あいとおうと

作品集: 14 投稿日時: 2010/04/04 22:55:26 更新日時: 2010/04/05 00:16:59
「それじゃあ、あとお願いね」
「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」
 ここは紅魔館のエントランス。今まさに出掛けようとしているパチュリーを紅魔館の面々が見送りしているところだった。
 チョコレートみたいなオーク樹の扉を開けて出掛けようとするパチュリーは手ぶらで割と身軽。遠くまで行かないようだ。けれど、その格好はいつも通りのゆったりとした服装のように見えてとても品のいいものを選んで着ている。お化粧もばっち。普段とは違うめかしこみをしているようだった。
 その後ろ姿を、手を振って見送るのはメイド長の咲夜と司書の小悪魔、それと偶然、エントランスホールで一緒に遊んでいた美鈴とフランドールだ。
「じゃあ、今日は…多分、帰らないから」
 最後にもう一言だけ告げてパチュリーは日が傾きかけた西の空、魔法の森の方へと飛び立っていった。

「なんか今日のパチュリー、きれいだったね。どうして?」
 と、咲夜のスカートを引っ張りながらフランドールが訪ねる。
「ふふふ、魔理沙のところへ行くからですよ、フランお嬢さま」
 優しく諭すお姉さんのような笑顔で咲夜は応えた。後ろではきゃーっ、と小悪魔と美鈴が中良さそうに顔を赤くしてはしゃいでいる。
 しかし、まだまだ、フランドールは理解できない様子。首をかしげて更に咲夜に訪ねる。
「どうして魔理沙のところにいくのにきれいにしなくちゃいけないの」
「フランお嬢さまがもう少し大きくなればわかりますよ。大きくなって、恋をすれば、ね」
 人差し指を立てて今度はすこしおませなお姉さんのように教える咲夜。
 その後ろでは小悪魔と美鈴がイヤイヤ十分年取ってますから、と手を振っていた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 まだ少し肌寒い春の幻想郷の空をパチュリーはゆっくりと飛んでいく。
 ともすれば急ぎそうになってしまう自分を抑えて。
「ふふふっ」
 けれど、自然に笑みは漏れてしまう。なんたって今日は魔理沙…パチュリーが大好きな女の子の家に遊びに行くのだから。

 いつもは大抵、魔理沙がパチュリーの元へ遊びに来るのが普通だった。
勝手気ままな時間に窓とか裏口から入ってきて、勝手にお菓子を食べたりお茶を要求したり、そうして勝手に図書室の魔導書を読んだり聞いてもいない話を聞かせてきたり、それで気がつくと勝手に姿を消しているのがいつもの魔理沙だった。
いつからだろうそんな魔理沙の横顔をちらりと盗み見るようになったのは。いつからだろう今日は来ないのかな、なんて窓を見上げるようになったのは。
気がつくとパチュリーの心の中にはいつも魔理沙の笑顔があって、想像じゃない本当の彼女の笑顔が見るのがすごく待ち遠しくなって、そして、それが恋なんだな、って気がついたのは。

けれど、魔法の知識ぐらいしかもっていないパチュリーはそれからどうすればいいのか分からず、ずっとその事を胸に秘めてこれまで暮らしてきた。たまに顔を見て、少しだけお話しして、一緒にお茶を飲んで、それだけで十分だと自分に言い聞かせてきた。
魔理沙が来なかった日に寂しくて涙を流しても、つい強がって彼女に酷いことを言ってしまって後で嫌われたんじゃと絶望しても。
ああ、恋煩いって本当に病気なのね、と自嘲げに笑いながら、耐えて耐えて耐えて、そうして、耐えきれなくなって胸が張り裂けそうになったとき、一昨日の夕方だ。

「なぁ、たまには家に遊びに来ないか?」

 なんて魔理沙に言われたのは。
 その時は混乱と緊張のせいでどう返事したのかまるで憶えていなかった。私の愚か者、と自分をののしり、恥を忍んで一緒の部屋にいた咲夜に聞くと、「ええ、ええ、かわいか…じゃなかった、しっかりとお返事なさってましたよパチュリー様は。明後日の夕方頃に魔理沙の家に行けばいいそうです」と余計な1/2言付きながらもメイドの鏡のようにしっかりと自分が知りたい情報を教えてくれた。やった、と強く握り拳を作ったのはパチュリーの名誉のために言わないでおこう。

 ともあれ今日はパチュリーにとって人生最良の日になる予定だった。
 知らない内に鼻歌がもれ、ふらふらと遊覧飛行を始める。妖精や妖怪、たまに巫女なんかが飛び回っている幻想郷の空でその飛び方は危なっかしくて仕方がなかったが、幸いにもパチュリーは事故一つ起こすことなく静かに飛ぶことができた。

 約束を取り付けた日からパチュリーはほとんど眠ることが出来ず、今朝からくまの出来た眼のままで咲夜に手伝って貰いながら衣装を選んでいたのだった。体力はその後、回復魔法と咲夜お手製の料理(ついでに咲夜は“特製ドリンク”なるものをつけてくれたが、パチュリーが「材料は?」と訪ねると「赤まむし、ニンニク、高麗人参…」と言い始めたので下げてもらった。美鈴にでも呑ませれば三日三晩は寝ずの警備が出来ると思う)で回復させたが、体調はすこし芳しくない。持病の喘息も出始めてきたようだ。けれど、春の陽気に中てられたみたいに浮ついたパチュリーはそんなこと気にもしていなかった。ああ、魔理沙の処へ遊びに行けるのなら死んだって構わない、とそんな調子だった。

 やがて、魔法の森の中に小さな光点を見つける。
 カンテラが照らす優しい光り。魔理沙の家だ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「こ、こんばんは」
 一呼吸置いてから雨に晒され古びた扉をノックする。
 大丈夫かしら、声はうわずってなかったかな、リボンは…曲がっていないわね、とパチュリーは返事が返ってくる前に最後のチェックをする。
 と、
「お、タイミングがよかったな。すれ違いになるところだったぜ」
「ひゃっ!?」
 唐突に後ろから声をかけられた。
「ま、魔理沙?」
「よっ」
 振り返るとそこには家の中で待っていると思っていた家主、霧雨魔理沙が立っていた。手には小さなカゴ。中にいろいろな種類のキノコが収められている。
「ちょっと食材を取りに行ってたんだ。ああ、今開けるからちょっと退けてくれ」
「分かった」
 ぎぃ、と錆び付いた音をたてて扉が開かれる。魔理沙は一足先に家の中に入ると茸が入ったカゴを適当な場所において、「どうぞ、上がってくれ」と妙に芝居がかった態度でパチュリーに促した。う、うんと頷いたパチュリーはもう心ここにあらずと言った感じだった。

「もうちょっとで出来上がるから椅子にかけて待っててくれ」
 ダイニングまで通されたパチュリーは右手と右足を同時に出すような動作で言われたとおり椅子に座った。
 大木の幹を輪切りにしてそのままニスをぬった歪な形のテーブルの上にはもう幾つか料理が並べられている。小鉢に入れられた菜の花のボイルサラダ。串に刺されて焼かれた川魚。芋と鶏肉を煮てお醤油で味付けしたもの。豆腐のミソスープ。大根のピクルス。それと日本酒の小瓶とお猪口。とても美味しそうな和食だ。それらが二人分、綺麗に並べられている。
「な、何か手伝おうかしら」
「ん〜、いや、いいよ。もう、出来上がるから」
 コップの水と何か漢方らしきものを飲んでから、お玉でぐつぐつ煮えている鍋の中身を少しすくいだし、味見する魔理沙。もう少し塩加減が、と呟いてからパラパラと鍋の中へ塩を入れる。
「よし、完成。魔理沙様特製の茸がゆだぜ」
 にひ、と太陽みたいな笑みを浮かべて湯気の立つ雑炊をお椀によそう魔理沙。まだ形が残っている白米に溶き卵の金色と茸達の茶色、小さく切った人参の赤、それに輪切りの葱の緑色が調和しとっても美味しそうに見える。わぁ、とパチュリーは知らない内に感嘆の息を漏らしていた。
「ほい。お箸は? 使えるか?」
 お椀によそった雑炊をパチュリーの席の前に置く魔理沙。つづけて自分の分をよそいつつそんなことを聞いてくる。
「いえ、屋敷だといつも洋食だから」
 咲夜が作る料理はえしてそればかりだ。作れないこともないのだろうけれど紅魔館の住人は一人を除いてみな朝はパン派だ。以前、その最後の一人が作った“中華料理”を食べるのに難儀した記憶がある。
「そっか。じゃあ、ナイフとフォークがいるな。ちょっと待っててくれ。ああ、あった、コレだ。スプーンは見あたらないから杓子でいいか」
「ええ、大丈夫」
 ナイフと竹で出来たフォークと小さなスプーン、杓子を渡され受け取るパチュリー。その時、指先が魔理沙に触れた。
「あ」
「どうかしたのか?」
 一瞬だけの接触。けれど、パチュリーはその感触を絶対に忘れないだろう。
「いえ、いただきましょう。お腹が空いたわ」
「はいよ。たぁんと召し上がってくれ」

「「いただきます」」
 魔理沙に「和食を食す時はこうするものだぜ」と教えられ、倣うように両方の手を合わせ、目を伏せて拝むパチュリー。洋食を食べるときに神にお祈りするように、和食を食べるときは野菜を作ってくれたお百姓さん、料理を作ってくれた人、そして、今日を一日生き延びた自分に感謝の意を表すのだ。これも魔理沙のうけおり。因みに屋敷で神様にお祈りすると浄化の炎に焼かれる人が三人ほどいるため、食事の前のお祈りは禁止である。

 杓子で雑炊をすくい一口。塩だけの簡単な味付けながら、いや、だからこそ卵と人参のうま味が際だって感じられる。一口噛めば軟らかいご飯の甘み、それと出汁をたっぷりと吸い込んだ茸の歯応えが返ってくる。優しい味わい。これは意識しなくても自然に言葉にしてしまうほど…
「…美味しい」
 料理だった。
 満足げに笑って魔理沙も一口食べる。味を確かめパチュリーの言葉がお世辞ではないことを確認すると、うん、と頷いた。
「他のも食べてくれ。あ、ついでに霊夢んとこからいい奴を一本、戴いてきたんだ。これも呑もうぜ」
 そう言って魔理沙はテーブルに置いてあった日本酒の封を開ける。とくとくと無色透明の液体が白磁のお猪口に注がれ、仄かにお米の匂いを広げる。
「無加水の本生だ。いけるぜ」
「こっちも…美味しいわね」
 日本酒を呑んだことがないパチュリーだったが魔理沙にいただいたそれも自然と顔が綻ぶほど美味しいものだった。フルーツのような甘い香りと味。パチュリーは日本酒と言えばワインに比べて甘ったるいどろっとした風味のする呑みにくい余り美味しくないお酒と考えていたようだが、この一口で考えががらりと変わってしまった。口当たりもよく呑みやすい。それゆえ歯止めがきかないようにくいくいと呑んでしまう。
「お、いける口だな、パチュリー。まぁ、もういっぱい」
「うん…ありがとう…」
 酔いが回り少し赤く桜色に染まった顔でパチュリーは頷くと、腕を伸ばしてもういっぱい、魔理沙に注いでもらった。
 晩餐はまだまだ続くようだった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 他の料理も美味しくパチュリーはそれらを味わいながら魔理沙との楽しいひとときを過ごしていた。美味しいお酒に美味しい料理、それに大好きな人。本当に今日は人生で一番いい日ね、とパチュリーは微笑む。その顔を見て魔理沙も嬉しいのか微笑み返してくれた。
 この調子なら、もっと、もっと、もっと魔理沙と仲良くなれるんじゃ…パチュリーはそう想い始めた。雰囲気とアルコールに促されて、恋する乙女の心に勇気という名の炎が灯った。
「あ、あのっ、魔理沙…!」
「ん、どうした?」
 アマゴの塩焼きにかぶりつきながら魔理沙が聞き返してきた。
 タイミングが悪かった、私の愚か者、と内心で焦りをみせるパチュリー。けれど、一度はなった弾幕が止められないようにもう誰もパチュリーの事を、パチュリーの告白を止めることはできなかった。
「わ、私、貴女のことが…」
 だっていうのに、
「えっ?」
 視界が暗くなるのを感じる。あれ、という疑問も黒く塗りつぶされる。めまい、頭痛、寒気。体中を悪霊が突き抜けていったみたいにありとあらゆる不良を感じる。
「おい、大丈夫かパチュリー?」
 魔理沙が声をかけてくる。けれど、それに返事もできずパチュリーはううっ、と俯く。胃の辺りがむずむずする。いや、きりきりというかまるでナイフの塊でも飲み込んだみたいに酷く痛む。お腹を押さえるけれど効果はない。回復の魔術を唱えようとするけれど頭痛が邪魔をして術を構成できない。ガマガエルが出す粘液みたいな嫌な汗が額からぽつりぽつりと流れ出てくる。ダメ、と身体を抱えるが寒気は暴れ馬のように止まらない。
「魔理沙…おトイレ貸し…うぅ」
 立ち上がりなんとか無様な格好だけは見せないようにしないと、そう行動しようとするパチュリー。けれど、無情にもそれは間に合わなかった。

「うぷっ。うげぇ、うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
 胃が脈動してひっくり返る。そんなイメージ。普通は下へ下へ食べた物を送るはずの食道が逆再生したみたいに脈打つ。嘔吐。胃の中に収まっていたものたちが堰を切った濁流みたいにあふれ出してきた。
 慌てて口を押さえるけれど、口の中の広さより食べたり呑んだりしたものの方が多い。次から次に逆流してきてあっという間に満員。指の間から液状化した食べ物たちがあふれ出てきて押さえきれなくなって、パチュリーは床の上へとそれらをブチ撒けた。
「うぇぇげほっおぇぇ…」
 それでも嘔吐は止まらず続く。息が出来なくなり頭が酷く痛くなる。瞳が見開かれ眼球が飛び出しそう。目頭には涙がたまり、勢い余った消化物は鼻腔の方にも流れてきた。げほげほ、とパチュリーが激しく咳き込むと鼻の穴からまだ形が残っているご飯粒が飛び出してきた。
 すえた匂いが鼻につく。口の中には苦い味が広がり、ぴりぴりとする。胃液の味。それでまた気分が悪くなったのかもう何も残っていないだろうに、無理矢理、喉を張り詰めさせえぇえぇ、と横隔膜を痙攣させるパチュリー。出てきたのは少量の胃液―朱色が混じっている、だけだった。吐いたときに喉を傷つけたのだろう。

「はぁはぁはぁ…ああっ」
 荒い息をついて自分の吐き出した物…ぐちゃぐちゃの半液状のブツ、を見据えるパチュリー。だんだんと身体は落ち着いてきたみたいだけれど、心はそうもいかないようだった。
「あ、ああぁぁぁぁ」
 嗚咽が漏れ、目頭に涙があふれかえってくる。視界がにじむ。
 ああ、私の愚か者。心の奥底で自分自身に毒ずく。いや、声に出ていたかも知れない。
 こんな、こんな粗相をするなんて。一昨日からまともに寝てなかったから? 呑み慣れていないお酒を呑みすぎたから? 浮かれすぎて自分の体調が悪いことに気がつかなかった? どれもこれも言い訳で、そして、もう取り返しが付かない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁん、あぁぁぁぁぁぁぁぁん」
 大粒の涙を流し、稚児のように泣きじゃくるパチュリー。力なく座り込み、膝を自分の汚物に浸してしまう。それに厭わずパチュリーは大声を上げて泣き続けた。服にも吐瀉物がかかってしまっている。咲夜と選んだとっておきの一着だったのに。けど、もう、どうでもいい。そう思うともっと情けなくなってきてパチュリーは吐瀉物の上に倒れ込んでしまった。ああ、いっそ、もっと胃の酸の力が強くて無様な私も溶かしきってくれればいいのに。無様な私にはこの汚らわしいものと同じ物になってしまうのがお似合いよ。パチュリーは自分の出したものの上で涙を流し続けた。

「おい、パチュリー、しっかりしろ。おいって!」
 魔理沙の声も遠い。今日は人生で最悪の日だ。もう、このまま消えてしまいたい。
 そう、願ったとき、不意にパチュリーは起こされてしまった。
「えっ…ううんっ」
 そうして、抱擁。続け様に唇を奪われる。
 唇に感じる柔らかい感触。胃液で濁った口内に広がる別の、味。そして、愛おしい人の息。
「…落ち着いたか?」
 たっぷり十七秒かけてから魔理沙はパチュリーから唇を離した。パチュリーはまだ心ここにあらずといった感じだが落ち着いていて、魔理沙の言葉に「うん」と小さく頷いた。
「…魔理沙、服」
 そっと魔理沙のエプロンドレスを指さすパチュリー。真っ白だったそれは、今は吐瀉物に汚れてしまって見るも無惨なかんじだ。けれど、魔理沙はああ、と裾を広げて見せて
「パチュリーのだから、汚くないぜ」
 そうはにかんで見せた。
 ぼっと火が付いたように真っ赤になるパチュリー。
「バカっ、そ、そんなわけないじゃないの…」
 照れ隠しか、魔理沙を叩くふりをするパチュリー。魔理沙はそれを軽く受け止めながらはは、そうだな、と笑う。
「ところでパチュリー、さっき、何か言いかけてたけれど…」
「えっ、あ、アレは…」
 凍らされたみたいに固まるパチュリー。今更、続きなんて言えるものか。やっぱり、今日は人生最悪の日。なんとか誤魔化さないと、と脂汗を流しながら思案する。けれど、すぐに妙案なんて思いつくはずがなく、その先に魔理沙が口を開いてしまった。
「言えないっか。じゃあ、私の方から言ってもいいかな…」
「えっ…?」
 また、パチュリーが固まる。今度は別の意味で。
「そ、その、違ってたら一方的な事になるんだけど…私も、お前のことが好きなん、だぜ」
 さしもの魔理沙も恥ずかしいのか、そっぽを向き、顔を赤くしながらそんなことを言った。
 パチュリーはその言葉を理解するのに十七秒かかった。
「ま、魔理沙ぁ!」
「なっ、うわっと…!」
 そうして、魔理沙に飛びつくパチュリー。涙…これもさっきとは別の意味での、を流しながら魔理沙魔理沙まりさぁ、と愛おしい人の名前を連呼する。
「あ、あのっ、私も…私も、ずっとまえから魔理沙のことが…」
「ああ、うん」
「す、好きだったの…!」
 もう一度、口づけを交わして二人はお互いの返事とした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「しかし、こ れ は ひ ど い 」
「ご、ごめん…」
 汚物にまみれた自分たちの身体を見回し魔理沙が呟く。パチュリーは俯いて顔を赤くしたままだ。
「近年まれに見る最低の告白場面だったかも」
 うわぁ、と手に付いた魚の皮だった物を振り払う魔理沙。
「むきゅー」
 と、パチュリーは恥ずかしさの余り\ピチューン/してしまった。
「まぁ、でも、私とお前にとって最高なら、それでいいじゃないか」
「えっ…」
 エクステンド。また顔を真っ赤にするパチュリー。
 それが面白かったのか魔理沙はははは、と笑うと廊下の奥の方を指さした。
「取り敢ず、お風呂行ってこいよ。そんな格好のままじゃ帰れないだろ。
 あー、その、せ、洗濯してやるから泊っていけば…いいし」
「だ、大丈夫なの」
「ああ、乙女に二言はないぜ」
 胸を張って応える魔理沙。くすり、とパチュリーは笑みを浮かべる。もう、完全に立ち直ったようだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて。お風呂、借りるわね」
「ああ、服は脱衣所のカゴに入れておいてくれればいいよ。替えは出しておくから」
 それを伝えるとパチュリーは小走りにお風呂場の方へと行った。お風呂場の明かりが灯り、衣擦れの音がして暫くすると湯船から湯を掬う水音が聞こえてきた。

「さて、今のうちに」

 その音を聞いて魔理沙は目つきを変えた。にこやかだった表情から一点、収集癖を見せつけるときの真剣な表情に変わり、床にぶちまけられたパチュリーの吐瀉物に眼を向ける。
 食器棚の引き出しから小瓶を取り出すと魔理沙は吐瀉物の傍らにしゃがみ込み、パチュリーが使っていた杓子をつかってソレを瓶の中に詰め始めた。
 掃除…しているわけではなかった。
 ある程度、瓶の中に吐瀉物を収めるときっちりと金属製の蓋を閉め密封。何も描かれていなかったラベルに一筆刻みよし、と頷く。そこに本日の日付と共に書かれた文句は…

『パチュリーのゲロ』

「念願のコレクション、ゲットだぜ」
 握り拳を作る魔理沙。

 彼女がパチュリーのことを好きだというのは嘘ではない。本当に心の底から本心だ。けれど、真っ直ぐな彼女にしては珍しく、いや、他が真っ直ぐだからこそここだけは曲がっていたのか、魔理沙のパチュリーへの愛情は少しばかりオカシカッタ。

 パチュリーの吐瀉物が収められた瓶を片手に自室へと足を向ける魔理沙。その前に、こいつも戴いておくか、とパチュリーが使っていた杓子も手に持ったまま向かう。
 明かりもつけずに暗い部屋をすすみ、クローゼットを開け、かけられていた黒い同じような物ばかりの服を押しのけ、そこに隠されていた秘密の収納スペースの開き戸に手をかける。特殊な魔法をかけ解錠する。冷気と共に開かれたそこは冷蔵庫のような構造になっており中には…パチュリーの写真や靴下、下着、髪の毛から口紅の跡が残るカップ。はては使用済みのナプキンまで様々なパチュリーが使っていた物、パチュリーに関する物が収められていた。

 収集癖と愛が混じり合ってカオスになった結果がここにはあった。

 実はパチュリーが嘔吐したのは彼女の体調が悪かったせいでも呑み過ぎたせいでもなく、魔理沙が茸雑炊の中に嘔吐を催す毒性を含んだきのこを紛れ込ませていたからだった。同じ雑炊を食べた魔理沙が無事なのは事前に解毒剤になる漢方を服用していたから。蒐集のため、魔理沙はなんとも手間のかかる方法をとったのだ。
「さて、後はおしっことうんちだが…どうやって、手にれるかな。まぁ、今日はあと破瓜の血も手に入りそうだし…暫くは自重かな」
 うん、と嬉しそうに魔理沙は頷いた。
 夜はまだまだ続きそうだった。

END
六作目〜

クリーニングを届けに行く途中で思いつき、
更に今日は酒を買い忘れた所為で強制休肝日で空きっ腹にコーヒーを流し込みつつ書き上げました。

ここに入り浸っていた所為で、嘔吐する女の子がかわいく見えるようになっちゃたじゃないか!

PS.レミリアさまへ
>>おめぇの出番ねぇから!
sako
作品情報
作品集:
14
投稿日時:
2010/04/04 22:55:26
更新日時:
2010/04/05 00:16:59
分類
パチュリー
魔理沙
告白
嘔吐
1. 名無し ■2010/04/04 23:19:57
いいね
2. 名無し ■2010/04/05 00:29:33
まあ…
これも愛だよね!
3. 名無し ■2010/04/05 02:50:47
今の産廃的には久々な感すら有る割とスタンダードなお話で良かった。
4. 名無し ■2010/04/05 18:07:41
きっとアリスはフルコンプリート済みだな。
魔理沙おそるべし…
5. 名無し ■2010/04/06 00:27:53
魔理沙があっけらかんと病んでいてよい
6. ウナル ■2010/04/14 00:05:48
実に良い魔理沙。
パチュリーにお願いしないあたり、安易な方法に頼らないコレクター精神がのぞきますね。
7. 名無し ■2010/05/05 19:36:12
オチに至るまで、たまにこういうにやけ話があるのもここのいいとこだよなー、と思った俺の純情返せw
いやあ愛って素晴らしいね☆
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