Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『まだ一合目』 作者: ぷぷ

まだ一合目

作品集: 12 投稿日時: 2010/02/23 12:59:23 更新日時: 2010/02/24 20:48:50
・まだ一合目









※この話は、「招かれた客」の番外編となります。
まずはそちらを読んでから、これを読むことをオススメします。











夜も深くなった、魔法の森。


「……ふぅ。
 今日は、この辺にしておかない?」

お手製の松明を片手に持った妹紅が、隣で飛んでいる霊夢に言った。

「……でも、早く見つけて、捕まえないと」

歯切れの悪い回答をする霊夢。

「わかった。 少し休んだら、私が一人でやるから。 いいから、アンタはもう帰って寝なさい」

そんな霊夢の肩を優しく持つ、妹紅。
霊夢は少し迷っていたが、やがて頷いた。

「……お願いしていい? 疲れちゃった、もう」

暗がりでも分かるほど、霊夢は疲れきった表情をしている。
適当な事を言う事は多いが、弱音を吐く事は殆ど無かった霊夢なのだが……

「よし、神社まで一緒に行こう」
「なんでアンタが付いて来るのよ」
「お札を何枚か譲って欲しいのよ。 欲しがっている人間が、何人かいるから」

霊夢が心配になった妹紅は、彼女を神社まで送っていく事にした。
但し、神社まで送ろう、とは言わない。 霊夢の性格から言って、断るに決まっている。
故に、適当な理由をくっつけて同行しようとしているのだ。

「……わかったわ。 じゃあ、行きましょ」

霊夢は一つ溜息をつくと、妹紅を促し、神社に向かっていった。






無言で神社に向かう霊夢と妹紅。
二人は2週間ほど前から、一緒に行動している。

目的は、『早苗と幽々子を見つけ出し、捕らえる』事。

妖怪化して幻想郷中を転々としている早苗や、アリスを追って白玉楼には碌に帰らなくなった幽々子は、
各地で相変わらず問題行動を繰り返している。
特に早苗が酷い。
文やにとりの顔見知りである哨戒天狗の椛が、早苗に襲われたのだ。
椛は大怪我を負い、もう哨戒任務には復帰できない程らしい。
天狗や河童達は憤ったが、特に同僚の白狼天狗達は激怒した。 山の神社には猛抗議を行い、
博麗神社には手土産を持って、早苗退治依頼を出してきたのだ。

「もう許せないんだ! お願いだから、あの女を退治…… いや、殺してやってくれ!!」

対して霊夢は、「妖怪からの、その手の手土産は受け取れない。 その代わり、異変の解決に力を入れる事は約束する」
という旨を返事をし、そこから霊夢の本格的な捜索が始まったわけだ。


因みに、霊夢が妹紅を同行させている理由は2点。
幽々子と鉢合わせた場合の想定と、慧音からの依頼である。
蓬莱人の妹紅は幽々子と相性がいい上、先ず足は引っ張らない戦闘力を持っている。
そして里を慧音が守り、妹紅が出張る事により、人間を守る為に手を尽くしているのだ。

「ありがたい話よ、ホント」

霊夢は割りと本心から言っている。
何せ相手は、幻想郷でも指折りの強さを持つ亡霊と、訳の分からない生命体になった元現人神の2人なのだ。
自分ひとりでは対処出来ない可能性もあるので、妹紅の様な腕の立つサポート役が付くのは有難い。
妹紅も霊夢の苦労は肌で感じているので、彼女をサポートするべく、色々気を遣っているのだ。


「アンタも大変よね、霊夢」
「ま、仕事だから。 仕方が無いわ」

淡々と妹紅に返答する霊夢。
妹紅は高々十数年しか生きていない少女がこれ程まで達観している事に、改めて驚かされていた。






「ようやく着いた、わ、ね……」
「ん? あれは……」

神社まで辿り着いた二人は、境内の賽銭箱近くに座る、一人の女を発見した。

「あ、帰ってきたんだ。 待ってたよ」

座るといっても、段差に座るわけでもなく、ましてや賽銭箱に身を寄せる訳でもなく。
蛙の様な。 ずっとその体勢でいたら、如何にも痔になりそうな気がするのだが。

「……守矢の、神じゃない」

その女は、洩矢諏訪子。
守矢神社の内政担当の二柱の一角である。






















「しょうがないんだよ、間違いは。 誰にでもあるんだって」
「うん、そうね」


霊夢はウンザリしていた。
この話、聞くのは何回目だ? 片手では利かない。

「ったくさぁ、だからさぁ、何も消えなくたって良いんだよ。 私がいるじゃないか。
 何で一言も言わずに出て行っちゃうのさ。 そんなに頼りない?」



深夜、博麗神社の居間。

諏訪子が自らの手土産の酒を開け、それをコップに注いでは流し込んでいる。
顔は既に赤み掛かっており、酔いが回ってきていることが分かる。

「確かに神奈子は大恥をかいたよ。 私だってあいつだったら消えたくなる。
 でも、それは自分勝手じゃないか。 いいのかい? 責任すら取らないで逃げ出すってのは」
「そうね。 アンタの言うとおりだわ」

諏訪子がグチグチと愚痴を力説する。
霊夢は本当に面倒臭そうに、適当に相槌を打っていた。

霊夢がダルそうに対応するのは、勿論自分が疲れているというのもあるが、それより何より、目の前の神様。
諏訪子は愚痴る相手が他に居ないのだろう、それは分かるのだが、毎回自分の所に来て、毎回同じ愚痴を話すのだ。
聞かされる方はたまったものではない。

「今日もさ! あの、ほら、天狗達がさ! 貢物とやらをやけに多く持ってくんの!
 何かと思って聞いてみたら、『多めに貢ぐから、さっさと早苗を捕まえろ』だって!!」

諏訪子は怒鳴るように言うと、コップの酒を一気飲みし、それを空にした。
そして直ぐに、それを霊夢に向かって差し出した。
霊夢に注げと言っているのだろう。

「ん! お願い!」
「……はいはい」

霊夢は嫌々ながらも酒を持ち、諏訪子の持つコップにそれを注いだ。
8割ほど注いだ所で、諏訪子が「もういい!」と言って、再びそれを彼女の口元へ持って行った。


神奈子が消え、早苗が行方不明になってから、1ヶ月が経った。
相変わらずアリスが見つかる気配は無く、慧音やレミリアに尋ねても、「分からない」の一点張り。
発狂したアリスの追走者達は、里やら森やら山やら何やら、荒しに荒らしまわっている。 いい迷惑だ。

しかし一方で、紅魔館の面子の努力もあり、命蓮寺や永遠亭は落ち着きを取り戻しつつある。
特に永遠亭が落ち着きを取り戻したことは大きく、地道ではあるが、順調に発狂者達は減っている。



「捕まえられるモンなら、捕まえてるっての!
 大体お前らは、強くて賢いって自負している天狗じゃないか!
 たった一人の神様より、お前らが総出で捜索した方が早く済むだろってんだ!!」
「そうね」

余程嫌味ったらしい言い方をされたのだろう、諏訪子は何時にも増して荒れている。
霊夢はなんとなくそれを分かっていたが、今日は連日のきつい捜索の為、彼女もまた何時にも増して疲れていた。

「それでさ、昨日神社に来た河童がさ……」

霊夢は気が遠くなり始めていた。
失敗したなぁ。 気を遣って妹紅に帰れなんて、言わなきゃよかった。
そうすれば、押し付けられたのに。 目の前の問題児を。

「溜まっている神事は何時やってくれるのかって……」

あー眠い。

「んなのやる暇なんか……」

疲れた。
瞼が塞がる。 全身の力が抜けていく。

「……で、……あれが…………」

酒が入ったこともあり、霊夢は久々に良い気持ちで眠りに入ろうとしてた。







「ちょっと!!! 霊夢!!! 聞いてるのか!!!」

ビクッと体を震わせ、霊夢が跳ね起きた。
目を開けると、諏訪子が鬼の様な形相で、霊夢を睨みつけていた。

「あ、ご、ごめんなさい」
「全く! なってないなぁ!」

諏訪子はそう怒鳴ると、酒をコップには注がず、そのままラッパ飲み。
一気にそれを飲み干すと、霊夢に容赦ない罵声を浴びせた。

「神様が飲んでるんだぞ! それをもてなすのが巫女の役割じゃないか!!
 なっさけないなぁ、博麗の巫女は! 早苗はもっと気が利いたんだけどね!」

霊夢の眉が、ピクッと動いた。

「全くさ! そもそも異変解決は、アンタの役目なんでしょ?!
 なーんでなん週間も経ったのに、未だに異変が解決されないんだよ!」

霊夢の額に、青筋が浮かんだ。
彼女の表情には、明確に怒りが湧き上がっているのが分かる。
しかし、それには諏訪子は気づかないようだ。

「あーヤダヤダ! 幻想郷最強だとか管理者だとか何とか知らないけどさ!
 紫といいアンタといい、肝心な時に何にもできないね!」
「…………」

霊夢の頭の中で、何かが切れた感じがした。
諏訪子が言い終わるのと殆ど同時に、霊夢が立ち上がった。
ゆっくりと、諏訪子の元に歩いていく

「なn」
「うるさい!!」

霊夢は諏訪子の帽子をひん剥くと、髪を掴んで後ろ向きに押し倒した。
驚き顔の諏訪子が、目を丸くして上を見た。

「アンタさ。 いい加減にしてくんないかな!!!!!!」

間髪入れず、今度は諏訪子の胸倉を掴む霊夢。
霊夢のハッキリとした怒気を含んだ声色を、諏訪子は初めて聞いた気がした。

「毎度毎度、私が疲れてるのも気に掛けもしないで、グッチグッチグチグチ!!
 そもそも何で私が、アンタの所の早苗の尻拭いをしなきゃなんないのよ!!」

呆然とする諏訪子を気にもせず、彼女の眼前で霊夢が叫ぶ。


「天狗に嫌味を言われただ?! 河童に怒鳴り込まれただ?!
 ぜーーーーーーんぶ、アンタ達の自業自得じゃない!!! 
 その上逆切れして、私や紫の悪口を言うだぁ??!!
 ふざけるなクズ!!  ウザイのよ、アンタは!!」


今まで我慢していたものを、全て吐き出したような感じだった。

霊夢は顔を真っ赤にしてそこまで言うと、固まっている諏訪子を放り出した。
その諏訪子に、彼女の帽子を投げつけると、襖をガラッと開けた。
奥には、真っ暗な境内が室内からの光に照らされ、普段では考えられないくらいのゴミが散らかっている事が
確認できた。

「出て行け!!」

その暗闇を指差した霊夢が、諏訪子に怒鳴った。

「……」
「立て! ほら、立ちなさいよ!」
「……あ、いや」
「出て行けよ!! アンタの顔なんて見たくないのよ!!」
「ま、待って、あの、その……」
「何よ!? まだ言い足りないか!! その口を針で縫ってやろうか?!」

霊夢は懐から針を取り出すと、それを諏訪子に見せ付けた。
今の霊夢の形相を見たら、例えば魔理沙や人間だった頃の早苗なら、失禁物だろう。


……しかし、そんな霊夢の怒りの炎は、直ぐに沈下される事となった。












「ごめ、ん……」

目の前の女が、泣いている。

「ご、ごめんなさい……」

赤かった顔は、既に真っ白に。
乱れた髪は、重力に従って少しずつ修正され。

「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、
 ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、
 ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、
 ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、
 ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」

諏訪子は、土下座した。

驚いて呆然とする霊夢を前に、諏訪子は神であるプライドも捨て、ひたすら謝っていた。

「す、諏訪子?」
「ごめん、ごべんなざい……」
「諏訪子! いいから、もういいから!!」

霊夢は諏訪子に近寄り、彼女の頭に手を置いた。
諏訪子が顔を上げた。

「ごべんね、ごべんね、霊夢……」

涙と鼻水で、グチョグチョの顔をしている。
霊夢の中では1分前の怒りはすっかり消え、諏訪子に対する哀れみが沸いてきた。

「もういいから、もういい、諏訪子。 落ち着いて……」
「ごべんね、ごべんね……」

霊夢は優しく諏訪子を抱きしめると、諏訪子は顔を霊夢の胸に押し付けてきた。

「ヒック、ヒッ…… ごめんね、霊夢……」
「いいから、もういいから、ね……」





















「早苗、神奈子って、一日100回くらい言ってる気がする」

霊夢の入れたお茶を飲み、幾分落ち着いた諏訪子が言った。

「実際はそんなに言ってないと思うけど。
 変な話だよね。 一緒に居るときより、呼ぶ回数が圧倒的に多いんだ」

諏訪子は自嘲気味に、僅かに微笑んだ。
彼女も早苗達の捜索を行っており、その際の呼び掛けの事だろう。

「……狂っていてもいい。 どんなに惨めでもいい。 戻ってきて欲しいんだ」

今まで聞いた事の無いパターンの会話だった。
霊夢は集中するよう、心と頭を通し、疲れている体に命令した。

「さっきは本当にゴメンネ、霊夢。
 貴方には凄く感謝しているの。 勿論、紫達にもよ」

紫には派手に怒られちゃったけどね、と諏訪子は笑った。
その現場には霊夢と藍も居たのだが、不機嫌さを隠そうともせずに、諏訪子をネチネチと罵倒する紫を、唯黙って
見ていたのだった。
紫は神に対する優越感というより、本心から怒りを感じているようだったので、流石の霊夢も割って入ることが出来なかったのだ。

「……皆冷たくなった中、霊夢、貴方だけは唯一私に、まともに接してくれる。
 だから、いつも貴方に愚痴を漏らしていたんだ。 ゴメンネ」

頭を下げる諏訪子に、霊夢は「いいのよ」とばかりに、首を振った。




「……唯でさえ少なかった、人間からの信仰は、皆無になった」

俯き加減に、諏訪子は再び喋り始めた。

「天狗や河童といった連中の信者は日に日に減り。 そして抜けた者の大半が、うちの神社の敵に回ろうとしている」

諏訪子が、煎餅の欠片を口に入れた。
バリボリと噛み、それを飲み込む音がする。

「減った信者の一部は、命蓮寺に回っているらしいね。 何とも皮肉なもんだ」

フフッと笑うと、諏訪子はお茶を口に運んだ。
霊夢は、こんなに思いつめた彼女を初めて見た気がした。





しばし沈黙。


暫く後。 お茶を飲み、フゥっと一息ついた諏訪子が、再び口を開いた。

「霊夢」
「なに?」
「私はね。 今、山を登っているんだ」

奇妙なことを言い出す諏訪子に、霊夢は眉をひそめて疑問を表した。

「私は言われ無き罪を被せられた罪人。 それを導くは処刑執行人の天狗と河童。
 山の頂上には処刑台。 ギロチンか、首吊り台か、……」

ボソボソと独り言のように言う諏訪子に薄気味悪さを感じた霊夢だが、此処は黙って聞くことにした。

「山の道の脇には、妖怪が、人間が、蓬莱人が、或いは別の天狗や河童が……
 私を見ながら、嗤っている」

諏訪子の持つ急須が、震えている。
半分ほど残った水面から、小さな波が立っていることが確認できた。

「私を救おうとする者なんて居ない。 誰が落ち目の者など庇うものか。
 今までの自分勝手な振る舞いを糧に、私を罵倒し、嘲る」
「諏訪子?」

真っ青な顔でブツブツ喋り続ける諏訪子に、霊夢は話しかけた。

「処刑人たちは、私を簡単に処刑台には連れて行かない。
 利用できるだけ利用し、殴るだけ殴り、嬲るだけ嬲る」

諏訪子は、霊夢の方を見た。





「まだ一合目なんだ。 何合目まであるか、分からない」





「私はこの先、どうなるんだろう?」





━━━ 絶望に満ちた、引きつった笑みを浮かべて。




ここで霊夢は、ようやく彼女の言わんことを理解した。
青い顔のまま震える諏訪子に、霊夢は恐る恐る聞いた。

「……途中で、歩くのをやめたりしないの? 貴方は」

聞いていいのか分からないことだったが、聞いてしまった。
霊夢は発言の直後に後悔したが、諏訪子は意外にも顔を明るくし、こう返答した。

「そうだね。 その罪人は、『舌を噛むことにより、歩くのを止める事が出来る』。
 ……でもね、私は、それはしないんだ」

諏訪子は再びお茶を口に運び、急須のお茶を一気飲みした。

「待ちたいんだ。 限界まで。
 いつかきっと、私と一緒に処刑台に上がってくれる…… 或いは、それから救ってくれる者が、来てくれる。
 それは身内しか居ない。 身内だけなんだけど、幻想郷中で唯一、私を受け入れてくれる者達なんだよ」

にっこりと笑い、霊夢を見る諏訪子。
先程までの沈んだ面持ちは何処に行ったのか、愛らしく笑う神様が其処に居た。


「……きっと、戻ってきてくれるよ」























諏訪子が帰って1時間が経過したが、霊夢は着の身着のまま、部屋もそのままで、未だに座って考え事をしていた。


幻想郷には、幾つもの強大な組織がある。
そして一部の例外を除き、それらの組織内の結束力は、非常に硬い。

紅魔館なら、レミリアと咲夜。
永遠亭なら、輝夜と永琳。
山の天狗や河童達。
白蓮を筆頭とした、命蓮寺の面々。

そして、今回の事件で残念な事になってしまったが、白玉楼の幽々子と妖夢、そして守矢神社の3名。

皆身内の名誉や命の為、体を張れる覚悟のある者達だ。



……しかし翻って、組織間の関係はどうなのだろうか?

先の月絡みの小競り合いに代表されるよう、決していいとは言えない。
まして守矢神社は、強大な力を持つ上、様々な野心を前面に出してきていた。
幻想郷に長く居る者が、それを快く思わないのは、ある意味では至極当然だろう。


「……そりゃ、そうよね。
 あの天狗達が、こんなスキやチャンスを見逃すわけが無い」

霊夢は、ぼそりと独り言を言った。

守矢神社は、主に天狗と河童と言った、山の妖怪達の信仰によって支えられてきた。
しかし、天狗や河童の中で、心から守矢神社を信仰していた者は、果たしてどれくらい居るだろうか?
天狗や河童のお偉いさんは、損得勘定を計算した上で、守矢神社を信仰する事を決めたはずだ。

そう、守矢神社と天狗達の関係は、「組織内」ではなく、「組織間」なのだ。

よりによって神その者や、神に仕える者が起こした大問題だ。
天狗達は、激しく糾弾するだろう。
起こした問題に対する保障や謝罪を求めるのは当然、加えて自分達に有利な協定を、無理やり結ばさせる事も
行うに決まっている。

その無理やり作られた『協定』は、果たして諏訪子にとって、どれ程屈辱的なものなのだろうか?

諏訪子は荒れていたが、まだ荒れるほどの、博麗神社まで来るほどの元気はあるのだ。
そういう意味での、『一合目』なのだろう。
彼女自身も言っていたが、これから諏訪子には、どれくらい過酷な試練が待っているのだろうか?
霊夢は考えただけでゾッとした。

















「でも……」


霊夢は、ゆっくりと立ち上がった。


「でも、『まだ』一合目だわ」


そう。
『まだ』一合目だが、『まだ』一合目なのだ。


今なら間に合う。

諏訪子が、廃人になってしまう前に。
早苗が、本当に取り返しのつかない事をしてしまう前に。
神奈子が、本当に消えてしまう前に。

なんとしても諏訪子が待つ『身内』を、見つけ出す必要がある。



霊夢は『身内』にはなれない。
しかし、その『身内』を見つける事なら出来る。




「……さて、と」


先程まで感じていた疲れなど、吹き飛んでいた。


霊夢は自分一人に聞こえる程度の掛け声をかけると、真っ暗な夜の空へ飛び出して行った。







fin
久々の投稿。
内容は完全にいぢめスレ向きですが、続編と言うことでこちらに。
精々300行くらいで終わる筈だったのに、やっぱり私は短く纏めるのがヘタッピですねヽ(´ー`;)ノ

※追記
境内がやたら散らかっていたのは、本来暇な霊夢が、掃除をする暇も無かった事を示しています。


※2010/2/24_19:45 修正
霊夢に早苗退治を依頼してきた人物を、にとりから白狼天狗に変更しました。
にとりが発狂してたのが、頭からスッポリ抜けてた……

>>5
貴方が居なかったら、気づかなかった……
感謝、そしてゴメンナサイ。

>>6
半年ぐらい経過していればそれでもいいのだけど、流石に1ヶ月も経ってない計算になるからねヽ(´ー`;)ノ
ぷぷ
http://blog.livedoor.jp/pupusan/
作品情報
作品集:
12
投稿日時:
2010/02/23 12:59:23
更新日時:
2010/02/24 20:48:50
分類
『招かれた客』の番外編
諏訪子
霊夢
1. 名無し ■2010/02/23 22:06:36
早苗さんが…
2. 名無し ■2010/02/23 22:22:00
おお、招かれた客の番外編が読めるとは思わなかった
早苗さんとゆゆ様どこ行っちゃったんだろう。
3. 名無し ■2010/02/23 23:09:44
中途半端に希望が残ってるから、壊れにくくなって余計に苦しむ事になる。
さっさと諦めるか開き直るかすれば楽になれるのにね。
4. 穀潰し ■2010/02/24 04:48:32
捨てきれないからこそ、辛いんでしょうね……。
さて、お二方捜索に戻りますか。
5. 名無し ■2010/02/24 08:46:16
にとり達も勝手だな
狂っている早苗の姿は、少し前の自分達の姿と同じなのに
6. 名無し ■2010/02/24 20:18:33
にとりでも良かったのに・・・
喉元過ぎればの身勝手さが、諏訪子の健気さと対極になってさ
7. 名無し ■2010/02/24 21:09:12
そのへんは作者さんの裁量に任せましょうや。
どっちにしても話の流れはかわらないんだし。
8. 名無し ■2010/02/25 13:59:34
神奈子は何をやってるんだ何を
9. 名無し ■2010/02/26 18:06:00
希望というより未練かもね
もう頂上がハッキリ見えてるんだから、本当は一合目ではないはず
名前 メール
パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード