武士、告白する

作品集: 3 投稿日時: 2009/09/23 16:34:32 更新日時: 2009/09/23 16:34:32
 事の発端は、西行妖が満開にならなかったことから始まりました。

 幽々子様は霊夢さんに負けたあと、非常に憤っていたようです。
 人間に負けたことが、幽々子様の怒りを買ったのかどうかは分かりません。
 それにも怒っていたのかもしれませんが、幽々子様は西行妖が満開にならなかったことに怒っていたのだと思います。

 幽々子様は珍しく、いつもなら私に任せるだけなのに、西行妖を咲かせることについては尽力していました。
 実際に春を集めていたのは私ですが、幽々子様は、私が春を集めているのをばれないようにしていました。
 冥界付近では、私が春を集めていたことは幽々子様自らが口止めしていましたし、私が通るために、幽明の境の結界を弱めたのも幽々子様でした。

 異変にいち早く気づいた藍様が、白玉楼へ来たときも幽々子様が対応しました。
 藍様が白玉楼へ来たとき、いつものように私が出て何用か尋ねました。藍様は「紫様の使いだが、幽々子様と話がしたい」と言いました。
 紫様にまつわる者は通してよい、と言われておりましたので客人としてもてなし、応接間で待ってもらいました。
 応接間へ行く途中、念のため藍様に「どうして幽々子様と話したいのでしょうか」と尋ねると「白玉楼に春を集めているのは何故か幽々子様に聞くためだ」と予想通りの答えが返ってきました。

 幽々子様に客人のことを伝えようと応接間を出て、私は幽々子様の部屋へ行きました。襖越しから「紫様の使いと名乗る者が来ました」と伝えると幽々子様は「分かったわ」と答え、何故か使っていない物置のほうへと向かいました。

 幽々子様は物置から、子どもが丁度一人収まるくらいのダンボールを取り出し、運び出しました。
 ダンボールの蓋は閉じていましたが、そこからはかすかに腐臭がしていました。
 私はそんなものを幽々子様に持たせるわけにもいかず「お持ちしましょうか」とお聞きしましたが「妖夢にこんなもの持たせられないわ。私一人で行くから妖夢は待っていてね」と言われました。

 私はその後自室で、白玉楼から藍様の気配が消えるまで待っておりました。
 ときおり殺意が感じられ、出て行こうか迷いましたが、幽々子様の言い付けを守りました。

 結局何事もなく藍様が去った後、何が起こったのか幽々子様に聞きましたが、はぐらかされるばかりでした。
 ただ、ダンボールの中身について聞くと「猫よ」と答えてくれましたが、私には意味がよく分かりませんでした。

 幽々子様はダンボールを自室に持って行きました。それから一度も、そのダンボールを見ていません。おそらく、幽々子様が処理したのでしょう。





 このように幽々子様は、春を集めることに尽力していました。私は今まで、幽々子様がこれほど動いているのを見たことがありませんでした。
 それだけに失敗したときの怒りは、すさまじかったことでしょう。

 しかし不甲斐ないことに、私は幽々子様が怒っていることをまったく知りませんでした。
 霊夢さんに負けた後も、幽々子様はいつものように微笑んでおりましたし、そもそも幽々子様の考えはよく分からないことが多いのです。
 霊夢さんたちとの最初の宴会でも、幽々子様は怒っているように見えませんでした。
 もっともそのとき私は、私を破った霊夢さんに興味津々で、あまり幽々子様の側に居ず、いつもより酒を飲んでいたのではっきりとはいい難いですが。

 宴会が終わった後、私は酒を飲みすぎてかなり酔いが回っていました。そのせいで、白玉楼内の警戒を緩めてしまいました。

 思えば、ここで気を引き締めて警戒に当たっていれば、三姉妹を監禁するということなど起こらなかったのに、私が未熟者でさえなければ、こんなことなど起こらなかったのに、悔やんでも、悔やみきれません……。

 私が自室で眠っていたとき、パリンと何かが割れる音を聞いて目が覚めました。
 音がしたのは、幽々子様の蒐集物を収めておく部屋でした。私はすぐさまその部屋へと走りました。

 そこにはプリズムリバーの三姉妹がいました。
 ルナサさんが、この馬鹿、とリリカさんを怒鳴っていて、リリカさんは開き直ってルナサさんに責任を押し付けていました。メルランさんはかなり酔っているようで、寝ぼけていました。
 彼女たちの足元には、幽々子様がしばしば愛でていた網目模様の大きな皿が割れていました。

 先ほど言ったように、この部屋は幽々子様の蒐集物を収めておく部屋で、中には楽器もありました。白玉楼での宴会では、ここの楽器を貸し出していました。
 いつ三姉妹に聞かされたか覚えていませんが、次の神社での宴会はすぐにやるからと、リリカさんが楽器を借りようとしていたようです。
 そこに、リリカさんがいないことに気づいたルナサさんが、リリカさんを探していると白玉楼の上空で見つけたらしいです。

 最初はいつものように私が出てくるのを待っていたようですが、いくら待とうとも現れないので、こんな時間だし寝てるんじゃないかと結論付けたそうです。
 そこで、寝ているところを叩き起こしたら、楽器を借りられないかもしれないから、忍び込んで借りてこよう、とリリカさんが言ったそうです。
 帰ろうとルナサさんは言ったようですが、リリカさんにあれこれ言われて説得させられたようです。
 真面目なルナサさんが折れたのは、おそらく楽器の魅力に負けてしまったのでしょう。

 三人は襖を開けた私に気づいていないようでしたので、呼びかけました。三人は私に気づいて謝り、頭を下げました。
 白玉楼で宴会をするときに、三人をよく呼びつけたこともあり、今後の処遇について頭を悩ませていたところ、幽々子様が部屋に現れました。
 幽々子様は、三姉妹を見て、割れた皿を見ました。三人は幽々子様にも、頭を下げて謝りました。
 すると幽々子様は突然、ルナサさんの鳩尾を蹴り上げ、ルナサさんは後ろの襖を破りながら倒れました。
 私は何が起こったのかよく分かりませんでした。どうやらリリカさん、メルランさんも同じようで、呆然とした表情を浮かべていました。
 呆然としている二人を幽々子様は手早く殴りつけて、気絶させました。
 まだ事態を把握できていない私は幽々子様に「地下の牢屋に入れておいて。」と声を掛けられて、幽々子様の方を向きました。

 そのときの幽々子様の顔を、決して忘れることが出来ません。微笑んでいるのではなく、冷徹に、無表情に、睨み付けるように、私を見ていました。
 私はとても逆らうなどという感情が起きずに、命令通り牢屋へと三人を運び出しました。
 幽々子様は三人の楽器を持って、牢屋とは違う方向に行きました。

 白玉楼の地下には、私が気づいたときから牢屋がありました。
 人を入れておくための房は二つだけしかなく、地下の階段を降りて右に並んでありました。一つの房にベットが二つ付いています。
 一つの房に三人入れるわけにもいかず、地下の階段から手前にルナサさん、メルランさんを入れ、奥にリリカさんを入れました。

 三人を牢屋に入れ終わり、幽々子様を探しました。幽々子様は自室にいて、三人を牢屋に入れたと報告しました。幽々子様の表情はすでに穏やかなものに戻っていましたが、私はまだ怯えていました。
 幽々子様は「片付けは明日でいいからもう寝ましょう」と言いました。
 私は「はい」と頷いて自室に戻りましたが、とても眠れはしませんでした。





 三姉妹を監禁して一日目、私は幽々子様の朝食を準備しました。
 幽々子様は普段通りに食卓で朝食を食べていました。私は昨日のことや、酒を飲みすぎたこともあり、食欲はありませんでした。
 
 幽々子様が先に朝食を食べ終わると、食器を持って台所に向かいました。
 いつもならおかわりも片付けも、私に任せるのにどうしたのだろう、と思っていると「あの三人のところへ朝食を持って行かないと」と言われて三人の朝食を作っていないことに気づきました。
 「今すぐ準備します」と幽々子様に言ったところ「すぐに済むから食べときなさい」と言われました。
 わずかに残っていた朝食を食べ終わると、本当にすぐに、盆を持って幽々子様が戻ってきました。 盆にはコップ一杯の水にコッペパンが一つ置かれていました。
 そして「牢屋に行って来るわ」と言って幽々子様は牢屋へと向かいました。
 私は幽々子様の後を追い「たったそれだけでいいんですか」と聞くと「罰なんだからこれくらいしないと。これからは一日一食、これだけでいくわよ。」と言いました。
 私は、何も言えませんでした。

 地下の牢屋に着くと、三人はすでに起きていたようで、幽々子様を見るなり土下座をして謝りました。
 幽々子様は手に持っている盆を私に預け、リリカさんが入っている奥の牢に入りました。
 幽々子様は土下座しているリリカさんの髪を掴み上げ、表を上げさせました。リリカさんは苦痛に顔をしかめながら「ごめんなさい、ごめんなさい」と言い続けていました。幽々子様は顔を殴ってその声を遮り、倒れたリリカさんの右手の甲を左足で思い切り踏みつけ、脇腹を何度も何度も蹴りつけ、右足で右手の付け根を押さえ、手の甲から肩まで上っていくように順々に踏みつけていき、リリカさんの悲鳴が消えたところでようやく押さえていた足をどけて牢屋の外に出ました。

 幽々子様は「じゃあ食料を渡すわね」と言って私から盆を取り、盆を通すための差込口の鍵を開け、リリカさんの牢屋に盆を通しました。
 そして「あら、盆を一つしか持って来て無いわ。でも一日ごとに交代で渡せばいいわよね」と言って、幽々子様は地下から出て行きました。

 隣の牢からはリリカさんを心配する声がしていました。幽々子様が出て行った後に、私はようやく事態を把握してリリカさんを見ました。涙と鼻水で顔は濡れ、右手はとても腫れていました。
 すぐさまリリカさんの手当てをしようと、救急箱を取りに部屋まで走りました。

 手当ての準備が出来て地下の階段を降りました。
 階段を降りきった時、ルナサさんに「リリカに一体何をしたんだ!」と言われたので「幽々子様が折檻しました」と答えました。
 ルナサさんは怒って「無断で忍び込んだのも皿を割ったのも悪かった。でもそこまでしなくてもいいじゃないか!」と言いました。
 私は掛ける言葉が見つからず、無言でルナサさんがいる牢を通り過ぎ、リリカさんがいる牢に入りました。

 まずは腹の怪我をみようと服をまくりました。思っていたよりは腫れてはいませんでしたが、それでも痛かったはずです。右脇腹に湿布を何枚も貼り包帯を巻きました。
 次に右手を手当てしようと思いました。甲の部分から湿布を貼ろうと、リリカさんの右手を浮かせて湿布を貼りやすいようにしました。
 右手の痛みに意識を取り戻したようで、リリカさんが飛び上がるように起きました。ひどく怯えていて「やめっやめて、ごめんなさいごめんなさいっお姉ちゃん助けて」と言い続け、涙を流し震えていました。
 私はリリカさんを右手だけで抱き、大丈夫だから、と言ったような言葉を掛けて宥め続けました。

 落ち着くまでかなりの時間が掛かったと思います。
 リリカさんはまだすすり上げていましたが、少し落ち着いたようなので「右手を手当てするけど、痛いから我慢してね」と言って、抱くのをやめて離れました。
 リリカさんはまた震えだしましたが、首を下に振りました。
 私はリリカさんの右手を取り、まず湿布を貼りました。リリカさんは苦痛に顔をしかめていました。
 見た限り上腕はそれほど酷くはありませんでしたが、ひじから手に掛ける部分がひどく、間違いなく骨が折れていると確信しました。
 私は添え木をリリカさんの腕に当てました。そして添え木に沿う様に腕を動かします。リリカさんはものすごく痛がって、また悲鳴を上げています。腕を添え木に当てた後、固定するため包帯を素早く巻き、三角巾を掛けました。
 私はまた、リリカさんを泣かせてしまい、三角巾に当たらないよう慎重に抱いて「ごめん、ごめんね」としか声を掛けられませんでした。

 リリカさんは泣き疲れたようで、次第に私のほうへ頭を持たれさせてきました。
 私はリリカさんをベットのほうに誘導して寝かせつけました。
 寝かせつけた後、起きないよう慎重に顔を拭き湿布を貼りました。

 手当てしてから何をしたか覚えていません。私もこの日のことはとてもショックでした。
 幽々子様に咎められてはいないので、昼食も夕食も準備はしたのでしょう。昨日の睡眠不足もたたって倒れるように寝た記憶だけはあります。





 監禁二日目、私が朝食を作る前に「三人の朝食は私が用意するわ」と幽々子様が言いました。
 私は「それならせめて、私に朝食を運ばせてください」と言いました。昨日のように幽々子様が着いてくることだけは避けたかったのです。

 幽々子様はそれを承諾しました。
 朝食を食べ終わった後、幽々子様が私に盆を渡しました。昨日とおなじく、コップ一杯の水にコッペパンが一つでした。
 私はそれを持って地下の牢へと向かいました。

 地下への階段を降りていると、下からけたたましい、不気味な笑い声が聞こえてきました。
 一体誰が、こんな声を出しているのか牢を見てみると、ベットを何度も昇り降りするメルランさんが声を出していました。
 顔は楽しくて楽しくてしょうがないといった顔で、笑い声をずっと上げています。
 ルナサさんはその異常な行為を止めようとはせず、傍観しています。どうしたのかルナサさんに尋ねると「ひどい躁に入った」と答えました。
 私はルナサさんとメルランさんがいる手前の牢に盆を入れました。
 するとメルランさんが盆に近づいて、あっという間に水を飲み干し、パンを食べつくしました。
 ルナサさんはそのことには何も言わず私に「今日はこれだけか」と尋ねました。私はその言葉に「それだけです」と返しました。ルナサさんはその言葉に、ため息をついただけでした。

 ルナサさんにそう返答しましたが、私は幽々子様の言葉に従うべきか悩んでいました。
 確かに皿を割ったのは悪いことでしたが、それほど価値のあるものでもないし、もう十分報いは受けたと思ったからです。

 しかし私は意気地なしでした。
 幽々子様に、あれほどまでの惨状を見せ付けられ、私の心はすっかり萎縮していました。
 幽々子様に面と向かって逆らうことなどしたことがなかったこともあって、私はまだ、幽々子様に逆らう決心はつきませんでした。
 それに、言い訳にしか聞こえないかもしれませんが、解放するにしても、楽器がどこにあるか分かりませんでした。幽々子様が持っていったきりです。解放するならせめて、楽器を見つけてからだと思いました。

 奥の牢からリリカさんに呼ばれました。
 リリカさんの牢の前に立ち「どうしたの」と尋ねました。
 彼女はべそをかいていて「お願いだから、お姉ちゃんたちのところに行かせて」と言いました。 私は自分の至らなさを不甲斐なく思い、毛布を持ってリリカさんを奥の牢から手前の牢に移しました。
 手前の牢に入れるとすぐ、ルナサさんがリリカさんに抱き付きました。リリカさんは抱きつかれたことが痛かったようで呻きました。ルナサさんはすぐに離れ「ご、ごめん。大丈夫か。痛くないか」と言いました。
 リリカさんはまだべそをかいていましたが、少しだけ笑みを見せて「うん、大丈夫」と答えました。
 メルランさんはリリカさんを見て「酷くやられたわね。どうせだから、私がもう少し酷くしてあげようか?」と言いました。ルナサさんはメルランさんを横目で睨みました。メルランさんは「冗談なのに真に受けちゃって。姉さんひどいわ」と言って、またベットを昇り降りし始めました。

 私はリリカさんの湿布を取り替えようと牢に入りました。
 リリカさんの湿布を換えながら、私は三人に襲われるかもしれないな、と思っていました。このとき襲われていたら、私はきっと抵抗しなかったでしょう。
 しかし、私は襲われずに、リリカさんの湿布を交換して牢から出ました。

 私はそれからずっと、どうすれば三人を解放してくれるか考え続けました。





 監禁三日目、幽々子様は昨日と同じ三人の朝食を用意して、私に渡しました。
 私は部屋を出て、地下に降りる階段の手前まで歩きました。そこで集中して、幽々子様の気配を読むと、幽々子様はすでに自室に戻っていました。
 私は台所まで引き返しました。そして、棚に隠しておいた朝食と、非常食に水を持てるだけ持って地下に降りました。

 牢では、ルナサさんとリリカさんが疲れきった表情で私を見ていました。メルランさんはベットに横たわっていました。
 起きている二人は私を見るなり、必死の形相で、人差し指を立てて口元に持っていきました。喋るな、という意味は分かりましたが、何故そんなことをするのかは分かりませんでした。
 とりあえず言うとおりに黙って、私は牢の鍵を開け、扉を開けました。扉は古く錆びていて、開けるときに大きく軋む音がしました。
 その音でメルランさんが起きました。そして私をみるなり「ひゃああああああああああっ」と悲鳴を上げて毛布に包まりました。ルナサさんはメルランさんの名前を呼んで駆け寄りました。

 リリカさんはその様子を見て、申し訳なさそうに「ごめんなさい。一通り暴れると、欝状態になっちゃうの。妖夢さんを見て、怯えているから、その、出て行って、くれませんか」と言いました。
 私は食料をリリカさんに渡して「残った食料はベットに隠しておいたほうがいい」と言って地下から出ました。

 今日はもう、地下には入りませんでした。





 監禁四日目、朝食を用意しようと台所へ行き、驚愕しました。食料が、今日の三食分しかなかったのです。
 とりあえず二人分の朝食を作り、幽々子様が居る食卓まで運びました。「食料が減っていたのですが」と幽々子様に聞くと「昨日私が全部食べちゃったわよ」と笑いながら答えました。
 少なくとも一週間分はありましたから、明らかに嘘だと分かりました。
 しかし、私は昨日のことがばれたのだと思い、動揺してしまって何も言えませんでした。
 朝食を食べ終わると幽々子様が、また同じ朝食が乗っている盆を持ってきて「今日は私が行くわ」と言って部屋を出ました。
 私はそれに付いていくことしか出来ませんでした。

 幽々子様が牢の前に着き、三姉妹が幽々子様を見ました。
 ルナサさん、リリカさんも怯えていましたが、メルランさんがとてもひどく、髪を振り回して叫び声をあげていました。
 ルナサさんとリリカさんは同じベットに座っていましたが、メルランさんは別のベットに座っていました。
 幽々子様は差込口に盆を通してから、牢の鍵を開けて中に入りました。
 メルランさんの悲鳴がよりひどいものになりましたが、幽々子様はメルランさんを見ずに、メルランさんのベットを見ています。
 幽々子様が屈んでベットの下を見ました。それから、ベットに手を入れ非常食と水を取り、牢の外へと出しました。私は牢の外に戻ってくる幽々子様に目を向けられませんでした。

 幽々子様はまた牢に入りました。そして、メルランさんの両手首を掴み、牢の外に引きずり出しました。メルランさんは泣き叫んで抵抗しましたが、幽々子様は意に介しません。
 幽々子様は、メルランさんに万歳の格好をさせました。そして私に「妖夢、両腕を斬って」と言いました。
 私は幽々子様の顔を見ました。笑っていましたが、いつも通りの穏やかな表情ではありません。もっと禍々しい表情に見えました。

 私は楼観剣の柄を握りました。しかし、どうしても、抜くことはできませんでした。
 「出来ません……」と幽々子様に言うと「そう」とだけ答えてメルランさんの右手だけを解放しました。
 幽々子様は、メルランさんの左手首を固定して、右手でメルランさんの手を握り、甲と腕をくっつける勢いで曲げました。メルランさんは壮絶な痛みで、より一層暴れ叫びました。メルランさんの手が、異様といえる角度まで曲がったところで、幽々子様はメルランさんを解放しました。
 メルランさんからは、もう悲鳴が聞こえず、前にばたりと倒れました。

 幽々子様は「じゃあ後はよろしくね」といって階段を上っていきました。
 私はメルランさんに駆け寄り、仰向けにしました。失神しているようで、微動だにしません。私は折れ曲がっている左手を元の位置に戻し、添え木を当て包帯を巻きました。それでも、メルランさんは起きませんでした。
 メルランさんを牢の前まで抱いて、ルナサさんに渡しました。ルナサさんがメルランさんをベットに寝かせたあと、私を見ました。糾弾するような目つきでした。私は逃げるようにして地下から出ました。

 私はこの日にようやく、幽々子様に逆らおうとしました。

 昼食を用意して、食卓に料理を置きました。
 私は自分の分に僅かに手をつけ、残った分を盆に乗せ部屋を出て行きました。幽々子様は何も言いませんでした。私は地下に行き、食事を三姉妹に渡しました。
 夕食も同じようにしましたが、それでも幽々子様は、何もいいませんでした。

 私は三人を解放する前に、楽器を探さねばと思いました。
 家事を最低限に行い、部屋の棚や押し入れを探しました。しかし、白玉楼は広く、一日だけでは探しきれませんでした。





 監禁から四日目、五日目、六日目、覚えていませんが、幾日か経ちました。
 幽々子様は三人のところには行かず、花を愛でたり、宴会に参加していたりしました。宴会には私も同席させられました。
 宴会では私の顔色が悪かったようで、心配してくれる人がいて、洗いざらい言ってしまおうかと考えたこともありました。しかし、幽々子様がいつも傍にいたため話すことが出来ませんでした。

 地下に食事を持って行くと、いつもメルランさんに怯えられました。そのため食事を渡した後はすぐに地下から出ました。また、夕飯時には、湯を入れたバケツとタオルを持って渡しました。そして朝食時にバケツを回収していました。

 私はずっと楽器を探していましたが、見つかりませんでした。
 ほとんどの部屋を探し終わり、残る部屋は一箇所だけでした。それは、幽々子様の部屋でした。 幽々子様の部屋には、今まで一度も入ったことがありません。掃除も幽々子様が行っていました。

 私は、無言で反抗する程度の勇気はありましたが、面と向かって歯向かう勇気はありませんでした。
 何か見落としたところは無かったかと、幽々子様の部屋には入らず、別の部屋に回ってしまいました。





 監禁して十日ほど経ったと思います。幽々子様はもう、まるで地下には誰もいないかのように振舞っておられました。
 幽々子様は結界の修復を頼んでくると言って、紫様の家へと向かいました。幽々子様は私に留守番を命じました。
 私は千載一遇のチャンスだと思い、幽々子様が十分遠くに行ったのを確認した後、幽々子様の部屋に入りました。部屋には、桜の枝一本を緻密に描いた見事な屏風や、本物にも無い華やかさを持った二輪の白い牡丹が描かれている掛け軸など、素晴らしい品ばかりでした。
 しばし見惚れていましたが、幾ばくか経ったあと、ここに来た目的を思い出して三人の楽器を探し始めました。
 床下や天井裏まで探しました。しかし、どこにも三人の楽器はありません。私は他に探していない場所はあったかと考えました。
 ふと牡丹の掛け軸を見て閃きました。掛け軸の裏に何かあるのではないかと思ったのです。
 私は掛け軸を手に取り、裏を見ました。何もありません。

 そのとき、後ろから襖が開く音がして振り向きました。幽々子様が立っています。私は驚いて、無様にも尻餅をついてしまいました。
 「あらあら、そんなに驚かなくてもいいのに。でも、ここに入っちゃ駄目よ」と言いました。私は「すみません。この牡丹が美しくて、つい見入ってしまって」と咄嗟に思いついた言い訳を口にしました。幽々子様は笑って「裏まで見たかったくらいだものねえ。今度見たいときは、私に言ってから入ってね」と言いました。私はもう一度謝り部屋を出ました。





 そしてこの翌日、霊夢さんと紫様が、プリズムリバーの三姉妹のことを聞きたいと白玉楼まで来ました。つまり今日です。
 幽々子様から包み隠さず話すようにと命じられ、真実をお話しました。
 今回の件は、主の怒りに気づかず、私が至らなかったゆえに起こったことです。どうか、幽々子様ではなく、私に罰をください。御願いします。霊夢さん。紫様。
 初めまして。半人前ながらよろしく御願いします。

 ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。小説の形式をまるで無視しており、おそらく読みにくかったことでしょう。

 そもそも、未熟者な私がこのような告白調の形式で書こうと思ったことが、大間違いだったのです。告白調形式の本も探したのですが、結局諦めて断念しました。実はこういう書き方が、何という書き方と言うのかも分かってもいません。
 
 ということで自分流に頑張ってしまいました。本来なら鉤括弧の前後に改行を入れますが、改行を入れると話のテンポが悪くなるので黙認したり、鉤括弧から文が始まってるのに字下げしない等々、タブーばっかりです。
 最初から一人称妖夢視点で、順々に書いていけばよかったのに……と思いましたが、書き終わった後の懺悔、もちろん読んでくれた皆様への懺悔です、にしかなりません。

 続編「武士、許しを請ふ」のプロットもありますが、丁度切りのよいところで終わっていますし、書くかどうか分かりません。
 懺悔の意味で書くべきか、懲罰の意味で書かぬべきか、悩みどころです。
みちるうと
作品情報
作品集:
3
投稿日時:
2009/09/23 16:34:32
更新日時:
2009/09/23 16:34:32
分類
妖夢
幽々子
プリズムリバー三姉妹
監禁
1. 名無し ■2009/09/23 16:52:33
おお、なかなかよい……
ようむかわいいよようむ
2. 名無し ■2009/09/23 17:04:45
告白と言うか、独白形式の代表作は仮面の告白あたりじゃないだろうか

続編は書きたきゃ書けばいいと思うよ
3. 名無し ■2009/09/23 17:33:00
書きたい時に書きたい物を書きたい様に書けばいいんじゃない?
あと文章の形式とか一々気にしなくていいと思うよ
4. 名無し ■2009/09/23 18:09:20
猫は橙かな?メルランの乱れ具合が生々しい。
お見通しのゆゆ様が妖夢を折檻せずに見過ごすのは、甘いやら厳しいやら。
5. 排気ガス ■2009/09/23 18:20:44
半人半霊らしく素晴らしい、三姉妹に同情してるのは人の部分なのか霊の部分なのか…

ただ書きたい物があるだけ
6. 名無し ■2009/09/23 18:45:50
ゆゆさまの謎めいた怖さにドキドキしたんだぜ
7. 名無し ■2009/09/23 23:30:47
続編読みたいです
なかなか面白い
8. 名無し ■2009/09/24 03:09:02
面白い
これからもよろしく
9. 名無し ■2009/09/26 15:00:52
リリカちゃん折檻したい
10. 名無し ■2009/10/29 18:24:36
メルランはアル中か
11. 名無し ■2010/03/03 11:34:26
妖夢にだけは手を上げない幽々子様かっこいいよ
12. 名無し ■2010/06/17 04:15:06
その後のことが気になるが全体的に面白かった
ゆゆ様怖い。全て見通してる感じが余計に
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