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『隣人』 作者: 名前がありません号

隣人

作品集: 10 投稿日時: 2010/01/20 18:14:25 更新日時: 2010/01/21 03:14:25
私達は隣人ね。

パチュリーはそういった。
何を唐突に、とレミリアが聞き返す。

私達の関係は家族より遠くて、でも他人より近いって事よ。

そういうものかね。
レミリアは言う。

寄せ集めじゃない? 私達は。
パチュリーは本に目を向けながら、言う。

中国の妖怪に、小悪魔に、本の虫に、切り裂き魔に、吸血鬼か。確かにごった煮だな。
レミリアは、なるほどとパチュリーの言葉に同意する。
で、だからどうなんだい?
レミリアはパチュリーに問う。

別に。深い意味は無いわ。意味があるとすれば、私が変に気を使わなくていい所かしら。
パチュリーは小悪魔が淹れたコーヒーに手をつける。

居候の発言とは思えないね。館の主としては特に聞き逃せないなぁ。
レミリアはテーブルの菓子を摘みながら言う。
家族だと何か不都合でもあるのかい。

家族ごっこなんて、私は御免だもの。
パチュリーは言う。その視線は本に注がれたままだ。

仮にも妹のいる身の私の目の前で言う言葉じゃないよ。パチェ。
レミリアは、掌で赤いオーラを形成して、それを手で弄ぶ。

本当の妹かどうかも、わからないのに?
パチュリーは初めてその視線を、レミリアに向ける。
貴方だって、知っているでしょう? 吸血鬼は、子供を生まない。生む必要が無い。

腐乱死体の子供なんて、持ちたくないだろ?
レミリアはパチュリーの視線を受けながら、へらへら笑って答える。

なら、貴方は母の子宮で生まれたことがある?
パチュリーは、コーヒーを飲み干して。
その記憶が貴方にある?

ないよ。
レミリアは、素直にそういった。
腹を食い破って現れた記憶はあるかもしれないけどね。
そしてまた、へらへらと笑い出す。

なら、あの子は何処から生まれたのかしら?
パチュリーの視線には、フランドールに対する恐れが見え隠れしている。
貴方だって、怖いのでしょう? あの子が。

怖い? かわいいの間違いだろ?
レミリアは笑みのまま、言う。
フランの純粋な破壊衝動ほど、綺麗なものはないさ。穢れがないからね。

穢れる前に、焼き払われてしまうからじゃないのかしら?
パチュリーはレミリアの笑みを気にする事無く続ける。

それの何がおかしい? 美しいだろ? 一面真っ赤だ。
レミリアはクックック、と笑ってみせる。
クッキーの食べカスをつけたままなので、少し滑稽だ。

それを彼女が望んでいるの? 貴方がそれを“強要”しているのではなく?
パチュリーは本を読み終えたのか、新しい本を取る。
妹様、いえ、フランドールは貴方自身なんじゃないの?

だったら、どうなんだ? 私とあいつの中身を入れ替えてみるかい?
お前なら出来るだろ? と言う目で、パチュリーを見る。

嫌よ。面倒くさい。そんな事の為をする為に魔法を使う気は毛頭無い。
パチュリーは本の内容を確認すると、以前読んだ本だと気付き、別の本を取る。
だいたい、フランドールは了承しないでしょう?

了承が取れれば、やるのか? なら、多少強引にねじ伏せて連れてこようか?
レミリアは手で弄んでいたオーラを窓に投げる。しかし窓に到達する前に、オーラは霧散した。
敬愛する友人の実験になら、協力はそれなりに惜しまないよ?

そんな協力は結構だわ。貴方と心中するつもりはないもの。
パチュリーは、ベルを鳴らして小悪魔を呼び寄せる。

こあこあこあっとー、と言う気の抜ける声と共に小悪魔がやってきた。
なんでしょう、パチュリー様。とうとう、命を捧げて下さるのですか。

小悪魔を短時間で送還する方法は、と。
パチュリーは小悪魔に聞こえる声でそう言い放つ。

相変わらず酷い主です。コーヒーと本の整理ですね。わかってますよ。
小悪魔はやれやれと言った表情で、図書館を出る。

相変わらずの酷使ぶり。関心するね。
レミリアは図書館を出る小悪魔を見ながら、パチュリーに言う。

悪魔は酷使するものよ。限界より2〜3歩手前まで酷使しても、大丈夫だと分かったから。
パチュリーはランプの明かりに火を灯す。
ランプの中では小さな火の精霊がうごめいている。

悪魔泣かせだ事。まったく友人ながら恐ろしいね。
レミリアは図書館の鏡を見る。そこには紅魔館の外の空が写っている。
赤い月だ。燃えてるようだよ。

紅い月じゃなくて残念ね。
パチュリーは鏡を見ずに言う。

これはこれでいいさ。情熱的で、暴力的で。
鏡の赤い月に、その手をかざしてグッと握り締める。

私は青い月がいいわ。ずっと静かなままの。
パチュリーは本を読み終え、机に置く。本はアンバランスな状態で留まっている。

青い月は狂気を一番内包してるんだ。なるほど、静かに狂ってるわけだ、パチェは。
素晴らしいね、とくすくすと笑うレミリア。

さぁ、誰一人この館で狂っていない者なんて居ないわ。自覚していないか、隠しているだけ。
パチュリーは、机の引き出しを開ける。

確かに。でも、私達に限った話じゃない。皆そうさ。狂ってるのさ。自覚がないだけでね。
レミリアは、その手を擦り合わせる。


じゃあ、全部壊して狂ってしまえば、楽になれるかしら。


さぁ、試してみる?


パチュリーはランプに水の精霊を押し込める。
火と水の精霊が互いに反発しあい、ランプが破裂した。

それが引き金だった。






苦しいわ。
パチュリーは、レミリアに首を締め上げられながら、言う。

痛いわ。
レミリアは、パチュリーのオータムエッジを全身に受けながら、言う。

おかしいわよね。こんな事でしか、自分が生きてるかどうか確認できないなんて。
パチュリーは、ごほごほっと咳き込みながら、言う。

しょうがないよ。長く生きてれば、頭のネジの一本二本外れたって、気付かない。
レミリアは、目と口元から血を流しながら、言う。

パチュリーはオータムエッジを消し、レミリアはパチュリーの首から手を離す。


フランドールにもこんな思いをさせる積り?
パチュリーは、ふぅと深呼吸して言う。

それはフラン次第さ。私は何もしない。運命を操るのは面倒なんだよ。
レミリアは、手で自らの衣服を叩くと、血も服の傷も消えていた。

結局、妖怪なのね。レミィも、私も。こんな程度じゃ、死ぬ事も出来ないなんて。
つまらなさそうに、パチュリーは言う。

今更、後悔したって手遅れさ。それが私達の運命なんだ。
自嘲をこめて、レミリアが言う。


だとすれば、こんな運命に書き換えたレミィを呪うわ。

最初に運命を書いた奴に、文句を言うといい。私に幾ら言ったって無駄なんだからさ。



コーヒーが入りましたよー。
小悪魔がやってくる。

ありがとう、小悪魔。
パチュリーが言う。

おや、珍しい。パチュリー様がありがとうなんて言うなんて。槍が降りますね。
小悪魔が、ケラケラ笑いながら言う。

そんな小悪魔の頭上に、ドヨースピアが放たれる。
痛い! 痛いです、パチュリー様!

あら、槍が欲しかったんじゃないの?
ニヤニヤ笑いながら、パチュリーが言う。

うぐぐ、仕事に戻りますぅ。
小悪魔は、とぼとぼと司書の仕事に戻っていった。

酷い女だ。常識の欠片も無い。
レミリアが肩をすくめて言う。

お互い様よ。
パチュリーは銀のスプーンを、コーヒーに入れる。
見る見る内に、銀のスプーンは黒く変色していく。

案外にアナログな事をするもんだ。
レミリアは言う。

近代的な手段の対策をしている所に搦め手で、古典的な方法をする事は有効よ。油断するから。
パチュリーはいる? と毒入りのコーヒーをレミリアに進める。

やってる事が咲夜と一緒じゃないか。
レミリアは、そう言いながらも、毒入りコーヒーを受け取って、飲む。



不味いわ。

でしょうね。



鏡に映った月は、レミリアの目にも、パチュリーの目にも、赤でも青でもなく灰色に見えた。
殺す一歩手前まで互いに追い込みあう。
常に誰かの命を狙いあう。

全ては、自分が生きてるかどうかの確認の為。

隣人は今日も生きている。


     ※     ※

愛でもなく、欲でもなく、生死の証明。
見かけは平静でも、心中は常に互いの命を狙っているのかもしれない。
そうすることでしか、生きているかどうか分からないなら、外じゃ生きられないだろう。
妖怪か人間か以前の問題だ。
名前がありません号
作品情報
作品集:
10
投稿日時:
2010/01/20 18:14:25
更新日時:
2010/01/21 03:14:25
分類
レミリア
パチュリー
隣人
1. 名無し ■2010/01/21 08:19:55
離れたくないなら慣れるしかない
だって隣人は選べないもの
2. ばいす ■2010/01/21 18:44:07
良い
小悪魔かわいい
3. 名無し ■2010/01/22 23:21:15
お互いぶつかり合わない適当な距離を保ち続けるのは疲れる

それなら初めから何の接点も作らないか、あるいは適度にぶつかり合っているのが一番
4. 名無し ■2010/09/13 23:17:08
こういう書き方もあるんですねぇ・・・・・・
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