東方下克上「最終話 東方下克上 中編」

作品集: 2 投稿日時: 2009/08/30 23:07:07 更新日時: 2009/08/31 04:59:35
――博麗神社――
「くっ! ぐぅ! ん゛ん゛〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」


天井から縄で吊るされ、八雲紫はその恥部を大きく晒していた。
その身体には九本の尻尾が絡みつき、乳房、首筋、腹、腋、太もも、顔を丁寧に撫で上げる。
紫の体液にまみれたそれはしっとりと紫の身体に絡みつき、その毛の一本一本で紫は電気を流されたかのような快感を味わっていた。
そして、そのアナルには八雲藍の巨大な肉棒が突き刺さっている。


「どうですか、紫様? お薬のおかげで快感何倍にもなってるからすごいでしょう? それに藍しゃまのしっぽモフモフは最高ですよね? 無数の手に撫で回されるような感覚、ものすごく気持ちいいんですよー」


くちびるをかみ締め快感に耐える紫。そのかつての主の主の痴態に橙は口元を歪ませる。


「……まだ、堕ちんか。さすがは八雲紫、といったところか」
「あー、玄爺さん。何か御用ですか?」


薄暗い部屋に一光が刺し、杖をついた玄爺と霊夢が部屋へと入ってきた。
霊夢は服装こそ変わっていないが、その顔は上気し、まともな精神状態ではないことが見て取れた。
玄爺は紫の金の髪を掴み、大きく揺さぶる。


「……霧雨魔理沙をどこへ飛ばした?」


その玄爺の質問に紫は笑みで返した。
紫のほほが強かに叩かれた。右のほほが赤く染まり、口の端から血が流れる。
それでも紫の態度は変わらない。
かつての式にアナルを犯され、全身をまさぐられても、一片の理性で玄爺への反抗を示す。


「くたばれ、バーカ」
「貴様っ!!」


玄爺が杖を振り上げる。
だがその瞬間、玄爺の首に鋭い爪が突きつけられた。
耳には真っ赤な舌が這わされる。


「ダメだよ、おじいちゃん……。そんな乱暴なんて……」


熱い息が耳に当たる。
玄爺の背後に回った橙。紫を犯していた藍も尻尾の動きを止め、瞳孔の開いた眼を玄爺へと向けている。
玄爺の背筋に冷たい汗が流れた。


「紫様はぁ〜、私たちにくれる約束でしょ? 最初、洞窟でそう言ったよねぇ? 勝手なことは止めて欲しいなぁ……」


耳を甘噛みされた。服の中にドライアイスを入れられたような感触に玄爺は思わずその手を振り払う。
その様子を見ながら橙は面白そうに笑みを浮かべる。
玄爺は霊夢を移動させ、自分の前に置く。その様子を見て、橙は両手の爪を伸ばした。藍も腰の動きを止め、事態を静観している。


「まあまあ、落ち着くっすよ。せっかくこんな良い時代になったんすよ? 面白おかしく行こうじゃないっすか」


そこに気の抜けた声が割って入る。
歪んだ大鎌を持った〈死神〉小野塚小町と先の戦いで紫の境界を封じた〈閻魔〉四季映姫だ。
身体の力を抜いた自然体で二人の様子を見ている小町に対し、映姫はやや緊張した面持ちで様子をうかがっている。だが、それは一触即発の現状に対してではなく、自身の主となった小町に向けられたものだ。


「ここで争って紫さんや霊夢さんが死にでもしたらそれこそ問題っすよ。〈博麗大結界〉は霊夢さんがいなければ保てないし、紫さんがいないともう一つの結界〈幻と実体の境界〉が無くなるし……」


ぎゅっと小町は映姫の尻を握った。ゴムまりのような弾力が指を押し返し、スカートごしでもその肌の艶やかさが伝わってくる。
映姫はその仕打ちに身を震わせ、スカートを握るものの、抵抗の意志を見せることはなかった。
かつての上司のその姿に、小町はだらしなく鼻の下を伸ばす。


「映姫様がいなけりゃ紫さんが能力使い放題でこの事態を解決してしまうっす。どこが欠けてもダメなんすよ。今のところあたしらは運命共同体って奴っす。争っても仕方ないじゃないっすか」


ちゅ。
小町は映姫の髪に軽くキスをする。ぶるりと映姫の身体が震え、ゆっくりとスカートの股間をふくらませて行く。
その言葉を聞き、玄爺も橙も臨戦態勢を解く。


「まあ、強がっていても紫さんももう少しで落ちるでしょうし、橙さんに任せて大丈夫っすよ。気が立ってるなら玄爺さんも霊夢さんと楽しんだらどうっすか?」
「そうですねー、玄爺さんも楽しみながら待っていてくださいよ。まだ枯れてないんでしょ? 紫様はちゃんと躾けておきますから」
「……その主を逃がし、儂らに尻ぬぐいをさせたのは誰じゃったかな?」


その言葉を残し、玄爺は小町の前をすり抜けた。当たり前のように、霊夢もその後についていく。
その姿が完全に見えなくなる直前、橙はつぶやいた。


「ムカつく干物」
「まあまあ、あたしらがおいしい蜜吸えるのも玄爺さんのおかげじゃないっすか。ねえ、映姫様?」
「ひぅ……っ」


映姫が小さく悲鳴を上げた。小町が映姫のパンツから小さな肉棒を取り出したからだ。
皮を被り、綺麗なピンク色の先端をさらすそれは紫の中にずっぽり収まっている肉棒とは対照的であった。


「おかげで映姫様との子を産めるんですしね……。ねえ、映姫様……、今日もしましょうね。あたいの中にたっぷり映姫様の子種汁出してくださいよ? 今だって映姫様の精子があたいの中を泳ぎまわってるんですよ。ほらさわってくださいよ……」
「や、小町……止めなさい……」


映姫のペニスを小町が軽くしごき上げる、そして映姫の右手を自らのお腹へと導く。
映姫は口では反抗の意志を示すが、小町の手を振り払うようなことはしない。
その様子を見て、小町はペニスをしごき上げる速度を上げた。


「ロリコンで、同性愛者で、サディストで、腹ボテ志望って、小町さんも大概アブノーマルですよね」
「褒め言葉として受け取るっすね」
「さて、紫様。私たちも再開しましょう。藍しゃま、思いっきりアナルを貫いてあげてくださいね」


橙は口の端を舌で舐め上げた。ポケットから一粒の錠剤を取り出し、それを飲み込む。
すると、橙のスカートが内側から押し上げられ、凶悪な肉棒が顔を出す。
藍も橙の言葉に頷き、しっぽ責めとアナルへの激しいピストンを再開する。



「紫様。元・式のおちんぽでいっぱい狂ってくださいね……」
「橙、やめ……っ」


紫が言葉を発するのに合わせて、橙はその肉棒を紫の中へと挿し入れた。
すでにアナルに入っていた藍のものと合わせて内臓が激しく圧迫される。一方で、全身を藍のしっぽに弄られ、薬の効果と相まって気を失いそうな快感が押し寄せてくる。


「ぎぃ! ぐぅぅぅ!! ん゛ほおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!!」
「素敵ですよ紫様。これからも私と藍しゃまのオナホールとして使ってあげますね。あ、一応魔理沙さんの居場所も喋ってくださいね。壊れる前に……」


相手のことなど気にかけない、激しい強姦風景を見ながら小町はやれやれと首を振る。


「ま、紫さんのことは橙さんに任せるっす。さ、映姫様。あたしたも愛を育みに戻りましょうか」
「…………っ」


映姫の肩を掴み、小町はその部屋を後にした。
博麗神社のそこらかしこで嬌声が上がる。だが、それもこの幻想郷では日常的な風景であった。



◆◆◆



紫の手によって魔理沙はスキマをさまよった。
やがて、辿りついたのは無数の鉄の箱が走り回り、夜ですら昼間のように明るい街だった。
色とりどりの電光が巨大な建物に取り付けられ、魔理沙の知らない数々の道具が当たり前のように並んでいる。
早苗たちに話では聞いていたが、実際の光景は魔理沙の想像を遥かに超えていた。
外の世界は輝きに満ちていた。
とりわけ、料理に関しては魔理沙の心を捉えて離さない。



◆◆◆




――路地――
「さすがに……食いすぎたぜ……」


内臓を圧迫される感覚に、魔理沙は吐き気を覚える。
調子に乗ってさらに二度もおかわりをしてしまったのが悪かった。口の中からカレーがこぼれて来そうだ。
金は妖怪退治ならぬ人間退治で巻き上げたのでそれなりにある。
ホテルという宿に泊まり、うまい料理に観光と、不自由はまったくないが、だからこそ幻想郷の仲間を思うと居ても立ってもいられない。


「さて、そろそろか……」


魔理沙とて無作為に歩き回っていた訳ではない。この世界に来てからずっと探査系の魔法を駆使し、妖怪の反応をしらみつぶしに当たっていたのだ。
数日前から、ここに反応があることを調べ上げ、やってきたのだ。


「ん?」
からーん、ころーん、からーん、ころーん


背後から愉快な音が響く。大きく響いた音は魔理沙の耳にしっかりと聞こえてくる。
魔理沙は笑みを浮かべ、あえてそれに気づかないふりをして歩き出した。
音は魔理沙の後をつけるようにいつまでもついて来る。


「だるまさんが―――転んだ!」
「うひゃ!?」


適当なところで魔理沙は突然振り返った。
すると、可愛らしい悲鳴と地面に腰を打ち据える音が聞こえた。
見ればコンクリートの道路にお尻を打ち、涙目になっている少女が目に入る。


「おい、大丈夫か?」
「な、なんでわちきの方が驚かされてるの!?」
「んー、そう言われてもな」


魔理沙はその少女をまじまじと見た。
左目が赤、右目が青というオッドアイ。髪はやや青よりで、服もその色合いに近い。
だが、なんと言っても目立つのはその手に持った傘だろう。ナス色と言わざるをえない不気味な配色に大きい一つ目と長い舌。さらに柄の部分は下駄。これだけ見ても彼女が妖怪であるとわかる。
ちなみに少女自身も下駄を履いている。さきほど聞こえていた音は彼女の下駄の音だったのだろう。


「で、なんだお前?」
「ちょっと待った! その前に!」


そう言うと少女は傘で顔を隠し、ケンケンで魔理沙の方に近づいて来る。
そして、目の前でバッと傘を上げ、右目を閉じ舌を出す。


「うらめしや〜」
「……えーと、表はカレー屋?」
「違う! ああもう! なんで驚いてくれないの!?」
「いや、これで驚けと言われてもな。むしろ、カワイイぜ」
「ふざけるなー!!」




――公園――
少女は名を多々良小傘といった。
いわゆる付喪神で、何年も前に捨てられた傘が妖怪になったものだ。
そのことを恨んでおり、人間を驚かすことで仕返しをするつもりらしい。それは小傘にとって生きる意義であり、同時に手段でもある。なお、人を驚かすことで小傘のお腹はふくれるそうな。


「で、絶賛ハラペコ中と」
「うっさいわね。それより、あんたは何よ、そんな格好して。変態?」
「妖怪に変態呼ばわりされる覚えは無いぜ」
「そんな格好している人間なんて100年前にもいないわよ。非常識極まりないわ」
「そうなのか。知らなかったぜ」
「後、わちきを見て驚かない人間も」
「それは嘘だ」


ぐ〜〜っ、と小傘の腹が鳴く。それを聞いて魔理沙は声を上げて笑った。
小傘はほほを膨らませ、魔理沙を睨みつける。
公園のベンチに座り、二人は星を見ていた。
だが、夜になっても消えない街の光は、空の星さえ覆ってしまう。
一等明るく光る星を眺めながら魔理沙は答えた。


「霧雨魔理沙。魔法使い。出身は幻想郷だぜ」
「幻想郷? 幻想郷ってどこよ?」
「んー、説明が難しいぜ。こういうのは紫の方が……いや、やっぱ無理か」


不敵な笑みを浮かべる紫の顔を思い浮かべて魔理沙は苦笑した。
あのスキマ妖怪の胡散臭さは幻想郷一だ。


「ま、こことは違う世界だな」
「ふーん、そこにはあんたみたいなのがいっぱい居るの?」
「おう。いやー、常識的な奴が少なくてよ。私がいろんな奴の尻拭いさせられて困ってんだ」
「嘘くさ」


小傘の傘がべろべろと舌を動かす。


「なんだよ」
「嘘つきは閻魔様に舌を抜かれるのよ」
「それが嘘だ。本当は嘘をついた数だけ弾幕をぶつけられる」
「本当?」
「本人に聞いた」
「なんでもいるのね。幻想郷って」
「まあな」
「ふーん。変わった人間だから後をつけてきたけど、面白い与太話を聞けてよかったわ」
「私の尻を追っかけてきたのか? 尻ならいつでも貸してやるぜ」
「いらないわよ。変な奴がカレー食べてたから、面白半分でついてきただけだし」
「で、驚かせに失敗したと」
「あんたの感性が変なのよ」
「違いない」


頬杖をつきつつ、魔理沙は薄い笑みを浮かべた。
だが、少々の失望があったのも事実だ。
確か前に聞いた話では幻想郷の結界には外の世界の妖怪を引き付ける作用があるという。
だが、それは勢力の弱まった妖怪だけだ。
魔理沙や小傘もいずれは幻想郷に呼び込まれるのかもしれないが、そんな事を待ってはいられない。そもそもその結界自体、まだあるかどうかわからないのだ。


「なあ、小傘。お前は幻想郷に行きたいと思う?」
「全然。だって幻想郷の人たちは驚いてくれなさそうなんだもの」
「そうか? こっちの世界の連中だってそうじゃないのか? 最近幻想郷に来た神様は外の世界では神仏を信じなくなったって言ってたぞ」
「お化けなんて居ないって言ってる奴の方が本当はお化けを信じていて出会いたくないものなのよ」
「そんなものか?」
「そんなもの。ちょうど良い獲物が現れたし、それを証明してあげるわ」
「おう。がんばって来いよ」


小傘はベンチを立ち、路地へと向かう。
ちょうど通りかかった女性に狙いをつけ、下駄の音を響かせながら近づいて行く。
なんとなく、微笑ましくその様子を魔理沙は見守った。


「あれ、やらないとダメなのかな?」


驚かすだけならいきなり現れた方がよいのではという、魔理沙の疑問を他所に、小傘は女性のすぐ背後まで迫った。
だが、女性もそれには気づいているようで、逆に振り向き、小傘を驚かした。
小傘は飛ぶように路地まで逃げてしまった。その間に女性はさっさと行ってしまう。
悔しそうに地団駄を踏んだ後、小傘は次に現れた女性に狙いをつけ、その背後に回る。
そして、先ほどと同じように下駄を鳴らせながら、近づいていく。
そして、いつもの常套句を言おうと右目をつむり、舌を出す。


「……ちょっと待てよ」


そこで魔理沙はある疑問に気がついた。
小傘は魔理沙を見つけて、ここまでついてきたと言っていた。
つまり、先ほどまで小傘はここにはいなかったと言うことだ。
では、魔理沙がこの場所に感知した妖怪とはいったい……。
魔理沙の脳裏に疑問が走った瞬間、


「うらめし……ひゃああああああああああっ!??」


住宅の壁が、“割れた”。


「んな……っ!?」


悲鳴を上げる間もなく、先ほどの女性はその中から出てきた緑色の妖怪に肩を掴まれ、中に引きずり込まれてしまう。
まるで、空間から生えてきたかのようなその様子は、かのスキマ妖怪を彷彿とさせた。
そして、さらに小傘にもその妖怪は手を伸ばす。
強靭な腕に掴まれ、引きずられる小傘。


「ひぐっ!?」
「っ! させるか!!」


全力で飛び、小傘の腕を掴んだ魔理沙。
だが、ウインチのごとく強靭な力に小傘は少しずつ空間に引き込まれていく。
咄嗟に魔理沙は八卦炉をその裂け目へ向け、叫んだ。


「マスタースパーク!!」


豪快な破壊音と共に、空間の裂け目がガラスのようにバラバラと崩れた。その隙をつき、魔理沙はその中に身を投じた。
尻餅をついた小傘は呆然とその様子を見ているしかなかった。




――???の空間――
そこは、やはり路地だった。
だが、魔理沙の中に強烈な違和感が生まれる。
先ほどまで夜だったはずなのにこの路地では西側に太陽が沈みかけている。
それだけではない。電線に止まっているスズメは身動き一つせず、塀に座っているネコは瞬き一つしない。そして、魔理沙の長い影も永遠に消えはしない。

同時にそこは地獄でもあった。
この無色の空間にあって唯一動いているもの。それは先ほどの女性の身体を“開き”、その内臓に歯をつき立てる妖怪だけであった。
その周囲には無数の散乱した死体。それらも内臓だけが綺麗にくり抜かれていた。


ぐちゃ……ぐちゅ………がっ…ずちゅ……ずりゃ…………


生々しい咀嚼音に魔理沙の全身の毛が逆立つ。
ピンクや青や緑の、よくわからない肉の塊。それがその妖怪の口の中へと消えて行く。
妖怪は緑の髪を掻き乱し、ヘビとなった下半身を女性の全身に絡ませている。


「っ! その手を離せ! このヘビ女!!」


魔理沙が八卦炉を構えた。
急速に集まる魔力に反応したのか、妖怪は突然顔を上げた。


「殺――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」


二本の牙を見せ、妖怪は魔理沙へ威嚇する。
だが、魔理沙は怯まない。周囲に無数の弾幕を浮かべ、その妖怪へと放つ。
妖怪はすばやい動きでそれを避け、蛇腹でバネのように跳躍し、魔理沙飛びかかった。


「くぉおおおおおおお!!」


青紫色の舌が目の前に迫る。妖怪に押し倒され、魔理沙は停止したアリの上へと叩きつけられた。
咄嗟に差し出した箒がうまく、妖怪の口に挟まった。それがなければ喉元を噛み切られていただろう。
しかし、妖怪の指は魔理沙の肩に食い込み、箒ごと飲み込まんとするように無理矢理に身体を押し付けて来る。


「ぐぅ!!」


左手と肩を使い、なんとか箒を支える。何とか右手をずらし、妖怪の腹へと八卦炉をずらした。


「蒲焼は! 好きか!!?」
「ぎっ!!?」


八卦炉から閃光が放たれる。妖怪は光の奔流に押し流されるように魔理沙の身体から引き離された。
白磁の地面へと転がる妖怪。その腹は魔力でえぐられているが、ギリギリで身をかわしたのだろう、致命傷には届かなかったようだ。
片腹から血肉を撒き散らしながらも、その目には未だ魔理沙への殺意が宿っていた。
魔理沙が再度、弾幕を撃ち込もうとした時、その妖怪の髪から緑色の髪飾りが落ちた。
所々が欠け、ボロボロに汚れているけれど、それはカエルを模したものだった。


「……さ、早苗?」


口に出した魔理沙自身が言葉を疑うような予想だった。
だが、その言葉が世界に染み込んだ瞬間、ピタリと妖怪が動きを止めた。
自らの腹を押さえながら地面を凝視し、波打つように身体を震わせる。


「ぐっ……うごげぇぇぇぇ…………っ、うぐぅぅぅっ……!!」


妖怪は激しく嘔吐した。
まるで今までの自分を全て吐き出すように。先ほど自ら口にした血肉を地面へと叩き付ける。
ボロボロと妖怪が涙を流す。世界が色づいた。
止まっていた鳥は羽ばたきを思い出し、ネコは歩み始める。
魔理沙の影がずっと長く伸びて行きやがて消える。


「ま、魔理沙ぁ………っ、魔理沙ぁ……っ、まり……さぁ……っ!」


吐瀉物の海に身を汚しながら、早苗は何度も魔理沙を呼んだ。
もはや人とは呼べない姿であるが、東風谷早苗は確かにこの世界に帰ってきた。



◆◆◆




――路地――
「ああもう! わちきはどうすればいいのよ! 魔理沙のバカ!!」


一人、小傘は路地をうろついていた。自分の力では何もできないが、かといってここで逃げ出すのも忍びないというハンパな状況なのだ。
ナス色の傘を握り締め、電柱の影から先ほどの住宅の壁を見やる。


「ええっと、逃げても祟られないわよね? わちきは無関係なんだし。被害者だし。それにわちきじゃどうしようもないし。うん、そうだわ。さようなら魔理沙。あなたの与太話は面白かったわ」
「よ。お待たせ」
「ひゅう!!」


いきなり肩を叩かれ、小傘は10センチほど飛び上がった。
慌てて背後を振り返れば、そこには魔理沙と早苗の姿がある。
蛇腹を小さく折り畳み、早苗は目を逸らしている。


「あ、あの、って、え? うぇええ!?」
「あー、話せば長くなるんだ。とりあえず、移動しようぜ。茶も出るぞ」


未だ頭の上に?マークを浮かべる小傘を押し出すように魔理沙たちは移動を始めた。




――守矢神社跡――
神社と湖が消滅し、残された神社にはポッカリと空き地が広がっていた。
残った宿舎にも人気はなく、すでに何ヶ月も放置されていることがわかる。


「すいません。水もガスも止められているみたいです」
「ん〜?」
「水も出ないし、火も起こせないってことよ。魔理沙のバカ」
「水は川で汲み、火は八卦炉で起こすものだろ?」
「それは魔理沙さんだけです」


ペットボトルのお茶を開けて、湯飲みに取り分ける早苗。
魔理沙と小傘は落ち着かない様子で周囲を見回している。


「あ、くもの巣」
「神社が無くなってから、親族の人もみな引越ししちゃったみたいです。もともと神職以外に職を持っていましたし、今は市内のマンションにでも移り住んだのかと」
「はー、そんなに簡単に神社を捨てていいものなのか?」
「身内にも信仰されていませんでしたから」


そして、行方不明になってから数ヶ月。すでに捜査願いも取り下げられているかもしれない。
そんな言葉を早苗は飲み込んだ。
冷たいお茶を飲みながら、小傘ちらちらと早苗の方をうかがっている。


「えっと、で、どういうことなの?」
「んー、ええっとだな」
「私が話します」


頭をかきながら口を開いた魔理沙に対して、早苗が口を挟んだ。
ヘビの尾を器用に折り畳んで正座に近い体勢を取る。


魔理沙と小傘を真っ直ぐ見据え、早苗は話し始めた。
幻想郷で起こった悲劇、幻想郷の現状、そして自分が犯した業を。


「げ、下克上? それに神を喰うなんてそんな……」
「この身体が何よりの証拠です。そして、私が幻想郷からこちらに戻って来れたのも」
「……………」
「神奈子様と諏訪子様の肝を喰らい、私は身を怪異まで堕としました。しかし、そうまでして戻りたかった場所はすでに無かったみたいです」


バカですよね、と早苗は付け足した。
軽いおどけた口調であったが、その目尻は電球に照らされて輝いていた。


「今やこの身は業に塗れています。ならば、せめて皆様から奪ったものを少しでも返していきたい。……罪滅ぼしにもなりませんけど」
「そういう風な考え方は、嫌いだ」


壁を登るイモリを見ながら、ぶっきらぼうに魔理沙は呟いた。
早苗は顔をふせ、ちゃぶ台を見つめている。
その沈黙を破ったのは小傘だった。


「それで……わちきはどうしてここにいるの? わちきは無関係でしょ?」
「そうでした。小傘さん。私たちと一緒に幻想郷に来てください」
「はあ!? なんでわちきが!!」
「幻想郷への道を創るには私や魔理沙さんだけではダメなんです。“縁”と言いましょうか“因果”と言いましょうか。道を創る足がかりがなくなっているんです。無理矢理結界を渡ったせいでしょうけど。しばらくすれば、またそれが生まれる可能性があるんですが、今は一刻も早く幻想郷に戻らないといけないんです」
「じょ、冗談じゃないわよ! わちきはそんな世界に行きたくないわ!」


早苗の言葉に小傘は立ち上がった。二人から後ずさり、距離を取る。


「わ、わちきは人間を驚かす妖怪よ! わちきを捨てた人間に復讐しないといけないの! そんな世界に行ったら、わちきに驚いてくれる人間がいないじゃないの!」
「そんなことはないと思うぜ。幻想郷にも人間はいるし」
「いやよ! いや!」


小傘はぶんぶんと首を振る。その顔は不安と恐怖に染められている。
早苗の瞳を見ながら、身震いをした。
だが、そんな小傘に対して、早苗は正座をしたまま地面を頭にこすりつけた。
土下座だ。


「え?」
「お、おいっ。早苗」
「小傘さん、お願いします……。私は、どうしても幻想郷に戻らないといけないんです……。私は多くの者を傷つけた……。でも、まだ取り返しのつく人もいるはずなんです」
「……………」


小傘は無言で早苗を睨みつけた。
畳に浮かぶ緑色の頭を見て、吐き捨てるように言った。


「都合のいい女」
「……………」
「全部、自分のせいじゃない。あんたがそんな姿になったのも、幻想郷とかいうのが滅茶苦茶になったのも、魔理沙がこんな所に来たのも、全部あんたのせいじゃない」
「……その通りです。でも……」
「知らないわよ、そんなの。やりたきゃ自分の力でなんとかしなさいよ。わちきを巻き込まないで。それにあんたがわちきを殺しかけたの忘れたの? 魔理沙も。他にもいっぱい殺したんでしょ? そのクセ取り返しがつくとか。恥知らず。バカ。死んじゃえ」
「おい! 小傘! 言い過ぎだ!!」


魔理沙が叫び、小傘を止めようと立ち上がった刹那。
早苗が恐ろしい勢いで、小傘へと向かった。
早苗の両手が壁に叩きつけられる。


「ひぃ、ぁぁっ!!」
「人の気も知らないで!!」


小傘の頭の横30センチ、そこに早苗の爪が突き刺さっている。
恐怖で目を見開いた小傘が見たのは、〈怒り・悔悟・悲しみ・憎悪〉の入り混じった早苗の顔だった。口元から長い牙をのぞかせ、ギリギリと歯噛みしている。


「お、お前に! お前にっ!! 私がわかるのか!? 私がどんな気持ちでいたのか! 心を殺して! 笑顔の面をつけて! それでも届かなくて! 全てを失った私が!!」
「ぃひ――――――――――――――――っ!!」
「バカなのは百も承知だ!! でも、私にできることはなんだ! 償い! それしかない! 私には、もう、神奈子様と諏訪子様しかない! せめて、あのお二人は!! 私が傷つけたからこそ! 助けたい! それが悪いのか! 言ってみろ!!」
「早苗! おい! 止めろ!!」


半狂乱の早苗を壁から引き離したとき、小傘は小さくうずくまり、股間から黄色い液体を流していた。
両手を頭に絡ませ、涙ににじんだ横目で魔理沙に押さえられた早苗を見ていた。


「ばかぁ……ばかぁ……ばかぁ……ばかぁぁぁ……」


そんな呟きが聞こえてきた。
髪の毛をかきむしる早苗を隣の部屋に押し込め、魔理沙は小傘のもとへと帰ってきた。
小傘はむせるように泣いていた。しゃっくりが止め処なく続き、自分でもコントロールできないようだ。


「小傘……」
「知らない…わよ。わちきは関係ない……。人間はいつもそうだもの……。自分勝手で、行動して……。いつも、酷い目に会うのはわちきたちなのよ……」
「小傘、聞いてくれ」


魔理沙は小傘を抱きしめた。
魔理沙の温かさに触れ、少しだけ小傘の動悸が落ち着いた。


「私たちはどうしても幻想郷を元に戻したいんだ。私はそう、約束した」


魔理沙は小傘を抱きしめながら、自分の右手を見る。紅いリボンの巻きつけられた腕。それはとある吸血との約束の証だ。


「少しの間でいい。お前の力を貸してくれ。大丈夫。すぐに戻してやるさ」
「……本当でしょうね?」
「ああ、約束する」


魔理沙は自分の右手を小傘の前に差し出す。
小傘はそれを見て、おずおずと自分の右手を差し出した。
二人の小指が絡む。


「約束する」
「……破ったら酷いからね」
「おう」


早苗はふすま越しにその会話を聞いていた。


「約束……か」


小さく呟いた。




――守矢神社、元境内――
魔理沙たちは夜空の下に出た。
早苗は黙々と境内に術式を書き出し、札をまいている。
小傘は早苗と目が合わないように家の光を見ている。
魔理沙はぽりぽりと頭をかきつつも、どうすることもできなかった。


「『空間を創造する程度の能力』……だっけ?」
「はい。神奈子様と諏訪子様と紫さんの力を足して4で割ったくらいの能力です」
「減ってんじゃん」
「実際、あの方たちには及びませんから」


苦笑して早苗は払い棒を振り上げる。
地面に描かれた八卦が輝き出し、眼前に青い光が集まり始める。


「縁を辿り、楽園までの道を創る。紫さんならいつでもどこでもスキマを作れるんですけどね。私はそこまでできません」
「無いものねだりをしても仕方ないぜ。今あるモノで精一杯努力できない内は何も始まらないぜ」
「そうですね……。では、皆さん。この中に」


術式の中に魔理沙たちが入って行く。最後に入った小傘はやはり早苗と目線を合わせないように細心の注意を払っている。
早苗はその様子を横目で見つつ、払い棒を振った。
巨大な光が魔理沙たちに集約して行く。青い光は空へと伸び、天空の星々まで手を伸ばす。
光のトンネルの果てに青と緑の風景が浮かぶ。
懐かしき幻想郷。


「では、飛びます。皆さん、私につかまってください」


早苗が二人に手を差し出す。
魔理沙は早苗の右手をしっかり握り、小傘は左手を


「小傘」
「わかってるわよ」


小傘は早苗の左手を握った。
触れ合っていても二人の距離は遠い。
魔理沙たちを光が運んで行く。
遥かなる幻想郷へ。



◆◆◆




――守矢神社――
三人が目を覚ました時、そこは守矢神社だった。
だが、遥か遠くに広がる里の家々や大きな森がここは外の世界ではないことを示していた。
すでに朝日が昇り、鳥たちがさえずいている。


「戻って来れたのか?」
「そのようですね。うまくいきました」


早苗はほっと胸を撫で下ろした。
そして、守矢神社の玄関に立ち、言った。


「ただいま」


声を返すものはいないだろうと、わかっていても早苗はその言葉を言ってしまった。


「おかえり」


早苗の後ろに立った魔理沙がおどけた顔で答える。
二人ははにかんだ笑みを浮かべ、家へと入っていった。
小傘は辺りを見回しながら、その後についていく。
守矢神社の中に入り、魔理沙たちは居間で一息ついた。
熱いお茶を淹れ、ちゃぶ台に座った。一人、小傘だけが離れた場所で湯飲みを抱えるようにしている。


「まずは情報だな」
「恥ずかしながらあまり外に出ていなかったのもので……」
「ま、しゃーないさ。さて、どうやって……」


魔理沙が思案顔になって、眉間にシワを寄せようとした時、外に違和感を覚えた。


「魔理沙さん!」
「ん!」
「え? あっつ!」


魔理沙は小傘に体当たりをし、畳に伏せた。湯飲みからお茶がこぼれ、い草に吸い込まれていく。
早苗は窓から外をうかがう。
境内に黒い羽を広げた少女がいた。
今しがた空から降りてきたのか、辺りをキョロキョロとうかがっている。
何かを警戒しているのか、必要以上に腰の引けた動きだ。


「射命丸さん?」
「私たちに気づいたのか?」
「この部屋は私の能力で隠していますから……」


早苗が顔をのぞかせる。それでも、射命丸は早苗に気づいた様子はない。
それを見て、魔理沙と小傘もそれにならう。


「なによ? なんなのよ? 誰よあれ?」
「幻想郷の天狗だ。清く正しい射命丸文」


魔理沙が簡単に説明してやる。だが、射命丸の姿を認め、眉を潜める。


「射命丸の奴、なんであんなに包帯まみれなんだ?」
「多分、椛さんたちのせいでしょうね。天狗社会でも下克上が起こったので……。かなり劣悪な労働を強いられていると聞きました」
「……胸糞悪いな」


魔理沙たちがいる居間は早苗の能力で、よほど注意を払わなければ見つからなくなっている。事前に能力を知らない者がそう簡単に見破れるとは思えなかった。
射命丸は辺りを見回した後、神社の中を散策した。
その間も何度も背後を確認したりとせわしなかった。
再び境内へと戻ってきた時、彼女は安堵でほっと胸を撫で下ろした。


「変化なし……。怪しい影は見えず……と」


射命丸は自分でも驚くほど高鳴る胸を押さえながら、大きく息を吐いた。
手帖にペンを走らせる手は未だに震えている。
だが、すぐにもう一つの検案事項にぶち当たった。
彼女にとってはどちらの結果にも救いは無いのだ。


「……早苗さんの行方は知れず、諏訪子様や神奈子様を襲った者の正体も判らずじまい……。このままじゃ……このままじゃ……っ!」


射命丸はその口で人差し指の背を噛み、息を荒くする。
少し近づけば、彼女の指には一本残らず歯型がついていることがわかるはずだ。
目が血走り、額からあぶら汗があふれ出す。
その様子を見て、早苗は蛇腹を膨らませた。爪と牙が伸び、化生へとその存在を変えていく。
それを見て、小傘が小さく悲鳴を上げた。


「早苗」
「今は少しでも情報が欲しい、違いますか? 少々荒っぽい手段ですが……、蛇符『蜿蜒長蛇』」


早苗が呟くと、射命丸まで光る道ができあがる。ヘビのようにうねった道を早苗は器用に辿って行く。
そして、射命丸の背後に回りこみ、手帖を見ながら彼女が一心不乱に指を噛んでいるのを確認した。


一拍分の間。


「殺―――――――――――――――――――っ!!」
「っっっつ!??」


射命丸の顔に混じり気の無い恐怖が浮かぶ。一瞬、身を硬直させ、その怪物の姿を瞳の奥に焼き付けてしまう。
昨夜、女性を襲ったのと同じ要領だ。射命丸からは空間から突然妖怪が現れたように見えただろう。
完全な不意打ち。だが、堕ちても幻想郷最速を名乗っていた射命丸である。ギリギリのところで早苗の腕をかわし、空へと逃れようとする。


「甘いです! 蛙符『蛙の大行進』!!」
「やゃああっ!?」


早苗がさらにスペルを重ねる。
瞬間、早苗の周囲から蛙の舌が伸び、射命丸の足に絡みついた。
強烈に足を引っ張られ、射命丸は地面に叩きつけられた。
地面を這う早苗の姿を認め、射命丸の顔に恐怖が張り付く。


「ひぃ! あ、あ、あ、わ、私、おいしくないですよ!? ほ、ほら、こんな傷だらけで、肉付きも悪いし! そうだ、もっとおいしいそうな人を知ってますよ! わ、私、案内しましょうか!? か、河童とかどうですか? 知り合いにおいしいそうな人がいますよ!? そ、それとも天狗がいいですか? いい人知ってますよ! 尻尾や耳がふさふさで、しっかり引き締まった身体はきっと食べ応えがあるかと! そうだ、そうしましょう!! だ、だ、だから! だからっ!!」


言葉をまくし立てながらも、射命丸は後ずさり、早苗と距離を取ろうとしている。
スカートがずり落ち、下着が露出するのだが、そんなことにはまるで関心がないようだ。今はただ、目の前の脅威から逃れることだけを考え、頭をめぐらし、言葉を紡ぐ。


「そ、そ、そうだ! 女の身体に興味はおありで!? は、はい! わ、私、エッチなこと大好きですよ! な、何でも言ってください! ご奉仕します!! ご主人様!! 靴の裏ですか!? お尻ですか!? どこでも舐めますよ!! はっはっはぁっ……!」


射命丸は上着のボタンをぶちぶちと飛ばしながら、その形の良い胸を露出させた。まるで犬のように舌を出す。その舌も唾液にまみれ、だらしなく開いた口を相まって相手の劣情を否応なく狩り立てる。


「……………」


だが、早苗の中に生まれたのは、劣情ではなく。悔悟。
自分という存在に対する、これほどまでの恐怖を早苗は改めて実感していた。
射命丸は早苗に恐怖している。それも最大級のだ。その事実が早苗の胸を深くえぐる。


「たぁ!!」
「―――――っ!!」


早苗が目を逸らした一瞬の隙をつき、射命丸が手帖を早苗に投げつけた。
早苗が怯んだ瞬間、全力で翼をはためかせ、空へと逃れる。


「しまった!!」


早苗の拘束を力づく解き、射命丸は飛び去ってしまう。あっという間にすの影が小さくなり、空の中へと消えてしまう。
後には射命丸のスカート、ボタン、手帖が残された。
早苗はそれらを拾い上げ、神社へと戻った。


「油断しました……面目ないです」


力なく早苗は魔理沙へと手帖を渡す。
小傘が小馬鹿にしたように息を吐くが、それに対して早苗は何も返すことができなかった。


「まあ、いい方向に考えようぜ。射命丸のあの様子じゃ、お前の姿なんか良く覚えてないだろ。ここも安全じゃなくなったかもしれないが、すぐに私たちとは気づくことはないさ」
「そうでしょうか?」
「それに情報については、結果オーライだ」


魔理沙は早苗に手帖を開いて見せた。そこには射命丸の丸い文字で今の幻想郷についての記述がびっしりと書かれていた。



◆◆◆



「小傘! しばらくここに隠れてろ! 絶対に動き回るんじゃないぞ!」
「あっ! ちょっと魔理沙!?」
「すみません! 一刻を争う事態なんです!」


射命丸の手帖をめくった魔理沙たちは跳ねるように立ち上がり、神社から飛び出していってしまった。
一人残された小傘は口を尖らせ、魔理沙たちが飛んでいった方に、あかんべーをする。


「なんなのよ、も〜〜〜」


小傘はその手帖を軽く眺める。そこには『神奈子、諏訪子の両名を発見。瀕死の重傷なれど息はあり。永遠亭に運ぶ』とメモが書かれていた。


「神奈子と諏訪子……。早苗が言ってた神様か。そのせいか」


小傘はそのメモを見て大体の理由を察した。だが、それと小傘の怒りとは別問題だ。


「すぐに帰すって言ってたのに……。いいわよ! そっちがそうなら、わちきも勝手にさせてもらうわ!」


小傘はナス色の傘を手に、守矢神社の鳥居に立つ。
正直言って、もう空腹の限界だった。小傘にとっての空腹は存在の否定だ。人を驚かすことを止めれば小傘が生きていい道理はないのだ。
そして、今それはピークに達しようとしていた。
ごくりとツバを飲み込む。だが、もはや後戻りするつもりはなかった。


「……す、すぐ帰れば、大丈夫よね? それに魔理沙たちが悪いのよ。わちきとの約束を守ってくれないから」


自分自身に言い訳し、小傘は里へと向かった。
ナス色の傘が青い空に舞う。
とある白狼天狗がそれを見つけるのに、さほど時間はかからなかった。




――妖怪の山、山道――
「神奈子様、諏訪子様、無事でいてください」
「大丈夫だ。あのゴッデスズだぜ? 殺しても死なねえよ」
「そう……、そうですよね」


永遠亭の現状については早苗も知っている。医療の腕こそ落ちていないが、純粋なる狂気が蔓延した死都と化していた。
魔理沙にしてもレイセンやてゐの行為は嫌というほど見せ付けられた。目的のために手段を選ばなかった早苗とは違い、彼女らはそれを“楽しめる”のだ。
そして、もう一つの疑問。


「なあ、早苗」
「なんですか?」
「萃香のことなんだが……」
「……………」
「……死んじゃいないんだよな?」
「……はい。“反転地”が完成した時点では確かに生きていました。ですが、永遠亭に輸送された後は……」
「生きてるさ」


魔理沙は遠くを見据えて、力強く言った。


「あの鬼っ子がそう簡単に死ぬ玉かよ」
「そう、ですよね」


二人は里を迂回し、迷いの竹林へと向かう。
萃香のことについてはそれ以上、触れることはなかった。




――永遠亭――
二人が辿りついた永遠亭にはむせ返るような鉄の匂いが充満していた。
うさぎたちが跳ね回る風景は以前のままだが、その白い毛に赤黒い血がこびり付いている。


「ぎぃぃいぃぃぃぃいいいいいいっ!! あががああああああああああああああっ!!」


永遠亭の一室から悲鳴が響き渡る。部屋には『屠殺室』と書かれたプレートが張られている。
その中で蓬莱山輝夜が殺されていた。
四肢を固定され、巨大な肉切り包丁で手足を落として行く。


「はい、肩ロースあがったよ」
「脳は頭蓋骨ごと? それとも単品?」
「性器は別売り。丁寧に洗っといてね」


テキパキとてゐは輝夜を解体して行く。
何度殺しても生き返る輝夜はまさしく“生きた食材”として里で売り出されるようになったのだ。


「うぶぅ……ぐぅ……」
「大丈夫ですか? 魔理沙さん」
「ああ、大丈夫。大丈夫だ……」


激しく痙攣する胃を無理矢理押さえつけながら魔理沙は立ち上がった。
目の前に広がる阿鼻叫喚。それはとても直視できるものではなく、自分の想像力の貧困さを思い知らされるものだった。


「壊れてやがる……」
「行きましょう。……今は耐えるしかありません」
「クソッ、クソッ!」


早苗の肩を借りながら魔理沙はその部屋を後にした。
魔理沙たちが去った後も、その部屋からは輝夜の悲鳴が響き渡り続けた。


移動にはかなりの時間がかかった。
なにせ、誰かが近づくたびに早苗の能力で隠れ、再び移動するということを延々繰り返すしかないのだ。しかしながら、これが一番敵に見つからず、安全に移動できる手段なのは確かであった。


「帰るころには日が暮れてるかもな」
「私もそんな気がしてきました」


奇しくも神奈子と諏訪子の姿を二人が認めたのは、そんな軽口を交わしたすぐ後であった。




――永遠亭、臨時寝室――
消毒液の香りにまみれたベッドの上に二人は寝かされていた。
手術でも行い現在は安静状態なのか、二人ともベッドの上に横たわり、静かに呼吸をしていた。
見たところ、身体に欠損は無い。内臓を喰われたのにも関わらず、ここまで再生したのはひとえに神としての力の成せる技だろう。


「……っ! 良かった……っ!」


早苗は安らかな顔で眠る二人を認め、涙を流した。
自分の業が清算されたような下心はある。だが、それ以上にこの二人の神と共に居られることが嬉しいと感じられるようになっていた。
思えば、早苗にとっての家族とは始めからこの二人だけだったのかもしれない。


「魔理沙さん、私……私……っ!」
「ああ、お前は仲間を見捨てなかったぜ」


諏訪子に抱きつき頬ずりとする早苗を魔理沙は照れくさそうに見ながら、頭をかいていた。


「しっかし、気味の悪い部屋だな」


魔理沙はその部屋を見回した。
理科の実験室のごとく、人体の解剖図が壁に張られ、頭蓋骨の模型などが置いてある。
さらに目立つのは部屋中に置かれたにはホルマリン漬けの標本だ。ヘビやカエル、魚が瞳を白く濁らせて、魔理沙見ている。
そしてその中に、一際大きなケースを認め、魔理沙は中をのぞこうと身を乗り出した。


「魔理沙さん、戻りましょう。諏訪子様の方を頼んでいいですか?」
「ああ、わかった」


魔理沙は踵を返して寝台へ向かう。そして、諏訪子の軽い身体を抱えてその部屋を出て行った。
一際大きなホルマリン漬け。そこには『鬼の頭部』というラベルが貼られていた。
だが、最後まで魔理沙たちがそれに気づくことはなかった。



◆◆◆




――守矢神社――
神社へと二人の神を連れ帰り、ふとんに寝かせた頃にはもう夕方になっていた。
二人を無事連れ帰ることができた安心感と、目の覚ますことのない様子に早苗と魔理沙はやや複雑な心持ちだった。
だが、純粋に再会できたことを喜ぶことにした。
ゆえに小傘が家の隅で小さくなっていることに疑問を抱くことが遅れた。
ありあわせの材料で、早苗はご飯と味噌汁、野菜炒めを作った。
もりもりと野菜炒めを食べていく魔理沙。礼儀正しく箸を使う早苗。そして、食の進まない小傘。


「どうしたんだ? たくさん食べないと大きくなれないぜ」
「あんたに言われたくないわよ。それにわちきはこういうのはあんまり食べないの。前に話したでしょ」
「ああ、人を驚かせば腹にたまるんだっけ? なら、私らを驚かせばいいんじゃないのか? 遠慮はいらんにょ」
「いい。別にお腹減ってないし」
「そうなのか? ここに来る前はお腹を鳴らしていたような気がするけど」
「本当に大丈夫だから!」


大きな声を上げる小傘に魔理沙も箸を収め、なんだよと小さく呟いた後、ご飯をかき込む作業に戻った。


「さて、魔理沙さん。これからどうしましょうか?」
「んー、射命丸のおかげで噂広まっちまうだろうなー。早苗の能力で隠すのも限界があるか」
「な、なら、早苗が見張りでもすればいいじゃない。あんたのその姿なら誰も寄り付かないわよ」
「小傘。そういう言い方は無いだろう」


小傘の軽口に魔理沙は眉を潜めたが、早苗の方はうつむいてあごに手を当てて考え始めた。


「そうですね。その案はありかもしれません」
「早苗、いいのか。そんな」
「下手に隠して疑われるより、少しくらい目立ったほうが不自然ないかもしれません。それくらいはやります」
「ま、早苗がいいならいんだが……」
「小傘さんたまには良いこと言いますね」
「え? あ、うん……」


小傘は箸を口の中に入れ、目線を逸らした。
魔理沙と早苗は不思議そうにそれを見たが、今はとにかく食べたかった。



◆◆◆



二人の神は日付が変わっても目覚めなかった。
早苗の見立てでは力を回復するために眠りについているだという。今は住処である守矢神社の中でゆっくり休む他なかった。

その日から早苗は神社の周囲を散策し、近寄るものがいたら脅すようにした。
予想通り、守矢神社の妖怪については噂が広がっているようで、興味本位でやってきた妖怪がちらほらいた。だが、早苗の姿を見ると皆逃げ出した。その効果に早苗自身ショックを受けた。
幻想郷では守矢神社に住み着いた謎の妖怪として知られるようになったが、実害がないので放置されるようになった。
そして、数日経ったある日。


「殺――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」


早苗は妖怪の山を登ってきた二人組みに対して、威嚇の声を上げた。
だが、深々とフードを被った二人組みは、逆に怯むことなく早苗の方へと向かってきた。
そのうち一人が、その足に炎を纏わせ、早苗に強烈な蹴りを放った。


「不死『火の鳥―鳳翼天翔―』!!」


早苗はその攻撃を紙一重でかわすが、前髪の一部を焦がされた。
燃えるフードを投げ捨て、〈蓬莱人〉藤原妹紅は凶暴に歯を見せた。


「やるじゃねえか、妖怪! だが、オレの攻撃を凌ぎ続けられるか!?」
「え? 妹紅さん!?」
「は! 馴れ馴れしく呼ばれる筋合いはねえな!!」


全身の炎を纏わせ、妹紅は早苗に突貫した。
どうやら、早苗であるとはわかっていない様子だ。その点に関して、早苗の行為は狙い通りであり、不幸でもあった。


「らぁらぁらぁ!!」
「っ!」


強烈な回し蹴りを放つ妹紅に対し、早苗は空間を使い、高速で距離を取る。だが、妹紅の熾烈な攻撃にじょじょに押され始めた。


「どうした!? 反撃しねえと、燃えちまうぞ!」
「くっ!」
「不滅『フェニックスの尾』!!」


妹紅の右腕に巨大な炎が重なっていく。強烈な跳躍で、早苗に近づき、その右腕が早苗を捉え様とした瞬間、


「イリュージョンレーザー!!」
「!!」


閃光が二人の間を分かち、そこに箒に乗った魔理沙が身体を割り込ませた。
光線をかわした妹紅はバックステップで距離を取った後、現われた魔理沙の姿に口を開けた。


「させねえぜ! 妹紅! 早苗を殺るつもりなら、私が相手だ!!」
「なっ!? ま、魔理沙、生きてたのか!!」
「妹紅! お前も“反転地”って奴に乗った口か!? なら手加減はしないぜ!」
「ちょっ、ちょっと待て! 少しばかり考える時間をくれ!!」


一触即発の空気の中、それを打ち破ったのは、フードを被ったもう一人だった。
彼女はフードを脱ぎ、三人の間に割って入る。


「妹紅。魔理沙。どうやら、激しい誤解があったようだ。ここは一度、落ち着いて話し合うべきだと思う」
「誰だ、お前?」


魔理沙が疑問の声を上げる。
白い短髪、ゆるやかな青い着物、背丈は低く、顔にメガネをかけている。
だが、どこからどう見ても魔理沙の記憶にあるような人物ではない。


「ボクだ。ボク」
「だから誰だ、生憎と出会った人間全員を覚えてるほど記憶力は良くないぜ」
「はぁ、君がそんなに薄情だとは思わなかったよ。やれやれ」


軽く首を振る。そのどこかバカにしたような仕草に魔理沙は見覚えがあった。


「ま、ま、まさか、香霖か?」
「正解。森近霖之助。今は霖子と名乗っている」
「はぁーーーーーーーーーっ!!?」


魔理沙の絶叫が魔法の森に響き渡った。幸運なことにそれを聞きつけ、妖怪が来ることはなかった。




――守矢神社――
「……というわけで、どこもかしこも下克上の騒ぎだ。ボクも玄爺たちに目をつけられるかもしれないからね。とっておきの秘薬を使って姿を変えておいたんだ」
「あ、うん、そうか。でも、わざわざ女に?」
「他に方法はなかったしね。で、ボクと同じようにこの異変を解決しようと奮闘していた彼女と出会った訳だ」
「ま、そういうことだ。オレは顔が割れてるし、一人じゃどうにも首が回らないしな。少しでも協力できる仲間が必要だった。で、神様が連れ攫われたって話が耳に入ったんで、こうして取り返しに来た訳なんだが……」
「……君たちも色々あったみたいだね」


魔理沙と早苗を見ながら、香霖は言った。早苗がどういう経緯でそんな姿になったのか、あらましはすでにしゃべってしまった。


「ま、なんとかな……」
「本当に申し訳ありませんでした」


早苗は二人に対して、頭を下げる。その様子を見ながら、香霖はメガネを直し、妹紅はそっぽを向いた。


「ま、異変を解決することが先だ。早苗のことは置いといてやるよ」
「ありがとうございます」
「それで、あの子が小傘ちゃんかい?」


香霖が部屋の隅で傘を差している小傘を指差す。
小傘は新しく入ってきた二人を警戒するように見つめるが、決して目線を合わせようとはしない。


「なにやら、嫌われているようだな」
「エロイ視線しているからだぜ」
「失敬な。少なくとも今はしていない。それにボクは人間にも妖怪にもさほど興味はない」
「相変わらずだな。女になって性格まで変わっていたらと心配したぜ」


けらけらと魔理沙は笑う。その屈託のない笑みに香霖も薄くほほを緩ませた。
妹紅はそんな二人を興味深そうに見ていた。


「さて、実際問題どうするかだ。とにかく、できる限り資料を集めまとめよう」
「おう」


香霖がちゃぶ台の上に紙を広げる。片手に万年筆を持ち、さらさらと現在の情報をまとめていく。


「この異変の犯人は玄爺。彼は何らかの力によって博麗の巫女、博麗霊夢を操り、結界を操作した。それにより、この幻想郷の法則が書き換えられた。下克上。主であったものは従に、従であったものが主に。そして、ほとんどのカリスマは捕らえられている……。しかも、八雲紫でさえ、閻魔の力によって押さえられている。これはずいぶんと絶望的状況だな。他には?」
「あ、そうだ……」


早苗ははっと気づいたように顔を上げ、部屋を出て行く。そして、再び戻ってきたとき、その手には一枚の手紙が握られていた。


「これは?」
「“反転地”の前、玄爺に招集された時に配られたものです。恐らく全ての従者に渡されたものかと」
「確か、それを受け取った連中が、反乱を起こしたわけだよな? 従者同盟による反乱か……」
「はい。あらましは先ほど話した通りなので、あまり役には立たないかもしれませんが」
「いや……」


その手紙を読んでいた香霖の口元に笑みが浮かぶ。


「なんだよ、気持ち悪いな。気持ち悪いを通り越してキモいな」
「妹紅君。君はもう少し、口を良くした方がいい。……早苗君、お手柄だ。ここを見てくれ」


香霖が手紙の一文を示す。
その文字に皆が身を乗り出し、注目する。


「『反魂玉』?」
「そうだ。これが何を指し示すものかはわからないが、恐らくはこの異変に深く関わる道具の名前だ。そして、ボクの能力は……」
「『道具の名称と用途が判る程度の能力』!!」
「そう。名前さえ判ればこの道具の効果がわかる。霊夢を解き放つ足がかりが掴めたぞ」


香霖の言葉にみなの顔が明るく輝く。
一抹の希望を手に掴み、顔を見合わせる。
その瞬間、






「「話は聞かせてもらったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」」






ふすまが勢いよく開けられ、突然二人の神が顔をのぞかせた。


「うおっ!」
「か、神奈子様!? 諏訪子様!?」


二人の神はずんずんと歩き、皆の前に立つと堂々たる宣言をした。


「話は聞かせてもらったわ! おのれ玄爺許すまじ!」
「今こそ我らが立つときだ! この異変を解決するため我々が団結し、協力し、戦うときだ!!」
「お二人とも、目を覚ましたんですね!?」
「んーんー。意識自体は結構前から戻ってたけどしばらく身体を休めてた。力を戻さないといけないからね」


あっけらかんと言い放つ諏訪子に早苗はぶるぶると肩を震わせた。
だが、二人の神に向かうことはなく、逆に壁際に進み、距離を取った。


「どうしたのよ、早苗?」
「さなえー?」
「……だって、お二人とも……怒ってないんですか? 私はお二人にあんなことをして、こんな姿になってしまって……」
「ばか」


後ずさる早苗に神奈子は抱きついた。
驚き目を開く早苗。
その隙に小傘は部屋を出て行った。


「あんたの居場所はここでしょ?」
「っ!!?」
「神奈子ー! 私が届かないよー!」


諏訪子の言葉を聞き、早苗と神奈子は腰を降ろした。早苗の肩に諏訪子の頭が乗る。


「無理をしたのは私らだもん。早苗の気持ちも知らずにさ」
「それに戻ってきてくれた。なら、言うことないよ」
「――――――――――――――――――っ!!  神奈子様! 諏訪子様!」


早苗のすすり泣きが聞こえてくる。
ようやく、早苗は家へ帰ってきた。


「んー」


魔理沙はその様子をくすぐったそうに見ていた。


「家族が恋しいか? 魔理沙」
「別に。そういうのはとっくに投げ捨ててきたぜ。ただ、やっぱり早苗には私じゃなくてあいつらが必要だなって思っただけだ」
「ボクでいいなら――」
「そっから先は言わない約束だぜ、香霖」
「そうだったな」


魔理沙は香霖の口に手を当てた。
その様子を見て、妹紅が頬杖をつきながら、口笛を吹く。


「熱いね、お二人さん」
「そういうんじゃないぜ」
「別にいいじゃねえか。今の霖之助なら魔理沙も問題なしだろ?」
「いや、そういうのならむしろお前の方がいいぜ。どうだ今夜? お前の炎よりも熱い夜にしてやるぜ?」
「結構。オレは慧音一筋だ」
「輝夜は?」
「泣いてせがむから相手しているだけだ」
「嘘付け」
「まあな。理由なんか覚えてねーよ」


そういって妹紅はタバコの火をつけた。ゆらゆらと煙が守矢神社の境内へと流れていく。


「慧音の奴は寺子屋で犯されてる」
「……………」
「自分が手塩かけてた生徒の前で痴態を晒されてる。それどころか生徒に犯されてる。殺されはしないが、それは死にたいくらいのことだろうよ」
「……助けには行かないのか?」
「行ったさ。そしたら頭突きされた。『私のことはいいから異変を解決しろ!』だってさ。ったく、クソ真面目だよな。愛の逃避行に洒落込もうってのに」
「……………妹紅」
「魔理沙。霖之助」


妹紅が魔理沙へと振り返る。
右手にタバコを握り、一瞬にして灰へと変える。


「異変を解決するぞ」
「ああ」
「そうだな」


巫女と神様が抱きたい、三人が決意をあらたにした。
小傘は一人外へ出た。




――守矢神社、境内――
皆が話し合っている隙を見計らい、小傘は外へと出た。神社の裏手へと回り、そこに待機していたネコに手紙を渡す。
ネコは口に手紙をくわえ走り去ってしまったが、それに魔理沙たちが気づくことはなかった。




――マヨヒガ――
「ふぅん、ずいぶんと面白いことになったようですね。いいですね。これでこそ、噂を広めた甲斐があるというものです」


ネコが運んできた手紙を読みながら、橙はご機嫌に尻尾を振った。
本来ならば玄爺から博麗神社から離れることも禁じられているが、橙にとってみればそんなことは知ったことではない。
〈好きなことを好きな時に好きなだけ〉。
それが式を破った橙にとってのあり方だった。
紫との交わりもその一環でしかない。それに飽き始めた今、新しい娯楽を橙は欲していたのだ。


「そろそろ味が染みてきた頃ですね。うん、そろそろ食べちゃいましょう」


ぺろりと口の端を舐める橙。
イスになりきり橙をひざに乗せていた藍から下り、自らの爪を舐め上げる。


「行きますよ、藍しゃま。一人残らず捕らえて私のペットにするのです。決して干物に横取りなんかされちゃダメですよ」
「はい」


橙の声に藍は無機質に答えた。
そして、マヨヒガの周囲には無数の天狗が武器を構えている。
その最前列。
白い耳と尻尾を持つ〈白狼天狗〉犬走椛とその横で地面に座り込み震えている射命丸に橙は近づいていく。射命丸の包帯の数は目に見えて増えており、その下から血が滲んでいる箇所も少なくない。
地面を睨むように見つめる射命丸の前に橙が座る。
アゴを引いて顔を上げさせる。橙の鋭い瞳孔に睨まれ、射命丸は背中に氷をぶつけられたかのような感覚に襲われた。


「えっとぉ……。射命丸さぁん……。私たちを売り飛ばそうとしたんですってね?」
「て、手帖は投げてしまいました……。で、でも、売り飛ばそうなんて……」


ガリッという音と共に射命丸のほほに血の筋ができる。
橙は爪についた天狗の血を舐め取った。


「弁解とかいいんですよぉ。YESかNO。“はい”か“いいえ”で答えてください」
「は、はい……」
「そうですかぁ……」
「――――っ!! ぁぁぁふぅ!!」


橙が射命丸にくちびるを重ねた。だが、それは口付けなどという愛情表現の方法ではない。
射命丸の赤い舌。それを橙が噛み締め、引きずり出していた。
口の根元から血があふれ出すのを射命丸は感じた。さらに舌からも血が滲み出す。
橙が口を離した後も、射命丸は舌を伸ばしたまま、痛みに身を転がした。


「嘘つきや裏切りものは舌を抜きます。皆さんも覚えていてくださいね。」


べっ、と血の混じったツバを射命丸に吐きつけ、橙は言った。


「後、失敗を重ねるような人も私は嫌いです。一度目は許しますが、二度目はないと思ってくださいね」


その言葉に射命丸はびくりと肩を震わせる。顔を上げ椛の方を向くが、そこにあるのは射命丸にいささかの価値も見出していない無関心の顔だった。


「それでは、日没と共に守矢神社に向けて侵攻します。ただし、周りに悟られないようにしてくださいね。特に亀の干物とかには……」


橙の言葉を受け、天狗たちが頷いた。
魔理沙たちの長い夜が始まろうとしていた。










つづく
まさかの中編。あらすじを考えた時点で気づくべきでした。
今回は説明や出会いが多くて、ちょっとテンポが遅くなっています。後編ではガンガン物語を進めていくつもりです。

関係ありませんが、某動画サイトで「サイコパス診断」の動画がありました。10問中1問しか当てはまりませんでした。残念。

予想外に長い話になりましたが、最後までお付き合いいただけると幸いです。
ウナル
http://blackmanta200.x.fc2.com/
作品情報
作品集:
2
投稿日時:
2009/08/30 23:07:07
更新日時:
2009/08/31 04:59:35
分類
下克上
魔理沙
早苗
小傘
レイプ
拷問
長文
1. 名無し ■2009/08/31 00:00:02
妹紅の口調が……魔理沙の霖之助への呼び方が……気になりましたが!しかし!そんな些細なことはどうでもよくなるような素晴らしい内容でした!
2. 名無し ■2009/08/31 00:55:24
サイコパス診断は答え知ってる2問以外全部はずれた、真に恥ずかしい限りだ
3. 名無し ■2009/08/31 03:59:00
小傘の一人称
小町のしゃべり方
妹紅のしゃべり方
文の話が前にここで見た話と似すぎ
4. ウナル ■2009/08/31 06:27:18
解説というか修正というか、弁明というか。

・小傘の一人称は「私」。「わちき」はキャラ付けのためにわざと言っているみたいです
・小町がこんな三下口調じゃありません
・妹紅はこんな男口調じゃないし、タバコを吸う描写もないです
この3つは本作におけるキャラ付けの一環と思ってください。目立つ特徴が欲しくてつけた二次的設定です。

・魔理沙の霖之助の呼び方。
「霖之助」ではなく「香霖」でしたね。修正しました。

・文の命乞いについて
nekojita さんの作品に影響されてますね、確実に(苦笑)。不快であるならば修正いたします。
5. 名無し ■2009/08/31 11:56:47
前回までは面白いと思ってたけど今回だけは駄目だわ。
話自体は面白かったけど、キャラ崩壊のひどさが気になってしかたない。
いらん設定付けなきゃキャラの良さを出せないならそいつ出すなと言いたい。
6. 名無し ■2009/08/31 12:03:17
おぉ、早苗が正気を取り戻すとは!
ケース6のラストが単なるエピローグでなく、伏線だったとは驚き。
だんだん下克上世界の綻びも見えてきましたね。目上の者を打ち倒し得るという事は、今度は自分も打ち倒される対象になりうるという事で…。
増長した橙の暴走がどんな結果を引き起こすのか、恐らく起きるであろう造反側の内部分裂がどのような形をとるのか
(せっかくの守谷神社の情報を玄亀に知らせていない段階で各個撃破フラグ立ちすぎ)
いよいよ楽しみになってきました。
7. 名無し ■2009/08/31 12:06:55
折角の良作なのにいろいろ惜しい
8. 名無し ■2009/08/31 13:10:52
まあここは産廃だという点を考慮すればかなりの良作と思うけどね
9. 名無し ■2009/08/31 13:39:57
>神奈子様! 諏訪子様!
まさか下克上で感動する日が来るとは思っても見なかった

それと小町の頭がおかしいw
後編では腹ポテ小町が見れるかな
10. 名無し ■2009/08/31 15:11:45
キャラ崩壊してるな・・・
良作なのに惜しいなー
一番悲惨なのは誰だ、紫かけーねか
11. 名無し ■2009/08/31 15:38:54
むしろこのシリーズは、異変により下克上する側のキャラ暴走・崩壊を堪能するべきでは?
異変解決を試みる魔理沙たちが基本的に王道的キャラ付けなのも、崩壊キャラとの対比になっていると思う。
12. 名無し ■2009/08/31 16:42:56
確かに口調とか惜しいけど、ここはそそわみたいに批評する場所なの?

ここまで来たらハッピーエンドにして欲しいが…まさか
13. 名無し ■2009/08/31 18:30:36
米10
どう考えても萃香だろう
14. 名無し ■2009/08/31 20:59:26
産廃っぽければそれでいいと思うんだが…
そういう場所なんだし
楽しく読もうぜ、楽しく
15. 名無し ■2009/08/31 21:01:53
なんか色々言われてるけど俺は全然いいと思うけどな。
早苗さんナデナデしたい。
16. 名無し ■2009/08/31 22:34:29
変身(?)した早苗さんが某フリーゲームのドジっ子主人公みたいで素敵。
これぞ異形の者って感じ。好きです。
17. 名無し ■2009/08/31 23:37:20
早苗さんの下半身は治らないのか…?
18. 名無し ■2009/09/01 00:34:52
めーりんを何とかして欲しいとにかく
19. 名無し ■2009/09/01 00:39:30
ハッピーかデッドか全く予想が付かないから産廃は楽しい
20. 名無し ■2009/09/02 19:22:54
>金は妖怪退治ならぬ人間退治で巻き上げたのでそれなりにある。
魔理沙、さりげなくヒデェw
まぁちょっかいかけたチンピラが返り討ちにあったんだろうけど。
21. 名無し ■2009/09/03 21:03:53
確かに口調やキャラ崩壊気味なのは気になったけど、それ以上に続きが気になる
普通に面白いよ
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