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『さかな』 作者: 紅魚群

さかな

作品集: 1 投稿日時: 2009/04/15 16:04:24 更新日時: 2009/04/16 01:04:24
博麗神社地下







「見えない…見えないよぉ…。」

真っ白な部屋の中で、ルーミアが両目から血を流して右往左往歩いているのを、
マジックミラーで区切られた隣の部屋から、霊夢、魔理沙、早苗が酒を飲みながら楽しげに観賞していた。

「闇の妖怪でも、目が見えないと困るみたいね。」
「光があるから、闇があるってか。」
「あは、それ面白いですね!」

3人が談笑する。机の上には、日本酒やワイン、ウイスキー等、あらゆる種類の酒が並べられており、
他にも、何やら沢山のボタンがついた大きな機械が置いてあった。
霊夢はその中の"地雷"と書いてあるボタンを押すと、マイクに向かって優しく話しかける。

『ルーミア、こっちの壁まで歩いて来れたら、特別に助けてあげるわ。』
「ほ、ほんと?」

生きたい。ただそれだけのために、霊夢の言葉を信じてトコトコと声のする方へと一生懸命歩いていくルーミア。
だが魔理沙は笑いを堪えることができなかった。ルーミアの歩いていく先には、床一面に地雷が設置してあるのが見えるからだ。

『ズガァァァァァーン!!!』

地雷を踏んでルーミアが木っ端微塵に吹き飛んだ。
後には、元ルーミアだったと思われるいくつかの肉片が、床に散らばった。

「残念でした。嘘はついてないわよね。」
「あははは!霊夢、お前いい趣味してるぜ。」
「ほんと最高ですね!早く次いきましょう、次!」

散らかった部屋を片付けるために、霊夢は"清掃"ボタンを押した。
すると、隣の白い部屋の床のタイルすべてがクルリと回転して肉片が下に落ち、元の綺麗な部屋に戻った。

「じゃあ次行きましょか。」
「誰だろうな。」
「誰でしょうね。楽しみです。」

先ほどと同じ要領で今度は"呼び出し"と書かれているボタンを霊夢は押した。
すると拷問部屋の天井に穴が開き、そこからストンと誰かが落ちてくる。
小柄な体格。氷の羽。青いリボンがトレードマーク、氷精チルノだ。

「あれ、ここどこ?大ちゃんは?」

つい先ほどまでは霧の湖で大妖精と遊んでいたであろうチルノは、突然見知らぬ部屋に連れて来られて、きょとんとしている。
無論マジックミラーによって、チルノからは霊夢達の姿を見ることはできない。

「チルノとはまた馬鹿が続くわね。さて、どう料理する?」
「チルノかぁ。そりゃあやっぱ料理なだけに…」
「火ですかね。」

満場一致。

霊夢が"加熱"と書かれているボタンを押すと、ゴオオオオっという重い機械音が床全体から響き渡りだした。
その音に、チルノがビクッと反応する。

「な…何?何の音?」

普段は生意気なチルノも、見知らぬ場所でたった1人だと流石に心細いのか、怯えたような表情で部屋の隅に走り寄り辺りを見回している。
だがすぐに、チルノは部屋の異常に気付いた。足にチリッと痛みが走ったからだ。
慌てて飛び上がり、天井に避難した。

「!!床が熱くなってる!?」

間違いない。下からむわっと熱気が上ってくるのも分かる。

状況がわからずしばらくは呆然として天井でじっとしていたチルノも、床が熱を帯び部屋の温度が上昇するにつれ、徐々に危機感が込み上げてきた。
頬を水滴が伝い、全身がべったりと湿ってくる。体が解け始めていた。
何か脱出の手立てはないかと、もう一度チルノは辺りを見回した。鏡以外は何もないが…そう、鏡があった。
鏡を割れば、もしかしたら向こう側に何かあるかもしれない。思うが後か、チルノはすぐさま鏡に向かって弾幕を放った。
が、無駄だった。
パラパラと氷弾が弾かれて、むなしく床に散らばって蒸発した。

「え…?うそぉ…?」

もう一度撃ってみるが、やはり無駄。熱気のせいで、威力も相当落ちてきていた。
チルノは自分の手を見た。表面が解けて、いよいよ水に変わり始めてきている。

「ひっ…や、やだ!とけちゃう!!」

チルノは必死で部屋中を飛び回り、出口を探した。だが、そんなものは当然見つからない。一面ツルツルの穴ひとつない壁だ。
壁にも一応弾幕を撃ってみるが、鏡同様無意味だった。

「ひっぐ…あついよぉ…あついよぉ…!!お願い…誰かぁ…出してぇ!」

部屋の温度も60℃をまわり、滝のようにチルノから水が滴り始めた。床に落ちた水滴がジュッ、ジュッ、と蒸発する。

「うぇえぇぇ……大ちゃん……ルーミアちゃん……。ぐすっ………誰か助けて…、出してぇ……あつい、あついぃ……。」

チルノは泣きじゃくりながら何度も壁を叩き続けた。その間にも、室温はみるみる上昇する。
それに従い徐々にチルノの声もか細くなり、動きも緩慢になってくる。どんどん体がとけていき、腕や足が形を成さなくなる。
羽が解け落ちたところでもう飛ぶこともできなくなり、苦痛と絶望に塗れた表情で、そのままドシャっと床に落ちた。

「い゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!!!」

ジュウウウウと大量の蒸気が上がり、チルノは床にめり込むようにしてあっという間に蒸発していった。

ここで、これまで大人しくその様子を観ていた霊夢、魔理沙、早苗の3人が、どっと笑う。

「おい霊夢、聞いたか!?あの生意気なチルノが『大ちゃんルーミアちゃん助けてー』だってよw」
「でも氷精にしてはがんばったほうじゃない?床温度350℃、室温100℃。人間でも勘弁よ、こんな灼熱サウナ。」
「わぁ…、私こんなにお酒がおいしいと思ったの、初めてですよ。」

早苗が度数の低いリキュールを飲みながら、のぼせたように言った。

「人の不幸は蜜の味ってか。ラム酒が合いそうだな。」
「あいにくラム酒はないけどね。」

早苗に対して霊夢と魔理沙は、顔色一つ変えずに酒を口に流し込んでいる。
霊夢は手際よく機械を操作して、拷問部屋の温度を常温に戻した。

「じゃあ次行きましょっか。今度は誰かしらね。」
「この流れだとリグルとかか?」
「バカばっかりも飽きますから、そろそろ変化がほしいですよねぇ。」

ターゲットの選定は、コンピューターが自動で行っていた。霊夢達にできるのは、呼び出しボタンを押すという行為だけだった。
だが全くのランダムというわけでもなく、ある程度の法則性があるということは、これまでの呼び出しでなんとなくは分かっていた。

霊夢達の頭の中には、すでにチルノのことは無くなっていた。次のターゲットは誰なのか。ただそれだけが、この瞬間の楽しみなのだ。
霊夢が期待と願望を込めて呼び出しボタンを押すと、隣の部屋の天井が開き、今度は何人かがドカドカと折り重なって落ちてきた。
全員が目を見張る。

「いたた…、なんなのよ、一体…。」
「さくや〜、重い〜。」
「も、もうしわけありません、妹様!」
「むきゅ〜…。」
「ど、どこですか?ここは?」

落ちてきたのは、レミリア、フランドール、咲夜、パチュリー、美鈴の、紅魔館の面々だった。
思わぬ大物達の登場に、ワッと3人が歓声を上げる。

「きた!紅魔館きた!これで勝つるわ!!」
「一気に5人とは、こりゃまた贅沢だな!!」
「テンション上がってきました!!フヒヒ!」

興奮した早苗が貧乏ゆすりを始め、カタカタと机が揺れる。霊夢が肘打ちを入れると、大人しくなった。

一方の紅魔の5人は皆立ち上がって、一面だけ鏡になっている真っ白な部屋の中を、きょろきょろ見回していた。

「何よここ。パチュリー、また貴方の変な魔法のせいじゃないでしょうね。」
「私は何もしてないわ。本を読んでただけよ。」

ほんとかしら、と怪訝な顔をするレミリア。心外だとばかりにパチュリーがムッとする。

「他の皆は何をしてたの?」
「お部屋で遊んでた。」とフラン。
「館の掃除をしてました。」と咲夜。
「ちゃんと門番をしてました。寝てないです。」と美鈴。
「…いつもどうりね。」

うーん と、顎に手を当てて考え込む。しかし考えたところで、心当たりなどない。

「ねえパチェ、これも異変ってやつかしら?」
「だから私に聞かないで。こっちが知りたいくらいなんだから。」

部屋を見回りながら、イラついたようにパチュリーが返す。
その手には魔導書が開かれており、おそらくは部屋の魔力や結界を調べているのだろう。
咲夜と美鈴も、何やら熱心に話し込んでいる。フランだけは、退屈そうに部屋の中を歩き回っていた。
レミリアは思った。こういうときこそ、主としての対応を迫られるものだと。同時に、威厳を取り戻すチャンスでもあると。
レミリアは手をパンパンと叩いて皆の注目を集めた後、声を大にして言った。

「みんな!とりあえずここから出ることを考えましょ!じっとしてても何も始まらないわ!」
「そうは言うけどねレミィ、どうやって出るのよ。見ての通り出口はないわ。」
「ふふん。出口がなければ、作ればいいじゃない!」

待ってましたと言わんばかりにレミリアはニヤッと笑うと、鏡の方を向いて右手を上げた。
他の4人もレミリアが何をしようとしているのか悟って、慌てて壁際に避難する。

「神槍『スピア・ザ・グングニル』!!!」

膨大な量の魔力が集まり、レミリアの右手に巨大な紅い槍が現れた。スピア・ザ・グングニルは、レミリアの持つ最も威力の高いスペルカードだ。
レミリアはそれを振りかぶると、思い切り鏡に向かって投げつけた。
全員予想しうる破壊音にそなえ、耳を塞ぐ。しかし、事態は皆の予想外だった。耳を塞いだのは、正解だったが。
ガキィンと凄まじい音とともに、槍が弾かれたのだ。

「は…?」

レミリアがぽかんと口をあけて驚く。
慌てて走り寄って確認してみるが、鏡には傷ひとつ付いていなかった。

「そ、そんな…馬鹿な…!」
「お姉さま格好悪〜い。」
「…フ、フラン!この鏡をあなたの能力で壊しなさい!」
「え、キュッとしてボカーン使ってもいいの?…怒らない?」
「怒らないから!ご褒美もあげるから、早く壊して!」
「はーい。」

能力の危険さゆえに本来は使用を禁止していたが、今となってはそんなことも言ってられない。
レミリアに壊せないのなら、フラン以外に可能性はなかった。

フランは久々の能力使用に若干緊張しながらも、鏡に"目"の狙いを定め、手をギュッと握った。
こうすることで、彼女はあらゆるものを破壊することができるのだ。

「あれ…?」

ところが、手を握っても鏡には亀裂ひとつ入らなかった。
再度手を握ったり開いたりと繰り返すフラン。しかし相変わらず何も起こらない。

「おかしいなぁ…。」

ためしにと今度は先ほど弾かれて床に転がっている槍に狙いを定め、握った。するとすぐさま槍は砕け散り、バラバラになった。
能力が使えないわけではなかった。だが何故か鏡だけは壊すことはできない。

「そんな…フランの能力でも壊せないなんて…。一体何でできてるのよ!」
「妹様、壁の方は無理なんでしょうか?」
「今やってるけど、やっぱり壊れないよ。」
「魔力的なものも何も感知できないわ。八方塞がりね。」
「う〜…。」

がっくりと項垂れるレミリア。咲夜と美鈴も、不安げな表情を浮かべる。
とはいっても、どうせ誰かが助けに来てくれるだろうと、皆どこか楽観的ではあった。
いままでこの幻想郷においては、異変や事件は解決されるべくして起こり、往々にして解決されてきたからだ。
この紅魔館の住民達も、そのことを重々に知っていた。
だからまさか命の危機が迫っているなどとは、誰も夢にも思わなかった。

そんな紅魔の面々を尻目に、魔理沙が退屈そうに口を尖らせて言った。

「おい霊夢、いつまでおあずけなんだ?酒が冷めちまうぜ。」
「そうですよ!はやく虐めちゃいましょうよ!」
「分かってないわね。こうやって状況把握の猶予を与えるのも、後々のお楽しみのためよ。」
「後々って、いつだよ。」
「今、かしら。」

霊夢がトントンと"SUN"と書かれているボタンを指差す。
魔理沙と早苗が待ってましたと言わんばかりにニヤッと笑って親指を立てたのを確認すると、霊夢はそのボタンを押し込んだ。
すると突然隣の部屋が、新星爆発でも起こしたかのような眩い光に包まれた。予想以上の眩しさに、魔理沙と早苗も思わず目を覆う。

「ぎゃああああああ!!!!」
「いやああああああ!!!!」

発光と同時に、レミリアとフランが悲鳴をあげた。
苦しみ悶える2人の体から、モクモクと煙が上がる。この光が吸血鬼の弱点、太陽光線であることは、誰の目にも明白だった。

一瞬目がくらんで対応が遅れたが、咲夜は電光石火でレミリア達に駆け寄ると、メイド服を脱いで2人の体にそれを被せた。
勿論レミリア達を光から守るためにそうしたわけだが、覆いきるにはまだまだ服の面積が足りなかった。
部屋は壁だけでなく、床や天井も発光しているのだ。完全に露出部を包まなければ、意味はない。

「美鈴の服も!!早く!!」
「は、はい!」

唖然としていた美鈴も慌てて服を脱ぎ、咲夜に渡す。
美鈴の服も合わせて、なんとかレミリアの体は直光から守ることができたが、まだフランの両足の分が足りなかった。
咲夜も美鈴も下着姿になり、あと残るはパチュリーの服だけとなった。

「パチュリー様の服も貸してください!」

なにかとヒラヒラしているパチュリーの服なら、残りの部分を覆い隠すにも足りるだろう。
とりあえず今はレミリア達の安全を確保するが、咲夜にとっての最優先事項だった。

しかしいつまでたっても、パチュリーは服を脱ごうとしなかった。

「パチュリー様!?早く服を…」
「嫌よ。」
「は?」

聞き間違えかと咲夜は顔を上げた。
眩しくてほとんど目は開けられないが、うっすらと壁を背に立っているパチュリーの姿が見えた。

「パチュリー様?今、なんと…?」
「嫌、と言ったの。恥ずかしい。」
「な…?―――この緊急時に何を言ってるんですか!?」
「こんな得体の知れない場所で裸になるなんて、絶対嫌よ。」
「そんな!早くしないと、妹様の足が灰になってしまいます!!」
「蝙蝠1匹分の欠片でもとっとけば、吸血鬼は死にはしないわ。」
「そういう問題ではないでしょう!?」

焦りと怒りで思わず声を張り上げるが、パチュリーは相変わらず淡々と言葉を紡いだ。
咲夜がいくら説得を試みても、そのままピクリとも動こうとしなかった。

「いちいち大げさなのよ、咲夜は。」
「…見損ないました、パチュリー様。」

咲夜は背中に手を回すと、ブラジャーのホックを外した。ショーツも脱ぎ、その僅かながらの生地を、フランの足に巻きつけた。
美鈴もどうしようかとオロオロしていたが、流石に全裸になるのはためらった。


「あのメイド全裸になりましたよ。あそこまでいくと、もう病気ですねぇ。」
「何言ってるのよ。涙ぐましい忠誠心じゃない。」
「でもパチュリーのセクシーボディは見たかったぜ。」

サングラスをかけた3人がのんびり見ている先では、咲夜とパチュリーの間で険悪な空気が流れ始めていた。

「下着まで脱いで、私へのあて付けのつもりかしら?いやな人ね。」
「友人が苦しんでいるところを、そんな平静としてられる神経の方がどうかと思いますが。」

普段の咲夜からは考えられない棘のある言葉に、パチュリーの眉がピクッと上がった。
咲夜がパチュリーに敬意を払っていたのも、あくまでレミリアの親友だったからにすぎなかった。
今の咲夜には、パチュリーのことがただの裏切り者にしか見えなかった。

「咲夜…。」

レミリアが弱々しく従者の名前を呼んだ。布で包まれていても、いくらかの光は透過する。この強烈な光のダメージは、想像以上に大きかった。
咲夜はその小さな声を聞き漏らすことなく、すぐさまレミリアに駆け寄った。

「申し訳ありませんお嬢様…、妹様の足の分が…。」
「私の足はいいから…フランのをお願い……咲夜。」
「……………わかりました。」

咲夜はレミリアの足を包んでいる服を取り、灰になりかけているフランの足を代わりに包んだ。
しばらくも待たず、レミリアの両足は灰になった。

「お姉……さま……?」
「…大丈夫よ、フラン。光が当たるから、じっと…してなきゃダメよ…。」

レミリアが優しく言った。フランは小さく頷いて、きゅっと体を丸める。
透過した光のせいで、2人の体の表面にはすでにヒビが入り始めていた。もうそんなに長くは持たないかもしれない。


「霊夢さん、このままあの吸血鬼がくたばるのを眺めてるだけですか?」
「そうだぜ、折角なんだから、もっとこう………ん?霊夢、なんだそれ?」
「心配御無用。ちゃんと次のギミックは用意してあるわ。」

霊夢は懐から小さな機械を取り出し、マイクに取り付けた。

「これは変声器っていってね、読んで字の如く声を変える機械よ。私の声だとどうも緊張感に欠けるみたいだから。反抗してくる奴もいたし。」
「へー、外の世界には面白い物があるんだな。」

興味深そうに変声器を覗き込む魔理沙。
霊夢は変声器がちゃんと取り付けられていることを確認してから、マイクのスイッチをオンにした。

『あーあー、諸君、聞こえるかね。』

部屋に響く低い男の声に、咲夜達が天井を見上げた。

『諸君の命は私が預かっている。命が惜しければ、私の言うことには逆らわないことだ。』
「この光は貴方が出しているのね!?」

物怖じする様子もなく、いきなり咲夜が噛み付いてくる。

『質問に答える義務はない。』
「ふざけないで!今すぐ光を止めなさい!」
『…十六夜咲夜、お前はもう少し賢明だと思っていたが、こうしなくては分かってもらえないようだな。』

カチンと何か音がしたかと思うと、突然美鈴の足元から無数の槍が突き出した。
あまりに咄嗟のことだったのでいくら美鈴といえど反応できず、無残にも槍の餌食となる。
ある槍は足を刺し、ある槍は腹を突き破り、ある槍は股から口へと貫通して美鈴の体を突き破った。
蛇口を捻ったように血がこぼれだし、一瞬にして美鈴の周りは真っ赤な血の海になった。

『光を止める義務もない。言ったはずだ、お前達の命は私の手の中だと。言葉には気をつけたまえ。』
「きゃあああああああ!!!!美鈴!!!美鈴!!!!」

咲夜が悲鳴を上げる。
無数の槍で串刺しにされた美鈴。槍で開いた頭の穴から、脳みそがこぼれ出ていた。いくら妖怪とはいえ、もはや生存は絶望的だった。

流石のパチュリーも恐怖で蒼白な顔をしている。
咲夜が反抗したにもかかわらず、美鈴が殺された。運が悪ければ、自分がああなっていたかもしれない。
パチュリーは自分の足元を見た。今にも槍が飛び出してきそうで、恐ろしくてたまらなかった。
だが仮に飛び出してきたところで、パチュリーに逃れるすべはない。この部屋に、安置などなかった。


「なんか霊夢の奴、役にはまってるな。」
「まさに悪役って感じですね。くふふ、面白くなってきました。」

魔理沙と早苗もすっかり機嫌を直して、美鈴の死体を肴に酒を飲む。
当の霊夢も、このやり取りをひどく楽しんでいた。

『状況はわかったかね?まだわからないようなら、次はそこの吸血鬼どもを殺してもいいが…』
「や、やめて!!お嬢様達にだけは手を出さないで!!!」
『なんかそう言われると、逆に殺したくなってくるな。』
「お願いします!何でもしますから!どうか…お嬢様と妹様だけは…助けてください。」
『ほう、"何でも"するか?』

霊夢はマイクのスイッチをオフにし、魔理沙達の方を向く。
作戦タイムである。

「"何でも"やるんですって。」
「ウンコ食えって言っても今ならきっと食べるぜ、咲夜の奴。」
「そんなの別に見たくないですよ。それより、私いいこと思いつきました。」

早苗が2人に耳打ちする。
早苗の言うことなので大した期待もしていない2人だったが、聞いてみて ほぉ と、霊夢が感心の声を上げた。

「早苗にしては珍しくいい案ね。」
「ウンコも捨てがたいけど、悪くないな。」
「でしょ?でしょ?」

ニヤつきながら得意げに話す早苗。調子に乗りそうだったので、2人はそれ以上相手にするのはやめておいた。

早速霊夢が機械を操作して、1本のナイフを咲夜達のいる部屋に落とした。
チャリンと音を立てたそれに全員の視線が集まったのを確認し、霊夢は再び変声器をオンにしてマイクに話しかけた。

『そのナイフでパチュリーを殺せ。そうしたらこの光を止めて、その吸血鬼どもは助けてやる。ただしこれを拒否した場合、その吸血鬼の命はない。』
「な!?」

声を上げたのは、パチュリーだった。
慌てて咲夜の方に視線を向ける。そこにはいつのまにかナイフを握り、無表情でパチュリーを見つめる咲夜がいた。
張りつめる殺気に、パチュリーの全身にグッと力が入った。

「咲夜、本気なの?私を殺したって、あいつが到底約束を守るとは思えないわ。」
「お嬢様は、この咲夜が護ります。」
「…言っても無駄なようね。まあ、私を殺せたらの話だけど。」

口では強がっても、パチュリーの足は震えていた。
ここ何十年…いや、本当の意味での殺し合いなど、パチュリーはしたことがなかった。
しかもあの十六夜咲夜が、私に牙をむいているのだ。
おいしい紅茶を淹れてくれた、ときには一緒にお茶を飲みながら他愛もない話もした。完全で瀟洒な従者。
その咲夜が、今私を殺そうと牙をむいている。
考えたくもない光景だった。だが、それが現実だった。

殺らなければ、殺られる。
恐怖をかみ殺してパチュリーも意を決すると、戦闘用の魔導書に切り替――――

霊「あ」
魔「あ」
早「あ〜あ」

比喩ではなく、本当に瞬く間だった。
パチュリーは何が起こったのか分からなかった。突然咲夜が目の前に現れ、その腕が自分の首に伸びている。
その手には、先ほどのナイフ。パチュリーの喉に、ナイフが刺さっている。

「え………!?がはっ………!!」
「お嬢様は、私が護りますから。」

咲夜はパチュリーの喉に刺さったナイフを、一気に引きおろした。
ブチブチと筋肉や神経の切れる音とともに、パチュリーの体に赤い縦一文字ができた。
手に持っていた魔道書が床に落ち、ドバッと血が降りかかって赤く染まる。
咲夜が腹まで引き下ろしたナイフを抜くと、ドロリと傷口から内臓がこぼれ出てきた。
バランスを崩したパチュリーはそのままドシャッと仰向けに倒れ、動かなくなった。
まさに一瞬の出来事であった。

咲夜は無表情のまま、天井を見上げた。

「…さあ、殺したわよ。約束どおりお嬢様達を…」
『…。』
「何してるの!?早く…―――」
『…ぷ、あはははははははははははははは!!!!!!!』

突如爆笑する霊夢。魔理沙と早苗も、急に笑いだした霊夢に驚き、顔を見合わせる。

「れ、霊夢さん…?」
「おい、霊夢。何をそんなに笑ってるんだ?まあ面白いのはわかるけどさ。」
「くふふ…。だって見てみなさいよ、あの服の塊(笑)」

霊夢が、レミリアとフランの包まれている服の塊を指差した。
それを見て魔理沙と早苗も、霊夢が笑っている理由を理解した。同時に、2人の顔もにやける。


「わ…笑ってないで、まず光を止めて!約束よ!」
『わかったわかった。光は止めてやる。』

霊夢が機械を操作すると発光はおさまり、部屋は元の明るさに戻った。
咲夜の顔にも安堵の表情が戻る。

「さあお嬢様、妹様、もう大丈夫ですよ。光は止みました。」

咲夜はレミリアとフランに駆け寄り、2人を包んでいた服を取った。
しかしそこにはレミリアとフランの姿はなかった。代わりにあったのは、―――――灰。

「あら?お嬢様、どちらへ行かれたんですか?」

部屋を見回すが、串刺しの美鈴と、体の割れたパチュリー以外は、誰もいなかった。
もう一度灰の方を見る。レミリアとフランのいた場所に、ちょうど2つ灰の山ができていた。
灰を手ですくってみると、指の間を抜けてサラサラとこぼれた。

「あ…、あ…、あ」

灰の中に手を突っ込み、蝙蝠一匹分の欠片を探して我武者羅に掻き乱す咲夜。
しかしいくら探しても、灰以外はなかった。



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」



咲夜は泣いた。大声で泣いた。
洪水のように押し寄せてくる悲しみを、抑える手段も理由もなかった。
溢れた悲しみは涙となって、咲夜の眼から流れ出す。
涙がポタポタと灰の上に落ち、浸み込んで黒い点を作った。
だが奇跡は何も起こらない。灰は灰のままだった。

どのぐらいたっただろうか。
咲夜は急にピタッと泣き止むと、先ほどのナイフを取り出した。

「お嬢様、妹様。咲夜は、どこまでも、お供します。」

咲夜はパチュリーにしたのと同じように、自らの喉にナイフを突き刺し、絶命した。





「本当はレミリアとかでも色々するつもりだったけど、まあこれはこれでありね。」
「自殺が見れたのは、今回が初めてだな。最後の咲夜の絶望的な表情とか、ゾクゾクしたぜ!」
「私のアイデアのおかげですねぇ〜!」

早苗が顔を真っ赤にしながら、酒瓶をラッパ飲みしている。下戸のくせに調子に乗りすぎだ。

「あれぇ〜、このビン、空っぽですよ〜。」
「私もだ。霊夢、酒が足りないぞ。」
「はいはい、今持ってくるわよ。」

早苗にはそろそろやばそうなので、ノンアルコールのシャンパンかビールでも出しておこうかしら。
霊夢は酒蔵に引っ込み、適当に酒を持ってくる。

「おまたせ。」
「おうおう。酒がないんじゃ、興も半減だぜ。」
「次は誰でしょうね〜!!早く観たいですぅ!!」
「慌てなくても、獲物は逃げたりしないわよ。」

霊夢が次のターゲットを呼び出すべく、ボタンを押した。

幻想郷の夜は、まだまだ終わらない。






好きなものは、しょうがない。
紅魚群
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2009/04/15 16:04:24
更新日時:
2009/04/16 01:04:24
分類
紅魔郷
グロ
1. ■2009/04/16 02:39:46
服じゃあ何枚か重ねないと割と光を通しますしね。
しかし、この後霊夢達が選ばれたらどんな顔するんだろう。
2. 名無し ■2009/04/16 03:18:37
実はこの三人組を泳がせ楽しませておいて後で一気に堕とす
裏幕は紅魔メンバーで能力が効かないフリをしていただけという妄想
3. 名無し ■2009/04/16 08:00:46
この糞三匹の拷問シーンはまだか
特にゴミクズと2P
4. 名無し ■2009/04/16 08:51:42
小悪魔が居らんがな……
5. 名無し ■2009/04/16 12:24:42
こいつらそのうち調子にのって最強キャラ同士を戦わせて、
勝った方に殺されそうだな
6. 名無し ■2009/04/16 13:38:51
なんて非道い奴等だ!!
俺も交ぜろ!!
7. 名無し ■2009/04/16 15:27:23
最新作までの続編に期待
でもその場合、早苗が選ばれる時になったらどういう反応をするだろうか…
8. 名無し ■2009/04/16 17:51:35
ひどい……ひどすぎる(褒め言葉)
しかし相変わらず痛々しいな早苗さんは
9. 名無し ■2009/04/16 20:41:15
フルーツ(笑)うぜー
なんだこの漂う小者感
10. 名無し ■2009/04/16 22:29:15
次にボタンを押したらこの3人組が隣の部屋に落ちていって、呆然としているうちに変声機から聞こえないはずの誰かの声が響く光景まで幻視した
11. 名無し ■2009/04/16 22:36:17
お嬢様達の方がよっぽど人間らしいな
それに引き替えこのクズ三人は・・・
12. 名無し ■2009/04/17 00:59:22
お〜、こういうのも良いですね。
続きに期待させて頂きます。
13. 名無し ■2009/04/17 22:56:41
このゴミ三人
特に早苗をボコボコにして絶望させたい
14. 名無し ■2009/04/17 23:32:20
絶対に早苗が拷問されると思ったがそんなことはなかったな
15. 名無し ■2009/04/18 00:29:17
あれ?早苗さんの拷問シーンは?
16. 名無し ■2009/04/18 00:34:53
この塵屑以下の魔理沙を拷問してこの世のものとは思えない声を上げさせたいわ
17. 名無し ■2009/04/18 00:45:27
こんな状況でもフランちゃんを気遣うお嬢様にときめいた
ゴミクズ三匹?まとめて足からおろし金で摺り下ろしたらいいな
18. 名無し ■2009/04/18 04:28:17
そういえばチルノだけは一回休みで済んだな…
19. 名無し ■2009/04/18 04:54:36
咲夜って自機経験済みの人間にしては外道じゃないよな
きっとお嬢様達の教育がいいんだな
20. 名無し ■2009/04/18 21:50:46
あれ?こんなクズ3人を俺は今まで自機として使っていたのか?
・・・おーい神主さーん、こいつらの代わりにルーミアとかチルノを自機にしてくださーい。
さて、この3人の拷問見てくるか
とりあえずこの後このゴミクズ3人が選ばれたら面白いな、特に早苗は10回くらい死ね
21. 名無し ■2009/04/20 03:02:23
霊夢は妖怪相手だとほんと情けがないな。
他二人は地だけど。
22. 名無し ■2009/04/20 05:44:26
厨の入れ食いも楽しめるなんて素敵
23. 名無し ■2009/04/20 19:03:15
一人ハブられた小悪魔は幸運なんだろうか
24. 名無し ■2009/04/20 21:42:46
パチュリー居なくなったのをいいことに図書館の主気取ってそう
25. 名無し ■2009/04/20 22:46:03
何気にオアチュリーさんが嫌な奴で吹いた
26. 名無し ■2009/04/22 00:58:03
サキュバスの小悪魔に期待する。
特に早苗をねっぷりと。
27. 名無し ■2009/04/22 23:48:43
続編希望ww
28. 名無し ■2009/04/23 20:11:02
小悪魔がいたらパチュリーをかばって代わりに死にそう
主従の絆は時止めすらも凌駕して…
と、ここまで考えたところでこんなパチュリーかばう小悪魔が可愛そうだ
29. 名無し ■2009/04/25 05:13:27
>>28
多分そうなったらこのパチュリーさんは
「何勝手に死んでんのよ!このやく立たず!!」
とか言って咲夜さんの怒りをさらに買いそうだな。

他のキャラ拷問→三人が拷問(殺された皆から)って流れに持っていってほしいな、続編があるなら(もちろん違ってもいいです)
30. 名無し ■2009/05/03 00:53:15
これが噂のキャラリセットですかおおこわいこわい

もしそうだとすると、変声器使ってなかった頃霊夢に反抗した奴って…旧作?
31. 名無し ■2009/05/09 16:53:11
この屑3人○ねばいいのに
32. 名無し ■2009/09/19 16:11:56
咲夜さんがカッコよすぎる・・・。
33. 名無し ■2009/10/29 22:55:50
一文の長さとかが絶妙で読みやすさを考慮してる文章だな
早苗の下劣な感じやウンコにこだわる魔理沙なんかが最高すぎる
34. Explorer ■2009/12/22 20:35:48
初めて読んだときは「ゴミクズ3匹Shine」と思った。
久々に読み返してみて気付いた。


この3人のやっていることは、俺ら産廃住民と同じだ・・・
35. 名無し ■2009/12/29 19:38:03
>>34
何を今更w ここは狂人の楽園、そんな事は皆承知の上で楽しんでおるよ
色々と楽しめる度量がないと産廃住人やってくのは難しいしねぇ

久々に読み返してみたんだが、やはり良い作品ですなぁ…
36. Explorer ■2010/01/18 19:43:49
>>35
この頃はまだ俺も青かった・・・

今なら言える、さあキャラリセットの次は自機リセットだ!
37. ふすま ■2014/06/03 18:20:33
これはひどい。
咲夜がかわいそうだ。
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