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『蟲の王』 作者: 機玉

蟲の王

作品集: 15 投稿日時: 2010/04/25 16:28:09 更新日時: 2010/05/04 02:10:41
蟲の王リグル・ナイトバグはちょっとした悩みに直面していた。
最近の人間は蟲を怖がってくれない。
もう既に分かりきっていることであるしリグルも半ばこの現状を受け入れつつあるのだが、射命丸文に言われた言葉でなかなか諦めきれないでいた。
−昔の蟲はもっと強かった
何故今の蟲は弱くなってしまったのか。
外の世界で次々と殺虫剤が生み出され、それが幻想郷にも流れてきたからなのか。
最近はずっとこのことばかり考えていたが答えはまだ出ていない。

「仕方ないのかな……」

かつて蟲と双璧を成していた鬼も今となっては地下に潜ってしまった。
彼等は弱くなった訳ではないが、それでも表舞台に登らなくなったことには変わりない。
時が移ろえば役者達も変わる。
今の蟲が弱いのはあるいは必然なのかも知れない。
なら自分にできることはせめて次の王が生まれるまで蟲の系譜を絶やさないことだ。
ジタバタせずに大人しく蟲らしくしていよう。
リグルはそう結論づけると仲間の様子でも見に行こうかと巣から出た。

しかしリグルが巣から出て間もなく、一匹の蝿が飛んできた。
この蝿は何かが起きた時に知らせることを頼んである連絡係だ。

「どうしたの?」

蟲はあまり複雑な意思を伝えることは出来ないが、行動も基本的に単純なので特に不自由はしない。
蝿はどうやらどこかにリグルを連れて行きたがっているようだった。

「分かった、今行く」

念の為スペルカードを準備し、リグルは蝿に連れられて飛び立った。



蝿に連れらてきた場所は魔法の森の中の一角だった。
一見何の変哲も無い場所のように見えたが……

「あれ、なんだろうこれ?」

そこには小さな土の山ができていた。
以前はこんな物はなかったはずだ。
自然にこんな形が綺麗な山ができたとは思えないし、一体誰が作ったのか。
その答えはしばらく山を眺めていたら向こうから出てきてくれた。

「蟻?」

土の山の中から出てきたのは蟻だった。
しかしただの蟻ではない。
火のように真っ赤な色をした、蟲の王であるリグルも今まで見たことがない蟻だった。
蝿が見せたかったのはこの蟻だったらしい。

「ありがとう、後は私に任せて。君はもう戻っていいよ」

リグルは蝿に礼を言いこの蟻の特徴と、ここにきた事による周囲への影響を調べ始めた。
そして約十分後……

「これは、ひどいな……」

まずこの蟻の特徴は
・非常に攻撃性が高い
・毒を持っていて、相手に噛み付いた時に注入する
・毒の強さは不明
・先程の山はこの蟻の巣で、地面に穴を掘ったりはしない
これらのことがとりあえず判明した。
また、既にこの周囲の蟲やそれ以外の小動物などもこの蟻の餌食になっていて、だいぶ生き物数が減っていることも分かった。

「仕方ない、殺すか」

今回のようなことが今までなかったわけではない。
食物連鎖のバランスが取れなくなった時は外部から手を加えて調節するしかないのだ。
リグルはまずこの巣の女王を見つけ出して殺し、そのあとで熱湯を用意して巣の上にかけた。
まだ何匹か残っているが、女王が死んだ以上この巣はもう長くは保たないはずだ。
この後で別の場所も見て回ったが、赤い蟻の巣はこの場所にしかなかったのでリグルは安心して帰った。
これが普通の蟻であればこのままこの事件は何事もなく終了したのかも知れない。
しかしこの蟻はリグルの予想を少し上回る蟲だったのだ。


                    *


リグルが赤い蟻の巣を駆除してからしばらくたったある日、あの蝿が再びリグルを呼びにやってきた。
蝿に連れられて先日行った場所に再びやってくると、なんと先日の巣が何事もなかったかのように再び作られていた。

「いや、むしろこの前より少し大きくなってない?これ……」

一体どういうことなのか。
試しにリグルが巣を調べてみると、女王蟻も復活していた。
しかしどうやら彼女は先日殺した女王蟻とは別の個体らしい。

「よく分からないけど、とりあえずこのままにしておくわけにはいかないよね」

この巣が復活した原理が分からなかったので、ひとまず能力を使用して強制的に支配下に置いた。
これでこの蟻達はリグルの指示なしでは勝手な行動を取ることはできなくなったが、根本的な解決にはなっていない。

「さて、本当にどうしよう」

こうなると文献を頼るしかないかも知れない。
おかしく聞こえるかも知れないが、案外被害を被っている人間が記した記録の方が詳しいこともあるのだ。




「それで、本日はどのような御用向きですかお客様」
「蟲の文献が見たいんだ。ここに置いてあるかな」
「図鑑、辞典の類ならあちらに置いてあるよ。
 自由に見てくれて構わないが勝手に持ち帰るのだけはやめてくれ」
「分かった」

赤い蟻について調べる為にリグルがやってきたのは香霖堂だった。
他にも紅魔館の大図書館や、人里の稗田の屋敷などが候補にあったのだが、紅魔館は行ったら何をされるか分からないし、稗田の屋敷もま

た落ち着いて調べ物ができるとは思えなかったので消去法で香霖堂となった。

「しかし、蟲の王である君がなんでわざわざ蟲の文献を?」
「私だってこの世に存在する全ての蟲のことを知ってる訳じゃないからね。
 そういう時は文献を頼った方が早いのよ」
「なるほど、そういうものか」

それからしばらくリグルは香霖堂の図鑑を調べてみたが、赤い蟻について載っているものはなかった。

「目当ての資料は見つかったかい?」
「駄目ね、ないわ。
 まあ、ないならないで仕方ないんだけど」
「一体何をさがしているんだ?
 あまり詳しいものとなると流石に僕の店でも置いていないが」
「いや、ちょっと珍しい蟲を見つけたからそれについて調べたかったのよ。
 でももういいかな……ん?」
「どうかしたのかい」
「いや、探していた物とは関係ないんだけどちょっと気になる本があったから」
「良かったら椅子に座って読んで良いよ。
 ずっと立ったままだと疲れるだろう」
「ありがとう。
 じゃあ遠慮なく」

リグルは霖之助が出した椅子に腰掛けると本を読み始めた。

「呪術の本?」
「香霖堂さん、なんで蟲は弱くなったのかなぁ」
「蟲が弱くなった理由かい?
 そうだな……憶測でも良ければ話すが」
「いいよ」
「ご存知の通り昔は蟲は鬼や天狗と並び非常に恐れられている存在だった。
 妖怪である妖蟲は言うまでもなく、妖怪でないただの蟲でさえも人を死に至らしめるものが非常に多かった。
 その力が弱くなったと言われ始めたのは博麗大結界が張られた後の話なんだ」
「それは知らなかったな」
「君は結界が張られた後に生まれた妖怪だから無理もないだろう。
 ところで君は博麗大結界が何の為に張られたか知っているかい?」
「妖怪を保護する為だっけ?」
「まあ、そんな所だな。
 正確に言えば人間が幻想に属する物を信じなくなり始めたから、それを利用して外で幻想と化した存在が逆に幻想郷では力を持つことで

きるようにした倫理的な結界、それが博麗大結界だ」
「なるほどね」
「さて、ここからが僕の推測になるわけだがこの博麗大結界のしくみは逆に言えば外の世界で現実的に恐れられている存在は幻想郷内では余り強力な力を持つことができない、ということに繋がるのではないかと思う。
 つまり蟲は外の世界で依然として恐れられている為に幻想郷内では逆に弱体化が起こってしまったのではないか、というのが僕の推測だ」
「難しいね。私達は個々の寿命が短いから普通の手段じゃ強くなれないし」
「……それで『蠱毒』かい?」
「ああ、香霖堂さんは色々知ってそうだしやっぱり分かったか」
「蠱毒は本来人間が他の人間を呪う為に毒蟲の力を強制的に上げる儀式だ。
 当然まともな手段ではないから君自身も無事では済まないよ。
 死してなお輪廻の輪に入れなくなるかも知れない」
「蟲は本来個よりも集団が存続することを優先する種族よ。
 人間もそうだけど蟲は感情が薄い分そちらの方に特化している。
 例え私がどうなろうともそれで蟲が今後繁栄できるのならそれで構わない」
「一部の毒蟲の力を上げれば他の蟲まで犠牲になるんじゃないか?」
「そこは私の能力で統率するよ。
 今の幻想郷は平和だし蟲以外の種族にも被害は出ないようにする。
 だから……蠱毒に使える壺を下さい」

霖之助は少し考えると、奥の方から一つの壺を持ってきた。

「古代の中国で使用されていた蠱毒の壺だ。
 製作された時はどうだったか分からないが何度も蠱毒に使われている内に用途がそれへと変化したらしい
 これならば問題ないだろう」
「ありがとうございます。
 お代は」
「お代は結構です。初回のお客様へのサービスということで。
 その代わり……またのご来店をお待ちしております」

リグルは少し目を丸くして驚いた後、おかしそうに笑った。

「香霖堂さん、あなた商売に向いてないって言われない?」
「不本意ながらよく言われる気がするね」
「ならもう少し営業方法を改めるべきじゃないかしら」
「僕は僕のやり方以外は残念ながら知らないので改めようがないな」

そう霖之助が言うとリグルはもう何も言わずに壺を抱えた。

「ありがとう、香霖堂さん」
「ご来店ありがとうございました」


                    *


蠱毒は毒を持った蟲を壺の中に満たし、蓋をしてその中の蟲に殺し合わせ最後に生き残った一匹の力を高める呪術儀式だ。
リグルはこの前の射命丸文との話を思い出し、もしかしたら赤い蟻が使えるかも知れないと思いついた。

「さて、上手くいくといいけど……」

この儀式は人間が行った場合必ずしも成功するわけではない。
中に入れ蟲が一匹だけちょうど生き残らなければ、呪怨が分散し、儀式を行った術者に蟲の怨念が跳ね返るだけだ。
しかし、蟲を操る力を持つリグルならば蟻を誘導し、儀式を成功に導くことができる。
この蟻の並外れた増殖力ならば、大量に強化する事ができるはずだ。
そしてリグルは蠱毒の儀式を始めた。
蟻を壺の中に入れ、蓋をして最後の一匹になったら死骸を出してまた蟻を入れる。
この作業をただひたすら繰り返し、蠱毒によって強化された蟻を増やし続けた。



それから一ヶ月程たったある日。リグルはまだ儀式を続けていた。
強化された蟻の数は数えきれない程になっており、広がればこの森を覆い尽くさんばかりの面積となるだろう。
だが同時にリグルも限界を迎えていた。
その身に溜まりに溜まった呪怨で存在を保つことすら難しくなっており、もう長くはない。

「ここまでかな……」

最後の一匹を壺から出したリグルはその場に横たわり、最後の指示を蟻に出す。
もうリグルの仕事は終わった。
幻想郷の蟲達を守る為には次の王が必要だ。
赤い蟻がリグルの体を覆い尽くし、食べていく。
しばらくするともうそこにリグルの姿はなかった。



霖之助はその日の店番を終え寝る準備を始めていた。
ふと、何か気配を感じ、庭に目を向けた。
何かが庭に落ちている。
近付いて拾ってみるとそれは黒い布だった。

名称:リグルのマント 用途:リグルの身を守る

目を上へ向けてみると、羽虫の群れがどこかへ散っていった。


                    *


魔法の森の中心部に赤い繭ができていた。
どす黒い赤色の血で染め上げたような繭だ。
リグルの手で力を得た赤い蟻達がその繭を守るように囲んでいる。
いや、赤い蟻だけではない。
種族を問わず様々な蟲が集まり、その繭を見守っていた。
唐突に繭が震え始めた。
それに気付いた蟲も身を揺らし始め、やがてざわめきが森を覆い尽くした。
そしてついに繭に罅が入り、中に入っていた蟲がゆっくり起き上がる。


新たな王が歓喜の産声を上げた。
どうも二回目になります機玉です。
今回は普通に日本語で話を書かせて頂きました。
テーマはリグルが蟲の地位向上を目指して頑張る話です。
書籍版文花帖の記述から思いつきました。
力の限り頑張ったつもりですが、やはり話を書くのは難しいですね……

前回の「ファッキン幻想郷」で感想を書いて下さった方ありがとうございました。
続きはもう少しお待ち下さい。

ではここまで読んで下さった皆さん、ありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。

(この話に登場した赤い蟻はアメリカ南部、フィリピン、台湾、中国南部に生息するヒアリという蟻をモデルにしています。
噛まれると軽ければしばらく激痛と腫れに苦しめられるだけで済みますが、酷い場合は高熱を出して寝込んだり、ショックで死んだりもします。
もし今後見かける機会がありましたらお気をつけ下さい)
機玉
作品情報
作品集:
15
投稿日時:
2010/04/25 16:28:09
更新日時:
2010/05/04 02:10:41
分類
リグル・ナイトバグ
森近霖之助
赤い蟻は作者からのプレゼント
5月4日コメント返信
1. 名無し ■2010/04/26 23:26:43
書籍文花帖はネタの宝庫だなー
個人的な感情を排して種の存続を優先するあたり健気というか
2. 名無し ■2010/04/26 23:41:42
蟲怖い、実際リグルの力ってもっと高いと思うんですよねぇ
3. 名無し ■2010/04/27 00:18:43
リグルがかっこいいな
まさに虫の王といった感じ
4. 機玉 ■2010/04/29 01:08:01
皆さん感想ありがとうございます!

>>1
書籍文花帖はたまに読み返すと面白いネタが沢山転がってます
さすが文の新聞
兵隊アリや働きバチなどを見てリグルならこんな生き方もありかな、と思いました

>>2
求聞史紀にも警告が入っていますが蟲は怖いです
リグルは弾幕ごっこは弱くても殺し合いとなったら人間では勝てないと思います

>>3
ありがとうございます!
カッコいいリグルを意識して書いたのでそう言っていただけると嬉しいです
本当は文を出したり、グレードアップした赤い蟻の戦力お披露目などもしたかったのですが筆者の構成力が至らなかったので無難な形にまとめました
5. 名無し ■2010/05/03 22:20:24
霖之助もかっこいいな、此の話
読了後の感慨があって面白かった
6. 機玉 ■2010/05/04 02:10:08
>>5
お褒めの言葉ありがとうございます
霖之助は訳ありな客にはあまり立ち入らず、さり気なくサービスしてくれるイメージがあります
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