東方スカ娘「こいしとさとりの神隠し」

作品集: 12 投稿日時: 2010/02/14 21:33:46 更新日時: 2010/02/14 21:33:46
二月十四日。

恋する乙女が胸に秘めたる恋心をお菓子に添えて打ち明ける、甘い甘い日である。
それは地霊殿の頭首の古明地さとりにとっても同じであった様で、
多くのペットを従え、同時に慕われる彼女はたくさんのチョコレートをもらっていた。
そんな幸せ者の彼女にはこいしという妹がいる。
放浪の身であるこいしは姉ほどペットと仲が良いわけでなく、腕一杯にチョコレートを抱えるさとりとは対照的に、
お燐とお空からもらった二つきりのチョコをお手玉のように放りながら地霊殿の廊下を歩いていた。

「うーん・・・姉と妹でこうも差が出るとは、陰謀の臭いがする。
 まさか政略結婚に出されたりしないわよね?ひゃっ!地霊殿にそんな悪しき風習があったとは!!
 ああっそんな駄目です!それだけは!!初夜からお尻の穴なんて、裂けちゃいますぅ!!
 あ、あ、あ、あん!アナル裂けちゃう〜!っあん!ああああああああん!!!
 あっ、おねーちゃーん!」

意味不明な事を叫びながら地霊殿の廊下を歩いていたこいしだったが、
廊下で壁にもたれ掛かっているさとりを見つけると元気良く声をかけた。

「あ、こいし・・・」

しかし姉の方はションボリとした声で返す。
何か悩みがある様だ・・・こんな日の悩み事といったら恋の悩みしか考えられない。
持ちきれないほどのチョコを苦笑しながらもらっていた姉の事だからモテない筈は無いし、
大方しつこくペットに迫られているのだろう・・・誰かは分からないが私のお姉ちゃんに手を出すとは良い度胸だ。
今度殺そう。

「お姉ちゃん元気ないね、悩みがあるなら聞くよ?」
「こ、こいし・・・あ、あのね。」
「なーに?」

さとりは目に涙を浮かべながら上目遣いでこいしの目を見つめる。

「・・・ッ!!!!」

あ゛あああああ!!!!!!
この目!この顔!!この表情!!!
おねーちゃんかーいいよー!!!!!
ハア!ハア!ハア!ハア!ハア!ハア!
今の今までさとりを本気で心配していたこいしだったが、圧倒的なパトスを前に慈悲の精神はもろくも崩れ去り、
脳のより動物的な活動状態(つまりニューロンの活動電位が【大脳新皮質→大脳辺縁系】)への移行は、
海綿体を一瞬にして勃起させ、彼女に軽いオーガズムを何度も味わせた。
(ただし動物が他利的な行動を取らないと言っている訳ではない。むしろ一部の感情は人間より純粋な形で存在している。)
つまるところ、こいしは姉の悩みなどどうでもよくなったわけだ。
目を潤ませて泣きついてくる姉をもっといじり倒したいと、みだらな妄想を膨らませ始めたのである。
だが無意識を操る彼女はそんな心理模様はおくびにも出さず、ただただ姉を心配する事に精一杯な健気な妹を演じていたので、
妹の劣情を知る由も無いさとりが少しの逡巡の後に悩みを打ち明けてしまったのを、責められる者は居ないだろう。

「実はお燐から・・・手紙をもらっちゃって・・・」

ナヌ!?
お燐が!?
お姉ちゃんに!!!???(お燐のブタ野郎!!!)
ははーん、なるほど。主従関係を越えた恋・・・(お燐の○○!!!)
それも同性とあっちゃあ、そっち方面にうといお姉ちゃんが慌てるのも無理はないか・・・(お燐の○△×!!!)

※○○(約40文字)=友人を失う程度の暴言 ※○△×(約180文字)=親友を失う程度の暴言 

「そう、お燐が・・・でも今まで気付かなかったの?サードアイで心を読めば・・・」
「・・・最近仕事が忙しいみたいだったから、お燐とは余り顔合わせなかったの。
 それに自分でも気付かない内に恋心って育つものなのかも、前読んだ小説にそう書いてあったし・・・」
「そっか、それで手紙にはなんて書いてあったのかな?」

ぷくく・・・楽しみっ♪

「まだ読んでない・・・なんか怖くて。」
「ほうほうほう・・・(くひひひ!いい事思いついちゃったー!!)
 うん、そうだね・・・お姉ちゃんが怖がるのも無理ないよ。
 お燐が夜な夜などんな妄想でお姉ちゃんを汚しているか・・・うっ、考えただけで吐き気が・・・
 お姉ちゃんは知ってるよね?お燐が男食いしてるの・・・
 地獄の繁華街では【ビッチ・オブ・ネコロマンサー】と呼ばれているわ。
 いくら中出ししても満足しないらしくて・・・ついた二つ名は【底なし沼のお燐】
 猫のセックスは過激だっていうけど、私・・・お燐の性欲は異常だと思う。
 お姉ちゃん知ってる?【RHKB(60億人に一人の鬼畜ビッチ)】ってのが誰か・・・
 ううん・・・やっぱり知らない方がいいよね・・・
 でもこれだけは言わせて・・・手紙を読む時は出来る限り冷静でいてね。もしお姉ちゃんが壊れちゃったら私・・・
 ・・・ああ神様、どうしてお姉ちゃんなの!?何故お燐なんです?
 きっと運命の女神がお姉ちゃんの美貌に嫉妬しているんだわ!
 でもこの仕打ちはあんまりです!死神は肉体を死に誘うというけれど、魂までもてあそんだりしない。 
 もしお燐の毒牙にかかったら、純情なお姉ちゃんのことだからきっと心を病んでしまう!
 私は鉄格子のむこうで奇声を上げるお姉ちゃんなんか見たくないのに!
 出来れば変わってあげたい!でも毒蛇のあざとさと、野犬の嗅覚を持つお燐からは誰も逃げられないの!」

ここでこいしがちらり姉を見やると、放心状態で目に涙を浮かべながら震えている。
ま、まずい・・・やり過ぎた。

「で、でもまあ噂ってのは尾ひれがつくものだし、お姉ちゃんも余り思いつめないでね?」
「・・・え・・・?う、うん・・・そう、だね・・・私はだい、じょーぶだから・・・心配、しないで・・・ね・・・」

多少・・・いやかなり心配だったが、こいしは自分が思いついた妙案で頭が一杯だったので、
姉と別れていそいそと悪戯の準備を進めるのだった。












・・・地霊殿のさとりの寝室。
バレンタインデーから六日が過ぎた日の晩、さとりは遂にお燐の手紙を読む決心をした。
お燐の本性を聞いてしまった後は、何の変哲も無い封筒もパンドラの箱に見える様になってしまっていた。
甘い香りを放つ様に加工された紙も、食虫植物が獲物を誘う為に放つフェロモンの様に思えてくる。
そう、この可愛らしく装飾された封筒の中には汚らわしい雌猫の妄想が刻まれている事だろう。
しかし何時までも逃げているわけにはいかない。
私は地霊殿の頭首、古明地さとり。
身内が道を踏み外したらその手を掴んでやるのは私の仕事なのだから。
それにこいしはああ言っていたけれど、お燐がヤリマンだなんて信じられない。
大方、地霊殿の信用を落とそうとして誰かが流したデマだろう。

「大丈夫・・・ペットの事は私が一番わかってる。
 冷静になって考えれば、この手紙だってラブレターとは限らないじゃない。」

一人きりの部屋でぶつぶつとつぶやく少女さとり。
一度深呼吸をすると自分に言い聞かせるようにして続けた。

「それに私はどんな結果がまっていようと受け入れてみせる。
 例えこいしの話が本当で、お燐が地霊殿の名に泥を塗る様な事をしているとしても私は絶対見捨てたりしない。
 何年かかろうときっと正しい道に引き戻してみせるんだから。」

さとりは引き出しを開け、お燐からもらった手紙を取り出して封をあけた。




_______________________________



さとり様へ

敬愛なるさとり様、突然このような手紙を送りつけた事をまずお詫びいたします・・・
本当はこんな形ではなく直接申し上げるべきなのでしょうが、
内容の重大さを考えると臆病なあたいには出来そうにありません。
それから・・・私事で申し訳ないのですが、こいし様があたいについて何か言っていませんでしたか?
もしあたいが殿方とみだらな行為を楽しんでいると言う内容だったとしたら、
根も葉もない話ですので、地霊殿の皆に確かめてもらえばあたいの名誉はすぐに回復すると思います。
・・・これからお話しするのはこいし様が心を閉ざしてしまった時の事です。
直接見たわけではないのですが、あたいは職業柄妖精や妖怪の友人が多いので、
彼らの話・・・いや、一つ一つの話は非常に断片的なものなのですが・・・多くの目撃談をまとめ上げるうちに
恐ろしい真実が浮かび上がってきたのです。
お話にはさとり様も登場するのですが・・・
余りにも幼かった為か、それともショックからか今は記憶に無い様ですね。
信じてもらえるか分かりませんが、どうかあたいが悪ふざけでこんな事を書いたとだけは思わないでください。
前置きが長くなってしまいましたね・・・ではお話しましょう。





昔々あるところに、二人のさとり妖怪がいました。
姉妹である二人は地霊殿という地獄で一番立派なお屋敷で大切に大切に育てられていたのです。
しかし姉妹といっても性格は正反対。
姉の方は神経質で臆病なところがあり、木が風で揺れただけでお化けが出たと言って泣き喚き、
暗がりに恐ろしい怪物が潜んでいると信じて毎晩のように布団に包まって泣いていました。
逆に妹の方は子供とは思えない位現実的で、怖がりの姉にお化けや化け物の正体を言って聞かせてなだめていたのです。
さらに好奇心も旺盛で御伽噺や冒険活劇の本を読んで空想を膨らませては、いつか地上に行ってみたいと姉に話していました。
そんな妹ですから地霊殿の中に閉じこもって、食っちゃ寝を繰り返す生活は耐えがたいものが会ったのでしょう・・・
ある満月の晩、姉と一緒に地霊殿をこっそり抜け出したのです。
もし地上に出るまでに知り合いの妖怪に見つかっていたら、きっとお屋敷に連れ戻されていた事でしょうが、
普段から影が薄いと言われていた彼女達のこと、そんな心配は無用だった用です。
最初は家を抜け出すのを反対していた姉も地上に出て新鮮な空気を吸い、
見たことの無い植物や満天の星空を見たことで不安は吹き飛んでしまいました。

「うわーっ、なんて綺麗なのかしら!どうして星はお空に浮いてるの?どうしてあんなに綺麗に光っているのかしら?」
「ね?良かったでしょ、地上に来て・・・あっ、ほら見て!蝶々が飛んでる!・・・いや、蛾だったかしら?
 んー?この不細工な生き物は・・・?そうそう蛙よ、りょーせーるいなのよ。よく見ると可愛いじゃない。」
「そ、そう?なんか気持ち悪いわ・・・ネバネバでペトペトでフネフネじゃない。」

しばらく地下の入り口付近の森で小動物や植物を構っていた二人でしたが、やがて妹が地上に来た本当の理由を打ち明けました。

「おねーちゃん、私が地上に来たのはね・・・マヨヒガって言うお屋敷を探し出す為だったのよ!」
「ま、まよひが?」
「そ、幻想郷の何処かにあるお屋敷、幻想郷を管理している凄い妖怪が住んでるのよ。」
「ふーん・・・」

なんだか怖そうなところだと姉は思いましたが、妹は目を輝かせて盛大に喋り散らします。

「でも詳しい場所は誰も知らないらしいの・・・実は存在しないとまで言われているわ。
 でも私はそんな馬鹿なこと無いって思うの。
 そこに住んでる人は皆知ってるのに、住んでる家が無いなんておかしいじゃない!」
「うん。」
「ね?だから探しに行きましょうよ。」
「え・・・そんなの無理よ。」

しばらく言い争っていましたが、最後は半ば妹に引きずられる形で姉も歩き出しました。
マヨヒガの場所なんて分かりませんから取り合えず森へ入る事にしたのですが、
暗い森を当ても無く歩くのがどれだけ危険なのか幼い姉妹には分からなかったようです。

しばらく歩くと不思議な歌声が聞こえてきました。

「ねえ、お姉ちゃん・・・何か聞こえない?」
「う、歌声?」
「チンチンチロリンチンチロリン・・・おや珍しい、こんな所に幼い妖怪が二匹・・・食べちゃおうかしら?」
「貴方何者よ?」
「夜雀さ、この道を通る人間や妖怪を歌で誘って襲うのさ・・・でも、君らは運がいい。
 今日はもう粋のいい獲物を二匹も平らげた、耳長のウサギと太ったウシガエル、だから貴方達は見逃してあげる。」
「お肉ばっかり、カルシウムが足りてないわね。」
「ねえ、もう行こ、行こ・・・」
「いや、むしろ食物繊維だぁね、最近お通じが無くて。」
「それじゃあまたね、便秘気味の夜雀さん。お姉ちゃんが怖がっているからもう行くわ・・・早く出るといいわね。」
「ありがとう、君は優しいね、お礼に何でも教えてあげる。」
「マヨヒガへはどうやったら行けるの?」
「知らないなぁ、誰も言ったことないから・・・
 でも今日は満月、妖怪は皆浮かれているし不思議な事が起こっても可笑しくない。
 さあ、もうお行き。マヨヒガへの道は知らないけれど貴方達が森を抜けるまで歌ってあげる。」

二人は夜雀と分かれてひんやりとした夜の森を歩き出しました。

「チンチンチロリンチンチロリン♪
 夜露の降りた葉を踏みしめて、小さな妖怪の姉妹が森を行くよ
 満月の夜だけど、幼い姉妹に森の暗闇は怖いはず
 葉のざわめきも、遠くで響く唸り声も、暗闇から聞こえる耳鳴りも
 全て自分達に向けられているのかしら?
 私の歌声をお聞きなさい
 そんなの皆気のせいだ
 だって野犬も猪も妖怪も、みんな私のさえずりの虜
 幼い姉妹の影なんかに気付かない
 チンチンチロリンチンチロリン♪」

姉妹が歩きつかれて泣きそうになった時、森を抜けて霧がかかった湖に出ました。

「どうしよう・・・私達まだ飛べないし。」
「うーん・・・あ、小船があるわ!こんなに都合のいい事ってあるかしら?きっとこれに乗って進めって神様が言ってるのよ。」

姉はもう帰ろう帰ろうと言いましたが、やっぱり引きずられる様にボートに乗り込んだのです。
二人は大きな湖のなか、オールを一生懸命動かして小船を操りましたが、
ボートなんて動かした事ありませんでしたからすぐに腕が痛くなってしまいました。

「痛いよ、痛いよう・・・」
「お姉ちゃんがんばって、私もがんばるから。」

しかし、とうとう姉が泣き出してしまいまったようです。

「うええ、うええええん!やっぱり無理だよ、もう帰ろうよ!」
「・・・でももう岸が見えなくなっちゃったし、ぐすっ・・・手も棒みたいだし、もう戻れないよ・・・」
「そんな、やだ・・・!やだぁ!!もう帰る帰るんだから!うわああああん!!」
「私だってもう帰りたいよぅ・・・うえええええぇ。」

姉妹が途方にくれて泣いていると、近くの水面でバシャンと水しぶきが上がりました。

「ひいっ!!」

二人が抱き合って音がした方を見ると、今まで霧が濃くて気付かなかったのですが大変大きな船が浮かんでいて、
そして霧が晴れてくるにしたがって、月明かりに照らされた船の全貌があらわになりました。
それはとても大きな帆船でした。
視界一杯に広がる船体とずっと高い所ではためく帆はどう見ても大海原を旅する為の物で、
実物の船を見たことの無かった二人も湖に浮かんでいるのは大変不釣合いだと思ったのでした。

「ちょっと、そこのお二人さん。」

船の余りの大きさに二人が圧倒されていますと、
突然背後から声をかけられたのであんまり驚いた姉が小船から落ちそうになります。
恐る恐る振り返ると奇妙な形の棒を持ったねずみの妖怪が水面の少し上に浮かんでいました。

「おやおや大丈夫かい?すまなかったね驚かせて、でもここは危険だからすぐに船から離れるんだ。」
「ああ良かった、助かったのね・・・ねえねえ変なスカートのねずみ妖怪さん、親切に教えてくれてありがとう。
 でも私たちオールを漕ぎすぎて手が棒のようになってしまったの。
 だから船に乗せて頂戴、このままじゃ死んじゃうよ。」
「なんとそれは大変だったね、今の私は救いの女神様と言ったとこかしら?
 さ、手を掴んで。小さな小さな妖怪さん達・・・船で岸まで運んであげよう。」

姉妹が手を握ると、ねずみ妖怪はふわり高く浮かんで甲板に二人を運び上げました。
そしてくたくたになっていた二人を二段ベットと机があるだけの小さな船室に招き入れると、
熱いココアが入った三つのコップとカマンベールチーズの乗った皿を机に置きました。

「助けてくれてありがとうございます、親切で可愛いねずみさん。」
「いやいや困った時はお互い様さ、見たところ二人は姉妹のようだがどうしてあんな所でボートを浮かべていたんだい?」

姉妹は地霊殿から抜け出してきた事と、マヨヒガに行こうとしている事を話しました。

「何と、マヨヒガだって!いやいやいや・・・やめておきなさい。
 とてもじゃないが君らみたいなヒヨッコ妖怪が探し当てられるような物じゃない。
 もうずっと前の事だが、私も探し物を見つけるのは得意な方だからね・・・マヨヒガの秘密に挑戦したんだ。
 大空でダウジングを振ってちょっとでも反応があればそれこそ地に穴が開くほど目を凝らしたし、
 山のように文献も読んで手がかりらしきものを見つけたら、それこそ草の根を掻き分ける程探したもんさ。
 でも結局マヨヒガのマの字も見当たらなかった。やめときなさい、人生を棒に振る気かい?」
「ご親切にありがとう、でも私予感がするの。きっと今晩私たちがその秘密を暴くんだってね・・・
 ふああ・・・でも少し疲れたわ・・・ちょっとだけ仮眠を取るわね。」
「ああお休み、ちょっとだけが朝までになるのは請け合いだがね。
 夢から覚めれば起きた時はきっと地霊殿のベットの上だよ・・・おや?もう寝息を立てている。」
「あの・・・」
「なんだい無口なお姉さん。」
「この船は湖で何をしているんですか?」
「ここはもう湖じゃあない、そう思うのも無理ないけど・・・世界の大抵の湖は海とつながっているんだ。」
「ここが海だって言うの?」
「気付かないうちに流されていたんだね・・・君らは本当に運がいい、私が見つけてなけりゃ海の藻屑になるとこだった。」
「あの・・・」
「・・・ああ、私達がこの船で何をしているかだったね?簡単に言えば探し物かな。」

ねずみの妖怪はすくっと立ち上がって、ベットの横に置いてあった木箱の蓋を開けると古ぼけた石版を取り出しました。

「高価な物なんですか?」
「勿論さ、これほどの宝はそうそうないよ。君はこの石版をどう見る?」

石版には『龍』と一文字彫られているだけで装飾も何もありませんでした。
姉は大した物ではないと思いましたが恩人の気を損ねるのは気が進まなかったので、ちょっと俯いて

「凄く大層なものだと思います。」

と応えたのです。
ねずみの妖怪には拙い嘘なんかお見通しだったのですが少女を気遣ってそんな素振りは見せません。
ただ、この少女は本当に嘘が下手な子なんだと考えていました。
声は震えていましたし、手足をもぞもぞと動かして、さらに赤面までしていましたから、
誰でも嘘をついているのがわかってしまいます。

「ありがとう、だけど私が思うにこの石版は完全なものじゃない。下の方が欠けているだろう?
 おそらくもう一文字『印』という文字があったはずなんだ。
 当時は字の部分に宝石が埋め込まれて、周りも綺麗に色づけされてそりゃあ見事なものだったろう。」

本当かな?と姉は思いました。
しかしさとり妖怪である彼女はねずみの妖怪の真剣さがハッキリと見えてしまったので何も言う事が出来ません。
それからしばらく熱弁を聞いていると、船室の戸が開き白いセーラー服を着た女の子が入ってきました。

「ふー疲れた・・・」
「お疲れ、何か飲むかい?」
「うん、ミルクをもらうよ・・・って、誰その子達?」

ねずみの妖怪がセーラー服を着た少女に姉妹の事を説明します。

「ふーん、そう。」

セーラー服の少女は興味なさそうに応えると、部屋の隅に置かれた小棚を開きミルクの入ったビンを取り出します。
そしてガラスのコップについで一杯飲み乾すと、やれやれといった感じで二段ベットの下の階の布団に座り込みました。

「どうだった?何か収穫はあったかい?」
「・・・」

セーラー服の少女は無言で少し大きめの本位ある石版を差し出すと、落胆したようにため息をつきました。
それはさっき見た物と似ていましたが、相当磨り減っていて何が書いてあるか分からないほどでした。

「また駄目だった・・・もしかしてここには何も無いのかも。」
「もっと深く潜ってみたらどうだい?」
「簡単に言ってくれるわね、暗い海に潜るのがどんなに恐ろしいか知らないの?」

先ほど姉妹が聞いた水音はこの女の子が海に飛び込んだ時の物だったようですが、
姉はあんな真っ暗で気味の悪い海に潜るなんて凄く勇敢だなと思いました。
二人はしばらく議論していましたが、ねずみの妖怪が別室にある資料を見る必要があると提案したので、

「ちょっと席を外すよ、この部屋の物なら自由に使っていいけど・・・後のことは私達に任せて君ももう休んだ方がいい。
 ちょっと臭うかもしれないけどベットならグッスリ寝られるよ。」

と言って部屋を出て行ったのです。
姉は凄く疲れていたのでベットを使うことにして、
ソファで寝入る妹に毛布をかけると自分も毛布に包まりベットに横になります。
そしてすぐにスヤスヤと寝息を立てるのでした。




・・・それから幾ばくかの時が過ぎた頃・・・

「・・・んん?」

妹が体をよじってソファからおきあがり、そしてついと顔を上げると光を放つ不思議な喋々がはためいています。
金色に光るそれはフラリフラリと宙を舞い、その度に黄金色のりんぷんを撒き散らしているのでした。

「お姉ちゃん起きて、ねえ起きてよ!」
「ん〜・・・むにゃむにゃ。・・・な〜に?」

しばらく部屋ではためいていた喋々でしたが、ドアに近づくとスッとすり抜けて見えなくなってしまいまい、
慌てた二人が部屋から出ると、まるで待っていたかのようにフワリフワリとそこにおり、
やがて導くように木製の廊下を進みだしたのです。
姉妹が手を繋いでその後を追うと、薄暗い廊下を照らすランタンの火が二人の影を夢遊病患者の様にフラフラと照らし出し、
その光が届かなくなった頃に二人は甲板に立っているのでした。

甲板には紫色のドレスを着た女の妖怪が月明かりに照らされて立っていて、
そして不思議な蝶はパタパタ飛んでいって女の手に止まると、吸い込まれるように見え無くなってしまったのです。

「こんばんわ、可愛いさとり妖怪さん達。勇敢なのはいいけど少しは周りの迷惑も考えた方が良いわ。」

二人は息を飲んでその女の人を見上げました。
金髪の髪から覗く白い肌と整った顔立ちは幼い姉妹から見ても飛び切りの美人でしたし、
それに二人よりずっと背が高いのに立ち振る舞いは妖精よりも軽やかで、
吸い込まれそうな紫の目は何もかも見通しているかのようです。
ですから話し掛けられてもしばらく何も言う事が出来ず、ただただお互いの手を握り合っていたのでした。
姉妹が何も言わないので女の人はちょっと困った顔をして、それから少し苦笑して話し始めます。

「お姉さんが来たのは二人を安全に地霊殿まで送り届ける為なの。
 だから安心して・・・もう暗い森の恐ろしい夜雀や、過去を掘り起こす罰当たりな幽霊船とはおさらば出来るって訳。
 地霊殿の者には怒らないように私から言ってあげるから・・・さあ帰りましょう。
 地下の妖怪は地上に来てはいけないのよ。」

そう言って紫の妖怪は二人に手を差し出しましたが、姉妹は手を掴もうとしませんでした。

「・・・どうしたの?」
「あの・・・私達の為にこんなところまで来てくれてありがとうございます、でも私達マヨヒガというお屋敷を探しているの。
 だからまだ家に帰るわけには行きません。見つけるって決めたんだもの。」
「まあ、そうなの?お姉さん、貴方も同じかしら?」
「え、えっと。」

姉は今すぐにでも帰りたいと思いましたが、
この妖怪の神々しさに(理由は分からないのに)なにか近づきがたさと底知れない恐怖を感じて、
手を取る事をを躊躇っていました。

紫の妖怪は二人のそんな様子にため息をつくと、しばらく考えてから

「分かったわ、それじゃあマヨヒガに連れて行きましょう。」

と言うのです。
姉妹はビックリして顔を見合わせて、それから女の人を見上げると、そんな事出来るのかと聞きました。

「ええ勿論、だって私はそこに住んでるんですもの。自分の家のありかは把握しているつもりよ。」
「えっ!もしかして貴方が有名なスキマ妖怪さん?」
「ええ。」
「それなら話が早いわね、私達を貴方の立派なお屋敷まで連れて行って頂戴な、綺麗な妖怪さん。」
「あらあら・・・おませさんだこと、おだてたって何も出ないわよ?
 かしこまりました、お連れいたしますわ・・・可愛いさとり妖怪さん達。今入り口を開けるわね。」

女の人がそう言って手をちょっと動かしますと、何も無い空間に線が引かれ、パックリと口を開いて小さな入り口が出来ました。

「怖がらずについてきて、わたしはスキマ妖怪。あなた達を安全にマヨヒガまで導きましょう。」
「行こ!お姉ちゃん!」
「う、うん・・・」

姉妹は手を繋いで入り口をくぐり、スキマ妖怪の後をついて行きました。
足元も見えないくらい真っ暗な暗闇を、前を歩く女の金髪だけを見つめて歩きます。

・・・どれくらい歩いたでしょうか・・・5秒?10秒?一時間?
ぱっと暗闇を抜けたと思った瞬間、姉妹はあまりの眩しさに顔を覆いました。
そこは山と山の間を流れる川の傍に寂れた民家が並ぶ集落でしたが、山の上の方は霧が掛かっていて見えませんでした。
しかしこの眩しさは何でしょうか?さっきまで夜だった筈なのに、まるで朝日が昇った直後の日差しを感じます。
ずっと地下で暮らしてきた少女達は太陽の巡りの変化にそれほど衝撃は受けませんでしたが、
世界の急激な変化に着いていけずに唖然としている様でした。

「ほら、川の向こうの少し高い場所にお屋敷が見えるでしょう・・・あれが私の家、マヨヒガよ。
 私は先に行ってあなた達を迎え入れる準備をしているわ。村の様子でも見学しながらゆっくりおいでなさい。」

そう言うともうそこにスキマ妖怪の姿は無いのでした。
姉妹はやっぱり手を繋いでマヨヒガに向けて歩き出します。
少し下り坂になっている道は左右に人気の無い民家を並べただけの寂しいもので、
たまに人とすれ違いましたが何故かさとり妖怪の彼女達にも考えている事が分かりませんでしたし、
誰も彼も微笑していてまるで笑顔の仮面を被ったペテン師の様なのです。
そんな様子に姉は心底恐怖しましたが、妹はマヨヒガがどんなところか気になってしょうがないと言った感じで、
姉の手をの引いてズンズン歩いて行きます。

橋を渡って少し山間(やまあい)を行くと女が指差したお屋敷に着きました。
地霊殿程ではありませんでしたがかなり大きな木造建築で、
裏にはたくさんのお墓がありましたから何か宗教的な行事もするのかもしれません。
姉妹がちょっとお屋敷を眺めてそれから玄関の戸を開こうとしますと、中からいきなり猫の妖怪が飛び出てきて
姉妹が見詰めるなかゲエゲエと嘔吐しだしたので二人は驚いて固まってしまいました。

「な、なな・・・!橙、大丈夫か!?」

続いて飛び出して来てのは狐の妖怪、うずくまる少女をしばらく介抱していましたが、
やがて落ち着いて来ると水を飲ませる為に、抱きかかえて家に入っていって行きました。
意表を突かれた姉妹がちょっと待ってから玄関の戸を叩いてみますと、
少し慌てた感じでさっきのスキマ妖怪が顔を出しました。

「ご、ごめんなさい、今ちょっと取り込んでて・・・上がってて頂戴。ほら、こっちよ・・・」
「紫さま!!どこに行かれたんです!早く橙に解毒剤を飲ませなさい!」
「まったく、式神の癖に主人に向かってなんて言い草かしら・・・すぐ行くから待ってて!!
 悪いわね、みっともないところ見せちゃって・・・あなた達はそっちの部屋にいて、すぐ済むから。」
「早く来いって言ってるだろ!!あのウスノロめ、橙に何かあったら殺してやる!!!」
「ち!ちいっ!ちいい!式の風情で・・・!橙なら大丈夫よ!!大げさに喚き散らしやがって・・・
 能無しは皆そうだわ、糞ったれが・・・殺されたいのかしら、能無しの屑の癖しやがって・・・」

スキマ妖怪は悪態をつきながらドタドタと奥の部屋に引っ込んでいきました。
姉妹は机しかない客間に通されたのですが、大声で言い合っているので嫌でも声が聞こえてきます。

「だから口をゆすいで安静にしてれば大丈夫だって言ってるでしょ!?」
「大丈夫!?これが大丈夫に見えるんですか?こんなに苦しがっているのに!
 頭が悪いんですか?性根が腐ってるんですか?ああ、両方ですね?私の言ってる事分かりますか?
 結局何も出来ないんですね?じゃあさっさと私達の前から消えてください。」
「あ、あんたそれが主人に対する・・・言葉なの!?いいわ、出て行きなさい、そして二度と私の前に現れないで頂戴!」
「はあ?私は全然構いませんけど、いいんですか?私達がいないと何も出来ないくせに?」
「出て行くのはあんた一人よ、橙は置いていきなさい。」
「意味が分かりませんね・・・お忘れのようですけどあれは私の式なんです。
 だいたいボケ老人の世話を橙一人にやらせる訳にはいかないですからねえ。
 ああそうだ、貴方にはいい施設を紹介しますのでそこで余生を楽しんでもらいましょうか。」
「な・・・!!!」

大人の話は姉妹には少々難しかったのかもしれません。
しばらく醜い争いを行っていた様ですがスキマ妖怪が姉妹が来ているのを話すと途端に静かになり、
スルスルと障子が開いてさっきの女の人が青い顔をして入ってきました。

「待たせたわね、でももう少し待ってて。今藍が・・・私の使い魔が料理をしているところだから。」
「はい待ってます。それはそうとさっきの女の子は大丈夫だったんですか?」
「ええ、心配要らないわよ。間違ってちょっと苦い薬を飲んだだけだから・・・むしろ体に良いものよ。
 それなのに大げさに騒いじゃってバカみたいよね?あの子ももう元気みたいだし、すぐにここに連れてくるわ。
 年も近いし一緒に遊んで時間をつぶすと良いでしょう。」

そういって部屋を出ると、数分の後あの女の子が入ってきました。

「こんにちわ、地下のお屋敷のお姉ちゃん達。」
「こんにちわ、その帽子素敵ね?可愛い猫の妖怪さん。」
「はじめまして、こんにちわ。」

姉妹はすぐに猫の妖怪と仲良くなり、女の子にいろいろな妖術を披露してもらいました。
猫の妖怪は二人が面白いくらい驚くので調子に乗って知る限りの技を使ってみせ、
その後疲れ果てて畳にバタリと倒れこむのでした。
そしてお互いに笑いあった後、少し悲しい顔をして猫の妖怪が話し始めました。

「お姉ちゃん達来てくれてありがとう、紫さまと藍さまの喧嘩が収まったのは二人のおかげよ。」
「どうして二人は喧嘩したの?」
「私が悪いの・・・机の上においしそうな飲み物があったからこっそり飲んじゃって、でも凄く大切な物だったみたい。」
「いつもは喧嘩なんかしないんだ。」
「・・・ううん、たまにするよ。
 紫様ってお仕事が忙しくてあんまり家にいないけど、藍さまはその事が気に入らないみたいなの。
 だからちょっとは橙の事も考えてくださいって怒るの。
 私は藍さまが何を言いたいか分からないけど、きっと紫様が悪いの・・・
 紫様はお仕事でイライラしてるからお酒を飲んで暴れるし、橙はあんまり好きじゃない・・・」

姉妹もどうしてそんなに二人の仲が悪いか分かりませんでしたので、
お仕事が忙しすぎるのがいけないんじゃないかと言って女の子を慰めました。
その後二人が妖術を見せてもらったお礼に地霊殿や灼熱地獄、地獄の繁華街の事などを話すと、
猫の妖怪は興味心身でいつか行ってみたいと言うのです。
そうこうしているうちに時間は過ぎ、さっきのスキマ妖怪が料理を持って入ってきました。

「お待たせ。あらあら、三人ともすっかり仲良くなったみたいね。」
「うん、二人に地下のお話をたくさん聞かせてもらったの!私もいつか行ってみたいわ。」
「そう、良かったわね・・・さ、机の上を片付けて、お料理が冷めてしまうわ。」

スキマ妖怪が机の上に料理を並べていると、先ほどの狐の妖怪も食器を持ってやって来てテキパキと配膳をし、
山菜や焼き魚、お刺身が机に並べられ、やがて食事が始まりました。

「このお刺身凄くおいしいです!」
「ほんとだ・・・」
「ありがとう、腕によりをかけて作ったから喜んでもらえると嬉しいよ。
 その刺身、それは鯛だね。ほらそっちの煮物も食べてごらん?山菜も取れたてホヤホヤさ。」

姉妹はスキマ妖怪と狐の妖怪が喧嘩をするのではないかとビクビクしていましたが、
二人の仲は思っていた程悪くないようで楽しそうに話しています。
ただまったく目を合わせないのは不思議に思いましたが・・・
実は対外的には良好な主従関係を演じていながら、
心の溝はシベリア海峡より深い事など幼い姉妹には知る由も無いのでした。
食事が終わると狐の妖怪がもう遅いから泊まって行きなさいと提案します。その方が橙も喜ぶと言いうのです。
二人が外を見ると知らないうちに夜になっており、
そして友達の家にお泊りした事なんか無かったので、大喜びで同意したのでした。
猫妖怪も跳ね回る程喜んで、いろいろな玩具や絵本やお菓子などを持って来て何して遊ぼうかとはしゃぎます。

「うーん・・・疲れた。今日はいろいろあったからくたくたよ。」

楽しく遊んでいた三人でしたがしばらくして妹が欠伸をしながらそう言いますと、
狐の妖怪が姉妹をを布団の敷いた部屋に通します。

「お休み、ゆっくりお眠りなさい。夢から覚めればきっと地霊殿のベットの上だよ。」

何処かで聞いた台詞だと思いながらも姉妹はすぐに寝息を立てるのでした。




・・・それからどれだけ眠ったでしょうか、姉に揺さぶられて妹も布団から起き上がりました。

「なーに、私まだ眠いの。」
「あのね・・・おトイレ。」

仕方なしに妹は起き上がり姉の手を引いて廊下に出て、
暗い廊下をしばらく進むとオレンジ色の光を縁から漏らす不思議な扉を見つけました。

「なにかしら、不思議な光・・・天国はこんな光で満ち溢れているのかしら。
 ねえお姉ちゃん、私、この綺麗な光の正体が気になってしょうがないの。
 だからおトイレはしばらく我慢して、きっと素敵なものが見えるわ。」

そういって姉を見やると、どうした事かしゃがみ込んで荒い呼吸を繰り返していましたが、
妹は扉の向こうが気になって仕方なかったので無視してドアノブに手を伸ばします。

「はあ、はあ、待って、待ってよ。
 何かいやな予感がするの、確かに綺麗だけどだからって危険じゃないとは限らないじゃない。」
「お姉ちゃんはどうして何時もそんななの?怖がってばかりじゃ何も出来ないし進歩が無いままじゃない。
 お姉ちゃんは何時もの様に私について来ればいいのよ。」

しかし話しているうちにも姉の調子はどんどん悪くなっていき、
暗いので見間違いかもしれませんが髪の毛の色がまで薄くなっている気がします。
しかもどうやらお漏らしまでしてしまった様で、妹の足先に姉の出した液体が触れるのです。
漂ってきた臭いで漏らしたのがオシッコだけではない事が分かると、
妹はその様子に心底あきれ返って、姉からドアに目を移し、そしてドアノブに触れたのでした。
その瞬間、

「いやあああああああああ!!!!!!」
「お、お姉ちゃん!?」

姉が叫び声を上げ妹の手を振り切り暗い廊下を猛スピードで走り去ってしまいました。
唖然として固まっていた妹はハッとして後を追おうとしましたが、姉の姿は暗闇の中に消えてしまっていましたし、
あれだけ声を上げれば誰かが気付いて助けてくれるだろうと思ったので注意を光るドアに向けなおし
・・・そしてそっと開きました。

そこには『光の正体』があったのです。

固まっていた妹が肩に置かれた手に驚いて振り返ると、スキマ妖怪が悲しそうな顔で見下ろしています。

・・・そして彼女の意識は遠ざかったのでした。




「ん、んん・・・」

意識を取り戻した妹がふっと横を見ると、さっき走り去った姉が自分と同じく布団に横たわって寝息を立てています。
驚いた事に姉の髪は真っ白に染まってしまっていました。
ただその吐息はとても安心した物で、心配いらないのだと話しかけているようです。
しばらく姉の寝顔を見ていると反対側からスキマ妖怪に声をかけられました。

「調子はどう?」
「大丈夫です・・・あの、姉は?」
「安心して、さっき薬を飲ませたからじき目覚めるはずよ。
 それからこの子に何か着せたいのだけれど・・・さっきお風呂に入れてね、今服を藍に洗わせているのよ。
 橙の服は小さすぎて着せられなくて・・・」

布団がかぶせられていましたが、ちらりと覗く姉の肩は素肌なのでした。

「あの、私の服でよければ着せてやってください・・・」
「ありがとう、やさしいのね。しばらくお風呂に入ってくるといいわ、その間に服も乾くでしょうから。」
「あの・・・」
「ん?」
「あのドアの向こうの・・・」
「ああ、ただの怨霊よ。」
「・・・」

妹にはスキマ妖怪が嘘をついているのが分かりました。
今まで他人の心は薄ボンヤリとしか見えなかったのですが、目覚めてからの第三の目は相手の意識を凛と見透かしています。
しかしスキマ妖怪はあれの正体を決して心に映し出しませんでしたから、これ以上は何を聞いても無駄の様でした。

「・・・お風呂に入ってきます。」

スキマ妖怪はにこりと笑うと立ち上がって少女をお風呂まで連れて行き、
妹の脱いだ服を受け取って風呂場から出て行きました。
少女は体を隅々まで洗ってからゆずの香りがするお湯に浸かり、そしてドアの向こうに居たものの正体を考えましたが、
今まで感じたことの無かった感情が心の底からあふれて来てとても凄く怖くなってしまったので、
ざぶんと湯船にもぐって目を瞑り、なんどもなんども忘れようと頭をかきむしりました。
風呂からあがると狐の妖怪に姉の服を手渡されたのでそれを着て、部屋に戻ろうとした時スキマ妖怪に話しかけられました。

「おあがり、暖まったかしら?」
「はい。」
「そう、それじゃあついて来て。お姉さんはもう外で待ってるわよ。」
「え?」

二人で外に出ると髪の毛が真っ白になった姉が満月の浮かぶ空を眺めていました。

「あ、出てきた。待ってたわ・・・さ、地霊殿に帰りましょう。」

そう言って手を伸ばしてきます。

「うん・・・あら、その帽子どうしたの?」
「えへへ、さっき狐のお姉さんにもらったの。可愛いでしょ?」

姉の手を取り彼女の胸元を見ますと何か違和感を感じたのですが、
突然体が浮き上がったので驚いてそれどころでは無くなりました。

「ほら、もう私達も飛べるようになったのよ。」
「わあ、凄いわ!ねえ見て見てスキマ妖怪さん!」
「本当ね・・・もう二人とも立派なさとり妖怪よ。さあ手を繋いで、満月の夜を飛ぶのは素晴らしくて、気持ちがいいわよ。」

二人はふわふわと浮かび、スキマ妖怪にさよならを言うと勢い良く満月の夜空に飛び立ちました。
マヨヒガのお屋敷がだんだん小さくなり、山間の家々が米粒ほどになりやがて見えなくなります。
しばらく飛ぶとずっと下のほうに幽霊船が海に浮かんでいるのが見えたので、姉妹はねずみ妖怪にありがとうと叫びました。
不思議な歌声の響く暗い森を飛び越えて、地下の入り口に降り立った二人は最後に満月の夜空を見上げると、
少し名残惜しそうに洞窟の闇に消えていきました。

その後、地上では地下の妖怪の小さな姉妹の事が少しの間噂されたのですが、
やがて幻想郷の不思議な歴史の山の小さなこいしとして忘れられていったのです。





以上が妖精と妖怪の話をまとめ上げて童話風にしたものです。
如何でしたか・・・きっと今、さとり様は驚きで一杯でしょうね。
どうか心穏やかに真実を受け止めて、この話を自分の胸にしまいこむかそれともこいし様に話すかお決めください。
最後に、あたいは何があろうとさとり様の見方です。
貴方の幸せを心より願っています。

                    
                          火焔猫 燐
________________________________




翌日・・・

「あ、お姉ちゃーん!これから朝ごはん?」
「あ・・・こいし。」
「くすくす、お燐からの手紙読んだー?くふふっ。」
「ええ。」

さとりが食堂に向かって廊下を歩いていると、こいしがニヤニヤを必死で我慢している様な微妙な顔でやって来た。

「あのね、こいし。」
「んー?」

さとりは少し迷ったような表情をすると、それから頭をぶんぶんと左右に振って、感情のこもった目でこいしを見つめ、
近づいてそっと手を回して妹のほっそりとした腰を抱きしめた。

「お、お姉ちゃん?」
「こいし・・・いいえ、お姉ちゃん。
 貴方に謝らなければならない事があるのだけれど・・・私も凄く混乱してて。
 だから今はまだ決心がつかなくて、でも何時かきっと伝えるわ。
 その時は・・・いいえ、許してもらおうなんて思わない・・・そんな風に考えるなんて、おこがましい事だわ。」
「いや・・・実はね。」
「こんなお姉ちゃんで御免なさい。でも今はこうして貴方を感じさせて、少しの間私の我がままに付き合って。」

こいしが狼狽して姉を見ると、真っ赤になった目に涙を浮かべて小刻みに体を揺らしているので、
何時もの調子で通すのは無理だと分かった。
しばらくそうして抱き合っていた姉妹だったが、さとりがフッと妹の胸を離れて食堂に走り去って行ったので、
呆然とするこいしだけが廊下に残される事になった。

「うーん、これどうしようか・・・」

こいしはそう呟いて姉に渡すはずだったチョコレートと一通の手紙に目を落とし、
頬をぽりぽりとかきながら自分も食堂に向かうのであった。
こんにちは、こんばんは、おはようございます。初投稿になります、エイエイです。
お祭りと聞いてやって来ましたぜ、旦那!
しかしスカ娘なのにスカが殆ど無いと言うKYっぷりは・・・まあ何時もの事ですね。
思った以上の長文になり投稿が間に合うか不安になりましたが、かなり不安になりましたが、何とかなりました。
東方+ジブリ・・・新ジャンルかもね。
エイエイ
作品情報
作品集:
12
投稿日時:
2010/02/14 21:33:46
更新日時:
2010/02/14 21:33:46
分類
東方スカ娘
こいし
さとり
スカトロ
1. うらんふ ■2010/02/15 08:54:09
思わず読みいってしまいました〜
こういうのもいいですね〜♪
2. ぐう ■2010/02/15 09:31:28
こいしが勝手にお燐につけた二つ名で爆笑しましたwww
3. 名無し ■2010/02/15 21:54:32
面白い話なんだけどなぁ・・・
お題から外れてるような
4. おたわ ■2010/02/17 03:26:17
むむ、このお祭りの中でこのような作品が見れるとは予想外だ
様々な光景が浮かんでは消え、浮かんでは消え……不思議で面白かったです
次の投稿も楽しみにしています
5. pnp ■2010/02/17 07:06:01
すごい面白かったです。
序盤のこいしがやたら可愛かった。
6. 泥田んぼ ■2010/02/17 22:40:34
おねえちゃ―ん

こいしちゃんのお燐紹介がすごく面白かったですw
あとみすちー! みすちー!
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