眠りの底の底

菫子「好きな夢を見られるなら、一度だけでいいからとびっきりの悪夢が見てみたい」

菫子「怪物に追いかけられる夢、殺されちゃう夢、虫に這われる夢、目の前で家族や親友が死んじゃう夢、自由を奪われる夢…」

菫子「そんな、夢でしか見られない夢…夢の中でも下の下、底にある最低な夢。あぁ、勘違いしないでね？別に私が病んでるとかじゃあなくて、何と言うか…あると思うの。人間にはそういう好奇心が。恐怖や絶望をどこか欲しがってるところが」

菫子「私はね、眠っている時が一番幸せ。だけど、その幸せをぶち壊すような悪夢が見たい。眠るのが嫌になるくらいの悪夢。眠ってしまうことを不幸に思えるくらいの悪夢。眠らなきゃ良かったなんて言ってみたいの」

菫子「全ては好奇心。幸せが崩れる瞬間を味わいたいだけ。これって一種の破滅願望かしら？あ、ダクトさんスパチャありがと！お医者さん代…？やだなぁ！病んでないって！」

菫子「もし、今このLIVEを見ているリスナーさんにとって、一番幸せな瞬間が崩れ去る時…想像してみて欲しいんだけど」

菫子「食べるのが大好きな人は、味覚が無くなった時、あるいは流動食以外食べられなくなった時…家族や恋人といるのが幸せな人は、その人がいなくなった時…きっと絶望の淵に…ううん、絶望の底に沈んでしまうのかもしれない。それはとても恐ろしいことよ」

菫子「でも、私はその瞬間にまた違う幸せを感じられると思う。私は、ね。他人にこの気持ちを理解してもらいたいわけじゃないの。狂ってるって言われて悦に浸るつもりでもないの。幸せが死ぬ時、絶望の底から顔を覗かせる、これ以上の絶望が無いというゴールを迎えるような。そういう最後の果ての果てを見て安心したいの」

菫子「好奇心は猫を殺す…だったかしら？でも安心して、死ぬのは私だけ。幸せが崩れ去って今の私を殺すのは私よ。一番の幸せが死んだ時、きっと私は私じゃなくなる。あら、幸せのついでに自我も崩れちゃってる。何かが壊れる時は別のものも巻き添え食らうのね」

「あぁ。そんな夢の中でまた眠るの。こんな悪夢ありえない。これはきっと夢なんだって。起きようともせず、眠りの底でまた眠りの底を待ち望むの。全て忘れて幸せを掴みたいと足掻くの。あぁ、知ってる？夢の中では上手く走れない人が多いみたい。上手く足を掻けないのね。これじゃあ幸せを掴もうにも足掻けないわね。落ちたら最後、ずーっとずーっと落ちていくだけ。底の底の底の底の底の底の底の底の底の底の底の底の底…あら？何回底って言ったかしら？今日はずーっと話してられるわ。つまり底無しの体力ってことね！上手いこと言った！あ、変なこと考えてる。これは眠りが近いってことかしら。あるのよね。眠りに近づくと訳の分からない意味不明なこと考えることが。あら、ずーっと話が脱線してるわね。あぁ、そう。夢よ夢。夢の話をしなきゃ。悪夢を見たいの。幸せだわ。どんな素敵な夢が見られるのかしら。夢を見ることが一番の幸せなの。悪夢でも吉夢でも思い出すこともできない支離滅裂な夢でも。夢を見たいの。私は今何処にいるのかしら？今は夢の中かしら？夢の中で夢見てるのかしら。そうだとしたら起きるつもりは無いわ。起きたら夢が終わるもの。人の夢は終わらないって何の言葉だったかしら？あら、その夢はこの夢のことかしら？うーん。分からないことだらけね。いつか分かる日が来るわ。それまでは夢の中で眠るだけよ。じゃあね。私眠るわ。おやすみなさい」