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『不許可』 作者: 極楽

不許可

作品集: 5 投稿日時: 2009/10/20 11:49:00 更新日時: 2009/10/20 20:49:00
「ここで船長を倒して、こんな船落としてやるわ」
「言い忘れましたが──うわっ!」

水蜜がすべてを言い終わる前に、彼女の言葉を飲み込んで、八方鬼縛陣が炸裂した。
船内で火山爆発のように吹き上がった炎は、水蜜を巻き込みながら、一文字に船体を貫いた。
甲板を溶かし、竜骨を砕く炎の柱。
神の力で増幅された鬼縛陣は船内を駆け巡り、外板を突き破った炎が、巨大な船体の彼方此方から吹き上がる。
やがて動力部に達したそれは推進エネルギーと反応、雲間にきらめく稲妻のように、聖輦船が爆発を起こした。
霊夢は言葉どおり、聖輦船を撃沈したのである。

バラバラと地面に降り注ぐ燃えた木片に混ざって、落下していく聖輦船のキャプテンは、
赤い炎に包まれながら、もうおしまいだと思った。
外的な肉体の傷は、致命傷ではない。
体を包むオレンジの炎も、セーラー服のイメージを焦がすだけで、水蜜の霊体にはさほど影響がない。
多少熱いと感じるだけだ。
しかし、水蜜の精神は深く傷つけられていた。
なぜならば、千年も待ち焦がれてようやく訪れた機会が、僅か数日で打ち砕かれてしまったためである。
敬愛する尼を迎えに行くはずの聖輦船は、巫女に焼かれ爆散した。
喪失感は虫食いのように広がり、水蜜の精神をからっぽにする。
空洞になった精神は、水蜜が存在するためのエネルギーをも削り取り、それに呼応するよう体の動きが緩慢になった。
人外の者にとって、精神の痛みは致命傷なのだ。
深い絶望に囚われた水蜜は、このまま消えてしまいそうだった。

水蜜の願いとは裏腹に、落ちていく体は途中で霊夢に救い上げられた。
軽度の火傷に包まれグッタリとした水蜜は、優しく抱かれ、そっと野原に降ろされる。
辺りでは、落着した聖輦船の残骸が、盛大に燃えていた。

「ううう、ぐすっ、聖ぃ……」

地面に伏せ、嗚咽を漏らす水蜜を、霊夢が見下ろしている。
水蜜の慟哭も、燃え上がる聖輦船も、霊夢にとってはどうでも良いことのようだ。
異変を解決できたという満足感が、霊夢を満たしているのだろう。
霊夢はお払い棒の先端で、で水蜜の顎をクイと持ち上げた。

「どう? 悪いことする妖怪は、みんな私に退治されるのよ。これに懲りたら、大きな船なんて飛ばさないことね」

降り注ぐ言葉は、人生の勝利者のもの。
もう燃えちゃったけどね、という霊夢のせせら笑いが、水蜜の意識を覚醒させた。
からっぽの中身に、怒りが満ちてくる。

「このぉぉ……何も知らないくせに!」
「知らないわよ。アンタみたいな妖怪の考えなんて、わかるわけないわ」
「手ん前ェ……!」

水蜜は怒りすぎて、上手く言葉が出ない。
独善的な霊夢の言い草に、千年ぶりに覚える殺意。
頭の中が白く染まり、ふざけた態度をとる巫女を、とにかく殺したくなる。
しかし、霊的な傷を負った体は、水蜜の殺意とは裏腹に、大地に縫いとめられたように動かない。
生暖かい地面の温度が、何も出来ない水蜜の情けなさを引き立てた。

「ぎっ……ぐぎぎぎぎ!」
「やれやれ」

バリバリと歯を噛み締める音。
幼子を諭すような巫女の視線が、たまらなく憎かった。
無知蒙昧な人間が、神を体に降ろしてまで、切ない邂逅の思いを妨害する。
殺したい、その余裕ぶった表情の報いを受けさせてやりたい。
だが、水蜜の体は、悲しいほどに動かなかった。

「そんな目で見ないでよ。怖いじゃない」
「くがぁぁぁぁぁ! ああああ殺す殺す殺す! ……殺、すぅぅ……ぅうあぁぁぁ」

高く響いた水蜜の咆哮は、次第に小さくなり、やがて涙声になっていった。
悔しくて、悲しくて、寂しくて、そして何より自分が不甲斐なくて。
ボトルグリーンの瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。
水蜜は思った。後どれくらい待てば、愛する尼に会えるのだろう。
千年も待った寂しさは、無残な現実を彩るだけ。
聖輦船は燃えている。
間欠泉に乗って、喜び勇んで復活した結果が、この有様だった。
ただの人間の癖に、ここまでするとは創造できなかったのだ。
水蜜はただ、泣きじゃくっていた。
霊夢は肩をすくめ、仕方ないわねという表情で、水蜜を見下ろしている。
隠し切れない満足そうな微笑が、唇に浮かんでいた。

「観念しなさい。命までは、取らないわ」
「ちくしょう……ぐすっ、ちくしょう……」
「元気だしなさいよ。生きれてば、そのうち良いことあるわ。……あ、アンタは幽霊か。じゃあダメね」

てへへと頭をかく霊夢の演技臭い仕草。

「うあアアアアア#@*−¢ヾ☆!!!」

水蜜は怒り心頭、湯だった薬缶のように感情を爆発させ、意味を成さない叫びを発した。
ばたばたと草を引きちぎって暴れる水蜜の反応を、霊夢は楽しんでいる。
見れば、焦げたセーラー服の隙間から、透き通った白い肌がチラチラ覗いた。
キュロットスカートはほとんど燃え落ち、子供っぽい水色のショーツが、
弾力を感じさせる臀部の膨らみをかたどっている。

「……ふぅん」

霊夢は好色そうな瞳をみなぎらせて、水蜜の体を舐めるように見つめる。
戦闘の興奮と熱が、霊夢の中で性欲となって化学反応を起こしているのだ。
霊夢がぺろりと唇を舐め、水蜜のそばに屈もうとしたとき、透き通った声が空から降ってきた。

「霊夢さん、こんなところにいたんですか?」

霊夢が煩そうに顔を上げると、守矢神社の風祝、東風谷早苗が空から降りてきていた。
腕にはフードをかぶった女性を抱えている。
早苗が抱えているのは、共に復活を目指した仲間、雲居一輪だった。
一輪は真っ青な顔で、ピクリとも動かなかった。

「あ……ああ!? 一輪! 大丈夫一輪!? 返事してよ!」

一輪は応えない。
青ざめた顔で、グッタリと早苗に抱きかかえられていた。

「早苗じゃないの。どうしたの、その妖怪は」
「よっと、ふぅ……。霊夢さんが船の中に入ったとき、私は外でこの人を捕まえたのです」
「ふーん。結構大きな妖怪だけど、早苗一人で倒せたのね」
「ええ、入道もいたのですが、散らしてあげました。これも八坂様の神徳のなせる業です」
「一丁前の口を聞くわねぇ」
「えへへ」

二人の巫女が笑いあう。
早苗は乱暴に女性を地面に落とすと、倒れ付した水蜜を眺めた。

「これがあの船の船長さんですか? 女の子だったんですね。可愛い」
「ふん、ただの幽霊よ」
「ふふっ……霊夢さん、この子どうするんですか? よかったら私が──」
「私が責任持って封印するの。アンタはその妖怪で、満足してなさい」
「はぁい。残念です、せっかく神社に連れ帰って、八坂様に捧げようと思ったのに」
「捧げるって、アンタねぇ……」
「一輪に酷いことしたら、許さないぞ!」

満身創痍の水蜜が、静止の叫びをあげた。
強気な水蜜の声に、早苗は面白そうだと瞳を輝かせる。

「わ、まだ元気な幽霊ですねー。霊夢さん、手加減してあげたんですか?」
「うん、こいつはじっくり時間をかけて、封印してやるわ」
「うふふ、魔理沙さんもネズミを捕まえたみたいだし、妖怪退治は上々ですね」

二人が言葉を交わすたび、水蜜の顔はどんどん青くなっていった。
聞きたくない事実が、次々と入ってくる。

「そうね。宝がなかったのは残念だけど、すんなり解決して良かったわ」
「はい! それじゃ私は、お先に失礼しますね。生け贄の祭壇を、準備しなくちゃいけないので」
「……そう。じゃ、またね」
「ええ、ではっ」

早苗は再び一輪を持ち上げると、颯爽と飛んでいった。
水蜜は何を言っても蚊帳の外。
成り行きを見守るだけの、エア船幽霊だった。

「ああ……ああ……嫌だよぅ……こんなの嫌だよぅ」

水蜜の泣き声を背景に、霊夢は遠ざかっていく早苗を見送った。
早苗が完全に見えなくなると、霊夢はやれやれと肩をすくめて振り返った。

「守矢の連中、相当イカレてるわね。妖怪を生け贄にして、どこの神様が喜ぶってのよ」
「うわあああ……」
「そんなに泣かなくても、私は早苗みたいに酷いことはしないわ」
「畜生……殺してやる……絶対殺してやる」
「はいはい。それじゃアンタは、瓶詰めにするからね」
「ううああ殺じでやる殺じでやる殺じでやる」
「やかましい。アンタ、船幽霊なんでしょ。だから寂しくないように、封印して湖に沈めてあげる」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
「またね」

喉を枯らして泣き叫ぶ水蜜に、霊夢は結界を放った。
青く輝く四枚の結界は、水蜜の体を小さく閉じ込め、5センチほどの立方体に折りたたむ。
光に閉じ込められた声は徐々に遠くなっていき、やがて聞こえなくなった。
水蜜をあらわすようなベビーブルーの立方体が、ぽつんと後に残った。
霊夢は水蜜の箱を、片手でぽんぽんと投げて遊びながら、神社に向かって飛び去った。
水蜜がどうなったのかは、霊夢だけが知っている。
聖輦船の残骸が、いまだブスブスと、湿った煙をあげていた。


こうして悪の魔法使いが復活する野望は、阻止されたのである。



おわり
霊夢は物騒なことを言いますよね
極楽
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2009/10/20 11:49:00
更新日時:
2009/10/20 20:49:00
分類
博麗霊夢
村紗水蜜
ダメ
1. 名無し ■2009/10/20 21:35:14
まだ……寅さんがいる……!!
2. 名無し ■2009/10/20 21:54:17
それでも星なら・・・・・・星ならなんとかしてくれる・・・・・・!!
3. 排気ガス ■2009/10/20 22:05:26
虎柄は魔界で二度立ち上がるか
魔理沙が多分一番優しいからナズーリン幸せだね
4. 名無し ■2009/10/20 22:11:16
呑気な事いってら・・・
ナズーリンにとって一番「優しい」のは
ガスさん、あんただろうに・・・
5. 名無し ■2009/10/20 22:12:05
魔理沙は奴隷が欲しいだの何だのグリマリで言ってたような…
6. 非共有物理対 ■2009/10/20 22:17:47
僕が一番ナズを幸せに出来るんだ!

寅さん放浪してるんじゃね?
7. 名無し ■2009/10/20 22:46:44
エロ展開を期待してたら早苗さんに邪魔されたでござる
8. 名無し ■2009/10/20 23:41:58
東方、特に霊夢の一番気に食わないところが勘だけで行動し、手当たり次第に蹴散らすという選択肢しかとらないところだ。
そのくせその勘が中途半端に当たってるから始末に終えない。
聖輦船が飛んでいること自体は異変だが、害は無いから対話という選択肢が少しでもあればこんな事にはならないし、雛みたいな善意で警告してくれた相手をボコボコにしなくても良かったのに・・・
でも、そういう理不尽さが東方の魅力の一つなのかも。
この霊夢の勘が外れて異変の原因だと決め付けた相手をたおしたせいで取り返しの付かないことになってしまい後悔する、そんな霊夢を見てみたい
9. 名無し ■2009/10/21 02:56:53
米8
白血球みたいなもの。
プログラムに沿って動いてるだけってこーりんが言ってた。
親兄弟だろうと異変と見れば潰すのだろう。
実は霊夢って悲しい存在なのかも。
10. のび太 ■2009/10/21 08:16:16
>>8-9
異変時の霊夢には近づくな…

ということですよ。
11. 名無し ■2009/10/21 20:27:15
霊夢「退治される方が悪い」
12. 名無し ■2009/10/21 20:29:06
小傘はいいのか
13. 白米 ■2009/10/22 10:04:45
無力なみっちゃんかわいいよ。かわいいよ。かわいいよ。また水底に沈められるんだね。かわいいよ。かわいいよ。かわいいよ。
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