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『へんたいぬえちゃん! 〜ろうそくの巻〜』 作者: pnp

へんたいぬえちゃん! 〜ろうそくの巻〜

作品集: 13 投稿日時: 2010/03/31 00:19:54 更新日時: 2010/08/29 11:08:29
 妖怪の山の頂上に幻想入りを果たした神社、守矢神社。
その神社の巫女である東風谷早苗は、とても機嫌よさそうに山を下っていた。
外界にいた頃、同年代の友人たちが揃って聞いていた流行りのポップなんかを口ずさみながら。
緑色の長い髪と、青と白の巫女装束が、風を受けてはたはたと靡いている。
しかし、彼女の心底嬉しそうな表情を踏まえて見ると、まるで髪や服が独りでにはしゃぎ回っているかのようにも見えてきてしまう。
それ程、今の早苗は上機嫌だった。

 早苗がこんな状態になったのは、ほんの数十分前から起きた一連の出来事が切っ掛けであった。
 愛する二人の神様――八坂神奈子と、洩矢諏訪子――の存続の為、早苗ら三人はこの幻想郷へとやってきた。
神様二人と、現人神の自分。要素は完璧だから、後は環境さえ整えば、信仰を得るのはそう難儀な事ではないだろうと、早苗は高を括っていた。
だが、実際にはその予想は大きく外れてしまい、奇跡を起こす現人神など、幻想郷ではさしたる価値を有していなかった。
 諦めかけたのも束の間、神奈子らは山の妖怪たちと、新しい形の“シンコウ”を形成した。それは、信仰であり、親交でもあった。
そのお陰で神奈子らは、強大すぎる力は得られずとも、消滅を免れる程度の信仰を獲得する事に成功した。
そして早苗は更なる安定の為、より多くの信仰を集めようと奔走しだした、と言う訳だ。
 同じく信仰を獲得することを目標としている博麗霊夢や、封印を解かれて再び地上へ舞い戻ってきた聖白蓮など、所謂“商売敵”はいた。
それでも早苗は諦める事なく、幻想郷を奔走し続けた。
その結果がようやく実を結んだのを、今回実感することができたのだ。
「(遂に、遂に皆さんが私の事を認めてくれました)」
 何度思い出しても、その数十分前の出来事はその輝きを薄らせることが無かった。



 数十分前の事である。
 早苗がいつも通り、人里で厄介事なんかが無いかを探していると、偶然、霊夢と出くわした。
彼女は早苗とは異なり、異変を探していた訳ではなく、何となく人里へ遊びに来ていただけであった。
そんな割と倦怠的な様子を見せても、『博麗の巫女』と言うブランドが持つ信頼性は強固なものである。
 商売敵と言えども不仲である訳ではないので、早苗は自然に霊夢に声を掛けた。
霊夢も、嬉しそうでも邪魔そうでもない、平然とした表情で早苗との雑談に応じた。
「あんたも人里へ遊びに来たのか」と言う霊夢の問いに対して早苗が首を横に振ると、霊夢は「がんばるわね」と、感心したように呟いた。
 立ち話するよりはどこかへ座ろうかと言う霊夢の提案で、最寄りの茶屋へ向かおうとした時だった。
人里に住む人間が、二人に駆け寄ってきたのだ。
「丁度よかった。巫女さんが二人もいる」
 人間は開口一番、こう言った。これ即ち、異変若しくは厄介事を抱えている証である。
「何かあったの?」
「何かあったのですか?」
 霊夢と早苗は同時にこう問うた。
 その人間は、手に持っている、気色の悪い虫の死骸を二人に見せつけた。
二人はぎょっとしてそれを凝視する。
「何よこれ」
「あんたらには、これが何に見える?」
 人間は奇怪な質問をした。
早苗はそれを凝視しながら、「虫、ですか?」と問うた。人間はすぐに頷いた。
「あんまり見慣れない虫だろう? 不思議な事にさ、里の子どもがこの虫を見て、別のものに見間違えることがあるんだよ。木の実だと言って食べて病気になった子もいる」
「別のものって、何」
「それも千差万別なんだ。おまけに翌日には、みんなして虫に見えるって言いだすし」
「おかしな話ですね」
「この虫に限らず、これに似た事が、最近立て続けに起こってるんだよ」
 早苗はこれをすぐさま異変と受け止め、思考を始めたが、霊夢はと言うとへぇ、と冷めた口調で一言。
 二人は、何となくこの件の犯人に見当がついていた。
そっと早苗が霊夢の方を見ると、相手もまた早苗の様子を窺っていたようで、二人は目があった。
お互いの胸の内が見えてしまったようで、二人は気まずそうに視線を外した。
「一先ず、この件は、私たちに任せてください」
 そう言い早苗は、霊夢と茶屋へ向かい、この件についての話をすることにした。

 犯人は分かり切ったことである。
その名は封獣ぬえ。命蓮寺に住まう、正体不明の種を用いる妖怪である。
その正体不明の種を用いると、見知らぬ物が個人の先入観で見え方が変わってしまう。それを用いたぬえの悪戯。これに間違いはない。
 早苗にとっての問題は、どちらがこれを解決するか、と言う事である。
犯人が分かり切っているので、解決など容易だ。ぬえに手も足も出ない場合でも、命蓮寺の聖白蓮に告げ口すれば、それだけで解決してしまう可能性もある。
その上、人里全てを巻き込む事件に発展しているので、この件を解決した際の貢献度は相当なものだ。
解決は容易で、見返りは大きい。これほどおいしい異変はなかなかないだろう。
 そのことに気付いているのは霊夢も同じようだった。彼女だって、どうせ仕事をするなら楽して大きく稼ぎたいと思っている。
恐らく、自分の仕事にするのは難しいだろうと、早苗は長期戦を覚悟していた。
霊夢の冷やかな態度は妙な不安と恐怖を駆り立てる事があるが、耐えなければいけないと、早苗は心中で意気込んだ。

 茶屋に到着し、席に着くと、霊夢は即座に杏仁豆腐を注文した。早苗は緊張でそれどころではなかった。
注文したものを待つ間、霊夢はうーんと唸りながら虚空を眺めていた。早苗は慎重に霊夢の出方を伺っていた。
「早苗、あんたさぁ」
「は、はいっ」
「さっきの件の犯人、誰だか分かってるよね?」
「封獣ぬえ、ではないかな、と」
「私もそうだと確信してるわ。つまりこの件、解決がすっごい簡単な訳」
「その上、大きな人助けにつながるんですよね」
 霊夢は無言で頷いた。
二人とも沈黙してしまった。
霊夢のこの沈黙は、「新参が調子に乗るな。ここは私に回すのが常識だろ」と言う圧力か何かにしか、早苗には感じられなかった。
 会話が無いまま時だけが過ぎ、いつの間にか霊夢の前には杏仁豆腐が置かれていた。
それを一口だけ口へ運び、飲み込んだ後、霊夢が再び口を開いた。
「はっきり言って、私が解決したいわ」
「……はい。でも、私も解決したいです」
「そうよねぇ」
 霊夢は腕を組み、あれこれと考えているようだった。
「いや、でもぬえか……面倒くさいかなぁ。前一回叩きのめしたし……」
「……」
「早苗」
「はいっ」
「もう一個杏仁豆腐を頼もうと思っているのだけど、そのお代、あんたが払ってくれない?」
「え?」
「そしたら、この件はあんたに任せるわ」
「はい!?」
 霊夢の唐突な提案に、早苗は素っ頓狂な声を上げてしまった。
霊夢は、なんだか先輩風を吹かせているような自分が照れくさいのか、指を絡ませたり、目の前にあるスプーンで皿を叩いたりしながら、慎重に言葉を選んで口を開いた。
「いや、まあ、あんたもがんばってるし、たまには花を持たせてやろうかなぁ、ってね?」
「ほ、本当ですか?」
「私は一回ぬえを退治したしね。それに、杏仁豆腐食べたいし。どう? それとも杏仁豆腐代を浮かせる?」
「い、いえっ。せっかくだから、私がこの一件を受け持ちます!」
「よし。任せたわよ。あなたのやり方で退治するといいわ」
 こうして早苗は、ぬえ退治の権利を手に入れた。
 博麗と言うブランドを持つ霊夢と同行していながら、自分の事も頼りにしてくれた依頼主。
そして、自分に仕事を任せてくれた霊夢。
この二つの要素が、早苗を酷く喜ばせた。

 やり方は任せると霊夢が言っていたので、早苗はぬえの元に辿り着くまでの間、いろんな事を考えていた。
「霊夢さんは厳重注意が主でしたね。一度コテンパンにして反省を促す。しかし、ぬえは一度霊夢さんにやられています。にも関わらずこの結果と」
 注意を受けていながら、反省をする気がない。つまりもうぬえの改心には期待ができない。
「生きる必要はありませんねっ」
 満面の笑顔を浮かべたまま、早苗はこう結論付けた。


*


 ひんやりとした空気を感じ、封獣ぬえが目を覚ました。
覚醒直後に感じたのは、自分が不自然な体勢を取らされてると言う事だった。
「あ、あれ?」
 まるで十字架に架けられたように、ぬえは拘束されていた。
両手首と首には頑丈な枷が施してあり、そう簡単には抜け出せそうにない。両足も枷が付いていて、自由な動きはできない。
 そこらをうろついていたら、突然頭に強い衝撃が加わり、気を失った。
そして目を覚ましたら、どこなのか分からない場所で縛られている。
「誰よ、こんな事するのは!! 出てきなさい!」
「はいはーい」
 まさか返事が来ると思っていなかったぬえは、まさかの即答に一瞬怯んだ。
しかし、聞き覚えのあるその声に、恐怖心は吹っ飛んでしまった。
「早苗……!?」
「御機嫌よう。大犯罪者、封獣ぬえさん。白蓮さんの件と言い、昨今の正体不明の種と言い、やりたい放題やってますね」
「な、何のつもりよこれは! さっさと外して!」
「それはできません。今日はあなたを処罰する為に、こうして拘束したのですから」
「処罰?」
 処罰されるに値する事をした記憶が無い訳ではない。悪戯など日常茶飯事だ。
しかし、まさか罰せられるとは思っていなかったようで、ほんの僅かだが、焦りの色が伺える。
それでも平静を保って入れているのは、罰する者が人間である早苗だからであろう。
人間のする罰なんて限界がある。所謂、人情とかが影響し、ある一線をどうしても越えられないからだ。
 状況を理解した途端に、僅かにあった焦りすら消えてしまったようだった。
ふんと笑い、強気な態度をとりはじめた。
「それで? 私を一体どうするつもりよ」
「それはですねぇ」
 待ってましたと言わんばかりに早苗はにっこりと笑い、傍の机に置いてある大きな鋏を手に取った。
そしてそれを、ゆっくりとぬえへ向ける。
「何を……」
「痛くはしませんから」
 そう言うと早苗は、その鋏を使って、ぬえの服を切り始めた。
「ちょっと! やめなさいよ、変態!」
 ぬえの罵倒を無視し、早苗は作業を進める。
あっという間にぬえの服は切り落とされ、残ったのは下着と二―ハイソックスだけとなってしまった。
恥ずかしそうに顔を赤らめるぬえを見て、早苗はケラケラと笑う。
「長く生きてるのに、貧相な体つきですね」
「う、うるさい!」
「まあ、どうだっていいですよ」
 服を切り終えると、早苗は鋏をぽんと放り投げ、数歩後退した。
そして、とびきりの笑顔を見せたまま、ぬえにこう告げた。
「さて、ぬえさん。あなたは罪を重ねすぎました。よって私が処罰します」
「何の権利があってそんなことできる訳?」
「私はこの幻想郷の治安を維持する役を担っているつもりです。それが霊夢さんにも認められ、晴れて今日、あなたの罰を任せらたのです」
 そう言うと早苗は、ぱんと手を鳴らし、なおも笑顔で言葉をつづけた。
「封獣ぬえ。あなたは霊夢さんからの警告も無視して、人間に迷惑をかけました。もう更生する気はないんですね?」
「更生? はっ。バカじゃないの? なんで人間なんかの忠告を素直に聞き入れなきゃいけないのよ」
「はい、更生する気なし、と言う事ですね。それじゃ死刑決定です」
「え!?」
 あまりに急すぎる早苗の決定に、ぬえが目を丸くした。
拘束具をがちゃがちゃと鳴らしながら叫ぶ。
「ちょっと待ちなさい! なんで、なんで殺されなきゃいけないの!?」
「更生する気がないからですよ。あなたはこれ以上、自分をよくしていく気が無いみたいですから、生きるだけ無駄と判断しました」
「わ、分かった! 反省する、反省するからさ……」
「まぁまぁ、いいですよ。どっちにしろ殺そうって思ってましたから」
 笑いながら早苗は、近くにある暖炉に歩み寄って行った。薪が大量にくべられている。
そこに、早苗が火を放った。あっという間に炎は勢いを増し、熱を発し始めた。
煌々と輝く暖炉の炎を指差し、早苗が叫んだ。
「実はですねー、ぬえさん。今、あなたの体は変化が起きているんです」
「へ、変化?」
「あなたの体、蝋なんです」
 早苗のとち狂った発言に、ぬえは言葉を失った。
その言葉の真偽の程は、笑ってばかりいる早苗からは察しがたい。
 そんなぬえの思いはよそに、早苗は言葉を続ける。
「この部屋は、紅魔館のある一室です。処刑を行いたいと言ったら、快く貸してもらえました。で、この暖炉の影響で、十分後くらいにこの部屋の温度はある点を超えます。そうなると、どうなるでしょう?」
「……?」
「蝋が溶けるんです」
「蝋が……?」
「学習能力皆無のあなたにも分かりやすいように言ってあげますと、あなたが溶け始めるんです。体が蝋に変化してますから」
 近くに積んである薪をぽいぽいと暖炉に放り込みながら、早苗が言う。
まさか十分後に自分が溶けて死ぬなんて、そんなバカなことがあってたまるかとぬえは思った。
「う、うそでしょ? 脅してるんでしょ!?」
「まったくもう、分からずやさんですねぇ」
 なかなか状況を理解しようとしないぬえのために、早苗はもう一仕事してやることにした。
 先ほど抛った鋏を拾い上げ、今度は服で無く、拘束されているぬえの右手の指一本を切り落とした。
激痛にぬえが狂ったような叫び声をあげている最中、早苗はその指を暖炉の近くへ持っていく。
「いいですかーぬえさん。よく見ててください」
 ぬえが早苗の方を見ると同時に、その指を炎に近づける。
するとどうだろう。黒く焦げる筈の指はぐにゃりと曲がり、あっという間に形を失ってしまった。
照明用に用いられる蝋燭のように、たらりと液体化し、地面にじわりと拡がっていく。
 いよいよ顔を青くしだしたぬえへ、早苗はピースサインを送った。
「最近、私の神社もだいぶ信仰が集まってきまして。神奈子様らが強くなると同時に、私も力を頂けるのです。今回はちょっとがんばって、奇跡の力であなたを蝋化しました」
 普段の早苗なら、こんな事は出来る筈がない。
しかし、霊夢や里の者に認められたと言う事実があまりに嬉しかったようで、持っている以上の力を発揮することができたようだ。
 もう何も言い返せなくなってしまっているぬえに笑顔を見せながら、早苗は出口のドアに手を掛けた。
「それじゃ、部屋の温度が上がるまで、自分がやってきた事を悔いながら過ごしてください。あっ、そうそう。化けて出ないでくださいね。失礼します」
 そう言い残し、早苗はドアを開け、部屋を去って行った。
残った者のは拘束されたぬえのみ。ぱちぱちと音を立てて燃える暖炉の炎の音が、やけに大きく耳に入ってくる。


*


 自身の命が後十分程度だと言う事が確定した途端、ぬえはどうしようもない恐怖と焦燥感に見舞われてしまった。
枷を外そうと我武者羅に手足を動かすが、がちゃがちゃと鳴るばかりで何の進展もない。
「助けて!! 誰かいないの!? 誰か!!」
 あらん限りの声で叫んでも、紅魔館のちっぽけな一室から放たれる怒声は、廊下の半ばで空しく虚空へ消えるばかりだろう。
そんな事はぬえ自身、十分に理解できている事なのだが、叫ばずにはいられない。
薪から発せられるぱちぱちと言う耳障りな音をかき消す為、恐怖を紛らわす為、そして、万が一助かるかもしれないと言う淡い期待を持って叫んだ。
 しかし、現実は非情である。
音は消せても炎は消えない。それ故、恐怖も紛れない。当然の事ながら、助けなど来る筈がない。
叫ぶ事に何の意味も無いと感じ、ぬえは叫ぶのを止めた。
何者かの助けなど期待している場合ではない。己が力で、どうにかこの状況を切り抜けなくてはいけない。
 だが、頑丈な枷は壊れそうもない。彼女の持つ能力は極めて特殊なものではあるが、破壊力がある訳ではない。
結局、時間ばかりが刻々と過ぎていく。少しずつ上昇していく室温に比例し、ぬえの焦燥感も増していく。
「やだ、やだよ、こんなところで死ぬなんて……!」
 ようやく安住の地を見つけ、聖らと楽しく暮らせる環境を手に入れたと言うのに、こんな結末はまっぴら御免であった。
しかしいくらぬえが助かりたいと願おうとも、燃え盛る炎は着実の部屋の温度を上げていく。
 よく見てみると、ぬえの拘束されているこの部屋は、普通の部屋とは訳が違うようだった。あまりに無骨なのだ。
テーブルや椅子などない。窓すら無い。天井には粗末な照明器具がぶら下がっているだけで、煌びやかな装飾もない。
壁も床も天井も灰色の石質で、絨毯が敷かれている事も、絵画が飾られている事もない。
明らかに客を招く為の部屋ではないし、住まう者が生活をする部屋でもない。
きっと吸血鬼御用達の拷問用の部屋なのだろうとぬえは推測した。
今、彼女がそうされているように、こうやって暴力的に部屋の温度を上げ、受刑者を蒸し殺す為の部屋なのだ。

 拘束から解かれる事はできないので、彼女は部屋から逃れる事より、室温の上昇を食い止める術を探す事にした。
動けないそのままの状態から、顔と目を必死に動かし、この絶体絶命の状況を打開する方法を探す。
だが、見る限り、それらしいものは一切見当たらない。
都合良く仕掛けを解くスイッチがあるとか、消火に使える薬品の置いてある棚があるとか、そんな展開はない。
 焦るぬえの額から、たらりと汗が滴った。
死を目前にし、冷や汗をかいているのもあるだろうが、それよりまず先行しているのは、室温の上昇だった。
無意識の内に体が反応してしまうほど、部屋の温度は上昇し始めているのだ。
 体が感付き始めるほどの温度の上昇を確認し、ぬえはもう正気でいられなくなった。
「ああああああああああ!! ああっ、あああああ!!! うああああああ!!!」
 訳の分からない、全く意味を持たない言葉を叫び、乱暴に拘束を解こうとした。
壁に取り付けられた拘束はがちゃがちゃと音を鳴らすが、外れる事も壊れる事もなく、ぬえを壁に貼り付ける。
それでもぬえは性懲りもなく、獣のように声を張り上げながらその場から逃れようとした。
汗か涙か分からない液体が、頬を伝う。
 完全に取り乱していたぬえだったが、それが不意に止まった。手首と足首に異常な熱を感じたのだ。
その箇所には、彼女を拘束する枷が取り付けてある。
 枷は材質の関係で、熱を蓄えやすい性質を持っているようで、室温より高い温度を出したらしかった。
高温の枷が、ぬえの手足首を痛めつける。耐え難い苦痛を与える枷だが、それを外す術は無い。
「あづいいいい!! やああああああ!!!」
 自身を苦しめる枷をどうにか体から引き離したいが、結局彼女にできる事と言えば、相も変わらず、性懲りもなく、暴れ狂う事くらいであった。
しかし、次の瞬間だった。

 ベキン、と何かが折れる音がして、ぬえは前のめりに倒れた。
あまりに不意な事だったので手を地面に付く事もできず、顔から地面へ突っ込んでしまった。鼻を強打し、そこから血があふれ出てきた。
しかしそんな痛みは些細なものであった。それ以上の激痛に見舞われていたのは、手足首であった。
 枷の持つ高い温度が、蝋化したぬえの体をいち早く溶かし始めていたらしかった。
脆くなった手足首は、ぬえが暴れた事により折れてしまい、結果彼女は前へ倒れてしまったのだ。
 手足首と引き換えに自由を得たぬえは、ずりずりと地面を這うように進み、出口の扉を目指した。
足首から先が無いので歩く事ができないが、今出せるであろう最高の速度で出口へ向かう。
 やっとの思いで扉の前へ辿り着いたぬえは、骨が露わになっている両手を伸ばし、扉のノブを回そうとした。
しかし、ノブに触れた途端、中途半端に折れているぬえの手の先が溶けだした。
「うぎゃあああああっ!」
 傷口に熱した金具を押しつけられるに等しい痛みがぬえを襲った。
ただでさえ短く折れていた腕がさらに短くなった。ぬえの体であったものは、液状となって腕を伝う。
 出口が目の前にあると言うのに、その扉を開ける事ができないと言うもどかしさ。そして焦り。
 激痛を死に物狂いで抑え込み、手でノブを回そうとした。
だが、ノブはびくともしない。もはや手の形を成していない、折れた木の棒のような手では、ノブは回せないようだった。
「く、くそぉ……!」
 やむを得ずぬえは、大きく口を開け、ノブに噛みつき、それを回そうとした。
歯までは蝋化していなかったようで、歯が溶ける事はなかった。
その代わり、ぬえの口元が勢いよく溶けだした。
「ぐぎぃっ、あっ、ぐぃ、あが、があああっ」
 口の周囲が溶かされ、まるで裂けていくかのように、口が広がって行く。そんな外傷は気にせず、ぬえは作業を続けた。
 そんな賢明な努力が、遂に報われた。
 ガチャリと音が鳴り、室外のひんやりとした空気が入り込んできた。
「やっひゃぁ……」
 助かったとぬえは思った。
そのまま前へ体重を掛け、扉を開いた。
両手足を失い、顔が半ばまで溶けたぬえが、その部屋の外へと這い出た。
 なんとか残っている目が最初に見たものは、何者かの足だった。
「ほえ?」
 見上げたぬえの目に映ったのは、手頃な大きさの斧を手に持ち、微笑んでいる早苗の姿。
「よく逃げられましたねー。でも残念。あなたの人生は、ここで終ってしまうのです」
 早苗が斧を振り上げ、ぬえの頭目がけて思い切り振り降ろした。




「お部屋貸してくださってありがとうございましたー」
 ぐちゃぐちゃになっているぬえの死体を引き摺りながら、早苗が紅魔館のメイド長に挨拶をし、紅魔館を去って行った。
「さて、これで人里は救われました。この死体は燃やしてしまえばいい。骨は適当に撒いておけばいいですね」


*


「あれ、早苗」
 霊夢が空前、早苗を見つけた。
何故か焚き火をしている早苗を見て、霊夢は顔をしかめた。
「何してるの、こんなところで」
「あっ、霊夢さん! ついさっきぬえを退治しましたよー」
「そうなの」
 特に興味はなかったが、参考までに、早苗の妖怪退治の術を霊夢は訪ねてみる事にした。
「あんたはどういう風にやってるの?」
「はい。まずですねー……」




 説明を聞かされてから、霊夢が早苗に妖怪退治を任せる事はなくなった。
 pnpです。

 今作は、題名が先行しました。
 蝋の溶け方とか、そういうものはよく分かりません。そもそも身体が蝋化ってのもよく分かりませんが。
ファンタジーですので、細かいことは気にしないでお楽しみ下さいませ。その方が双方幸せです。
 因みにろうそくの巻とか言っていますが、シリーズ化することはありません。ご了承ください。

 ご観覧、ありがとうございました。

++++++++++++++++++++
>>1
なんかその言葉、ときどき見かけますね。なんなのかは知りませんけど。

>>2
割といい子想定して書いていますよ。嬉しくてちょっぴりがんばりすぎた風神録頃に抱いていたイメージの早苗さん、と言った感じです。

>>3
何故か風→地→星と、私の中でどんどんイメージが悪くなっていく早苗さん。不思議です。

>>4
どの台詞でしょうか。
発想は私独自で考え付いたのではなく、以前掲示板で話題になっていたのを思い出して書いたからですよ。

>>5
でも任せると、連日早苗さんの妖精・妖怪処刑が見れますよ。ルナチャあたりは毎日やってもいいや。

>>6
あまり見ないと掲示板で話していたので、書いてみました。
これはなかなか面白いんですけど、変化に至る経緯が難しいです。奇跡とか便利すぎる。

>>7
私と早苗さんより先に、状態変化の話をしていた掲示板のみなさんに敬意と乾杯を。

>>8
残酷な事を平然とやってのける様が似合うんです、早苗さんは。あんまり好きなシチュエーションではないんですけど^^;

>>9
タイトルは漢字にすると「変体ぬえちゃん」となるんです。タグにグロ入れないでいようかと思っていた時期が、私にもありました。

>>10
いろんな作家さんが考えたまさかの状態変化と言うのは、確かに面白いかもしれませんね。

>>11
作品の雰囲気は、確かに以前に戻ったような感覚がしました。
珍しいらしい状態変化を取り入れたとは言え、味気なさすぎるかなと思っちゃったのは、よい事なのか悪い事なのか。

>>12
星の早苗さんならそうなります。「まだ努力が足りないのだな」とより高度な虐殺を始めるのが風の早苗さん。私の勝手なイメージですが。

>>13
早苗さんビッチ説の出所がすごく気になるのです^^;

>>14
私は好きというより、やってみたと言った感じです。これを機に増えていくといいですね。

>>15
奇跡って起こり得ない事を言うらしいので、やりたい放題できる便利さを持つのです。
しかし起こせた時点で起こり得ない事じゃないから奇跡じゃないよって意見も同意できますけどね。

>>16
恋するドキンと恐怖のドキンは同質らしいです。キュンの場合も同じとすると、あなたは早苗さんに恐怖した可能性があります。

>>17
早苗さんは常識にとらわれないので、こんなことしても笑顔はまぶしそうですよね。
pnp
作品情報
作品集:
13
投稿日時:
2010/03/31 00:19:54
更新日時:
2010/08/29 11:08:29
分類
ぬえ
早苗
グロ
へんたい
1. 名無し ■2010/03/31 09:44:56
絶対許早苗
2. 名無し ■2010/03/31 09:57:34
序盤でこの早苗さんはいい子なのかなーと思ったが別にそんなことはなかったぜ!
3. 名無し ■2010/03/31 10:16:23
↑激しく同意
4. おたわ ■2010/03/31 10:53:19
あの早苗さんの台詞は反則すぎる
思わず吹いてしまったではないですか

早苗さんの暴虐っぷりもさる事ながら
ぬえの泣き叫ぶ姿や斬新すぎる発想も素晴らしい……
5. 名無し ■2010/03/31 12:15:11
そりゃ任せんわwwww
6. 紅のカリスマ ■2010/03/31 12:16:49
何げにあまり見ない東方キャラの状態変化……こういった方面のSSも増えて欲しいですね。
7. johnny tirst ■2010/03/31 12:24:51
斬新な処刑法を考えついたpnp氏と実行した早苗さんに乾杯
8. 名無し ■2010/03/31 13:31:39
さなえちゃんのほうがへんたいだよ
9. 名無し ■2010/03/31 14:32:26
なるほど、へんたいだ!
10. 名無し ■2010/03/31 15:05:48
状態変化…確かにもっと増えて欲しいな
11. 名無し ■2010/03/31 19:04:13
こういう王道な虐待ものが最近なかったからすごく潤った
ありがとう
12. 名無し ■2010/03/31 19:15:16
多分、任せてもらえなくなったのを「霊夢さんは私の才能に嫉妬してる」くらいにしか思わねーんだろうな……
13. 名無し ■2010/03/31 19:24:01
まあ所詮サナビッチちゃんだし
面白かったです
14. 名無し ■2010/04/01 02:48:52
状態変化大好物な人もっと増えろもっと増えろ
15. ぷぷ ■2010/04/01 22:59:58
早苗さんパネェ
16. マジックフレークス ■2010/05/12 16:08:57
>「生きる必要はありませんねっ」
キュン
としました。これは……恋?
17. 名無し ■2010/07/20 16:50:30
里の人間は保護対象(Byぐもんしき)なので、弾幕ごっこでは許早苗だったのでしょうね。
早苗さんのまぶしい笑顔にきゅんとなりました。
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