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『森近霖之助総受け企画/十六夜咲夜の場合』 作者: んゅじ

森近霖之助総受け企画/十六夜咲夜の場合

作品集: 11 投稿日時: 2010/02/09 16:44:11 更新日時: 2010/02/10 01:44:11
カランカラン、とカウベルが鳴り響き、香霖堂に誰かが訪れたことを店主に知らせる
店主の霖之助はまずちらりと扉の方へ目線をやり、そこにいる人物の姿を確認してから、読んでいた本を閉じた

「こんにちは、店主さん」
「ああ、君か。いらっしゃい」

数少ない常連『客』がやってきたと言うのに、店主である霖之助は愛想笑いのひとつも浮かべない
もっとも、咲夜としてみればそんなのはいつもの事である為、まったく気にしない
寧ろそんなものを見せられた所で、気味が悪いとしか思えない
少なくともこちらに視線を向けてきただけでも上等というものだ

「それで、本日はいったい何をお求めかな?」
「はい、今日は店主さんを頂いて行こうかと」
「……なんだって?」

普段から珍品奇品を要求していたが、今回の注文はいつにもまして奇妙奇天烈なものだ、と霖之助は心の中で溜め息を吐いた

「正確に言えば、店主さんそのものではなく、店主さんの血が欲しいのですが」
「どちらにせよ、香霖堂では生き物は取り扱ってないよ」

今度は心中ではなく、咲夜に見せつけるように溜め息を吐いてみせた

――大方、彼女の主たる吸血鬼の少女の思い付きが原因なのだろうが、巻き込まれるのは甚だ迷惑だ

そう思いながら、これでもかとばかりに嫌そうな顔をしている霖之助を、咲夜は見事なまでに無視した

「あら、体液は生き物ではないでしょう?」
「僕と言う生命を構成するのに不可欠なものである以上、そう易々と売れるものじゃない。だいたい、なんで僕の血液なんかを欲しがるんだい」
「お嬢様が、今日のお茶の時間はカフェオレを飲みたいと仰いましたので」
「なら、珈琲をたっぷりの牛乳で割って出せばいい」

ごく当たり前の霖之助の提案を、咲夜はそんなの普通すぎてつまらないじゃないですかと切り捨てた

「詰まる詰まらないは君の勝手だが、それに僕を巻き込まないでくれ」
「そんなに拒まなくてもいいじゃありませんか、減るものじゃないですし」
「減るよ。確実にね。それより妖怪混じりの血が欲しいなら、里の半獣の所に行ってくるといい。『カフェオレ』と言うことを考えれば、白澤混じりの彼女の血こそ相応しいと思うが?」
「そちらはもう断られました」
「なら冥界の庭師はどうだい」
「人間部分と幽霊部分が独立してるじゃないですか。混ざっていなければカフェオレとは言えません」

どうにかしてこの厄介な客を他所に押しつけられないかと思案するが、咲夜は霖之助の提案を全て拒否した

「ティーカップの一杯分もあれば充分なんです。そのくらいなら構わないでしょう?」
「構わないわけないだろう。とにかく、それしか用事がないと言うなら、今日はもう帰ってくれ」
「そういう訳にもいきません。時間もありませんし、実力行使させていただきます」
「なん…………っ!」

なんだ、と言い終わるよりも前に、霖之助は両腕を手錠によって拘束されていた
なんの事はない、咲夜が時を止めている間にやった事だ

「商品を勝手に使わないでくれ」
「あら、使い物になるかどうか、店主さん相手に試しただけですわ」

――手錠なんかを商品棚に置いておくんじゃなかった

自分の店の商品で自身が拘束される
そんな間抜けなこの状況に、幾度目かの溜め息を吐く
霖之助が自分の愚行を悔いている間に、咲夜は彼の服を脱がしにかかった

「な、何をしてるんだ!」

無論、そんな事をされて気づかないほど霖之助も愚鈍ではない
突き飛ばす迄はいかないが、激しく抵抗する

「もう、店主さん、暴れないで下さい」
「うわっ」

一瞬で霖之助の置かれてる状況が変わる
体の前側で手錠を掛けられていた腕は後ろ手に固定され、脚はロープで縛られ、止めに床に転がされていた
咲夜は霖之助の上に馬乗りになると、再び服を脱がしにかかる
とは言っても襟を胸元まではだけさせ、インナーのシャツを破り裂いたくらいだ

「年頃の女性がはしたない真似をするものじゃない。完璧で瀟洒な従者の名が廃るよ」
「魚の鱗を取るのに恥じらいを感じる女などいませんわ」
「やれやれ、人の事を魚扱いか」

咲夜の声色に誤魔化しや動揺は感じられず、本気で今の霖之助を調理前の食材程度としか認識していない事を窺わせた
だが霖之助にとってはそんな事は至極どうでもよかった
今必要なのは、如何にしてこの状況から逃げ出すかを考える事なのだが……

「咲夜、それはいったい……」
「店主さんの『視た』ままのものです」

良策を思いつく暇もなく、咲夜は霖之助の血を奪いにかかっていた
彼女の右手に握られているもの
それは一見、灯油等を移す際によく使われる、手動式のポンプのようだった
しかし、ポンプの下から真っ直ぐ生えているパイプは、プラスチックの物から金属製の鋭い針状の物に取り換えられており、その根本辺りには取り外し出来そうな、小さなボンベのような部品が付けられていた

「『醤油ちゅるちゅる改』……用途は、『血液の採取をする』」
「以前こちらで買ったものを、パチュリー様に改造してもらいました」

紅魔館の魔女<パチュリー>が作ったと言う道具に興味を惹かれ、霖之助は状況も忘れて道具の観察を始めそうになる
道具に釘付けになり、大人しくなった霖之助の隙を逃すことなく、咲夜は左胸に針の先を押し当て、一息に刺した

「っ…………!」
「暴れないで下さい。下手に動くと、余計な怪我をしますから」

肉を貫き、霖之助の身体をズブズブと沈んでいく針先
狙いは彼の心臓だ
既に何十、否、何百回とこの『採血』の作業をしてきた咲夜は、見事一刺しで心臓に針を突き刺すことに成功した

「じっとしていれば痛くないですから。直ぐに終わりますので、大人しくしてて下さいね」
「……ああ、もう、好きにしてくれ」

漸く観念した霖之助は、目を閉じ、身体の力を抜き、全てを受け入れる覚悟を決めた
体内に異物が入っている感触は何とも言い難いものがあるが、確かに余計な身動ぎをしなければそれほど痛みがあるわけではないのだ
そう、動かないから痛くないのだ

「……ああすみません。店主さん、上半身を起こしてくれませんか?」
「動くなと言ったのは君の方だろうに……と言うか、後ろ手に縛られてるのにどうやって起きろと」

たとえ上半身を起こすだけでも、霖之助の身体を痛みが襲うことになるだろう

「そこはまあ腹筋を使って。それによく考えたら、この体勢だと勝手に血が出てこないんですよね」
「ああ、確かサイフォンの原理、とやらだったかな。だが無理に僕が起きずとも、君が何度もポンプを押せばすむ事じゃないか」
「そんなの疲れるじゃないですか。省ける手間は、出来る限り省いておきたい性分なので」
「僕の手間と痛みは?」
「食材に感情移入していては、鶏一羽すら捌けませんから」

言ってる事はもっともであるが、鶏の立場にある霖之助としては正直堪ったものではないないが、抵抗したところで無意味な事に変わりはない
ならさっさと済ませて、早々に帰ってもらう方が得策だ、と、霖之助は渋々上半身を起こす事にした

「うっ……」

針の突き刺さった周囲がズキンズキンと痛む
オマケに咲夜がポンプを握ったまま動かさない為、霖之助の動きに合わせて、針が傷口や体内を抉る様にグリグリと動くのだ

「あっ……ぐっ……!」
「あら店主さん、大丈夫ですか? あまり心配させないでください」
「微塵も、心配してないのが、丸分かりだよ……それより、早く、済ませて、くれ」

なんとか上半身を起こした霖之助は、咲夜に作業を促す

「わかりました。では、早速始めますね」
「…………構わないが、それは、『ペットボトル』、だったか。随分、安っぽいものを……」
「あら、瓶と比べると軽いし、割れないですし、蓋の開け閉めも楽ですし、『お持ちかえり』するのにすごく便利なんですよ? 勿論、お屋敷に戻ったらワインボトルに移し変えますが」

口を動かしながらも手は止めず、針パイプの根本から枝分かれしている蛇腹状のパイプを、霖之助の心臓より低い位置に置かれたペットボトルの口に差し込む
ポンプの一番上にあるバルブが閉まっているのを確認し、ポンプを二、三度ギュッ、ギュッと押し潰せば、あっという間に新鮮な霖之助の血液が昇ってきて分岐の蛇腹パイプを通り、ペットボトルの中にバシャバシャと流れ込む

――医者にかかってる訳でもないのに、なんで血液を採取されているんだろうか

内心そう思いながら、霖之助はどこか虚ろな目で溜まりゆく自分の血を見つめていた

「……………………そういえば、君はティーカップの一杯分程あればいいと言っていたような気がするね」
「そうかも知れませんね」
「なのに何故君はまだそれを止めないんだい。どう見てもカップ一杯分はもう入ってるだろう」
「気のせいですよ」
「気のせいじゃないよ」

咲夜が使っているのは、一般的な500mlが入るペットボトルだ
血液は既にその半分以上の高さまで溜まっている
成る程、確かにティーカップの一杯分――およそ240mlは入っているだろう
霖之助の追求を誤魔化しきれないと感じたのか、或いは誤魔化すのが面倒だと思ったのか、咲夜は本音を語る事にした

「万が一お嬢様がおかわりをご所望された時、すぐ注げるようにしておかないといけませんから」
「話が違うじゃないか」
「そうですね。ですが、約束はしていませんよ」
「む…………」

咲夜は最初にカップ一杯分もあればいいと言った
だがその時点では、霖之助はそれを良しとしなかった
霖之助が採血に同意したのは、胸に器具を突き刺されると言う強行手段を取られたからだった
そうなると、採血の量に関して、特に取り決めはなかったと言えなくもなかった

「貴方は妖怪の血が混じっているのだから、少しばかり多目に取っても大丈夫でしょう?」
「……はぁ。仕方ないが、その分料金は割り増しさせて貰うよ」
「あら、生き物は商品ではなかったのでは?」
「そういう事を言うか、君は……」

憎々し気でも、侮蔑を込めてでも、呆れでもなく、最早何もかもに疲れた、とでも言いたげな視線で、霖之助は咲夜を見つめる

「冗談です。後で、レバーやほうれん草といった造血作用抜群の食材を使った料理を振る舞わせていただきます」
「おいおい、魔理沙や霊夢じゃあるまいし。まさか、それが代価のつもりかい?」
「男の方に取って、うら若き乙女の手料理にはそれだけの価値があると聞きましたが」
「そういう人間もいるだろうが、お生憎様。僕はそういった人種じゃないんだ」

そんなやり取りをしながらも、咲夜はペットボトルが満杯になる直前にポンプのネジを緩め、自動供給をストップさせる
血液の満ちた容器に蓋をすると、続けて二本目となるペットボトルを取り出した

「何を平然と次の用意をしているんだ、君は」
「あら、私の手料理では代価に相応しくないのでしょう? なら、釣り合うようにと」
「人の話を聞いてないのかい。過剰なんじゃない。圧倒的に不足してるんだよ」
「そうでしたか。なら、図書室への招待券をお付けしましょうか?」
「む……」

紅魔館の図書室の事は、魔理沙から良く聞いていた
それだけに霖之助は、様々な本があると噂の図書室に、一度は行ってみたいと考えていた
故に、咲夜の提示したその条件に心を動かされ――

「それなら文句はない。それで手を打とう」

快く承諾した

「私の手料理より本の方がいいんですね。ああ何故でしょう、胸の奥がシクシクと痛みます」
「真顔で、しかも棒読みで言われても説得力がないよ」
「そんな。酷いです。この溢れる涙を見ても信じてくれないんですか?」
「隠したつもりだろうが、袖の端から目薬が見えてるよ」

霖之助の指摘にも咲夜の表情は揺るがない
そもそも、咲夜が本気なら、目薬が見つかるなどと言う下手を打つはずがないのだから
詰まる所これは、咲夜なりのジョークだろう、と霖之助は推測し、それは的中していた

「店主さん、ご協力ありがとうございました」
「出来ればこんなのはこれきりにしてほしいね」
「それはお嬢様の好みに嵌まるかどうか、ですから」
「…………所で、何をしているんだい」

霖之助と会話をしながら、咲夜は針の根本にあるボンベやポンプを弄っている
てっきり後は針を引き抜くだけだと思っていた霖之助は、その姿に言い表せられぬ不安を感じていた

「それなりに細い針とはいえ、心臓にまで達していますから。これには止血の機能も付いていますから、それを使うだけです」
「そうかい? なら良いんだ…………いや待ってくれ、いったいどうやって止け――ガアァァア!!」
「暴れないで下さい、危ないじゃないですか」

身体が、焼かれている
身体の内側から、焼かれていく
異物が刺さり、少し慣れたとは言え未だ敏感な傷口を、熱が、高熱が焼き責める

止血の方法として一般的なのが、傷口若しくはその近くの動脈の圧迫する事だろう
医療現場に於いては、開腹手術により、体内の出血部位を縫合して止血する方法もある
が、今回の場合そのどちらの方法も充分な止血手段に足りえなかった
と言うのも、咲夜の言う通り出血部位は心臓にまで達している為、体表のみ止血しても不充分であること、また、医療技術のない咲夜では胸部を切開して心臓の縫合をするにはリスクが大きすぎたのだ
そこで醤油ちゅるちゅる改を作成したパチュリーが採用したのが、『傷口を焼く事による止血』だった
その為に『火』の魔力と簡単な魔術式の籠めたカートリッジ方式を採用し、カートリッジをセットした状態で簡単な操作をするだけで、魔法使いではない咲夜でも、手間暇を掛けずにで患部を焼き潰せるのだった

「あがっ! ぐ、ぎぃ!」
「だから暴れないで下さい店主さん。じっとしていればすぐに終わりますから」

元々、醤油ちゅるちゅる改は食糧として配給された人間(レミリア達からすれば家畜)から『殺さずに紅茶や料理に使う新鮮な血液を採取する』為に作られたのだ
止血の際に家畜の受ける痛みを考慮する程、紅魔館の住人はヒューマニズムに溢れていなかった

「〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」
「そんなに歯を食い縛ると、奥歯が砕けてしまいますよ。取り敢えずこれでも噛んでいてください」

文字通り身を焼く激痛を、歯を食い縛って必死に堪える霖之助
そんな彼の姿を見かねて、咲夜は愛用しているナイフ――無論だが、鞘に収まっている――を店主の口にあてがい噛ませた
……普通ならこういった際には、布などの柔らかく、思い切り噛み締めても力がうまい具合に分散されるものを噛ませるものである
革製の鞘に入っているとは言え、硬いナイフを噛ませてはあまり意味はないのだが……その辺り、咲夜の天然と言うべき感覚のズレが成せる行動だった

「ふっ……! ぐ……っ! ぅう………! 」
「あら…………」

つん、と漂ってきたアンモニア臭
霖之助の股間辺りを見れば、ズボンが不自然に濡れているのが見てとれた
痛みと、それを堪える為に力んでいた結果、失禁してしまったのだ
人並み以上に生きている霖之助にとって、このように失禁してしまうなど、しかもそれを人に見られるなど、恥ずかしさの余りいっそ消えてなくなりたい程の醜態だった
その証拠に、ついと背けた顔、その目尻には涙が浮かび上がり、今にも溢れ落ちそうになっている
だが咲夜は、大の男の失禁と言う事態にも眉一つ動かさない

と言うのも、単純に慣れているからだ
普段、咲夜が血を採取する家畜達もこの止血時に――早い者は針を突き刺す前から恐怖で――ほぼ例外なく失禁をしているからだ
家畜によっては尿どころか大便すら漏らすものまでいるため、それに比べれば失禁だけの霖之助など咲夜にとってみればたいしたことはないのだった

「さてと、そろそろいいかしら」
「ぐ……あ…………あががっ」

ずるり、ずるりと、霖之助に突き刺さっていた針が引き抜かれていく
発熱により真っ赤に輝いている針
その周囲の空気が暖められ、もやもやと陽炎が立ち上っている
この凶器が、今さっきまで霖之助の体内を焼き払い蹂躙していたのだ

「はーっ…………はーっ…………」
「良かった。止血は上手くいったみたいですね」

漸く地獄の苦しみから解放された霖之助
彼の傷口から一滴の血も溢れないのをを見て、良かったと言う咲夜
体表から心臓まで、針の触れていた所全てが炭化する程の重度の火傷を負っているのだ、それなら血も溢れないわけである

「店主さんは妖怪の血も混じっているのですから、この程度ならその内治るのでしょう?」
「はーっ……はーっ……知ら……はーっ……ない、よ…………はーっ……はーっ……」

醤油ちゅるちゅる改の針は、真っ赤になっていた筈がいつの間にか熱は冷め、触った所でなんの問題もない温度になっていた
咲夜が醤油ちゅるちゅる改の時間を加速させ、自然冷却させたのだ

胸に孔を穿たれ、呼吸の苦しそうな霖之助を尻目に、咲夜はテキパキと後片付けをしていく

「はーっ……やはり…………はーっ……割りに……合わないよ……はーっ…………」
「暫く経っても治りそうになかったら言ってくださいね。永遠亭への通院費と治療費は払いますので」
「そこまで……はーっ……サー……ビス……はーっ……して、くれ……はーっ……なら…………」
「あら、そんなサービスは必要ありませんか?」
「違う……はーっ…………そんな……気を、回す……はーっ…………なら、だ…………はーっ……最初から……こんな…………しない……はーっ……くれ」

一部とはいえ心臓に重度の火傷を負ったのだ
上手く動かず、酸素の巡りが足りず、少しでも酸素を身体に取り込もうと、荒く大きな呼吸で途切れ途切れになりながら、霖之助は自分の最大限の気持ちを言葉に込め声に出した

「それとこれとは話が別、です」

が、対する咲夜の返答はなんともつれないものだった

「はーっ…………まったく……勘弁……はーっ……して、くれ………………」
「店主さん……? …………なんだ、寝ただけですか」

呆れより、怒りより、悲しみより、どうしようもない疲れを感じながら、霖之助の意識は闇に沈んだ





結局霖之助が意識を取り戻したのは、咲夜がとうくにいなくなってから更に一刻程経ってからだった
その間に霊夢が訪れ倒れている霖之助を発見
わざわざ布団を敷いて、部屋まで引き摺っていって寝かせてやったのだ、と目が覚めたあとに霊夢本人から聞かされた
介抱してもらったのはありがたいが、それだけで溜まっているツケの三分の一を減らす約束を取り付けさせられてしまったのだから、霖之助としてはつくづく勘弁して欲しいものだった





さて、咲夜による襲撃から十日後
針の刺し跡も体内の火傷も全て治り、すっかり元の健康体に戻った霖之助は約束の報酬――図書室の利用許可――を受けとるために、紅魔館を訪れていた

……いたのだが

「…………僕は、図書室を利用させて貰いに来たんだがね」
「なんだ店主、まさか咲夜の作った料理が食べられないとでも言うつもりか?」

門番に己の身分と名前を言って、快く中に招かれ、妖精メイドに咲夜の下まで案内されたと思ったら、次の瞬間にはダイニングルームの椅子に座っていた
逃げられないよう胴と脚を椅子に縛り付けられると言うオマケつきで

「そうは言ってない。だが、もう貧血による立ち眩みも起きないし、食事が必須事項でない身の上としては、今は食欲よりも本を読んで知識欲を満たしたい所なんだ」
「据え膳喰わぬは男の恥じ、と言う格言があるらしいじゃない。それを承知でなお拒否するとは、お前は玉無しか?」
「その言葉は意味が違う…………と言うか、どうしてそうも咲夜の料理を食べさせようとするんだ」

こうも強硬に迫られては、霖之助としても何かあると勘繰るしかない
実際、『何か』はあるのだが

「……店主、お前は何故に妖怪には襲われないんだったか?」
「急に何を――」
「いいから、答えろ」

見た目は幼女とは言えそこは吸血鬼
大物妖怪の眼力で一睨みされれば、霖之助としては素直に相手の言うことに従うしかなかった

「……それは、僕が妖怪の血を引いてるからだろう」
「何故妖怪の血があるから襲われない?」
「それは…………」

レミリアに言われ、改めて考える
実際の所、霖之助とてまったく襲われないわけではない
過去には『成り立て』の妖獣や妖蟲に食われかけた事もあったし、相手を驚かしてその恐怖の『感情を食べる』タイプの者にも襲われ(脅かされ)た事があった
だが、自らの存在を確立する(人間に畏怖を与える)為に人間の血肉を喰らう者で、元々ヒトガタだったり妖獣でもある程度の知能がある相手からは、思えば一切襲われた事がないのだ
何故、知能のある妖怪は食人は行っても食妖をしないのか?

「妖怪にとっても同族食いは禁忌、だからか?」
「だろうな。ま、人間同士と違ってモラルがどうこうと言うよりは、身内同士で喰らいあった所で腹も満たせず不毛極まりない。だから禁止され、忌み嫌われてきたのだろうがな」

動物――特にある種の魚等――は時に親が我が子を喰らい殺す事がある
しかし人間はそれを良しとしなかった…………一部の食人文化を持つ部族を除いて、だが
人間の存在により確立されている妖怪も何らかの影響を受け、同族食いに同様の忌避感を覚えたのだろう

「それで? 結局何が言いたいんだい?」
「禁忌の味は蜜の味、と言うわけだ。妖怪混じりのお前の血を飲む、と言う禁を犯した際のあの背徳感に、すっかり魅せられてしまったのよ。お前が純粋な妖怪じゃなく、適度に人間が入っているから飲めたんだろうね」
「――まさか、また僕に血を捧げろと言うのかい?」
「まさかも何も、他に何がある? 味こそ下の下に入る程不味いが、中毒性が嫌に高い。阿片なんかの比じゃあないわ」

うっとりと虚空を認めるレミリアの目は、成る程、薬物中毒者の如く危険な光を宿していた

「そういうわけだから、お前には今のうちにたっぷりと血の気を多くしてもらわないと困るのよ」
「冗談じゃない、あんなのを二度もされるだなんて、僕はごめんだ」
「言っておくが、お前に拒否権はない。本来ならひっ拐って家畜にしてる所を、馴染みの店主と言うよしみで食事を振る舞いその代価として血を頂くことにしたんだ。感謝してもいいぞ?」
「どういう思考回路を持っていれば、そういう結論を導き出せるのだろうね」

呆れている事を隠す事なく、霖之助は吐き捨てた
だが考察時に於ける彼の思考の飛躍を知っている者からすれば、ある意味『お前が言うな』な言葉なのだった
ともかく臆面もなく軽蔑の視線を向けられては、レミリアとしても捨ててはおけない

「ほぅ…………私が精一杯の持て成しをしてやっていると言うのに、そういう態度を取るか。咲夜!」
「畏まりました、お嬢様」

レミリアが呼びつけて一秒も経たない内に、厨房で料理を作っていただろう咲夜がいきなり現れた
移動自体は時を止めている間に行えるだろうが、どうやったら分厚い壁越しのレミリアの声を聞けるのだろうか、と霖之助は疑問に思わずにいられなかった

「ちょっと待て咲夜、君は何時入ってきた。と言うか何も言われてないのに何をするのかわかっているのか」
「先に食事を済ませる予定を取り止め、店主さんに醤油ちゅるちゅる改を突き刺して無意味に傷口を掻き回すように動かし、致死量ギリギリまで採血した後最低三十分ほど丁寧に止血作業を行う、で宜しかったですか、お嬢様」
「パーフェクトよ咲夜」
「ありがたきお言葉です。じゃあ店主さん、早速ですが」

ビリビリと霖之助の服がナイフで細切れにされていく
レミリアに首を押さえられ、両手脚も封じられ、抵抗は無意味
そして掲げられる醤油ちゅるちゅる改

「早速ですがじゃないよ君達少し落ち着きいや待て僕が悪かったその事は認める認めるから謝るだからやめ――――」



―――――――――――――ッ!!!!!



合掌
どうも、潤の裏人格のんゅじです
潤のやつは霖之助さんは私のものだ! 他のやつ(女)にゃ渡さねえ! やつらは敵だ! 皆殺しだ! 等と妄言吐いてますが、私の場合はカプ厨です
私は霖之助さんとキャラの絡みを見たいんです。作者っていうか殆どオリキャラ状態の癖にでしゃばる潤は死ねばいいと思います

あ、森近霖之助総受け企画なんて言ってますが続けられるかどうかはわかりません
出来れば香霖堂原作登場組は書き上げたいところですが、妖夢の、妖夢のシチュエーションが……
んゅじ
作品情報
作品集:
11
投稿日時:
2010/02/09 16:44:11
更新日時:
2010/02/10 01:44:11
分類
霖之助
咲夜
レミリア
カフェオレ
1. 名無し ■2010/02/10 02:26:57
やっぱりカプもいける口だったか
お漏らしうふふ
さておき、妖夢の場合も主人の指示ってのが一番あり得そうですかね
世にも珍しい半妖の肉、抵抗するなら四肢を切り落としてでも
あるいは半妖の解体ショーか
2. 穀潰し ■2010/02/10 02:35:27
だが待って欲しい。
これは需用者にも『対価』を払って貰わなければ割に合わないのではないか。

というわけで、ちょっとおぜうを苛めてきます。
3. 名無し ■2010/02/10 02:41:28
ご愁傷様……
何が困るってキャラが違和感なさすぎて普通に起こりそうだから困る
4. 名無し ■2010/02/10 06:30:53
前から思ってたけど潤さんの作品って台詞がすごくそのキャラに合っている
5. 名無し ■2010/02/10 07:06:33
これ絵柄によっちゃギャグ漫画でもいけるわ・・・
6. 名無し ■2010/02/11 01:25:12
時々出てくる『醤油ちゅるちゅる改』が悉く緊張感を壊しているな
7. 名無し ■2011/02/23 12:02:30
おもらしウホッ
いつもながら素晴らしかったです
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