げんそういり

昨今、幻想郷には外来人と呼ばれる類の人間が増加傾向にある。
簡単に言えば、幻想郷で生まれ育っていない人間の事だ。人間以外もいるようだが。

外来人に対する幻想郷の住民の反応というのは様々だ。
歓迎する奴も居れば、あからさまに嫌悪する奴、ただの食料や余興程度に思っている奴。
私はどちらかと言えば、どうでもいい派だけどな。

そもそも、外来人がここまで取り上げられるのにはわけがある。
それは幻想郷に発生している原因不明の異常だ。
理由はいろいろと上げられているが、本質的に解決策につながる要素は存在しなかった。

さて、外来人が取り上げられる理由にはもう一つ原因がある。
それが……。
















―幻想郷、どこかの集落

「うぐぁ！」
「この、また人の野菜を盗もうとしやがったな！　この部外者め！！」

男の声が聞こえる。
下を見ると、外来人の男を農夫が蹴り飛ばした。
外来人の男の手には、収穫されたばかりの野菜と思しきものが零れていた。

「だ、だけど、俺、昨日から何も食べてなくて……」
「うるせぇ！！　こっちだって明日の飯を食うのに精一杯で、余所者にやれるだけの蓄えなんかねぇんだよ！！」
「そ、そんな……」

さて、一般論ならここで助けに行くのが普通と思われがちだが、私は助けない。
何故って？　助けてどうなる？　私にメリットは無い。
私を男勝りだとか抜かしている奴がいるが、そいつは違うな。

私は誰よりも、“人間らしい”が売りの魔理沙さんだぜ？
それにどうみたって、あれは外来人が悪いだろ？

まぁでも、何となく分かるだろ？　原因。
こういう揉め事だよ。

食料絡みもさることながら、外来人は外のルールのままこっちで暮らそうとするから、なおさらいざこざが起こる。
運良く人間の里までいけた奴はまだいいが、そうでない奴らは酷いもんだぜ。

殆どが物乞いか盗人だ。そして殺される。妖怪だけでなく、人間にもな。

人間の里はまだ理解があるが、集落なんかじゃ、そうもいかない。
明日を生きるのに精一杯で他人の事なんか、構ってる余裕は無い。
下の奴も多分殺されるか、身包みはがれて野晒しじゃないかね。

お前は運が良かったのさ。私に拾われたからな。

あ？　優しい？
違うなぁ。
じゃあ聞くが、目の前で野垂れ死にそうになってる奴を見過ごせるか？
私は見過ごせない。
無意味に呪われるのは御免だからな。







ああそうそう。
お前が幻想郷について、どれだけ知っているかは知らないが、
その知識のおおよそが無駄になると言っておく。

何故かって？　当たり前だろ？
どの道、お前がもし幻想郷に住むとしても、行動できる範囲はせいぜい人間の里くらいだ。
それ以外の選択肢はほぼ存在しない。

まぁ、あれだ。

一般的な礼節があるなら、生きていく分には問題ない。
そもそも、お前の住んでた世界でだって、礼節の成ってない奴は見ていて嫌だろ？
まぁ混沌としているのは私も嫌いじゃないがな。









さて、大分飛んだな。しっかりくっついてるか？
スピードは抑え目の積りだが、振り落とされるなよ。
折角助けてやったのに、そんな下らない事で死ぬのは私も面白くない。


……幻想郷が理想郷ってのは、半分正解で半分ハズレだ。
そりゃ誰かには理想郷だろうが、誰かには地獄だ。
万人が求める理想郷や楽園ってのは、存在しない。絶対にな。
だから余計な理想は抱くのは、止めておくんだな。
それでも、お前がこの世界を愛せるんだったら、幻想郷は歓迎してくれるぜ。
“幻想郷”は、な。













さて、とりあえず神社に到着だ。
私はこの先、お前の面倒なんか見る気は無い。
さっきもいったろ？　私はメリットや見返りのない事はしない主義なんだ。
だからお前が霊夢に会って、今後を決めるんだな。
幻想郷に残るか、元居た世界に戻るか。
それはお前の選択だ。好きにすればいい。責任はお前が全部持つんだからな。
まぁ、ただこれだけは言っておいてやるぜ。










興味本位で残ると、一生後悔するぜ。