Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『大自然って恐ろしい』 作者: pnp

大自然って恐ろしい

作品集: 1 投稿日時: 2009/03/19 13:48:47 更新日時: 2009/03/19 22:48:47
 普段通り、じめじめと湿気ばかりの魔法の森。
そんな森に、珍しい来客があった。

「ここは、何もないつまらない場所ね。以前見た鈴蘭畑の方が何倍かマシってものだわ」
 森に入って早々、森を酷評したのは、花を咲かせる妖怪である風見幽香だ。
 花畑にいる事が多い彼女にとって、木や茸や苔ばかりのこの森は、あまりに殺風景だった。
「もっといい所にしてあげるわ」
 そう決めると、彼女は自分好みに花を咲かせ始めた。
黄や赤の、薄暗い森には不似合いに明るい色の花。
青や紫の、森の雰囲気にぴったりの暗めの色の花。
 冗談で彼岸花なんかも咲かせて、一人でクスクスと笑っている。


 暫くして、一箇所だけ花でいっぱいになった魔法の森を眺めながら、満足げに息を漏らした。
「これで少しはいいところになったわね」
 そう呟き、幽香は魔法の森を後にした。




*






 翌日、幽香は花を咲かせた森の一角へ行ってみた。
 そこにあったのは、めちゃめちゃに荒らされてしまっている、変わり果てた自作の花園だった。
思わず、手に持っていた傘を取り落とし、愕然とする幽香。
「誰が……こんな事を……」
 怒りを表情には出していないものの、心の内で幽香は激怒していた。
誰なのかも分からない、大切な花をこんな無碍に扱う輩を心の中で何度も何度も呪い殺していた。
 めちゃめちゃになってしまっている小さな花園を直しながら、どうにか平静を保とうと努めていた時。

「あー? 何だってお前がこんな所に?」
 聞き覚えのある声。
自分以外の何かの作用で花が咲き乱れる異変の際に聞いた声だ。
 ゆっくりと振り返る。
記憶にある顔がそこにあった。
 黒い帽子に金色の髪。白と黒のエプロンドレス。木製の箒。
「魔理沙」
「なんだ。その花、お前がやったのか」
 魔法の森に住む魔法使い、霧雨魔理沙は、再生途中の花を指差して尋ねた。
「あなたがやったのね」
「質問を質問で返すなよ」
「当然、私が咲かせた花よ」
「やっぱりか。そんな邪魔くさい所に普段は花なんて咲かないもんな」
 沸々と湧き上がってくる怒りと殺意と懸命に胸の内に溜め込みながら、幽香は魔理沙の話を聞く。
「邪魔なんだよ。そんな所に花が咲いても」
「だからって、こんなにする必要があって?」
「それは私の勝手だろ。茸狩りの邪魔だったから、蹴散らしただけだ」
「許さない……」
「何だ? やるのか?」
 やれやれ、と言った感じに魔理沙が箒に跨った。
いつもの魔法道具を握り締め、空へと舞う。
 幽香も傘を差し、ふわふわと後を追う。


 魔法の森上空で、幽香と魔理沙がにらみ合う。
 幽香も珍しく、本気で怒っている様子だが、魔理沙は気づけていない。
花の異変の時の弾幕勝負では圧勝だったから、余裕すら感じているほどだ。
「花より団子って言葉、知ってるか!」
 幻想郷最速レベルのトップスピードで、あっという間に幽香の後ろに回りこむ。
幽香はそれを目で追っている。が、速度は追いつけていない。
 魔理沙の様子見の軽い弾幕が飛ぶ。
 幽香はそれを、持っている巨大な傘で防ぐ。
そして反撃に出る。

 と言う魔理沙の予想は大きく外れた。
 傘で防ぐまでは予想通りだった。
しかし、問題はその後だ。
 防ぎつつ凄まじいスピードで魔理沙との距離を詰めてきた幽香は、その加速を利用し、魔理沙の鳩尾に拳を減り込ませたのだ。
 普段から近接戦の修行などまともに積んでいない魔理沙は、妖怪の拳の直撃を喰らい、地面へと吹っ飛ばされた。
 対する幽香も近接戦の心得など全く無いのだが、妖怪は元々人間よりも身体能力が高い。
故に、幽香の様な細身の腕でも、人間程度が相手ならば、凄まじい威力の打撃を繰り出せるのだ。


 腹を抑えて蹲る魔理沙。
呼吸もまともにできない状態らしく、何度も何度も咳き込んでいる。
 そこに幽香がふわりと舞い降りてきた。
 タンポポの綿毛の様に軽い足取り。ヒマワリの様な満面の笑顔。
そんな表情で、魔理沙の金髪を引っ掴み、持ち上げる。
 まだ魔理沙は意味が分かっていないようだった。
「な、何でぇ……? 直接攻撃は……禁止だって……」
「誰が弾幕勝負なんて言ったのかしら?」
 弾幕勝負と言うのは、博麗神社の巫女が、妖怪と人間が公平に争えるように考案した戦闘方式である。
よって、弾幕勝負には殺意を含まない。むしろ、弾幕で殺したらルール違反である。
「私はあなたを殺す気なんだけど。妖怪だから何も悪い事じゃないわ」
「はぁ……っぐ……そ、そんな……」
「よくも花を無碍に扱ってくれたわね。どう死ぬ? 蔓で絞首刑? 大きな大きなラフレシアの餌にしてあげましょうか? バラの茨で左胸を貫くがいい?」
「い、いや……嫌だ……、そんなの……!」
 痛みと恐怖で涙を流し始めた魔理沙の前へ、植物を用いた思いつくありとあらゆる処刑の方法を口にする幽香。
しかし幽香にとっては、どれもこれも花を冒涜した者の死には相応しくない、味気ないものばかりだ。


 だが、ふと幽香の表情が固まった。
そして、笑顔が一層深くなった。
「そうだ。いい事思いついた」
「え……?」
「口を開けなさい、魔理沙」
「やだ……! やめ……」
「黙って開ければいいの」
 再び魔理沙の腹に拳が減り込む。
強引に開かれた魔理沙の口に、幽香が手を突っ込む。
 魔理沙の喉の奥に何か固形物がぶつかった。
それは喉を転がるように落ちて行き、そして異物感となって魔理沙の中に留まった。
「な、何だよこれ!?」
「花の種」
「花の種……?」
「いつになるか分からないけど、いずれ開花するわ」
 笑みを保ったまま、魔理沙の胸に人差し指を当て、幽香が静かに言った。
「あなたの中で」

 魔理沙の頭の中が真っ白になった。
 中、と言うのは体内の事を指すのだろうか。
聞くのが恐ろしく、口をパクパクと開閉するしかなかった。
 魔理沙の胸の内を見透かしたかのように、幽香が更に言葉を続ける。
「あなたの体の中で、少しずつ、少しずつ成長していくの」
「……う、うぁぁ……」
「花は土壌を殺さない。土壌を殺せば花も死ぬから。土壌を即死させない速度の緩慢な支配が今日この瞬間から始まるのよ。フフッ」
「嫌だ! 嫌だあ! まだ、まだ死にたくない! お願い、許して! 許してくれえ!」
「ダメ。花を邪険に扱ったあなたが悪いのだし」
「うう……!」

 異物感を取り去ろうと、狂ったように胸を掻き毟る魔理沙。
しかし、そんな手段で花の種が消える筈がない。
 ならば内からと、魔理沙は躊躇せずに喉に自身の指を突っ込んだ。
「うえぇ……うえっ、ごほっ……かはぁ……っ」
「あらあら。見っとも無い」
 幽香は傘を差し、死に物狂いで生きようと足掻く魔理沙の醜態を眺める。
 朝食を含んだ吐瀉物の中に花の種らしきものは見当たらない。
それもそのはず、花の種は胃に運ばれた訳ではない。
肉体に『植えられた』のだ。
「ない……ない、ない、ない、ない!」
「ある訳ないじゃない」
 そうとは知らずに吐瀉物に手を突っ込んだ魔理沙にそう言うと、幽香は堪えきれずに声を出して笑った。
ガタガタと震える魔理沙が我に返り、幽香の胸倉を掴んだ。
「今すぐ種を取れ! 取れぇ!」
「嫌だわ」
「マ、マスタースパーク撃つぞ!? 本気だぞ!?」
「いいけど、私を殺してあなたに何のメリットがあるの? 言っておくけど、花は私がいなくたって生きてくれるわ。当然、あなたの中のそれも」
「嘘だろ……!」
「でも私は種を取り除く術だって持ってる。花を生かす事も殺す事もできるから。それでも私を殺すのかしら?」
「……!」
「さあどうぞ? 憎き妖怪を滅ぼせば? 撃たないの? ほらほら、明確な敵が目の前にいるのだけど?」
 ヒラヒラと手を振る幽香。
 こうやって相手の精神を逆なでするのが、幽香は大好きなのだ。
「まあ、余生がどの程度か知らないけど、精々楽しんで生きる事ね。もうここには花は植えないから、好きなだけ茸を狩ってるといいわ」
 そう言い残し、幽香は魔理沙の前から姿を消した。
 体内に花の種を植えられた魔理沙はしばらく途方に暮れ、そして駆け出した。




*




 相変わらずゴミなのか道具なのか資材なのか分かり辛い、いろんなものが散乱するにとりの家。
その家の玄関の扉が荒々しく叩かれた。
「はいはい。もうちょっと静かにできないかな」
 家主の河城にとりは、玄関を開けた。
 立っていたのは、見知った顔だった。
「あ、魔理沙。どうしたの? こんなに朝早くに」
「除草剤」
「うん?」
 挨拶も無しに用件だけを告げ出した魔理沙に、にとりが首を傾げる。
「な、何?」
「除草剤! 持ってないのか除草剤!」
「除草剤? あるけど、何で?」
「いいから!」
「もう。朝からカリカリしなさんなって」
 何だか妙に苛立っている魔理沙に若干気圧されながら、にとりは棚に置いてある除草剤を手に取った。
 当然、外界から偶然幻想郷入りしてきた希少な薬剤だ。
「はい。高価だから、あんまりバンバン使わないでね」
 魔理沙にそう言っても無駄だと知りつつも、にとりはそう付け加え、除草剤を魔理沙に手渡す。
奪い取る様に除草剤を引っ掴み、魔理沙はその場で蓋を開けた。
「あ、あの、魔理沙? 薄めて使うもんだよ、それ。て言うか、わざわざここで開けなくたって」
 にとりの助言の最中、魔理沙は除草剤の注ぎ口の口をつけ、天を仰いだ。
コポコポと、毒々しい色の除草剤が魔理沙の中へ入っていく。
「う……うげぇええ!」
「きゃああああ! ま、魔理沙何やってんのあんた!? 誰か、誰か来てー!」





*






 意識が戻って初めに感じたのは、口内の異常な苦味。
 次にあんまり世話になりたくない、と普段から思っていた場所の匂い。
 そして次に、胸の異物感。
異物感でようやく魔理沙は完全に覚醒した。
 魔理沙が寝かされていたのは永遠亭。
横にはにとりが付き添ってくれていた。
「魔理沙! あんた、何やってんの本当に!」
「にとり……」
「除草剤目の前で飲み始めるから、びっくりしたよ! 文が来てくれなかったら、どうなっていた事か!」
 にとりが助けを呼ぶと、偶然近くにいた射命丸文が駆けつけてくれた。
彼女の超スピードのお陰で早急に永遠亭に魔理沙を届けることができたのだ。
届け終えると、文は仕事があると先に帰ってしまった。
 除草剤による身体への害は、異常ともいえる効能を持つ永琳の薬のお陰でさっぱり消えていた。
しかし、胸の異物感は全く変化が無い。
即ち、まだ魔理沙は救われていない。
 呆然とする魔理沙の前に、鈴仙と永琳が現れた。
「全く、何を考えてるんです、あなたは」
「除草剤を自分から飲むなんてねぇ。寝ぼけていたのかしら」
 永琳はくすくすと笑っている。
 魔理沙は首をぶんぶんと横に振った。
「違う、違うんだよ」
「?」
「なあ、永琳! 花を、花を枯らす薬は無いのか!?」
「花を枯らす薬? 除草剤は……作ろうと思えばできるかも」
「違うんだよ! 体の中の花を枯らす奴だ!」
 鈴仙と永琳が顔を見合わせる。
次ににとりと二人が顔を合わせた。
そして三人とも魔理沙の方へ向きなおす。
 酷く怯えきった魔理沙の表情は、妙な真剣みがあった。
「うーん、と……スイカの種でも飲んで、それがお腹で発芽する……とか誰かに吹き込まれたんですか?」
「違うっ! 花の種だって言ってるだろ!」
「花の種を食べたのかい? そんなに食べる物が無きゃ、うちに来ればいいのに」
「違う違う違うっ! 花の妖怪のせいなんだ!!」
 声を荒げる魔理沙。
にとりが慌てて魔理沙を押さえつける。
「鈴仙、精神安定剤を」
「は、はい!」
 永琳の指示を受け、鈴仙が駆け出した。
「精神なんとかなんて要らない! 花を! 花を枯らせて! 花を……」
「落ち着いて、落ち着いて魔理沙!」
 小さい体で一生懸命魔理沙の暴走を食い止めるにとり。
 永琳は深刻そうな目で魔理沙を見つめていた。
 見つめているだけだったのがミスだった。
魔理沙は全力でにとりの体を跳ね除け、ベッドから飛び出した。
 玄関まで全力疾走し、置いてあった箒を掴むと、そのまま飛び去ってしまった。
 向かったのは、外界からやってきた巫女のいる神社だ。



*





 相変わらず参拝客などいない神社、守矢神社。
それでも神社の掃き掃除をする、巫女の東風谷早苗。
 そこに、魔理沙が突っ込んできた。
「早苗ー!」
「? 魔理沙さん。おはようございます」
 ペコリとお辞儀をする早苗。
だが、魔理沙は慌しく用件だけを告げ始めた。
「早苗、お前は奇跡を起こせるよな!?」
「えっ? 何でですか?」
「奇跡で、花の開花を止めてくれ!」
 要点だけを纏めたかのような簡潔なお願いに、早苗はしばし頭を悩ませた。
「えー、えーっと……? 花の、開花を?」
「そうだ!」
「何のお花でしょうか。あ、金木犀とかですか? 実はあの甘い香りが苦手とか……」
「そんなんじゃない、私の中のだ!」
「は……はあ。魔理沙さんの中のお花の開花を止めろ、と」
 早苗の推測も十分意味が分からないが、魔理沙の要望はそれを遥かに上回る意味不明さだ。
「すみません。申し上げている事の意味が、全然分からないのですけど」
「風見幽香って妖怪に植えられたんだよ、花の種を! それが開花すると死ぬんだよ私は!」
「かざみゆうか? どちら様ですか、それは」
 早苗は幽香の能力は愚か、名前すらも知らない。
花の異変が起きたのは、彼女らが神社ごと幻想郷入りする前だったからだ。
「それに、奇跡と言っても、それは奇跡が起こらなきゃ解決できない問題なんですか?」
「できないから頼んでるんだろ!?」
「あー、すみません。奇跡の内容には限界がありますから……」
 魔理沙はその場で地団太を踏んだ。
そして、箒に跨ると次なる目的地へと飛び去った。
 魔理沙が去ってすぐ、八坂神奈子が現れた。
「早苗、誰か来てたのかい? 叫び声が聞こえたけど」
「あ、八坂様。さっき、魔理沙さんが来ていまして」
「ふうん。挨拶もしてくれないなんて、冷たい奴だね」
「何だかとても急いでいましたから」
「そうかい。どうして?」
「体の中の花の種の開花を止めて欲しい、と」
「? 何だいそりゃ」
「さあ……」




*




 居眠りしている紅魔館の門番の真横を、暴風が通り抜けた。
瞬間的に覚醒した門番が吹っ飛ばされかけた帽子を慌てて抑える。
帽子は飛ばなかったが、チャイナドレスが大きく捲れた。
 玄関を蹴破るように館に侵入した魔理沙。
急停止したせいで慣性の法則によって前に吹っ飛んでいく。
ゴロゴロと床を転がり、すぐさま立ち上がる。
「魔理沙?」
 時間を止めて移動し、突如目の前に現れたメイド、十六夜咲夜が驚きの声を上げる。
「何してるの」
「レミリア、レミリアに会わせてくれ!」
「お嬢様に? いいけど」
 時間を止め、レミリアの元へと魔理沙を運ぶ咲夜。
魔理沙から見れば次の瞬間には、レミリアの目の前に立たされていた。
 紅魔館の主、レミリア・スカーレットが、口を開いた。
「魔理沙、今日は何の用かしら?」
「レミリア、お前は運命を操れるんだよな!?」
「ええ」
「じゃあ、変えて欲しい運命があるんだよ!」
「変えて欲しい運命?」
 運命なんて知ろうと思っても知れる筈も無い魔理沙からそんな言葉が出るとはと、レミリアは怪訝そうな顔をした。
だが、魔理沙は真剣だった。少なくとも、表情と口調から察するに。
「で、何? 変えて欲しい運命と言うのは」
「花の種だ!」
「は?」
 普段から、少なくとも自分なりには高貴な吸血鬼を意識しているレミリアが、とても間抜けな声を出してしまった。
恥ずかしそうに頬を赤く染め、コホンとそれっぽく咳払いをする。
そして、もう一度問うた。
「も、もう一回、言ってくれる?」
「花の種! 花が咲かないようにして欲しいんだよ!」
「……?」
 返答に困り、魔理沙の後ろに立っていた咲夜の表情を伺ったが、やはり意味が分からないと言った表情を浮かべるばかり。
「花って、どの花? いや、どこの花?」
「私の中!」
「……??」
「私の体に埋められた花の種が開花しないように運命を操作して欲しいんだよ!!」
「……???」
 レミリアも何百年と生きてきたが、ここまで訳の分からない事を言われるのも久しぶりだった。
「スイカの種でも飲んだの?」
「違うんだよ! 風見幽香に花の種を植えられたんだ!」
「どうやって」
「そんな事どうだっていいだろ! いいから早く! このままじゃ死んじゃうんだよ!」
「早く、って言われても、確認できない運命を操作なんてできる訳ないじゃない」
「……!」
 『人の体内に植えられた花の種の開花』なんて、あまりに現実離れした運命は操作ができなかった。
そもそも、そんな運命を魔理沙が辿ろうとしている事すら、レミリアは確認できなかったのだ。
 泣きながら魔理沙は、レミリアの背後の窓を突き破って外へと出て行った。
日の光が入り込んできた。
悲鳴を上げながら部屋の中腹へと避難するレミリア。
「ど、どうしちゃったの魔理沙は!?」
「さあ……何が起こったんでしょうか」





*




 山の上の神社の巫女と違い、麓の神社の巫女は相変わらずの怠けっぷり。
お茶を飲みながら、これでもかと言うほどに暢気な表情で雲の流れを追っている。
穏やかな時間が流れている博麗神社だったが……
「霊夢!! 霊夢!!」
「……騒々しくなってきた」
 博麗神社の巫女、博麗霊夢は小さなため息と同時に立ち上がり、空から参った白黒の友人に向き直る。
「どうしたの」
「紫は!? 紫はどこだ!」
「紫? 奥にいるけど」
 霊夢が言った直後、まるで霊夢を跳ね除けるように、魔理沙は博麗神社の奥へと走り去っていった。
 あれほど魔理沙が急いでいるのも珍しい、と心の中で思いながら、再び湯飲みに口を付ける。

 境界を操るスキマ妖怪、八雲紫。
こいつにできなかったら、もう魔理沙は死を覚悟する事にしていた。
「紫!」
「あら魔理沙。こんにちは」
「境界を操れるお前なら、できるよな!? な!?」
 出会い頭、要領を得ない説明を受け、困惑する紫。
「できるって、何を」
「花の開花を食い止めるくらいの事!」
「開花を阻止? できるけど」
「じゃあ、じゃあ! 私の中の花の種の開花を止めてくれ!」
「……?」
 紫も散々魔理沙が頼んで回った者と同様に、おかしな表情をするばかり。
「何を言っているの?」
「風見幽香に体内に種を植えられたんだ!」
「幽香に……なるほど」
 だが、紫はその事態を理解したらしかった。
「開花すると死んでしまうんだよ!」
「……ちょっと待ってね」
 紫が空間に穴を開ける。
一体、どんな原理かは不明だが、魔理沙の体内に繋がっているらしかった。
 異常を探ると、すぐに見つかった。
不自然な位置の、不自然な種。それの生と死の境界を弄る。
 すると、種は死んだ。
「ほら。これで種は死んだわ」
「ほ、本当か!?」
「ええ」
「ありがとう! ああ、よかった……エラい目に遭った」
 ホッと胸を撫で下ろす魔理沙。
そして、すぐに残忍な笑みを浮かべた。
「幽香め……種さえ無きゃこっちのもんだぜ」
「復讐に行くのかしら?」
「当然。人を無邪気に死に至らしめるような妖怪、放っておけないだろ」
「それもそうかもね」




*




 自作の花園で、幽香は幸せなひと時を過ごしていた。
――あの白黒の魔法使いは、自分に植えられた種がいつ開花するのかは分かっていない。
 慌てふためく魔法使いの様子を想像すると、すごく笑えた。
 何故なら、あの花の種は開花なんてしないのだから。
 あんな暗い血生臭い硬い場所に種を植えたって、普通にしていればそうそう開花するものではない。
と言うか、普通なら絶対開花しない。
 それらしい事を言って脅してはいたが、全部嘘だったのだ。
「まあ、あの魔法使いもこれで少しは懲りたでしょうね」
 花の恐ろしさを知り、自然界の生物の雄大さ、強大さを理解すれば、それでいいのだ。
そうする事で、花をもっと慈しみ、自然を愛する気持ちが芽生えれば。
――自分も、すっかり丸くなってしまったものだ。
 花の香りを楽しみながら、そんな事を考えていた矢先。

 突然、花園が爆撃に遭った。

 四散する花びら。抉れる大地。千切れ飛ぶ茎。
 宙を舞ったそれらがドサドサと落ちてくる。
差していた傘にも土が乗った。
 暫く振り向くことすらできない幽香。
ゆっくりと、爆撃の主を振り返る。
「妖怪退治に参ったぜ」
 先ほどの白黒だった。
「……」
 幽香は傘を閉じた。
そして、ゆっくりと足元に置く。
 両手を握ったり開いたりして、昔の感覚を呼び戻す。
 いつものヒマワリの笑みは消え失せていた。
 魔理沙すらも一歩身じろぐような凄まじい妖気。
 周囲の花々が、風も無いのにゆらゆらとゆれ始めた。
「どうやら、本気で死にたいようね」




*





 容赦が無い、と言う言葉では語弊が生まれるほどのとんでもない弾幕が、魔理沙を絶望の淵へと叩き落した。
 勝敗は決したと言うのに、動けない魔理沙に尚も弾幕を浴びせ続ける幽香。
魔法の森での怒りとは比べ物にならない怒りを、その荒々しい攻撃から魔理沙はひしひしと感じていた。
「うぁ……あぁあ……」
「仏の顔も三度まで。まだ二度目だけど、もう我慢できないわ。生かしてやってた命だったのに」
「え……? い、生かしてやってたって……?」
「気付けなかったの? 人肉から花なんて咲く訳ないじゃない」
「嘘……嘘……だろ……」
「ただし、それは普通にしていた場合だけの話」
 ズタボロの魔理沙の髪の毛を掴んで目線を平行にするように持ち上げる。
「私は花の生死を司る。死んだ花を生き返らせるし、生ける花を死なせることもできる」
「……! ま、まさか……」
「あなたの中の種子、どうやったか知らないけど、死んでるみたいね」
 再び幽香は最高の笑顔。
ただし、魔理沙の目には現役の吸血鬼よりも恐ろしい笑顔にしか映らない。
「種子だって蘇らせられるし……成長の促進だって、私は可能なのよ?」
「ああ……うあああああ!」
 もう魔理沙の叫びすら聞く気もないらしい幽香が、魔理沙の胸に手を当てる。
 妙に暖かい何かが、魔理沙の全身を駆け巡る。



 聞こえる筈もない音が、魔理沙の耳に飛び込んできていた。
 そう。まるで、何かが急激に伸び行くような、そんな音。
ミシミシ、ペキペキと、自然の音でありながら不自然な音が、鼓膜を震わせる。
「ぎぃ!? 痛……痛い痛い痛いぃ!」
 幽香に押され、尻餅をついた魔理沙。
胸に激しい痛みを感じていた。
「痛いいいいぃ! 幽香、幽香! 助けて!! 助けてぇええ!」
「大自然の恐ろしさを痛感しながら逝きなさい」
「やだあ! やだ、やだ、まだ死にたくない! やりたいことも、やりのこしたこともいっぱ……」
 言い切る前に、魔理沙は口から大量の血を吐いた。
そして、胃に残った僅かな食物も全て血と一緒に吐き出した。
赤黒い吐瀉物の中には、花びらや草の芽などまで含まれている。
 また、胃に収めていた食べ物の量の割りに、大きな塊がいくつか見受けられる。
それらは、花の成長によって千切られた、臓物の一部らしかった。
では何故、魔理沙は生きているのか。
『花は土壌を殺さない』からだ。
 花は魔理沙を殺しつつも生かしている。
正確には、完全な開花までは魔理沙を生かしておくつもりなのだ。
 止まらない吐血を、無理に手で抑え込もうとする魔理沙。
指の間から、掌を滴りながら、血はどぼどぼとあふれ出てくる。
 おまけに激しい胸の痛み。
まともではいられなくなっている。


 と、急に手の甲に鋭い痛みが走った。
薄れ掛けている意識で、朦朧と手の甲を見る。
そこには――
「……ああ……ああああああ!! やだ……こんなの、こんなのぉおお!!」
 手の甲から、花の芽が出ていた。
茎はしっかりと魔理沙の皮膚を貫いて生えており、根元からは血がぷつぷつと染み出てきている。
引っこ抜こうと手を掛け、芽を引っ張る。しかし――
「痛っ!?」
「当たり前じゃない。あなたに根を張ってる花なのだから」
 無理に芽を引っ張ると、肉まで張り付いて来てしまいそうだった。
だが、こんな異常な光景をそのままにできる程、魔理沙は冷静ではなかった。
 涙をボロボロと零しながら、さっきの弾幕勝負で使わなかった恋符を取り出す。
そして、命中ギリギリのところで、自分の腕をマスタースパークで蒸発させた。
「うああああああああぁぁぁ!!!」
「気がふれたのかしら」
 物珍しそうな目で魔理沙を眺める幽香。
 手が吹き飛んだ魔理沙の手首の断面には、確かに草の根が存在した。
一先ず、これで安心かと思いきや。

 今度は逆の手首付近に、連続して鋭い痛み。
 痛みに呻く事はなかった。
しかし、体の震えは止まらない。
ガチガチと歯を震わせ、手首を見る。
複数の花の芽。
「なんで……さっき消したのに、なんでええええ!!?」
「そんなに花の芽が嫌なら……」
 幽香が歩み寄る。
そして、手首の花の芽を掴んだ。
「抜いて差し上げるわ」
 何の躊躇も情けも無しに、魔理沙の肉に根を張るそれを引っ張った。
 ブチブチと肉が千切れ、ズルズルと根が抜けてくる。
「あぎゃああああああ!!!!」
 抜けて出た根に、魔理沙の肉の破片がこびり付いていた。
 根のあった場所には転々と小さな穴が開き、そこから鼓動に合わせてピュッピュッと血が噴出す。
抜いた芽を愛おしそうに地面に生める幽香。



 激痛に狂ったように叫ぶ魔理沙。
その次の瞬間だった。
 丁度臍の辺りから、巨大な茎が外界へと飛び出した。
「あぎぇ!?」
「あら。そろそろお仕舞いね」
 一本の茎が開けた、茎一本分の穴。
その径の僅かな隙間に無理矢理入り込むように、別に茎が割り込んでくる。
必然的に、穴は拡がる。
否。拡げられる。
「いやあああああぁあああああ!!!! もう、もうやめてぇぇぇええ!」
 魔理沙が何と叫ぼうが、当然ながら植物は聞く耳を持たない。
 ベリベリと、徐々に徐々に腹部の穴は無理矢理拡げられて行く。
裂ける感じに開いた穴は、ついに魔理沙の胸まで到達した。
 拡げられた穴から、沢山の臓物がぼとぼとと落ちてくる。
全部、自分のものであると言うのが、魔理沙は信じられなかった。
おまけに、臓物にまで花が咲いている。
「じゃあね。魔理沙。次生まれてくる時は、もっと花を大事にする少女であってね」
「―――」
 何も言う事ができなかった。
体から喉を通り、花が外界に顔を出してきたからである。
 目が痛いと思ったら、視界がぶっつりと消えた。
目を押しのけてシダ植物が姿を現したからである。
残った方の手と両足の爪は全部剥がされ、小さな花が咲いた。
喉を破って、バラの茨が現れた。
産道や秘部からも草花が現れた。
背を破って、茎が太く背の高い花が誕生した。


 全身を花に侵食され、魔理沙は絶命した。


「お墓に花を添える必要はないわね。これで十分綺麗だわ」
 くすくすと笑う幽香。
「放っておけば、肥料くらいにならなってくれるかしら」
 そんな事を言っていると、蝶が魔理沙に止まった。
それはまるで髪飾りのようで。
「まあ、かわいい」
 幽香は感嘆の声を上げた。
 幽香が可愛かったです。デザイン的に。
能力はこんな感じでいいのか分かりませんが……
 植物もやりようによっては虫くらい残酷にいけるんじゃないかなあ、と思って書いてみました。
しかし、想像を文章化ってやっぱり難しいですね。
そして肝心のグロい部分が何故か短くなってしまいました。


 ご観覧、ありがとうございました。
pnp
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2009/03/19 13:48:47
更新日時:
2009/03/19 22:48:47
1. 名無し ■2009/03/19 23:10:17
美しいの一言に尽きるぜ
2. 名無し ■2009/03/19 23:29:12
いいぞ!!!
もっとやれ!!!!
3. 名無し ■2009/03/19 23:32:07
魔理沙は弾幕ごっこだと極太ビームとか撃つから強いけどガチバトルだとさっぱり勝てないイメージ
4. 名無し ■2009/03/20 01:01:24
魔理沙が可愛くて可愛そうです。ざまぁみろ
5. 名無し ■2009/03/20 01:39:37
幽香にとって、花畑とは我が子同様の存在
それを無下に散らされたんだ。小娘の命一つで怒りを納めてくれるなら、何と優しい妖怪だろうか
6. 名無し ■2009/03/20 02:12:15
幽香の優しさは幻想郷トップクラス。
7. ■2009/03/20 03:11:22
一瞬幽香いじめかと思ったが、そうでなくてよかった。
というか魔理沙自業自得。
8. 名無し ■2009/03/20 13:32:56
ゴミクズ一匹の命でチャラとか
幽香様マジ淑女
9. 名無し ■2009/03/20 18:12:05
植物こえーなー。そして幽香とゴミクズが可愛い
10. 名無し ■2009/03/20 20:12:45
なんて美しいんだ幽香様
11. 名無し ■2009/03/20 21:55:44
うんうん魔理沙はやっぱこうでないとな!
12. 名無し ■2009/03/21 00:06:57
ゆうかりん優しいよゆうかりん
13. 名無し ■2009/03/21 01:44:35
害しか撒き散らさない存在が美しい花へと変わることができたのだから
ゴミクズは感謝するべき
14. 名無し ■2009/03/21 17:28:45
あっさりしていて面白かったです。
綺麗に終わって良かった。
15. 名無し ■2009/03/26 05:54:02
幽遊白書のシマネキソウを思い出したのは俺だけではないはず
16. 名無し ■2009/04/18 22:19:03
ゆうかりんかわいいよゆうかりん
うん、魔理沙は自業自得。調子に乗って「花を操る」幽香の花畑を襲撃するからこうなる。
ええ、花は綺麗ですね。植物っていいよね。
17. 名無し ■2009/04/22 23:53:51
幽香様可愛いよ幽香様
最後のてふてふとゆうかりんに和むわー
18. 名無し ■2009/04/25 08:43:18
ゆうかりん美しすぎる。
ゆかりんは魔理沙がウザかったから助けてやっただけで
その後どうなっても知ったこっちゃねぇ感が漂ってるのが良かった。
19. 名無し ■2009/07/30 05:20:24
これはわざわざ見せびらかすように花を吹っ飛ばした魔理沙が悪い
20. 名無し ■2009/12/15 03:27:00
ひたすらにこええ…
21. 名無し ■2010/02/24 22:15:47
USC!USC!
22. 名無し ■2010/03/01 03:25:57
美しい花畑を消し飛ばしたゴミクズは然るべき報いを受けて当然だな…
幽香さんに花の育て方を教えてもらいたいなぁ……
23. 名無し ■2010/07/20 15:27:00
この憎たらしさと慌てぶりの落差が魔理沙の魅力ですね。
名前 メール
パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード