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『ちょっと趣味に走って麻雀もの書いてみた』 作者: nekojita

ちょっと趣味に走って麻雀もの書いてみた

作品集: 11 投稿日時: 2010/02/11 02:51:43 更新日時: 2011/02/04 23:02:46
 
 ほぼオリキャラみたいなもんです。誰に理解されるとも思っていない。

 注意・漢数字→萬子、数字に○→筒子、アラビア数字→索子を示す。












 幻想郷麻雀大会決勝五番勝負二半荘目の南2局、親は霧雨魔理沙でわずか27000点持ちだがかろうじてトップ。実際点棒状況は色々有って今ほとんど横並びであるが、一半荘目を大量リードで制して一歩リードしているのは魔理沙である。




 その魔理沙の動きが、卓上の捨て牌を見つめたまましばし止まっていた……。





 対面、魂魄妖夢の捨牌は1順目から

  北三9八東B北八 

と並ぶ。ドラの七萬が親の私に暗刻、しかも場に一枚で枯れている事を考えれば、2順目九索や八萬より早い三萬手出しは多分二萬が暗刻になったのだろう。配牌からある程度メンツ候補の決まっているタンヤオ、456か567絡みの三色の手だ。先ヅモを焦り、2順連続で力の入ったツモ切りだからおそらくはテンパイよりシャンテン。鳴いて仕掛ける気も余り無い、リーヅモを前提にしたような手。すなわち、例えば1順目の手牌が

  二二三六八67889BDF北 から、現在は

  二二二五六6788DEF の12枚に加え北と同等に優秀な安牌、絞るべき字牌の生牌、または彼女の性格からして関連牌……六索などを加えた13枚ではないだろうか……。


 下家のパチュリーは

  @北發C7四北西

 パチュリーが生牌の發を三順で強打するのはその時点では平和系の早いか高い手だったのだろう。Cが早いがそう思えば納得がいく。捨牌のバランスから混一もまず無い事だし。しかし後の北手出し、遅れて西の手出しは気味が悪い。流石に西家、妖夢の捨牌に生牌の西を絞って完全安牌の北先切りってことは無い筈。もし生牌離してタンピン聴牌としても西でなく發を止めるのが道理だろう。これは一盃口を経由して七対子になったんじゃないだろうか。今の打西が七対の単騎選択とすれば生牌のそれよりも優秀な牌と言えば何だろう。単に西単騎仮聴からタンヤオを付けただけかもしれないが……、そう欲張るなら最終形としてリーチをかけたって良さそうなものだし。たとえば、
  EEFFGG五五2299 に加えて西より優秀な不明牌単騎、この1600点で調子づいた私の親をさらっと流すつもりなのかな。


 上家の鈴仙も来ている。捨牌が

  D2D發五GH七

 これはストレートに読んだら面子オーバーのチャンタか純チャンだ。今のドラ七萬手出しは私の七萬暗刻が見えていない優曇華からしたら、チートイドラドラや平和系の大物手聴牌も考えられるパチュリーに対して相当強い筈だ。最悪なら下の三色までついた、少なくとも好形シャンテン、聴牌ならば例えば、

  白白白九九123@AB一三 といった形が考えられる。

 FGHの面子やGHの塔子は、わからないが多分無いだろう。五萬は手出しだから萬子で五七九や一三五、もしくはその両方が有った可能性が高い。すると七九九または七九九九という形からのドラ七萬切が濃厚だから、FGHHと有ればその段階でドラを使う為に九萬切りか何かを選んでいるのでは無いだろうか。いずれにせよ対面に暗刻と考えられる二萬がネックの手になっていて欲しいものだが、入っているかもしれないし一萬の重なった他の形も有るから油断はできない。


 さて親の私、霧雨魔理沙は、七対子決め打ちから8順でこの形まで持ってきた。まさかこうスムーズに来ちまうとは自分でも驚きだぜ。ギャラリーも少々どよめく。今、親でこの手を決めてしまえば完全に大気圏脱出だ。

  七七七444CH西西西中中 ツモ中

 単騎選択。それで捨牌状況を見たのである。

  対面 北三9八東B北八
  下家 @北發C7四北西
  上家 D2D發五GH七

 ちなみに私は A@69發五八B と切っている。

 ……Cはパチュリーが暗刻からの切りで無い限りほとんど確実に山二枚、チャンタにも七対にもノーマークで掴んだら出そうな絶好牌だ。対してHは対面と上家は持っていないだろうがパチュリーに二枚の可能性が有る。とにかく両方結構居そうな牌だ。重なり期待で残してきたのだから当たり前だが。
 しかしながら誰一人として筒子の上で面子を作っていないこの状況、パチュリーが西を嫌って単騎にするならば、もしも同じく生牌で危険牌の南でなければ一枚切れの九筒の他に無い。
 九筒は基本切れない訳だ。もし当たりで無かったとしても九筒は九筒でそれなりに待ち頃の牌なので……そんなに問題は無い。同聴ならどこから出ても頭ハネでこっちが和了れるわけだし……。



 ……小考して、魔理沙は四筒を切った。


 同順、南家パチュリーは白を平然とツモ切り、これに鳴きは入らなかった。西家妖夢が四筒を親に合わせるようにツモ切った時、魔理沙は手牌を見て少し笑ったように見えた……。優曇華院もツモ切った。魔理沙も倣うようにツモ切りの連続に入る。
 場が動いたのは3順後、妖夢が引いてきた二萬を使って迷わず暗槓した時であった。残り10枚はだいたい魔理沙の読み通りに

  56678五六DEF 、七萬枯れを察知せぬ彼女にとって最高でタンヤオ三色、この横並びでは決め手になりうる手のイーシャンテンであった。槓ドラの表示牌には六索がいた。乗って好調である。しかしリンシャンから引いてきた牌を見て彼女の心は凍った。

 かみ合わぬ一萬である。チャンタにも七対子にも通せない。というか彼女の視点から、実際チャンタには怖すぎる牌である。二萬の壁が出来て、不自然に出ない。他家のカン二萬に使われているのかもしれないが……。行くと決めたら具体的警戒にきりの無い七対子と違って、チャンタには手を止めてでも対応する価値が有ると彼女は考えていた。少なくとも、この自分で四枚壁を作ってしまった不自然な一萬をたたっ切れるのは誰かが出すか、またはしっかり聴牌してからだ。九索の見えていない状態の八索も通せる牌ではない。五索を切って三色を断念すれば、これはほとんど彼女の脱落を意味していた。
 二萬消滅を受けてか優曇華院の手からは生牌の南が打ち出された。これは一見強いが、その実七対子へ移行の構えである。ノータイムの二萬カンは万が一には暗刻手で一萬釣り出しも有る。そもそもカン二萬が消えて既に勝負手ではない。今更一萬や三萬が切れるべくもないから、これらが重ならない限り復活は無いのだ。彼女の手牌はほとんど魔理沙の予想の通り、

  南南南九九123@AB一三 であって、ここに今二索を引いて南を切ったのである。とはいえこれを見て他家は回ったのかそれとも張ったのかと気を巡らせた。


 次に事が起こったのは次順であった。

 パチュリーはリーチを考えた。勿論七対子が槓裏次第で跳満にまで軽く化ける事を考えてである。引いてきたのが南。普通ならダブ南はリーチ時単騎の候補にしない牌だが、もし優曇華がベタ降りならば、下手をするとこれは一発で出るかも、と。
そして元の単騎牌、出そうな牌である。出そうだし山に居そうと考えた牌。親の魔理沙の捨て牌を見るに1、2枚持っているかもしれないが、それでもいつ溢れたっておかしくない形の筈。しかしこれがなかなか出ないことから、既に止められた可能性を彼女は考慮していた。特に今の妖夢の打五索は少し変な感じだ。切れぬ牌を止めた様子が有る……。逡巡……。

「リーチ」

 切った牌は、南であった。
 ツモ切りリーチ。
 ジュンチャンは、生牌切っての聴牌かもしれぬ。今通ったという守備的な意味も確かに有った。それよりパチュリーは、自分の最初の直感……この手の和了りがもとの単騎牌に有る事を、信じようとしたのだ。もし止められたので有れば、それも惜しく無い。この場況。表ドラが一枚も乗らぬただの七対子で決め手になりうる手を潰す事が出来る。
 強烈なリーチであった。対する魔理沙は自らのゴージャスな手牌の向こうに、投げだされた千点棒を冷ややかな目つきで見降ろした。既に残り2人は退場したも同じ。結果、ここで出あがりそれぞれ3200点と48000点、奇しくもちょうど15倍の点数差で、しかしながら対等な、正々堂々めくり合いの勝負が今はじまったのだ。



 妖夢がリーチに対して手詰まりとなり血の出るような思いで安牌を探した場面や南の連打で降りた優曇華院を見てパチュリーが悲しげな気持ちになった場面は割愛する。
 魔理沙は考えていた。この九筒はパチュリーに一枚なのか二枚なのか。むしろたたっ切っちまった方が……。





  @北發C7四北西

 その後は皆ツモ切りである。ここまでで聴牌形は決まっていた。魔理沙は捨牌に注目し、更に詳しい手牌読みを重ねていた。
 まず配牌に筒子の下は無かった筈である。北西手出しは、

  ツモ ?↓??西北??
  捨牌 @北發C7四北西

などが示唆される。つまり七対子に決めたのは4順目の四筒切りか5順目の七索切りのあたりだ。五筒が既に2枚見えていた以上、5順目の七索切りにおいて、というのが濃厚ではないか。三枚目の五筒は妖夢の手の中に有る筈だからパチュリーは1枚も持っていないだろう。パチュリーはくっつき期待なんかで生牌を中張牌を残して先に切ったりしない打ち手だ。ましてや親が第一打二筒、子の一人が五筒とすればなおさらの事。筒子の下が無いのに生牌の發を外して四筒を残した理由を考えると、この順のツモでCEEFかCEFF、CEEFFの形でもできたのではないか。
 七対子に決めたなら重なりそうなCは寧ろ打たない筈だし、どうやらCEFFで頭が他にできた形が有力。いずれにせよ六筒と七筒は今対子になっていそうだ。そしてこの時九筒は持っていなかっただろう。既に対子になっていた可能性を除くならば……。
 9順目に白ノータイムツモ切りが有ったが逡巡すらしなかった様子を見ると、また、今の所特にリーチに対しては安牌で、2人が苦労しながら降りているのにまだどこからも出てこない様子を見るとパチュリーの手の中に対子と考えてまず間違いないだろう。
 七索は四索の絡みを意味するだろうか。私に暗刻の四索を持って七対子リーチは有りえないから持っていない。ならば索子の形で残ったのは5566だろう。四萬もくっつき期待とは考え辛い。上側に伸びていれば三色ができるから四筒外しが早すぎる気がする。十中八九、隣で対子になったのは三萬だ。

  三三5566EEFF白白 プラス不明牌単騎。

 対子場でよくある七対子聴牌の形。捨牌と合わせれば三三四55667@CEEFF西北北白白發だから、配牌は

  三四5667@CEEF發白 といったところか。

  ツモ5↓三F西北白?
  捨牌@北發C7四北西

とまさにこうだろう。七対への切り替えも説明が付く。振聴北待ち聴牌を取った筈は無いから北切りで聴牌だろう。九筒は対子ではない。きっと同聴だろう。同聴でなければ山に2枚だ。何ら不利な勝負ではない。

 ここまでの計算を数秒でして、魔理沙は賢明にもこの九筒単騎に賭ける決意をした。





 やがて流局間近の15順目。牌がバチンと小気味良い音を立てて卓の縁に叩きつけられ……。

「ツモ」

 13枚の牌が遅れて倒された。

  西中H西西44七中七4七中 H

「16000オール」

 和了り形を睨んで伏せたパチュリーの手牌は、確かに

  三三5566EEFFH白白

であった。


 この大物手を首尾よく制した魔理沙に、流れが来ない筈が無い。
 一回戦に続けてこの半荘もものにしたばかりか、ついに五タテ一着で優勝。賞金300両……現在の貨幣価値に換算しておよそ300万円を手にしたのであった。








 麻雀とは古くから有る運と知能のゲームであって、明らかに妖怪と人間が対等に戦う事が出来る競技だ。最近では幻想郷に麻雀ブームが巻き起こり、麻雀は弾幕勝負に次いでポピュラーな、最新の決闘法になっていたのである。

「そして開かれた幻想郷全土麻雀大会第一回優勝者の私に」

 優勝賞金の入った大きな袋を担いで凱旋中の魔理沙は、背後に開いた隙間の気配に振り向いた。

「何の用事だ紫。サインでも貰いに来たのか」
「ふふ。そうやって天狗になっているんじゃないかと思って見に来たのよ。まずは……優勝おめでとう。でも幻想郷で本当に強い打ち手は、あんな大会になんか出ないわ」
「何ッ!?」

 憤慨する魔理沙に紫は左手の人差し指を立てた。

「幻想郷の強者たちは独自にレートやレベルの高い場を持っている。それでなくとも、例えば博麗霊夢」
「霊夢? 霊夢とはたまに打つけどいつも勝ってる。私の山読み手牌読み、そして豪運をなめるんじゃないぜ。しかもあいつは大会にも出てこなかった」
「あの子はノーレートや、いつものお遊びのレートで本気を出す程狭量じゃあない」

 遠い目をして言う。

「霊夢が本気でも勝てる。私はチャンピオンだぜ」
「ふうん、……カラの賽銭箱をひきづって人里の鉄火場に行き、一晩で満タンにして帰って来た、あの鬼巫女霊夢に一体あなたがどうやって勝てるのか……」
「……」

 魔理沙は半信半疑というか、どこか憮然とした顔である。そんな伝説じみた武勇伝と、私の優勝を一緒にするなとでも言いたげな……。

「だったら今晩、賞金全額持って博麗神社までいらっしゃい。霊夢には話をつけるし、面子も私が集めておいてあげるわ」






 そして夜



 霧雨魔理沙後に述懐す。霊夢が大会に出なかったのは……


「ようこそ、こんばんは魔理沙。博麗神社ルールを確認するわ。赤無し裏・一発有り槓ドラ槓裏有りのアリアリ25000点持ちの30000返し、トップオカ20000点でウマは無し。一着しか浮かない。トビ有りだから勿論和了りやめ有り。ダブロン制。三家和は流局。あとローカル役満だけど、四連刻、大車輪、百万石、紅孔雀、十三不塔を認めているわ。オープンリーチへの振り込みも役満払い。紅一点は無し。あと人和は跳満。チョンボのルールが少し特殊で、親、子に関わらず他の全員に4000点ずつ支払うと決めているわ。レートは……」
「今手持ちは300両だぜ」
「じゃあ点10両(現在の貨幣価値に換算して1000点10万円のデカデカデカピン)にしましょうか。トビでちょうど賞金が全額溶ける。箱下なら致命傷」
「ちょっと待て。そんだけ大金かけて1半荘勝負かよ」
「これから私たちがするのは、大会のような勝負というよりは博打だから」
 手積み卓の用意をしながら、霊夢は続けるのだった。
「いえ、博打というよりは狩りかもしれないわね」

 ……霊夢が大会に出なかったのは、調子に乗った優勝者からむしるのが一番早いからだ。







 数合わせ兼見物で入る残り2人は八雲紫と八雲藍。東一局の起家は魔理沙、上下にそれぞれ紫、藍。対面が直接の対戦相手と言える博麗霊夢。親の魔理沙には東一局から好手が入った。

  一二三四六七八AAEFG6 ドラは七萬。わずか7順目このイーシャンテンに引いて来た牌が何と七索。絶好の聴牌だ。

 ダマでも高目親満。しかしここはお手並み拝見の一萬切り先制リーチ! 出和了り確定11600、外スジの高目でインパチ一発や裏の乗り様によっては下手すりゃ一撃必殺。ナイス。どうやらまだあのスッタンツモの豪運が生きているようだぜ。



 この時魔理沙の捨牌

  9東西12H一(リーチ)

 とてもじゃないが待ちを読み切れないだろうとも考えてのリーチであった。

 さて同順霊夢の手牌、

  二四六BDEFF56發發發 に五索を引いた所。發は暗刻だがドラは無し、いかにも纏まりに欠ける手だ。


(まだまだ手ができていない所に親の先制リーチ。どうしたものかな……)

 美しい白い指が伸びる。伸びて右からなぞって行って、やはり發を切るかと思わせておいて実際に手をかけたのはなんと556とある索子の部分だった。

  一A西2九中 と並んだ捨牌に次に差し出されたのは六索。場の空気が凍る。魔理沙の顔も険しくなる。当たりでは無く確かに入り目ですら無いが片筋とはいえ親リーの一発目にポンと切る牌では無い。しかも東1。そんなに安牌が無いのかそんなに勝負手なのか。
 普段の霊夢なら絶対に打たない牌に、本気になって超攻撃的麻雀炸裂かと慄いた魔理沙であったが、同順密かに、霊夢の引いた五索の真下に有った一萬を引いてこれまた聴牌を入れたのが紫であった。

 二二三三四3457888北 のイーシャンテンに一萬引き。六七九索聴牌だが七は役が無い。霊夢は先切りでこの聴牌への放銃を免れたと言えるのだろうか……。
 当然、場には一枚しか出ていないけれど明らかにタンピン形捨て牌の魔理沙に対してはほぼ安牌となる北を切り聴牌取り。勝負できるような手ではないし今六索が打たれたばかり、ツモれそうにないからダマ。一順限りの聴牌となっても惜しまぬ覚悟である。
 魔理沙が一発目の牌を引きながらまず考えたのが、いくら霊夢でもそんなに鋭い勘麻雀が有りえるのかという疑問である。次に考えたのが、どうせここで五・八索を引いてしまえば……という希望であった。
 しかし引いたのは二索。お前じゃねえんだよ。一発ならず。しかし霊夢がもし片筋でも 追うので有れば、五索の呼び水とならなくもない二索である。いや、そんな期待はするまい。
 対して霊夢。切ったのは二萬。これも現物ではない。リーチ宣言牌の裏筋である。更に手出しで続々と三筒、四萬と好き勝手な危険牌の乱打。あんなところを連続で手出しとは、例え大物手としても何シャンテンから押しているんだ? と魔理沙はいぶかる。
 未だに五・八索は引けず、しかも引いたのが霊夢に安牌でない四筒。上がりでないから当然切る。

「ロン。ザンニ。」

 役満!? まさかスッタンか! そんな馬鹿なことが! と驚いた魔理沙。發發發七筒七筒七筒五索五索と見えていく牌姿…。


  五六七DEFFF55發發發 Cロン 3200点


 点棒を払う魔理沙。安い出費だほっとした。そんな手で押すのか。色々よぎるがやがてある重大な事実にはっとする。五・八索待ちはもしや一点で読み切られたのではないか!?
 まず親リーに対し、回るにはもってこいの安牌發一枚落としの手順が有ったのにあの打牌は改めて不気味すぎる。しかも明らかに、あの六索を残していれば三色になった手である。その和了りの為には当たり牌、五索を切らなければならないが……。
 勝負なら、なぜ変則三面でリーチもかけない。まさか高目八索引きを恐れたとでもいうのか。霊夢の捨牌は

  一A西2九中6二B四北

 三色を捨ててまで五索を抑え、なおかつ最短距離の和了り。私のリーチに五・八索一点読みなんて可能なのか!? いや、絶対無理だ。つまり霊夢には何か……捨て牌読みと違う、例えば理牌読みやガン牌、通しなどの技術が有る筈。それはどのようなものか。
 紫の話を鵜呑みにする訳ではないが、人里の雀荘で使えるならばガンや通しではまずない筈。通しはともかく、ガン牌の有りそうな和了りでもないが……。

「ちょっと、用事を思い出した。すぐに戻るぜ」
「人里に、新しい牌でも買いに行くのかしら」
「まあそんな所だぜ。ま、幻想郷もと最速だ。待たせはしない」


 10分間程のインターバルを置き、牌の総取り替えがなされて東二局の配牌が開始された。親は八雲藍である。

(ふふ、馬鹿ね魔理沙。私がガン牌なんて、つまらない方法で勝って嬉しがると思う?)
(例えば、切り出し位置から手の中を透かしているのかもしれない。けして油断はできない。次局は理牌せずに打ってみよう)

 それにしても、魔理沙ならば私の「技術」を一局で見抜いてきてもおかしくはないと思ったのだけれど、まだそこまでは達していないようね。
 捨牌は末節に過ぎない。理牌や盲牌などの癖、さらに手や指の動き、のみならず視線移動、ツモ切りのタイミングや声のトーンに至る迄、これらを注意深く観察して、ほんの少しの「勘」を働かせれば……、

 手牌13枚とツモ牌1枚くらいは簡単に透ける。博麗霊夢必殺の「完全一点読み」に死角は無い。

(これで手牌を看破されない人妖は、この幻想郷には存在しないわ。さて、「普通の魔法使い」霧雨魔理沙は、この私を破る事ができるのかしら……?)


 配牌が終わると共に霊夢はまず魔理沙の目を見る。理牌はしないようである。警戒の為だろう。そのくらいはしてもらわねば張り合いが無くて困る。とはいえ……と霊夢は考える。既に手牌を読みはじめているのだ。その目線、対子2つのリャンシャンテン。索子面子が一つ完成、狙える手役は一気通貫……か?
 その配牌、

  七41西5A六86A9西九

ではないか?

 霊夢は考え始める。魔理沙の配牌は

  七41西5A六86A9西九

で間違いない。理牌をしていなければ余計に、彼女自身の送っているサインではっきりとわかるようになる。当然確認し続けるので絶対に振り込まない。危険牌も先切りできる。しかもこの技術は、防御だけに使うのでは決してない。

 霊夢の配牌は、

  二二三三四四五12CEEG

 これに引いてきた第一ツモが西。平和一盃口ドラ八筒1でも良さそうな手だけれども……。下家、紫の配牌にドラ表の七筒暗刻が透ける。しかもドラの八筒を私以外誰も持っていない。だから七対ドラドラ決め打ちなので、西の次に山に薄い四筒を第一打に切るのだ。

 やがて8順目に二筒切りリーチ。こうやって無駄の無い手作りで素早く聴牌できるし……。

 この時、魔理沙から霊夢の捨て牌を見れば

  C21南白@五A(リーチ)

 チャンタにも染めにも到底見えない。変則待ちか七対子が第一本線には違いないが、配牌から中張牌だらけの速いタンピンかも……。
 魔理沙とて
  12345689AA六七西 の手牌に五萬を引いた勝負手である。一発で西が切れぬとすれば頭の二筒で回る事はできる。しかし西は既に場に2枚切れ。8順目リーチに地獄待ちを恐れて勝負を避けていては……。

「追いリーだ!」
「ロン。一発は跳満」

  西二二三三四四77EEGG

「裏表示牌は一筒。倍満にはならず、よ。12000」

 ……七対子は必ず、溢れ牌で待てる。

(八順目にタンヤオを捨てて西地獄待ちリーチ! 西余りを完全に見抜かれた形。くそう、対子落としの選択に西を選んだのが間違いだったか。どうせタンヤオはつかないんだから二筒を落としていれば、いや……)
(……落としたのが二筒だったら二筒単騎で一発撃ちとり、裏まで乗って9本、1本余しオーバーキルの倍満イチロクでほとんど勝負は決まっていたわ。指運で裏ドラの二筒を残した事こそ魔理沙、あなたにまだ運が残っているという事。やはり湧き出てくるような豪運は確かに有る。これが天性のもの、持続的なものであれ、ただ大会優勝の余勢といえるようなものであれ、いずれにせよ要警戒ね)

 魔理沙は戦慄していた。方法はわからないが、ほとんど牌が素通しで打てているとしか思えない。なぜなら先ほどの局、西を対子から1枚外したのは生牌の發を切るより前であった。普通には対子から切って安牌1枚残しとは到底看破しきれない筈。見えるならそうと承知して打つしかない。

 東三局、親は霊夢、賽の目は4・3の7でドラ表は中、即ちドラは白であった。この11順目、親霊夢がドラ表に続いて2枚目の中を強打する。

 この時魔理沙の手牌、八萬をチーして萬子789を曝していて、

  四五五六七七白白中中

 鳴いたら混一役ドラドラ、満貫の聴牌である。しかし疑問を抱く。あれほどの手牌読みを2度連続で見せた博麗霊夢である。鳴いたならばどうやったって最終的には余る四・七萬で聴牌をしているのでもなければ、中など切ってこちらに満貫の聴牌を入れさせる訳が無い。
 霊夢の捨牌は

  一北AC西西六九F二中 と来ている。無い待ちでは無い。親ならばダマでも高い手が有る。これ以上点を減らす訳には……。

 この中は鳴けない。中は対子を落としてみよう。

  四五五六七七白白中中
  四五五六七七白白中中 F
  四五五六七七白白中F F
  四五五六七七白白FF 六

 この六萬引き。打四・七萬で片和了り白ドラ3の聴牌復活だが霊夢は相変わらずツモ切り連打で萬子待ち、当然切れない。
 現物の七筒切ってしぶとく混一……。

「ロン」


「えっ!?」


  西西123@AB一二三DE

 2人の勝負に割り込んで声を上げたのは藍であった。

「ロン3900。萬子やドラを止める為にダマにしていたが、出たのを見逃す訳にはいくまい」

 く、霊夢を意識しすぎた。余りに終盤、こうも煮詰まった状態で切れる牌では無かっただろう。オリが正解だったのか。
 いや中ポンから霊夢に現物の六萬あたりを切っていれば。七筒を霊夢に押しつけて迂回させ、その間にこちらが四・七萬を処理し、復活できていた可能性も……。


 次局、早くも東四で親は紫である。ドラは東。三順目に北家霊夢からリーチがかかった。

  D六@(リーチ)


 この時魔理沙の手牌
  9@ABCDDE一三三三六 リーチ一発目に引いたのが七萬。
 比較的好形だが厳しい。何故なら霊夢が浮き牌狙いのリーチなら、壁の有る一萬や孤立牌の九索はけして切れないからだ。いずれどちらかは勝負しなければならないとしても、それは聴牌した時にでもするべきであって、今ではない。現物が有る内は徹底して現物だ。
 魔理沙は五筒を切った。現物だ。何しろ五筒のあとに一筒、早いとはいえいかにも高い役が有りそうだ。振ったら飛んで終了かもしれない。さすがに大きいのをツモられても自分は子、飛ぶ事はまず無い。次局があるんだ次局が……。待っていれば他家や霊夢の切りで安牌が増えるだろう。それからだ勝負は……。

 七順目、
  9@ABCDE一三三三六七 の形をキープしていた魔理沙が七萬を引いた。
 本当なら七萬ツモ切りか九索、一萬を切っていきたいところだがいずれもまだリーチに危ない。次善の策として六萬を切る。

 するとまたもや脇から「ロン」の声。

「タンヤオチートイ親につき4800」

 紫の牌姿は
  AABB5577二二GG六 六萬ロン。魔理沙はうろたえる。紫は通っていた牌ばかり切っていた筈。聴牌が入っていたなどとは……。
 2局連続、霊夢の現物を切って脇に振った。まさか霊夢の思惑通りなのか……?


 霊夢は心の中で独白する。麻雀というゲームは、相手の手牌が全てわかっても、全局狙い打てる聴牌がこちらに来る、という訳ではない。だから普通常勝とはいかない。ツいてる相手を止められず終わる事も当然有る筈だ。だから半荘一回なんて短期戦より、確実に勝つなら10回くらいの勝負、これをなるべく能力を悟られないようにこなすのが戦略としては正しい。しかし常勝を導くすべも、確かに有る。
 半荘一回勝負で確実に勝つには、能力を強調、抑え付けてしまうことだ。序盤に目立つ和了りや危険牌の連打をすれば、リードした中盤は何も考えず即リー。相手が考え過ぎて自滅すれば逆転は無いし、変な根拠で手を回せばすぐに流れも失われる。
 特に今のように親が配牌で七対子のイーシャンテンだったような場合は……

  AABB5577二二@六D

その孤立牌、@六Dと適当な順序でバラ打ちしてしまっての、ノーテンリーチでも構わない。
 霊夢は、手牌、

  12348CE四八九北東西 を大変惜しそうに見つめて、ぱたんと伏せ、がしゃりと崩した。

 霊夢には確信している事が有る。敵でなければ魔理沙にも教えてやりたいほどに。すなわち勝利とは危険を冒さない事では無い。危険を冒して獲得するのが勝利なのだ。それがわからないうちは私の技術なんか関係なく、魔理沙、あなたに勝機は無い。いやもし今ザラわかった所で……、この点差ではどうしようも無いわね。私はリーチをかけない限りは、誰にも振り込まないのだし。

 霊夢  39200点
 魔理沙 残り100点

 のこり100点。誰にツモられても、不聴罰符でもトビ終了。こんな筈では……。私はこんなに麻雀が弱かったのか……!?

 しかし一つ、わかった事が有る。
 霊夢の技術に対抗するには、どんどん鳴いてでも早く勝負をつけるべきだ。ましてリーチももうできない、この親が流されてはもうおしまい、絶対に和了らないといけない。霊夢に狙い打てる聴牌が入る前に聴牌し、足止めし、できればツモ和了る。いかに霊夢とはいえ、ツモだけはどうしようもないのだから。

 東四局一本場 親は引き続き紫、賽の目は4の重なりで8。ドラは八筒。この八筒を三順目に魔理沙は親の紫からポンして二索を切る。

(ドラの八筒ポン、打二索で手牌はタンヤオチンイツドラ3への渡りまである

  AAABCCE3五六

 四連続振り込みでもしつこくそんな手が入るなんて、どれだけ太い天運をもっているのかしら)

 次順には紫から都合よく四萬が出た。惜しい所では有るがぐずぐずしてはいられない。タンヤオドラ3のチーテンなら取らぬ手は無いと鳴き、カン五筒テンパイに受ける。
 更に次順三筒が出る。これもチーして残ったのは

  AABC

 4センチだが両面待ち、中張牌であれば何であれ単騎は変更できる融通の利く形だ。魔理沙にしてみれば実際の戦略では、霊夢の現物を引いて単騎にし、足を止めつつツモ和了るのが厳しいが現実的。それ以前に紫から出てしまいそうですらあるが……。

 さて霊夢の方には、魔理沙の鳴きで食い流されてきたのかどうなのか、これはまたずっと面白い、否、この場況を考えればこれ以上無い程の手が完成してきていた。紫がメンチン一通親倍の今イーシャンテン、これに振らせるのが面白いかなと考えていたが状況が愉快なまでに変わってしまい、笑いすらこみ上げてくる。

「入らない局をやり過ごしたら、まったく、入る局には入るものね」
「何ッ!?」
「リーチ!」

 言いながら手牌を前に倒す。

「オープン、と、そういう意味で言ったのよ」

 倒された牌は、@@@ABCDEEE。手牌の一部、待ちになる部分。オープンリーチとは馬鹿めと侮った魔理沙もこれには戦慄する。
 い、1234567筒待ち! こちらの手牌は2234筒! そんな都合の良い事が……!

(待て、私の2・5筒待ちはオープンにも当たるから、他家から出る事は絶対に無くなった。それどころかもし、13467の筒子を引いたら……!?)

「オープンリーチへの振り込みは、魔理沙、役満払いよ」
「……」
「仮に何かの間違いで振ったとして、360両(現在の貨幣価値に換算しておよそ360万円)程足りない計算ね。これはもう、神社で奴隷生活でもしてもらおうかしら。それとも馬車馬のように働いて一生利子分を払い続けてくれるのかしら。私も随分楽になるわ」
(こ、こんな事が私の身にばかり……)

  1224556788899 F

 紫は一発目にオープンの当たり牌を引き足止めを食らう。当然の打一索。

(ふふ、いいわ霊夢。それで決めちゃいなさいよ)

「魔理沙の番よ。その一索で当たる事ができないなら、ツモりなさい」
「わ、わかってる……」
(こんな勝負受けなきゃ良かった。賞金以上に飛ぶかもしれないなんて。た、頼むから引くな、筒子……!)

 しかしながら願いと裏腹に指に触れた牌の彫りは浅いのであった。

(ぴ、筒子……)

 引いた牌を見て魔理沙は一瞬の思考停止に陥った。
 八筒である。八筒!?
 八筒はツモ切っても対面に当たりではないが……。そうだ鳴いていた。ドラだ。加槓ができる。するのか!? まさか!?

 冷静に考えろ。
 1234567筒はそれぞれあと何枚ずつだ? 場に出ているのと副露、オープンリーチを見れば……。
 一筒 1枚
 二筒 0枚
 三筒 2枚
 四筒 1枚
 五筒 2枚
 六筒 0枚
 七筒 4枚
 考えるまでも無い。当たり牌の方がずっと多い。無駄に傷が深くなるだけかもしれない。振れば32000なんだ。320両なんだ。無駄にツモを増やすのは。しかしツモられるのを待つよりは……。

 いや待て。紫の打一索は何だ。ドラポンした私にもこれだけ鳴かせる程の牌の寄り。あれが親のメンチン聴牌ならば、黙っていれば霊夢が勝手に振ってくれる可能性すら……。ばかな。そんなの。そんなのって……。






 そんなの撤退の言いわけを作っているだけじゃないか……!








 否、だ、霧雨魔理沙。
 その撤退にビジョンは有るのか。勝利に至る道は、もっと極論すれば、摸打という行為自体が、いつだって、最大限に危険なものじゃあないのか。

 この嶺上で引き和了る。

「槓」

 一回余分に引くんだ。決まれよっ!

 また筒子……四筒か五筒か……



 四筒か……五………



 親指の向う、牌のド真ん中に五つ目の花が確かに見えた。オーバーアクションに振りかざされた右手によって、牌は力強く卓に叩きつけられた。

「嶺上開花自摸! 3100・6100!」




 ……藍が一枚持っているから、あの五筒はラスト一枚。二筒は枯れているから、最後の和了り牌を嶺上から引いて来た事になるわね。なんという悪運。実に魔理沙らしいわ。とはいえ最大級の危険を冒した槓で引きいれた和了り。せっかくいくらか揺さぶった流れが、またもとに……。今の槓が無ければ私が一発目に……西を引いて、

 霊夢は一発目の自摸に当たる牌を自然な動作で山から持ってくると、愛おしそうに撫でた。
 霊夢の手牌、待ちになっておらず倒されていない3枚はオタ風西の暗刻であった。
 ……当然槓、嶺上からあの五筒を引いて……
 見た裏ドラ表示牌には最後の四筒。
 出来すぎた三倍満ツモだったものを。






 南入である。点数状況は霊夢37100点、紫が24700点、藍25800点、魔理沙は12400点。南一の親は魔理沙。この親で挽回すればまだまだ戦える。この局の課題は魔理沙にしてみれば和了る事。霊夢にしてみれば、魔理沙に和了らせない事。
 10順目、捨牌で言うと二列目の真ん中あたりで、魔理沙がドラ南を切ってリーチをかけた。發を魔理沙からポンした霊夢に恐れずドラをも打ったのである。この時霊夢の手牌は

  二三四四五九九九白南 (發發發)

 あわよくば狙い撃ちと思ったが間に合わなければ無意味……。

 魔理沙の捨て牌は

  一H東中西東二DB南(リーチ)

(だが余り舐めるな。読み切っているんだ)

 霊夢が掴まされたのは四索。

(ツモ切りだ。前に出る。他家と、次局以降の魔理沙の手に圧をかける!)
「悪いね一発ツモ」

 霊夢の思惑もむなしく、もはや流れは止められそうには……。

  2245六六七七八八@AB 3ツモ

「裏ドラ六萬二丁。一本足らずの6000オール」


 南一局一本場 ドラは五筒

 霊夢は、まだ点数では負けていないとはいえ、この状況の危険さを肌で感じ取っていた。
(二連続で跳満のツモられ。普段から、魔理沙は乗せると止まらなくなる。私の配牌ではとても勝負にならない……!)

  三五八489@DH東南西白

 そして他家の配牌も確認する。幸いな事に藍が、

  二三三四5678CDGG西

とやたらとスピードの有るタンピンの手である。霊夢の取る戦略は……。



  五4三西(リーチ)

と爆速の変則リーチ。ノーテンでも構わないのだ! 親だから前に出ると決めていたとしても全て手出しなればこの異様な捨牌は無視できまい。魔理沙の手牌は

  三四五六八九349FG白發

なれば、育ちそうだが浮き牌をガンガン切り飛ばせなければ死に体の手。現物はほとんど面子の真ん中にしか無い。一方で藍の不要になりそうな牌はリーチの現物にしてある。この局和了るのは藍だ! リードは、流石に守るものでなく広げるものだとは言わないが、それでも、守る時は攻撃的に守るべきものである。

 魔理沙は一発目に三萬切り。現物打ちで一通が消えたのを見て取り、腹の中でほくそ笑む霊夢。そのまま降りてろ!
 次も切ったのは萬子である。指で隠れているが萬の字は見えている。これは五萬で完全に降りたか? それとも九萬くらいは勝負してきたか?
 ところが指が離れて見えたのは四萬。通っていない牌だが突っ張るにしてもおかしな所だ。第一に面子が崩れている。その後五萬六萬とつるべ打ち。何か根拠が有って萬子は無いと判断したのだろうか。

(狙い撃ちにしても、他家に振らせたいにしても、こんな面子の構成牌は一番安全な筈だ。孤立牌を使いきるとするとこの辺の面子は少々邪魔だしな)

 この動きを見た藍の手にはプレッシャーがかかる。
  二三四55678CDEGG の聴牌に引いて来たのが東である。タンヤオドラ1を張っていたが、親の動向が不気味なのだ。字牌が高いし、南場とはいえ東はかなり切りづらい。ここは振り合って降りてもらう事にしよう。3面張かせめて両面になれば勝負も有りかもしれないが。と、現物になっていた五索を一枚外した。

 さて、10順目に紫が生牌の發を手出しする。この時に魔理沙の手はなんと

  七八九FGH79發發白白北

である。
 魔理沙このチャンタ三色發聴牌のポン聴をスルー。好調を自覚し、淀みなく手は伸ばそうとした結果である。すると同順に引いたのがなんと八索。なんと良い引き。この手は成るこの手は成る、と確信しつつ、問題なのはここでリーチと行くかどうか、である。紫の發がもしも勝負というよりは安牌に困っての対子落としなら……というかほとんど確実にそうだと思われるのだが、ならばダマにすれば親満を拾える。ここは当然……いや。
 この局面紫から親満を和了る事より、霊夢との勝負という一面を見るならば……。直撃かツモ狙い。いかに霊夢とはいえ、そうだ霊夢は手牌が読めても、その支配は山には決して及ばない。だから避けるのだ。ツモりあいの勝負を。めくり合いが怖いのだ! だったらこっちは……。

「霊夢、おっかけのオープンは?」
「……認めていないわ」

 苦々しい顔で返答する。

「そうか、残念だな」

 ここはむしろ、紫を止める。

「リーチ」

 と、卓上をスライドするような格好で宣言牌は横向きにかしゃと捨牌の列に並んだ。

 同順、紫は手出し一索。どうやら降りたらしい。降りた。藍も紫も降りた! 私はノーテンリーチ。いかに待ちが山に残り一枚の白だけとはいえ、この局和了る資格が有るのは既にもう魔理沙一人だけ!

(どうしてこんなことに!)

 三順後、ツモ山に伸びた魔理沙の腕は直線的に引き寄せられた。

「ツモ。裏乗らず。跳満」


 南一局、二本場。ドラは九萬。
 九順目。魔理沙に相変わらず手が入っているのを霊夢は見て取る。しかし

  @@@BBDD二三三四七七 

に七萬を引いて四萬切りとは疑問だ。ツモり三暗でリーチをかけないのか。そしたら私が適当なタイミングに三筒を差し込んで勢いを殺してやれたのに。一旦掴んだ流れを離さない為に、手が来ている間はどこまででも行くという事か。天性の流れを持っている上に、流れと言う物の扱いまで心得ているとなれば、そりゃあ普通に打って普通にツモっていれば普通に捲れるし勝てるでしょうよ。いやらしい事だ。
 同順霊夢の切り番。

  BCD13579二九九東東 ツモ中

ドラは2枚有っても先ほどから無駄ヅモばかり。余計な情報に惑わされて手を曲げてしまっていただろうか。ツキを失ってしまっただろうか。何にせよ今更追いつけるような手ではない。今三筒か五筒を切れば魔理沙は鳴いて聴牌を取るだろうか。試す価値は無いでは無いが、しかしながら試せない理由というものも確かに有った。だって三筒五筒を置いておかなければもし万が一……。
 切ったのはストレートに九索。

 魔理沙は軽々と、次順ラス五筒を手に入れた。ツモり三暗としても一発ツモで和了っていたことになる。無論打二萬。ダマにするつもりのようだ。
 そうだこの聴牌。ツモり四暗刻聴牌でしかも和了りが濃厚なのである。何故なら、三筒と三萬は私が一枚三筒を持っているだけで、山には3枚有る。山に3枚寝ている牌を、今の魔理沙が100枚は居る勢いで引いてこない訳が無い。
 今12000は確かに痛いけれども、親の役満ツモなんかもっと冗談にもならない。差し込まない手は無かった。意を決して三筒を面子からの抜き打ち。ロンの発声を覚悟して魔理沙を見れば微動だにせず。紫の手が眼前を横切って牌山に伸びて、魔理沙との距離が開いた頃にはまさか読み間違えたのかと、今能力を完成させて初めて訪れた。霊夢が自分の読みを少しでも疑った瞬間が。


「そんなの運が良いだけよ!」
「確かにそうかも。だが運が良い悪いって事こそ……、博打ってやつの本質だと、私は思っているんだけれどな」

 魔理沙は引いて来たその牌を、ろくに見もせずにことりと卓に置いた。

「それにそれだけって訳じゃあないぜ。お前がわざわざそれを切るって事自体、つまりは私がこの牌を引けるっていう意味じゃあないか」

 引いたのは三萬。

「この流れを手放すのは惜しいが」

 16200オール。

「2人トビが出るから、終了だな」


 霊夢 7800点
 紫 △3600点
 藍 △2500点

「高い見物料になったけど、払う価値は有ったわね」
「紫様、これ私の分は持っていただけるんですよね?」
「え?」
「紫様?」
「紫ぃー、当然私の分も出してくれるわよね」
「そんな訳無いでしょ」
「は、破産よ!」
「霧雨魔法店の従業員にしてやるぜ」

魔理沙 98800点

「この豪運、今日だけのものなんかじゃあ決してない筈。何故ならあなたはそれを操るすべさえ確かに身につけているから」
「そいつは光栄だな」
「幻想郷の強者たちはそれぞれ独自に高い場を持ってる。紹介してあげる事もできるでしょう。ふふ、それで、もしも誰にも負けなかったら」

 紫は優しいが怪しげな笑みを浮かべて言うのだった。

「いつか私にも挑んでくると良いわ。その時は今日みたいなお子様レートでは勘弁してあげないからそのつもりで」
「本気じゃ無かったとでも言うのか? あれだけ好き勝手流れを作らせておいて」

 今度不敵に微笑んだのは藍であった。

「もしも私たちが今回の『副露無し』という縛りを捨てて打っていれば、そして我々マヨヒガの本来のルール、箱下ぶっとび無しでやっていれば、実際簡単に逆転できただろう……どこからでも。勿論我々は2人とも積み込みができるが、そんなものは一切使わずに」
「無茶苦茶な。今日は大した手を和了れなかったけど、ちょいと一鳴きすれば跳満倍満流し満貫、役満すらもポンポン入るって言うんかい」
「ふ、まあ端的に言えば、その通りだ」

 がしゃと牌が鳴る。

「……じゃあもうひと勝負。倍ブッシュでどうだ」
「是非。望む所。受けて立とう。この借をすぐ返したい」
「だからそれはまた今度。そうね。レートの高い所程打ち手は強いとは言わないけれど、レートが打ち手の麻雀を磨いてくれるのもまた事実。ノーレートの大会などお話にならない。絶対に負けの許されない戦いで幸運にも勝つ事、またそれに負ける事、それを積み重ねて、心が強くなっていくものよ。まずは幻想郷最高レート、紅魔館ロイヤルルームから、生きて帰ってきてみなさい」


 紫が一度、空間に扇子を広げると、そこから財宝が落ちてきた。今回の勝負分の支払いだ。さらに二度目、空をなぞれば、開いた隙間の向こう側にあの紅魔館の入口が口を空けて待っていたのであった。




   
次回予告

 レミリア・『全局地和以上』・『絶対的天運』・スカーレット
 十六夜・『卓上の奇術師』・『絶対的人運』・咲夜

 霊夢と魔理沙はこれを打ち破る事が果たしてできるのか?









『霊夢、魔理沙。拍手を。拍手をしろ』
『あ? 早く切れよ。親が切らないと始まらないぜ』
『お芝居は……お遊びは終わりだと言ったのだよ』
『これから始まるんだ。まだ配牌が終わったとこだぜ』
『まだ配牌が終わった所。その事実こそ、誰も私には勝てない運命の理由なのだ……』

 ……何かを投げ込むようにふうわりと、レミリアは手牌を前に倒した。そのトンという音はさながら判事が死刑宣告の為に叩きつける槌の如く……。

『自摸。咲夜、点数』
『はい。16000オールです』

 言うと咲夜は瀟洒に、ほんとうに、小憎らしいほど瀟洒な手つきで、三本の点棒を差し出したのであった。すなわち一万点棒、五千点棒、千点棒を一本ずつ。
 こえを黙って見送った魔理沙と霊夢はと言えば、まったく木偶人形のように彼女に倣うより、他には無かった。




◆     ◆     ◆


Skypeってどうやんの? マイクとか買うの?
nekojita
http://www.geocities.jp/nekojita756/text.html
作品情報
作品集:
11
投稿日時:
2010/02/11 02:51:43
更新日時:
2011/02/04 23:02:46
分類
趣味
1. 名無し ■2010/02/11 14:15:13
おぜうさまのチート能力には勝てんやろなー
2. ばいす ■2010/02/11 17:15:05
二次創作ではやたら麻雀強いレミリアだけど、実はルールを知らなそう。
「え、ツモって何?こっから取るの?違う?こっち?で、これどうすんの?切る?咲夜、ナイフー!」
そして第一ツモで上がってる憎たらしい子

スカイプはマイク無しでも文字チャットができますよ、メッセみたいに。
3. 名無し ■2010/02/11 17:43:49
麻雀さっぱりわからん俺涙目
4. 名無し ■2010/02/11 18:25:39
魔理沙でも出来るSkype導入法

1、Skypeをダウンロードします
2、パソコンにサイダーをぶっ掛けます
3、窓を開けます
4、濡れたパソコンを投げ捨てます
5、魔理沙を殴ります

ね?簡単でしょう?
5. 名無し ■2010/02/11 19:26:44
咲夜「本気でかかってきやがれ」
レミリア「お前らやる気ないだろ?」
という差し替えを思い出した
6. 名無し ■2010/02/28 14:30:49
霊夢なら、全局天和だなw
7. 名無し ■2010/09/16 23:07:16
紅魔館ロイヤルルーム・・・ワシズ麻雀のことか・・・
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