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『旧地獄に連れ帰られた天子さんのとある一日』 作者: 82A6
───地霊殿・書斎
天子は今地底の奥深く、地霊殿の主、古明地さとり公認のもと地霊殿に身を置いていた。
ほぼ無音と言っていい静かな空間で、さとりが定期的にページを捲る音を鳴らし、静かに微笑みを見せたり、ため息を漏らしたり。
天子も同じように本を読んでいた。地獄の沙汰も善行と金次第、さとりにそう教わってから将来地獄に堕ちないようにするために、商売系の知識を身につけようと経営関係の本を手にとっていた。しかし知識にないカタカナ語が濫用されており、半分も理解できない。
───ぎゃああああああああああああああ!
突如、女と思われる強烈な叫び声。天子は肩を竦め、その声がした方を見る。
「な、何?」
扉の向こう側。断続的に、断末魔のような叫び声が何度も何度も響く。
「……こいしだわ」
さとりも扉の方を見ていたが、驚いた様子はない。それどころか『またか』と言いたげだ。
「こいし? ……助けに行かないと!」
本を置いて立ち上がった天子が扉を開けようとすると、
「今の叫び声は人間。また子供を狩ってきたのね」平然とおぞましい事実を伝えるさとり。「……ええ、エントランスで殺してるみたい」天子の疑問にも先回りして答えた。
こいしの趣味は凄惨を極める殺害である。今それが、エントランスで行われているというのだ。
「殺してる、って……今、あそこで?」
「行くわよ。酷い状態になる前に止めないと」
「……もう酷いことになってるんじゃ」
「入り口が地獄絵図になっちゃうわ」
「ここ、地獄でしょ?」
「……ええ、地獄だけど」
苦笑い混ざりに軽くため息を漏らしながら本に栞を挟みつつさとりは立ち上がって、天子を手で招いた。
──廊下の先、エントランス。
首を掴まれ宙釣りになっている人間の少女。白目を剥いて口から血を垂れ流し、伝う下腹部──こいしがもう片方の手で内臓を引きずり出しているところだった。
あまりの状況に、「うわ……」と小さく漏らしつつ顔を顰める天子。
「こいし」
「あ、お姉ちゃん! ただいま!」
さとりの呼びかけに満面の笑顔を返すこいしは既に血塗れ。辺りは肉片や臓物が飛散し、形容しがたい地獄絵図を創っている。
もう、とさとりは前置きして、片手で軽く頭を抱えた。
「おかえりなさい。解体するときは台所っていつも言ってるでしょう?」
そこなのか、と天子は出かかった言葉を噤んだ。
「ごめんなさい、我慢できなくて。でもでも、お姉ちゃん。多分この子10歳行ってないと思うの。きっとおいしいわ」
まだ微かに意識のある少女の心臓を掴んだこいしは、それをグシャリと握り潰した。吹き出した血でこいしの服が赤黒く染まっていく。
さとりはこいしに歩み寄り、ピクリとも動かなくなった身体の状態を確認した。
「……そうねえ、いい肉だわ。柔らかいし」
「コレでハンバーグ作ろうと思うの。いいかしら?」
無邪気に微笑むこいし。それに対して優しく微笑みを返すさとり。
「いいわよ、でもその前にお掃除。バケツと雑巾」
「あはは。そうね、散らかし過ぎちゃったわ」
苦笑いしたこいしはその死体を台所へと運んでいった。
それらを見ていて複雑な心境に陥った天子はぽつりと呟く。
「…………やっぱり、慣れないわ」
「そうよね」とさとりは前置きして、「でも、私達が人間を狩るという行為は、人間が動物を狩るのと何も変わらないわよ。……全く、ここが一番美味しいのに相変わらずね、あの子は」と床に落ちている肝臓を手に取った。
判っている。天子も数百年の人生、数えきれない程動物を食べた。
里では我が物顔で食物連鎖の頂点に立つ人間も、妖怪から見れば言葉が通じる便利な食肉でしかないのも判っている。
天界から追放され、偶然の出会いからさとりに保護され──そして、地底地獄での生活。
当然のように、食事には人肉も並ぶ。抵抗があるものの、さとりとこいしの好意は無下にできない。しかしながら、今まで歩んだ天人の道を外し妖怪と同じ道を歩く。その現実を受け入れきれていなかった。
「貴方の葛藤は尤もだけど……その通りなのよ。人里も妖怪から見ればただの養殖場のようなものだわ。誰もそんなことを口にはしないだろうけれど」
さとりはそう言いつつ手に持っている肝臓を少し千切って口に運び、
「んー……やっぱり若い肝臓は臭みもないし、美味しいわね」おいしそうに頬を綻ばせた。
「……私もそれ、少し食べていい?」
さとりの笑顔を見て、本当に何気なく出た言葉だった。天子は人間の肝臓をまだ食べたことがない。いや、知らずのうちに料理に混ざっていたかもしれないが、生食したことはない。言ってから改めて思う。本当に道を踏み外しているな、と。
「はい、どうぞ」
さとりが肝臓を少し千切って、天子へと差し出した。
「……いただき、ます」
それを受け取った天子は、恐る恐る口元へその塊を運ぶ。当たり前だが血生臭い。目をつぶり、口に含む。噛みたくないものを噛むかのように、顔を顰めながら少しずつ肝臓の欠片を噛み砕く。表面こそ生々しい血の味がするものの、
「………………おいしい、かも」
真顔になって率直な感想を言いながら、やっぱり自分はもう妖怪と同じなんだなと、認めたくないけど認めるしかないと思って、それを味わった。
「あっ、ずるーい。私もソレ食べたい!」
水の入ったバケツと雑巾を持って来た血塗れのこいしがそう言って、さとりから肝臓の欠片を受け取った。なんの抵抗もなく口に運び、「あっ、おいしい!」満面の笑顔でそう言って、元気に床の掃除を始める。
「それじゃ、悪くならないうちにおゆはん作っちゃいましょ。天子、手伝ってもらってもいいかしら?」
さとりの問いに対して天子は「判ったわ」と自然に返したが、やはり天人の道を歩んだ人生からすれば考えられない事態他ならない。
少しずつ今まで積み上げてきたものが音を立てて崩れ行くことを感じながらも、新たな生活を少しずつ楽しめるようになりつつある自分がいた。
あまり推敲してませんが堕ちた天人とかなんかそんな感じの話の未収録シーン
堕ちすぎですね
82A6
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2015/09/14 02:48:11
更新日時:
2015/09/14 12:14:00
分類
若干グロ
天子
さとり
こいし
ほのぼの系
つか読めないしw
もっとましなの書けないの?
最近、こいしはナイフを身に付けましたね。
良く似合ってると思います
さとり怖いw
初めて人間の肝臓を食べて否応無く変化してゆく天子の心境と、それを読む読者としての自分の感覚が重なり合ってある種の衝撃を受けます。
他のキャラ、例えば咲夜さん視点でも同じテーマの作品が読みたいなと思わされました。