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『アリス爆発』 作者: おにく
可愛い可愛い産廃のヒロインアリスちゃんは、自室の椅子の上に不気味な封筒を見つけてしまった。
「何かしら、これ」
赤く染められた、手のひらに収まる程度の封筒であった。アリスは丁寧に封を開け、そして薄っぺらな一枚の紙を取り出す。中にはこのようなことが書かれてあった。
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この家に爆弾を仕掛けた。止めたければ命がけで探し出せ。制限時間は、この文章を読み終えた時より一時間とする。
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アリスは自分の部屋の中を改めて確認するが、物が動かされた様子もなければ、新たに現れた風でもない。
「……いたずらかしら」
しかし、その手紙に視線を戻した瞬間、手紙の中央がぱっと燃え上がった。アリスは軽い悲鳴をあげて、それを床に取り落とした。不思議とその炎は床にも絨毯にも広がらず、ただ手紙だけを燃やし尽くして、真っ黒な煙と灰に変えてしまった。灰の粉がアリスの鼻に入り、毛穴や血管を弾丸のような勢いで駆け巡って、一部は脳にまで到達する。その物質は、アリスにあるビジョンを見せていた。
ちょうど窓の外と同じような、雲がかりぽつぽつと雨の降る空、広がる森とただよう妖精や妖怪の気配は、まさに幻想郷であった。その森の海の中に、木造の小洒落た一軒家がある。それはアリスには言うまでもなく理解できること、あれは私の家だ。爆発音がする。暗い窓から溢れだすのは高純度の熱を帯びた光であった。真っ白いそれたすぐに一軒家を包み、燃え上がる暇もなく消し飛ばした。そして光はドーム状に広がりながら、数秒のうちに森を焼き、土をマグマに変え、どろどろの火砕流にしてしまった。熱はなおも拡大を続け、妖精を焼きつくし、妖怪の集落や人間の街を埃のように吹き飛ばして、全ての命を奪った。幻想郷は熱にうめつくされ、為す術もなく消滅した。残ったのは灰の漂う虚無の宇宙空間だけ。こうしてすべては無くなったのである。
「何てこと……」
ビジョンを映しだされたアリスは、あまりのことに目眩がして、膝をついた。そして額に浮かんだ汗をぬぐい、改めて自分の部屋を見回した。あれは単なる幻覚ではない。手紙に含まれていた魔術的な分子が、アリスの脳に干渉して、一つの可能な未来を提示したのだ。あらゆる種類の魔法を扱う一流の魔法使いとして、アリスはそう直観した。
「嘘でも、いたずらでも無いってわけね」
アリスは立ち上がる。一時間という制限はあまりにも厳しかった。助けを呼ぶ暇は無い、アリスと、アリスが所蔵する物全てで対処するほかないのだ。まず、アリスは家の中にある全ての人形に魔力の糸を張り巡らし、家具の裏や下を含めたすべての場所を捜索するように命じた。アリス自身は本棚を見やる。ちょうどおあつらえ向きの魔導書を、魔理沙から返してもらったばかりだったのである。少し背伸びをして一番上の棚から分厚い古書を取り出す。タイトルには物質探知魔法論文集とだけあった。アリスに求められ、本はにわかに発光する。分厚いそれを抱きかかえながら、索引を引き、513目ページにたどり着く。ページの余白には、魔理沙のものと思しきメモ書きがあった。
「人の本はもっと綺麗に使いなさいよ……、まったく、信じられない……ん?」
アリスはスカートの裾をちょいと引っ張られているように感じた。そこには一番のお気に入りの上海人形がいた。
「どうしたの、何かおかしなものは見つかった?」
人形は無表情のままぷいと首を左右にふる。やはり人形にまかせるだけでは駄目らしい。アリスは人形達に棚に戻るよう命じると、視線を本の記述に戻した。あれだけの爆発を起こせると仮定するなら、その原因となる物質や現象はある程度限定されてくる。その原因となるものに当たりをつけて、その上で詳細な物質探知魔法をかけるのである。アリスは論文に書かれている内容を術式に組み込み、詠唱した。家の外にも、部屋の中にも、あるいは地面の下や、空の上にもない。反応があったのはアリスの体内ただ一箇所だけであった。
「え、何で……、そんな……」
アリスの首筋にひんやりとした汗が浮かんだ。そんなはずはない、自分のお腹をさする。家の警備は万全だったはず、ましてや、一切気付かれることなく、体内に爆弾をしかけるなんて。アリスは時計を見た。たったの30分しか残っていなかった。この瞬間にも、幻想郷滅亡の足音は一歩一歩近づいている。
「助けは呼べない、自分でやらなきゃ……」
時間がなかった。アリスは服をのボタンを外し、ブーツとタイツを脱ぎ捨てて、下着とまとめて部屋の隅に投げた。体内の爆弾を解体するには、あらゆる物質が邪魔になりうるのである。アリスは裸足のまま、身長ほどの大きさの鏡を前にした。うっすらと青く光るアリスの手のひらが、皮膚の表面をなぞり、体内を間接的に観察してゆく。分かったことは少ない。体内に魔法の力で張り巡らされたセンサーのようなものがあり、下手に刺激するとそれだけで爆発しかねないことだけだった。
だが、体の何処かに爆弾が有ることだけは確かなのだ。アリスは唾液を飲み込む。魔力で誤爆の危険があるなら、腹を切り裂き、素手で中を確かめるしかない。考えている時間はもうなかった。桐で出来た上品な戸棚から、刃渡り15cmほどの小さな飾りナイフを取り出す。
「やるしかないの……? やるしかないの……?」
ぶつぶつと唱えながら、鞘から刃を抜き取る。暗い銀色をしたその刃は、研ぎ澄まされた刀剣のようにきらきらと輝いていた。アリスは両手で柄を持つと、切っ先をみぞおちから下の部分につきつける。指先がかたかたと震えた。肺いっぱいの息を吐きだす。あれが突き刺されば痛いだろう。それも足を捻るようなものではない、もっと本質的な、死へと誘う激痛だ。焦点の定まらない目で天井を見る。そして瞼をそっと閉じた。
「考えても駄目、やるしかないんだから……、大丈夫、怖くない、怖くないよ……はっ!」
銀の切っ先が真っ白い肌に潜り込み、とろりと一筋の血の川を作った。
アリスの目元に大粒の涙が浮かぶ。歯をく食いしばりながら、のこぎりを挽くように動かしながら、薄く脂肪の載った腹の肉を切り裂いていった。刃が進むたびにアリスの口から苦痛の喘ぎがこぼれ、輝いていた刃も、血液の暗い赤へと染まり始めている。ヘソを真っ二つにして下腹部にまでたどりつくと、アリスは漸く刃を引きぬいた。痛みで頭がクラクラし、ナイフを床に落として、床に崩れた。
「はあっ、はぁ……、さすがに痛いわね」
それでもアリスは気絶をすることもなく、腹の傷口を掴んで両側に開帳した。
「い゛っ……ぐぅぅ」
腹の中にたっぷりつまっていた血まみれの腸が、外気に晒され踊り出る。慣れないことをしたせいか、アリスの刃は内蔵までもを傷つけていた。右手を挿入し、内臓と内蔵の合間を直接さぐる。手先が器用なアリスのことであるから、何か異常があれば察するのもたやすいはずであった。内蔵を直接触ることは思った以上に苦痛が伴う。内部からえぐり取られるような激痛で、全身に鳥肌がたつ。気分が悪くなって飛び出た腸にむけて嘔吐した。黄色い胃液と消化されたパンが内蔵と交じり合って、あまりにもグロテスクだった。
「あ、が……っ!」
心臓の表面を触ると、頭を殴られたような衝撃が走り、一瞬、目の前の風景が明滅した。悲鳴めいた呼吸を繰り返しながら、すい臓、腎臓、子宮や膀胱までも調査の対象とする。指先に神経を集中させたが、特に手がかりもない。いつのまにか、アリスの座っている場所は血だまりになっていた。その中に腸が浮かび、アリスの吐瀉物が沈殿している。そして人間と共通する全ての臓器を調べ終えると、アリスはとうとう魔法使いの急所とも呼べる場所へと指を伸ばした。魔法使いの魂が揺蕩う真っ白い袋、魔法使いの不老の源であり、魔力の源泉であった。ここでなければ、もはや自分の体をばらばらにして、虱潰しに探すしか無い。あって欲しくない、でもここにあって欲しい。アリスの顔はあまりの痛みに分泌された汗と涙でびしょびしょに汚れていた。そして爪の先で急所に触る。
「あ゛があぁッ!!!」
そこは魔法使いの体の中でもっとも神経が集まった場所であり、触れることはあってはならなかった。それゆえ防衛本能も厳重で、触るだけで耐え難い苦痛、嘔吐感、精神へのダメージがある。そしてアリスは血を吐いた。ゲホゲホと咳をする。アリスは左手で口を抑えるが、血液は手のひらひとつでは抑えきれず、慎ましく膨らんだ胸などをぽたりと汚した。そして確信する。腹の中には爆弾はない。一連の作業は全てが無駄だったのである。
「そんな、どうして……?」
アリスは腹から手を引き抜くと、悲嘆に暮れた表情で天井をみた。瞳にたまった涙で景色が歪んで見えた。それなら、どこにあるのだ。アリスは裸になった自分の足を見る。細すぎもせず、太過ぎもせず、美しく形作られた両足。つま先はイメージカラーの薄い青色で軽く色づけされている。異性だけでなく、同性にもほめられたその足。しかしアリスは煩悩を振り払うように頭を振った。
「足が何よ、足なんて無くたって! そんなことより、みんなの命のほうが大事でしょう!」
自分で自分を奮い立たせると、ナイフを掴み、振り上げて右足の付け根を思い切り砕いた。
「あ゛ああああああああああぁぁぁ!!! 早く! 早く千切れてよ!」
絶叫しながら何度も何度も突き刺す。そうして十度ほど刺したところ、やっと骨が砕け、アリスの足は体から切断された。そして体から取れた右足をナイフで解体し、どこにも無いと見るや、左足も同様にバラバラのミンチにした。どこにも無い。爆弾は足の中にはなかった。悔しさに呻き声が溢れる。
「みんな、力を貸して、私の両手から爆弾を探して!」
不自由な体になったアリスは、爆弾の捜索を人形たちに任せることにした。棚に戻っていた人形たちは、包丁やのこぎりなど調達できる限りの装備をして、アリスのもとにやってきた。人形たちは無表情のまま、ためらいもなく、アリスの肩に刃物を振り下ろした。真っ白いうなじがみるみるうちに血液色になる。
ハンマーで骨を粉砕し、ノコギリで肉を切り落とした。漸く両手を失い、腕までも解体したが、成果は得られなかった。鏡を見る。腹から腸をはみ出させながら四肢を失った自分がいた。だが、何もない。残ったのは虚しいアリスの切り身だけ。人形たちは最後の望みと性器に包丁を挿入し、ズタズタに切り裂いて爆弾を探すが、それらしきものはどこにもなかった。
ひゅうひゅうと瀕死の呼吸をしながら、アリスは人形たちを見る。最後の力を振り絞って、命令を下す。
「私の頭を割って、きっとそこに爆弾があるわ……」
人形たちは、だるまのようになったアリスによじ登った。そして一際鋭い包丁を振り上げ、脳天に突き刺した。頭蓋骨が割れ、脳みそに刃が入る。全身の平衡感覚が発狂し、座っていても、床に手を付けなくては倒れてしまいそうになるほどであった。脳は思考だけを司るのではない。反射などの無意識の感覚や、感覚すらない恒常性の維持も担当しているのだ。ここを開くことは、いくら妖怪とはいえ、危険すぎる行動であった。
大脳を慎重に掘り進み、間脳を横にどかしてアリスの中枢を捜索する。そしてアリスは、最後の最後で、体内にあるはずのない異物を発見した。その光景は人形の瞳を通じて、アリス自身にもはっきりと届いている。苦痛に支配されながら、アリスは笑みをうかべた。
「あ゛っ……、た……」
脳が損傷した。分子を運ぶ血液は、かなりの部分が失われていた。内蔵もボロボロで、すでに体力は限界であった。もはや瞼を動かすことにすら、多大な集中力を要した。叩きつけるような眠りの香りが、抗えない衝動としてアリスを襲う。もう、アリスの体は、これ以上の痛みに耐えられない。アリスはここまで来て、ようやく自分の死を悟った。
「そんな……、もうすこしだったのに……」
アリスの脳裏に走馬灯が浮かぶ。
「み゛んなぁ、ごめんなさぃ……」
前のめりになって倒れ、腸と血液のソースを全身に浴びる。脳みそがぼろぼろと溢れる。主を失った人形たちは、もとの人形らしく意識らしきものを奪われ、血液だまりに墜落していった。筋肉が弛緩して、噴水のような失禁した。肛門からは大便が、水を受けた粘土のように溢れていた。それが最期であった。
時間は残酷に訪れる。制限時間はもうほんの米粒程度しか残されていなかった。だが、アリスの心臓はすでに停止しており、止めるものはない。光は、予定通りアリスの内部から発せられた。ビジョンが示したとおり、アリスの死体を消し飛ばし、家を焼きつくし、森を覆い尽くした。
そして幻想郷は滅亡した。だが、博麗大結界を失った幻想郷はもはや閉鎖空間ではなく、光はその外へと漏れだした。一秒とたたないうちに日本列島を分子レベルで崩壊させ、雪玉のようにエネルギーを増しながら、地球を食い尽くした。太陽の熱を天文学的数字で乗算したほどの力は、太陽系を消滅させ、ほどなく銀河系をも飲み込んだ。因果律を崩壊させながら、一瞬のうちに宇宙の端にまで到達する。宇宙は白で満たされた純粋なエネルギーのプールになって、そして、全ての時間軸を崩壊させる爆発が、この次元の歴史に終止符を打った。
アリスは爆発した。これがいわゆるビッグバンである。
おにく
- 作品情報
- 作品集:
- 最新
- 投稿日時:
- 2023/02/06 22:24:56
- 更新日時:
- 2023/02/06 22:24:56
- 分類
- 東方
- アリス
- 解体
- 切断
- グロ
- 爆発
そんな不思議な感慨にふけった作品でした。