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『コインが足りない』 作者: 穀潰し

コインが足りない

作品集: 12 投稿日時: 2010/02/23 09:43:41 更新日時: 2010/03/03 02:12:42
黒白の衣装を纏った少女が、境内に転がっている。
その服は所々が焦げ付き、そして破けている。それを身に纏っている少女自身も無傷とは言いがたい状態だ。
しかしそれ以上に精神的な消耗が激しいのだろう。彼女は指一本動かさず、ただ荒く息を吐くだけだった。

「お分かりかい、人間。紅白の巫女ならまだしも、たかが魔法が使える程度で私に挑むのは少々無謀だったね」

巨大な御柱を何本も周囲に控えさせた女が、悠然と腕を組み、そう言い放つ。
その言葉に未だ動けない少女は静かに唇を噛んだ。
負けたことが悔しいのではない。紅白の巫女と比べられたことが悔しいのだ。
女の言い放った言葉は正に、「お前は紅白の巫女より弱い」と言っていた。
それが少女にとっては何よりの屈辱だった。
どれだけ努力しても、どれだけ先に進んでも、決して到達すること無い終着点。
それを見せつけられ、少女の自尊心は多大に傷つけられた。

(まだだ。あとちょっとで動けるようになる……絶対痛い目に遭わせてやるぜ)

散々な敗北を決したとしても、少女の闘争心が折れることはなかった。
今回は駄目だった。
でもまだ次回がある。
それで駄目ならまだ次だ。
パワーの溜め方は判った。弾幕の流れもだいぶ掴めてきた。あとは慣れだ。
何回でも、何回でも挑戦してやる。
そして認めさせてやる。私が巫女と同格だと言うことを。
必ずあの弾幕を潜り抜けて、思い知らせてやる。
少女はそう決心した。
しかし。

「………甘いねぇ」

いつの間にか少女に近づいた女がそう言い放った。その言葉には嘲りと呆れの色がそれとわかるほど浮かんでいた。
馬鹿にされたと感じ、少女が顔を上げる。しかしその視線を受けてなお、女は嘲笑に歪んだ笑みを消さなかった。

「甘い。実に甘い。『次がある』なんて思ってる時点であんたは一生巫女を越えることは出来ないよ」

その言葉に少女は女を睨み付けた。
それに応えるように、しゃがみ込み少女の瞳を覗き込む女。
にやりと笑みを浮かべた表情、そしてまるで三日月のように歪んだ瞳が、爬虫類の瞳孔のように縦に裂けている。

「敗者にそんな権利があると思ってるのか? しかもスペルカードなんて自分の土俵で相撲をとっておいて、だ。それは少し考えが甘過ぎるじゃないのかい」

女は少女の顎に手を当て、その顔を自分へと向けさせる。意味が分からないのか、少女は困惑した表情のまま。

「根本的な原因が私達がここに顕れた所為だとしてもだ、あんたがこの山に、この社に攻め込んできたことにかわりはない。しかもあんたは無関係なくせに首を突っ込んできたんだろう? そんな奴をこのままはいどうぞ、と帰したら示しが付かない。何かしらの落とし前は付けて貰うさ」

少女から手を放し、女は一歩、二歩と下がった。その顔には笑みが貼り付いたまま。
その言葉に応えるように、女の背負っていた注連縄がするすると解けていく。
人の胴体ほどの太さのあるそれは解けた先から、まるで蛇のようにズルズルと蜷局を巻きだした。

「敗者が権利を持てるとでも思ってるのか? 甘ったれるな、人間。これは来世用の忠告だ」

そしてその先端を、ふらつきながら立ち上がった少女へと向けた。
それはまるで蛇が獲物を見つけ、鎌首を擡げているような光景だった。
すっ……と女がその腕を振り上げる。

「私達への信仰の礎だ………ああ、そうだ。あんたは一番信仰が生まれやすい感情が何か、知っているかい?」

声と同時に腕を振り落とす。あたかも罪人の首を切り落とすギロチンのように。
そしてそれを合図として鎌首を擡げていた縄が―――いや、いつの間にか白蛇へと変化したそれが、一気に少女へと躍り掛かる。

「畏れ、だよ」

先程までの弾幕とは一切違う、殺意を込めた一撃。弾幕ごっこで消耗した少女にそれを避ける体力も、気力も残っていなかった。
瞬きする間に、少女の身体へ白蛇が巻き付いていく。
慌てて振り解こうと少女が身を捩るも、がっちりとまとわりついた蛇は一切その拘束を緩めない。
それどころか、徐々に少女の身体を締め付けていく。

「いぎっ!!」

万力で締め上げるように、ゆっくりと少女の身体は締め付けられていく。ギリギリと骨が軋み、皮膚が引っ張られる音が周囲へと響いた。

「あっ……ぐぁっ……ぎっ」

痛みと苦しさに少女が目尻に涙を浮かべて女を省みる。しかし女は笑みを浮かべたまま一向にその力を緩めようとしない。
自分の骨が軋む音を聞きながら少女は確信した。
目の前の女は、私を見せしめにするつもりだ、と。

「私はアイツは違うからね。ひと思いにやってやるよ」
「っやめ!?」

言い放たれた言葉を少女が理解し、制止の言葉を紡ぐのと、

「お仕置きだ」

女がその拳を握るのは同時だった。

――――ベキボキゴグシャゴキャッ!!

「ぅ、っげぶッ!!」

数歩離れていた女にもその音はしっかりと聞こえた。心地よい音楽を聴いているように、うっとりと目を細める女に対し、少女は口から血を吐き出して答えた。
今頃少女の体の中は、折れた骨と潰れた臓器が互いに傷つけ合っているだろう。即死は避けたとは言え、放っておけば死ぬことは確実だ。



でも。



まだ。




「仕上げだよ」




まだ死んでない。



それを確認した女は満足そうに頷くと、ぱちりと指を鳴らした。
未だ少女に巻き付いていた白蛇が、その口をぱっくりと開く。それを見て、虚ろだった少女の目に光が戻った。

「やめ、ごふっ……おねがぃ゛」

口から血を零しながら、少女は辛うじて動く首を回し、女へと懇願する。
その瞳には怯えの色がありありと浮かんでいた。
少女は悟ったのだ。
これから自分の身に起こる最悪の事態を。
そしてそれをされたら『終わり』だということを。
だから少女は懇願した。
途切れそうな意識を必死でかき集め、血を吐きながら、激痛に耐えながら。
それに答えるのは、晴れ晴れとした女の笑顔だった。

「だぁめ」

その声を皮切りに、巻き付いていた白蛇が少女の頭へとかぶりつく。少女の最期の絶叫は蛇の口内へと消えた。
白蛇がその身体を蠕動させるたびに、少女の身体が少しずつ、しかし確実に蛇の口内へと収まっていく。
口から除く手足がぴくぴくと痙攣しているのは、未だに少女に意識がある所為か、それとも死後痙攣か。
その動きすら女は楽しみ、白蛇は少女を飲み込んでいく。
白蛇がもともと自分の身体の一部で有る為に、今飲み込んでいる少女の『味』が女には判るのだ。
ざらざらとした感触は髪の毛か、それとも転がった時に付いた土埃か。柔らかな肌の感触に混じって少女が吐き出した血の味もある。汗と精気にまみれた若い血肉は、もともと生け贄を取ってはいない女からしても、素直に『旨い』と感じられる物だった。
『味』を堪能していた女がふと気付けば、少女の姿は何処にもなかった。目の前にはただ、少女を収めた所為で膨らんだ蛇の腹が有るだけだ。
蛇は獲物を噛み砕くようなことはしない。ただ腹の中で窒息させ、ゆっくりと溶かし、吸収するだけだ。万が一少女に意識があったとしても、窒息と溶解の二重苦に耐えられる筈がない。
ぺろりと妖艶に唇を舐め、満足げに頷いた女は、ふと視線を移すと言葉を紡ぐ。

「上司に伝えると良い。大人しくしている限りこちらから出向くことはない、と」

しばしの沈黙が続いた。やがてその沈黙を破って一羽の烏が飛び去っていく。それを見送る女に、背後から影が近づく。

「あんたも随分と染まってきたねぇ。まるで昔の私を見てるようだったよ」

突如顕れた奇妙な帽子を被った少女は、ケタケタと楽しそうに嗤っていた。

「しかしよかったのかい? この世界では殺しは御法度なんじゃなかったけ?」
「構わないね。スペルカードルールとか言うお遊びの中においては殺しは御法度なんだ。それが終わった後に誰がどうなろうと一切関係ない」

ふん、と唾でも吐きそうな勢いで女が吐き捨てた。その声に嘲りと、呆れと、そしてもう一つ感情が交じっていることに気が付いた少女が、その笑みを深める。

「そんなこと言って。実は早苗がやられたことが悔しかったんでしょ?」

女の傍らに立つ少女は、本心など先刻承知と言った風に笑みを消さない。
その言葉に一瞬固まった女はやがて、当たり前だろう、と小さく言い放ち、白蛇を収めながら言葉を続けた。

「自分の子供を痛い目に合わせられて、怒らない親などいるものか。たとえそれが我が子の勇み足が原因だとしても、だ」

女が抱いていたもう一つの感情は、我が子を傷つけた者に対する怒りだった。

「なんとも理不尽だねぇ。喰われた子も、今頃彼岸で呆れてるんじゃないかな?」

言葉とは裏腹に、少女は嬉しそうだった。
自分と同じく風祝を大切にしている女の気持ちを判るからこそ、嗤ったのだ。
それに女はこう答えた。

「あんた自身よく知ってるだろう? 神って存在は、悉く自分勝手なんだよ」
ここまでお読み頂き有り難うございます。筆者の穀潰しです。
コンティニューしまくる自分の現状を省みるとこのような作品となりました。
今回はシンプルを目指してみましたが、シンプルすぎて正直判りづらくなってますね。
締め付けも丸飲みもイメージが湧きづらく、拙い表現となりましたが、少しでも情景把握のお役に立てば幸いです。
次回は怖い話でしょうか。もういっそのこと百物語とかしてみようかな……。

返信

>pnp氏
非力も強者も演じられる魔理沙はある意味稀有な存在ですね。
そして私も最近はコンティニューしなくなりました。
結末は変わりませんしね。

>紅のカリスマ氏
ありがとうございます。神奈子と諏訪子も喜ぶことでしょう。

>3
その視点は面白いですね。
では私は諏訪子に虐められてきます。

>4
何か足りないと思っていたら。
そ れ だ !

>5
コインを入れても手遅れですけどね。
穀潰し
作品情報
作品集:
12
投稿日時:
2010/02/23 09:43:41
更新日時:
2010/03/03 02:12:42
分類
短編
風神録ステージ6敗北時
BADEND
1. pnp ■2010/02/23 19:55:48
バッドエンド見るのが悔しいのでコンティニューを紅魔郷以来全くしていないという。
風神録easyは強制バッドエンドと知ったとたんに攻略をやめた。
ゆえにバッドエンド耐性がなく、永夜抄FinalBで死んだときの苛立ちが異常。
 現実的な幻想郷は見ててちょっとつらい。だがそれがいい。しかし魔理沙は本当に非力ネタも似合うかわいい子ですね。
2. 紅のカリスマ ■2010/02/23 21:19:51
自分にとって、この作品の二柱はまさしく理想の姿です・・・。
3. 名無し ■2010/02/23 21:22:30
俺達が築き上げて来た魔理沙の骸の数は、俺達がステージボスに虐められた回数に等しい

言い換えると、俺達は虐待する側と虐待される側の両方の面に立つことが出来、更にそれを同時にこなすことが出来る

つまりは、そういう観点で見ても原作は素晴らしいと言うことである。さて、ちょっと神奈子に虐めてもらって来る
4. 名無し ■2010/02/23 22:00:45
色々見てきたせいで魔理沙はこういう場面で失禁するキャラというのが個人的に定着してしまった
5. 名無し ■2010/02/24 20:45:45
コンティニューできないのさ、残念
6. 通りすがりのKY ■2010/12/05 19:52:21
「私はアイツは違うからね。ひと思いにやってやるよ」
      ↑
      と?
7. ふすま ■2014/06/22 18:22:24
確かに精神的に敗北すると何もやる気が起きませんね
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