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『……を待ちながら』 作者: もくりこくり

……を待ちながら

作品集: 5 投稿日時: 2009/10/16 19:55:04 更新日時: 2009/10/17 04:55:04
[以下の小文は前作『実践魔女裁判』を補足するものであり、単体ではほとんど意味の無いものです。
 可能であれば、先に前作に目を通していただくことを推奨いたします]



 小悪魔は待っている。
 静かで仄暗い、広大な図書館の中で。


「パチュリー様、遅いですね」

 弾む心を抑えて、思わずほころぶ微笑をこらえながら。
 小悪魔は待っている。




 今日の小悪魔は上機嫌だ。言葉の端々に、わずかな仕草に、それが表れる。
 整えられた部屋、美しく磨かれた洋卓、椅子、歴史を刻んだ家具たち、そして輝くティーセット。
 支度はすべて終わった。あとは図書館の主の帰りを待つばかりである。

 動かない大図書館ことパチュリー・ノーリッジは今日は珍しく外出している。聞くところによると、なんでもとても大切な集まりなのだと言う。
 子悪魔は主の言葉を思い出す。
「この役目は私にしかできないの。私は沢山の沢山の、――本当に沢山の苦痛と絶望を見てきたから」
 そう言うとパチュリーは小悪魔を優しく抱き寄せ、頭を撫でた。
「私やレミィは思い出したくもない、口にするのもはばかられるような悲惨な出来事を無数に見てきたわ。神の名の下に行われた数多の愚行をね。あれは人をバケモノに変えてしまう……。あんな事はもう二度とはあってはならないの。だから今日のことは単に私のような魔女や人外のためだけではないの、人間のためでもあるのよ」
 そしてこうも言ってくれたのだ。
「あなたには絶対に私達のような思いをさせたくないの」

 ああ、こんな主の下で働くことができる自分は本当に幸せだと思う。

 今日の小悪魔は足取りも軽い、本の整理も、室内の清掃も済ませてしまった。これからのことを考えると楽しくて仕方がない。
 なぜなら今日は主のための秘密のプレゼントを用意するからだ。
 「パチュリー様ならきっと喜んでくださるに違いない」

 この紅魔館の当主であり、図書館の主パチュリーの友人でもあるレミリア・スカーレットは小食だ。正餐の時でさえその量は極めて少ない。お茶の時間は言わずもがなである。大抵は一杯の紅茶のみ、時折本当に僅かな菓子が供される程度である。もちろん小悪魔の主は「できた人」であるから、茶菓子について不満を言ったりしたことは小悪魔の知る限り一度たりと無い。
 しかし、小悪魔は知っていた。パチュリーが本当は甘いものが大好きだと言うことを。メイド長の咲夜さんが人間の里で買ってきた甘いお菓子を、一緒にこっそり食べているのを時折見かける。その時の幸せそうな笑顔が小悪魔には忘れられない。

 だから、記念すべきこの日に手作りのケーキをプレゼントしようと思いついたのだ。でも、それは人里で買ってくるものなんかよりずっと美味しい物でなくては駄目だ。だって、パチュリーは小悪魔にとって「特別な存在」なのだから。だから小悪魔は図書館の本で一生懸命勉強し、さらには意を決して咲夜さんにも相談した。もちろん瀟洒で完璧なメイド長は喜んで協力してくれた。
 そしてついに今日、子悪魔はこれまで少しづつ貯めていたお小遣いを全部はたいて、咲夜さんにお菓子の材料を揃えてもらったのだ。ところが、咲夜さんに手渡された材料を見て小悪魔は驚いた。どれも最上級の素材で、とても小悪魔のお小遣いだけでは買えないものだった。咲夜さんはただ笑っているだけだった。そんな心遣いに小悪魔は涙が出そうになった。

 気合を入れてケーキを作る。
 心を込めて、ケーキを作る。これまでの感謝を込めて。今後ともよろしくの気持ちを込めて。

 ケーキを作りながらも主のことを思うとほほが緩む。ケーキを見たらどんな顔をするだろう、驚くだろうか。一口食べたら――。主の反応を色々と想像していると、つい笑みがこぼれてしまう。知らぬうちに鼻歌までも歌ってしまう。
 ああ、完成が、主の帰還が待ち遠しくて仕方がない。


 さあ、ついに完成した。完璧だ。料理に関しては妥協しない咲夜さんにもお墨付きを貰えた。我ながら頑張ったと思う。これなら人間の里の高価なケーキにも決して引けを取らない。
 ケーキが完成したことで、今やお茶を淹れる準備はすべて整った。きちんと清掃され、整理整頓の行き届いた部屋、落ち着いた雰囲気につつましく飾り付けられた洋卓と茶器、小悪魔会心の作であるケーキの上品な甘い香りが辺りを満たす。

 咲夜さんや騒がしいメイド妖精は、気を利かせたのか今日は早々に図書館から引き上げてしまったようだ。もうすぐ二人だけの幸福な時間が始まる。


「帰りはまだかしら」


 小悪魔は待っている。
 帰らぬ主を、待っている。
本来ならば前作の末尾に書くべきところですが、
作品の雰囲気を統一するためもあって実験的に別タイトルとしてみました。

歴史は理不尽な死に満ち満ちています。

願わくば、死せる魂の自由に飛翔せられんことを。
悲しみも憎しみも忘れ、聖俗も正邪も善悪も超えて。
もくりこくり
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2009/10/16 19:55:04
更新日時:
2009/10/17 04:55:04
分類
小悪魔
実践魔女裁判異聞
1. のび太 ■2009/10/17 07:23:09
で事実を知ったこあがパチュの敵をとろうとして、
逆に、阿求に拷問されるんですね…わかります。
2. 名無し ■2009/10/17 08:28:25
正しい悪魔祓いですね
わかります
3. 名無し ■2009/10/17 08:51:35
永遠となったお留守番〜ぱっちぇさんは帰らない〜
4. 名無し ■2009/10/17 09:45:51
今度は復讐に燃える紅魔勢に捕らえられた阿求が、小悪魔に日本式の拷問をやられちゃうんですね
5. 名無し ■2009/10/17 09:59:20
これは阿求を拷問せざるを得ない
6. 名無し ■2009/10/17 10:17:13
コア〜約束の悪魔〜
7. 名無し ■2009/10/17 11:06:09
>>3
そのタイトルは…!
8. 名無し ■2009/10/18 01:45:44
俺はハチを思い出した・・・
>>8だけに・・・
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