Lunatic Kitchen

作品集: 15 投稿日時: 2010/04/30 18:06:47 更新日時: 2010/05/13 18:20:30
 博麗神社の巫女である博麗霊夢は、灰色の雲が立ち込める空の元、神社の落ち葉を集めていた。
参拝客の姿などないが、もしも来た時の為に、掃除は怠らないようにしているのだ。良い印象のまま帰ってもらう為である。
 そんな彼女の元へ、人形師のアリス・マーガトロイドが、ふらりと姿を現した。
魔法の森に住んでいて、他者との交流が希薄なアリスが訪れる場所と言えば、この博麗神社か、人里か、霧雨魔理沙の家程度のものだ。
さして珍しい事でもないので、霊夢もこの来訪に関して、特に気になる事はなかった。いつも通りの挨拶をする。
「ようこそ、博麗神社へ。さあ、お賽銭はこっちよ」
 いつも通りの霊夢に対し、アリスもいつも通りの返事をする。
「そんなもんは入れないわ」
 そう言うと思ったと、霊夢は口を尖らせた。これもいつも通りの反応だ。
 来てみたはいいが、大した話題を持ち合わせていないアリスは、空を見上げ、息を漏らした。
「天気が悪いわねぇ」
「そうね。……そういや、一ヶ月前の宴会もこんな天気だったわね。萃香の我儘で強行したやつ。寒くて寒くて嫌になったわ。雨まで降ってくるし」
「ああ、言われてみれば。もう一ヶ月か。あの後、魔理沙ったら風邪引いたのよね」
「そうなの? ああ、通りで暫く顔を見せなかった訳だ」
 魔理沙とは、霊夢らと昔から親交のある魔法使い、霧雨魔理沙の事である。
元気の塊のような者なので、風邪を引いて家に籠っている魔理沙の姿はなかなか想像しづらい。
 アリスは呆れたような口調で口を開いた。
「知らなかったって事は、見舞いにも行かなかったのね」
「見舞いに回せるようなお金、私にはないわよ」
 不機嫌そうに言う霊夢。
するとアリスが、ある事を思い出し、ぽんと手を打った。
「そうだ、お金で思い出したわ。知っている、霊夢?」
「何」
「森のとある場所に、無料で食事ができる料理店があるらしいのよ」

 霊夢は、ぽかんと口を開け、アリスの顔を覗きこんだ。
その目は驚愕を表しているようにまん丸。箒を持った手は完全に硬直している。
 開かれた口がようやく動き、何とか言葉を絞り出した。
「……ただ?」
 霊夢の問いに、アリスは首を縦に振って応えた。
「そ。人間はただで食べられるの」
「だ、誰が言ってたの? ただって」
「ああ、えっとね……。店主」
 アリスは少しだけ口籠ったが、霊夢は気にしなかった。
と言うより、気にならなかった。それほど、彼女は舞い上がっていたのだ。
 霊夢は、この話を鵜呑みにしてしまっていた。
冷静に考えてみれば胡散臭さなどを感じてしまうものであろう。
しかし今回の霊夢は冷静さを欠いていた。「無料」と言う魔法のワードに完全に惑わされていたのだ。
「それで、場所はどこ!? 場所は!」
「教えるから、落ち着いて聞いて。その料理店は、人間とそれ以外の者で入店可能な時間が違うのよ」
「どう言う事?」
「午前十時から午後二時迄が人外用、午後七時から午後十一時迄が人間用」
 そう言われて、霊夢は空を見上げ、ため息をついた。
「まだ昼ね……」
「残念。夜に行きなさい」
 アリスは嫌味っぽく笑んだ。
そして、霊夢にその場所の詳細を伝えた。詳しく言わなければ、恐らく発見すらできない程、その料理店は隠されているような場所にあった。
場所を伝え終えるとアリスは、努めて優雅にひらひらと手を振り、神社を出ようと歩み始めた。
それを、霊夢が呼び止めた。
「料理、美味しいの?」
 アリスは振り返り、首を横に振った。
「さあ」
「さあって、店に行ったんじゃないの?」
「ああ、ええと、店頭で声を掛けられただけなの」
「どうしてすぐに行かなかったの? 無料なのに」
「それは、あれよ。朝ごはん食べたばっかりで、お腹が減ってなかったからよ。この後行ってみるわ」
 言い終えると、アリスは再び手を振り、そそくさと神社を後にした。


*


 陽が落ち、夜が訪れた。
 しとしとと雨が降り始めていたが、霊夢は待ち切れなくなって、午後七時を待たずに神社を抜け出し、昼にアリスに教えてもらった料理店を目指した。
しかし、昼間こそ舞い上がっていたものの、時間の経過と共に冷静さを取り戻し、改めて考え直すと、金欠に悩まされている霊夢も、さすがに胡散臭さを感じた。
無料で料理を提供すると言う事は、利益が全くない事になる。店主がよっぽどの金持ちか、慈愛に満ちた人物でない限り、経営が成り立たない。
嘘だったら無駄足と言う事になる。だが、本当に無料である可能性もゼロではないので、行ってみる価値はある。
そう判断し、霊夢は料理店への道を急いだ。

 森にある断崖絶壁に洞穴があって、その中に料理店がある。
アリスにそう伝えられた霊夢は、言われた通り、断崖絶壁に沿って進んでいた。
すると――
「あった!」
 洞穴を発見した霊夢は、暗い森に不相応な明るい声を上げた。
喜び勇んで洞穴に足を踏み入れた瞬間、足元で細くて硬いものが折れるような、軽快な音が鳴った。
驚いた霊夢が足元へ視線を落とすと、そこには大量の白骨がばら撒かれていた。
「――!」
 霊夢は息を呑み、思わず洞穴から飛び出した。
一体何の骨なのかは分からないが、骨である事に間違いはない。
ばら撒かれた骨など、食事をする前に見たい光景ではない。明らかに不自然だ。本当にこの骨の絨毯の先に、料理店など存在するのだろうか。
 口頭でのみ知らされた無料と言う情報。人間の入店は夜のみ。入口の前に撒かれた骨。そして少しおかしかったアリスの態度――昼間の話が、どんどん信憑性を失っていく。
もしかすると、自分をからかう為に魔理沙と用意した壮大な悪戯なのではないだろうかと、霊夢が疑いを持った時。
月の光すら届かない洞穴が、不自然に明るくなった。すぐに地面から目を離して、光源の方へ視線を移す。
 視線の先にいたのは、ランタンを持った夜雀だった。
「ミスティア……」
「こんばんは。いらっしゃいませ」
 夜雀ミスティア・ローレライは、にっこりとほほ笑んだ。
営業用の作り笑いなどではない。本当に来客を喜んでいるようだった。



*



 ミスティアの案内を受け、霊夢はミスティアが営んでいるらしい料理店に招かれた。
霊夢が踏んづけた骨の絨毯の下には、なんと巨大な四角い板に蓋をされて隠された地下通路があったのだ。
無暗にぐねぐねとひん曲がっているその地下通路を、二人で歩む。明りはなく、ミスティアの持つランタンだけが唯一の光だった。
「なんでこんなに曲がってばかりなの?」
「奥の光が外に漏れないようにですよ」
「光が外に漏れたら、なんかマズい訳?」
「ここはなるべく、誰にも知られたくないんです」
「じゃあ、あんな骨の下に隠してるのも」
「そう。知られたくないからです。骨を見たら、みんなこれ以上進みたいなんて思わなくなるでしょう」
 なるべく誰にも知られたくないと言う割に、自身の来店を、ミスティアは喜んでいるように霊夢には見えた。
どんどん前に進んでいくミスティアに気付かれないよう、軽く首を傾げ、質問を続ける。
「人間は無料って聞いたんだけど、本当なの?」
「まあ。それ、誰に聞いたんです?」
「アリスよ」
「アリス?」
「あんたが呼び止めたんでしょう? 今日、昼間、ここに来たんじゃないの?」
 ミスティアは急に立ち止まり、霊夢の方を振り返った。
そして暫く、じっと霊夢の目を見つめていた。
目を合わせるのが恥ずかったが、あまりにもミスティアの眼光が鋭い為、動こうにも動けなくなってしまった。
 何かするつもりなのかと、霊夢は悟られぬ程度に身構えていた。好意的ではあれども、相手は妖怪。用心するに越したことはない。
 しかし、急にミスティアの表情が変化した。
「ああ、アリスさん!」
 ランタンを持つ方の手の甲をぽんと叩いた。ランタンが揺れ、それに合わせて二人の影も大きく揺れた。
「ええ、呼び止めましたね、そう言われてみれば」
 思い出したような口調で、ミスティアが言った。
霊夢は怪訝そうな顔を見せた。
「そう言われてみればって、あんた自身の事でしょうに」
「ほら、私って、物覚えが悪くて」
「物覚えが悪いにも程度があるわ」
 呆れたように霊夢がため息をつくと、ミスティアは苦笑いしながら頭を掻いた。
そして、ゆっくりと頷き、霊夢の質問への返答を口にした。
「仰る通りです。人間の食事は無料となっています」
 店主本人から、アリスの話が事実である裏付けをされ、霊夢は面食らった。
「あまり店の事を知られたくない。それも、人間は無料。あんた、儲ける気あるの?」
「ないですよ」
 霊夢の問いに、ミスティアは即答した。
そして振り返り、またにっこりと微笑んで囁いた。
「喜んで頂ければ、それでいいのです」
 ミスティアは妖怪であるのに、やけに人間を優遇している。
何か裏があるのかもしれないと霊夢は疑っていたが、まずは食事をしてからにする事にした。
折角無料なのに、食事をせずにこの料理店を潰すなんて、あまりに勿体ないと思ったからだ。


 洞穴の奥には広間があって、そこにやはり簡素な木製のテーブルとチェアが置いてあった。
床も壁も天井も石や土でできていて、絵や花瓶などの置物は一切ない。
照明はちっぽけな蝋燭と、ミスティアの持っていたランタンだけだが、部屋が狭い為、十分だった。
 客の座る席から、ミスティアの調理風景は見えない。
只、客室と調理場は薄い壁一枚で隔てられているだけの為、包丁で何かを刻んだり、フライパンで何かを炒めたり焼いたりする音は聞こえてくる。
食欲をそそるいい香りが漂ってきて、霊夢はしばし、異変が潜んでいる可能性を忘れてしまった。
 この距離なら、話しかけられるかもしれないと、霊夢は試しに声を掛けてみた。
「どれくらい客がくるの?」
 返事はすぐに返ってきた。
「全然来ません。でもいいんです。お得意様が一人いれば、それでいいって思ってます」
「お得意様……」
 本当に無料で、味がよく、おかしな点がなかったら、霊夢はここへ通い詰めるつもりでいた。

 質問してから数分後、調理場からミスティアが姿を現した。
店の雰囲気とはまるで正反対の、お洒落で上品な食器には、室内の僅かな光に照らされて黄金色に輝く肉の塊が乗せられている。
付け合わせの野菜の彩りもよく、一見してみた感じでは何一つおかしな点のない一品だった。
そしてその横には皿に盛られた白米と、マグカップに入れられたコーンスープ。量は多すぎず少な過ぎない、まさに適量だった。
 霊夢は、自然と口の中に溜まった唾液を飲み込んだ。
そして、目の前に置かれたステーキセットと、ミスティアの顔を交互に見据える。
「こ、これ……ただなの?」
「ええ。無料です」
「本当に!?」
「無料です」
「本当の本当の本当に!?」
「無料です。後で覆す事もありません。一切お代は頂きませんし、それに代わる何かを求める事も絶対にありません。命を賭けても構いません」
 そう言うとミスティアは、再び屈託なくにっこりと微笑み、一礼した。
「ごゆっくりお召し上がりください」

 銀色のナイフを使って肉を小さく切り分ける。中は程良く赤みを残していた。
付け合わせの芋と肉を一緒に口へ運び、咀嚼する。その味に、霊夢は思わず身震いした。
「美味しい……!」
「恐縮です」
 肉に使われているソースの味もよいのだが、何より肉そのものの味が、今までに体験した事がないような味を持っている。
少し濃い目に味付けされているが、野菜や白米と一緒に頬張る事で、そのバランスを保てるようになっている。
辛めの味と肉の食感に飽きたら、甘めで舌触りのいいコーンスープで口直しできる。
 完璧だった。非の打ちどころがない。食べながら涙が出てきそうになってしまうほどだった。
 少女らしからぬ、猛烈な勢いで食事をする霊夢を、ミスティアは微笑みを崩さずに見守っていた。



 肉が、飯が、スープが、食器から完全にその姿を消した。全ては、霊夢の胃袋に収まってしまったのだ。
 少しばかり膨らんだ腹に手を当て、霊夢は黙って天井を眺めていた。
空腹は満たされたが、気分的には満たされていないと言う、不可思議な状態に陥っていた。
もう一度――否、何度でも味わいたくなる、ある意味異常な料理だった。
更についたソースまで舐め取りたくなったが、そこはどうにか理性で抑えた。
「御馳走様」
 思い出したように霊夢が呟くと、ミスティアは深々と頭を下げた。
「お粗末様です」
 そう返すとミスティアは食器の片付け作業にはいった。
すっかり軽くなった食器たちを器用に積み上げ、調理場へ向かう。
しかし到着前に、霊夢が彼女を呼び止めた。
「ねえ、どうやって作ったの? さっきの料理」
 ミスティアは足を止め、首だけを回して霊夢を見据える。
「知りたいですか?」
 霊夢は首を縦に振った。
「知りたい。すごく美味しかったもの。もしも家で真似できるなら……」
「知らない方が幸せかもしれませんよ?」
 ミスティアが霊夢の言葉を遮った。
言葉の意味がよく理解できず、霊夢が首を傾げた。
そんな霊夢の意思を察し、ミスティアが言葉を続ける。
「絶対に真似できないと分かってしまったら、不幸ではありませんか?」
「いいのよ、別に」
「はっきり言って、私はあなたが絶望するとしか思えません。それでも、この料理の秘密を見たいですか?」
 霊夢ははっきりと頷いて見せた。実際の所、レシピの真似など二の次だった。
この未知なる魅力を秘めた料理が如何にして作られているのかが、気になって気になって仕方が無いのだ。
 ミスティアは笑んだ。
「いいでしょう。では、見せてあげましょう」
 調理場の方へと向き直し、ミスティアが歩み出した。
「どうぞ、こちらへ」



*



 調理場は、客室以上に暗かった。
通り慣れているミスティアは感覚で進む事ができるが、初見の霊夢はそうはいかない。
手を伸ばして慎重に前方の様子を伺いつつ、ミスティアの後を追う。
 ある地点でミスティアが止まり、霊夢の使った食器を流しに置いた。
そして、すぐ横にある鍋に目をやった。大きな鍋だった。霊夢が持てば抱えるようになってしまうだろう。
鍋の下では小さな火がチロチロと燃えていて、中の具材を熱している。巨大な蓋と鍋の隙間からは湯気が立ち上っている。
「それも料理?」
「ええ」
 ミスティアはランタンを傍へ置き、流しの横で乾かしている最中だった菜箸を掴むと、鍋の蓋を取った。
芳しい香辛料の香りが漂い、思わず霊夢は大きく呼吸をしてしまった。そんな霊夢の仕草に、ミスティアは小さく笑った。
そして、中を覗き込み、具材の様子を確認する。順調に事が運んでいるらしく、満足げに頷いた。
「何を煮ているの?」
 霊夢が訪ねた。
「お肉ですよ」
 ミスティアは応え、菜箸を鍋の中へと突っ込んだ。
「柔らかく煮込めています。美味しいでしょうね〜」
 菜箸で器用に肉を摘まんで、鍋の中から引き上げる。
先ほど置いた大きな鍋の蓋を、肉から滴る汁の受け皿として使う。
「本当に美味しそう」
 濛々と立ち込める香しい湯気の中に囲まれ、鍋の中から菜箸に摘ままれて現したのは、指の先から肘までだけの、人の腕だった。
切断面はすっかり赤みを失っていて、長時間熱した事を如実に物語っている。
外皮は見るに堪えない状態となっていて、ちょっと引っ張ればべろりと皮がずる剥けてしまいそうなほどにぶよぶよになっている。

「――!!」
 霊夢はその場にへたり込み、咄嗟に口を押さえた。
――もしや、さっき自分が食べたものは、ソレだったのか?
 問おうと口が動くよりも先に、臓物がその問いに答えを出した。
きっとそうだそうに違いないお前が食ったものは食っちゃいけないものだったんだ。出せ、出せ、吐き出せ――
 真偽を確かめる時間を作れる程、霊夢の体は、そして精神は、頑丈なものではなかった。
狂喜しながら食った、今まさに消化の真っ最中である大きな肉の塊が、一度通ってきた道を逆戻りしようとしてきた。
あまりの美味さに、ろくすっぽ噛まぬままがっついてしまったので、肉はほとんどその形を残したままだ。
 胃を抜け、食道を通って、口内に到達し、外界へその姿を現す寸前で、ミスティアが霊夢の口を抑えた。
 固形物は無理に閉ざされた口に留められたが、胃液やスープなどの液体は、霊夢からの脱出に成功した。
ミスティアの指の間から、胃液とスープと肉汁が混ざった吐瀉物の一部が滴る。
「駄目ですよ。折角食われる為に死んだ方が可哀想ではありませんか。さ、飲み込んで、飲み込んで」
 子を躾ける母親のような優しい声で、ミスティアが囁いた。
菜箸やら鍋やらを持っていた手には、いつの間にか大きめの包丁が握られている。
流し台に置かれたランタンの小さな灯りが、銀色の包丁に反射してギラギラと輝いている。

 口内の吐瀉物を飲み切ったのを確認すると、ミスティアは霊夢を解放した。同時に客室へ続く唯一の道に立ち塞がり、退路を絶った。
「どきなさい!」
 霊夢は護身用に持っていた札を取り出し、臨戦態勢に入った。
ミスティアは何も答えず、すぐさま弾幕を放った。狙ったのは霊夢ではなく、流し台に置いたランタンだ。
撃たれたランタンはがちゃんと音を立てて床に落ち、その輝きを失った。あっという間に調理場は暗闇に包まれてしまった。
 人間である霊夢は、闇に目が慣れるまでろくに周囲を見る事ができない。おまけに、この場所は霊夢が初めて訪れる場所であり、地の利も全くない。
更にミスティアは追い打ちをかけるように、霊夢を『鳥目』に陥れた。これにより霊夢の視界は、黒色一色に染まってしまった。何も見えなかった。
 暗闇の中でもミスティアは、動揺する霊夢がはっきりと見えていた。
余裕綽々で背後へ回り、あっという間に拘束し、その首筋に包丁を突き立てる。
「ひっ」
「騒ぎたいなら、どうぞご自由に。叫んでも声は外へ声は届きませんし、誰かがここを知る筈もない。故に助けなど絶対に来ません」
 今までとは打って変わって、冷酷な笑みを浮かべるミスティア。
首筋に当てられている銀色の包丁からは、僅かに血の匂いが漂っている。
「あ、あんた、何を、何をしてんのよ」
「何がですか? 博麗の巫女にこんな事をしてただで済むと思うな、と言う事ですか?」
「違う! さっきの料理……何よ、何なのよあれは!」
「料理? ああ、アレ」
 さらりと言ってのけたミスティア。罪悪感など微塵にも感じない。
「何をそんなに怒っているのです。牛や豚や鶏を妖怪に代えただけではないですか。あなただって、美味しい美味しいって食べていましたよ」
「……!」
 やはり食っていた。自分は皿に盛られた妖怪の肉の塊を、美味い美味いと食っていたのだ。
数分前の自分を思い出し、吐き気に拍車が掛かる。

「あの味、牛や豚や鶏なんかの肉では、絶対に出せないんです。だから真似できない。絶望しかしないと言ってあげたのに、あなたは聞き入れなかった」
 包丁を宛がったまま、ミスティアはにっこりと笑む。しかし霊夢にはその表情は見えない。
 霊夢の拘束はそのままに、ミスティアはゆっくりと歩み出した。そして、銀色の扉がついた巨大な箱の前に立った。
霊夢はこれが何であるか知っていた。香森堂で見た事がある、『冷蔵庫』と言うものだった。
「他にもいたんですよ。あなたと同じで、どんな調理法か、どんな材料を使っているのか知りたがる人がね」
 付いている取っ手に手を掛け、ゆっくりと引く。
部屋の闇を、冷蔵庫の中の明りが打ち消す。ひんやりとした、やけに生臭い空気が中から漏れてきた。
冷蔵庫の明りは、暗い部屋の唯一無二の光源だった。その明りは、まるでスポットライトのように、冷蔵庫の内部を眩く照らし出す。
白色の冷気は、内部のモノを際立たせる演出か何かであるかのように濛々と立ち込める。
「うああ……あああああ!」
 開け放たれた冷蔵庫の中には、頭、銅、腕、脚と丁寧に切り分けられている、アリスがあった。
片腕が見当たらない事から、鍋で煮込まれていたのは恐らくアリスの腕だろうと推測できた。
 もう肉が胃から戻ってくる事もなかった。ひたすらに体は、ここから逃げる事を推進させているのだ。異物を体外へ排出するなど、二の次だ。
「しかし、あなたはいい経験をしましたね。妖怪の肉を食べるなんて、そう簡単にはできない経験でしたよね?」
「……! ちょ、ちょっと、待ちなさい!」
 極限状態の霊夢は、ミスティアの手に僅かに力が込められるのを敏感に感じ取っていた。
包丁を持つ手にも力が加わってきた。体、声の震えを抑える事ができぬまま、霊夢は言葉を続ける。
「お、お代は要らないってっ、何かを請求する事はないって……!」
「お肉に関しては、ね」
 ミスティアが即答した。
「しかし私はお肉を売ると同時に、妖怪の肉を食うと言う貴重な経験を『売り物』にしているのです。これは無償ではないのですよ」




*




 雲一つない青空を、魔法使いの霧雨魔理沙が、猛スピードで博麗神社を目指して飛んでいた。
片方の手は帽子を押さえ、もう片方の手で器用に箒を操っている。
神社の境内まで来ると、一気に降下し、完全に静止する前に箒から降りた。惰性で数歩走った後、ようやく制止した。
 境内を見渡したが、彼女の探している、博麗霊夢の姿は無かった。
「なんだよ。境内掃除すら怠ってるのか。怠け者めー」
 そんな事を言いながら、魔理沙は神社の奥へ奥へと進み、母屋の扉に手を掛けた。
荒々しく扉を開け、努めて大きな声で叫んだ。
「起きろ霊夢!! 朝だー!」
 大声で乗り込んだのはよかったが、中にあったのは、敷きっぱなしの布団だけだった。
「なんだ、ここにもいないのか」
 仕方なく魔理沙は踵を返して神社を飛び去ろうとした。
しかし、何者かとぶつかって、それが阻害されてしまった。
「おっと、すまな……あれ?」
 ぶつかった人物と目が合う。
「なんだ、霊夢じゃないか」
 母屋にいないから探しに行こうとしていた霊夢と、魔理沙はぶつかったのだ。
霊夢は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに不機嫌そうな顔をした。
「何してるのよ、あんたは」
「お前に会いに来たんだぜ。で、お前はどこにいたんだ」
「そこらを歩いてただけ」
「そっか」
 魔理沙は満面の笑みを見せたが、霊夢はそんな気分ではなかった。
「ごめんなさいね。ちょっと調子悪いみたいなの」
「調子悪い? お前が?」
「ええ」
「風邪か?」
「そう。多分風邪」
 そう言うと霊夢は魔理沙を押しのけて母屋に入り、敷いてある布団の中に潜り込んだ。
魔理沙はすぐさま布団に駆け寄り、霊夢の額に手を当て、自分の額と温度を比べた。
「熱はあんまりないみたいだな。栄養付けて寝てれば治るさ」
「そう」
「そうだ、これ食べるか? さっき紅魔館で盗んできた」
 魔理沙はエプロンドレスのポケットから、包みを取り出して開いた。
中にはカツサンドが入っていた。
「盗んで食べてみたはいいけど、なんかあんまり美味しいと思えなくてな。ほら、やるよ」
 そっとカツサンドを枕元に置く。しかし、霊夢は見向きもしなかった。
「いらない」
「え? いらないのか?」
「いらない」
「霊夢が食べ物を欲しがらないなんて、珍しい事もあるもんだな。悪いもんでも食ったか?」
 悪いもんでも食ったか――意地の悪い笑みを浮かべながらの魔理沙の一言が、霊夢の心に突き刺さる。
 霊夢の脳裏に、昨晩の出来事全てが再生される。
暗い森の絶壁の洞穴の骨の絨毯の下の料理店の奥の調理場の冷蔵庫のアリスの――
「帰って」
 霊夢が魔理沙の顔を見ようともせずに言い放つ。
あまりにも冷たい霊夢の態度に、魔理沙は一瞬言葉を失ったが、すぐに表情を崩した。
「冷たいな。こりゃ重症だ」
 苦笑いしつつ魔理沙は立ち上がり、母屋の玄関口へと歩いて行き、あっという間にそこを後にした。
残ったのは、体調など全然悪くないのに布団に潜り込んでいる霊夢と、紅魔館で作られたカツサンドのみであった。
 魔理沙が去ったのを確認すると、霊夢はむくりと起き上がり、大きなため息をついた。



 昨晩、霊夢はミスティアの隠された料理店の秘密を目の当たりにした。
秘密を知った上に、肉を無料で食らった霊夢は、『妖怪の肉を食う』と言う体験分の対価を、文字通り体で払わされる筈だった。
冷蔵庫の中のアリスと同じ運命を辿らされてしまうのだと絶望した。
 しかし、ミスティアは霊夢を殺す事はなかった。
何を思ったのか、少しも体を傷つける事なく、霊夢を解放したのだ。
 この狂った店主の意図が読めずに呆然としている霊夢に、ミスティアは言った。
「止めておきます。せっかくの貴重な人間のお客様。今ここで殺すのは惜しいわ」
 逃げるべきであったが、完全に腰が抜けて立てなかった。そんな霊夢に、ミスティアは手を差し伸べたのだ。
恐る恐るその手を握り、どうにか霊夢は立ち上がる事ができた。
 目線の高さを合わせ、微笑みながら、ミスティアは言葉を紡ぎ出した。
「何にせよ、妖怪の肉の美味しさにあなたは気付いてしまった。もう一度、食べたいでしょう?」
 この問いに、霊夢は頷いてしまった。しかし、ここで首を横に触れる者は、そういないだろうと思えた。
「ならば御馳走してあげます。明日の夜も、明後日の夜も、その次の夜もいらっしゃい。何度でも御馳走して差し上げましょう。ただし……」
 ミスティアは一度言葉を切り、一層笑みを深くした。そのあまりに綺麗な、可愛げのある笑顔に、霊夢は恐怖を覚えた。
「他言はナシでお願いします。誰にもここの事を教えてはならない。誰にもこの店の秘密を語ってはならない。もしも言ったら、その時は……分かってますよね?」
 微笑むミスティアの向こう側には、開けっぱなしの冷蔵庫があり、庫内の照明が中身をこれ見よがしに照らし出している。
霊夢は震えながら、狂ったように何度も首を縦に振った。
 その後ミスティアは恭しく礼をして、霊夢を見送った。



 妖怪の肉が入っていた腹を、霊夢がさする。
食ったのは事実であるのに、どう言った訳か罪悪感が薄い。昨晩の出来事がまるで現実味を帯びていない。
――眠って、起きて、全てがどうでもよくなってしまったのだろうか。
そんな筈がない。友人との諍いなどではないのだ。それに、知人が一人死んでいる。
 だが、いくらアリスの死を思っても、ミスティアの行為を許すまいと思い込んでも、彼女を罰そうと言う気持ちが、どうしても湧いてこなかった。
その理由を自身の胸に問うてみる。すると、すぐに答えは導きだされた。
 霊夢は、あの肉の味の虜になってしまっていたのだ。
ミスティアを罰すると言う事は、あの肉を二度と味わう事ができなくなると言う事。それを、霊夢は心の底から恐れていたのだ。
残虐な行為を罰するよりも、知人の仇を討つ事よりも、霊夢は、ミスティアの料理を取った。
幻想郷の全てを裏切った、最低最悪の決断である事は、彼女自身よく理解していた。
しかしそれでも、彼女は何度でも、ミスティアの料理を、妖怪の肉を食べたかった。
 既に昨晩の食事は消化されていて、胃には何も残っていない。
空っぽの自分の胃袋を想像すると、無性に腹が減ったような感覚に陥った。
 魔理沙の置いて行ったカツサンドを手に取り、口に運んだ。きっと紅魔館のメイド長が作ったものだろう。
しかし、ただのカツサンドであった。昨晩の肉と比べたら、美味くもなんともない。至極、平凡な味が口に広がった。
「あ、やっぱり食べてら」
 不意に魔理沙の声がして、霊夢が驚いたように顔を上げた。
「な、何よ」
「あのさ、アリスってどこにいるか知らないか?」
 飲み込みかけていたカツサンドを、危うく喉に詰まらせてしまう所であった。
彼女はアリスの行方を――彼女がどうなったかを知っている。
しかし、この事は誰にも言わないと言う約束だ。言ってしまえば最期、二度とミスティアの料理にありつけなくなってしまう。
 逆に言えば、ここで彼女が、知っている事を魔理沙に伝えてしまえば、霊夢は夜雀の呪縛から解放される。
止まるか進むか、その瀬戸際に、彼女は立たされた。霊夢が踏み外しかけている、人としての道に踏み止まる、最後のチャンスであった。
しかし――
「知らないわ」
 一言そう言い、再び霊夢は横になった。



*




 夜になり、霊夢は件の料理店を訪れた。
以前と違い空に雲が無く、月光はおしむことなく地上へ光を送っている。
それでも深い森の木々はその光を遮るので、森の暗さは相変わらずのものであった。
 洞穴にばら撒かれている骨を、落ちていた木の棒で丁寧に退けて、木の板の蓋を取り、真っ暗な穴の中へ降りていく。
連続して曲がる長い廊下を歩む。以前はミスティアの持つランタンがあったので明るかったが、今回は光が全くない。
壁に手をやって慎重に進んでいると、扉に辿り着いた。
常闇の中、手探りで取っ手を探し出し、ゆっくりとそれを開く。すると、蝋燭の火が持つ控えめなオレンジの光が霊夢の視界に現れた。
久方ぶりの光に照らされたのと、嬉しくも恐ろしくもある記憶が蘇ったので、霊夢は顔を顰めた。
「いらっしゃいませ」
 まるで待ち構えていたかのように待機していたミスティアが、深く一礼する。
「空いている席にお掛けになってお待ちください」
 そう言い残し、ミスティアは調理場へと姿を消した。取り残された霊夢は周囲を見回した。空いている席は全てであった。

 何も知らなかった先日は声をかける余裕があったが、今はまるでそんな気分にはならなかった。
料理が運ばれてくるまでの時間は一人で退屈であるが、落ち着いて待つ事などできる訳もない。
意味も無く周囲を見回したり、指を絡ませたりして暇を弄んでいると。
「誰にも言ってませんよね?」
 突如、調理場からミスティアが声を掛けていた。
視線を机の上に置いた手へと落としていた霊夢は、反射的に顔を上げ、少し間をおいて答えた。
「ええ」
「まあ、本当は言っちゃってたとしても、私には言ってないって言うでしょうけどね」
「信じて。本当に誰にも言っていないの」
 不信に繋がってしまうような気がして、霊夢は少し声を強めた。だが、ミスティアはそれに対して何も答えてこない。
暫く無言で霊夢が待機していると、調理の音が鳴りやんだ。そして、前と同じ皿を持ったミスティアが調理場から出てきた。
「大丈夫。信じてますよ」
 そう言ってミスティアは霊夢の前に、大きな肉の乗った皿を置いた。
昨日食べたものと同じ内容だった。肉、米、スープ。香りも量も、ほとんど狂いが無い。
「ごゆっくりお召し上がりください」
 昨日と同じ台詞をミスティアが囁いたのを号砲に、霊夢が肉にナイフを手に取り、肉に目をやった。
だが、これもまた妖怪の肉なのだろうと思うと、切り分けるのを躊躇ってしまう。
御馳走を目の前に、それに手を出す事ができない。しかもそれは規則やマナーではなく、道徳的な問題によるものだ。
「冷めない内にどうぞ?」
 硬直してしまった霊夢に、ミスティアが囁く。意を決し、霊夢が肉にナイフを入れた。
尋常ではない柔らかさの肉を切り分けていき、一口大まで小さくしたそれを口に運んだ。余計な事は考えない事にした。食えど残せど、どうせこの肉の持ち主は生き返らないのだから。
 一切れ目をこれでもかと言うほど咀嚼し、飲み込んだ。
「……?」
 霊夢は僅かに首を傾げた。そしてすぐに二切れ目を、同じように食した。その後も三切れ目、四切れ目と続けて食べ続ける。
半分ほど食した所で、霊夢はナイフとフォークを静かに置いた。
 ミスティアが首を傾げる。
「どうしたのですか」
「違う」
「違う、とは?」
「これは昨日のと違う!」
 霊夢の怒号が、薄暗い部屋に反響する。同時に蝋燭の火がゆらゆらと揺れた。
驚いたような目で怒る自分を見ているミスティアの胸倉を、霊夢が引っ掴み、叫んだ。
「これじゃない! 昨日と同じ物をよこしなさい!」
「……」
「場所の事もあんたの罪も言ってない! 私は約束を守ってるのに!」
 年に相応しない剣幕でミスティアに詰め寄る霊夢。当のミスティアは、眉ひとつ動かさずに霊夢のクレームを聞いていた。
霊夢と、テーブルの肉を見比べる。そして、くすくすと不気味に笑い始めた。
意図が読めず霊夢が困惑していると、ミスティアが小さな拍手を霊夢に送った。
「いやいや、素晴らしいです。そうです、あなたの言う通り。この肉は、昨日と違います」
「何の肉なのよ」
「妖怪です。しかし、質が違います。昨日のはそれなりの力を持った者の肉。言ってしまえば、アリスの肉でした」
 美味いと食っていた肉が知人の物だと分かったが、不思議と霊夢は何とも思わなかった。
ミスティアも無反応の霊夢に言及する気はないようで、説明を続けた。
「そしてこれは、そこらに沢山いる、下等な妖怪の肉なんですよ」
 説明を受け、霊夢はなるほどと思った。手に入れ辛いもの程価値があると言う、単純な公式がピッタリな言い分だ。
どれだけ欲しても、無いものを食す事はできない。渋々霊夢は、安い肉を平らげた。
決して不味い訳ではないのだが、やはり昨日の肉と比べると劣ってしまう。
食事を終えても満足し切れず、思わず霊夢は、ふぅと息をついた。
そして、傍に立っているミスティアの方を見て問うた。
「良質な肉ってのは、いつ手に入るの」
「それは答えられません。明日には手に入っているかもしれないし、長期間入手できないかもしれないし」
「どうしてそんなに不規則なの」
「私から狩りに赴く気が無いからです。運に委ねるしかないのですよ」
 運に委ねるしかない――この一言で、霊夢はこの料理店の材料調達の術を察した。
恐らく、霊夢やアリスと同じような、ここで食事する者が来るのを気長に待っているのだろう。
そして食事した者は、食材として殺されてしまう。霊夢はどう言った訳かそれを免れ、アリスは免れなかったのだ。
 仕方なく霊夢は質問を終えると席を立ち、帰路を辿った。
料理店を去る際に、後ろから「ありがとうございました」と言うミスティアの声が聞こえた。

 次の日の夜も、その次の日の夜も、霊夢は料理店に赴き、食事をした。良質な肉の入荷に期待しながら。
しかし、いつまで経ってもミスティアの言う「良質な肉」が手に入らず、下等な妖怪の肉を食わざるを得ない日が続いた。
その程度の肉であっても、普通の牛や豚と比べれば圧倒的に美味であるのだが、何せ最初に食した肉が肉であったので、どうしても不満は積もって行く。
不満は積もるのにはけ口はなく、自然と霊夢は日常生活で不機嫌になっていく。
 そんな感じで苛々している霊夢の周囲の一部の者達は、アリスがいなくなったと大騒ぎしていた。
普段は彼女の事など特別気に留めていなかった筈なのだが、いざいなくなると、やはり不自然さを感じてしまうのだろう。
隣近所に住んでいた魔理沙もアリス探しに加わって、幻想郷中を駆け回っていた。
 霊夢はと言うと、初めは風邪を引いていると、仮病を使って不参加だった。
頃合いを見計らって仮病を止め、形だけは探索に協力していたものの、同じ所をふらふらとうろつくばかりだった。
彼女はアリスの行方を知っているし、アリスの安否も知っている。それを誰かに言う事はないが。
殺されたと知っている上に、死体は隠されていると分かり切っている人物を、生きている事を願って探し回ると言うのは、非常に馬鹿馬鹿しかった。
いつも人手の無い所を一人で探すと言っては、雑草を足で適当に踏んで退けながら、アリスの肉の味を思い出す日々が続いた。
思い出せば思い出す程、欲求は強まって行く。同時に、普段の正常な食事は、どんどん不味くなっていった。
不味い食事などする気も失せてしまい、食事を抜く日が多くなった。目に見えて霊夢は痩せた。否、やつれた。
痩せた理由を周囲は「アリスを心配しているのだ」と決め付けた。真実など言えないので、そういう事にして、そういう事にした相応の振る舞いをした。
いろんな者が霊夢を労わって声を掛けてきたが、霊夢はいつも不機嫌そうに一言で一蹴した。ぼろを出してしまうのを防ぐのもあったが、真剣に話すが面倒だった。
 下等な妖怪の肉を食い始めて一週間。遂に霊夢の我慢が限界に達した。
「ねえ、ミスティア。肉は?」
 聞いても仕方が無いと理解しているが、霊夢は問うた。ミスティアは黙って首を横に振る。
入荷は無し、と言う合図だ。
「アリスの肉はもう残ってないの?」
「あると言えばあるのですけど、使う訳にはいきません。いつか作る予定の、創作料理の材料なので」
「創作料理?」
「ええ。お得意様にのみ出す、特別な料理です」
 お得意様という言葉に、霊夢は反応した。
「ねえ、お得意様って、私の事、よね?」
「そうですね」
 さらりと言ったミスティア。霊夢はテーブルをどんと叩き、席を立って声を荒げた。
「だったら……!」
「駄目です」
 しかしそんな霊夢の剣幕にたじろぐ事も無く、ミスティアは霊夢の言葉を強引に遮断した。
そして冷たく、淡々とした口調でその先を続けた。
「アリスの肉は創作料理以外には使いません。お得意様に対しても、新参に対してもです」
 ミスティアの意思は強固だった。こうなれば実力行使で料理させてやろうかとも思ったが、不信感を抱かれるのは今後に影響する。
仕方が無く霊夢は、普段通り、がっくりと肩を落として料理店を後にした。
その時だった。
「そうだ、霊夢さん」
 呼び止められ、霊夢は立ち止った。振り向く事はしない。ささやかな反抗のつもりだった。
故にミスティアの表情は分からなかったが、声色は少し飄々とした印象を受けた。
「次回お越しの際は、是非とも御友人をお誘いの上、ご来店ください」
「は?」
 霊夢は振り返った。声色通り、ミスティアは笑んでいた。
「お二人に、お肉を無料で提供させて頂きます」
「……」
 ミスティアは、この店はなるべく他人に知られたくないと語っていた。
それなのに、次は友人を誘って来いと言うのは、一体どういう事なのだろうか。
霊夢は立ち尽くして、この言葉に隠された真意を考えた。そのままの意味ではないのは何となく察しがついていたからだ。
 暫くして、霊夢はこの答えに到達した気がして、ミスティアに一つの質問をした。
「夜に来るけど、友人は人間でないと駄目?」
 待ってましたと言わんばかりにミスティアは笑みを深め、首を横に振った。
「今回は人間、妖怪は問いません」
「……ありがとう。また来るわ」
 神社への帰り道、霊夢は明日、どの妖怪を誘って料理店に行くかを決めていた。



*




「いやあ、珍しい事もあるもんだ。霊夢が一緒にご飯を誘ってくれるなんてなー」
 霊夢の傍でちょこまかと動き回るのは、小鬼の伊吹萃香。
酔っぱらって赤みを帯びた顔は、喜びと言う感情で満ち溢れている。
それもその筈、萃香は心密かに霊夢に想いを馳せていた。そんな彼女が霊夢本人に食事に誘われたのだ。嬉しくない筈が無い。
愛用の、酒が無尽蔵に湧いて出てくる瓢箪をぶんぶんと振り回し、萃香が霊夢に擦り寄る。
「それで、何を食べるの?」
「多分肉になると思うわ」
「そっかぁ。肉かぁ。お酒に合うといいなぁ」
 口ではそう言っているが、酒に合おうが合うまいが、美味かろうが不味かろうが、萃香はどうだってよかった。
とにかく、霊夢に食事に誘われたと言う事実が重要であったからだ。
恋敵として注視していた、吸血鬼や花の妖怪と距離を離せたような気がして、食事の前からすっかりご満悦だ。
「ほら、見て! リボン代えてみた! 似合う?」
 角に巻かれているリボンを指差して萃香が問う。霊夢は苦笑した。
「違いが分かんないわ。そんな身嗜みに気を使うような店じゃないわよ」
「んもぅ、そこはよく分かんなくても可愛いって言うもんだろー?」
「はいはい、可愛い可愛い」
 仕方なしに霊夢がそう言ってやると、萃香は更に笑みを深くした。
なるべく霊夢は、この萃香の幸せそうな表情を見ない事にした。
何せ萃香とは、今夜以降、生きたまま顔を合わせる事は無いつもりでいるからだ。
 霊夢は、萃香を食う事に決めたのだ。鬼ほど強力な者であれば、その味はきっと筆舌に尽くし難いものになってくれる筈だ。
酔っぱらった顔は見れなくなるし、幼げな声も聞けなくなる。また一人、友人を失う事となる。
しかし、霊夢の中に渦巻く欲望は、そんな問題を一切掻き消してしまう程、どす黒く、醜いものだった。
「霊夢に可愛いって言われたー!」
 そんな彼女の心情など知らない萃香は、霊夢の投げやりなお世辞に対して大喜びで手を上げる。
――お願いだから、萃香。少し黙っていて頂戴。
 霊夢は心中で呻いた。
永遠の別れがより悲しいものになるからではない。
食事の前に余計な情が芽生えてしまい、食欲が落ちてしまう事を恐れたからである。

 霊夢は通い慣れた道を通り、洞穴に着くと、すぐさま骨を除け、隠し通路を開けた。
完全に舞い上がってしまっている萃香も、さすがにこの歪な入口を見た途端、怪訝な表情を見せた。
「何、ここ……」
「知る人ぞ知る、を目指した結果らしいわよ」
 霊夢は適当な言い訳を言って誤魔化した。実際の所、強ち間違いではない。
 萃香が常識人であれば、こんな適当な言い訳など通用しなかっただろうが、彼女は長きを生きてきた幻想郷の鬼。
常識的に考えるとおかしな事が沢山ある幻想郷ならば、こんな店もあるのだろうと、この怪異を受け入れてしまった。
「へぇ。変わった店なんだぁ」
 萃香の呟きに、そうそう変な店なのよとそれっぽく相槌を打ち、霊夢は入店していく。萃香もそれに続いた。
 ぐねぐねと湾曲する長くて暗い廊下を抜け、客室へ到着すると、いつも通り、ミスティアが待機していた。
「いらっしゃいませ」
「夜雀! あんたの店だったのか!」
 萃香が素っ頓狂な声を上げた。
それに対してミスティアは、にっこりと笑顔を見せて肯定の意とした。
その後、霊夢を見やった。
「御友人ですか?」
「そう。友人」
「友人……」
 ミスティアは、まるで霊夢の胸中を探るかのように、暫くの間霊夢の瞳をじぃっと見つめていた。
霊夢はそれに全く動じず、寧ろ応えるかのように瞳を見つめ返す。
 やがてミスティアは、この客人が招いた友人の“真価”に気付いた。そして、恭しく頭を下げた。
「畏まりました。お掛けになってお待ちください」
 そう言い残して、ミスティアは調理場へと消えていった。
 萃香は椅子に座り、周囲を見回した。
可愛げのない店だ、と言う言葉は胸中に秘めておく事にした。
「妖怪にしてはしっかりやってるじゃないか、あの子」
「前から屋台とかやってたし、慣れてるんじゃないの?」
「……そういや、メニュー無いね」
「出すものは日によって固定なのよ」
 ふーんと、萃香は気のない返事を返した。
先ほど言った通り、何を食べるとか、美味い不味いとかは、今の彼女にとってはどうでもいい事なのだ。
 暫く雑談をしていると、ミスティアが料理を二人分運んでやってきた。メニューは大きなステーキだった。
その余りの大きさに、萃香は目を丸くした。
「こりゃ大きいな!」
「それもこの店の良さよ」
「ごゆっくりお召し上がり下さい」
 当初は食事にさして興味はなかった萃香も、この料理を目の前にすると、俄然食欲が湧いてきたようだった。
小さな体を忙しなく動かして、雑談と食事を両立させる萃香。
霊夢と二人きりで話している故に雑談は楽しいし、濃い目の味付けの料理の方も酒とよく合うようで、大喜びしている様子だった。
 一方の霊夢は、雑談は萃香に調子を合わせてのらりくらりと受け答えてはいるものの、食事の方はほとんど手を付けていない。
ステーキに使用されている肉が牛肉だったから食べる気が失せたと言うのもあるが、何より彼女にはメインディッシュがある。
こんな下らない食事で、腹を満たしてしまう訳にはいかないのだ。
萃香に怪しまれない程度に食事をしながら、どうやって萃香をひっ捕らえるかを画策していた。
 そうこうしている内に、萃香が肉を食べ切ってしまった。
食事が終わると、酒の効果も相まって、萃香は雑談に力を入れ始めた。
しかし、次第にそれが沈静化してきた。不自然な沈静化だ。
「ふにゅ……なんか、眠くなってきた……」
「ちょっと、こんな所で寝たら迷惑じゃない」
 口でこう言いながらも、霊夢の目はミスティアの方を見ていた。
視線に気付いたミスティアは、無言で首を縦に振った。
それを確認した霊夢は、いかにも仕方が無いと言った風を装い、テーブルに突っ伏す萃香に睡眠を促した。
 愛しの霊夢に寝かし付けられていると言う現実に酔いながら、萃香は微睡を深くしていき、やがて完全に夢の世界へと誘われた。



*


 鉄と石質の何かが擦れるような音で、萃香はようやく目を覚ました。
いつの間にか眠っていたらしい
「……ふえぇっ!?」
 目覚めるや否や、自身の置かれている状況の異常さに気付いた。
 まず、服を着ていない。服など愚か、下着すら身に着けていない。未熟すぎる胸、綺麗な女性器が露わになっている。
次に、どう言った訳か、手枷、足枷、鎖、果ては腹部が下の台と括りつけられていて、仰向けで完全に拘束されている。
まるで大の字を描くように手足を広げさせられていると言う、何ともあられもない姿にさせらているのだ。
逃れようにも何故か力が湧いてこないし、霧になって逃げる事もできない。
 どうにか頭だけを動かして周囲を見ようとした。
すると、貧相な胸の隆起の向こう側に、夜雀の姿が見えた。
「お、おい! ミスティアッ!!」
 萃香が怒鳴ると、何かの作業に没頭していたミスティアの作業の手がピタリと止まった。
そして、ゆっくりと萃香の方へ顔を向けた。
「ああ。どうも、萃香さん。もう睡眠薬の効果が切れちゃったんですね」
「睡眠薬? な、何のつもりだ、こんな事して! 只で済むと思うな!」
「何とでもどうぞ。どうせお札の効果で力なんて一つも出せないでしょうから」
「札……?」
「背中に貼ってあるんです。今のあなたは鬼なんかじゃない。ただの角が生えた女の子です」
 くすくすと控えめに笑うミスティアだが、その目にはありありと嘲笑の意が込められている。
 こんな小さな枷くらいどうと言う事は無い筈だと、萃香は懸命に手足をばたつかせて枷を壊すなり外すなりしようとした。
しかし、鉄製の枷は喧しくジャラジャラと金属音を発するだけでびくともしない。
「無駄ですってば」
 冷たく言い放ち、ミスティアがゆっくりと椅子から立ち上がった。
そして、萃香が眠りこけている間に研ぎ続けていた巨大なナイフを、まるで見せつけるように掲げて、仰ぎ見た。
萃香はぎょっとした。ミスティアは今のこの状況について何の説明もしていないので、掲げられた刃物が何に使われるのかは分からない。
しかしながら、拘束され、力を封じられていると言う現状でそんな物が目に映れば、それは自分に向けられるのではと勘繰ってしまうのはごく自然の事だろう。
「な、なんだよそれ! 何に使うんだよ!」
 僅かばかりだが、萃香の声が震え始めている。
ランタンの光を反射させる見事な銀の刃に、すっと指を滑らせる。ほとんど力を入れていないのに、指の薄皮が切れた。
刃の切れ味が万全である事を確認したミスティアは、恍惚とした笑みを浮かべた。
手とナイフを一体化させるかのように、柄をこれでもかと言う程に強く握り締める。手は血流が止まって変色し、小刻みにぷるぷると震えている。
そして、動けない萃香ににじり寄る。
 根拠も無く想像した最悪の未来が、現実のものとなりつつある事を感じた萃香は、さっきよりも激しく体を揺さぶり、逃れようとした。
だが、結果は何も変わらない。枷も鎖もそのままの姿で、萃香の動きを封じている。
 自力での逃亡が不可能だと悟り、今度はあらん限りの声を張り上げて助けを呼んだ。
「誰か!! 誰か来て!! 助けてぇっ!!」
 少女の恐怖で震える声が、暗く狭い調理場に木霊する。
その声は助けてくれる誰かに届く事はなく、代わりにミスティアの血を騒がせた。
捌くと無言で死んでいく魚とは違う。生物の原形を留めていない牛肉とは違う。生命であったと疑わしくなる鶏卵とは違う。
敲けば呻く。切れば泣く。普通の料理では到底味わう事ができない、生物を調理している感覚。そういった魅力が、ここから始まる調理にはあった。

 銀の刃を、ひたりと萃香の太腿に押し当てる。
冷たい感触と恐怖で、びくりと萃香が縮こまる。そしていずれ訪れるであろう激痛に耐えるべく、無意識の内に全身に力を入れた。
だがミスティアはすぐに手を出さず、ナイフの尖端をそっと萃香の体面で滑らせて焦らした。
腿、股、下腹部と、少しずつ少しずつ、ナイフは萃香の体の上部を目指していく。
こうなってしまっては、萃香は下手に叫んで助けを呼ぶ事もできない。ちょっと力を加えれば、たちまち萃香の体には穴があき、そこから真っ赤な血があふれ出てくる事だろう。
ガタガタと体を震わせながら、ミスティアの気分が変わるのを祈る他なかった。
 ナイフの尖端は臍へ到達した。臍の窪みを撫でるように何度も周回する。
暫くすると臍を離れ、再び上昇を始めた。胸を越し、ナイフが首へと到達した。
「お、お願い、許して……」
 萃香が囁いた。
すると、首の上を滑っていたナイフがピタリと動きを止めた。
一点のみを指す冷たく鋭い感触に怯えながら、ミスティアの返答を待つ。
「何を許せばいいのです」
「わ、分かんない、分かんないけど……私が何か落ち度があったなら謝る。だから」
「落ち度なんてないし謝られる筋合いもないです」
 機械音声に匹敵する冷たい口調で、ミスティアが即答した。
そして、客人を招くときの、あの満面の笑みを浮かべた。
「あなたはただ、鳴いてくれればそれでいいのです」
 その一言を皮きりに、上昇を始めた刃は顎を越えて頬を通って、萃香の目元で制止した。
眼球は刃の感触を、眼窩の内から感じ取っていた。
ぎょろりと目玉だけが動いて、眼前に迫っているナイフを凝視する。
恐怖は加速し、体の震えは一層強くなる。絶望の淵に立たされた萃香は、脳内に浮かんでくる言葉を叫び始めた。
「ごめんなさい! 私が悪かったからこれ以上は!」
「……」
「もう止めて! 止めてったら! 止めて!! 止めて!!」
「……」
「じ、じゃあ何を望んでんだよ? 何がしたいんだよ頭おかしいんじゃないのか!? この変態! 狂ってるよお前!」
「ええ。それがどうかして?」
 目元で微動だにしていなかったナイフがすっと移動し、萃香の視界を塞いだ。
今の彼女に見えているのは、睫毛に触れている銀の刃の尖端と、その向こうに僅かに見える、笑顔のミスティアくらいなものだ。

 だがその恐怖の視界も、次の瞬間には闇に閉ざされた。
遂に殺戮の刃は萃香の体へと侵入を始めたのだ。“調理”が始まったのである。
 巨大なナイフの尖端が、僅かに萃香の目を穿った。
「うぎぃいいぃ!」
 まだ開始から数秒も経っていないと言うのに、既に萃香は獣のような叫び声を上げている。
涙があふれ出る血を薄め、目尻から伝って耳の方へと滑り落ちていく。耳へ到達する前に、萃香の長い髪がその赤い液体を受け止めた。
「やっ、やめえ、ええぁああ、あああああああぁぁぁっ!!」
 萃香の悲痛な叫びとは裏腹に、ナイフはずぶずぶと目の奥へ奥へと入り込んでいく。
誰がどう見ても眼窩に収まりきる大きさのナイフではないが、ミスティアの表情、そして行動は、そんなのまるで知った事ではないと言った風であった。
大きさの釣り合わない眼窩を強引に裂きながら、眼球を二つに割るかのように突き進んでいく。
 痛みから逃れようと萃香は暴れた。しかし彼女を縛り付ける拘束具がそれを許さない。体勢を変える事さえ満足に出来ない。
痛みを和らげる行為と言えば、力んで手を握り締めるか、絶叫するか程度のものだ。
しかもそんな細やかな行為で相殺できる程小さな痛みではない。
 散々萃香を鳴かせてから、ミスティアはゆっくりとナイフを眼窩から引き抜いた。
ナイフから滴る血をうっとりと眺めている彼女を、萃香は残った目を動かして見やった。その恍惚とした表情からは、罪悪感など微塵にも感じられない。
 ミスティアと、萃香の片方の目が合った。すると、ミスティアの表情が一変し、笑んだ。
「ああ、まだ続きでした」
「ひ……っ!」
「早くしなくちゃ。大切なお客様の為なんだから」
「も、もうやぁっ! やめてぇえ! 誰か、誰か……! そ、そうだ、霊夢……! 霊夢っ!! いないの!? 霊夢!」
 異常事態が続いた所為で忘れていたが、ここで萃香は同行していた霊夢の事を思い出した。
最後の希望と言わんばかりに、その名を連呼し、助けを求める。
そんな彼女を、ミスティアは嗤った。
「霊夢さんが来る筈ないじゃないですか」
「そんな事ない! 霊夢……霊夢……!」
「聞こえてるけど、聞こえないふりをしているかもですよ」
「え?」
 萃香の表情が凍りついた。
それに対してミスティアは、笑顔で応えてやった。

 ナイフを握り直し、それを振り上げる。
そして、萃香の下腹部にそれを突き立てた。
「ああああああっ!!」
 噴水の如し返り血を浴びながらも、ミスティアの作業の手は止まらない。
刺さったナイフをスライドさせて腹を切り開いていく。
「い、ひいい、いいいいいいいいぃぃっ!!!」
 臍を両断し、切れ目は萃香の小さな乳首の間に到達した。
切り口に手を突っ込み、中をかき回す。
萃香の絶叫が響く。ミスティアはそれに意識的に耳を傾けていた。
さながら、仕事中のバックグラウンドミュージックか何かであるかのように。
 腹部のその中で一番長細い臓物――腸を手触りだけで確認すると、萃香は器用にそれを切り取った。
「あがああ、ああああっ、あああ、ああ、があ……!!」
 萃香の声が極端に小さくなった。
眼球が零れ落ちてくるのではないかと言うほどに見開かれた目で激痛のする方へ目を向けると、気色の悪い色と形をした長細い綱が、自身の腹から取り出されているではないか。
あんなものが自分の一部な筈がないと漠然と思っていたが、次第にそれらが霞み始めた。
焦点が合わず、映っているものもろくに見えなくなってきた。
 なんだか体内で連続して痛みが生じたが、叫ぶ気力は既になかった。
股のちょっと上から始まったその痛みは、少しずつ少しずつ上へ上へと進んでいくのが分かった。
そして遂にその痛みは、左胸に到達した。
さっきまで鼓動していた部分。霊夢が食事を誘ってくれて、跳ね上がってしまった部分。
そこにあったモノが取り出されてしまった瞬間を霞む視界で見た数秒後、萃香の視界は真っ暗になって、二度と光を見る事はなかった。





 メインディッシュを終えた霊夢は、深いため息をついた。
知人との別れを感じたとか、そんなものではない。満足感からくるため息であった。
 予想以上に、鬼の肉は美味であった。今まで食べてきた肉など比較にならない程に。
萃香は身体が小さい為、あまり多く食べる事ができなかった。
故に料理を出された時、量的には多少不満があったが、食後は量など気にならなかった。
 以前と同じように、背凭れに凭れかかって虚空を見つめる霊夢。事情を知らぬ者が見れば何事かと思えてしまうような状態だ。
そんな霊夢の元に、ミスティアがそっと歩み寄ってきた。
「御満足頂けましたか?」
「ええ」
 ぼんやりと霊夢が答える。ミスティアは安心したように微笑んだ。
「実はですね、霊夢さん」
「?」
「私の創作料理が、もうすぐ完成するのです」
 創作料理と言う単語に霊夢が過敏に反応した。姿勢を元に戻し、ミスティアの言葉に耳を傾ける。
「しかし、まだ足りません。あと一品、材料が必要なのです」
「何が要るの?」
 一呼吸置いて、ミスティアが囁いた。
「人間の肉です」



*



 一時は神社に人間以外の者が来てばかりなのを嫌がっていたが、全員が御馳走の原形として見ると、神社は楽園であるような気さえした。
美味い物がうろうろと歩いているのである。少なくとも霊夢はそう見えた。と言うより、もはやそうとしか見えなくなっていた。
 みんな食べてみたい。そんな欲望が霊夢の胸中で渦巻いていた。
スキマ妖怪、式神、吸血鬼、亡霊、神様――それぞれ一体どんな味がするのだろうか。
 楽しみは尽きない。だがそれよりも、彼女にはやるべき事があった。
人間の肉の調達である。
これを持っていけば、ミスティアの作る創作料理が完成する。お得意様にしか出さない、究極の料理が。
 しかし、これは妖怪とは違って少々調達が面倒くさい材料である。
まず、人間は基本的に人里でしか暮らしていない。一人欠けると、人間たちはすぐに気付き、大騒ぎしてしまう。
それに、人間なら誰でもいいと言う訳ではない。妖怪が何でもよかった訳ではないのと同じように。
人里にミスティアの希望を満たすような人材があるとは到底思えない。
 身近にいる強力な人間と言えば、時間を操る紅魔館のメイド長か、奇跡を起こす守矢神社の風祝だろう。
両者とも人間離れした能力を持っている。素材としては申し分ない。
だが、共通した問題を持っていた。それは、他者と密接な関係にあると言う事だ。
メイド長がいなくなれば吸血鬼が、風祝がいなくなれば彼女が祀っている二柱が、黙ってはいないだろう。
誰にも知られぬように呼び出せればある程度リスクは軽減できる。適当に話を作ってしまえばいい。
だが、片方は『悪魔の犬』と呼ばれた事もあるほど従順なメイド。もう片方は、神様と家族と言っても不自然さが無い程親密な関係を築いている風祝。
そんな二人に、ごく自然な形で秘密の約束を取り付けるなど、至難の技だ。
 あれこれ思案していると、不意に視界が陰った。霊夢を照らしていた陽光が、何かに遮られたのだ。
霊夢が顔を上げると、見慣れた顔がそこにいた。
「魔理沙……」
「よっ」
 魔理沙は普段通りの挨拶をする。霊夢はいつもと全く違う心情でいると言うのに。
変に勘繰られても面倒なので、霊夢も普段通りを意識して挨拶を返した。
そして魔理沙は普段通りに雑談を始め、霊夢も普段通りを意識してそれに応える。

 魔理沙があれこれ喋ってるのに適当に相槌を打ちながら、霊夢は考えていた。
ミスティアに献上する人間の肉は魔理沙のものでも大丈夫だろうか、と。
実際の所、人間の肉を狩る必要性に迫られた際、真っ先に脳裏を過ったのはこの霧雨魔理沙だった。
最も付き合いが長い人物だし、何より、霊夢と付き合いの深い人間の中で、最も人間らしい人間だからだ。
 しかし、思いついたのは最速であったが、候補としての除外も早かった。
理由はとても単純で簡単だ。霊夢は魔理沙を『強者』と判定していない。これだけだ。
 自己流の魔法やマジックアイテムを用いてはいるが、それを省けば彼女は所詮、少し魔法の知識のある少女でしかない。
先ほど候補に挙げた二人と比べれば、その弱小ぶりは一目瞭然である。
 もはや食い殺す事に対する躊躇や罪悪感は薄れつつあった。故に魔理沙を殺す、魔理沙が死ぬ事はどうでもよかった。
ただ、材料として適正か否か。それが気掛かりであったのだ。殺しても食う価値のない材料にしかなれない場合、殺し損だ。創作料理完成への道が遠のいてしまう。
 とは思いつつも、やはり魔理沙は他の二名と比べてリスクが少ない。
身寄りが近くにいないので、いなくなってもぐずぐず言ってくる鬱陶しい存在が少ない。
幻想郷中を駆け回っていたので顔は広い為、一定期間は誰もが心配し、探し回るだろう。だが、所詮は一人間。風化だって早い筈だ。
 もしもこいつで駄目だったら、他の二人を試してみればいい――
 もはや魔理沙を『物』としか見れていない霊夢は、自然と口を開いていた。
「ねえ、魔理沙」
どうやら魔理沙は雑談の真っ最中だったようで、急に話を始めた霊夢に少し驚いていた。
「何だ?」
「今夜、料理を食べに行かない?」
「料理ぃ?」
「人間は只で食べれる美味しいお店があるの」
「……へぇ?」





 夜。
霊夢は、狂った料理店に魔理沙と向かっていた。
ただ食事に行くだけだと言うのに、魔理沙は妙に上機嫌だった。
「何がそんなに嬉しいのよ」
「んん? ああ、その、あれだよ。手間が省けたって気分だ」
 魔理沙は少し俯き、口籠った。霊夢は首を傾げる。
「手間?」
「調理とか、洗い物とか、いろいろな」
「夢のない奴ねぇ」
「じゃあ何を思えばいいんだよ! 愛しの霊夢とお食事嬉しいなーとでも言えばいいのか?」
「……」
「ま、真に受けるなよ、ばかっ」
 急に押し黙った霊夢の頭を叩く魔理沙。
そうこうしている内に、洞穴に到着した。骨の絨毯を蹴散らし、隠し通路への道を開く。
「ほら、いらっしゃい」
「……」
 一風変わった入口に呆気を取られているのか、魔理沙は何も言わずに霊夢に着いてきた。
暗く長い廊下も、二人は無言で進んでいく。
 開き慣れた扉を開け放つ。いつも通りのミスティアの笑顔があった。
「いらっしゃいませ」
「友人、連れてきたわ」
 そう言われ、魔理沙が霊夢の背後からひょこっと顔を出した。
「どうも。友人だぜ」
 ミスティアはそれに対して会釈した。
そしていつも通り、お掛けになってお待ちくださいと言って、調理場へと向かう。
 二人は適当な席に座った。
魔理沙は調理場に背を向ける形で座り、その正面に霊夢が座る。
「何を食うんだ、霊夢」
「肉になると思うわ」
「肉か。丁度私も食べたかったんだ」
「そう。それはよかったわ」
 何となく霊夢が調理場へ目を向けると、ミスティアが現れた。
可愛らしいエプロンをしているが、その裏に刃物を隠し持っているのが、霊夢には見えた。
そしてゆっくりと、二人が座っている場所へと歩み寄ってくる。
魔理沙はミスティアの接近に興味が無いのか、一人であれこれと喋っている。もしかしたら、接近に気付いていないのかもしれない。
 魔理沙の真後ろに到着したミスティアは、エプロンの裏に隠していた刃物を取り出し、大きく振り上げた。




*




 テーブルに肘をつき、目を閉じる。
調理場から聞こえてくる音に、そっと耳を傾けてみた。
 ランタンの弱々しい明りがゆらゆらと揺れる調理場は、調理の真っ最中だった。
たっぷりの油を敷いた大きな鉄鍋の中で、食材達がじゅうじゅうと音を立てて豪快に踊っている場面を、容易に想像する事ができる。
そんな音の合間に、可愛らしい鼻歌も聴く事ができる。ミスティアの声だ。
――楽しそうでよかった。
 心からそう思えた。
同時に、あの雨の日、この店を訪れて本当によかったと思えた。
 ゆっくりと目を開ける。
誰もいない、血に塗れた向かいの席。
究極とも言える人間の肉を手に入れられた喜びを噛みしめる。
 背後にある調理場を向き直す。
調理場から聞こえてくる音を聞きつつ、霧雨魔理沙は、もうじき出来上がるであろう料理に、心を躍らせていた。




*




 一月と数週間前の夜、霧雨魔理沙は森でキノコ探しをしていた。
曇天の元、小鬼の伊吹萃香の我儘で強行され、結局雨の影響で途中でお開きになってしまった宴会の帰り道だった。
この湿気なら食用、魔法用、どちらのキノコも採れるかもしれないと喜び勇んで探索を始めたが、結果はさっぱりだった。
それどころか雨脚は強くなる一方で、帰宅すら躊躇してしまう有様だ。
仕方なしに、雨が弱まるまで雨宿りしようと、近くの適当な洞穴に入り込んだ。
骨がばら撒いてあったが、背に腹は代えられないと我慢していた最中、突然骨が動き、土が宙を舞った。
何事かとそちらに目を向けてみると、明らかに人為的に作られた不自然な穴から、夜雀が顔を出していた。
「こんばんは。お腹は空いていませんか? 無料で御馳走して差し上げますよ」
 貰えるものは何でも頂くぜと、魔理沙は夜雀――ミスティアの案内を受け、中へ入り、その奥で妖怪の肉を振る舞われた。
未経験の食感、味わいに、魔理沙は感銘を受けた。
そして、この味の秘密を教えてくれとミスティアに迫ると、彼女は快くそれを承諾した。
 見せられたのは、冷蔵庫に詰め込まれた妖怪の肉塊。
「これを秘伝の製造方法で調理すると、先ほどの味が生まれます。こればかりは教えられません」
 魔理沙は絶句した。
下手物を食わされた事に対する嫌悪感、罪悪感ではない。そんなもの、一寸たりともなかった。
幻想郷に跋扈している生意気で憎たらしい妖怪が、こんなに美味いものだったとはと感銘を受けていた。
 ミスティアも、吐く事も泣く事もしない魔理沙に驚いていた。
彼女にも妖怪の知人や友人がいるであろうに、彼女は悲しそうな素振りも、罪の意識に打ちひしがれている様子も見せない。
そればかりか、また明日もここを訪れてもよいかと聞いてくる始末だ。
 他言しないと言う誓約を交わし、ミスティアは彼女の来店を待つ事にした。
食材として殺してしまうのは勿体ないと思えたからだ。
 以来、魔理沙の楽しみは夜の食事が主となった。
初めて妖怪の肉を食った直後は、本当にそれだけが楽しみで、夜が待ち遠しかった。
だからどんな来客にも「風邪を引いた」と嘘を言い続け、昼間は眠って過ごした。少しでも日中の時間を短く感じる為である。
そして真夜中になると家を抜け出し、料理店へと通い詰めた。

 料理店の存在を知ってから約一月経った所で、ミスティアは魔理沙にある事を告げた。
彼女が、魔理沙の事を信頼できる客として認めた瞬間でもある。
「強力な妖怪の肉を使えば、きっと料理は美味しくなる。できるのであれば、強力な妖怪の肉を持ってきてみて欲しい」
 材料の味が良くなるばかりか、珍しい食材を調理できる事でミスティアのモチベーションも上がる。
一石二鳥な話であったが、問題があった。
そんな強力な妖怪を狩る力が、魔理沙には無かった事だ。
 弾幕ごっこにおいては、ある程度妖怪を圧倒する力を持っていたが、さすがに殺し合うとなるとそうはいかない。
諦めるしかないと思ったが、ここで持ち前の悪知恵が働いた。
私ができないなら、誰かに狩らせればいい――
ミスティアに自分の考えを告げて、『宣伝の権利』を得た彼女は、一か八かでこの案を決行した。

 魔理沙は、アリスにこの料理店の事を告げた。
喋り好きで、しかし人づきあいが比較的希薄なアリスなら、きっとこの事を霊夢に話すであろうと、魔理沙は踏んでいた。
保険としてさりげなく「霊夢が知ったら大喜びだろうな」と言う言葉を付け加えておいた。
更に「他言する時は、私が言ってたと言う事は隠してくれ」と頼んだ。
理由は茶を濁した。「魔理沙は嘘を言っているのかもしれない」と思わせる事で、アリスが店へ赴いてみようと言う気になる切っ掛けを作る為に。
 更に、夜になって来店するであろう霊夢に料理を振る舞う事で、彼女もここの呪縛に憑りつかせる。
通い詰めれば、次第に霊夢も料理に使う食材の質を求め始める。
霊夢は魔理沙と違って強い。妖怪退治を生業にしているのだから、狩る事だって容易な筈だ。
そうなれば霊夢は、魔理沙とミスティアに代わって肉を狩ってくる存在となりえる――
 魔理沙の予想は全て的中した。
アリスは霊夢に店の事を告げ、そして更に自分自身も料理店を訪れた。
来店したアリスをミスティアと共同で殺し、食べた。ミスティアの言う通り、美味だった。
 霊夢の来店時、アリスが来た事を知っていた時、ミスティアは魔理沙の作戦に不備が無いのを確信した。魔理沙の計画そのものだった。
更に霊夢もすっかり料理の虜になって、ここへ通い出した。
挙句の果てには伊吹萃香を肉塊に変化させてしまった。想像以上の優秀な仕事振りだった。

 ミスティアがお得意様の魔理沙の為に考え始めた創作料理最後の材料は、人間だった。
 強力な人間と言えば、魔理沙は霊夢しか思い付かなかった。
しかし、散々妖怪を食いつつも、やはり霊夢は人間。同族殺しは、少しだけ心が痛んだ。
ミスティアが霊夢に創作料理の最後の材料を打ち明けたと聞き、霊夢は一体誰を狩るのかと考えつつ、魔理沙は霊夢の元を訪れてみた。
すると、
「ねえ、魔理沙。今夜、料理を食べに行かない? 人間は只で食べれる美味しいお店があるの」
 彼女が選んだ人間は、魔理沙だった。
その瞬間、魔理沙の中にあった小さな良心と言う堤防が決壊を起こした。
どうにか押し留めていた欲望や嫉妬や殺意と言ったどす黒い感情が一気に魔理沙の体中を駆け巡った。
 所詮自分は、霊夢にとってこの程度の存在だったのだ――魔理沙は、強力な霊夢に嫉妬していたのだ。
 殺してやろう。こんな霊夢は、殺されてしまえばいい――漠然としていた殺意は明確になった。
 それに愛しの霊夢と胃の中で一緒になれるなんてロマンチックじゃないか――欲望は留まる事を知らないようだった。

 霊夢と一緒に通い慣れた森を歩いた。見慣れた骨を霊夢が蹴散らして、歩き慣れた暗い廊下を霊夢と抜けて、開け慣れた扉を霊夢が開いた。
し慣れた挨拶を交わして、座り慣れたチェアに座って、見慣れた土の壁を見て、食材相手にべらべら喋りこんでいた。
背後にミスティアが迫っていたのは分かっていた。だが魔理沙は無視していた。自分が殺される筈がないのは分かっていたからだ。
霊夢はまさか自分が殺されるとは思っていないだろうなと考えながら、紅魔館の大図書館の巨大な蜘蛛の巣の話をしていた。
背後のミスティアが刃物を振り上げたのが分かった。でも無視しておいた。止める意味などないからだ。
 驚愕の表情を見せた霊夢の顔の下の首にナイフが刺さった。ミスティアが投げたものだ。
人の言葉なのかどうかも分からない、意味不明な事を呟きつつ、霊夢がチェア諸共倒れた。
そして数秒もがいていたが、次第に動かなくなってしまった。
魔理沙はまだ話をしていた。生きてるか死んでるかだけの差で、食材相手に話しかけている事に変わりはなかったからだ。
 ミスティアが手早く霊夢を解体し、調理に取りかかった。




*





「お待たせしました」
 ミスティアが巨大な皿に盛られた豪華な食事を運んできた。
魔理沙は目を丸くした。想像以上のボリュームと彩に圧倒されてしまった。
そしてすぐさまナイフとフォークを手に取る。
妖怪、魔法使い、鬼、人間の肉をふんだんに使用した、ミスティアの渾身の料理。
「い、頂きますっ!」
 魔理沙は叫び、ナイフは使わずにいきなりフォークを肉に突き刺し、口に運んだ。
口に入れた途端、溶けるように消えていく知人達のカラダ。あふれ出す旨味。
 フォークすら投げ捨て、魔理沙は手掴みで食事をし始めた。
泣いていた。悲しいのではない。あまりにも美味しかったから。
「美味い、美味い美味い、霊夢美味い……霊夢、霊夢霊夢……!」
 獣のように食事をする魔理沙の傍で、ミスティアはそっと呟いてみた。
「冷蔵庫の中の食材、全部使っちゃいました」
 しかし魔理沙は無反応だった。
それでも構わず、ミスティアは言葉を紡ぐ。
「けれど、いいですよね。どうせこれが最後になるでしょうし」

 霊夢の死によって、幻想郷は崩壊を始めていた。
この料理店も、いつ消えてしまうか分からない。
何名もの妖怪を調理してきたこの調理場も、近く終焉を迎えてしまうと思うと、少し物悲しかった。
しかしそれでもミスティアは悲しい顔一つせず、魔理沙の食事風景を見守った。
自分が悲しい顔をしては、食事が不味くなってしまう――客人に細心の注意を払える、最高の料理人だった。
 恭しく一礼し、調理場へと戻って行くミスティア。
「幻想が潰えるまで、ごゆっくりとお召し上がりください」
 その顔は、心の底から笑っていた。
 こんにちは。pnpです。

 クールでかわいいミスティアの料理のお話、と言うコンセプトで書き上げました。
ストーリーを意識して書いたつもりでしたが、如何でしたでしょうか。
 本当はもう一人くらい被害者を出す予定だったのですが、
どうせ解体シーンは萃香の二番煎じにしかなりえないので、あえて省略しました。
変に拘った所為で文字数は減れども、展開の早さはよくなった筈。
 久しぶりに長々と書けて、大変でしたけど、楽しかったです。

 ご観覧、ありがとうございました。今後もよろしくお願いします。

++++++++++++++++++
>>1
みすちー「私の料理店はまだ始まったばかりよ!」
ご愛読ありがとうございました! pnpの次回作にご期待ください!

>>2
静かにひどいことしてるみすちーも可愛いですよね。

>>3
まさか魔理沙が、は目指していたものなので、そう言っていただけるととても嬉しいです。

>>4
物語としてはそんなに捻られてないかもしれませんね。しかしそのシンプルさも売り。……だと思います。

>>5
テンポよかったですか。安心しました。

>>6
そこは考えてなかったです。素でやってみたかった、普通の料理に飽きた、屋台の頃にひどいことされた復讐、辺りですかね。

>>7
あんまり美味しくないらしいですよ、人肉。

>>8
私もそう思います。

>>9
作者ながらいいなそれって思ってしまいました。

>>10
え。アリスはかわいそうな役の筈だったのに……^^;

>>11
私も食べたいです><

>>12
幽々子様との絡みを時々見かけますが、そんなに親交ありましたっけ?

>>13
読んでる人の食欲を促進させるくらいになれたらいいですね。

>>14
狙った効果がいろいろ出ているようで嬉しいです。悩みまくった甲斐があったというものです。

>>15
心に残るシーンがあるというのは嬉しいものですね。

>>16
お誉めの言葉、ありがとうございます。
 まあ、妹紅も人間ですが、狩るのが面倒くさいでしょう?^^;
pnp
作品情報
作品集:
15
投稿日時:
2010/04/30 18:06:47
更新日時:
2010/05/13 18:20:30
分類
霊夢
ミスティア
グロ
1. 名無し ■2010/04/30 18:12:52
さて、デザートは?
2. 紅のカリスマ ■2010/04/30 19:14:13
これぞまさしく狂気ですね……特にミスティアの静かな狂気が素敵。
3. 名無し ■2010/04/30 21:00:08
面白かった。

まさか魔理沙がねぇ……。
4. 名無し ■2010/04/30 22:35:41
オチは何となく予想がついてた
しかしはじめから魔理沙仕込みだとは思わなかった
料理人として一貫していたみすちーに乾杯
5. 名無し ■2010/05/01 04:03:50
良い客は何にも代え難い宝だな
テンポいい
6. 名無し ■2010/05/01 09:58:28
ミスティアがなんでこんなことをするようになったのかが気になったが
それについては言わぬが華ならぬ、書かぬが華なんだろうな
7. ぶーん帝王 ■2010/05/01 11:57:33
人肉は食ってみたいが…
8. 名無し ■2010/05/01 16:52:15
みすちーも美味しそう
9. 名無し ■2010/05/02 10:30:35
みすちーが「幻想郷のため」に自分の卵を処分する話……

あの話の続きと思って読んでた。
10. 名無し ■2010/05/02 14:05:17
怖い話かと思って読んでたけど、まさかのオチ

アリスwww
11. 原価計算 ■2010/05/02 17:43:02
みすちー食べたいです><
12. 名無し ■2010/05/03 10:39:46
幽々子「成長したものね……」(巣から飛び立つ鳥を見る目)
13. 機玉 ■2010/05/04 01:04:59
ミスティアも霊夢も魔理沙も良いキャラをしてますね
特に霊夢と魔理沙の材料を知った時の反応の違いが印象的でした
しかし二人共本当に美味しそうに食べるなぁ……w
14. HS ■2010/05/05 01:23:25
 霊夢がミスティアに殺されず解放されたあたりで何故アリスが死んだのか考えながら読み進めていたが、(他の人と被るけれど)まさか魔理沙が霊夢を利用する為にアリスを誘ったとは考えつかなかった…。(単純な弾幕や能力ではなく他人の力を利用して目的を達成する、という構図に唸った)
 後は、「好意を寄せている人に食べられる、好意を寄せた人を食べる」という状況に真理に辿り着いたかのような感動・高揚を覚えた。

 霊夢を利用しておきながら自分が食われる対象に選ばれて殺意を抱くあたり、霊夢の考えていた通り魔理沙は「最も人間らしい人間」なのかもしれない。
15. 名無し ■2010/05/09 13:03:38
>>「ねえ、魔理沙。今夜、料理を食べに行かない? 人間は只で食べれる美味しいお店があるの」
>> 彼女が選んだ人間は、魔理沙だった。
ここが良すぎる。
16. 名無し ■2010/05/10 15:48:55
精神的に追い込むミスティアと徐々に感化されていく霊夢。静かに狂気に染まっていく過程が美しい。



妹紅「だから私もちょっと死なないだけの人間だって」
17. 名無し ■2011/01/17 18:45:49
こりゃ確かに魔理沙も霊夢喰うわ。ショックだったろうなぁ…
魔理沙のキャラが意外にも自分の中の魔理沙像とブレていないことに衝撃を覚える。
18. ハッピー横町 ■2011/02/01 13:53:35
歌が大好きなだけの、か弱い女の子として描かれることが多いミスティアですが、こういう妖怪らしい一面が強く出ている作品も大好きです。
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