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『まらそんまん』 作者: sako

まらそんまん

作品集: 16 投稿日時: 2010/05/25 15:23:06 更新日時: 2010/05/30 09:18:26
 




 気を失っている天子さまの身体を椅子に横たえさせます。







 意識なく、頭をかくりと椅子の背中に預けている格好だけを見ればうたた寝をなさっている何処かのご令嬢のよう。まった、起きているときもこうしおらしければ私の仕事も本当に楽になると言うのに。あり得ない話を思い描いても仕方ありません。いいえ、そのあり得ない話を有り得ることにするために、さぁ、総領娘様が目を覚まさないうちに早くやってしまいましょう。

 力なく投げ出された両足をそろえ、それを椅子の脚へ包帯を使って縛り付けます。両手も、肘掛けの上に乗せて動かないようしっかりと固定。試しに少し腕を揺すってみましたが、がっちりと腕は肘掛けに固定されています。手首と肘の二個所で固定したお陰です。足の方は、外れてもまぁ、問題ないので足首だけにしておきます。



 次に眠ったように静かに呼吸を繰り返す総領娘様の顔を上に向かせます。前髪が目にかかっているので優しく、手櫛ですきます。
 上を向いている総領娘様の顎に、一応、失礼しますと断りの言葉を入れてから触れ、口を開かせます。綺麗に揃った白い歯が見える。けれど、前歯の隙間には青のりらしき緑色の欠片が挟まっていました。今日の昼食はお素麺でした。薬味は錦糸卵と刻み青ネギだけ。どうやら、 また、総領娘様は私の眼を盗んで間食なされたようです。しかも、青のりなんて… 最近下界で流行っているというたこ焼きという料理でしょうか。兎に角、おやつの時間でもないのにお食事をして、しかも、歯を磨いていないのです。これはポイントマイナス2ですね、と心の中のチェックシートに印をつけました。

 まぁ、ある意味、丁度いいと私は独りごちます。ご飯やおやつを食べた後はきちんと歯磨きをしないといけない。そういうことも分かってもらえるでしょうから。



 私は総領娘様の小さく開いたお口に指を突っ込むと更に大きくそこを開けさせました。それが閉じる前に金属で出来た知恵の輪の1パーツのような物を下あご、前歯の部分に噛ませます。
 金属パーツから二本、左右に伸びている黒い色をした革のベルトを引っ張ってその端を椅子に引っかける。左右両方。これで、龍か獣の類でもない限り口を閉じることはとても困難になります。そうして、総領娘様は獣人ではない。鉄をかみ砕き、革のベルトを引きちぎる力もない天人なのですから。

 ………けれど、縛られた上に、自分の口に異物を突っ込まれて、無理矢理顎を開かされてもまだ目を覚まさない図太さは持ち合わせているようです。もう少し、女の子らしい繊細さをもってもらいたいものなのですが。

 まぁ、むしろ、今はこの図太さが好都合。いえ、ある意味、この図太さを分かっていて私はこんなことをしてます。三つも目覚ましが鳴ってるのに、毎朝起きないことからこれぐらいでは目を覚まさないと踏んでいましたし、ええ。

 軽い頭痛を覚えつつも、もう一つ、金属パーツ…もはや、説明するまでもないですが口枷を取り出して、今度は上あごの前歯にそれを引っかけます。下あごと同じ要領で…こちらには一本しか付いていないベルトを総領娘様の小さなお鼻を潰すような形で顔の上を通し、椅子の背もたれに引っかけます。

 これで口は獰猛な剣虎でも閉じれなくなりました。この方は、てんこ、ですけれど。










 ………すいません。私も、たまに、冗談を言いたくなる時があるのですよ。特にこんな風にストレスに疲れているときは。ええ、普段ならこんな言葉は口にしませんとも。それぐらい、心の底から疲れているんですから、私。






 ナニワトモアレ、これで殆ど準備は完了です。あとはテーブルの上にいくつかの道具とお薬を用意して終了。
 私は手のひらを広げてみせると精神を集中、指先にバチバチと放電現象を起こしました。そうして、人差し指を一本、立てると、それをそのまま大きく開けられた総領娘様の口の中へ静かに差し入れました。
涎に濡れた総領娘様の可愛らしい舌に私の指先が触れるか触れないかという距離まで近づいた、刹那。ばちり、とコイン一枚程度の距離を小さな稲光が走りました。






「ッ―――――――――――――――!!?」





 舌先に走った強烈な刺激に、混濁の淵に沈んでいた総領娘様の意識が一気に覚醒します。喉から声にならない声を迸らせて、椅子に縛られた身体を捩り、目を見開きます。瞳には涙が。
一体何が起こったのか理解できないといった風情で、何とか動く眼球だけを左右に彷徨わせています。

「おはようございます、総領娘様」

 そんな混乱の極みにある総領娘様に私はいつものように挨拶します。私の電撃で気を失い、私の電撃で目を覚ます。電撃という点を除けばあまり、普段と違わない目覚めの光景。ああ、後は総領娘様の拘束がいつもとは違いますか。

「はが、はがはがはが、はがーっ!」

 椅子の上で動かぬ体を何とか捩りながら、私に訴えかけるような目を向けてくる総領娘様。けれど、なんて言っているのか私にはまったく理解できません。口を無理矢理開かれた状態で喋れるはずがありませんから。まぁ、涙を浮かべながら敵意満点の目で私を睨み付けてくることから察するに「なに、なにするのよ、衣玖ーっ!」でしょうか。

 やれやれ、と私は肩を竦めて頭を振るいます。

「それはこちらの台詞ですよ、総領娘様。私、言いましたよね。お勉強中は居眠りしてはいけませんと、教本に落書きをしてはいけないと、舞踏のお稽古は真面目にうけなさいと、朝は早くに起きて夜も早く寝なさいと、毎日きちんと朝は顔を洗いなさいと、歯磨きも当然しなさいと、お食事中は静かにしなさいと、物を口に入れたまま喋らないと、使ったお皿はきちんと洗いなさいと、汚れたお洋服はきちんと脱衣籠に入れなさいと、箪笥から出した服はきちんと畳んでしまいなさいと、お部屋の掃除は毎日行いなさいと、庭のお花たちにきちんとお水をあげなさいと、池の鯉たちにも餌をあげなさいと、聴き終わったレコードはちゃんと元のスリーブになおしなさいと、蓄音機には埃がかからないよう使い終わったらカバーを掛けておきなさいと、漫画本なんか読んではいけませんよと、あまつさえゲラゲラと大きく下品な笑い声を上げてはいけませんよと、お酒は信頼できる目上の方に勧められたとき以外は呑んではいけませんよと、それとお勉強中は居眠りしてはいけませんと、ああ、すいません。話がループしていましたね、これ。といううか、全部、いいえこれ以上の事を私は貴女に言ってきたと思うのですよ。けれど、貴女はその一つも、一つっきりも守っていただけない。ああ、詰まるところコレは最初にこう伝えるべきでしたね。『私の言うことを聞きなさい』と。いえ、それさえも私は貴女が総領様から言われたのを聞きましたよ。ええ、総領様に貴女の面倒を観てくれ、娘に礼儀作法や教養を施してやってくれと頼まれたときに。本当に詰まるところコレは…最初から、貴女は誰の話も聞いていなかったと言うことになりますわね」

 一気に長い台詞を喋ったせいで、話し終えた時、私は肩で息をするほどでした。
 額に浮いた汗に前髪が張り付いてキモチワルイです。
 私は自分の呼吸が整うまで待ち、そうして確認を求めるように椅子の上の総領娘様に視線を向けました。
 総領娘様は、

『そう。で?』

 と、そんなことを仰りたいような視線を私に返してきました。
 ぷちん、と私の中の決定的に大事な何かがキレる音がしました。


 はぁ、と私は肩を落して盛大にため息。
 今までのまっとうな方法では総領娘様を立派な淑女に仕立て上げる事は不可能なのだとさとり、今までの方法とは決別するためのため息です。


 私は暴れもがく総領娘様を無視してお台所に向かいます。
 水差しに入れられた水をグラスに注いで、それを手に戻ってきます。
 しゃべり疲れたので喉が渇いていますが、これは私の分ではありません。
 ………総領娘様の分です。






「っ―――げほっ、ごほっ!」

 総領娘様の開いたお口の中へコップを傾け、水を飲ませてあげます。
 不意に喉へ流れ込んできた水は食道ではなく気管の方へ。総領娘様は強く咳き込み、横隔膜を激しく脈動させて、気管支に入り込もうとした水を吐き出します。

「ッ!!」

口の周りを吐き出した水と涎で汚し、涙の浮いた目できつく私を睨み付けてくる総領娘様。

「さて、喉が潤ったところで一応、説明しておきますね。どうも、総領娘様は物覚えが悪いらしいので私はこれから貴女様の身体へ直接、淑女としてのあり方、考え方を教えこもうと思います。ええ、ええ。総領娘様が悪いのですよ。真面目に私やお父上様の話を聞いておられればよろしかったのに…言うなれば、これは折檻です。でも、総領娘様は中々に図太い反骨精神の持ち主のようですから…少々荒っぽくいかせてもらいますよ。お覚悟は―――よろしいですか?」


 ―――やれるもんならやってみなさいよ、そんな視線と喉の唸りが返ってきました。
 総領娘様の考えが読めるよう。教鞭や折檻棒、竹刀で叩かれても私は屈しないわよ、とまるで独裁政権の秘密警察に捕まったレジスタンスみたいな抵抗意識をみせています。
 やはり、この反骨精神を折らないことには、総領娘様は立派な淑女にはなれないのでしょう。

 私は決意を新たにテーブルの上に置いてあった道具の内、一番大事な物…極小の金剛石を先端に取り付けた電気式の小型ドリルを手にします。

 私はソレをわざわざ目を見開いている総領娘様の眼前に翳して、自分が発生させた雷力を送り、切っ先を回転させてみます。きゅぃぃぃぃぃん、と甲高い音を立てて目で捉えられぬ速度で回るドリル。それでも回転を捉えようとしてか、総領娘様は回転するドリルの先端に視線を注ぎます。今から、私が何をするのかをさとって。

「じゃあ、総領娘様。すこし五月蠅いですけれど、我慢してくださいね」

 私は、総領娘様を落ち着けさせるために薄い桜の花びらみたいな笑みを浮かべて利手にドリル、逆の手に歯鏡を持ち、その二つを総領娘様の口の中へいれます。
 あーっ、あーっ、と声にならない声で止めてくれと懇願する総領娘様。けれど、私は止めるつもりはドリルの先端の金剛石ほどの大きさもありませんでした。
 直接と歯鏡に映った象の二つを見比べて、奥から数えて二つめにある大臼歯に狙いを定めます。

「はめ…ひふ………」

 二つの鈍く光る器具の間から総領娘様が消え入りそうな声を漏らします。けれど、その声は…


 キュィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!!!!!!!!

 ドリルの先端の金剛石が歯を形成しているエナメル質を抉る音にかき消されてしまいます。まったく、私の耳には届きません。
 高速回転するドリルが人体の中で最も固い部分であるはずの歯を削っていく様が歯鏡を通して見えます。削れた歯が埃のように交じった唾が総領娘様の口の中へ飛び散ります。あ、歯鏡にも当たってしまいました。

「ハーーーーーーーーーーーーーー! アーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 その間、総領娘様はずっと肺の中の空気を全て出し切ってしまうような叫び声を上げていました。歯茎を伝わり、顎を揺らすドリルの振動が気持ち悪いのでしょう。ご安心を、もう少しで終わりです。

「あガッ!?」

 と、それから大臼歯の表面をなぞるようにドリルで抉っているとそう総領娘様が短い悲鳴をあげました。あっ、とドリルを離す私。大臼歯にぽっかりと空いた穴から、うっすらと血がにじみ出てきているのが直接見えました。

「すいません。少し、肉を削ってしまったようです。私もまだまだですね。あ、口、ゆすがれますか?」

 私は総領娘様の返事を待たずにコップに残っていた水を口の中へ流し込みました。重点的に、穴を開けた歯に水がかかるように調節して。

 悲鳴、と咳き込む声。今度はよほど強く咳き込んだのか、総領娘様の喉から返ってきた水はお洋服の胸元まで飛んできました。私にもかかりそうになり、あわてて飛び退きます。

「もう、総領娘様、くしゃみをするときは手をお口に当てて、小さくなさらないと。乙女らしくありませんよ」

 まぁ、縛られていてはそんなこと出来るはずがありませんけれど。

「どうです? 反省、なさいましたか?」

 ドリルと歯鏡をテーブルの上に戻して総領娘様に尋ねます。けれど、総領娘様ははん、とかほうはへへ、とか日本語にならない言葉を喉から流すだけ。ちっとも反省しているご様子じゃありません。

「駄目ですか…まぁ、頑固なのはお互い様と言うことで。諦めた方が負け、そういうルールの弾幕ごっこですねコレは」

 私が繰り出す攻めにどれだけ総領娘様が耐えられるかという発狂型スペル。まぁ、発狂するのはおそらく総領娘様の方ですけれど。
 私はため息をついて、次の道具を手に取ります。ヨードチンキと綿棒。傷口を消毒しなくてはいけませんので。

 ヨードチンキの蓋を開けて、その中に綿棒の先端を浸します。綿に暗褐色の液体をたっぷりと染みこませると私はそれを手に総領娘様の側面に回り込み、恋人の距離まで顔を近づけます。

「じゃあ、少し滲みますけど、我慢してくださいね」

 そう言って震える総領娘様のお口の中へ綿棒を差し入れます。
 火山の火口のように赤い肉をさらけ出しているところへちょん、と軽く綿棒の先を触れさせます。瞬間、ああっ、と短い悲鳴。総領娘様は額に溜めていた涙を一気にあふれ出させました。
 私は一度、ヨードチンキの瓶に綿棒を戻して、ハンケチを取り出して、総領娘様の頬を拭ってあげます。

「痛かったですか?」

 耳元へ優しく、あやすように言ってあげます。総領娘様は固定された首を何度も動かし、せっかく綺麗にしてあげた頬にまた涙を流しながら応えてくれました。

「そうですか。でも、消毒はまだ終わりじゃありませんよ。もっと、きちんと薬液を塗らないと化膿してしまいますから」

 私は再びヨードチンキを手に、それを今度は丹念に擦りつけるように大臼歯の傷口へ塗ってあげます。綿棒の先が動く度に総領娘様は唸るような声をあげました。あふれ出た涙は首筋まで伝わり、背もたれに染みを残します。

「はい、終わりです。よく、我慢できましたね」

 総領娘様は体中の力を抜いて、深く早く、お腹で呼吸を繰り返しています。軽く痙攣もおこしているよう。口を開けた状態だと鼻を啜るのも難しいのか、洟が上唇を湿らせています。
 私はそこと涙に濡れた頬をハンケチで綺麗にしてあげます。
 ぐったりとした格好のまま、総領娘様は頬を拭う私の顔を見上げてきました。
 だから、言ってあげました。

「折檻はこれからですよ」

 びくり、と総領娘様の身体が震えます。
 私は、総領娘様の涙や洟、涎を吸ってすっかり汚れてしまったハンケチを二本の指で汚物でも持つように摘むと、それをそのままゴミ箱の上へ。そこで指を離して棄ててしまいました。
 さぁ、折檻タイムです。

 私はテーブルの上に最後まで残されていたソーイングセットを取ります。パール地に市松模様の飾りが施されたセルロイドの箱を開けて中からそれを取りだして、総領娘様に見せてあげます。私が小さい頃から使っている針山と、そこにアトランダムに突き刺さった縫い針。それを見て総領娘様の瞳は針のように細くなりました。
 眉毛を歪ませて、あーっ、あーっ、と喉から絞り出すような声を上げる総領娘様。けれど、私にはそれが私を罵倒する言葉なのかヤメテと懇願する言葉なのか判断が付きません。結局、私は止めることが出来ませんでした。

 嫌がる素振りを無視して総領娘様に近づきます。
 針山から針を一本。事前に消毒したのでとても綺麗なソレを二本の指で摘んで滴る涎に指を汚しながら口内へ差し入れます。神経を集中、震える指先を何とか制御して私は小豆よりも小さいサイズのお口の中の針山、大臼歯に開けた穴に見えるヨードチンキに塗れた歯髄へぷすり、と突き刺しました。

「―――!」

 絶叫/悲鳴。ビリビリと部屋のガラスが震えるほどの声を総領娘様は上げました。まるで、肺の底に残っていた酸素を全て吐き出してしまったかのような声。痛みを堪えるために両方の手を血がにじみ出るほど握り締め、体中の筋肉という筋肉を限界まで引き絞っています。見開かれた目からは眼球が飛び出してきそう。
 私はその様を眺めながら指で摘んだ針に力を込めて、ぞぶり、ぞぶりと沈めていきます。けれど、一センチに満たない距離を沈めただけで針はそれ以上進むのを止めてしまいました。象牙質の底に触れてしまったのでしょう。私は摘んだ針をぐるりと一回転させてから、総領娘様の口の中から手を引っ込めました。

 涎で汚れてしまった手を新しいハンケチで拭きます。
 総領娘様は身体を定期的に痙攣させながらすすり泣いているようです。時折、気管に流れてきた自分の涎にむせ返りながら、多少は反省している様子をみせています。
 けれど、今日の私は心を鬼にする覚悟でやっているのです。
 中途半端な慈悲はむしろ総領娘様の教育の妨げにしかなりません。私は深く息を吐き捨てると新しい針を手にしました。






「あーっ! あーっ! ほうはへへ、ほへはい、ほへはいしはふ、ひふぅ…!」






 同じ手順で一本、二本と針を突き刺していきます。
 その度に総領娘様は身体を震えさせ、嗚咽を漏らし、声にならぬ悲鳴をあげます。うん、折檻の効果は十分に上がっているようです。


 けれど、三本目を刺し終えたところで、総領娘様の反応が鈍くなっているのに気がつきました。
 余りに重点的に同じ処を責め立てたので痛みの感覚が麻痺してきたのでしょうか? それとも脳の側で歯の神経の通信網を遮断してしまったのでしょうか。神経学や脳科学に明るくない私には判別がつきません。分かるのはこのまま、針を刺し続けてももう、折檻にはならないということだけです。
 仕方ないですね、と私はため息をついてそれ以上、針を刺すのを止めました。

「あ…………………」

 私を見る総領娘様の瞳に僅かな明かりが灯ります。

―――やっと、終わりなの?

 私は応えます。





「まさか」




 最後まで針を摘んでいた指に法力を込めます。ふわり、と私の腕の生毛が起き上がり、指先に紫電が煌めきます。そうして、







「                     !?                    」







 総領娘様は今度こそ声どころか、音にすらなっていない悲鳴をあげました。
 神経系に直接電流を流される既知外の痛みに象牙芽細胞がこぞって自殺し、体中の腱がのたうち暴れます。火事場の馬鹿力を越えるリミッターを度外視した力が働き、両足を縛っていた包帯が解れます。股関節が外れそうになるほど足が振り上がり、そうして、重力に引かれて落ちてきた際に強かにアキレス腱を椅子の脚に打ち付けていました。

 私が針から指を離しても総領娘様は自分の意志でぴくりとも動きません。
 椅子に深く腰掛けるように力なく身体を弛緩させ、ビリビリと小刻みに震えながら、白目を剥いて見事に意識を失っていました。
 と、その時、私は鼻腔を刺激する強い香りに気がつきました。それと床板を打つ水音。

「あ…仕方ないですね、総領娘様は」

 スカートから立ち上る湯気。どうやら、総領娘様は電撃のショックで粗相をなさってしまったようです。

「どうやら、まずはトイレの躾からのようですね。まぁ、でも…」







―――これでご理解頂けたでしょう、天子さま。










 私は出来の悪い教え子の頭を優しく撫でてあげました。


END
歯医者なんて十数年行ってないなぁ…


歯の健康の秘訣は高濃度アルコール!

と、思っていたのに、酒飲み友達が歯医者に行ってると聞いて自分の認識を改める今日この頃。
まぁ、おかげでこの話を思いつけたので友人の第一大臼歯(┌6)に巣くった虫歯菌に感謝。

あと、今日も休肝日。おのれディケイド


タグのあらすじは形崩れるんで止めます。
他の人がしないことはやってこなかった事じゃなくてあえてしなかったことなんだという四次元殺法コンビの言葉を思い出しました。


10/05/29>>追記
>>6さま。
元は同名の小説(と映画)です。
ナチの変態ドクターが主人公の青年に歯科器具を使って拷問するっていうお話です。
オススメの一冊ですよ〜
sako
作品情報
作品集:
16
投稿日時:
2010/05/25 15:23:06
更新日時:
2010/05/30 09:18:26
分類
衣玖
天子
歯医者さんごっこ
1. 名無し ■2010/05/26 02:55:10
この話を大げさだと思った諸君!
歯医者の麻酔なんて殆ど効かないからな、覚悟しとけよ!!
2. 名無し ■2010/05/26 09:57:29
奥歯の麻酔の効かなさは異常。抜いてくれた方が100倍マシだよ!
てんこちゃん歯磨かなくても虫歯にならない体質なのかな、羨ましい
3. 名無し ■2010/05/26 12:21:15
今までに見たどんな話よりも痛かった
読んだだけで歯の神経が自殺しそう
4. 名無し ■2010/05/26 16:08:58
麻酔したけど痛かったら手挙げてくださいねー→超痛い→手挙げる→我慢してくださいねー

どうしろと

毎日ジンをストレートで飲むのを欠かしませんが普通に虫歯ありますw
5. 名無し ■2010/05/26 18:18:10
痛さが想像できすぎて辛い。
6. 名無し ■2010/05/28 21:20:01
まらそんまんってアレか、お父さんが足に針ぶっ刺しながら一生懸命走ってたやつか。
読み終った後に気付いた。大爆笑しましたw
7. 名無し ■2010/05/30 16:59:26
ひぎぃいぃいいいいいいいぃいいぃぃぃぃぃぃい
いあああああぁああーーー
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