過多好奇心抑制欠乏症

作品集: 4 投稿日時: 2009/09/30 12:43:29 更新日時: 2009/09/30 12:43:29
※時間軸は風神録後程度だと思って下さい。





男の子は何で出来てるの?
男の子は何で出来てるの?
 カエル カタツムリ
 小犬の尻尾
そんなこんなで出来てるさ。

女の子は何で出来てるの?
女の子は何で出来てるの?
 砂糖 スパイス
 素敵な何か
そんなこんなで出来てるわ。










 私には悪癖がある。自分でもそれを自覚していながらも、一度"発症"すると歯止めがきかなくなる。その"悪癖"を知って、私に近付く人は殆どいない。私の両親ですら、面と向かって会話するのを躊躇う……興味なんてとうの昔に消えうせてるっていうのに……。
 べらべらと喋り続ける目の前の女性――東風谷早苗――も、私の"悪癖"の事を知ったらその口を閉じてくれるだろうか? ある意味脅し文句に近いが、正直な話煩わしくて仕方ない。
 やれ神様がどうとかこうとか、信仰がどうたらこうたらと、内容が薄いのに反して話し方だけはやたら仰々しい。きっと私がそこいらの娘と同じような無知な少女だとでも思っているのだろう。そうでなければこう雛鳥よろしく、喚くことはない。
 そっとティーカップを傾け、若干温くなった紅茶を楽しむ……美味しい。紅魔館のメイド程の腕は未だ無いが、そこは紅茶の質が補ってくれる。私が彼女の域に達するのは未だ先の事だろう。
 私が紅茶に舌鼓を打っていると、やはりというかなんと言うか、渋みのある表情を浮かべる早苗さん。
「……あの、話聞いてますか?」
「ええ、聞いてますよ」
 貴方の話長くて疲れるんですよ……とは言わない。いや言ってもいいのだが、それを言うと少し面倒なことになるのは目に見えている。直接的な衝突は避けたほうが無難だろう。
「要するに貴方達の事を加筆修正した幻想郷縁起を出して欲しいと……そういう事ですね?」
「……いえ、ですからなるたけ多くの信仰を集める為には、まず私達の姿と名前を知ってもらう所から始めなくていけなくて」
「広告塔として利用させて欲しいなら、最初からそう言って下さいよ」
 薄く笑いながら早苗さんの言葉を遮って言い切る。その笑みを何と勘違いしたのか、早苗さんはさも嬉しそうな表情を浮かべて身を乗り出した。
「書いてくれるんですか!?」
「お断りします」
 同じように笑顔で断ると、みるみる内に不機嫌な表情に変わっていった。不快だとしても、もう少し感情を隠す努力をした方がいいだろう。まったく、外来人というのはどうしてこう幼いんだろうか? 何というか、精神面で。
 『姿と名前を知ってもらう所から』だって? 何を言ってるんだろうか。姿と名前を覚える事がどれだけ大事で、なおかつ苦労する事だというのを彼女は知らないのだろうか? ……多分知らないんだろう。そうでなければ、こんな風に素知らぬ顔で恥をばら撒けたりはしない。
 というか、彼女は私の本をちゃんと読んだのだろうか。私が筆者だという事を失念しているのではないだろうか。いちいち信仰云々の所から長々しく演説していたのは嫌がらせのつもりなのだろうか。ささくれ立ち始めた精神を落ち着けるためにも、私は再びティーカップに口付けた。
「何故ですか!? 信仰がなければ、私達は」
「いずれ人々から忘れ去られ、神としての質が下がり、最終的には消滅もありえる……と?」
「そっ、そうです! そこまで知っているのなら」
「まぁ少し落ち着いて下さいよ。ほら、来客用の物ではありませんが、これでも食べながら」
 五月蝿いので妖精用のケーキを差し出し、無駄な会話を避ける事にした。妖精用と言っても味自体は来客用の物と然して変わりはない。少し余計なものが入っているだけで人間にも無害だ……と思う。
 早苗さんはしぶしぶといった感じでケーキを口に運ぶ。かちかちと音を立てながら食べている所を見ると、やはり苛立っているのが良く分かるだろう。ああ、そんな流し込むみたいな感じで紅茶を飲んで……本当に面の皮が厚い娘だ。
「理由を申し上げますが、まず貴方の神社が百年後まで残っているかどうかの保障がありません」
「ほんなほほあひまへん!」
「最後まで聞いて下さい……貴方はまだ幻想郷に来て日が浅い。異変を解決したという功績もない。神社に神霊がいるのは考慮しますが、その存在が百年後まで生きていられるという保障はどこにもありません。現に、巫女である貴方はこうして信仰を集めて回っています。即ち、それは本当に生き残るかどうか危うい神霊……私が死んで、次の御阿礼の子が生まれて来るまでの間に消えてしまっては、幻想郷縁起に記する意味がないのです」
「ほんなっ! ……っぐ」
 ああ、だから紅茶を呷らない。良い葉を使っているのだから、もっと味わって……。
「そんな憶測だけで物を言わないで下さい!!」
「しかし事実です」
 顔を真っ赤にして憤る早苗さんに対し、ぴしゃりとそう言い切る。やはり幼い。殊勲無くして報酬だけを受け取る神社なぞ、無いほうがマシだ。幻想郷に貢献しないで己の維持生存だけを生業とする神霊と巫女……書く必要性が全く見当たらない。
 第一、幻想郷縁起は妖怪の危険性を人間に知らしめる為に書いた本なのだ。英雄伝などと仰々しく書かれた人間の項は、単なるおまけでしかない。暗に「こういう人間もいるから、何かあったら頼りにしていいよ」と、厄介事を押し付けているだけなのだ。それを広告塔として使わせろ? 阿呆か。本の意味を理解したらまた来なさい。
「まぁそういう訳でして、今回の話はなかった事に……」
「……納得出来ません!」
 そう叫ぶと、早苗さんは拳で机を叩いた。憤りの表現なのだろうが、紅茶が零れるので止めて欲しい。一時の感情で壊すには惜しいものだ。
「何故ですか!? 守矢神社より廃れている博麗神社の巫女は載せておきながら、外の世界では"現人神"とまで呼ばれた私は載せない! 幻想郷は全てを受け入れてくれるのではなかったのですか!? ……ああ、そうですか。怖いんですね? 私に信者を取られるのが。博麗の巫女に何を言われたのか知りませんが、それでは私達が困るのです!!」
 またしても演説が始まる。しかも今度は大音量というおまけつきだ。普通なら辟易してしまう所だが、私は彼女の一言に心を奪われていた。
 現人神――人の姿をしてこの世に現れた神の事だ。幻想郷でその名を聞くのは別段珍しくないが、外の世界でとなれば話は変わってくる。ただでさえ今の外の世界では神を信じるという事を忘れてしまっている。それにも関わらず、彼女は"現人神"として呼ばれていた。
 神を信じなくなった外の世界で"現人神"と呼ばれた守矢の巫女……なるほど、幻想郷縁起に書き足すには十分な理由だ。頬が緩むのが良く分かった。同時に理性が警告を発した。
 ああ、これはいけない。最近ようやく落ち着いてきたというのに、また"発症"してしまう。どうしよう。どうやろう。すっかり温くなった紅茶を喫する。それでも私の"悪癖"は止まるという事を知らなかったようだ。
「分かりました」
「――という経歴が……はい?」
「貴方達の事を幻想郷縁起に載せましょう」
 そう言った途端、喜色満面の笑みを浮かべる現人神。机越しに身を乗り出して目を輝かせる様は、先日■■た妖精に良く似ていた。
「本当ですか!?」
「ええ……ただし、一つだけ条件があります」
「条件?」
「大丈夫ですよ、誰でも出来る簡単な事です」
 人差し指を立てて微笑む。一瞬だけ胡散臭げな視線を寄越されたが、それもすぐになくなった。べたりと机に這い蹲る現人神……来客用のケーキが切れていたのは、本当に幸運だった。
 仕込んだ麻酔の量から見て、そう激しい事は出来そうにないが……まぁ少しぐらい長引いても大丈夫だろう。やる事を決めたならば、まずは軽く挨拶でもしておこう。居住まいを正し、私は眠っている現人神に深く頭を下げた。
「現人神のその身体……少し調べさせて下さい」










 東風谷早苗が目を覚ますと、何とも奇妙な感覚に囚われた。寝起きの感覚にしてはやけに気だるい。まるでタールの海に浸かっているかのような感覚が、早苗の全身を包んでいた。
 色彩・平衡感覚も曖昧だ。世界がモノクロに見える。畳の模様が左側一面に広がっているのを理解して、早苗はようやく自分が眠っていた事に気がついた。
 片手をついて、静かに上体を起こす。視界を平行に保つと、少しだけ眩暈がした。寝過ぎた時の感覚に良く似ている。眉間に指を這わせ、軽くほぐすと少しだけ楽になった気がした。
 溜息。覚醒しきれていない頭を動かし周囲を確認する。自分の家でない事に首を傾げつつも、慌てる様子を見せない早苗。ぼんやりとした頭で阿求の家に"頼み事"をしに来たのを思い出した。
 自分の話より紅茶に現を抜かす阿求。意外と美味しかったケーキの味。幻想郷縁起に自分の項を載せる事をやたらと渋る阿求の顔。後は……。
 後は?
 あれ? その後は?
「あ、起きましたか?」
「うぁ……」
 不意に横から掛けられた声に対し、ゆったりとした動作で顔を向ける早苗。そこには満面の笑みを浮かべる阿求がいた。
「どうですか気分は? ありのままの感想をお願いします」
「……さい……あく」
 まるで鎖で雁字搦めにされたかのようなだるさ、上手く纏まらない思考回路、気を抜けば再び畳に突っ伏してしまいそうになる平衡感覚……違和感だらけだった。口を開いて分かったが、どうやら満足に喋ることも出来なさそうだった。
 早苗がキッと阿求を睨み付けると、阿求は小さく肩を竦めた。同時に漏れる吐息……それは紛れもなく"呆れ"を含んだものだった。
「まぁそう言わないで下さいよ。折角全部元通りにしたんですから……」
「なに……を?」
「"貴方"ですよ、あ・な・た」
 そう言って腰に手を当て、早苗の面前に向かって指を突き出した。まだ色彩感覚が戻らないのか、その指先も真っ黒だ。
「……?」
 首を傾げる。早苗は違和感を感じた。彼女とて白黒の映像ぐらい見た事はある。外の世界ではあらゆる物が色彩で彩られていたが、一部の物は未だ白黒だった。文字の羅列が書かれた本、古き良き映画、そして漫画。
 まるで黒墨を塗りたくったかのような指先。何かで見た事がある。幻想郷に来る前に、何度もそれを見た事があるはずなのに……思い出せない。
 くるくるくるくると、阿求はトンボの目を回そうとするかのように指先を回す。思考の海にどっぷりと浸かった早苗がそれに気付く事もなく、阿求は再び落胆の溜息を吐いた。
「はぁ……やっぱり少し駄目なんでしょうかねぇ……。早苗さん? 聞こえてますか? 五感の内欠落しているものがあったらちゃんと申し出て下さい」
「何、言って……くっ」
 突如痛み出した頭を押さえつける。風邪をひいたときの頭痛に良く似ている。違和感。何時もの感覚がない。何時もの感覚? 何だそれは? 何時も何時も感じている感覚だ。朝起きた後に顔を洗って、寝癖を整えて、一人鏡の前で顔面体操。髪だ。この感触は髪じゃない、布だ。
 早苗は髪の感触を求めてぺたぺたと頭を触る。しかし己が手に伝わってくるのは、ざらざらとした布の感触。何時だか触った事のある感覚。それは……それは?
 思い出せない。
 ちょっと待て。アレだ。あの怪我した時に腕に巻く白くて長くて布で出来たよく分からないけどあの白いアレだ。そうそう、昔一度大怪我をした時に××様に巻いて貰って……あれ?
 混乱する。困惑する。まるで虫食いのように所々記憶が抜け落ちている。何故だ? どうして? ぐるぐると目が回りそうになる早苗に、阿求は優しく問いかけた。
「……貴方は誰ですか?」
「え?」
「難しく考えずに答えて下さい」
「東風谷、早苗」
「今日は何の為にここへ?」
「……えっと、げん……あれ? すみません、あのアレの名前って何でしたっけ? あの本――」
「幻想郷縁起」
「あっ、そうでした。それに私の項を追加して貰いたくて」
「守矢神社の巫女の名前は?」
「……えぇっと……?」
「守矢神社の巫女は貴方ですか?」
「はい」
「貴方の名前は?」
「……東風谷早苗」
「博麗神社の巫女の名前は?」
「東風谷……あれ? いえ、違いました。博麗……はくれい……はくれー?」
 早苗の顔にありありと焦燥の色が浮かんだ。名前が思い出せない。それも一つや二つではなく、今まで覚えていた基本的な名詞ですら思い出す事が出来なかった。早苗はまるで記憶の一部分がごっそりと剥げ落ちたかのような感覚を覚えた。
 不意に、阿求が皿を差し出した。相も変わらずモノクロームで飾られた視界の中……皿の上に乗っていたのは、親指の爪程度の大きさの灰色の物体だった。
「……なんですか、それ」
「多分、貴方が今悩んでいる事の原因だと思います」
 まぁちょっと調べてみて下さいとでも言いたげに、ずいと皿を近付ける阿求。恐る恐る"それ"に手を伸ばし、触れる。
「ひっ!?」
 ぐにょり。奇妙な感触に、早苗は思わず身を引いた。指先にはまだそれに触れた時の感覚が残っている。少しひんやりとしていて湿り気を帯びたそれは、ナメクジを髣髴とさせる物体だった。
 あぁ勿体無いと、まるで食べ残した子供を目の前にしたかのように呆れる阿求。彼女は早苗が落としたそれを摘むと、躊躇いなく口に入れた。
 くちゃくちゃとよく口の中で咀嚼し、よく味を堪能する。自然と頬が緩み、それがいかに美味な物であったのか、目の前の早苗にもよく分かった。
 しかし彼女が食べた物は一体なんだったのか? 私が悩んでいる原因? 私の今の悩み事は……色彩感覚の欠乏と軽度の記憶障害……待て。
 早苗の両目が見開く。そんな馬鹿なと一笑してしまいたい欲求に駆られた。色のない世界がそれを否定した。名前が思い出せない頭が警告を発していた。咄嗟に思い浮かんだ最悪の仮説。ちょっと待ってと自分に言い聞かせる前に、早苗は問うていた。
「"それ"は……何ですか?」
 阿求は"それ"をごくりと咽喉を鳴らして嚥下する。口元だけの笑顔。目が笑っていなかった。
「貴方の"後頭葉"……まぁいわゆる脳味噌ですね」
 後頭葉――大脳半球の後部である。視覚中枢を司るそこが傷付けば、どうなるかは火を見るより明らかだろう。
 早苗は一瞬、阿求が何を言ったのか分からなかった。思考を停止、阿求の言葉を反復、咀嚼、嚥下、消化、吸収。早苗が口を開くよりも早く、阿求は言葉を続けた。
「安心して下さい。切り取った量は然程多くありませんから、そこまでおかしくなる訳じゃありません。多分」
「おかしく……多分? 脳を切り取った? え? 何をしたんですか、何をしてくれたんですか!?」
 早苗は目を血走らせて阿求に詰め寄る――いや、詰め寄ったつもりだった。実際は両手で畳を叩き、立ち上がり、そのまま勢いを殺さずに畳へと顔からダイブしただけだった。
 阿求が切り取ったのは何も後頭葉だけではなかった。元より彼女が早苗を"戻した"のは単なる気まぐれでしかなく、もし今この場で早苗が死んだとしても全く気にしなかっただろう。
「まぁそういきり立たないで下さいよ。幻想郷縁起に載せるからには、その種をよく把握しなければならないんです。それはもう身体中隅から隅まで、中身や、味も、調べなくてはいけません」
「……頭、おかしいんじゃないですか? おかしいですよ! 巫女や魔法使いも調べたんですか!? なんで私だけっ!!」
「何言ってるんですか。貴方は人間でも魔法使いでもなく"現人神"なんでしょう? それに、人間や魔法使いは既に調査済みです」
「は?」
 再び早苗の思考回路が停止した。調査済み? あの二人もこんな事をされていたのか? 私にしたように薬を盛って脳を切り取って……。
「……いかれてる」
 気がつけば呟いていた。眠らせている間に頭蓋を切り、脳を少しだけ切り取っては食し、麻酔が切れる前に頭蓋を元に戻す……正気の人間がやれる行為ではない。
 その言葉が聞こえたのかどうかは早苗には分からなかったが、阿求は口元に貼り付けていた笑みを消して、おもむろに口を開いた。
「そうですね、いかれてますね。それがどうしたって言うんですか? 外の世界でぱっと出の"現人神ごとき"が、十代続いた御阿礼の子に意見? もう少し自分の状況を見てから言って下さいよ、東風谷早苗」
「ひぁっ!?」
 そう言いながらしゃがんだ阿求は、未だ畳の上に這い蹲る早苗の頭を弄った。早苗の頭に巻かれた白い布――包帯を外し、小さめの糸切り鋏を取り出してぱちぱちとナニカを切っていった。ぷつりぷつりと頭部に接したナニカが切られる感覚に恐怖し、早苗はじっと身構える事しか出来なかった。下手に動こうものならどうなるか分かったものではない。
 ぱちぱち、ぷつぷつ。二つの音源は静かに、そしてゆっくりと早苗の頭を旋回していく。ぱちん、ぷつん。音が途切れる。釣糸で仮縫合されていた早苗の頭蓋は今、何の障害もなく外す事が出来る状態となった。
 かつては美しかった緑髪は脳天を中心に剃られ、河童のように頭皮がむき出しになった頭蓋の上半分は、頭に刻まれた傷も相まってそれ自体が皿のようにも見える。阿求は一つ溜息を吐くと、その"皿"の部分に手を伸ばした。
「動かないで下さい、手が滑ったら痛いですよ」
「……っあ」
 細心の注意を両手に込めて阿求は早苗の"皿"を持ち上げ、後頭葉が乗せられていた皿に乗せた。鋭利な切開線からは、一滴の血も流れなかった。主要な血管は既に結紮され、その他の血管も局部麻酔をかけた上で厳密に塞がれている。十代に亘って養ってきた阿求の解体技術は、竹林の薬屋に匹敵する程のものだった。
 後頭骨を取り外された早苗の頭部には、桃色がかった灰色の脳髄の半球が露出していた。
「さて、これから"現人神"の脳髄を試食するんですが……ご要望はありますか? どの部分から食べて欲しいですか? 阿求になって初めての"調査"ですから、出来る限りの事はさせて頂きますよ」
「やっ……止めて、下さい……。お願い、します。あぅ……あ……死んじゃぅ……」
「却下します」
 阿求は部屋の隅に置いてあった道具箱から医療用のメスを取り出すと、手始めに早苗の前部前頭葉を少しだけ切り取った。先程早苗に見せた物と然程変わらない大きさのそれを、視線の高さまで持ち上げる。灰色に近い桃色の肉片。透けて向こう側が見えるかと思いきや、芋羊羹のような半透明。脳漿でてらてらと光り、見ていて飽きがこない。
 だがそう長くも見ていられない。取り出されたばかりの脳髄は時間が経てば経つほどほぐれてしまい、締まりのないぶよぶよの塊となってしまう。阿求はまるで早苗に見せ付けるかのように舌を突き出し、前頭葉を乗せて静かに口の中へ運んだ。
「神を食べると……罰が、当たります!!」
 突然早苗が奇声を上げた。阿求は気にした様子も見せずに、口の中に広がる甘美な味わいに酔う。何てことはない。突拍子もない大声で喋るのは、前頭葉切断手術を受けた患者の通癖だ。
「……んっ、もう罰なら受けてますよ。ただの人間が、どうして御阿礼の能力を持ってるか疑問に思った事はなかったのですか?」
 ぴっぴっと早苗の脳髄に切れ目を入れながら律儀に返事を返す阿求。簡単な脳髄の生け作りだ。均等に刻みながらも時折一切れを口へと運ぶ。やはり大きさは親指の爪程だが、それでも早苗にかかる負担は並大抵のものではない。既に早苗の目は阿求を見ておらず、舌が突き出て半開きになった口からはだらしなく涎が零れ、畳に突っ伏したまま両手は意味もなく痙攣する。
 知ったこっちゃないと言わんばかりに、阿求は再び脳髄を刻む作業に戻った。
「あっ、たまがっ……あぇっへ、はぁっ。あぁっ! あーあぁあー!?」
 まるで盛りの付いた犬のようにはっはっと息を吐き出す度、早苗の肩は大きく上下した。局部麻酔のお陰で脳髄を切られる痛みは全く感じないが、それによって引き起こされる感覚に、早苗の精神は崩壊への一途を辿っていた。
 じわりと早苗のスカートに黒い染みが広がる。快楽神経が刺激――と言うより細切れに――されたのだろうか? 汗と涙とよだれと鼻水でぐちゃぐちゃになった今の彼女の顔から"絶頂"という情報を感じ取るのは不可能に近い。何にせよ、脳髄を刻み続ける阿求には関係のない話だ。彼女が今知りたいのは"現人神の脳髄"であって、"東風谷早苗の痴態"ではないのだから。
 脳髄を刻み、時折口に運び、また刻む……東風谷早苗という人物がその生命活動を停止したのは、それから二時間程経った頃だった。










 調査結果報告書 〜東風谷早苗〜
 普通の人間と大差なし。内臓は大味だったが、脳髄は美味。から揚げにしたら美味しかったかもしれない。霊力等に関しては昔調べた"人間の巫女"の項を参考。
 本人は自分のことを"現人神"と言っていたが、所詮は"外の世界"という限られた空間限定で褒め称えられただけだったようだ。"仙人"に比べると美味しい部位が少なく、。さしずめ彼女の中身は単なる妄想少女と言った所か……しかし神霊が二柱もいる神社の巫女となると、報復の可能性も考えておかなければならない。
 下準備はしっかりと行っておこう。何せ神霊を調べるのは阿礼の時以来だ。今度の神霊は私に何をくれるのだろうか? 少しばかり期待しておこう。
微妙に途中で力尽きました。ごめんなさい。
AQNの能力は人身御供の人間を解体したから付いたとか、そういう設定だったらいいですよね。

P.S.
非想天則での早苗さんの下強射がトキのテーレッテーにしか見えなくてかなり苛々した。
せめて痛みを知らずに安らかに死ぬがよい。
要介護認定
作品情報
作品集:
4
投稿日時:
2009/09/30 12:43:29
更新日時:
2009/09/30 12:43:29
分類
阿求
早苗
フルーツ(笑)
1. 名無し ■2009/09/30 12:59:36
鶏や羊の脳味噌って美味しいらしいですね。
二柱の報復・返り討ち編も期待してます
2. 名無し ■2009/09/30 13:27:01
ハンニバルのパロディ?
意識してないのかもしれないけど、かなり似てた
3. ぐう ■2009/09/30 13:44:43
先日■■た妖精・・・すげー気になるwww
4. 名無し ■2009/09/30 14:34:28
ラウディラフボーイズならカエルじゃなくて男の脇毛だが・・・。
5. 名無し ■2009/09/30 16:14:52
うむ、やはり早苗さんはこうでないと。
しかしこのあっきゅんは、そのうちクロイツフェルト・ヤコブ病を患わないか心配です。
6. 黒崎 文太 ■2009/09/30 17:25:40
脳を食べるといえばやはりレクター博士が真っ先に思い浮かびますな
7. 名無し ■2009/09/30 17:30:11
これは良い早苗さん。
8. 名無し ■2009/09/30 21:54:40
外の世界から幻想郷に追放された恐怖の現人神、サナエーがこの程度でくたばるとは思えない。

阿求には、幽々白書の『美食家』と同じ恐怖を味わってもらいましょう。
9. 名無し ■2009/09/30 23:38:16
これは勃起せざるを得ない。何かに目覚めそうだ
10. 名無し ■2009/10/01 22:23:57
スゲェ良かった
11. 名無し ■2009/10/02 23:20:13
こえええええ!
でも早苗にするなら許す!
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