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『さくやと「あくま」』 作者: 名前がありません号

さくやと「あくま」

作品集: 2 投稿日時: 2009/07/17 07:47:18 更新日時: 2009/07/17 16:54:16
                         ―かちん―

“これで誰もいなくなったわね”

誰かがそう言っていた事を思い出す。
それが誰だったかは思い出せない。

“貴方が■■■■■■■■■”

最後の言葉が聞き取れない。
何と言っているのだろう。

                         ―ぷつり―



 ああ、また覚めてしまった。

仮眠を取っていた咲夜は酷く醒めた頭でそう思った。
何か大事な事を言ってくれている人の、最後の言葉がいつも聞き取れない。
仕事に支障が出るほどの事ではないのだが、いかんせん気になるものは気になるのだ。

 何か意味があるのかしら。

例によって時間を止めて物思いにふける。
既に今日の仕事は終わっており、時間を止める必要は薄いが、
あのレミリア=スカーレットがいつわがままを繰り出してくるか分からない以上、
時間を止めていなければ、咲夜が落ち着く事はこの紅魔館では難しいことであった。

 とはいえ、夢の出来事を相談するにも難しいのがね。

いかんせんこの紅魔館の面子で、真面目に話を聞きそうな者は少なかった。
レミリアに話せば、どんな風に運命を弄り回されるか分かったものではなく。
パチュリーに話せば、あることないこと言い出して、魔法実験の出汁にされる恐れがあり。
紅美鈴に話せば、適当に気を使ってるのかどうなのか良く分からないフォローをされる。
そして、いつの間にか酒を飲まされ、酔わされる。
どちらにせよ、面白おかしくされるのが目に見えて分かり、余計な疲労の種にしかなりそうになかった。
うかつに彼女らに妙な話題を振ると、ろくでもない事になるのは私がメイド長になって直ぐ理解したことだった。
時を動かす。充分に休憩を取り、レミリアの我が侭に備えた。

 まぁあんまりにも酷い様なら相談した方がいいわね。溜め込むと仕事に支障をきたすわ。

「メイド長、お嬢様が御呼びです」

『わかった、直ぐに向かうわ』

 次はどんな我が侭を繰り出してくださるのかしらね。

やれやれと思いながらも、何処か期待をしている自分がいる。
初めてこの館に来た時からは想像もつかないことだ。

 そういえば、この館に来たのは何時頃だったかしらね。

ふと、疑問がわいた。
すっかり、この紅魔館での生活が続いていて、すっかり忘れてしまっていた。

 まぁいいか。忘れるという事は大したことではないんでしょうし。

時間を止めて、レミリアの元に向かう。
レミリアを待たせると、すぐごねるのだ。
お小言を聞かされるのはまっぴらと、速やかにレミリアの元へ向かっていった。






                         ―かちん―


匂う。
とても嗅ぎなれた匂い。
赤い、紅い、朱い。
鉄を含んだ匂いと味。
そう、血だ。

館の門の前。
重厚な門と煉瓦に血が沢山飛び散っている。
辺りを見回すと、其処には美鈴がいた。
倒れているのは美鈴だった。胸からはおびただしい血が吹き出ている。

館の方を見ると、人影が館の扉を開けて中に入ろうとしていた。

私はその人影を止めようと、時間を止めようとした。
だが出来ない。一歩も動けない。声も出せない。

ひゅー、ひゅーという美鈴の息が聞こえる。
遠くにいるはずなのに酷く近くで聞こえてくる。
やがて、美鈴はうごかなくなった。

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
きづけばわたしはさけんでいた。

                         ―ぷつり―


 ッ!

不意にベッドから起き上がった。
自分の部屋ではなかった。
ここは美鈴の部屋だった。
何故ココにという以前に咲夜は夢と思しきあの映像について考えていた。

 夢の内容が変わった? でも何で美鈴が殺される夢なんかが……。

美鈴の強さは咲夜も知っていた。
こと近接戦闘においては、咲夜でさえ勝つ事が困難なほどの相手だ。
おまけに殺気にはとても敏感だ。
その美鈴に気付かれることなく殺す事が出来るものだろうか?

「あ、起きましたか、咲夜さん」

『ああ、美鈴。おはよう。ところで何で私こんな所に?』

「あれ、覚えてないんですか? 昨日お嬢様が“今日は月が一段と綺麗だから庭で月見するわよ”って言ってたじゃないですか」

『……ああ、そうだったわね』

思い出した。
突然呼び出したと思えば、月見をすると言われ、酒の肴を集めて来い。手段は問わないと言い出したのだ。
手段は問わないと言った時点で、私が何をすればいいのかは分かりきっていた。

夜間、外を徘徊する人間を見つけては捕まえて狩る。
お嬢様はこの肴しか好まないお方だ。
そしてしっかりと、念入りに後始末をしておく。
証拠が残れば博麗の巫女に追及されて、紅魔館全体に損害が及んでしまう。
しかし逆に言えば、それらの証明がなければ、博麗の巫女はそれ以上介入してくることもない。
所謂暗黙の了解という奴だった。

 そういえば、あの時もこんな蒸し暑い夜だったわね。

ふと頭でそう思った。

 ? なんだったかしら…。

何故そう思ったのかという思考は破棄した。
少しでも遅れると煩いお嬢様の為にも速やかに館へと帰還した。

その後、レミリア・パチュリー・紅美鈴とが庭のテーブルに腰掛けて待っていた。

「ふふ、相変わらずの仕事ぶりね」

『恐れ入ります、お嬢様。調理なさいますか?』

「構わないわよ。せっかくの月よ? 鮮度が落ちない内に食べてしまうからいいんじゃないの」

「相変わらずプライドや品格を気にする割には、野蛮な所があるわね、レミィ」

「あら、パチェ。月は妖を狂わせるものよ。この狂気の前では品格など価値もない」

「早く食べましょうよお嬢様。取り分はどうしましょうか」

「それもそうね。パチェは頭、私は上半身、美鈴は下半身でどうかしら」

「私は賛成よ」

「私も賛成ですね。ココは珍味ですよ。お嬢様もいかがです?」

「遠慮しておくわ。私は臓器を頂こうかしらね。咲夜、捌いて頂戴」

『かしこまりましたお嬢様』

そうして咲夜は自らが狩ってきた人間を、魚や鳥を捌くように慣れた手つきでばらしていく。
時折、こうして彼女らは人間そのものを食す時がある。
こうして人間を食べている姿を見ていると、改めて彼女らが妖怪であると再確認させられる。

ふと、レミリアの服が血で汚れていた。
直接かぶりついて食べているため、ボタボタと血がこぼれていた。
何も言わずに、時間を止めてナプキンでレミリアの服の血を拭っていく。
そして何事もなかったかのように時を動かす。

しばらくこの人間食事会は続き、皆各々の部屋に帰っていった。
一人後片付けを済ませて仮眠を取ろうと、部屋に戻ると其処にはレミリアが既に寝息を立てていた。
起こすわけにもいかず、どうしようかと思っていたところに美鈴がやってきた。
事情を説明すると、私の部屋でよければと部屋を貸してくれた。

『余計な手間をかけたわね、美鈴。この埋め合わせはするわ』

「そんな大したことはしてませんよ。まぁそれなら、一緒にお酒飲みましょうよ」

『ええ、分かったわ』



そんな約束を取り交わして、私は仕事に戻った。
今日は何もない一日だった。



                         ※




                       ―かちん―

目に映ったのはメイド服を着た女性と、スーツを羽織った女性が館の門の前にいる。

“■■■■さん、今日も大変ですね。■■■■さんもパーティに参加してはいかがです?”

“いえいえ、私はここでいいですよ。お気遣い感謝します、●●●さん”

“これ、差し入れなんですけど、よかったら……”

“ああ、ありがたいです。今日も張り切って警備しますね”

“まぁ頼もしいですわ。それでは私は仕事がありますので”

“はい、それでは”

そういって、メイド服の女性は去っていった。

“はー、しかし今日は暑いなぁ。この制服どうにかなんないのかしら”

スーツの女性がブツブツと言っている。
すると女性がこっちを向いた。

“あれ、女の子? こんな山奥までどうしたの? 親御さんは?”

色々と私に聞いてくる。
スーツの女性の顔は暗がりで良く見えない。

“うーん、困ったなぁ。とりあえず私の宿舎まで案内するから今日は泊まっていきn あ、なにするのよお姉さま

  ザザーッコイツノ       ギギギコトバ      ブツンキクナ




急に目が醒めた。
以前とは違い、突然夢が中断された。
こんな事は一度もなかったのに。

そう咲夜は思いながらも、身支度を済ませ仕事の準備を始めた。

やはりおかしい。こんな夢を何度も見続けるのは明らかに異常だ。
仮眠の時間を少し割いて、彼女は夢の事を考えるようになっていた。

誰かの悪戯か。
だとしてもこれは、一体何の夢なのか。
誰の夢なのかすら分からなかった。

そして今日も仕事を終えた。
さほど疲労感もなく、手持ち無沙汰なところに美鈴がやってきた。

『あら美鈴。何か用?』

「ほら、昨日言ってたじゃないですか。お酒飲みましょうって」

『ああ、そうだったわね』

「時間も時間ですし、今日は飲みましょう!」

『ええ、そうしましょう』

今日はお嬢様は、霊夢の所に行っている。
お泊りすると仰られていたので、今日は帰ってこないだろう。
仕事量の少なさはこれも一因であった。
紅魔館の仕事量を増やすのは、妖精メイド、パチュリー様、そしてお嬢様であった。
無論、左に行くほど酷くなる。

「それじゃあ、しばらく門の警備を頼むわね。侵入者が来たら知らせるように」

「わかりました、美鈴様」

そう美鈴が、門番隊の妖精メイドの一人にそう命じる。
そして私達は美鈴の宿舎に向かっていった。

『良く訓練されてるわね』

「下手な妖怪程度なら彼女らでも対処できるようにはしていますので」

部下を褒められてか、照れた表情を返してくる美鈴。

『その調子で黒白とかの侵入者も防いでくれるとありがたいのだけど』

「無茶言わないでくださいよ。接近戦ならまだしも弾幕戦じゃあっちのが上ですって」

『まぁあんまり頑張り過ぎなくてもいいわよ。お嬢様が退屈するからね』

「フォローになってませんよ……」

『あら、フォローが欲しかったの?』

さっきとは裏腹の沈んだ表情を浮かべる美鈴。
彼女は感情豊かで弄り甲斐のある妖怪だ。だからついつい意地悪をしたくなる。

「はぁ……まぁ、沈んでてもしょうがありません。折角のお酒が不味くなりますしね。」

『そうそう。今日は飲み明かしましょう』

「沈ませといてそれはないですよ〜」

そうして美鈴と酒を飲み明かし、世間話に花を咲かせて小さな酒宴は幕を閉じた。

『それじゃあ、私は部屋に戻るわね』

「はーい。それではまた明日」

『ええ、おやすみ美鈴』

そうして、美鈴の宿舎を後にした。

ただ酒宴の最中、偶然目に入ったバスケットだけが何故か気になった。
とても場違いに感じたのだ。あれと同じものを何処かで見たような気がする。
そして部屋に戻ると、急激な眠気に襲われ、咲夜はそのままベッドに身体を預けて眠ってしまった。








                         ―かちん―

ここは何処だろう。
日が当たらない。
暗い、くらい、クライ。
明かりは何処だ。

すると何かに足を引っ掛けて、体が床に倒れる。
起き上がり足元を見ると、赤毛の少女が倒れている。
それはパチュリーの使い魔であった。
息はもうなかった。

はっとして、走り出す。
図書館では静かになどと言っていられない。
そして明かりの灯ったテーブルを見つけ。

本に顔を隠したパチュリー様がいた。
なんだ居眠りかと近づくと。
首にはリボンが巻かれていた。
本を退かせて、その顔を見ると。
血の気の引いた真っ青な顔があった。

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
きづけばわたしはさけんでいた。

                         ―ぷつり―



!?

突如、彼女は飛び起きた。
自分の姿を見てみるとメイド服のままだった。
どうやら、この姿のまま眠ってしまっていたようだ。
誰にも見られていないのが幸いね、と思いながら先ほどの夢を思い出す。

美鈴に続いて小悪魔とパチュリー様まで。
一体なんなんだ、この夢は。
何を私に知らせたいのだ。
おかしくなりそうだった。

相談しよう。パチュリー様に。
夢の事を。


『失礼します。パチュリー様』

「あら、貴方からやってくるなんて珍しいわね」

『実はご相談したい事があるのです』

「ますます珍しい事ばかりね、で、どんな用件かしら」

そして私はパチュリー様に夢で見たことを全て話した。

「ふむ……もしかすると何らかの魔法かもしれないわね」

『魔法……ですか?』

「ええ、あるビジョンを夢という形で見せているのかもしれない」

『何か対策はあるのでしょうか。流石にこう連日続けてこのような夢を見るのは少し……』

「わかったわ。何らかの対処法を考えましょう」

『ありがとうございます、パチュリー様』

「貴方には色々と世話になっているから、この程度の事なら気にすることはないわ」

『私はそれが職務ですので』

「ああ、そうだったわね」

その後ちょっとした世間話をしたところで私は図書館を出た。





……そういえば、今日は珍しく魔理沙が来なかったわね。



                           ※




                         ―かちん―

薄暗い図書室に二人の少女がいた。
一人は就寝前なのかネグリジェを着て、ランプをつけて本を読んでいた。
もう一人はその隣で本を重ねて遊んでいる。

“こら、本で遊ばない。本は読むものよ”

“えー、だって暇なんだもん”

“それなら広間にいけばいいじゃない”

“■■■■■が一緒に来てくれたらねー”

“あんまり賑やかなのは得意じゃないのよ”

“ぶー、そんなこといってるから日陰娘って言われちゃうのよ”

“言わせておけばいいわ。私は本が読めればそれでいいの……ごほっ、ごほっ”

“大丈夫? というか、たまには外の空気を吸ってきたら? こんな所に篭ってると病気になっちゃうよ”

“本に埋もれて死ねたら本望よ……ああ、この本を取ってきて”

“自分で取りにいけばいいじゃない”

“私が目が悪いのを知ってるでしょ?”

“暗いところで本ばっか読んでるから目が悪くなるんだよ? まったく。はい”

“ありがとう”

“はぁ……ちょっとパーティの様子見てくる”

“ええ、いってらっしゃい”

そして扉を開けて少女が一人出て行った。

“……あの子と一緒に遊んであげられるように努力するべきかしら”


                         ―ぷつり―




そして目が覚める。
暗がりで姿こそ分からなかったが、今度の夢はまるでパチュリー様と小悪魔のようだった。
偶然なのだろうか。それとも誰かがこれを見せているのだろうか。
一体何の為に。まだ情報が不足している。
そういえば以前の夢にも、今日の夢にもパーティという単語があった。
ふとカレンダーを見るが、最近そのようなパーティの予定はない。

分からない。
解らない。
判らない。
わからない。
ワカラナイ。

「メイド長?」

『!? なにかしら』

「? パチュリー様が御呼びですよ」

『わ、わかったわ。直ぐに行くわ』

まさか、気配に気付かないとは。
大分夢の影響が出始めている。
このままでは仕事への影響は大きくなりかねない。



『失礼します。パチュリー様、御呼びでしょうか』

「来たわね、咲夜」

「まさか私が神社に行ってる間にそんな事があったとはね」

図書館にはパチュリーとレミリアがいた。

『お嬢様、いつお戻りに?』

「……あー、これは大分キテルな」

『……あ』

そうだ、お嬢様の使い魔の蝙蝠から今日の朝帰って来る事を告げられ、門でお出迎えしたばかりではないか。

「それでも職務を果たす辺りは流石というべきかなんというべきか……」

『申し訳ありません、お嬢様』

「いいよ、パチェの話を聞くに誰かがお前に魔法を掛けた可能性もあるそうじゃないか」

「あくまで可能性だけどね」

「パチェは黙ってて。流石にそう聞いては、上司としては部下を守ってやらないとねぇ」

『有難うございます、お嬢様』

「もういいかしら? それで貴方は今日も夢を見たのかしら」

『はい』

「それについて話してくれるかしら」

『わかりました』

そして私は、今日の夢の事について話した。

「ふむ……どうも昨日貴方が見た夢と今日の夢には繋がりがあるのかしらね」

『それはなんともいえません』

「昨日の夢は私だと認識できたのよね?」

『はい。ですが今日の夢は顔が見えませんでした』

「そう……」

「どうなんだパチェ」

「咲夜。もしかすると昨日の夢で見たのは別人なんじゃないかしら」

『どういう意味ですか?』

「以前、本で見たことがあるのよ。人間というのは見たこともないモノを認識できないの。だから代わりに知っている人物を当てはめてしまう」

『つまり、知らない人を美鈴やパチュリー様に当てはめていると?』

「ええ。だから恐らく昨日の夢と今日の夢の人物は同じものかもね」

咲夜は考える。
つまり美鈴が殺されていた夢もパチュリーと小悪魔が殺されていた夢も別人だったということ。
そして話していて、一つ思い出したことがあった。
最初に見た夢は主観。次みた夢は客観。
そうして主観と客観の視点を入れ替えて夢を見ていることに気付いたのだ。
それをパチュリーに告げると、

「ふむ、という事はやはり何者かが貴方の夢に介入して、何らかのメッセージを伝えようとしているのかも」

『メッセージですか……』

「ええ、何か重要なことを伝えようとしているのかも」

「ああもう、結局解決法はどうなったんだ。どんどん話がずれてるじゃないか」

今まで黙っていたレミリアが遂に口を挟んできた。
いつまでも解決案が出ない事に腹を立てたのか、パチュリーと咲夜だけでどんどん話を進めて行ってるためか。
それは定かではないが、遂にしびれを切らしたようであった。

『申し訳ありません、お嬢様』

「いちいち謝らなくていい。大体重要なメッセージなら直接言えばいいじゃないか、回りくどい」

「それが出来ないから、こんな事をしてるんじゃないかしら」

「どちらにしても、このままじゃ咲夜の仕事に支障が出る。何か方法はないのかパチェ」

「一応、考えてはおいたわ。咲夜、これを」

そして咲夜に、あるモノを手渡した。

『……これは?』

「スペルカードの応用で作成した特殊な護符よ。それを使えば恐らく異様な夢を見なくて済むはずよ」

『はず……ですか』

「まだ試作段階なのよ。発動に宣言は必要ないわ。眠った時に起動する仕掛けになってるわ」

『はぁ……』

「まぁ信用しないのも無理ないわね。ともあれ一度使ってみて頂戴。出来れば感想もお願いね」

『結局実験台ですか…』

「ギブアンドテイクよ。魔女と交渉してこれだけ安い取引が出来たのだから、感謝して欲しいわ」

『では感謝しておきますね、パチュリー様』

「見せ掛けならいらないわよ」

『いえいえそんなことはありませんよ』

口を尖らせて、こちらをジト目で見ながら、パチュリー様はいつもの位置に戻っていった。

「まぁパチェの作ったものだから、あまり期待はしないけど、あまり無理しないでよ咲夜。あんたは人間なんだから」

『わかっております、お嬢様』

「それじゃあ、私も寝るよ。昼間に起きてたから眠い眠い」

そういって、レミリアも自分の部屋に戻った。

(効果はどうあれ、とりあえず信用してみましょうか)

咲夜も残りの仕事を片付ける為、図書館を出た。




今日は夢を見なかった。       





                           ※




私は歩いていた。
自分の意思ではなく、何かに招きよせられるように。
眠っていた為に意識はおぼろげであったが、
歩いているという実感だけが頭に入ってきていた。
視界は暗い。
それなのに、何故か道筋が見えるように私は歩いていた。

やがて足が止まった。
目的地なのだろうか。
意識がはっきりし始めていく。
そしてゆっくりと瞼を開けた私の目の前には。
錠前と術式が幾重にも張り巡らされた扉だった。
見覚えのある扉だった。
その扉の奥から声がする。


“おはよう”      サクヤァ

そう挨拶された。
妹様の仕業のようだ。

『おはようございます』

そう返した。

“折角夢を見させてあげたのに、自分から夢を拒むなんてね”    サクヤ

『あのような夢は勘弁していただきたいです』

“あっそ。まぁいいけどね”       ネラワレテル

『ともあれ、あのような事をされては困ります』

“うん、わかったよ。やめる”      キヅイテ

『ありがとうございます』

“それじゃあね、咲夜”         オネガイ

『はい、妹様』

そして声はしなくなった。
そして咲夜も自分の部屋に戻った。          サクヤ、ニゲテ
妹様が幽かな声で何かを言ったような気がした。









その日の空は曇っていた。
一雨来るかもしれない、そんな暗い雲だった。

暗い。
館の中は酷く暗かった。
空の暗さとは違う暗さだった。
何か暗い雰囲気が館中を覆っていた。

妖精メイドを見かけない。
一体何処へ行ったというのだ。
今はこの館中の紅が酷く恐ろしい物に見える。

侵入者が居るのかもしれない。
そう思い、時を止めようとした。

ときが、とまらない。

外の木は風に煽られ絶えず揺れていた。
燭台の炎は揺らめいている。

なぜ、じかんがとめられない?

ふとポケットに手を入れた時、何かがないことに気が付いた。

かいちゅうどけいが、ない?

いつも持ち歩いているはずの懐中時計がない。
何処かに落としたのか。
その時、玄関の方で音がした。

位置はかなり近い。
気配を消して走り出す。

そして音がした館の玄関の扉まで向かう。
人影。時を止められない彼女は、
未だこちらに気付いていない相手に向かってゆっくりと近づき、そのナイフを相手の喉に突き刺した。
崩れ落ちる人影。人影が誰であるかは確認しなかった。

気配を探り次に辿りついたのは、重厚な作りらしい扉だった。
恐らくパチュリー様の図書館だろう。扉は半開きになっていた。
既に侵入者がいるのだろう。彼女は一層警戒を強める。

一層、強くナイフを握り締める。
多くの棚が立ち並んでいる。
その棚の奥から一つの気配が出てくる事を感じると、
素早く、背後からナイフで一突きした。
相手は振り返る事も無く、そのまま前のめりに倒れていった。

さらに奥から強い殺気を感じる。
どうやら私に殺された事を察知し、怒っているようだった。
どう接近しようかと、考えているうちに近くに積み上げられていた本が崩れた。

それを察知し、侵入者がこちらに攻撃を仕掛けてくる。
それらを回避していくが、手に持っていたナイフが侵入者の放った金属片に弾かれる。
予備のナイフを持ち合わせていなかった私はいちかばちか一気に気配の元へと向かっていく。
飛び交う金属片と炎の塊に煽られながらも、侵入者に近づいた私は両手で相手の首を締め上げた。
すると、相手は激しく咳き込みながらもがいていたが、あまりに非力で振り払われる心配は無かった。
やがてピクリとも動かなくなると、私は侵入者を適当に放り捨て、
暗闇の中僅かに輝くナイフを手に取り、図書館を後にした。


                         ―かちり―



                           ※




図書館を後にして私は、今感じる最後の気配の居る部屋の前にいる。
お嬢様の部屋だ。

中からの気配は酷く弱弱しい。
玄関前の相手や、図書館の相手に比べるとまるで怯えているようにも感じる。
扉越しにすらそう感じるのだ。
しかし侵入者、それもお嬢様の部屋に態々入り込むような輩に情けを掛ける積りもない。

私は扉を開け、部屋に入る。
部屋には誰も居なかった。
気配だけがする。何処かに隠れているのか。

ふとお嬢様のベッドが妙に盛り上がっていた。
随分間抜けな侵入者だ。
私はその布団を被った相手にそのままナイフを振り下ろした。
やがて、かわいい悲鳴が上がって布団が血に染まっていった。
お嬢様のベッドを汚してしまったが、どうせ土足で入ってきた侵入者だ。
新しいベッドに変えてしまえばいい。

そして部屋から出ようとした時、私は。

部屋の前で私を見る一人のメイドが居た。
その目は何かを諦めたような、
私を哀れむような、
そんなとても不快な目だった。


気付けば私は彼女を殺していた。
ともあれ紅魔館を脅かす者はいなくなった。
そう思って殺したメイドのポケットに何か入っている。
気になった私はその中身を取り出した。







懐中時計だった。
裏には“Sakuya Izayoi”と書かれている。
それは私の知らない懐中時計だった。




パチパチパチ。
後ろを振り返ると妹様が拍手をしていた。

「夢から醒めた気分はいかが?
  何が起こってるのかまったく理解できてないみたいね」

いつのまにか部屋が妹様の部屋になっていた。

理解できない。
何も理解できない。
理解したくない。
分かりたくない。

そういうと、フランは笑いながらこう言った。

「貴方が全員殺したじゃない。
  美鈴の喉にナイフを突き差して、
   小悪魔を背後から差して、
    パチュリーの首を締め上げて、
     布団を被ったあいつの腹にナイフを突き刺して、
                 咲夜をそのナイフで殺した」

何を言ってるの?
私は咲夜、十六夜咲夜。お嬢様から貰った……

「十六夜咲夜は居た。
  でもそれは貴方じゃない。
   だって貴方があのメイドなわけないじゃない
             それとももっと思い出す?」

フランが少女に手を翳す。

すると少女は激しい苦しみの表情に変わっていく。

「ああ、いい顔するわね、貴方。
  あの時と同じ顔よ。
   私に縋って、助けて、タスケテって言ってたあの時の貴方と」

少女は全てを思い出してしまった。

少女の親は、金欲しさに彼女を売り飛ばした。
金持ちや男達に身体を売って。
やがてそんな金持ちの男等からも見放され、森の何処かに放り捨てられた。
森を彷徨う内、少女は一つの館を見つける。
夜の寒さに凍える彼女はふらふらとした足取りで館に向かう。
そんな彼女を見た警備の女性は、自らの部屋へと少女を案内する。
少女は久しぶりの暖かい部屋に入り、喜びを謳歌した。
しかし少女は一方で、何故自分のような子供を助けるのだろうという不安を感じた。
彼女の妄想はどんどんと膨れ上がり、
やがて身の危険を感じた少女は近くにあったナイフを持って、眠る警備の女性の喉下にナイフを突き立てた。
そして少女は、館の方から聞こえる幸せそうな声を聞いた。
あの場所に自分が居ない事実は少女にとって耐え難い物だった。
そして少女の中にひっそりと悪魔が語りかけたのだ。

「あれは あなたを わらうこえ さぁ こえを けしてしまいましょう」

その後の事は少女は覚えていなかった。
覚えていたのは、全身に返り血を浴びた自分自身と血まみれのナイフだけだった。



「全部思い出した? 自分のやった事」

『あ、あぁ……あぁぁ』

泣き崩れる少女。
その弱弱しい姿からはかつての咲夜だったとは思えないほどに。

「しょうがないよね。もう咲夜じゃないもの
   でも大丈夫。貴方には私がいるわ
               ずっと一緒に居てあげる」

『ほ、ほんとうに?』

「ええそうよ。
  だから貴方は私に仕えるの
   あいつに仕えていたようにね」

『うん、つかえる。わたし、あなたについていきます…だからすてないで』

「ええ、私は捨てないわ。ずっと貴方と一緒よ」

そうして、フランは少女の首筋に自らの牙を突き立てて血を吸った。








                         ―ぶつん―




















「まさかここまで上手く行くとはね。おかしくてたまらないわ」

フランは使い魔を通して映していた映像を消した。
部屋の隅で、達磨状態で暴れまわっていたレミリアがフランに血を吸われる姿を見て、顔を真っ青にしていた。

全てはフランドールの仕組んだ事であった。

それはレミリアに対するフランドールの反抗だった。
特にレミリアが可愛がっている咲夜という少女をレミリアから奪い取る事は彼女の最大の目標であった。
其処でフランはレミリアを部屋に呼び出すと彼女の不意を打ち、レミリアを自らの部屋に閉じ込めた。
死なない程度にレミリアの肉体を破壊した後、自らがレミリアの振りをして、
パチュリーや美鈴にしばし館を出てもらう事にした。

フランはフォーオブアカインドに美鈴・パチュリー・レミリアの姿を真似させ、紅魔館に放った。
一方、自らは部屋で待機し、咲夜を精神的に追い詰めるように事を進めた。
そして、咲夜が夢の事を告白する時を待った。
自らパチュリーに成り済まして、フランが『作った記憶』を封じ込めたカードを咲夜に渡した。

このカードにより、本来の記憶を上書きする形でフランが作った記憶が、
咲夜の記憶に置き換えられた。

その後はフラン自らが作り出したシチュエーションを実行するだけだった。
作られた記憶にそって、分身達を咲夜に次々と殺させるように誘導し、
咲夜を追い詰めた後、自らが現れて咲夜に救いの手を差し伸べ、咲夜が自分に忠誠を誓わせる。

それらは結果成功しフランの思惑通り、咲夜はフランの物になった。

「少し無茶なシナリオだったけど、バレなかったからまあいいわよね、おねえさま?」

顔を下ろしたまま、何も言わないレミリア。
良く見ると床がぬれていた。

「あら、柄にもなく泣いてるのね、お姉さま。でもお姉さまが悪いのよ? あんなにいい物を自慢されたら欲しくなるに決まってるじゃない」

レミリアの腹を踏みつけるフラン。
歯軋りしながら、ポロポロと大粒の涙を流すレミリア。
自らの声が咲夜に届かなかった事が何よりも辛かった。

「ああ、安心してお姉さま。私は紅魔館を取り潰そうなんて思ってないから。ただあの椅子に私が座るだけだから」

フランが狂ったように笑う。
その顔は達成感に満ち溢れたものだった。
そんなフランを、咲夜は微笑みながら見つめていた。
纏めるべきとの意見を頂き纏めました。
が、ほぼまんまコピー&ペーストという突貫工事なので凄く手抜きです。
もうしわけない。
文を纏められる能力が欲しいです。

一応纏めたので、残り5つは削除しました。
コメント付けていただきありがとうございます。

しかし何で最終的にレミリア虐めに発展したのかは永遠の謎です。
紅魔館の宿命なんでしょうか。
名前がありません号
作品情報
作品集:
2
投稿日時:
2009/07/17 07:47:18
更新日時:
2009/07/17 16:54:16
1. 名無し ■2009/07/17 17:16:15

相変わらずレミリアの吸引力はダイソンクラスだな
2. 名無し ■2009/07/17 19:29:19
レミリアがこうなれば紅魔館は永久に不滅だな
3. 名無し ■2010/06/05 04:46:42
オチが色々すとんときてよかった
ナイス狂気
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