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『冷たいギフト』 作者: ガンギマリ

冷たいギフト

作品集: 2 投稿日時: 2009/08/05 14:34:56 更新日時: 2009/08/05 23:34:56
珍しい話をすると実は虹は死にます。
寂しいと死にます。
花も死にます。
寂しいと死にます。
季節も死にます。
携帯も死にます。
ガンダムも死にます。
犬も死にます。
犬死にです。

「あたい、チルノ」

妖精も死にます。
結局皆寂しいと死にます。
犬死にです。

「今日はレティが来る日だっけ」

独り言です。
寂しいんでしょうね死にますよこの子。
死なない程度に構ってあげましょう。

「そうです僕です」

12時の方向。
レティさんの格好をした浮浪者が、ペタリペタリと雪駄を鳴らして現れました。
薄い髪をバリバリ掻くと、まるで風に踊る細雪の様にフケが飛び散ります。

「レティー!」

「こんにちはチルノ」

浮浪者は軽い挨拶を済ますと、大きな荷物をよっこいしょと降ろし、それに腰掛けます。
中は言わずもがな本物のレティさんの死体に決まっています。
旅行カバンに潜むレティさんが最期に食べた物は一体何だったんでしょうね。
きっと美味しい物です。

「久しぶり!久しぶりレティ!」

「うん」

煙草に火を点け、煙を空に返す。
雲にまみれて消えてしまえばいいでしょう。

「一緒に遊ぼうよ!何して遊ぶ?」

「ゴムとび」

一回吸ったきりの煙草を踏み消すと、浮浪者はチルノちゃんと遊び始めました。
二人でゴムを回すだけ、真ん中で飛ぶ人は誰一人いない不毛なゴムとびの幕開けです。
そこに面白味はなく、されど孤独もなく。
二人はそこそこ満足しました。

「あー、楽しくないけど暇潰しになった」

「でしょ」

暇=寂しいという訳ではありませんが、時として暇も人を殺します。
メッタ刺しです。恐いです。
前持って潰しておきましょう。
潰す際に、暇の毒でかぶれない様に注意も必要です。

「レティ、お話聞かせて」

「いいよ」

仕事、酒、女房、そして娘。
浮浪者は、ポツポツとくだらない身の上話を始めました。
皺枯れた声が、湖の蒼に溶けてゆく様が見えるでしょう。
浄化と言うには随分と崇高な気もしますが、まあ、そういう事にしておきましょう。
湖の蒼や小さな妖精は、彼を癒します。
妖精はたまにムカつく事を抜かしますが、それも含め可愛いものです。

「面白くない話だったね」

「面白くねーだろゲラゲラ(笑)」

彼はレティ、冬の忘れ物です。
しかし、冬以外にも色々な物に忘れられ、最終的には幻想郷に行き着きました。
過ちを犯し、箱の中。
箱を出ると、冷たい風。
風に煽られ、遠く遠くへ。
子供が失った風船の様に、彼は空の向こうへと旅立ち、それきりだったのです。

「ねぇレティ」

「何かな」

「気になってたんだけどさぁ……」

それ、なに?

ふと、チルノちゃんは、彼がお尻に敷いている荷物がすごく気になりました。
冷たく、冬の匂いが微かにするカバンです。
彼のもの、レティのもの。
カバンはレティのものなのです。

「チルノ、これ欲しいの?」

「おいしいものなら」

「振ると、カラカラいうんだ。ほら」

カラカラ。

「面白ーい」

「あげるよ」

もう僕には、必要のないものだから。

彼はそう言い、チルノちゃんにカバンを優しく持たせてあげました。

「ありがと、レティ!」

「うん、でも」

約束して欲しい

「なぁに?」

「これは僕の奥さん、そして僕、何よりも空っぽのカバンなんだ」

だから

「好きな物を、パンパンに詰め込んで旅をするといい。
好きな物だけを。嫌いな物は入れちゃ駄目だよ。
ありったけ詰めたら、君の好きな冷たい風が吹く方向へ行きなさい。
絶対に、風が吹かない方向へ行ってはならないよ。絶対に」

「うん!」

「いい返事嬉しい。あと最後に、ゴムとび、もう一回しよう」

チルノちゃんは笑顔で頷き、長いゴムの端を掴みました。
いつの間にか湖に来た妖精達が、二人回すゴムの上をピョンピョン跳び回ります。
チルノちゃんは嬉しくなりました。
彼は、ともだちに囲まれる彼女を暫く見つめていたのですが、暫くすると、傍らにいた妖精の一人に回すのを任せて、チルノちゃんにさよならを言いました。

喧騒から離れてゆく、雪駄の音。
カバンを抱えた彼女は、いつまでも浮浪者に手を振っているのでした。



■ ■ ■



彼が寂しさにやられて死ぬのは、時間の問題でしょう。
電車を待つ事なく、真っ黒くなり、炭の様になって死んでしまうのでしょう。きっと。

最期の忘れ物を渡し終えた彼は、美味しい物が食べたくなりました。
消えかけた足で向かうのは、夜雀の屋台。
レティが最期に口にした、鰻を食べに行くのでした。

おわり
ゆらゆら帝国 - 冷たいギフト

ttp://www.youtube.com/watch?v=_uakXjerOqE
ガンギマリ
http://id14.fm-p.jp/425/chinge/
作品情報
作品集:
2
投稿日時:
2009/08/05 14:34:56
更新日時:
2009/08/05 23:34:56
分類
チルノ
レティ
ゆらゆら帝国
1. 名無し ■2009/08/06 00:02:11
異形コレクションぽい…
ちょっとマジで書ける人にしか書けない話だろこれ
2. 名無し ■2009/08/06 00:19:18
海は死にますか
山は死にますか
3. 名無し ■2009/08/06 01:52:33
海も山もあまつさえ元素であっても全てが総て死ぬ、
そういう世界で私は死にたい
4. 名無し ■2009/08/06 01:54:13
いつものガンギマリっぽいキチくささと
言葉の選別が混ざってけっこう良かった
5. 名無し ■2009/08/07 09:32:45
まさにガンギマリながら読みたい素敵哀愁妄想世界。
6. 名無し ■2009/08/08 00:46:16
一千一秒物語
7. 名無し ■2009/08/16 01:23:39
きっとチルノは試されてたんだよ。
8. 名無し ■2010/06/05 23:04:06
文章版のガンマギリ氏はほんと味がある
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