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『清く正しくとも』 作者: 藪氏

清く正しくとも

作品集: 13 投稿日時: 2010/03/27 17:15:52 更新日時: 2010/03/28 02:15:52
* * *

それはあまりにも突然な出来事だった。

文が仕事をしている部屋に数羽の鴉天狗が押し入ってきたのである。

「お前が射命丸 文か」

随分と威圧的な物言いであった。性別は皆男。上から下まで真っ黒な出で立ちである。

突然の来訪者に驚き、勝手に仕事場へ入られた事に憤慨もしたが、文は質問に答える。

「そうですが…同類だからってあまりにも失礼じゃありませんか?」

押し入った鴉天狗は文の言葉を無視して話を続ける。

「この新聞を知っているな?」

差し出されたのは新聞である。知らないハズが無いではないか。

それは文が作成している個人新聞だったのだから。

「ええ、知っていますよ。それで?」

「一緒に来てもらう」

言葉を交わしていた鴉天狗の後ろに控えていた残りの男が文を包囲する。

「突然現れて、ついて来いだなんて到底従えませんね」

並々ならぬ気配である。

男達の行動いかんでは、文も防衛行動を取らざるを得ない。

しかし、男が次に発した言葉で文の緊張は別な緊張のものとなる。

「お前が発行した新聞が原因で、里の人間に害が及んだ。天狗評議会はお前に出頭を命じた」

* * *

文は不本意ではあったが、押し入った男達に従うことにした。

幾ら面白可笑しく記事を書いていたとしても、その対象者を死に至らしめるほど過激な記事を

作成した覚えが文にはなかったからである。


天狗と言えど、全てが統一されているという訳ではない。

個体差や主義・思想、風習の違い等からグループ分けされ、部族を形成するのである。

文が連れて来られたのは、そんな部族から選ばれた代表が集う場所である。
(こんなふざけた所、絶対来ないつもりだったのに)

一般には評議会と称されるその場所が、文は大嫌いだった。

権力を盾に勝手気ままな振る舞いをし、威張り散らすくせに下々の者には何の対策も講じない。

行われるのは自分の体面を保つことのみ。政治腐敗甚だしく、文は天狗の最も恥ずべき事だと思っていた。

しかし、全く理解出来ないのだが、評議会賛同者は意外にも多く、若い天狗はいつか評議会員の

仲間入りを果たそうと夢見ていた。

報道も評議会に掌握されて自由な表現が出来ない。

そんな環境に嫌気がさして山奥に仕事場を移したのはいつだっただろうか。

監視をごまかす為にゴシップ誌を装いつつも、風刺を利かせた記事を書き続けた。

少しずつ購買客を増やし、今では文の考えに同調する天狗も現れた。

順風満帆とは行かなかったが、それなりの成果はあげていた。


それが一体どうして…


* * *

「ここだ」

全身黒服の鴉天狗は、文をある部屋の前へ立たせた。

扉の両辺には警備が立っており、他の部屋と雰囲気が違うように感じた。

「例の鴉天狗だ。後は任せる」

そう言って文を連れてきた天狗たちはその場を去って行った。

警備に就いていた天狗の一人が部屋へと入っていく。程なくして文は部屋に通された。

部屋に入ったと同時、思わず息を呑んでしまう。


一斉にこちらを見る目、目、目…


ここは…

部屋の中央には評議会の中でも特に有力な天狗、すなわち元老と呼ばれる者達が机を隔てて鎮座していた。

そして、その周りを取り囲む傍聴者。

まるで見世物小屋の珍獣か、闘技場の参加者にでもなった気分だ。

と、雰囲気に呑まれていた文に元老の一人が語りかける。

「ふむ、ようやくお出ましか。早速だが、ここに呼ばれた理由は分かるね?」

文は人間に何かあった以外に聞かされていないので、正直に答える。

「いいえ、存じておりません。人間に害をなしたとは如何なることでしょう」

先ほど質問した元老が答える。

「では簡潔に申そう。天狗定法の定めにより調査した結果、本評議会は射命丸 文が殺人に
 相当する罪を犯したと判定した。君にはこの件について諮問するために来てもらったのだ」

「んな!?」

「そしてこの諮問は被告人の弁明を聞き、同時に判決を言い渡すものである」


殺 人


予想できなかった回答に仰天する。そして被告人?これは裁判なのか。

「そ、それは何かの間違いです!理由を、私が殺人を犯したとする理由を教えて下さい!」

これには別の元老が答える。

「よろしい、教えてやろう。一昨日のことじゃったか。我が評議会にある知らせが入っての。
 どうも里の者が自殺したと言うのだ。それだけであれば、各新聞の一記事にしかならんかったじゃろう。
 問題はその自殺した者が、天狗が発行する『ある新聞』を握り締めて死んでいたということじゃ」

文はゴクリと喉を鳴らす。さすがの文にも理解が出来た。しかし――

「なるほど理解致しました。しかし、誓って申し上げますがそのような動機に至らせる記事を
 私は作成した覚えがありません!」

「作成した覚えがなくとも、現に新聞を握り締めたまま人が果てているのだよ。間接的であっても
 その原因を作ったのであれば射命丸君、それを殺人と呼んでも良いのではないかね?」

「しかし!」

元老は報告書を見て言う。

「報告によれば、君の新聞はあまり良い評価を受けていなかったようだね。強引な勧誘もあったとあるが?」

「確かに一時は半ば強引な勧誘も行っていました。ですが近頃では考えを改め、そのような行為は
 一切行っておりませんでした!そもそも強引な勧誘や私の書いた記事でその里の者が自殺したのだ
 という証拠はあるのですか!」

「君は質問されているのだ。君はただ質問に答えるだけでよい」

「くっ…」

何が裁判だ。こんなもの話し合いですらないではないか!

「評議会にも何回か苦情が来ていたのだよ。それだけでもゆゆしき事態だ」

「自殺した人間が住んでいた○○では、一部で天狗排斥の動きも見られるとのことだ」

「えっ、○○?」

文は元老が言った地名に違和感を覚えた。そしてそれははっきりしたものとなる。

「そんな地域に、私は新聞を配布しておりません!やはり何かの間違い――」

「見苦しいぞ。今言った地域の周辺では何人も射命丸 文を見たとの証言があるんだ」

「う、嘘だ!私は一昨日その地域には行っていません!もう一度よく調べてください!!」

「既に念を入れて調べたのだよ。今更何かが変わるとも思えんね。嘘だというのなら、君は
 一昨日何をしていたのかね。そしてそれを裏付ける何か証拠でもあるのかね」

「それは…一昨日は新聞を作っていたので外には出ていませんでした」

「で、それを裏付けるものは?」

「…」

裏付けるものはなかった。文はただ沈黙するしかなかった。

「決まりだな。当日の行動を裏付けるものはなく、目撃証言多数。言い逃れは不可能だ。」

「確かに私は現場不在証明をすることが出来ません!しかし、お聞きした限りでは私の
 新聞によって里の者が自殺したという証明も完全に出来ていないように思われますが?
 多数得られたという証言も怪しいものです!本当に私だったのですか?見間違いの可能性は?
 私の新聞を握り締めていたのは、何か別な意味がある可能性もあります!
 そもそもどのように捜査をしたのかも分からないのに、納得など出来ません!
 証拠を出せとおっしゃいましたが、評議会からの勧告もありませんでした!!」

「どうであれ天狗全体の権威と信頼を失墜させたのに変わりはあるまい、射命丸 文よ。
 ならばその責任は取らねばなるまい?お前は自分の過失である証拠がないと言うが
 お前の過失ではないという証拠もないではないか」

「〜っ!」

流れは文の悪いほうに向かっていた。

何もやっていない。何かの間違いだ。

間違いなのにッ。

「これ以上は時間の無駄だ。」

「待ってください!!」

「諸君、判決は?」


「有罪」「有罪」「有罪」「有罪」


「うむ。射命丸 文、君は有罪だ」

「そんな!?」

「射命丸 文、間接的ではあるが殺人に関わった罪で有罪。
 今回の件を踏まえ、射命丸 文は今後報道活動に携わることを禁止するものとする。
 尚被告人は一日評議会にて待機すること。以上だ、連れて行け」

部屋で待機していた何人かが文を連れて行こうとする。

「何かの間違いです!もう一度、もう一度お考えください!もういち――」

無常にも扉が閉まった後、文の声が元老達に届くことはなかった。


* * *

満身創痍とはこのことを言うのだろう。

拘留のために連れてこられたの部屋で文はただボーっとするしかなかった。

突然の出来事。そして評議会からの有罪判決。

報道活動からははずされる。そして二度と戻ることもない。

先は真っ暗だ。

だが絶望はしていなかった。

報道の現場を離れたとしても、正しい知識は集められるし広めれる。

そう思うと気が楽になったように感じた。

そこで緊張の糸が途切れたのだろう、どっと疲れが押し寄せてきた。

まぶたが重くなっていき、文は眠りについたのだった。


* * *

翌日の朝一番に文がいる部屋のドアが開けられた。

密室に響いた金属音が、寝覚めの悪い目覚ましとなった。

部屋は薄暗かったので、外が眩しく感じられたため最初は分からなかったが

どうやら誰か立っているようである。立っているのは…

「も、椛…」

そう、白狼天狗で新聞製作を手伝ってくれている犬走 椛がそこに立っていたのだ。

「椛!」

文は泣いた。椛を抱き寄せるとえんえんと泣いた。普段は気丈に振舞っている彼女も

さすがに今回の一件はこたえた。

文は評議会から有罪判決を受けた罪人である。

それをこうして迎えに来るにはどれだけの勇気が必要だっただろう。

正直誰も来ないと思っていたし、これからもまともに文と関わるものは居ないだろう

そう思っていた。だが椛は来てくれた。

「うぅ…椛ぃ、ぐすっ、私、もう新聞づくるの、やめろって…」

「先輩…」

しばらく抱き合っていたが、外にいた天狗に早く出るよう催促されようやく拘留室から出た。

「先輩、行きましょう」

椛が文の手を握り、引っ張っていく。

「これ飲んでください。喉渇いているでしょう?」

「うん…」

文は今までこの白狼天狗にしたことを思い後悔した。ここまで自分のことを思ってくれているのに

自分は彼女に何をしてきただろう。


そうしてしばらく歩いている内、心にも落ち着きが出来たのだろう。

文はいくつか思うことが出てきていた。

まず今歩いている方向は、連れてこられた時に入ってきた入り口と逆の方向であること。

次に椛の様子がなにやらおかしいこと。

長い付き合いの中で、こうも思いつめている椛を文は見たことがなかった。

そして…

そんなことを思っているうちに、二人はある部屋の前に来ていた。

椛はその部屋の前で足を止める。

「椛、ここが出口なの?」

質問に答えはなかった。

とりあえず部屋に入る。しかし、そこはやっぱり部屋だった。

「ねぇ、椛…一体どういう――」

言いかけて気づく。部屋の中央に何かある。






何だ?








これは…








ゴザに、三方?そしてその上に乗っているのは










「え?」







三方の上に乗っていたのは短刀であった。

そして、この状況が意味するものとは即ち

「は、はは…冗談きついなぁ…これでどうすれって、言うのよ」

椛の方を見る。その表情に感情は見られない。

文はぞっとした。

「ねぇ、どういうことなの!説明して!」

何がなんだか分からなくなってしまった。

評議会が告げた罰は自分が報道関係の活動から退くことだったはず。

何かが起きたのだ。私の知らない所で…

「昨日、自分のもとにあるお達しが届けられました」

淡々と告げる椛。

「評議会はある天狗を処刑することに決定した、と。そうしてその処刑を
 自分が取り行えと」

「!」

「さあ先輩。いや、射命丸 文…潔く割腹なされれば万事上手く行きます」

「椛!!」

絶叫だった。

私は何もやってないしそんな話も聞いていない!

椛が私を処刑する?

嘘だ!そんことありえない!

「椛聞いて!私は何もやってない。お願い信じて!本当になにもやってないの!」

「先輩…評議会の決定は絶対です」

「そんな…いや…いや!いやあああああああああああああああああああああああああ!!」

扉に急行する。

逃げなくては自分の命が危ない。

これは現実だ。

逃げなくては…。

しかし羽が上手く動かない。

「先輩…せめて最後は潔くしてください。そうすればいくらかの温情は与えられるでしょう。
 さっき飲んでもらった飲み物に弛緩剤を入れました。恐らくもう少しで体も動かせなくなるかと」

「そんな!私は何もやってない!椛た、助けてよ!!!ねぇっ!!わたしをたすけにきたんでしょぉ!!?」

椛は私を助けに来た訳ではなかった。

絶望。

椛はまがりなりにも哨戒天狗である。それなりの訓練は受けている。

だから文と椛の戦闘能力は比較にならない。

仮に短刀を持って闘っても持ち味であるスピードがなければ勝ち目はないだろう。

「おねがいぃ!まずここおでましょぉ!そうすれわあなたにもわかってもらえふ…」

口が上手く回らない。

必死に逃げ惑う文。

だが数分を経てついに文は体が動かせなくなった。

一歩、また一歩近づいてくる椛。

「いや…ほんなのふそよ…おねらいもみじぃ!しんじれ!わらしおぉ!」

涙を一杯にためて懇願する文。

椛はそんな文の腹に短刀を向ける。

「…評議会は腹を切らせよとのことでした。辛抱してください、すぐ終わりますから」

「もみっじあぁあああぁっ!!ひたっひたい!!!あぁうあぁぁぁぁああああああああ!!!」

短刀をわき腹に入れ、ゆっくりと腹を割いていく。

「ぐっ!?あがっ…ああああぁぁおああああああ!!」

そうして腹を切り終えた椛は、短刀の目標を首にする。

「苦しませてしまいました…先輩」

文は死んだ訳ではない。

必死に処刑をやめてもらおうと懇願し続けている。

椛はそんな文の首をひざで押さえ込む。

「あぅ…もみいぃ、おねらい…ぁ、くっ…らすけ、て…」

真っ直ぐ椛を見つめる文。

思わず手を止める椛。



迷いが生まれる。苦しんでいるのは長年先輩と慕った人物なのだ。

………

……



「ごめんなさい…やめることは出来ません。今楽にしてあげます、もう少しの辛抱ですから…」

「!?」

短刀を首に突き刺す。

「がっ!?」

ためらいは文を苦しめるとの一心で短刀を上下に動かし肉を切断していく。

「〜〜〜」

あふれ出る血。

喉から漏れ出る息。

椛の手は文の血によって真っ赤に染まった。

服装にも血は飛び散ったが、白を基調とする服に付いたそれは鮮やかだった。


そうして文の首は体から二分されたのである。


「許して下さい、先輩っ…」

椛は己がした所行を深く後悔した。だがもう既に射命丸 文は絶命していたのだった。


* * *

「いやぁ…上手い口実を見つけたものですな」

「うむ、奴にこれ以上余計なことをされずに済む」

「手回しは相当な労費でしたが、致し方ありませんな」

「今回処刑を執り行った白狼天狗は二階級特進だな」

「はは、知り合いを殺して特進とはな」

「じゃが里の人間にも悪いことをしたのぉ。無理やり首を吊らせたんじゃからの」

「なに必要な犠牲だったのさ」

「次は射命丸 文に協力していた天狗どもの処分ですが…」


‐了‐
「椛君、君がそこまで強固に反対するのも理解出来る。だがもし反対したら、どうなると思う?君だけじゃない、君の知り合い、いや一族郎党が評議会に逆らったという嫌疑が掛けられる。我らは結束を揺るがすモノを決して許さない。決してだよ。いいかな?評議会は射命丸 文を有罪とし、死刑が妥当だと判断したのだ。ならば特命を受けた君がすべきこととは、何だろうねぇ?」

「…」


ここでは2回目の投稿になります、藪氏です。
諮問の所はもう少し掛け合いを増やしたかったのですが、ただ字数が増えるだけでぱっとしなかったのでカットしました。
椛が文の腹に短刀を入れる所も、椛が過去を回想したりして涙涙な感じにしたかったのですが、文才がないクセに書き連ねた結果ダラダラした感じになったのでカットしました。
首を切ったときの「〜〜〜」ですが、あれをどう表現したら良いのか分からずこうしました。
いや、チェチェンの首切りとかイスラム原理主義の宗教ビデオとかで度々見かけますがどうも言葉で表せれない。オロロロとかオエロレロ…とか。ゲロ?映像だけなら大丈夫だけど、声が付いたとたん生々しくなる不思議。後は皆さんの想像にお任せします。

評議会とか元老とか勝手に出しちゃったけど…うん
藪氏
作品情報
作品集:
13
投稿日時:
2010/03/27 17:15:52
更新日時:
2010/03/28 02:15:52
分類
文と椛の師弟愛
椛の決断とは?
結論:射命丸は今のままが一番良い
1. 名無し ■2010/03/28 02:33:50
清く正しいより、少し間違っている方が長生きは出来そうだな
2. 群雲 ■2010/03/28 04:09:19
おもしれぇ
3. 名無し ■2010/03/28 06:25:25
あやたん…
4. 名無し ■2010/03/28 08:55:43
筋弛緩と死の恐怖
ここまで好条件が重なったのだから失禁が欲しかったれす(・∀・)
5. 名無し ■2010/03/28 12:05:07
文ェ……
6. 名無し ■2010/03/28 16:37:30
政治?は奇麗事だけでは出来ないのだよ
7. 名無し ■2010/03/28 19:04:37
面白かったです。
文がもみじに刺されるSSって前にもあったような・・・
まさか同じ作者さんか?
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