帰還 〜続・『我が大いなる逃走』

作品集: 4 投稿日時: 2009/10/03 20:38:26 更新日時: 2009/10/03 20:38:26
作品集2「我が大いなる逃走」(http://thewaterducts.sakura.ne.jp/php/waterducts/?mode=read&key=1249353755&log=2)の続き
単体での鑑賞には対応しておりません。













 長い年月の後に魔理沙が幻想郷に帰ってくると、この郷は何も変わっていなかった。外の世界が著しく変わるのを目の当たりにしてきただけに、この不変は寧ろ強烈に映った。
 古い知り合いが死んだとか生きたとか生まれ変わったとか、魔界に帰ったとかいう話はいくつか有ったが、それらのいずれも今の魔理沙にとっての幻想郷を、大きく変容させるものでなかった。
 魔理沙にとっての幻想郷、それは幻想郷の空気であって、自然であって、また、神々と人間の調和であった。
 外の世界では忘れ去られてしまったそれらが……もともとあんな場所にそれは無かったのかもしれないが……、とにかくそれらが存在すること、ここ幻想郷に保たれていることに、霧雨魔理沙は心から安堵した。



 さて当代の博麗の巫女に会い、次いで人里の上白沢慧音に挨拶に行く道中を魔理沙は人里を横切って行くことにした。


 人ごみの中にすっと混ざりこんで、歩いて行く途中、魔理沙は親に連れられた赤髪の少女を見た。
 9歳か10歳くらいの幼い少女が、何か面白いことがあるのか、歯を剥き出しにして笑っていた。

「おお」

 魔理沙はその笑顔に、口の中で小さく呻きを漏らした。思わず、少女の近くへ寄っていく。魔理沙も外見年齢は10代前半の子供であるから、母親も、ほとんど警戒はしない。


 小さな白い歯が、顔の中心で光るのが見える。きらめくのが、見える。



 魔理沙は、口を薄く開いた。
 魔理沙は己れの右手を、人が希望の光に対してそうするように少女に向けて伸ばし……、


 そしてそのまま、……まるで天使が、希望をそのうちに宿したみどり子にしたように……自分より背が低いその少女の頭を数回撫でた。



 母親が驚いて口を開きかける。それを制するようにして、魔理沙は、言った。

「お前は、何も知らないのだな」

 と。


 母親ははじめこの十代半ば、珍妙な格好の少女はその大人びた口調で、自分に、そう言ったのかと思った。事実はそうではなかった。

「お前は、この世界に有ってそんなにも楽しそうに笑う」

 魔理沙は少女に呼び掛けているのだった。

 否、寧ろ……昔の、自分自身に向けていたのかもしれない。

「お前は何も知らないのだな。お前は、何も、知らない。そうだ。
 ……。この世に蔓延る何もかもを知らない。
 他人の助力を前提とした甘い考え、優生思想、願いを、確かに叶えてくれる悪魔、この世に正義と悪が別々に、歴然と存在することを知らない。
 横行する洗脳と催眠術や、現実の残酷さや、また必死になった生命の生々しさや残虐さを知らない。
 孤立主義を気取って何もできない餓鬼や徒党を組んで間違ったことを押し通そうとする面の皮厚い連中、まずいラーメン食って食通を気取ってる奴、世の無法者の恐ろしさ、そして成功者の、恐ろしさ。男の性欲、女の性欲、糞尿というものの性質、裸でいることの弱さ。
 一人で眠って朝には死んでしまう人の悲壮や、いもしない神、どころか、ありふれた人間個人を崇める新宗教の繁栄、さまざまな主義者、科学技術の発展に人が払ってきた犠牲とそれによって被った犠牲とが、事実科学技術に受けた恩恵に対して明らかに少ない事を知らない。
 人間の儚さ、生命の神秘、これの多様極まる解釈とそれが副産する弊害、出鱈目な夢が時に達成される奇跡、達成された時に周りの生命非生命すべてがこうむる損失の大きさよ。
 創作活動の限界と挫折、他人の評価や反応を浅ましく求め続ける悲しさ、どの土地にも有る、盛大な、かつ恐ろしい程匂いを残さない裏切りの連続、陰謀、死に至る、漠然とした不安、平和論者の目的、政治、金融。
 さりげなく行方不明になる数えきれないほどの人たちや、眼前で行われる、さまざまな理由に基づく人間の自殺、愛する人が失われる事、二十年来の努力が水泡に帰す瞬間とまたそれが他人に奪われる瞬間。
 大人になってから見る心細さ、またはその他の理由による悪夢や、お前が100年後にはほとんどかならず死んでいる事、更に、十一月、初冬にお前の皮膚にふるあの雨の冷たさ!


 そして、そしてそして! お前は知らないのだ! この道でさえ、あの交差点に続いているという事実も!」




 魔理沙は、少女にしっかりと目を合わせて、それだけの事を言いきった。

 それから。母親に呼ばれて駆けてきた上白沢慧音の方をゆっくりと振り返って、こう言った。


「…久しぶりだな、慧音。人里にはお前に会いに来たんだ。手間が省けた」
「魔理沙……か…?」
「ああ。私は魔理沙だよ。」
「外に行ったと聞いていたが」
「戻ってきたんだ。ただし四日だけだ。四日すると、また、出なければならない。きかなくなるんだ。我慢がね。それでその間、永遠亭とかマヨイガとか、紅魔館とか、色々行くところが有るんだが、泊まる場所と食事を、里の守護者の慧音先生に提供してほしいんだ。私の前の家は、朽ち果ててしまったと聞くし」


 なんでもない事を静かに話しながら魔理沙は、慧音をまっすぐに見ているようで、今度は、見ている対象と視線の方向が傍目にも明らかに一致していなかった。……そしてその表情は、笑っても、泣いてもすらいないのに、嗚呼、見たことも無いほどの悲哀を湛えていた。




 
 
■つか、ほぼ『自問自答』ですね。サーセン


■東方の手書き動画作ろうかと思案している。今出てきてるネタが『禁酒法が幻想入り』と『博麗霊夢のエクストリームオナニー』なんだが……。


■早苗さん関連は、手持ちのネタが二つあります。一つは早苗が得する話、もう一つは因果応報でズタボロにされる話だ! 両方プロットは一ヵ月は前にできてたけどまだ三分の一も書いてません。
nekojita
http://www.geocities.jp/nekojita756/text.html
作品情報
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4
投稿日時:
2009/10/03 20:38:26
更新日時:
2009/10/03 20:38:26
分類
魔理沙
1. おぎ@暇同 ■2009/10/03 21:08:48
面白かった作品の続きが読める。
これほど素晴らしいことがあるだろうか。
2. 名無し ■2009/10/03 21:59:52
最近無かった早苗が得する話が見たいですな
3. 名無し ■2009/10/03 22:02:50
ああ素晴らしき、この碌でもない世界。
早苗さんが得する話ってのが斬新でいいかも。
4. 名無し ■2009/10/04 02:14:05
>>禁酒法が幻想入り
なにそれ超読みたい
5. 名無し ■2009/10/04 19:47:18
これ前のが好きだったから続きが来てうれしい
面白かったです
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