東方葬送夢 魔理沙編

作品集: 1 投稿日時: 2009/03/20 15:39:53 更新日時: 2009/03/20 15:39:53
「ん……」



薄暗い闇の中――――霧雨魔理沙は目を覚ました。

彼女の瞳がゆっくりとその焦点を合わせ、彼女の視界に映る風景を捉えてゆく。

魔理沙の目に映ったのは、まず、“闇”と“壁に掛けられた蝋燭”だった。



「ここ、どこだ……? っぐ……ぁ……!」



冷たく固い床の感触から、魔理沙は其処が自分の家ではないと気づく。

だが、記憶を探ろうと頭を働かせた瞬間――――彼女の頭をひどく重い苦痛が襲った。

二日酔いの時の頭痛か、とも魔理沙は感じたが、違う。

彼女の感じる苦痛は、頭の表面からであり、まるで殴られたような鈍痛が頭に残っていた。



「いたた……どこ、なんだよ……ここは……?」



蝋燭が壁で灯っているために、全く何も見えないほどの暗闇ではない。

蝋燭によって映し出される壁は、粗末なレンガ造りであり――――そこは まるで、地下室のようだった。



「な、なんだ……なんだよ、これは!?」



起き上がろうとした魔理沙は、自分の体を襲う二つの違和感に気づいた。


まず、一つ目の違和感は、指が動かないこと。


それも、両方の手の指が、握り拳の形になったまま、どんなに力を込めてもびくともしないのだ。

だいぶ目も暗闇に慣れてきた彼女は、両拳を食い入るように観察する。

蝋燭の光が僅かに届き、指の間に何かが詰められているのが見えた。

指が動かないため、もう片方の指の関節の部分を指の間に擦り付けると、ゴムのような柔らかい感触がする。

魔理沙は、その感触に覚えがあった。

かつて、誤って自分の指に垂らしてしまったこともある、“それ”の感触を。


「接着剤……か?」


おそらくは、指の間に詰められているのは、彼女の家にも買い置きがある接着剤。

それで、掌が握り拳のまま固められていることを、魔理沙は理解する。


チャリッ……


二つ目の違和感は――――首、両手首、両足首――――計5箇所に枷のようなものが嵌められていることだった。

そして、その枷からは鎖が伸びており、壁に取り付けられた一本の杭に繋がれている。

もちろん、力任せに引っ張ってみてもその枷は外れるものではない。

そして、指の甲など、肌で触れる限りだが――――つるっとした表面の枷には、なにか鍵穴のような細い穴が開いているようだった。



「なんなんだよ……これは……」



詰まるところ、魔理沙は完全に自分の自由を奪われてしまっているのだ。

ほとんど自由に身動きの取れない状況に、魔理沙の胸中で、恐怖めいた感情が産声を上げ始める。

尤も、気の強い彼女は、そんな感情をすぐにかみ殺したが。



カチッ――――!!



「うぁ!」



魔理沙の眼前を、急に光が多い尽くした。

さほど強い光ではなかったが、それでも、暗闇に慣れきった彼女の目には強すぎる光。


恐る恐る目を開くと……周囲には幾つかのランプが設置しており、その全てに光が灯っていた。

ランプ一つ一つは、さほど光が強くないため、相も変わらず魔理沙の周囲は薄暗い。

そして、その中心には、一人の子供がいる……と、光に眩まされた瞳で、魔理沙は人影の正体をそのように断じる。

けれども、それは子供ではなかった。

それは――――



「人、形……?」



そう、それは、白い頬に紅い渦のついた、赤と黒の目を持つ薄気味の悪い人形だった。

魔理沙の脳裏に、彼女の友人である人形遣いの顔が浮かぶ。

一瞬、魔理沙は 自分にこんな真似をしている犯人が、その人形遣いであるとも考えたが、すぐにその考えを打ち消した。



(違う……アリスの人形じゃない……)



魔理沙の知る、人形遣いは――――魔理沙が知る限りだが――――彼女の目の前のような悪趣味で醜い人形を作るような少女ではなかった。

そして、その人形遣いが――――やや思い込みの強い性格だが、それでも――――こんな悪趣味な真似をするとも思えない。



「……ん? なんだ、これ……?」



ふと、魔理沙は自分の左隣を見ると、ある“モノ”が台に固定されたまま、すぐ彼女の手の届くところに置かれている事に気づく。

更に、ある“モノ”には楕円形状のような刃がついており、その刃が彼女に向けられていた。

そんな、魔理沙の腰の高さ程の台に固定されている“それ”を見た瞬間、彼女の脳裏にある光景が蘇った。



「これって確か……“チェーンソー”だっけ? 前に、香霖堂から、借りていった……」



それは、彼女が懇意にしている道具屋――――“香霖堂”での一幕。

香霖堂の主人が、外の世界から流れ着いた“木を伐採するためのモノ”――――“チェーンソー”を店頭に並べていたのだが

魔理沙はそれを気に入り、彼の店からそれを“借りていった”のだった。

尤も、彼女はその日のうちにそれを倉庫に放り込んだきり、すっかりその存在すら忘れてしまっていたが。



「なんなんだよ、これは……」



“木を伐採するためのモノ”が、何故 此処にあるのか

そして、何故 自分に向けられているのか――――魔理沙にはまるで理解できなかった。


けれども、魔理沙は チェーンソーが 彼女に向けた形で 設置してある“意味”を うっすらと理解しかかっていた。

“道具”は、必ずしも“本来の用途”に 使われるとは限らない――――それは、目の前の チェーンソーも 例外ではないのだ。

使い方次第では、そのチェーンソーは 彼女の肉を断ち、骨を引き裂く道具ともなり得る。


周囲に立ち込める 沈黙も手伝って、魔理沙の脳裏を 嫌な予感が 塗り潰し始めていた。

その予感が、何なのかは 魔理沙自身にも わからなかったが……何か、とてつもなく恐ろしいことが、彼女の身に襲いかかりつつある。

そして、彼女の中で“正体のわからぬモノ”への恐怖が、最高潮に達しようとした、そのとき――――











『やぁ、霧雨魔理沙……ゲームをしよう』











――――突然、目の前の人形が、しゃがれた男の声で喋り始める。



「……び、びっくりした……」



チェーンソーのほうに 意識を多く裂いていたことから、魔理沙にとって人形が 喋りだしたことは まさに寝耳に水だった。

そんな、魔理沙の驚愕など露知らず、人形はゆっくりと彼女に喋り続ける。



『これまで君は、他人のモノも 自分のモノと考え、多くの者達から 大切なモノを 奪っていったな。
 ほんのわずかだけ 心の隅では悪いと思いつつも、君の“癖の悪い手”と“蒐集癖”は、君自身の意思では 抑えることをできなかったようだ』

「大きなお世話だぜ……」

『――――今日は、悪い手癖と蒐集癖から、君を解放してあげよう。大丈夫だ、“生き残る”ためには、ほんの小さなものを捨てるだけでいい』



そのとき、人形の言葉の欠片が、魔理沙の心を 僅かに揺るがした。

そう、“生き残る”と言うキーワード。

――――小さなものを捨てる?――――何を捨てるんだ?――――もし、それを捨てられなければ、死ぬことになるのか?――――

揺るがされた魔理沙の心の波紋は、不安の津波へと姿を変えてゆく。

そして、その不安は 明確な形を持った“恐怖”へと 姿を変えていた。



『君の手足を束縛している鍵は 君の足元に置いてある。ただし、急いで外したほうがいいぞ?
 “硫酸の雨”が 君の頭の上から、じわじわと降り注いで ゆくのだからな。君の名のとおり、霧雨のように。
 そして、1分後に 奥の扉は 永遠に閉じられることになる』

「りゅう……さん……?」



魔理沙の視線は、下から上へ向かって動いてゆく。

まず、足元に古めかしい造りの鍵が一つ。

続いて、部屋の奥に、開いたままにされた 頑丈そうな鉄扉が、流れるように魔理沙の瞳に映し出された。

四肢と首の縛めを解く鍵と、脱出するための扉――――それらは、今現在、魔理沙を覆っている闇の中に射した 一筋の光明であることに 疑いはない。

けれど、魔理沙の眼にそれらが映ったのは、ほんの一瞬だけ。


今し方、人形が口にした“聴き逃すことのできない単語”が、魔理沙の耳にいつまでも残っていたからだ。

その視線に、膨れ上がりつつある不安 と 恐怖を孕ませながら、彼女は恐る恐る頭の上を仰ぎ見た。



「なっ! なん だよ、これは……!!」



彼女の頭の上にあったのは、三メートル四方・高さ一メートル程度の、透明な容器。

そして、その容器の中には 大量の無色の液体が詰められており、容器の下部には シャワーの蛇口のような道具が幾つか取り付けられている。

霧雨のように降り注ぐと言うのは、おそらくガラスの容器に詰められている液体に違いない。


魔理沙の脳裏に、過去 一度だけ扱った液体と、その液体によって火傷した記憶が蘇る。

その時、彼女が扱っていたのは水で薄めた、濃度の低い“希硫酸”。

しかも、数滴指に垂れただけだったため、さほど酷い火傷にはならなかった。



――――けれど



頭上の液体が、もしも“硫酸”だったら――――

そして、もし、頭上の液体が“硫酸”だとして……それが“最大の悪意”を持って、魔理沙の頭の上から降り注いだら――――?

雨のように降りかかるであろう硫酸が、彼女はどうなるか――――



「お、おい……冗談……だろ……? じょうだん、だよな……!?」



魔理沙の背を、冷水――――いや、氷水をかけられるようゾッとした恐怖が包んだ。

生まれて初めて感じる“死の感覚”が 彼女から冷静さと奪ってゆく。

かわりに、圧倒的な速度で“恐怖”が魔理沙の心を塗りつぶしていった。



『君の目の前に、チェーンソーがあるな? それも、君が盗んだものであるはずだ。
 君が本当に助かりたいと思うならば――――そのチェーンソーを使い、“悪い癖がついた手”を開放して脱出するといい。』

「な! ちょ、ちょっと待ってくれ!!」



喚く魔理沙に、人形は冷静な口調でゲームの説明を締めくくる。




『 生 き る た め に 僅 か な 血 肉 を 捨 て ろ 。 生 か、死 か … … 選 択 は 君 次 第 だ 』




カチッ――――ギュゥィイイイイイイイイッッッ!!!



「―――― ひいっ!!」



人形の声が終わるとともに、けたたましい音が魔理沙のすぐ傍で鳴り始め、魔理沙は身を竦めながら音源に目を向ける。

音の正体は、チェーンソーが作動する音だった。

更に、チェーンソーの音に混じり、チクタクと何かが時を刻み始める音が魔理沙の耳に届く。



「痛っ……!」



不意に、魔理沙の両手をピリピリとした鋭い苦痛が襲い掛かった。

思わず腕に目を向けると、皮膚が露出している部分全体が僅かに赤く染まっていることに 魔理沙は気づく。

苦痛の原因が分からず、痛みを感じる部分をそっと指でなぞると、指の方にもヒリヒリとした痛みが襲う。



「ま、さか……」



僅かな間の後、魔理沙はゆっくりと周囲を見回す。

すると、頭上から透明な霧のような液が、目の前を通り過ぎ落下してゆく光景が目に映った。

そして、魔理沙が感じているヒリヒリとした苦痛は、過去に彼女が負った硫酸による火傷の苦痛と酷似していた。

つまり、彼女の頭の上にある液体は、本当に――――




ゾ ク ッ ……




これまでで最大の恐怖が、魔理沙の全身を襲った。

カチカチと歯の根が合わず、吐き気さえも催すほどの不安と悪寒。

魔理沙は理解した――――自分をこのような目に逢わせている犯人は



本 気 で 魔 理 沙 を “ 殺 害 す る ”つ も り だ と 言 う こ と を。



「そ、そうだ!! 鍵を!!」



魔理沙の表情に、安堵による笑みが浮かぶ。

そうだ、何を考えていたんだ。

足元に置いてあった鍵で、腕や首を繋いでいる枷をはずし、脱出すればいい――――



「え……う、うぁぁっ……! ゆ、指が! 指がぁぁっ……!!」



けれど、魔理沙は忘れていた――――彼女の指は、接着剤によって握り拳に固められていたことを。

そして、魔理沙の自由を奪っている枷の鍵穴は、両手首と、両足首。そして、首の全部で5つ。

“握り拳”では、それらの鍵を回し、枷を外すことなど、到底 叶わない。

いや、それどころか鍵を拾うことすらも出来はしなかった。

当然、魔理沙の力では その接着剤を 力技で外すことなど不可能。



「うああっ、うわぁあああああああああぁぁッ!!!!」



今度こそ、魔理沙は 恐怖に絶叫した。



「た、助けてぇっ!! 誰かぁっ! 助けてくれぇぇっ!!」



魔理沙は、恐怖に麻痺させられた思考を奮い立たせ、必死で助けを乞う。

けれど、魔理沙のあらん限りの絶叫も、誰もいない部屋の中に無情に響くだけだった。



「熱ぅっ、痛い……! 嫌だ、こんなのイヤだぁぁっ!! たすっ、たすけてぇぇっ!!! 誰かっ!! 誰かああああッ!!!!」



魔理沙の皮膚を襲うピリピリとした疼痛は、今や ジンジンとした苦痛へと姿を変わっていた。

彼女の両腕は既に濃い赤色に染まりつつあり、皮膚が強酸によってゆっくりと溶かされつつある。

また、彼女の身体を覆っている黒白の服や帽子にも、至る所に小さな穴が穿たれていた。

その穴が更に大きくなり、魔理沙の全身に硫酸の霧雨が降り注ぐのも もはや時間の問題だろう。



(嫌だぁ……まだ死にたくない……!! どうすれば……どうすれば――――)



魔理沙は助けを 呼ぶことを諦め、脱出するためには どうすべきか 必死に頭を働かせていた。

その時、ふと魔理沙の脳裏に 人形の言葉が浮かんだ。



―――― 君が本当に助かりたいと思うならば、そのチェーンソーを使い ――――



ギュィィイイイイイイイイイインッ!!!



「そ、そうだ!!」



魔理沙は思わずそう叫び、回転するチェーンソーの刃に 自分の手枷を押し当てた。



ガガガガガガガガッ!!



チェーンソーは魔理沙の手枷を切断せんと、激しい音を掻き鳴らしながら火花を散らす。



「くっ、そ、そんな……!!」



けれど、10秒ほどチェーンソーに押し当てられた手枷を見るも、そこには傷一つすらもついてはいなかった。

これでは、手枷を切ることなど、夢のまた夢だろう。

魔理沙の顔に、さらなる絶望が宿る。



――――“悪い癖がついた手”を開放して脱出するといい――――



先ほど人形が口にした言葉の続きが、魔理沙の頭に浮かび、彼女は顔を青ざめさせた。

それは、このひどく悪趣味な拷問を考えた者の意図そのものであり――――

即ち、『握り拳になっている指と指の間をチェーンソーで切断し、解放された手で鍵を外す』ということ。



「“僅かな血肉を捨てろ”っていうのは、このことか……!!」



けれど、ぴったりとくっついたまま固定された指の間を、チェーンソーで切り離すことは

彼女の皮膚や肉、ともすれば骨も犠牲にしなければならないだろう。



「だいじょうぶだ……指の間をどれか一つ切るだけでいいんだ……」



自分に言い聞かせるように 言葉を口にしながら、魔理沙は恐る恐る指をチェーンソーに近づけてゆく。

そして、チェーンソーの刃が、魔理沙の指に触れた瞬間――――



ガリガリガリガリガガガガガガガッ!!!!



「うぎっ、ぎゃあああああああああああぁぁっ!!」



回転するチェーンソーの刃に、ほんの少し触れただけで、魔理沙の指の肉が削ぎ落とされ骨まで削られる。

文字通り、自分の体を引き裂かれるような苦痛に、魔理沙はポロポロと涙を流した。


あまりの苦痛に発狂死しそうになるも、なおも続くチクタク音が、魔理沙に自分の指の間を裂くことを強制した。

おそらく、もう時間は ほとんど無いはずだ――――と、魔理沙は歯を食いしばりながら、もう一度刃に指の間を宛がう。

だが、その光景を見たくない一心で目を閉じたことと、苦痛と恐怖で強く震える身体が彼女に取って災いした。



バシュッ――――



「……え?」



魔理沙の頬を、何かが掠めた。

次いで、彼女の手を襲うのは、何か熱いものが流れる感覚。

もっとも、魔理沙の視界は涙で滲んでおり、ほとんど何も見えなかった。


硫酸が被っていない袖の下側で涙を拭い、視界をはっきりさせると――――魔理沙の眼には、親指と人差し指がすっぱりと切断された姿が映る。

そして、その切り口から間欠泉のように、赤い血液がドクドクと流れ出ていた。

目を閉じてしまったため方向と距離感が掴めず、身体の震えがあまりにも大きかったため、親指と人差し指を切断してしまったのだ。



「ひ――――ぎゃああああああアアアアアアアアアアァァッ!!!!」



ギィィ――――ガシャン!! ――――ガチャッ!!



魔理沙が苦痛の絶叫を上げるとともに、部屋の扉が派手な音を立てて閉まり、チェーンソーも動きを止める。

気づけば、チクタクという音も止んでおり、魔理沙は自分が間に合わなかったということを悟った。



「うぅあああああぁぁぁっ!! い、嫌だ!! 嫌だぁっ!! 出してっ! ここから出してくれぇっ!!」



その間にも、魔理沙の頭上からは硫酸の雨が降り注いでおり、彼女はほとんど半裸と呼んでも差し支えのない姿となってしまっていた。

魔理沙の皮膚は、既に真っ赤な血の色へと変わりつつあった。

薄皮が完全に溶かされ、赤い血液だけでなく肉さえもが見えてきている。



「お願いだ!! もう二度としないからぁ!! 借りた――――いや、盗んだものも みんな返すからぁっ!
 もう二度と、人のものを勝手に持って行ったりしないからぁぁっ!! だから許して!! 助けてくれぇぇっ!!」



泣きじゃくりながら、必死で許しを乞う魔理沙。

けれども、その声も部屋の中に空しく響くだけだ。

彼女には許しの手も、救いの手も差し伸べられることはない。



(嫌だ、嫌だイヤだいやだ嫌だイヤだ……死にたくない、死にたくないよぉっ!!!)



眼前に迫りくる死の恐怖に耐えきれず、とうとう魔理沙の心は折れてしまう。

頭を抱え、震えながら蹲った瞬間、彼女の太腿の付近に何か固い物が当たった。



「……? ――――!! ――――もしかして!!」



その瞬間、彼女の脳裏に閃くものがあった。

急ぎ、エプロンドレスのポケットを探ると、彼女の手に確かな感覚が返ってくる。



「――――しめた!」



エプロンのポケットの中にあったのは、彼女の愛用の八卦炉。

それと一緒に、恋符『マスタースパーク』のカードが2枚入っていた。



(1枚で 私の身体を繋いでいる枷を外して、もう1枚で扉を破壊すれば――――!!)



魔理沙が、愛用の八卦炉を――――指が固められているために、握ることはできないが――――しっかりと手に持った。

背後を振り返り、枷から伸びている鎖を繋ぎとめている杭そのものに狙いを定める。

幸い、枷から伸びている鎖は、壁に取り付けられた一本の杭によって一箇所に纏められていた。

魔理沙は、ともすれば苦痛で散りそうになる集中力を必死でかき集め、フルパワーで魔力を集中させる。

そして――――



「マスタァァ――――スパァァ――――ク!!」



ドゴォォォォォンッ!!



――――魔理沙の渾身のマスタースパークが杭に――――そして、その背後にある壁に直撃した。



「ど、どうだ……?」



凄まじい破壊音の後、もうもうと立ち込める煙が晴れると、枷の鎖を繋いでいた杭はおろか 大きく穿たれた壁が姿を現す。

魔理沙が腕を大きく動かすと、繋がれていない鎖がチャラチャラと音を立てた。



「はぁ、はぁ……っ。ははは……やった」



荒い息をつきながら、魔理沙は口元に笑みを浮かべる。

後は、ここから脱出すればいいだけであり、火傷も永遠亭の薬師に診せればすぐ治るだろう。

安堵から体中の力が抜けてしまいそうになるも、魔理沙は枷がついたままの手足をのそのそと動かし、硫酸の雨から逃れようとした。




ビキィッ――――……!!



「え?」



けれど、魔理沙は知らなかった。

魔理沙が破壊した“杭”が取り付けられていた壁は、硫酸の水槽と完全に密着した状態で設置されてあったことを。

そして、硫酸が詰められていた容器は。一か所に亀裂が入るだけで、その亀裂が全体にまで回ってしまう程に脆い素材で造られていたことを。

更に、水槽の底部は、それに輪をかけて脆い造りにしてあったのだ。



「ま、さ……か……」



つまり、例えば“マスタースパーク”のような強烈な攻撃が壁に直撃すれば、連鎖的にその衝撃は水槽の壁に密着している部分にも伝わる。

そして、その衝撃は、水槽に亀裂を刻み――――その亀裂は水槽の底部にも伝わる。

そうなると、もともとの造りが脆い水槽底部はどうなるか――――

魔理沙がそれに気づいた時には、もう遅かった。



バキィィッ――――バシャァァァッ!!



「っぎゃあ”あ”あ”あ”あ”あ”!!! ぐぎぃぃぃぃイイあああアアアァぁぁアああッ!!!!!」



水槽の容器の底が割れ、硫酸が滝のように魔理沙の頭上に降り注いだ。

全身に酸を浴び、魔理沙はこの世のものとは思えぬほどの悲鳴を搾り出す。

生皮を剥がされた後に塩を塗り込められたかと思えるほどの苦痛の最中、魔理沙はそれでも必死に生き延びることだけを考えていた。



――――まだ 大丈夫 永琳に 見せれば なおしてくれるはず だから 早く ますたーすぱーくで とびらを こわして ここを だっしゅつして そして……



そんな、かすかな希望を胸に、目を開いた魔理沙が目にしたのは――――



「うぁ……ぁ? ああああああっ……や、だ、ああぁぁぁ……そん、な、うぁ、ぁあああっ……」



彼女が、命の次に大事にしている八卦炉――――扉を吹き飛ばし、脱出するための最後の“希望”――――が酸によって、その半分以上が無残に侵食された姿。

そして、もはや二度と元には戻らないと確信させるほどに黒く焼け焦げ、赤い肉とともに骨すらも見え隠れしつつある自分の腕だった。



「ぐぁ、あ、目が……目が……うあああぁぁ……!!」



硫酸が魔理沙の額を伝って、目に入った。

彼女の目に映る世界すらも永遠に奪われる。



「ごほっ……ぐぅー……ああ……ああぅぅ、うぁあううぅ……」



魔理沙の口から体内に硫酸が入り、喉に流れ込んだ。

声帯が焼き尽くされ、魔理沙は声を出すことすらも叶わなくなってしまった。



(いたい、くるしい、しにたくない、たすけて、だれかたすけて、もうしないから、だれか――――)



圧倒的な死の恐怖の中、魔理沙の心を絶望の闇だけが包み、魔理沙の意識は次第に薄れてゆく。

ここからは逃げられない。

そして、仮に逃げることができたとしても、元の自分は永遠に戻ってくることはない。

ふと、魔理沙の脳裏に、実家を飛び出した時のこと、人形遣いと出会った時のこと、七曜の魔女に出会った時のことが次々と思い起こされる。

それらが、死の前に見る走馬灯と悟った瞬間、酸によって焼き尽くされたはずの涙腺に再び涙が浮かんだ。



(イヤだ、しにたくない しにたくない しにたくない しにたくな――しに―くな―しに―――――し―――――)



そんな、深い絶望の中――――意識を手放す瞬間に、彼女は確かに その“人形のものではない声”を耳にした。





「―――― ゲームオーバー」
前にココのうpろだに置いておいたんですが、せっかくなのでこっちにもうpしときます。

恐怖に泣き叫びながら、命乞いする気の強い女の子ってイイよね。
気が向いたら、別のキャラも書いてみよう。
変態牧師
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2009/03/20 15:39:53
更新日時:
2009/03/20 15:39:53
分類
魔理沙
残酷グロ
拷問
1. 名無し ■2009/03/20 18:35:07
どっかで見たわこの話
2. 名無し ■2009/03/20 18:46:30
ジグソウw
3. 名無し ■2009/03/20 19:23:35
わぉ。俺のいいトラウマ。
いつ見ても素晴らしいです。
4. 名無し ■2009/03/20 20:30:13
これは素晴らしい!!
アリス編もお待ちしています。
5. 名無し ■2009/03/20 21:20:19
硫酸うめぇ
6. 名無し ■2009/03/21 01:48:49
SAW自重
ってゆーか、絶対誰かやると思ったが
東方でSAW系は初めて見た
7. ガンギマリ ■2009/03/21 11:51:45
アラスカ帰りのチェインソウー
8. 名無し ■2009/03/22 10:33:04
SAW大好きなんですごくご褒美です
9. KEARA ■2009/03/23 15:32:38
映画であったなこれw
でもシチュエーション好きだったりする。
この犠牲の元に成り立つ何かってのが
10. 名無し ■2009/07/05 10:41:16
八卦炉はヒヒイロカネ製だから硫酸じゃ腐食しないんだよぉ
せめて王水だしてくれろ

ドロドロのまりさの隣にはこびりついた手垢が溶けてピカピカの八卦炉の姿が…

でも面白がったれす
11. NARIKO ■2010/01/31 22:00:53
なぁこんなことするとはお前ら本当に狂っているな
12. ムスカ ■2010/03/01 13:18:46
目がぁぁぁぁっ……!!
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