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『ブロッコリースターライト』 作者: 大宇宙の虚無
恋する乙女の魔法には、時に無骨な工具も必要だったりするのです。
愛用のレンチが気持ちよくボキン!と折れてしまったので、魔理沙はホームセンターに新しいレンチを買いに行くことにしました。1年半という長い間お世話になったレンチ(スワロフスキーとキノコの絞り汁でデコレーション済)を失ってしまったのはとても悲しかったのですが、特に流れてもいない涙をぐい、と拭いて、レンチ売り場を探しました。
でも、探せど探せどレンチ売り場は見つかりません。このホームセンターに週4で来ている魔理沙のことですから、見つからないはずはなかったのですが、隅から隅まで探しても、レンチ売り場が無かったのです。まるで最初からレンチ売り場なんて無かったようでした。余談ですが、両替機が34台増えていました。全部新品ぴかぴかです。
おかしいな、と思って店員に声をかけたところ、なんとその店員はパチュリーでした。うっかり競馬でスリまくってしまったので、働いて地道に借金を返しているのでした。
パチュリーは、そもそもレンチという存在を理解していないようでした。使えません、ホームセンターの店員には向いていませんね。イラっとした魔理沙は、パチュリーに軽く5発程腹パンしてからその場を去りました。
魔理沙は困ってしまいました。レンチが無ければ研究を進められません。しかし、幻想郷にホームセンターはこの一軒しかありません。ここにレンチが無いなら、人里の道具屋や質屋を見て回る他ないのですが、もう日が傾いていたので、個人商店を回るのは明日にすることにしました。
なんだか中途半端な気分になった魔理沙は、何を思ったのか福袋を買いました。手ぶらで帰るのも嫌だったのでしょう。
家に帰ると、レンチのことなんてすっかり忘れて、彼女はうきうきしながら福袋を開けました。普通のホッチキス、型落ちの携帯電話の充電器、サイケデリックな柄のグラタン皿、針なしで綴じれるホッチキス、そして「ブロッコリースターライト」とラベルの貼ってある植物栽培キットが入っていました。
ブロッコリースターライトという名前を、魔理沙は初めて知りました。ラベルには簡単な育て方が書いてありました。どうやら食用にできるようです。2日に1回たっぷりと水をあげ、月の光を浴びるとよく育ち、充分に発酵させたBL同人誌を肥料に使う、とのことでした。ラベルの写真には、可愛らしく育ったブロッコリースターライトと思しきものが写っています。この写真に心を奪われ、魔理沙はすっかりこの植物を育てる気になったのでした。(後でわかったことですが、ラベルの写真に写っていたのはカイワレダイコンでした)
次の日から、魔理沙は早速ブロッコリースターライトを育てることにしました。プラスチックの容器に土を入れ、種を蒔き、水をあげると、それだけでなんだか嬉しくなってくるのでした。新しい友達ができたような気分だったのです。
毎日毎日、魔理沙はせっせと水をやったり、話しかけたり、月の光がよく当たる所に置いてあげたりと、ブロッコリースターライトに甲斐甲斐しく世話を焼いてやりました。芽が出た時などは大変な喜びようで、次の日の夕食にお赤飯を炊いた程でした。冷静に考えれば、おかしいくらいブロッコリースターライトにのめり込んでいました。何かおかしな力が働いていたのかもしれません。原因はわかりませんが、とにかく、魔理沙はその植物に夢中になってしまいました。
1ヶ月もすると、魔理沙の中心は完全にブロッコリースターライト中心になってしまいました。月の出と同時に起き、ブロッコリースターライトと夜を過ごし、日の出の頃に眠る生活が続きました。まるでどこぞの吸血鬼のようでした。
さて、その甲斐甲斐しいお世話の結果、ブロッコリースターライトは食べ頃になりました。女性に例えると小学校3年生、ピチピチフレッシュです。しかし、魔理沙は、食べることができませんでした。長い間世話をして、まるで親友のように思っていたからでした。
そんなこんなで数週間が経つと、ブロッコリースターライトに、花の蕾のようなものがつきました。
こうなっては、意地でも花の咲く所を見てみたい、と思うのが人情です。魔理沙はいよいよ寝食を忘れ、ブロッコリースターライトを見つめ続けました。
おおよその人間にとってはたった数日のことでしたが、魔理沙にとっては無限にも思えるような時間が流れました。
魔理沙が仮眠を終え、半分寝ながら蕾を見ていた時でした。突如、蕾から光が漏れ始めたのです。彼女は驚きましたが、まあ、そんな植物もあるのかな、と呑気に思っていました。それよりも大事なのは開花です。いよいよ待ちに待った花が咲くのです。一瞬たりとも見逃すまいと、魔理沙はできるだけまばたきをしないで頑張りました。光は徐々に明るさを増していきます。彼女も根性で目を開け続けました。
そして、蕾が一際強く光ったかと思うと、そこには美しい星が咲いていました。
絶対等級に直せば、1000等星にも満たない小さな小さな星でしたが、星を名前に冠する弾幕を放つ魔理沙には、まごう事なき星だとわかりました。
星にだって、帰巣本能があるのです。生まれたての星は、彼女の目の前で、ゆっくりゆっくり空へと昇っていきました。さよなら、と言うように瞬きを繰り返しながら、千葉県の方向へと向かっていったのです。
ほうけたように立ち尽くしていた魔理沙は、やがて塩の味がすることに気が付きました。そこで初めて、自分が涙を流していたと知りました。雨の日も、風の日も、槍の日も、ずっと一緒にいた相棒との別れだったのですから、無理もありません。彼女はその場に崩れ落ち、わんわん泣き始めました。
三日三晩泣き続けて、少し落ち着いた彼女は、ブロッコリースターライトに水をやっていないのを思い出しました。花はいなくなってしまっても、まだ草の方が残っている。そう思って、水をやりに行くことにしました。
様子を見に行くと、草はまだ元気なようでした。よく見ると種も残っています。これでまたブロッコリースターライトを栽培できるとわかり、彼女はちょっと安心しました。
そのせいなのでしょうか、彼女の頭の中で、小悪魔の囁きがみるみる膨れ上がっていきました。また育てることができるのだから、少しくらい味見してみても構わないのではないか、と。魔理沙は95秒程悩みました。今まで無二の親友のように暮らしてきたそれを食べるなんて、という思いと、親友だからこそ食べてみたいという気持ちが戦って、最終的には後者が勝ちました。
思い立ったら早速、少しだけ葉をちぎり、口に含んでみました。
…………そこから先の記憶が、魔理沙にはありません。気が付くと、彼女は全裸でソファーに寝転んでいました。お気に入りの敷物は愛液でグッショリです。何が起こったのかは、想像に難くありませんでした。
そうです、ブロッコリースターライトには、少々ヤバめの成分が入っていたのでした。
それからというもの、魔理沙はブロッコリースターライトをたくさん育てながら、虚ろな目で今日も楽しく生活しています。
植物を育てられる人が、本当に羨ましいです。
サボテンを放置しすぎて枯らしてしまったことがあるので、僕はもうダメだと思います。
それはそうと、女の子が一番輝いている時期って、小学校中学年ですよね。
大宇宙の虚無
作品情報
作品集:
32
投稿日時:
2015/07/24 14:56:09
更新日時:
2015/07/24 23:56:09
分類
魔理沙
レンチ
パートのパチュリー
植物栽培
6KB程度とは思えない濃厚さでした。
とても面白かったです。