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『妖夢の武者修行』 作者: 木質

妖夢の武者修行

作品集: 15 投稿日時: 2010/04/25 05:26:48 更新日時: 2010/04/28 23:32:06
人間の里にある道場
そこで二人の者が剣を交えていた
「でやぁ!!」
魂魄妖夢は上白沢慧音に向け、大上段から剣を振るった
三種の神器『剣』でなんとか受け止めるが、その剣撃の重さに耐え切れず剣を床に落とした
「いや、大した腕だ。降参する」
「はい! ありがとうございます!!」
負けを認めた慧音に、妖夢は深々と頭をさげた

その後、使わせてもらった道場を二人で掃除する

「この武者修行はいつまで続けるんだ?」
妖夢はかれこれ三ヶ月、主の顔を見ていない
今日まで様々な相手と手合わせしてきた。みんな自分を快く受け入れてくれて嬉しかった
「私自身が腕を上げたと納得できるまでです」
それまで白玉楼に戻る気は無かった
この程度で帰っては、せっかく許可を出してくれた幽々子にも、稽古に付き合ってくれた者達にも申し訳が立たないと思っていた

荷物を抱え、玄関で慧音と向き合う
「すみません。突然やってきて『剣の手合わせをお願いします』だなんて不躾なことを・・・宿の世話までして頂き、なんとお礼を言っていいやら」
「お礼なら里が妖怪に襲われたときにでも返してくれればいいさ」
「はい、必ず」

誓い。最後に大きく一礼をして次の稽古相手を探しに行った











天界
「総領娘さま」
客人を連れた永江衣玖は、石に腰掛けて桃を頬張る比那名居天子の前に下り立った
「どうしたのよ衣玖?」
「こちらの方が剣技で手合わせ願いたいと」
衣玖の後にいた妖夢が頭をさげた
「此度は私の剣の修行にお力添え頂きたく。はせ参じた次第でございます」
堅苦しい言葉の後、妖夢は封筒を天子に手渡した
中を開けると上等な和紙が一枚入っており、達筆な字で書かれた『妖夢の武者修行に協力してほしい』という内容の文章と西行寺家の判があった

妖夢は幻想郷の各地に存在する剣で腕に覚えのある者に、試合を申し込んで回っていることを説明する

「突然で大変申し訳ありませんが、私と剣の手合わせしていただけませんか?」
「ええ良いわよ。どうせ暇だし、ちょうどあんたみたいなヤツが来るのを待ってたのよ」
その場で快諾して、上機嫌に両肩を鳴らし地面に突き立ててあった剣を抜く
あらゆるものの弱点を突く緋想の剣。剣からただならぬ気配を感じ、妖夢は唾の飲み込んだ
「まるで私じゃなくてコレに用があるような目ね?」
天子は笑っていたが、その声から不快感がありありと伝わってきた
「あ、いえ。そんなわけでは」
「妖夢さん」
小声で衣玖が耳打ちする。妖夢にどうしても告げておきたいことがあった
「確かに彼女の持つもので最も警戒すべきはあの剣ですが・・・」
「ご気分を悪くさせてしまったことを謝罪します。すみませんでした」
「・・・」

結局、言えずに終わってしまった




試合の場所はこの場で十分だった。広さ、人通りの条件を満たしていた
衣玖を立会人としてルールの確認する

・剣以外の武器の使用は禁止(殴る・蹴るといった五体を使った攻撃は認められる)
・弾幕の禁止
・個別の能力の使用は禁止
・降参は認められる
・有効打を先に入れたほうの勝ち(真剣での勝負の場合、出来るだけ寸止めを心がける)

それらに同意し、お互い剣を手に距離を取る
10mほど離れてから二人は向かい合った


「試合開始です」
衣玖は手をあげて合図した

「では天子さん、よろしくお願いします」
妖夢は軽く会釈してから構えを取る
長刀である楼観剣を左の腰に差して、その柄を握り、腰を低く落とした。いわゆる居合いである
短い白楼剣は最初の時点で衣玖に預けてあるため手元に無い

(あれ。コイツ、腕上げてない?)

今の妖夢を見て天子は眉を寄せた
かつて自分が起こした異変の際に対決したが、そのときよりも貫禄と威圧感が増しているような気がした
構える彼女に、一分の隙も無いことを悟る
悔しいが剣道では相手の方が上なのを認めなければならないようだった

(どうしよっかな〜〜)

天子は頭に手を伸ばした。二人をやや離れた位置で見守る衣玖を見る

「この帽子、動くと邪魔になるから持ってて頂戴」
「はい」
帽子を受け取るために近づこうとする衣玖。だが天子は衣玖に向け、自らの手の平を見せた
「ストップよ、勝負はもう始まってるだから、審判は場外にいないと。投げるから受け取って」
「かしこまりました」
衣玖が立つ位置は、三人を上から見てちょうど正三角形になる場所だった

天子は帽子を取り、一度妖夢を見た
右手で柄を、左手で鞘口を掴む妖夢は先ほどよりも体を後方に捻り、何時でも抜刀できる姿勢になっていた
そんな彼女に天子は微笑みを向けた

「あなた、私の帽子を見てどう思う? 可愛い? センスを疑う?」
桃の部分を指差して問いかける
「・・・・・・・・・・・・・えっと。素敵なお帽子だと思いますよ」
少しだけ気を使って褒めた
「でしょう? 桃の色ってさ、じーと眺めてると優しい気分にならない?」
天子は妖夢から目を切り、再び衣玖に視線を戻す
「衣玖。あのポーズしてよ、ほら、雷使うときの」
「え〜〜と、これですか?」

戸惑いながら衣玖は左手を腰に当て、右手で天を指差した

「うん。そのまま。その姿勢をキープよ」
「 ? 」
「 ? 」

二人は天子が何をしたいのかわからなかった
「知ってる? 動体視力を測るのに一番適した方法は『空中で回転しているものがどれだけ鮮明に見えるか?』というものらしいわ」
彼女が帽子を手にフリスビーを投げるモーションをしたとき、その意図を理解した

「そーれっ」

空中をふわりと舞った桃付きの帽子
桃がついていながらもその重心はぶれることなく、再生されたレコードのような均衡の取れた横回転のまま放物線を描き、天に掲げる衣玖の指先にひっかかった

「帽子を見てくれてありがとう」

ここで妖夢はハッとした

「・・・しまっ!!」

相手から目を離してしまったことを後悔した
一秒にも満たない、ほんの一瞬の余所見
その隙を天子が見逃すはずもなく
妖夢が顔を前に戻したときには、緋想の剣を右手で持った天子が眼前に迫っていた

――――あなた、私の帽子を見てどう思う?
――――動体視力を測るのに一番適した方法は『空中で回転しているものがどれだけ鮮明に見えるか?』というものらしいわよ

これらのやり取りで、妖夢は知らず知らずの内に、投げられた帽子を意識してしまっていた



「りゃぁ!!」

迎撃すべく妖夢は咄嗟に抜刀したが、剣が十分な速度を出す前に、天子が片手で持つ剣に易々と受け止められた

居合いに両手を使った妖夢に対して。右手だけで攻撃を止めた天子は必然的に左手が自由になる
左足を一歩踏み込ませ。左手にスナップを利かせて、指の甲でガラ空きになった妖夢の顔を狙う

(目打ち!?)

妖夢は目的を瞬時に看破し、素早く顔を背けて目を守った

この時、妖夢の首が不自然に傾いた。天子の左手が妖夢の耳を掴んでいた
はじめからこれが目的で目打ちは囮だった
「えい♪」
軟骨を千切る勢いで思いっきり引っ張っる

「〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」

その場で蹲りたくなる激痛
痛みに気をとられた直後に顎に強い衝撃が入った、天子の掌底だった
コンマの時間だけ、妖夢は意識を飛ばされた
膝が崩れ、四肢に力が入らず妖夢は糸の切れた人形のようにその場に倒れる



仰向けに倒れる妖夢の目の前に蒼天が広がる。その景色の中に天子の姿も混じっていた
天子は妖夢に圧し掛かかり、同時に両膝を腕に乗せて反撃も封じていた

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「ぎっ! ごうっ! あがぁ!」

上から何度も顔面に鉄拳を浴びせる
天人の頑丈な体から放たれる拳は尋常な威力ではない
あっという間に妖夢の顔は荒れた山肌のように擦り剥け、焼きたてのパンのように膨れ上がり紫色に変色する
鼻は右側に大きく曲がり鼻血が噴き出し、額と唇と顎はパックリと裂けて血が流れる

「どう。降参?」
いったん殴る手を止めて、耳を欹(そばだ)てる

「マ・・・・ダ・・・」
妖夢の心はまだ折れてはいなかった
「上出来♪」
「おぐっ!!」
嬉しそうに笑い最後に胸を殴ると、妖夢から退いて距離を取る
ようやく解放された

耳に触れ、ちゃんとくっついていることを確認してから、腕と足に力を篭めて立ち上がろうとする
立てたと思ったら前へ、もう一度立ち上がると今度は横に倒れる。再度立つが次は後ろへ。立ち上がるたびに彼女は転倒を繰り返す
殴られ、耳を傷めたせいで彼女の平衡感覚は失われていた
景色は左右に揺れ動いて視界は定まらず、固いはずの地面がゴム風船のように柔らかく感じられた
剣を杖代わりにして辛うじて立つ姿は年老いた老人のようだった


彼女が立ち上がるまでの間、天子は要石に座り手に付いた返り血を舐め取ったり、鼻歌を歌いながら爪を研いだりして時間を過ごしていた
衣玖は口を一切挟まなかった


ようやく脳の揺れが治まり立てるようになった妖夢だが、足が未だにおぼつか無い
「頑張るわね」
妖夢が構えたのを確認すると、天子は剣を片手に軽くステップ。妖夢の間合いに自ら踏み込む
「・・・ャァッ!!!」
剣を横に薙いだがまた易々と緋想の剣で受け止められた
そのまま押して鍔迫り合いの形になる
「私を卑怯と糾弾する?」
「・・・・」
腫れのせいで口が利けない妖夢は、顔を横に振った
今まで手合わせした相手はすべて剣士かそれに順ずる者。天子のような小細工を使う相手は皆無だった
そんな戦いを続けて、いつのまにか相手に正々堂々を期待している自分に腹が立っていた
そのことに気付かせてくれた彼女に感謝すらしていた

「案外。潔いいのね。もっとグチグチ言うのかと思ったわ、まあその口じゃ、やりたくても出来ないでしょうけど」
天子は緋想の剣を強く握る
「お望み通り。ここからは剣で勝負したげるわ」
妖夢も負けじと押し返す
「なんてね♪」
天子は口をすぼめて『フッ』と息を吐いた
彼女の唾液と一緒に、先ほど舐め取り口内に蓄えていた妖夢の血が霧状になって彼女の目に届く
「・・・・・・グッ」
痛みで妖夢は目をぎゅっと閉じたい衝動に駆られたが、気合で目を開け続けた

「隙アリ」
「?」

鍔迫り合いの最中。手に違和感を感じた。十本ある内の一本、左手の中指の第二関節から先が明後日の方向を向いていた
「っ!?」
「そこを脱臼するのは初めて?」
妖夢が目に血が入ったのを我慢した際、剣の握りが緩んでいた。その時に天子はその中指を絡め取っていた
「またまた隙アリ」
「ギィッ!!」
動揺する妖夢の股ぐらにつま先がめり込む
女の最も敏感な部分に生まれて初めて暴力が振るわれた
瞳孔が目一杯開き。粘着性の薄い鼻水があふれ出て、油汗がにじむ
尿道から黄色い液体が漏れ、下着を濡らして足をつたい靴下と靴にまで染みこむ
「ア、ヘ、ア・・・」
妖夢は舌を強張らせ、肩をガクガクと痙攣させ両膝を付いてから前向きに倒れた



「試合では最強だけど実戦では駄目駄目ね」
動かなくなった妖夢を見下し笑った
最後の意地なのか、楼観剣は右手に握ったままだった
「まったく、お気に入りの靴だったのに」
彼女の靴には尿が数滴かかっていた
「もう履けないじゃない。どうしてくれるのよ」
右手を踏みつけると剣は簡単に手から離れた

「退屈な相手だったわ。衣玖、後片付けお願い」

欠伸を一つして天子は飛び去って行った。振り返ることは一度もなかった
去っていく彼女を見送り、衣玖は言いつけを守り倒れる妖夢を抱き起こした

「意識はありますか?」
「・・・・・」
その言葉に反応するように、妖夢の手が僅かに動いた
「剣士としての実力なら、おそらくあなたの方が上でしょう」
衣玖は勝負が始まる前に彼女に教えたかったことを話しだした
「比那名居天子は捻くれています。悪知恵の働く総領娘さまに、馬鹿正直に挑むのはお勧めできません。勝つためならどんなエゲツないことでも無邪気にやります」
「・・・・・・・」
「幸い、この程度の傷なら数日で完治するでしょう」





傷が癒える数日の間、妖夢は衣玖が暮らす竜宮で世話になった

だまし討ち、目潰し、耳つかみ、指折り、急所突き。ベッドの上で天井を眺めながらずっと、受けた禁じての数々を思い出す
(力とは、技とは、勝利とは、心とは、情けとは、最強とは、守るとは、攻めとは、非情とは、義とは、礼節とは、勝負とは、賢しさとは、技術とは、知恵とは、機転とは、強さとは・・・・・)

その間、彼女は自問自答を繰り返していた













紅魔館の門
「たのもぉぉぉーー!!」
「はいはい。そんなに大声出さなくてもちゃんと聞こえるから」
魂魄妖夢の張り上げた声に、門番である紅美鈴は面倒くさそうに耳を塞ぎつつ答えた
「本日は、剣の指導を賜りたく候。他流派の技巧をご教授いただきたく伺った次第でございます」
美鈴に件の封筒を渡す
「館の主への謁見を許可していただきたい」
幽々子直筆の文が書かれた紙に目を通した美鈴は門を開け、中に彼女を通した



「ふーーん、剣の修行ね」
「許可してください」
玉座に座り頬杖をついたレミリアの前で、妖夢は片膝をつき頭を垂れる
「冥界の姫から直々の頼みとあってはこっちも邪険に出来ないわね・・・・・咲夜」
レミリアは手元のベルを鳴らす
「はい、なんでしょうか」
玉座の前に一瞬でメイド長が姿を現す
「ウチの門番に挑戦者よ。錆びてない青龍刀は倉庫にあったかしら?」
「探してみま・・・」
「待ってください」
主従の会話に妖夢は割って入った
「出来れば妹君と手合わせしたいのですが」
「・・・・」
「・・・・」
妖夢の言葉に二人は呆気に取られていた

「レーヴァテインという剣を扱うと耳にして、私は今日ここに参ったのです」
美鈴には腕試しという名目でいつでも挑めるため。今回は主の特別な威光を借り、普段は戦えない相手に挑みたかった

「あなた、身の程知らずにもほどが・・・」
咲夜の鋭い眼が妖夢を射抜く
「待て。彼女は客人だぞ」
従者をたしなめてから妖夢の方を見た
「自分が何を言っているのかわかっているの?」
「無礼は重々承知の上です。大事な妹君を白刃に晒させません、私は布を巻いた木刀にて・・・」
「そうじゃない」
レミリアはガシガシと頭を掻いた
「私が言いたいのは二つ」
指を二本立てた
「一つは、確かにあれは剣と呼んでいるが、そもそもの規格が違う、故にアレは剣士ではない。そんなのと手合わせして修行になるのかということ。もう一つは命の保障はしかねるということ」
「つまり。私が『構わない』と言えば・・・」
期待に満ちた妖夢の目はレミリアをまっすぐに捉えていた






レミリアと咲夜その後に妖夢が続き、三人は紅魔館の薄暗い廊下を歩く
「あの・・・・」
「何かしら?」
蝋燭を手にした咲夜が振り向いた
「妹君は地下にいるのでは?」
三人が歩いているのは一階の廊下。地下に続く階段はつい先ほど通り過ぎた
「ああ、そのこと?」
咲夜の隣のレミリアはクククと喉を鳴らした
「今はちょっと牢屋に入っているのよ」
「牢に?」
「あの子ったら気紛れかなにか知らないけど、外に出ようとしたのよ。それで制裁としてね」
妖夢は通路を見る。暗闇に目を凝らすとそれが壁ではなく鉄格子であることに気付いた
何かの骨らしき物が入った部屋もあったが、見なかったことにした

「あの子と戦う上で、お願いしたいことがあるのだけどいいかしら?」
「何なりと」
「あの子の首を採って、私に謙譲してちょうだい」
「はい?」
言っている意味が理解できず、間抜けな声を出した
「苦痛に歪んだあの子の首を肴にワインが飲みたい気分なの」
「あの、それは・・・」
「冗談よ、悪魔的ジョーク。本気にしないでちょうだい。常に真剣なあなたには少しキツかったかしら?」
「変なこと言わないでください」
からかわれたのだと分かり、ため息を吐く
「でもちょっと、期待してるわ」
「え?」
暗闇の中、レミリアが妖しく笑うのがわかった

しばらく無言で歩くと、自分達以外の呼吸が聞こえた
無視質さを感じる鉱物のような羽が鈍く発光する

「私よ、フランドール」
「お姉様?」
格子の向う。壁に縫い付けられる形で鎖と皮ベルト、お札で全身を拘束された稽古相手がいた

レミリアが牢の中に入り、彼女の目隠しを外す

「もう出ていいの?」
「本当はあと二ヶ月は居て貰おうと思ったけど、事情が変わったわ」

妖夢を格子の中に引き込んだ

「この子と戦いなさい」









フランドールが普段過ごす地下室に移動した

咲夜は館の仕事が残っているため抜けたため、今はレミリア、妖夢、フランドールがこの場にいる

天井は見上げるほど高く、床面積も広い。場所としては申しぶ無かった
最初にルールを確認を行なった。剣以外の武器の使用は禁止。弾幕の禁止。降参は認められる。個別の能力の使用は禁止。今まで通りである

「この子の場合、剣じゃなくて鈍器になっちゃうけどいいわね?」
歪な杖を指先で回して遊ぶ妹を見て、レミリアは言った
「構いません」
「あと手加減は無用だから。手を切り飛ばそうが、足を抉ろうが、遠慮せず好きなようにやりなさい」
その言葉に妖夢は無言で頷いた

お互いに絶対にこのルールを破らないように、妖夢とフランドールの間で悪魔の契約が結ばれた
これで絶対に違反は起きない




お互いに距離を取り向き合う

「じゃあ、はじめなさい」
レミリアが開始を宣言した
妖夢は長い楼観剣を右手に、短い白楼剣を左手に持った二刀流スタイルだった
吸血鬼が相手なら攻撃一辺倒の居合いよりも、柔軟に対応できる二刀の方が良いという考えだった
「フランドールさん。打ち合う前に、一つよろしいですか?」
「なに?」
「靴の先、破けてますよ?」
フランドールは指摘された自分の足元をまじまじと見た
「別におかしく・・・・・痛っ」
右肩に熱を感じる。その箇所を見ると白桜剣が刺さっていた。妖夢が投擲したのだ
剣は彼女の肩を貫通していた。これによってフランドールの右手を殺した
(良し!)
一気に距離を詰めて勝負に出る
(悪く思わないで下さい)
剣士が取る行動ではないと自覚している
だが相手は格上、ましてや反射と膂力が妖怪の中でも群を抜く吸血鬼
それに対してまともに戦っても勝てない。そう判断した妖夢は小細工を用いた
(比那名居天子と戦っておいて良かった)
彼女の手管をそのまま真似た。それによって状況は自分に有利に傾いた

武者修行で自分は確かに強くなったという自負はある
けれども、天子との戦いで妖夢は愚直な自分を改める必要があると感じた、潔さは結果の前では意味を成さないことを知った
この武者修行では剣技の向上も重要だが、そういった“小賢しさ”を養うのも目的の一つに加える事にした

吸血鬼は、非情になった自分がどこまで出来るのかを計るにはうってつけの相手だった

「でぇりゃぁぁぁ!!」
長刀の楼観剣で放つ渾身の一振り
「わっ!?」
それがフランドールの剣を手から落とさせた

彼女が丸腰になると妖夢も剣を棄てた
「せいっ!」
身軽になった両手。左手でフランドールの右肩に刺さる剣の柄を叩く
「いぎぃ!!」
肩の傷が広がった痛みで動きの止まった彼女の目を潰すため、右手の指を二本立てて突き出した

フランドールの顔が血で真っ赤に染まった

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
悲痛な叫びが響き渡る
「うう〜〜〜目が見えないよぉぉぉ」
視覚を奪われ両手で目を押さえるフランドール。顔中に血がべったり付着していた

「期待させといてこの程度なの? あっけない」
物足りないとレミリアは落胆の息を吐いた

フランドールの足元で、痛みでのたうち回る妖夢がいた
「指ぃぃ・・・・・わ、私のゆびぃ・・・・」
妖夢の右手の人差し指と中指が根元から失われていた
「ぺっ」
指はフランドールの口から出てきた。吐き出された指は肉がごっそりと無くなり、骨が見えていた
妖夢の指が目に届く直前、サメのように首を回し瞬時に噛み千切っていた
フランドールの目が見えないのは、指の断面から噴出した血を浴びたためだ

「こら、人様の指を食べるなんて意地汚いわよ」
まるでつまみ食いの現場でも目撃したかのようにレミリアが咎める
「だってずっとご飯食べさせて貰ってないもん」
血に染まる目を擦りながら弁解する
「まったく」

妹との会話を区切り、蹲る妖夢に話しかけた

「どうした庭師? まだ勝負はついていないぞ。片手の指がなんだというのだ、貴様は二刀流なのだろう?」

指の断面を押さえて止血する妖夢は顔を横に振った。目を閉じ、無言で泣いていた
「降参か?」
今度は縦に振った
指は一本一本が他の指と連動している。指を失うのは剣士にとって致命的だった。痛みも今までの比ではない
完全に彼女の戦意は喪失していた
「根性無しが」
詰まらなさそうに、勝者である妹の名を宣言した







数日たって、妖夢は白玉楼に戻ってきた。正確には強制的に戻された
屋敷の一室で主と向き合う

「手ひどくヤラレタわね」
叱責の意味を篭めてではなく、ただ見たままを言った
「面目ありません」

お茶と菓子が手元にあるが妖夢は一切手を着けない

「自分に足りないものは見つかったかしら?」
「はい。語り尽くせないほどに」

その答えに幽々子は満足そうに頷く

「成果があって良かったわ」

幽々子はお互いの間に置いてある急須(きゅうす)に手を伸ばした

「お茶でしたら、私が」

主よりも先に“右手”で急須を取る

「あっ」

倒してしまい中の茶が畳みの上に広がった
妖夢は自分の意思通りに動かなくなった手を呆と眺めていた

「今度は“それ”を埋めるための武者修行をしましょう」

慰めるわけでも、励ますわけでもなく。淡々とした口調で幽々子は言った
妖夢の修行はまだ始まったばかりだった
※この作品はフィクションです。彼女らの言動はすべて演技です。負傷のシーンには合成や特殊メイクを使用しております。


【NGシーン】

■天子に試合を頼む場面

妖「此度は私の剣の修行にお力添え頂きたく存知。足を運んだ次第でございます」
天「『はせ参じた』でしょ。もう一回」

take2

妖「此度は私の剣の修行にお付き合い頂きたく存知。はせ参じた次第でございます」
衣「『お付き合い』ではなく、『お力添え』です」

take3

妖「此度は私の剣の修行にお付き合い頂きたく存知。足を運んだ・・・・・あ・・・・・・・グス」
天「頑張れ」
衣「頑張れ」
幽「よーむがんばれ〜〜」




■天子が帽子を投げる場面

天「そーれっ」
衣玖さんの手前に帽子が落ちる
天(やばい。これムズイ)





take13(13投目)

天「そーれっ」
奇跡が起きて衣玖さんの帽子の上に天子ちゃんのが乗っかる
天「もうこれでいいんじゃ・・・」
妖「いや、駄目ですって」
衣(手がダルイ)





take23

天「そーれっ」
衣「いだっ!」
天「あ、ごめん」
衣「ゥゥ・・・・・・」←桃の部分が顔にあたり悶絶中の衣玖さん

take24

天「そーれっ」
見事、帽子が衣玖さんの手に引っかかる
天「よしっ!」
妖「あの、演技してください」
衣「・・・・・」




■紅魔館冒頭

妖「本日は、剣の指導をしてほしくて候。他流派の技巧を教えていただきたく伺った次第でございます」
美「そこ『ほしくて候』『賜りたく候』、あと『教えて』じゃなくて『ご教授』よ」
妖「・・・・・グス」
幽「よーむがんばれ〜〜」



■紅魔館の牢屋前

拘束中の妹に話しかけるレミリアちゃん

レ「私よ、フランドール」
フ「・・・・・」
レ「フランドール?」

フ「ZZZ」

レ「ちょw、この子寝てるw」
フ「えっ? カメラ、あれ? もう本番!?」
レ「よだれw よだれw」

咲「待ち時間長かったですもんね」


■指を欠損した場面

妖「指ぃぃ・・・・・わ、私のゆびぃ・・・・」

痛そうな演技をする妖夢ちゃん
口をもごもごさせて指の模型を吐く準備をするフランちゃん

フ「ぺっ・・・・・ゴホッ、ゴホッ」
レ「ムセんなやw」




■妖夢と幽々子の会話


「手ひどくヤラレタわね。ムシャムシャ」
「面目ありません」

屋敷の一室で主と向き合う

「自分に足りないものは見つかったかしら?ムシャムシャ」
「はい。語り尽くせないほどに」
「成果があって良かったわムシャムシャ」

急須に手を伸ばす幽々子さま。湯のみに注ぎ飲み干す

「お茶が無いとくどいわねこのお菓子」
「真面目にやってください」

■妖夢、レミリアに謁見

レ「ふーーん、剣の修行ね」
妖「許可してください」
玉座に座り頬杖をついたレミリアの前で、妖夢は片膝をつき頭を垂れる
レ「冥界の姫から直々の頼みとあっては・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
咲「『こっちも邪険に出来ないわね』です(小声)」
レ「こ、こっちも邪険に出来ないわね」

レ「ウチの門番に挑戦者よ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
咲「『錆びてない青龍刀は倉庫にあったかしら』です(小声)」
レ「さ、錆びてない青龍刀は倉庫にあったかしら」

妖「船場吉兆?」
美「カンペ用意できました〜〜」




あとがき

一年くらい前に書いた、妖夢が椛に戦いを挑むSSで使わなかった部分を、そのまま天子とフランに置き換えて書き直しただけの話。

ボロ雑巾のように扱われるフランちゃんを愛でるSSを書いている途中の息抜きで書こうとしたはずなのに。なぜかこんなボリュームに・・・

28日 23:30 指摘誤字訂正
木質
作品情報
作品集:
15
投稿日時:
2010/04/25 05:26:48
更新日時:
2010/04/28 23:32:06
分類
妖夢
天子
フランドール
幽々子
1. 名無し ■2010/04/25 15:53:24
あとがきww
2. 名無し ■2010/04/25 16:34:04
某中国映画のEDのようなあとがきw

しかし氏の作品でフランちゃんが出ると「今度はどんな酷い目に会うのかなウフフ」とかつい考えてしまう…
3. pnp ■2010/04/25 17:13:16
戦闘シーンがかっこよかったです。これくらいスタイリッシュに書けたらいい。
4. 名無し ■2010/04/25 17:32:12
あとがきに全部持ってかれてるぞ
5. 名無し ■2010/04/25 17:39:17
急にラッシュアワーがみたくなったじゃないかどうしてくれるw
6. 名無し ■2010/04/25 18:56:55
妖夢はなんというか、剣には向いてないんじゃないだろうか……
7. 名無し ■2010/04/25 22:23:18
ギャグもシリアスも書ける木質さんに嫉妬
相変わらず妖夢可愛いよ
8. 名無し ■2010/04/25 23:39:37
相変わらずの安定感だなぁ。戦闘シーンの描写なんかゾクゾクしたわ。

あとがきのレミフラ姉妹かわいい。
9. 名無し ■2010/04/26 00:50:17
妖夢が半人前を卒業出来る日はくるのだろうか
10. 名無し ■2010/04/26 08:45:49
Sな天子いいねえ
11. 名無し ■2010/04/26 09:52:29
馬鹿正直な妖夢可愛い。
おぜうのあまりの男前さに濡れた。
12. 名無し ■2010/04/26 17:35:41
「加減しろ、莫迦! 前髪だぞ!」
天子も衣玖も一切詫びなかった――。

いじめスレで椛相手に不意打ちでボコっていい気になってた妖夢と繋がってると妄想するとより面白いw
13. 機玉 ■2010/04/26 22:08:04
後書きで和みましたw
しかし妖夢もう少し相手を選んだ方が良いのでは……?
14. 灰々 ■2010/04/26 23:33:19
ダーティーな戦い方をする天子はいいですね
衣玖さんは遠慮をさせないために命令口調で食事を勧めてくれそう
15. 原価計算 ■2010/04/27 21:09:14
戦闘の描写が臨場感あってとても格好いいですね。
16. 名無し ■2010/04/27 22:02:51
おかしい
後書きのせいで本編の印象がw
17. 名無し ■2010/04/28 02:05:31
洋画にあるような後書きだなあw
そして敬語が殆ど分からなかった事に絶望した
18. 名無し ■2010/04/28 16:59:24
おもしろかったw
ただレミリアが咲夜を「諌める」のはおかしいかと…
え?ひょっとして咲夜の方があるj(ry
19. 名無し ■2010/04/28 22:18:38
この天子はいいキャラしてるなあ
それにしてもあとがきの破壊力が高い…
20. 名無し ■2010/04/30 00:40:30
つまり、強くて手段を選ばなくて実戦向きで片手を切断されたまま戦った
愚地独歩最強ってことか…
21. マジックフレークス ■2010/05/15 17:29:53
各々のキャラクターの動きが視えるほど描写が鮮明ですね
しかし幽々子様、剣術修行しなければならないのはあなたなのではw
22. ギョウヘルインニ ■2018/04/24 20:09:29
あとがき面白かったです。
すぐ人にながされちゃう妖夢ちゃん。
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