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『小傘ちゃん改造計画 前編 (星の新キャラ登場 ネタバレ注意!)』 作者: かるは

小傘ちゃん改造計画 前編 (星の新キャラ登場 ネタバレ注意!)

作品集: 1 投稿日時: 2009/03/13 19:03:46 更新日時: 2009/03/14 04:08:55
 その日、傘の妖怪である少女、多々良小傘は人間の男を驚かしていた。
 否、正確には驚かせようとしていた。
 いつもの様に背後から忍び寄り、手に持った唐傘を相手の視界に入れる。
 おどろおどろしく不気味なセリフを口ずさみ、相手の反応を伺う――唐傘お化けである小傘が尤も得意とする、相手を驚かせる方法である。
 不気味なデザインの唐傘はきっと相手を驚かせてくれる。
 不気味なセリフは相手に冷や汗をかかせてくれる。
 だから、哀れな犠牲者は私に驚かされてしまうんだ――多々良小傘は、その日もその様に考えていた。
 しかし……

「うらめしやぁ〜……ひゅぅ〜、どろどろどろぉ〜……」
「……何だお前? そんなので、俺を驚かしたつもりなのか?」
「あ、あぅ……驚いてくれないの? この傘、怖くないかな?」
「いやいや全然。だってその傘、色合いとかのせいで茄子みたいじゃないか。
『美味しそう』だとか、『火で炙って味噌で食べたいなあ』なんかは思うかもしれないけど、驚くってのはちょっと……
 そのセリフだって使い古された定型句だろう? その程度じゃあ、驚くなんてとてもじゃないけど。
 ついでに言うなら今は昼だ。夜ならまだしも昼にお化けは無いだろう」
「うぅっ……今日も、今日も今日とて失敗なのね……よよよよ…………」

 がっくりと膝をつき、小傘は目元を袖で拭う。
 もう何度目になるだろうか――否、何十度目だろうか、こうして驚かすべき対象である人間に駄目出しをされるのは。
 人間を驚かし、その反応を見てケタケタと笑いたい。ただそれだけなのだ。
 なのに、人間は驚いてくれない。小傘の事を馬鹿にする。小傘の事を哀れむ。小傘の事を嘲り笑う。
 青と紫のオッドアイには薄らと涙が浮かび、心なしか手にした傘の表情も寂しそうに感じられた。

「ふーむ……その反応からすると、君は『人間を驚かせたいのに驚かす事が出来ない妖怪』とでも言った所か」
「ご名答。ズバリその通り過ぎて言い返す事すら出来ませんです。
 昔の人間はそれなりに驚いてくれたんだけどねぇ……最近は全然で…………」
「……では、ここで会ったのも何かの縁だ。
 微力ながら、私が少しばかり手を貸してあげようか?」

 それは、小傘にとって思いも寄らない提案だった。
 驚かすのに失敗した人間が、自分に協力してくれると言うのだから。
 勿論、小傘はこの提案に頷く事にした。
 全ては己の存在意義の為。人間を驚かせ、ケタケタと笑うその日の為に。

 ◆ ◆ ◆ ◆ 

「ここが人間さんのお家?」
「ああ、そうだとも。私は医者でね……自宅を診療所として開放しているんだ」
「へぇー、お医者さんだったんだー」

 小傘が男に連れ込まれたのは、人間の里では珍しい洋風の建物。
 壁を煉瓦で造られた、小さな診療所である。
 男は扉を開き、小傘を中に入れる。
 まだ外は明るい。窓から診療所の内側に入る日光が照明の役割を果たしてくれていた。

「それで、人間さんは私に何をしてくれるの?」
「うむ。最初に言っておくとだな……恐らく、君が人間を驚かせられないのはその外見にある! と私は思うのだ。
 仮に、異形の怪物が我が身へ襲い来るならば人間は驚くだろう。恐れるだろう。怖がるだろう。
 しかし君はどうだ? 外見は十代そこらの少女だし、持っている傘は少し悪趣味な傘……申し訳ないが、それでは人間は驚かない」
「……うぅ、そうやって面と向かって言われると涙が……くすん……」
「だが、安心したまえ。私が君に手を貸そう。君を人から恐れられる妖怪にして見せよう」
「本当!? 人間さん大好き!」
「ふふっ、女の子にそう言って貰えるのは中々に良い気分だよ……それでは、早い内に術式を開始しよう。
 名は……小傘君だったね。こちらへ来なさい」
「はーい♪」

 男に手招きされるまま、小傘は『手術室』と書かれた部屋へ歩を進める。
 部屋に入った小傘の鼻孔を刺激したのは消毒用アルコールの臭い。
 小傘の視界に入ったのは、普段見慣れない医療用の器具。
 初めて見る人間の医療現場に、小傘の胸は僅かに高鳴った。
 ここならばきっと、私を変身させてくれる。怖い妖怪にしてくれる――もう、小傘はそれ以外に考えられない。

「ここに寝てくれ。ベッドだと思って楽にしてくれれば良い」
「はーい!」

 白い衣装――手術着に着替えつつ、男は小傘を手術台の上へ上げた。
 右手にはペンチ、左手にはメス。棚には糸鋸と手動式のドリル。
 文字通り、彼は小傘を『改造』するつもりである。

「それで、次はどうすれば良いのかな?
『うらめしやぁ〜♪』の発声練習? 表情作り? それとも――」
「ああ、まずは眼球摘出だな……動かないでくれよ。特別な器具は……消毒も面倒だしいらないか。
 妖怪は強い子、我慢してくれよ」
「――ぇ?」

 瞬間、男の指が小傘の右目に触れた。
 触れるだけではない。その表面を二度、三度と優しく撫でた後――目と頭蓋の隙間へと潜り込んだのだ。
 男の指は眼窩を侵略し、小傘の右眼球を掴まんとする。
 医者だからだろうか。男はあくまでもそれを『医療行為』として行っている。
 指先にぶれは無く、小傘の右目を摘出する事だけを考えている。

「い、嫌! 何して……や、やだぁ! 抜いてっ……指、抜いてよぉ!」
「麻酔は無しだぞ? アレは高いんだから」
「あ゛……い、痛゛い、痛いよぉ゛!? 目、眼が、眼がぁ゛!? 抜いで! 抜゛い゛でぇ゛!!」

 小傘の瞼が男の指を排除しようと抵抗するが、指の力は強く、瞼程度ではどうする事も出来ない。
 むしろ、男の指の動きに微細な振動を与えてしまい、それが眼球に伝わって余計に激痛が走るだけ。
 焼ける様な痛み、とでも表現すれば良いのだろうか?
 あるいは、自分の脳を掻き回される様な痛みだろうか?
 視神経に直で触っている男の指は、小傘の全身に強弱激しく移り変わる痛みを与え続けていた。

「も゛う、人゛間゛を驚かずなんて言いませ゛……ん、がらぁあ!!」
「こらこら。妖怪が軽々しく志を変えるんじゃない」

 眼球から脳へと突き刺さる痛みに耐えられず、小傘の手足が手術台の上で暴れまわる。
 が、男はそれを気にしない。患者が暴れるのは何時もの事なのだ。空いた腕のみを使い、力ずくで押さえる術は心得ている。
『人間を驚かせなくて良い』
『抜いてくれ。その指を抜いてくれ』
 痛みのせいで言葉になっていない言葉だけが叫ばれていた。

「言われなくともすぐに抜くよ……っと。こら、暴れるんじゃない! 視神経が傷付くだろう!?」
「痛゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!??!!? や、優゛し゛くじてぇぇぇ!??!
 あ゛、あ゛ぁ!?!? 痛い゛よ゛ぉぉ゛!?!?!?」
「…………やれやれだ……しょうがない。今回は移植手術じゃないし、眼球は潰しても良いかな……」
「何でも良゛い、か゛らっ!! 早く抜゛いてよぉぉぉぉ!!!」
「はいはい」

 ――ぶちゅるん――

 手術室に小さな音が響いた。
 それは小傘の右目が爆ぜた音。
 男の指によって耐えられない程の――と言っても、大した程ではないが圧力を加えられ、眼球が果実の様に爆ぜた音だ。
 瞬間、痛みの波はさぁっと引いてしまった。
 引き潮の様に。まるで、先程までのが嘘であったかの様に。
『痛みを感じる器官』が無くなったのだから、痛みを一時的に感じなくなったのだ。

「……ぁ…………? え……?」
「ほら、指は抜いたぞ。もう痛くないだろう?」
「に゛、人間、さん……? 私の、目、眼、が……?」
「君が暴れるからな……予定は変更だよ。摘出ではなく、眼窩内で潰す事にした」
「つぶ……? ぇ?」

 小傘が最初に感じたのは違和感だった。
 本来あるべき物が無くなった感覚。
 今まで感じられた物が、一瞬で欠落してしまった事に対する違和感。
 右目が感じていた焼ける様な痛みが引き、その代わりに眼球から鼻にかけて引き裂く様な痛みの波が襲い掛かって来た。
 先程の比ではない。脳の奥、首の辺りから眼が『あった』場所へ痛みと熱さの波が襲っている。
 そう。眼球が『あった』場所なのだ。
 分かっていた。
 小傘には、自分に起こった出来事が理解出来ていた。
 それでも、理解したくはなかった。
 つい先程まであった物が、今は無い。
 それは喪失であり、欠落であった。

 そして、小傘は先程まで自分の眼窩に入っていた男の指が掴んでいる物――それは透き通った青色をしていた――を目にした時に、自分の失った物を理解した。
 それは、踏み潰された紙風船の様にくしゃくしゃで。
 破れた水風船の様に、内側からドロドロとした液体を垂れ流していて。
 何か、糸の様な物が垂れ下がっていた。

「あ……あ゛……そ、そ、それ、って……あ……」
「うん? 君の右目『だった』物だな。
 力任せに潰したからなあ……まだ眼窩内にカスが残っているよ。
 掻き出して綺麗にしないとなあ……後々の感染症が心配だし」

 男の指には、スプーンにも似た器具が握られていた。
 小傘の残された瞳に写ったそれが何をする物なのか、小傘には大体分かっている。
 先程の男の言葉から、何をするのかが嫌でも予想出来てしまうのだ。
 そう、あれはゼリーをスプーンで食べる様に――

「それじゃあ、術式再開っと」
「あ、がっ!!? あ゛ぁぁ!? い、い゛や、ぁぁ゛ぁぁ゛ぁ!?!?!?」

 ぽっかりと開かれた眼窩に器具を入れられたままで、唯、小傘は泣き叫ぶ事しか出来なかった。
 開かれた眼窩には涙が溜まり、男の仕事を余計に増やし、小傘自身が叫び狂う地獄の時間がより長くなる。
 残された左目に写るのは、男が自分の右眼窩に器具を突っ込んでいる姿のみ。
 骨が擦られる度、焼け火箸で肌を引っかかれる様な痛みが小傘を襲った。
 神経に器具が触れる度、何本もの針が肌に突き刺さり、そのまま肉を引き裂き混ぜたかの様な痛みが感じられた。
 痛みに終わりは無く、残された左目が流すのは後悔の涙。

『どうして、こんな事になってしまったの?』

 小傘には分からない。
 人間を驚かしてやろうとしていただけなのに。
 新しい驚かし方を考えようとしていただけなのに。
 親切な人間に、協力を頼んだだけなのに。
 なのに、右目を失ってしまった。潰されてしまった。
 もう、光を感じられるのは左の目だけなのだ。
 右の眼球が無くなったから、左でしか光を感じられない。世界を見る事が出来ない。
 驚く人間の顔を見る事が、出来ない。

「あ゛っ…………ぁ、ぁっ゛…………!!」

 痛みが身体を襲う度に、四肢が振るえ、痙攣する。
 涙が溢れる度に、男がそれを器具で掻き出す。

 そして小傘が泣き疲れ、喉の奥からヒュゥヒュゥと息を吐き出す事しか出来なくなるその時まで――地獄の時間が途切れる事は、一度も無かった。

[続く]
SS初投稿です。
星蓮船新キャラの小傘ちゃんが余りにも可愛いので、とりあえず片目潰しちゃいました。
怪しい人に付いて行っちゃダメ! ってのは幻想郷でも同じですよね。お医者さんは親切心でやってるみたいですけど。

こんなSSですが、気に入って頂ければ幸いです。
かるは
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2009/03/13 19:03:46
更新日時:
2009/03/14 04:08:55
分類
欠損
多々良小傘
エロ無し
新作ネタバレ注意
1. ■2009/03/14 08:13:40
眼球は肉体的なダメージより精神的なものにくるということですね。解ります。
小傘の二次は天然キャラで固まりつつあるな……
2. 名無し ■2009/03/14 15:53:42
後半の展開が予測できるだけに楽しみだw
3. 名無し ■2009/03/14 20:32:15
この液体は硝子体というそうだ。血とは随分違うなっ
後編期待してます
4. 名無し ■2009/03/15 04:43:28
ワッフルワッフル
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