが大きくて体がおまけのようにへばりついている。
胎児はまだ出来上がってない喉を鳴らし、おぎゃあとも言えぬ声でただ一言鳴いたのである。
だくだくと流れる血を浴びて真っ赤に染まった名もなき胎児の姿を見て、ルーミアははっと気が付いた。
あの少年を襲う前、霊夢の賽銭箱におまんじゅうを入れっぱなしだったことを。
今年の冬、チルノと雪山で雪合戦で遊ぶ約束をしていたことを。
たまにご馳走してくれる、ミスティアの鰻の美味しさを。
声なき声で泣こうとする胎児の姿を見て、なぜかルーミアの頭の中にそれまでの思い出が蘇る。
嫌だ、思い出したくないと首を振ろうとするが、それさえできないほど死は差し迫っている。
ルーミアは胎児の姿に思い出してしまった。妖怪である以前に、自身もまた少女として日々を過ごしていたのだと。
そして、その日々をもう一度過ごしてみたいと思ってしまった。
死にたくない、と思ってしまった。
涙を出す事さえ体力を消耗する中、ルーミアの双眸に涙が溢れて止まらなくなる。
もう一度森の中友達と遊びたい。
もう一度魚や木の実の料理の味を知りたい。
もう一度宴会に行きたい。
思えば思うほどルーミアの目から涙が流れ、傷口に染み入ってはじくじくと痛みを増していく。
痛みは死にたくないと思うほど強くなる。耐えがたい苦しみに、ついにルーミアは声をあげて泣き出した。
「うあ、うああああ、うあああん」
泣くことさえままならない身ながら泣く。ルーミアを襲い来る死という孤独は絶大な質量をもってのしかかる。
筋繊維のちぎれる音を聞きながら、ルーミアは腕を動かし未熟な胎児を抱き寄せた。
「ああ、ああああ、あああああん」
血まみれの胎児を抱きしめて、ルーミアの身体は徐々に体温を失っていく。
既に夜は更けて、森は闇に包まれている。
月明かりの下、血だまりの中で胎児を抱いて、ルーミアは苦悶にまみれたまま死んでいった。
はじめまして。
夜の森で血だまりの中胎児を抱いて死ぬルーミアを書きたくて書きました。
カタルシスとか勧善懲悪ざまあみろとかそういうのはあんまり考えてないです。
善も悪もなく、死ぬルーミアが書きたかっただけです。
ルーミアかわいいですよね。大好き。
初投稿なので何かと不作法なところもあるかもしれませんが、温かい目で見ていただければ幸いです。
よろしくお願いします。
はなかん
作品情報
作品集:
32
投稿日時:
2014/12/24 05:08:04
更新日時:
2014/12/24 14:08:04
分類
ルーミア
グロ
次いで、悲しみでした。
死と言うものはなぜかくも残酷で魅力的なのでしょうか
逢魔が時に花を摘んだ少年の罪。
様々な不運が重なり詰んだ少女の罰。
喪った母、生んだ母。
二人の母性が、新たな命を育んだ。